【武田侵攻】小田原城攻略

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月27日〜07月04日

リプレイ公開日:2008年07月16日

●オープニング

 神聖暦一千三年六月。
 甲斐信濃二国を領する武田信玄は同盟者である江戸の伊達政宗の要請に応えて小田原藩大久保氏の攻撃を開始した。
 本来なら、二か月前に攻撃を始めているはずだった。
 小田原攻めは一年の間に江戸支配を軌道に乗せた政宗が、関東に残る源徳勢力の駆逐を目的として計画したもので、信玄は伊達の房総攻めに呼応して動くはずだった。
 もし予定通りに信玄が小田原を攻めていたなら、八王子による府中陥落も、里見による江戸城攻撃も無かったかもしれない。
 ともあれ武田の小田原攻撃は何故か遅れた。その間に駿河の北条早雲は小田原藩に上杉謙信を頼るよう持ちかける。
 越後上杉は源徳親藩である小田原藩にとっては敵国である。小田原藩主大久保忠吉は苦悩の末、冒険者の助言に従い源徳家からの独立と上杉への救援要請を決断する。
 主家の敵と結ぶ。
 藩主の決断は小田原藩を真っ二つに引き裂いた。大久保家臣には家康の関東入りに従った三河武士も多い。親族を裏切ることは耐え難く、独断で八王子に後詰を求める者も出た。しかし、大久保長安の下で経津主神の化身となった源徳長千代は救援要請を握り潰し、府中城へ攻勢を開始する。
 この小田原の混迷は時をおかず、箱根の諜報を始めていた武田の知る所となる。
 武田信玄と上杉謙信は今でこそ反源徳の同志だが、過去に信濃の領有を巡って幾度も争った経緯がある。越後を敵に回す事だけは避けたい武田は準備していた小田原出陣を中止し、大久保氏の内乱を利用して箱根家臣団の調略に力を注いだ。
 足柄城、河村城、鷹之巣城の守兵はいざ武田が攻めてきた時には命懸けで戦う覚悟を持っていたが、忠吉が源徳を捨てて上杉に走ると聞いて激怒していた。藩主と対立した三城は武田に下り、小田原藩は戦わずして武田に領地の半分近くを奪われる。
 調略に成功した信玄は六月中旬、満を持して甲府を出発。支城を無血開城して小田原城へ駒を進めたのだった。

 武田本陣。
「お屋形様、天の配剤とは不思議なものにございますな」
 まさか一滴の血を流す事すら無く小田原城を臨む事になろうとは。長年、海を夢見てきた武田の老臣は感慨無量に呟く。
「ご老体は感傷に過ぎますな。まだ小田原城を落とした訳でも、大久保忠吉を捕えた訳でもござらぬぞ」
「左様、小田原城は難攻不落と評判の堅城にて油断は出来ませぬ」
 軍議にて、小田原城をどう攻めるかが話し合われた。と言っても小田原の強みは本来、城よりも源徳武士の結束とそれを生かした統率力にある。それが崩れた今となっては力攻めでも滅ぼすのは容易い。
 しかし、戦争は一戦では決まらない。勝ち方は重要だ。信玄は江戸の冒険者ギルドに小田原城攻略の依頼を出すよう命じた。
「これは意外。お屋形様は我らだけでは不足と申されるのか?」
「お主達は先年、冒険者の戦い方を見たであろう。関東では冒険者が左右する。それに噂では大久保忠吉、冒険者とは縁のある男と聞く」
「しかし、冒険者が裏切った時は‥」
「それこそ冒険者を学ぶ良い機会であろう。心構えあれば、恐れることは無い」


小田原の運命や如何に‥。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

神楽 香(ea8104

●リプレイ本文

 小田原城を囲む武田軍。
 初日に到着したのは、ロック鳥に乗る天城烈閃(ea0629)、韋駄天の草履をはいた瀬戸喪(ea0443)と虎魔慶牙(ea7767)、それに軍馬で移動したイリアス・ラミュウズ(eb4890)の四人。
 瀬戸と虎魔が現状を聞くと、空飛ぶ箒に跨った巨人騎士が囲みを突破して小田原城に入ったと聞いた。石柱のような棍棒を持っていたと言う。
「そんな野郎は何人もいねぇな(ゲラゲラ)。気をつけな、下手な化け物よりも手強いぜ」
 強敵がいると聞いて虎魔は楽しそうだ。
「他には? そうですか‥‥まさか一人では無いでしょう。夜陰に乗じて潜入するつもりか、後方で攪乱工作を行うかもしれませんね」
 瀬戸は警戒を強めるように武田兵に忠告した。冒険者相手に常識は通じない。変装の術を持った者や姿を消せる輩が入り込んでいるかもしれない。
「何か、作戦はあるかね?」
 振り返るとそこに武田信玄が居た。
「総大将が身軽な事ですね」
「そうでもない。お主達が何かすれば、素破が山のように現れるぞ」
 瀬戸はニコニコしながら、早速試そうとした虎魔の袖を掴む。
「作戦はありません。要は小田原城を制圧すれば、いいんでしょう。何にせよ、僕に出来ることは前線で戦うことだけですけど」
 淡白な瀬戸の言い方は、本心だ。兵法は得意でない。それは天城も同じで、虎魔は実は兵法を修めているが、本人があまり好まない。
「作戦と言えるほどは無いのだが、冒険者について武田の兵達に話しておきたい事はあるな」
 天城の言葉に、信玄は耳を傾けた。
「敵が、どれだけ力や名のある冒険者とて、人間は人間。とはいえ、それは俺にも、この武田軍にも言えるだろう。勝てる戦と驕るなかれ。勝たねば恥と、自らを律して戦うべし‥‥っと」
 そこまで言って天城は、大大名に講釈をぶつ己に赤面した。
「勝てる戦と考えておる者は我が軍中に一人も居らぬよ。お主達にも話しておくが、此度の戦、引き分けならば上々と思うておる」
「‥‥やけに謙虚じゃねえか。圧勝だろうがよ」
 怪訝な顔の虎魔に、信玄は小田原の東西を指し示した。
 西の駿河、東の安房、八王子。少なくとも、この三勢力は武田に仕掛ける可能性がある。更に武田軍は小田原攻めの為に南に戦力を集中していたから、上杉謙信や平織市、それに源徳家康が信濃を攻める恐れも皆無ではない。
「手は打たれているのでしょう?」
「ある程度はな。だが、天城殿の申す通りだ、人の所業に完全は無い」
 武田軍団の総帥の言葉にしては、普通だった。
「御大将」
 軍馬を休ませてきたイリアスが信玄の姿を見つけて走り寄る。
「ここに居られたか。小田原城の冒険者の数、少ないと聞いた。今が攻め時だ。時が経てば敵の後詰も増える。冒険者も増える。第三勢力も動く。ここは力押しでも短期決戦あるのみだ」
 若いハーフエルフの騎士の献策は、単純明朗。
「うむ。お主達の働き、見せて貰おう」
 堅城相手の力攻めは愚策だが、信玄は許した。小田原城の複数の門を攻めかかる。

 城攻めは要塞である城の内部構造を知ると知らないとで大差がある。
 普通は夥しい死傷者を授業料に払って手に入れるものだが、今回は寝返りの小田原武士が多いため、小田原城の防衛機能はほぼ武田軍に筒抜けだった。
 武田軍は大軍の利を生かして複数の門を同時に攻めて城方の戦力分割、疲弊を誘う。足軽達が破城槌を叩きつけ、弓兵が攻撃部隊を援護する。
 至って正攻法だ。少し違うのは、冒険者達の魔獣の存在。
 瀬戸の風精龍、天城のロック鳥と霊鳥、虎魔の月精龍と風精龍が参戦。空飛ぶ魔獣達は城壁を飛び越えて櫓や城門の兵士達を直接攻撃する。はじめ小田原兵は魔獣達に混乱したが、予想より早く立て直した。弓兵の集中攻撃を受けて魔獣達が悲鳴をあげる。
「こいつはいかんっ 羅翔、朧、戻れ!」
 前線にいた虎魔は慌てて精霊龍達に指示を飛ばす。弓に対抗するためシャドゥフィールドを唱える朧を、強弓が貫いた。
 魔獣対策に弓隊を指揮したアンリ・フィルスの十人張りである。力なく落下する朧にアンリは一斉射撃を加えて仕留める。
「くっ。瑠羽宮も下がれ。奴は俺が何とかする‥‥」
 ロック鳥に乗る天城は弓兵達の櫓に接近した。十人張りに矢を番え、引き絞る。巨人騎士も天城の接近に気づいて弓を上に向けた。
 ほぼ同時に放たれた矢が交差する。
「‥‥浅い? 急所を外されたか」
 攻撃をわざと受け止める技は、重戦士には珍しく無い。しかし、この弓と天城の技なら倒せる範囲。反対に地上のアンリは歯軋りした。ロック鳥を狙った彼の矢は外れた。
「むぅ‥」
 得物は同じだが、上方の天城にアンリの矢は僅かに届かない。
 勝てないと悟ったアンリはマントで己の体を包み込んだ。マントの神通力が巨体をかき消す。
「逃がすものか」
 天城の矢はアンリが指揮していた弓兵を次々と倒した。
 天城はこのアウトレンジ戦法で終始、小田原城の制空権を取り続ける。頭上からの弓は小田原城の士気を削ぐに効果があった。一見無敵だが、対処法は例えば見習い陰陽師のスクロール一本で済む。梅雨空のこの時期、高高度戦法を取るとは天城も命知らずである。先の戦乱で天候争いが地味に熾烈を極めたのも理由無き話では無い。

「‥‥暇ですねぇ」
 攻城戦は人の持てる力の限りを尽くす戦いだ。
 瀬戸は初め、城門攻撃に参加したが、城方は当然のように討って出てはこないので出番が無い。丸太を担いで必死に駆け出し、重い楯を構えて足軽を矢雨から守るのは趣味に合わない。
 何か刀仕事は無いかと瀬戸は武将に尋ね、側面の城壁から侵入を試みる決死隊があると教えて貰う。必要なのはクライミングのスキルとくそ度胸、そして強運。
「無理攻めして死傷者を増やすのはどうかと思いますね‥‥」
 結果、彼は足軽攻撃隊の護衛として矢盾を担いでいる。阿鼻叫喚の最前線で、うさ耳をつけた浪人者はちょっと異様だ。
「かかれぇッ!!」
 瀬戸の横を、軍馬に跨るイリアスが駆け抜けていく。身の丈より長いヒュージクレイモアを思いきりよく城門に叩きつける。城門は強固で一度や二度で壊れないが、彼は何度も突撃を繰り返した。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 大変なのは、イリアスを守る虎魔である。放っておくと、軍馬を射殺されてイリアスも死ぬ。衝撃波で射手の気をひいたり、身を呈して守るのだが、おかげで走りっぱなしだ。さすがの猛虎も最初の攻撃を終えた時は地面に倒れて動けなかった。

「まだまだ! 城兵を休ませるな、間断なく攻めるのだ!」
 イリアスは連続攻撃で地面にうずくまる武田兵を叱咤した。短期攻略を言い出した手前もあり、彼は特段張り切っていた。それにどうやら城内に居る冒険者はアンリ・フィルスだけ。他の冒険者達が来る前に戦局を動かしたかった。
「そう言や、カイザードはどうした?」
「江戸で米を買うと言ってましたから‥‥二、三日はかかるのでは無いですか?」
 その頃、カイザード・フォーリア(ea3693)は江戸で兵糧を買い漁っていた。相当な量で、護衛もつけなければならないので小田原到着はまだまだ掛かりそうだ。
「まあ、二三日で終わる戦いじゃねえしな」
 小田原城はさすがに評判通りの堅城。城兵の士気は低く、武田軍は冒険者達の助けもあって優勢だが、それでも一週間かそこらで決着がつく気はしない。城門の一つ二つでも落として、戦局を有利に出来れば御の字だろう。
 突然、暗闇が冒険者達を覆った。
「な‥にっ?!」
 シャドゥフィールドか。しかし誰が?
「この城は拙者が護り抜く」
 城門前を影で覆ったアンリは、別のスクロールを取り出して念を込める。精霊碑文が効果を表し、巨人の姿は地面に没した。

「落ち着いて部隊毎にこの暗闇の範囲から出ろ! 弓で狙われるぞ、頭上に楯を構えて‥‥ぐはぁっ」
 暗闇の中で混乱する兵達を鎮めていたイリアスは、いきなり顔面を激しく殴打されて吹っ飛んだ。
 地面に潜ったアンリの音を頼りとした闇討ちだ。視界の無い地中と暗闇を利用するのは一歩間違えば自滅だが、度胸がある。
 止めを刺そうとイリアスに近寄ったアンリの肩に大刀が打ち下ろされる。
「面白ぇ芸を持ってやがるぜ!」
 虎魔は城門が闇に包まれたのを見て、迷わず飛び込んでいた。
「だが俺が居る限り、させねえ。諦めなあ!」
 手ごたえを頼りに斬魔刀を斬り返す。渾身の力を込めたが浅い。無視界戦闘では耳が命。これは思わぬ攻撃を受けたアンリも同様で、己の位置が分からなくなる。
「くっ」
 泳ぎながら戦うアンリの戦闘力は半減している。虎魔相手ではなぶり殺しだ。アンリは再び地中に潜った。方向は多少危ういが、ともかく城内に入ってしまえば良い。
「はっ」
 地中から顔を出して息をついたアンリは、頭上に巨大な鳥の王を見た。
「‥‥見えているぞ」
 天城は番えた二本の矢をアンリの兜の隙間に叩きこんだ。もがくアンリに止めを差す。天城は地面に浮かんだアンリを回収する小田原兵は見逃して帰還する。徹夜の戦いで疲れていた。
 天城が起きると、最初に小田原城に7人の冒険者が増えたと知らされる。
「鉄人アンリをやっと退けたと思ったら‥‥」
「楽しみが7倍に増えたなぁ」
 溜息をつく天城と、対照的に喜色満面の虎魔。
「お前は自殺願望でもあるのか?」
「冗談を言うな。俺だって戦いはちゃんと選んでるぜぇ。そうだなぁ、絶対死にそうな激戦とか、強敵に目がくらむようなのが最高だな」
 天城は天を仰ぐ。
「冒険者達は城に入る時に広範囲の煙幕を使ったそうです」
 瀬戸が兵から聞いた話を伝える。
「炎使いかな。スクロールという可能性もあるが」
 高位の精霊魔法使いが相手だとすると脅威だ。比叡山の戦いでも、僅か2名のウィザードが数百名の平織部隊を撃退している。
「悩んでも仕方無い時は前進あるのみだ」
 と言ったのは、ろくに寝ていないイリアス。イリアスは戦闘中にたびたび狂化し、味方の攻撃隊に恐れられた。狂化中のイリアスの無謀な吶喊命令で、少なくない足軽が命を落としている。
「イリアスさんはそろそろ休まれた方が‥‥先は長いですから」
「そうか? ‥‥そうだな、ここは休む時か」
 イリアスは伊達家に仕える身であり、他の冒険者と違い、同盟国である武田へ与力的側面がある。軍功をあげ、八王子戦での協力を取り付ける明確な目的もあり、自然と気合が違った。伊達の金髪に負けるなと武田兵も頑張っている。

 再開した城攻めでは、珍しく小田原兵が側面から討って出てきた。意外な攻撃に多少の損害を出したが、多勢に無勢であり、小田原兵にも少なくない死傷者を与える。
「やっと仕事ができました」
 瀬戸は乱戦の中で数名の小田原兵を斬った。
 城門の戦いは、新たな冒険者に苦戦する。火乃瀬紅葉とアルスダルト・リーゼンベルツは接近する攻撃部隊を煙で包み込んだ。瞬く間に城門前がスモークフィールドで満たされる。視界を殆ど奪われ、しかも煙に刺激物が混ざっていて足軽達は慌てた。
「今でございまする! ‥‥足元しか見えぬ視界、前を進む兵が矢で倒れれば後続は足を取られ、まともに進めませぬ」
 矢雨を撃ちこまれて混乱を助長した。射手も煙の中が見えないのは一緒だから、矢自体はそれほど当たらないのだが、混乱する足軽自身が味方を傷つける。
 たまらず武田軍は一時攻撃を中断。
 その隙に城兵達が土塁や落し穴を作ろうと動き出したので天城が上空から牽制した。

 煙に苦しめられつつ攻撃を再開。煙は相手の弓兵にも不利がある。城内から討って出る事もなく、攻撃速度もゆっくりになり、ある意味膠着状態が続いた。
 この頃、隙を見て包囲を破ろうと城内から飛び出した者が居た。十重二十重の武田軍を突破出来ず捕まる。所持した密書から駿河、伊豆、安房への救援要請の使者と分かる。
「駿河の北条は分かるが、伊豆と安房?」
「連中も切羽詰まっているのか。或いは偽物かもしれない」
 手当たり次第に空手形を乱発しているのだとすれば、武田としてはまずまずの展開だが。この密書は囮で、本物は別にあると考えた方が良いだろう。実際、箒に乗った神島屋七之助が東に飛び去り、浦部椿も包囲を突破して西に消えた。
 早晩、後詰が来るかもと警戒を強めている所に黒崎流が正面から現れた。
「いかにも、自分は小田原藩から依頼を受けた冒険者だ」
 どうも近頃は度胸が良いのが多すぎる。黒崎は極めつけである。
「通すわけには参らぬ。ま、またれよ」
 呼ばれてやってきた瀬戸は黒崎と挨拶をかわす。
「おやまあ」
 音に聞こえた八王子の軍師が堂々と武田軍を通ろうというのだから、世の中間違いだらけである。
「黒崎さん、本気で通るんですか?」
「他意は無いよ。いや本当はあったのですがね‥‥無くなった。今はただ、武士の散り際を見届けに」
「へぇ」
 瀬戸はニコニコしながら、悩んだ。どう殺そうか。
「良い所へ来られた」
 兵糧の手配を終えたカイザードが黒崎に仕事を頼む。
「投降の使者?」
「そうだ。武田軍は江戸の伊達殿の支援で兵糧も盤石。籠城を続けるは無益だ。投降すれば寛大な処置を約束すると伝えてほしい」
 期待はしていない。出方により、攻め方を変えていくだけの話。
 城兵に対しても投降の口上を並べている時、リン・シュトラウスが空から天女のように小田原城へ舞い降りた。
 その後、期待していなかった勧告の返答が来る。
「‥‥開城?」
 武田兵も冒険者達も耳を疑った。
「城兵の助命をお頼み致す」
 忠吉が降伏を申し出、さすがの信玄もこれには驚いた。
 投降工作の直後だけにカイザードは武名をあげたが、当人は苦みきった表情を浮かべる。
 信玄も、驚くほど軽微の損害で小田原を奪ったというのにしかめ面だ。
「ふむ。小田原攻めの武功第一は、北条早雲であろうな。奴め、鵺のような男よ」
 八王子と安房、或いは上杉と北条と組む事に成功すれば小田原の命運は少なくとも半年は永らえただろう。それを考えられる殆どの勢力と切らせて一瞬で命運を絶ったのは、小田原側の冒険者の功績である。
 冒険者が戦を左右すると言っていた信玄は、小田原城よりもそれを学んだ事が一番の収穫だと言った。