みっしょん外伝 伝説殺し

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月08日〜01月13日

リプレイ公開日:2008年05月15日

●オープニング

 ジャパン、山城国京の都。
 今から百年の昔、源平藤の父祖達が各地で勢力を伸ばしていた頃。
 山城の豪族、八島重信の領内で魑魅魍魎の怪異が起きた。
 強力な鬼と百八匹の妖怪が人家を襲い、村には人の死体が積み重ねられ、その猛威は都にまで聞こえたという。
 しかし、村井七右衛門という勇者が現れ、激しい戦いの末に神々の加護を受けた七右衛門は鬼を退治し、手下の妖怪達を追い払った。
 七右衛門は村に残って重信の娘と結婚して後を継ぎ、それ以来村は平穏な日々を取り戻したのだった。


 およそ百年後、京都冒険者ギルド。
「御免下さい」
「はいはい、何の御用でしょうか」
 手代が顔を向けると、そこに老年のエルフが立っていた。珍しい人が来たものだと思った。冒険者ギルド故にエルフの姿は見慣れていたが、歳老いたエルフは稀である。
「冒険者に依頼を出したいのです。本来なら他人に頼めるような事では無いのですが、友人からこちらのギルドの話をお聞きまして」
 冒険者ギルドには有象無象の噂話が付き物である。出来れば、その友人がとんでもない噂を耳にしていない事を手代は祈った。
「ええ。掃除や子守から鬼妖怪退治まで、罪になるような事以外なら、何でもお引受け致しますよ」
 老エルフは英国人らしい。イギリスの冒険者ギルドと基本的には同じシステムと納得したようだ。
「ここなら不可能な仕事も引き受けてくれると聞いたのですが?」
「はぁ‥‥いえ、預かった依頼の失敗が無いと言えば嘘になりますが、成功する確率が殆ど無いような仕事を引き受ける事はありませんが‥‥」
 そんな仕事人が居ると聞いたことはある。しかし、それは酒の席の与太話か、たちの悪い冗談である。
「そうですか」
「そうですとも‥」
 冗談として笑い飛ばそうとした手代は、老エルフの表情があまりに深刻なので内容だけでも聞く気になったが、無理な依頼を引き受けては商売にならないと堪えた。
「ふーん」
 たまたまギルドを訪れていた使いの男は、この老エルフに興味を覚えて後をつけた。


 神聖暦一千三年一月、ジャパン、京の都。
 前年は長州に鬼にと波乱に満ちていたが、年越しは穏やかに過ぎて数日が過ぎた。
 使いの男が冒険者の前に現れる。
「私は、不可能を行う者を待っている。成功も賞賛も期待できない仕事だが、依頼を完遂できる者を探している。冒険者ならば、それに値する者が居るかもしれない」
 男はこれまでにも何度か現れていた。
 冒険者ギルドには頼まず、これと思った冒険者に直接声をかけるのだ。
 男は冒険者ギルドにかからなかった依頼を専門に扱う冒険者を求めている。
 くだらな過ぎる依頼、実現不可能な依頼、或いはギルドの性質上受けられない依頼などなど。


「不可能とはどんな事をやるのだ? 酒呑童子を倒すのか、それとも江戸城を落とせとでも言うか?」
「その程度は万の軍勢があれば可能なこと、またいずれ余人が行うことだ。そのような話には興味が無い」
 男は、老エルフから聞いた依頼を話した。
「伝説の勇者を殺して貰う」
「意外に普通だな」
 男はエルフから聞いた話を冒険者達に語った。

 老エルフは若い頃に貿易商人の部下としてジャパンを訪れた事があった。まだジャパンが鎖国していた時代で、その行動は著しく制限されていたが、若かった彼は無断でよく都の外に出かけた。無論、露見すれば命は無かったが、若い彼は上手くやった。
 その時に彼は山城の豪族、八島重信と仲良くなったという。折しも重信の村が、正体不明の妖怪達に襲われており、明らかに劣勢だった。異国の友人の窮地に心を痛めた彼は妖怪達との戦いに助力した。
 幸いにも彼には魔法の心得があった。彼と重信とその配下と、それに流浪の戦士が力を貸してくれた事で彼らは何とか劣勢を挽回した。
 已むを得ない事情で彼は帰国したが、そのあと風の噂に重信と戦士達が妖怪達に勝利した事を聞いて安心していた。
 それから百年の時が流れる。歳老いた彼は不治の病にかかった。
 彼は死ぬ前にもう一度ジャパンの地を踏みたいと、親族友人の反対を押し切って今回月道を渡った。無論、彼を覚えている者はジャパンには居ない。しかし、八島の村に行き、重信や戦士達の子孫を一目見ることが出来ればと思っていた。
 八島の村へ行くと、村には彼の知らない伝説が残っていた。
「伝説の大筋にはほとんど間違いが無いそうだが、名前が違うらしい。鬼退治の勇者は村井七右衛門でなく、荻野兵之介という男だったそうだ」
 彼の記憶によれば七右衛門という名の男は確かに居たが、それは妖怪に襲われた家から金品を盗む泥棒だったそうだ。何かの間違いかと村の長者の家を訊ねると、現れた四代目村井七右衛門は彼の知る小悪党の七右衛門に生き写しだった。
 荻野兵之介という名を知らないかと四代目に尋ねたところ、荻野というのはうちの使用人の名前だという。荻野の祖先は悪さばかりするどうしようもない人物で村人達に殺される所だったのを、初代七右衛門が助けて使用人にしたのだという。
 あまりの事に彼はその場で昏倒した。
 何故かはわからないが、二人の人生が入れ替わっている。四代目七右衛門は勇者の子孫としてそれなりに村を治めている。現状はどうしようもないが、間違った伝説が語られているのは彼には耐えられない。
 それゆえに、伝説の勇者村井七右衛門を殺して欲しいという。

「‥‥‥‥‥いや、そんな無茶な」
「えーっと、その人はもうとっくの昔に死んでいるのでしょう?」
 使いの男は頷いた。村には立派な初代七右衛門の墓がある。五十年以上昔に天寿を全うしたそうだ。
「神魔も恐れぬ不可能冒険者ならば、伝説の勇者を葬るなど造作もあるまい?」
 使いの男は淡々と用件を終えて踵を返した。
「もしやる気になったら、明後日の晩、京のはずれの炭焼き小屋に集ってくれ」
 不可能依頼はギルドの仕事ではない。
 危険な橋を渡る関係上か、使いの男は必要以上の事は何も話さなかった。
 受けるか受けないか、それは自由である。

 なお、この依頼を受けてあなたが捕まっても殺されても恥かしい目に遭っても当局は一切関知しないのでそのつもりで。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3609 鳳 翼狼(22歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ レン・コンスタンツェ(eb2928)/ メイム・エスタナトレーヒ(ec3862

●リプレイ本文

 本当に不可能な事など、この世には無いのだ――

 あれは、どういう意味なのだろう?
 仕事が終わった後、使いの男が残した言葉を、冒険者は考えていた。



●伝説殺し 一幕目
 京都外れの炭焼き小屋に不可能依頼を受けた10人の冒険者が集まった。
 鳥、スズメバチ、子供巫女、算盤、椿、出歯亀‥‥それぞれ名うての冒険者だが、ここでは正体を隠して暗号名で呼び合う。
「僕は‥‥あー、すみません。考えて来ませんでした」
 金髪の女戦士は、バツが悪そうに頭をかく。
「じゃあ、名無しでいいよ」
「無し無しですし」
「ぺったんこだし」
 不穏当な扱いに、女戦士は皆殺しを決意する。
「はぁ‥‥名無しで結構だよ。僕一人でみんなと戦うのは骨だし、仕事もあるから」
 溜息ひとつ。
 続いて黒髪の女武道家が挨拶。
「ぺた胸か‥」
「御冗談を。そうですわね、偽名が必要でしたら、こーどねーむは『男装』としておくわ」
 知名度もある彼らの間で偽名は意味を成さない。しかし、見知らぬ村人相手ではある程度の効果があり、依頼の秘匿性を思えばあながち無意味な取り決めではない。
「僕も知らないうちに、随分と名前が売れてしまったものです‥‥この場では法師と呼んでくれないか」
 ハーフエルフの女バードの言葉に仲間達は頷く。
「私は依頼人がついていた商人の子孫という事にしたいけど、大丈夫かしら?」
 女エルフの薬草師の提案に、使いの男はこの場では決められないと答えた。
「依頼人に直に交渉してみることだ」
「いいの?」
「構わない。‥‥依頼人に色々と聞くことがあるのだろう?」
 使いの男は冒険者達を見回した。
「そうね。当時を知るのは彼だけだし、詳しい話を聞いてみたいわ」
 武芸者の椿がそう言うと、万屋の算盤も行くと言った。
「話もやけど、村まで一緒に来て欲しい。依頼人にとっては、月道通ってまで来たかった懐かしい村やろ。うちらだけで乗り込むより、その方が話が早いと違う」
 依頼人を連れていく事に、赤髪の女戦士スズメバチが口を挟んだ。
「死にかけのジジイを連れてくのかい? また気絶でもされたら、今度はそのまんま天に召されちまうかもしれねえぜ?」
「スズメバチの危惧も分かるが、依頼人は病をおしてジャパンまで来たんだ。その思い、尋常ではあるまい。俺としては本人の意思に任せたい」
 鳥の言葉に、スズメバチは渋々承知した。冒険者だけ、依頼人だけでは見えない事が、一緒に村へ行く事で見えるかも。

「勿論です。私ももう一度あの村へ行きたい」
 老エルフは冒険者の申し出を快諾した。病の事を聞くと、治る見込みもないがすぐに死ぬ事は無いと笑う。
 そして商人の子孫を名乗らせて貰えるか尋ねると、老エルフは少し考えてから雇われていた商人の名前を教えてくれた。
「それじゃ、まず貴方が覚えている伝説を聞かせてくれるかしら」
「分かりました。あれは、今から101年前の話です。当時90歳だった私は貿易商人に雇われた冒険者でした‥‥」
 依頼人の話を聞きながら、女エルフは或いは今から百年後に、自分もジャパンでの冒険を誰かに話す事があるだろうかと遠い未来に想いを馳せた。
 それは甘美だが叶わぬ夢のようで。


●伝説殺し 二幕目
「御免、旅の者でござる。一夜の宿をお貸し願いたい」
 武者装束の鳥は、単身七右衛門の屋敷を訪れた。先に村人からさり気ない風を装って初代七右衛門の話を聞きだしていた。
「拙者、旅の武芸者でござる。京へ上る道すがら、街道を外れ、難儀している。どうか一晩泊めて頂きたい」
 見れば立派な侍風。騙りや盗賊にも見えず、四代目は恐縮しつつ離れに泊って貰う事にした。
「軒下をお借りしながら、御当家に礼をせぬでは武士が廃る。何か私に出来る事は無いか? これでも腕は立つぞ」
 四代目は丁重に断る。これが近在の村人なら、薪割りでも頼む所だが、相手は身なりの良い武家だ。
「それでは身共の気が済まぬ。むう‥‥所で長者殿、先刻、村人よりこの村の伝説を聞き及んだが、些か不審がござった」
「はて?」
「実は、初代七右衛門の伝説を以前、別の場所で聞いた事がある。その話とこの村の話に差異がござる」
 重大事を打ち明けるように鳥は目を見開く。
「初代殿が打倒せし妖怪の数は百八匹にあらず。千八十匹。更に、剣の腕は天下無双にして武芸百般の達人。加えて、都の美女を虜にした絶世の美青年で、神皇家の信任厚き大将軍であったと聞く。まさに完全無欠、日本武尊の化身であった」
 無論、出鱈目である。
「そ、そのような無茶苦茶を‥‥」
 四代目は戸惑う。
「左様、おそらく、偉大すぎる七右衛門様を妬ましく思った何者かが、卑怯な手を使って伝承を卑小に捻じ曲げたに相違無い。酷いことを‥‥」
 激しく嘆く鳥。
 おもむろに四代目の肩を両手で掴んだ。
「おお、そうじゃ。拙者がこの村に立ち寄りしは七右衛門様の無念が呼んだに違いない。真実を村人に伝えて進ぜよう。偉大な先祖を名を汚されて、お主もさぞ無念であろう」
「い、いえ」
 四代目は止めたが、鳥はホラ話を村人に吹聴して回った。

「あまり目立つ事はしてほしくないのだけど‥‥冒険者の評判が落ちるのは困るわ」
 走り始めるとノリノリの鳥に、皆がやり過ぎないよう見守る男装は嘆息した。
「でも、そもそも依頼が無茶苦茶だもの、どこまでやるのか線引きが難しいわよね」
 そう云った椿も少し困り顔だ。
 椿は村の伝説を調べに来た冒険者と名乗ったが、鳥の荒唐無稽な話に村人が敏感になっている。同じ時期にやってきた椿達も警戒された。
「鳥には悪いけど、私は今の状態で安定しているこの村を変えるべきだとは思ってないわ。真実を知るのは四代目と秋だけで十分でしょ」
「核心の話は当事者だけに‥‥そうね、私も同じ意見よ」
 問題は百年前、依頼人がイギリスに帰った後、この村で何があったのか。
 男装は周囲の村に何かこの村の話が残っていないかと回った。椿は二つの伝説の差を明確にしようと丹念に村人に聞き込みを続ける。

「うーーーーむ。言われてみれば隣村で魔物が出たという話はむかーし聞いた事があるなぁ。だが、随分前の話じゃてよくは知らん」
 男装の調査は捗捗しく無かった。
 百年という時間は、ハーフエルフの彼女にとっても長いが、人間にとっては事実が忘却されるに十分すぎる時の流れだ。それでも、落差が大きい気はする。
「閉鎖的な村だったのかしら?」
 仲間の話では、陰陽寮に百年前の八島の妖怪騒ぎの記録が残っていた。しかし、すぐに鎮圧されたとして、英雄の名前も無く、とても百八匹妖怪の大事件には思えない簡素な記録だった。

「この村に伝わる伝説ってのがあるって聞いたんだけど、どんなやつだ?」
 スズメバチと法師は村につくなり聞き込みを開始した。
 自分達の事はジャパン全土にちらばる数々の伝説を集めている旅人と説明する。村人の話はどれも四代目が話した内容だった。
「ふーん。ところで、その伝説の七右衛門の子孫がこの村に住んでるらしいな。どんな人物か教えてくれないか?」
「わしらの事をいつも考えて下さる立派なお方だ」
「へえ、さすが勇者の子孫てわけだ」
 四代目の評判は悪くない。
「どうだった?」
 スズメバチは、横でじっと村人の言動を観察していた法師に聞く。
「七右衛門さんはそれなりに人望があるようね。伝承の内容も嘘は無いようだけど、お年寄りの態度が少し気にかかる‥‥」
「ジジイ連中は余所者に厳しいから。外国人は損だぜ」
 法師は無意識にフードの下に隠した耳を触った。ハーフエルフとばれてはいないと思うが、不審者と思われたかもしれない。

 百八匹の妖怪との死闘は苛烈で、英雄達を次々と死の床へ誘った。
 大きな村では無い。多くの者が妖怪に殺され、更に英雄達も大半を失えば勝利しても残るのは村の荒廃。
 折しも時は現在と同じく戦国乱世。魑魅魍魎は世に蔓延し、野盗山賊が蔓延り、英雄の居ない村に生き残るすべはない。
「‥‥戦国乱世?」
「うーん。分かりませんが、都の近くでそんな妖怪達が暴れていても討伐隊が来なかったという事は、人の乱か魔物の災いか、ともかく荒れていたのだと思います」
 妖怪を倒しても、力が無ければ村を守れない。
 そこで白羽の矢が立ったのが、生き残りの七右衛門。彼には小利口な知恵がある。七右衛門を妖怪殺しの英雄という事にして、八島の名を継がせればとりあえず形だけは整う。苦肉の策だが、甚大な被害を出した上で村を消滅させるよりは‥‥こうして人生の入れ替えが行われた。
 村人全員が共犯でなければ、成しえない珍事。
「‥‥というのは如何でしょう?」
 子供巫女は彼女が推理した真相モドキを仲間達に聞かせる。弱い村が近隣に食われるのはある話で、多くの戦士を失った八島家も英雄を必要としていたとすれば。
「真に迫ってた」
 華国の武道家、地獄帰りの出歯亀は子供巫女の話に感心して拍手。
「俺もさ、八島重信の配下が何か知ってたと思うんだよね。だって一緒に戦ってたなら、荻野兵之介が勇者だってことも、七右衛門が盗人ってことも知ってるよね。子孫の人から話を聞けたら、何か分かると思うんだ。俺達で、入れ替わりのからくりを解き明かしたいね!」
 好奇心旺盛な若いハーフエルフは謎解きに目を輝かせている。
 彼の推測通り、八島家の配下だった者の子孫がこの村に今も住んでいた。
「とある高名な学者が各地の伝説を集めて編纂しているので、資料を見せてほしい」
 出歯亀は当時の文献が残っている事を期待した、口伝のみのようだ。話の内容は四代目と内容に大差ない。
「子供巫女の言う通り、皆が嘘をついたのかな?
 重信の娘と七右衛門ができてて、重信が娘可愛さに‥とか?
 重信の配下が荻野兵之介の活躍に嫉妬して、嘘を重信に吹き込んだ‥とか?」
 推論は色々と浮かぶ。問題は、嘘をついた可能性のある人達は既に皆この世に居ない事である。どうやって確かめる。
「駄目だぁ! 証拠が見つからない。あとは神頼みしか‥‥そういや、江戸の友人がさ、去年の暮れに、神様を江戸見物する依頼を受けたんだって。岐の神とか時置師の神とか。京にも神様、都合よく現れてくれないかな? 八島の村の道祖神、探してみよっと♪ 神様だったら長生きだから、きっと当時のこと、知ってたりするよね★」

 出歯亀と同じ事を考えた名無しは、百年前から生きる妖怪を探した。心当たりとしては、鞍馬山の天狗や比叡山の酒呑童子。彼らは長寿と聞く。
「聞きにいけば話してくれるかな。‥‥うん、たぶん‥‥死ぬし」
 多少方向転換し、この村の周囲で長生きな妖怪を探した。単独調査の不利もあり、或いは妖怪殺しの女英雄である名無しを恐れたか、力ある妖怪は見つからなかった。
「待てぇ!」
 子狸を追いかけ回す名無しの姿を、何人かの村人が目撃したのみである。

 さて、皆さんは謎が解けただろうか。
 二つの伝説には、依頼人の老エルフ、ヘンリー・ロックムーンが冒険者達に語った以外に、もう一つ、重大な差異がある。それはとても基本的なことだが、それゆえに彼が話さなくても不思議では無かった。


●伝説殺し 三幕目
「ルーナ・ハリスと申します。イギリスで商売をしていまして、祖父がよく以前訪れたジャパンの話を聞かせてくれました」
 イギリス語で喋るルーナの台詞を、算盤がジャパン語に通訳して村人に聞かせる。
「まいど、いぎりすの廻船問屋の三代目で名前ははりす・るーなや。先々代がこの国でお世話になったと聞いて、前から一度来てみたいと思てましたんや」
「それはそれは、遠いところをよくお越し下さいました。この村で長者を務めております村井七右衛門と申します。何も無い所ですが、どうぞおあがり下さい」
 四代目は五十過ぎの壮年で、突然訪れた異国人を丁重に迎えた。
 既に冒険者が色々と調査を行った後である。何かあると思っている所へ老エルフと二人が来たのだから、少しは動揺するかと思ったが、落ち着いて見える。
「るーなはんが言われるには、うちのお店に長年奉公してくれた者の友人の村やさかい、なんぞ融通したいけど、このままではへんりーはんが承知せえへんやて」
「お気遣いは無用に。村を訪れた客をもてなすのは長者の義務。倒れられた時は驚きましたが、ご快復された様子。何よりでございます」
 四代目は老エルフを見る。数日前、村にやってきて倒れたエルフ。放ってはおけないので薬師を呼んだが、友と呼ばれる程では無い。
「話が合わへんな。へんりーはん、きちんと名乗らなかったんか?」
 算盤はルーナと目配せし、四代目ににじり寄った。
「このへんりーはんは、初代七右衛門はんのご友人なんやで」
「え?」
 四代目が驚く。
 算盤はルーナの言葉を交えながら、彼女の祖父、イギリスの貿易商人アルフレッド・ハリスの護衛の一人としてジャパンに来たヘンリーが八島重信と友人になり、この村を襲った妖怪と戦った話をした。
「そ、それは本当の話なのですか。初代は私が四歳の時に亡くなりました。祖父からも父からもそのような話は一度も」
 この村の伝説からは、ヘンリーの存在は抜けている。
 それはそうだろう。鎖国時代、都を密かに抜け出したウィザードが、妖怪退治をした話が伝わっていれば大変である。
 村人達への聞き込みから、推測はしていたが、四代目も初耳という顔をした。
「そうかぁ。証拠は無いんやけどな、生き証人がここに居てはる。当時の事を誰より知っている人やから、まずは疑わずに話を聞いてくれへんか」
 算盤に促されてヘンリーは流暢なジャパン語で当時の事を語った。初めは驚いていた四代目の顔に徐々に理解の色が見える。
「どう思う? 今更な話やし、うちらもこの村の混乱は望まん。せやけど荻野はんの汚名は可哀想や。で、ここは荻野はんも英雄だった事にせん? 過去より今が大事やし。落とし所としてええと思わん?」
 算盤とルーナの説得に、四代目は悩んでいたが、断った。
 証拠が無いので信じられない。幾らエルフが長寿でも嘘の話を作られては困ると。
「それでは、秋さんがあまりに不憫です」
「貴方には関係のない話だ」
 四代目に拒絶され、老エルフは肩を落とす。
 体調を崩した依頼人と共に冒険者達は都へ戻った。
「ごめんなさいね」
 依頼の不首尾を椿は詫びる。落とし所を探したかったが。老エルフは仕方ないと首を振る。
「私があの時、国に帰らなければ‥‥」



○登場人物紹介
鳥‥‥天城烈閃(ea0629)
スズメバチ‥‥クリムゾン・コスタクルス(ea3075)
名無し‥‥楠木麻(ea8087)
男装‥‥朱蘭華(ea8806)
法師‥‥カンタータ・ドレッドノート(ea9455)
子供巫女‥‥円周(eb0132)
算盤‥‥将門雅(eb1645)
ルーナ・ハリス‥‥ステラ・デュナミス(eb2099)
椿‥‥南雲紫(eb2483)
出歯亀‥‥鳳翼狼(eb3609)


追伸
 後日、萩野秋を不憫に思ったヘンリーが彼女を引き取ったという噂を耳にした。