シンプルケース6 怨霊屋敷の探索

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月21日〜07月27日

リプレイ公開日:2004年07月29日

●オープニング

「ゴブリン退治にも飽きてきたね。何か面白い依頼は無いかなぁ?」
 角のテーブルで仲間達と談笑していた冒険者の一人の台詞は、ちょうど通りかかったギルドの係員の耳に入った。
「‥‥へぇ、それならいい話がありますよ」
 嘴の黄色いひよっこが一回や二回依頼をこなしたからと言って冒険を甘く考えるのは、古今東西に例の多い話だ。係員はその鼻っ柱を折ってやろうと思った訳では無いが、少しばかり掛け出しには難易度の高い依頼を示した。

「キャメロットの近くに住む貴族様からの依頼でね、彼の領地内に使われていない古い屋敷があるのだが、そこにモンスターがいるようなので排除して欲しいと言うんだ」
 存外に単純な依頼である。どんな恐い依頼をくれるのかと話を聞いていた冒険者達は顔を見合わせた。
「モンスターって、何が出るんだ?」
「どうやらレイスらしい」
 レイス(怨霊)はゴーストの一種で、生前に強い恨みを残して死ぬとレイスになるという俗説がある。この事は屋敷の近くの村などでは割と有名で、怨霊屋敷と呼ばれているらしい。それ故に近づこうとする者もおらず、実質的に実害は殆ど無かった。ただ最近になって貴族の方で屋敷を再利用しようという動きが出てきた事で、退治する必要が生じたのだそうだ。
「それから、バンパイアスレイブ‥‥つまり、呪われし吸血鬼どもの下僕がいる。随分と放置していたから、どこからか紛れ込んだようだ。こいつも一緒に倒してくれ」
 係員は事も無げに言った。
「ああ、もしかしたら鼠とかズゥンビとか、その辺の雑魚も少しはいるかもしれんが、まあその程度は物の数では無いだろう。さっきの口ぶりからするとな。ああ、それから今回は依頼人が金持ちだから、報酬は多めに用意させて貰ったよ。無事に退治できれば、君達の名声もきっと上がる。頑張ってくれ」
 係員は、にこにこと笑ってその場を離れた。
 さて、どうなるか。

●今回の参加者

 ea0328 マイ・レティシアス(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1144 リーヴァ・シュヴァリヱ(31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2388 伊達 和正(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●門の前
 朝。朽ちた門扉を押し開き、浪人の陸奥勇人(ea3329)は敷地に足を踏み入れた。
「陰気で薄気味、悪い所ですね。いかにも出そうな‥‥」
 浪人の背後から華奢なエルフが顔を出した。
「ここからで、分かるか?」
「あ、はい‥‥見取り図ですね」
 マイ・レティシアス(ea0328)は陸奥と共に依頼人の所へ行き、屋敷の見取り図を借りてきていた。ただし正確なものではないと念を押されたが。
「ったく、何が退治屋だ‥‥とっとと片付けて帰るぜ」
 陸奥は機嫌が悪い。依頼人に幽霊が現れた原因を尋ねたが、そんな事は依頼に関係ないと一蹴されたのが余程癇に障ったようだ。
「いきなり何十年も前のことを聞けば、煙たがられるのは当然。頼まれもせず他家の内情に首を突っ込むのは、お節介じゃないのか?」
 淡々と話すゼディス・クイント・ハウル(ea1504)に、浪人は口を噤む。
(「‥‥んなこた分かってる。ただ‥‥忘れられて、倒されるだけの幽霊なんて悲しすぎるじゃねぇかよ」)

 屋敷の探索を行う前、冒険者達は荷物を置いて身軽になった。
 参加した冒険者の半数は騎士達と侍、この場でオーラパワーを武器に付与する。皆まだ初心者なので失敗もしたが、ゼディスのアイスチャクラと陸奥の日本刀にも掛けた。
 その間に屋敷の探査は外側から神聖騎士のルシフェル・クライム(ea0673)とウィザードのロット・グレナム(ea0923)が行った。デティクトアンデッドとブレスセンサーに怪しい反応は無い。だが屋敷が大きいので中に敵がいない証明にはならない。
「‥‥暗いな」
 扉を開けてすぐ、ロットは手持ちのランタンに火を入れた。
「窓が打ち付けられている」
 ルシフェルもランタンを取り出す。埃の厚さから見て、かなり前からこの屋敷は光を無くしていたようだ。冒険者達は灯りを頼りに最初のホールを調べた。
「さあ、では化け物にご挨拶と行こうか」
 ホールに何もない事がわかると、レイリー・ロンド(ea3982)は先へ進む事を提案した。
「そうだな。俺達は予定通り、ここで待機している」
 壁を調べていたゼディスが部屋の真ん中に戻ってきた。
 ここから先、冒険者達は2つに分かれる。レイリーとルシフェル、リーヴァ・シュヴァリヱ(ea1144)、勇人、それにマイの5人は屋敷内の探索。残るゼディス、伊達和正(ea2388)、シアン・アズベルト(ea3438)、ルーウィン・ルクレール(ea1364)、ロットはその間このホールで待機だ。

●怨霊屋敷
 バキッ。
「腐ってる」
 リーヴァは踏み抜いた床から足を外した。
「しかし、ワーウルフの次はお化け退治か。今回の敵は骨があるかな?」
「幽霊に‥骨は無いんじゃ‥‥」
 後ろを歩くマイが呟く。探索組は前衛がリーヴァと陸奥、真ん中はルシフェルとマイで、後衛はレイリーの順で進んだ。だが広い邸内を探し始めて小一時間、一向にアンデッドが出てくる気配が無い。
「幽霊だけに、夜しか出てこねぇか」
「レイスだけじゃない。情報にあった吸血鬼はどうなる?」
 思案にくれる仲間の中で、ルシフェルは部屋の中を行ったり来たりして魔法を唱えた。
「ふむ‥‥そうか。だとすると、あそこが‥‥」
 不死者探査の魔法を使ったルシフェルは、恐らくこの屋敷には地下室があるはずだと仲間達に話した。念入りに屋敷を調べ直した彼らは扉を一つ破壊し、下へ降りる階段を発見する。
「間違いない。この奥に複数のアンデッドの反応がある」
「ようやくご対面か」
「手筈通り行くぜ。用意はいいか?」
 再び魔法を掛け直し、石の階段を降る冒険者。
 降りた先に、地下倉庫と思える空間が広がった。
「雑魚が、待たせやがって!」
 目の良い陸奥がランタンの薄明かりに照らされた死体に気づく。動く死者達は迷わず侵入者達に襲い掛かった。その時、遠くで笛が鳴ったが戦闘を始めた彼らは気づく事は無かった。

「遅いですね。私達も探しに行った方がいいのでは?」
 探索班が戻るまで、待つだけの待機班は暇を持て余す。ルーウィンの言葉にも不安と焦りが含まれていた。
「止めたがいい。これだけ広い屋敷だ、互いの位置が分からなくなると困る」
 ゼディスはそう言ったが、既に探索班がどこを探しているか分からない。探索班が己の位置を見失う事は無いとしても、仮に彼らが敵と接触した場合は少々拙い。
「ゼディス!」
 突然、シアンが叫んだ。
 胸元に、青白い腕が見えた。横にいた伊達は、床から音も無く浮かび上がった女性が、ゼディスの体に絡み付こうとする様を目撃する。
(「どこから? ‥‥床を通り抜けた!?」)
 透き通った女の両腕が、ゼディスに触れる。斬られた訳でも無く、傷を受けたように体が重くなる。
「くっ」
 転がるようにレイスから離れたゼディスは合図の呼子を吹いた。

「死人やら何やら‥死者を冒涜したくないんですよ‥。素直に浄化されてくださいね‥?」
 装備を全て外してアイスチャクラを作ったマイは、ズゥンビに円盤を投げつけた。彼女の投擲は素人並だが、地下の割に室内は広かったので仲間に当てる心配はない。
「他愛無いな。これで終りか?」
 レイリーは床に倒れた5体のズゥンビを見回した。ズゥンビ達はオーラパワーを使う騎士と侍の前に一分ともたなかった。リーヴァが少し傷を受けたが、ルシフェルが魔法で治癒する。
「いや‥‥数は6体だったはず‥‥まだ、いる」
 ルシフェルが皆に注意を促した。身構えた勇人はランタンの灯りが届かない暗がりに赤い2つの双眸を見た。

「みんな、離れろ! 俺の魔法で‥‥」
 ロットはレイスに向けて呪文を唱え始めた。ライトニングサンダーボルトは敵味方関係なく貫通するので、仲間が接敵していては使えない。だが10秒の詠唱時間はいかにホールが広くとも長すぎる。この呪文は野外向けだ。前衛のルーウィンはロットを守る為に彼の側まで下がった。
「動けますか?」
 シアンと伊達はゼディスを庇うように立った。
「‥大丈夫だ。それより気をつけろ、ヤツは触っただけでダメージを」
 レイスは床を滑るように移動して彼らに迫った。ゼディスは右手のナイフを捨ててアイスチャクラを投げる。氷の円盤が半透明の体を切り裂く。実体は無くとも攻撃は通用した。だがレイスに怯む様子は無い。
「そこまでこの世に恨みを遺しているのですか‥‥」
 近づくレイスとゼディスの間にシアンは立った。シアンに突き出されたレイスの腕は盾に防がれ‥‥そのまま貫いて彼の胸に触った。
「この一撃で‥貴方の不死の呪縛を断ち切りましょう。永久に眠りなさい」
 攻撃を受けながらも騎士はオーラパワーをかけたジャイアントソードを振るった。横薙ぎの大剣は怨霊を両断する。
「闘気の刃受けて見よっ、十文字切りっ」
 声にならない悲鳴をあげるレイスに、伊達の日本刀が止めを差した。
「出番無し‥‥か」
 溶けるように消え去ったレイスに、ロットは呪文を中断した。

「速い!」
 赤い瞳に青白い肌の不死者は野生動物を思わせる俊敏さで暗闇から一気に間合いを詰めた。
「やらせるか!」
 後衛を狙った敵の動きに最も早く反応したのはルシフェル。牙を剥き出した吸血鬼の首をクルスソードが刈る‥‥が、刀身は肉の感触を残すもバンパイアスレイブの動きは変わらず、下僕の尖った犬歯がマイの首筋にかかった。
「‥あっ‥‥」
 バンパイアに血を吸われ、身を震わすマイ。
「貴様ッ! 離れろ!」
 レイリーは両手のショートソードとダガーを同時に払った。或いはマイに当たったかもしれない一撃。だが今すぐ吸血鬼を彼女から引き剥がさなくては、永遠に一人の仲間を失う気がしたのだ。
「くっ」
 ダブルアタックは二発とも命中。しかし、ダメージが無い。先程のルシフェルと全く同じ。
(「吸血鬼に剣は効かないのか‥‥俺の剣はまだ不死者を掃う力があるか?」)
 リーヴァは迷ったが、ロングソードを振る。オーラパワーのかけられた武器はアンデッドに威力がある。だがこの魔法は外見上の変化が無い、いつ切れたか正確な所は分からない。
(「せめて、あと一撃の時間は‥‥!」)
 無かった。リーヴァの剣は吸血鬼に傷一つ付けられない。
「GAAA‥‥」
 マイを離したスレイブは次の目標をルシフェルに定めた。
「逃げろ!」
 陸奥が間に割って入り、日本刀で吸血鬼の攻撃を弾いた。陸奥もオーラ魔法は既に切れている。最大限で、時間稼ぎしか出来ない。だが‥。
「マイを連れて早く行け。こいつは俺が止める」
 敵がスピードで勝る以上、誰かが引きつけなければ逃げられない道理だ。
「‥‥頼む!」
 両手の剣を見つめ、苦い顔でレイリーは退いた。スレイブの攻撃範囲でオーラは錬れない。棒立ちの彼らは良い的だ。同じ意味でルシフェルのコアギュレイトも無理だ。高速詠唱の無い魔法は戦闘では攻撃を食らう覚悟が無くては使えない。
「リーヴァさんっ」
 レイリーの意図を悟ってリーヴァも後退する。予定ではスレイブを発見したら待機班の場所まで誘導する事になっていた。だが相手は冒険者より足が速い。
「GUAAAッ」
 二人より先に階段の前に吸血鬼が回り込む。
 万事休すか。
「大いなる空の怒りよ、我が敵を貫け! ‥‥ライトニングサンダーボルト!」
 階上から一条の稲妻が伸びて吸血鬼を貫く。
 真っ先に駆けつけたロットの精霊魔法。間一髪、合流した冒険者達は吸血鬼を倒した。最後はオーラパワーの剣で刻まれ、不死者は断末魔の悲鳴と共に滅んだ。
 冒険者達は屋敷を解放した。

 だが‥‥吸血鬼の牙を受けたマイが高熱を出して倒れる。
 ルシフェルがリカバーをかけるが全く効果が無く、冒険者達は大急ぎでキャメロットに戻った。
「どうか仲間を助けて下さい!」
「これは‥‥バンパイアによるものですな」
 回復係のクレリックはすぐに状況を飲み込んだ。
「ああ、傷が深くて仲間のリカバーが効かない。リカバーを頼む」
「‥‥この穢れた傷はリカバーだけでは‥‥ご存知無いか、吸血鬼の毒牙にかかった者の運命を」
 僧侶は自分だけでは手が余るからと浄化担当を呼んだ。マイは回復したが、僧侶の言によれば危ない所だったらしい。治療代は冒険者達が負担した。