●リプレイ本文
●勉強会
「誰からだ?」
神聖騎士のジーン・グレイ(ea4844)は年長者らしく、円座の顔ぶれを見回して聞いた。
「では私からにさせて貰おうかの」
袈裟を着た黄安成(ea2253)が言って、手元に目を落とした。隣にいた武道家の曹天天(ea1024)が覗き込む。手の中に羊皮紙の切れ端が見えた。
「それ、あんちょこネ?」
「貧道の身じゃからの、図書館で少しな」
安成は書物の読解は得意ではない、難儀した割に成果は薄かった。
「今度ご一緒しましょうか? 僕もまだ専門書は読めないですけど」
ウィザードのクリフ・バーンスレイ(ea0418)は笑みを浮かべて言った。
「あ、みんなで行くならあたしも誘ってね。もちろん、お弁当持参でよ」
セルフィー・リュシフール(ea1333)は身を乗り出す。少女は料理の話題が好きだ。実物があればなお良い。
「食べ物の話をしてたのだったか?」
忍者の風霧健武(ea0403)は脱線を止める。
「そうじゃな。始めるかの‥‥」
冒険者達は山道を行く前、彼らの持つ知識を元に怪物が現れた時の心構え等を話した。
安成はアンデッドについて、ジーンは毒草とオーガ、シェラン・ギリアム(ea0823)はドラゴンと精霊のこと、クリフはそれらを含めた全般について。彼らの知識はどれもまだ素人知識の域を出なかったが、やがて成長した時には、それが真の勉強だったと知る事だろう。
今は三流詩人の詠う怪物話と代り映えはしなくともだ。
●山へと続く道
「離れて暮らす樵の兄に仕送りを送る商人の弟‥‥ちょっといい話しネ。こういうの嫌いじゃないのヨ」
歩きながら、嬉しげに話す天天。
「お兄さんも、きっと良い人なのでしょうね」
並んで歩くアルメリア・バルディア(ea1757)は遅れないよう足を速めた。彼女は体力の無さを気にしていた。今回はウィザードが彼女を含めて5人。休憩は小まめに取った。
「‥‥た方がいいネ」
「え?」
歩くのに集中して会話が飛んだ。聞き返すアルメリアに、天天は顔を近づけて言う。
「だから今回、男だらけヨ。気をつけた方がいいネ」
「はぁ」
気をつけるといえば‥‥余談になるが最近キャメロットは変態が多いという噂だ。‥‥根も葉もない噂であって欲しいものだが、冒険者の中にも混じっているとも言われている。
「セルフィーも気をつけるヨ。ロリコンは恐いネ」
15歳のウィザードの心配をする天天。自分の事は気にしていないらしいが。
「‥‥曹様、何か?」
何故か視線を感じるシェラン。
「何でも無いネ」
横を向く天天。
「‥‥そう、連中は‥‥どこにでも。山は‥‥人込みよりは‥‥マシだな」
シスイ・レイヤード(ea1314)が呟く。彼は数日前に筋肉男達の饗宴を体験したばかりである。
「大人しい馬だな」
先頭を行く風霧は、馬の手綱を牽くジーンに話しかけた。
「ああ、よく言う事を聞いてくれる。だが臆病でな、戦場には連れていけんのだ」
戦場を縦横に駆け巡る戦闘馬は騎士の夢、だが高価なので持っている者は少ない。
「あのじゃじゃ馬娘もこれくらい大人しければ、苦労も減るのだが‥‥」
「‥‥一体、何の話をしとる」
「あ、いや‥‥その」
無意識に呟いていた、忍者は動揺する。
「後ろの長閑な会話に当てられたか」
常ならば賊や怪物が徘徊する山道、冒険者一行はゴブリンの影さえ見なかった。となれば風が心地好い7月、ピクニック気分も仕方がないか。
「だが依頼の途中だ。気を抜き過ぎるなよ」
●野営にて
陽が傾き、冒険者達は手頃な場所を見つけ、野営の準備を始めた。
「メインディッシュを獲ってくる、用意は頼むぜ」
レンジャーのクオン・レイウイング(ea0714)は弓を掴んで出ていく。助手としてクリフが同行した。二人は足りない食糧を補充するための調達係だ。
「分け合えば何とかなるヨ。無理しなくてもいいと思うけど‥」
調理担当の天天は不安を口にする。
「かもしれないが、腹をすかせたセルフィーを放っておく訳にもいかないよ」
食いしん坊のセルフィーは成長期。少女は人一倍食うので、クオン達の任務は責任重大だ。だが結果は‥‥獲れる時もあれば零の日もあり、セルフィーの機嫌は山の天気のように変わった。
「レイウイング様、火の準備が出来ましたよ」
料理はクオンと天天が共同で行う。火はシェランが魔法で作った。クリエイトファイヤーは魔法の便利さを身近に感じさせてくれる。一家に一台欲しいものだ。
「魔法は、便利なだけではありませんから‥」
流血を嫌うシェランも攻撃魔法を覚えている。物腰柔らかなウィザードの顔に焚火の炎が影を作った。
「ところで見張りの事ですが、僕が予定表を作って見ました」
食事の後で、クリフは皆を集めた。事前に話し合い、二人ずつの五直交代に決められていた。最初がシュランと天天、以後ジーンとアルメリア、クリフと健武、安成とセルフィーと続いて、最後はクオンとシスイ。
「見張りの人には火の番もお願いします」
冒険者は各々持ってきた毛布や寝袋に包まって眠る。シスイは2人用のテントを持ってきていたが、これは体力の無いアルメリアとセルフィーが使った。シスイも体力は無いが女性が優先され、代わりに焚火の近くで彼は眠った。7月と言え、イギリスの夜は寒い。
夜明けにちょっとした事件があった。
ジーンが荷物を馬に積もうとするのを、血相を変えてシスイが止めた。
「あ、あぶないですよ。‥‥下がってください」
「なんだ?」
見当がつかずジーンが荷物から離れると、シスイは騎士の前に立って懐からダガーを取り出した。何をするのかと仲間達が見守る中で、彼は短刀を荷物に向って投げた。
バシュッ!
一瞬、短刀が輝いて火花が散る。
「‥‥見張りの時‥‥モンスターが近付くのを防ぐのに‥‥隙を見て、荷物の周りに罠を仕掛けておきました」
ライトニングトラップ。この魔法は覚えたてでも威力が大きい。ジーンでも下手をすれば重傷、普段着のセルフィーなら最悪、命に関わる。
「スキを見て荷物に? 危うく黒こげになる所だ!」
大事にはならなかったがシスイはその日は一日、ジーンの説教を受けた。
●遭遇
昼間は健武が依頼人から聞いた道順を確かめながら進み、夜はシェランが星の位置から現在位置を確かめた。それが正確かは街道では無いので確かめようが無いが、概ねは合っているだろうと思って進んだ。
「何か、来る」
道の確認と索敵を兼ねて日に何度か斥候に出た健武は、遠くに人影らしきを発見した。旅人や狩人か、それともオーガか山賊か。確かめようと彼は木陰にじっと姿を隠して待った。
「4、5人で弓を持っていた。おそらく土地の狩人だろう」
戻って仲間達に見てきた事を話す。
「山賊かも」
クリフは疑念を口にした。遠目に山賊と狩人の見分けはつかない。
「可能な限り、面倒は避けたいのう。やり過ごすか?」
慎重派の安成が言うと、ジーンがそれに賛成した。
「ですがその人達が狩人なら、現在地の確認ができます」
シェランの言葉に健武は頷く。忍者も同じ事を考えていた。
「クリフ‥‥もう少しやる気を見せたらどうだ?」
「心外な事を言いますね」
結局、冒険者達はやり過ごすことはせず接触を選んだ。仮に山賊だったとしても、人数はこちらが多いのだから、交渉も可能だろうと判断した。
「いや、樵の山小屋ならこっちじゃない。山一つ向こうだよ」
土地の狩人達は冒険者達に快く道を教えてくれた。彼らとその仲間達はこの数日大猟で、とても機嫌が良かった。冒険者達の食糧が乏しいと知ると、少しだけ獲物を分けてくれた。
無事に方向を修正した冒険者達は何とか山小屋へ到着する。
「宅配便でございます。何か御用はございませんか?」
木の扉を開けて出てきた髭面の主人に、アルメリアは上品に挨拶した。
「弟から?」
「そうヨ。これがお届け物ネ。私達仕事キッチリがモットー、受け取りの代わりに弟さんに手紙書いてほしいヨ」
天天は羊皮紙を差し出した。
「‥‥ああ、今すぐ書くよ。それまで中で休んではどうかな」
冒険者達は無事に手紙を届け、キャメロットへと帰った。
復路も幸運が続いたのか、それともあの狩人達が代わりにやっつけてしまったのか、一度もモンスターに遭うことは無かった。