ジーザス会にいこう

■ショートシナリオ


担当:松原祥一

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月31日

リプレイ公開日:2008年08月14日

●オープニング

 神聖暦一千三年7月、京都。
 一人のテンプルナイトが冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。

「此度の戦乱にて余は初めて京都を訪れたのであるが、欧州と勝手が違うゆえ驚いたのだな」
 依頼人の名はヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)。
「特にジーザス会なる修道会、弾圧に屈せず異国にて布教を行う姿勢は立派であるが、色々と悪い評判を聞く。教皇庁直下のこの身としては捨て置けぬ存在でもあるのだ」
「なるほど」
 ギルドの手代はツェペシュの出した依頼内容に目を通し、首をかしげる。

○依頼内容
 ジーザス会に対して、統括的な行動を行う。

・会に属する信徒、宣教師の把握
・会の当面の活動方針の確認
・会に対するデビルの関与疑惑の調査
・弾圧を受けた会の組織再編の手伝い
・権力者(おもに藤豊氏)へのロビー活動
・京都民の会への誤解を解く活動(慈善事業など)
・デビル関与の容疑者、参考人の追跡
 その他色々。

「少し、多すぎやしませんか?」
 冒険者の仕事は長くても半月、大半は一週間前後である。依頼内容は、数か月から数年はかかりそうな気がする。戸惑う手代に、若きテンプルナイトは心配ないと請け負った。
「まあ、どちらでも良いのである」
 ここらで様々な角度からアプローチをかけたい。それが依頼人の目的のようだ。
 色々と悪い噂を聞くジーザス会だけに、少し軽すぎるように感じたが、手代は渋々依頼を預かった。

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea7216 奇天烈斎 頃助(46歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb1514 ファースト・パーマン(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 一人のテンプルナイトが居た。
 彼の名はヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)。
 18歳の若さで男爵位を持ち、困難なクエストの果てに神聖騎士の中の神聖騎士と言われるテンプルナイトに選ばれた。
 出る所に出れば結構な大物である。
「余はヤングヴラド・ツェペシュ。神聖ローマの剣である。ジーザス会に対する現状での措置と方針を伺いたいので、担当者に取り次いで貰おう」
 御所の警備兵は慇懃な態度で聞き返した。
「卒爾ながら、貴殿は何れの家中の方か?」
「だからローマである」
「‥‥呂馬?」
「かかる東洋の果てでは、ローマを知らぬ者が棒を持ち、番兵の職を得ている。実に嘆かわしい事であるな」
 腰に手をあてて嘆息する。
 ヤングヴラドはわがままな性格だが、忍耐力はある方で、ジャパンでの暮らしもそれなりに長い。
「余も随分と気が長くなったものである」
「ヴラド猊下、ここは我が輩が話した方が速そう也」
 テンプルナイトに同行した奇天烈斎頃助(ea7216)は巨躯を屈めて進言した。奇天烈斎は志士である。話し方は特徴的で、真夏なのにまるごとはにわを着込んだ変人だが、武士の心得も身に付けている。
「任せるのである」
 タライ回しにされて、何度かキレそうになりつつ、寺社を管轄する奉行の一人、前田玄以と面会が許されたのは、五日目のことだ。
 身分のある者とは気楽に会えない。これでも早い方だろう。庭先に座らされるかとさえ思ったが、一応客室に通された。
「その方らは、ジーザス会の関係者か?」
「余は教会関係者ではあるが、新撰組と京都見廻組よりも遠い関係である」
 玄以は頷いた。
「お主のような者はたまに来る」
 延暦寺の弾圧で迷惑したのはジーザス会に限らない。京都で暮らすジーザス教徒達の抗議の声に、奉行は頭を痛めていた。
「陛下が我が国で布教を認めるのは仏教と神道だが、ジーザス教を迫害する気持ちは無い。問題さえ起こさねば、何を信心しようと構わん」
「それではジーザス会に問題は無かったと言われるのだな」
「‥それがしは、異国の教えを恐れた延暦寺の過剰な反応が原因と考えている。都でのジーザス会の活動に弾圧を受けるほどの罪科は見当たらぬ」
 玄以の言葉は、ジーザス教徒に同情的だった。
 開国以来、ジャパンは自国の厳しい身分制度に関わらず異国人には破格の自由を与えている。ヤングヴラドから見れば驚くべき鷹揚さであり、今回の件もこれが神聖ローマなら騒乱を招いた異国の邪教徒の運命は一つしかない。
「ジャパン政府がそれほど配慮してくれるとは。ジーザス会の悪評、前田殿の耳に入っておらぬとも思えないが」
「噂でござる」
 外交や貿易に悪影響を及ぼす事を懸念してか、神聖ローマの貴族という若き神殿騎士に遠慮したのか。その両方か。
「では余に任せよ。余はジーザス教の総本山から派遣された者である。この地に神の教えが広まるのは良いが、辺境ではえてして異端、邪教が蔓延るものだ。猶予をくれると言うなら好都合。ジーザス会の内部を掃除してやろう」
「‥‥ふむ」
 玄以に、初めて会った少年をそこまで信頼する理由は無い。
 彼は先日の事を思い出していた。
 先日、御所でちょっとした騒ぎがあり、その後でジーザス会の処遇が取り沙汰された。ジーザス会には妖魅の類が加担する噂があり、その事らしい。御所で魔物の専門家と言えば安倍晴明であり、玄以もその折に少し話をしたが。
「‥‥む、思い出した。つぺす殿。お主は、ジーザス会の長と会った事があるそうな」
「フランシスコ・ザビエル殿の事であるか?」
 玄以は、ジーザス会のザビエルが昨年春に布教の許可を都に求めた事を話した。
 その頃の朝廷は関東の混乱や長州対策に頭を抱えていて、ザビエルを門前払い同然に拒んだらしい。
「あの時、ザビエル殿と良く話して居ればと思うが、悔いても詮無い話。関白様は延暦寺とジーザス教徒の和解を望んでいる。ザビエル殿に会う事があれば、伝えてほしい」
「承知した」

 ヤングヴラドと頃助は平織家、京都見廻組、新撰組も回った。
 平織家は尾張にジーザス会の支部がある事から態度は慇懃だが、今の平織家は都での立場は微妙、深い関わりを避けた。
 見廻組や新撰組の方は、ジーザス会を異国渡りの不穏分子と捉えていた。特に新撰組は。
「都で騒ぎを起こせば、斬ります。断っておくがジーザス会に限った話では無い」
 近藤勇は様子見を頼むヤングヴラドの提案を一刀両断。新撰組はジャパン内の勢力に対してさえ、政治的配慮が希薄な事で知られる。ジーザス会に遠慮する理由が無い。
「ふーむ。思えば大変な仕事を作ってしまったものであるなぁ。これから気長に取り組んでいくのだ」
 故郷に帰れば一廉の名士だが、国交も無いジャパンでは異国の若僧に過ぎない。道のりは遠そうだ。
「猊下は立派也よ。出来ないと最初から諦める小物とは違う也。それに猊下には我が輩達が居る也、信頼して欲しい也な」
 頃助に励まされ、ヤングヴラドは微笑む。増援に呼んだ大十字の三奇士。言動はやや奇矯の部類だが、少年の数倍の齢を重ねても夢を忘れない頼もしい戦士達だ。


「ん? 今何かどこかで変な呼ばれ方したような‥‥ま、いっか。久しぶりの三騎士揃い踏みだぜ! ったく、あの小僧も人を呼びつけるとは偉くなったもんだな」
 ノルマン騎士、ファースト・パーマン(eb1514)は月道塔を訪れていた。
 月道が開くのは毎月15日の深夜。今は道は繋がっていないが、手続きに訪れる商人達が居た。ファーストは商人の列を避けて、月道塔の陰陽師に声をかけた。
「よう。あんた、ここの人?」
「はい。月の道をご利用ですか」
 ファーストは手を振り、陰陽師に顔を近づける。
「別件だよ。あのさ、ここを通る奴ってのは全員、お上が入国記録をつけてるって言うじゃん。そいつをちょこっと、俺に見せて貰いてぇんだ」
 陰陽師は少し困った顔で、ファーストの身分を聞いた。
「俺? 俺はただの正義の味方だぜ。名乗るほどの者じゃねえよ」
 しばし絶句される。ファーストはその反応には慣れっこで、軽く肩をすくめ、重ねて入国記録の閲覧を求めた。
「閲覧には許可が必要です。事件や犯罪に関係する事柄で、入出国の記録を見せても良いと陰陽頭の判断がありませんと、お見せする事は出来ません」
 子供に説明するような回答。
「陰陽頭の許可だ? 正義に許可なんざ要らねえんだよ」
 ファーストは陰陽師に凄んで見せたが、冷静に考える。
 今回は小僧の私的な依頼である。いわばフリーで動いている訳だから、政府機関の協力は望み薄だ。それに協力を頼めば、京都御所の都合で動かねばならなくなる。‥‥‥今は押さない方が得策か。
「ちっ。ここはあんたの顔を立てて引き下がるぜ。別口をあたるとしよう」
 ファーストは荷物を宿に残して京都を発つ。
 余談だがヤングヴラドも三奇士も皆、背負い袋を持たない軽装である。全員、荷物が多すぎてバックパックが持ち上がらない。


「暑いでござるなぁ」
 茶店に座るパラ侍の暮空銅鑼衛門(ea1467)は越後屋の手拭いで顔をふき、扇をパタパタと動かしている。確かに京都の夏は暑いが、暮空の言葉は通行人には嫌味だ。鎧兜の上にまるごと猫かぶりという非常識な装備を脱げば、一挙に解決する問題である。
「ふぅふぅ」
 ぱたぱた。
「ふぅふぅ」
 ぱたぱた。
「‥‥」
 ちょっと涼んでいこうと腰かけた長椅子から動けない。重装備のおかげで座っているだけでも鍋でボイルされる気分だ。
 何やら涅槃が見え始めた所で、背後から蹴り倒された。
「何? 新手でござるか」
 頭がフラフラしたが、戦士の勘で盾を構える暮空。
 現れたヤングヴラドと頃助は、苦い顔でまだ夢の中の暮空を見下ろした。ちなみに頃助はまだまるごとはにわを着ていたが、ジャイアントの体力で何とか意識を保っている。
「寝惚けておる暇は無いのである。暮空殿にはザビエル殿の探索を頼んだ筈だが」
「猊下ではござらぬか。お喜びあれ。ミーは使命を果たしたでござる」
 半信半疑だが、暮空の案内で三人は移動した。
「ザビエル師はおそらく潜伏して活動していると思ったので、ミーは師ならば悩める庶民を助けておるはずと睨んだのでござる」
 一点買いで大当たりと暮空は笑った。
「商売の方もこれだけ上手くいけば良いでござるが」
 暮空が江戸の若葉屋の面倒を見始めてからもう随分経つ。

 今の京都は戦乱で傷ついた人が多い。しかし、ザビエルが都で活動すれば延暦寺を刺激する。坂本の仮設村でも同じだろう。そこで暮空は郊外を調べた。
「その格好で良く都の外に出られた也な」
「秘滅道愚を忘れて貰っては困るでござるな」
 フライングブルームを見せる。アイテムコレクターが嵩じて背負い袋が担げない(整理すれば良いのだが‥)暮空はフライングブルームを携帯していた。もはや何の為のアイテムコレクションか謎である。
 ともかく、戦乱で傷ついた村々を回った暮空は異国の聖人の噂を聞いて探索の幅を絞り込み、ザビエルを発見したという話だ。
「猊下より頂いた親書はザビエル師に渡してあるでござる」
 ザビエルは郊外の寒村に居た。
 黄泉人の被害や度重なる戦乱の影響で住民が減り、とりわけ健康な大人の姿が少ない。廃村寸前と言って良いだろう。二人が到着した時、ザビエルは村人の中に入り、薬草の煎じ方を教えていた。
「ザビエル殿、また会ったであるな」
 顔をあげたザビエルに、ヤングヴラドは子供のような屈託ない笑顔を向けた。ザビエルは二人を農家に案内した。空き家だった所をザビエルらが借りている。ザビエルは若い修道士を二人連れていた。
 早速ヤングヴラドは本題を切り出す。
「宣教師を集めてジーザス会の集会を開きたいのだ。協力して頂きたい」
「難しいですな。集めると言われても、居所の分からない者も多いのです」
「貴殿はそれでも代表か!」
 若者は激昂した。ザビエル自身、潜伏を余儀なくされる現状で各地の宣教師と満足な連絡は取れていない。
「ふーむ。一月では無理か」
「少なくとも三か月は」
 京都、江戸、尾張、長崎‥。主要都市を探せば主だった者は見つかるだろう。もし蝦夷や琉球まで到達した勇者が居れば連絡は至難だが。
 別の問題もある。宣教師達を集めれば、布教は中断する。信者や作りかけの地盤を数か月放置する訳で、一時撤退に等しい。神聖ローマのテンプルナイトと言えど、横柄な要求である。
 ザビエルも現状を憂いているが、天台宗等を刺激する集会という形でなく、各地との連絡を復旧させつつ、地道に神皇家へのアピールを続けて全国の布教許可を取りたいと考えを話した。
「この国で神の教えを広めるには時間が要ります。今は耐える時です」
「殉教者となるを望むか。立派なお覚悟、だが手緩い!
 過日、比叡山との戦においてジーザス会の名が出た事自体、悲しき事である。余はこの顔に泥を塗られようと一向に構わぬが、聖なる母の代行たる者の名が恥辱に塗れるのは我慢出来ぬのだ。事は教会の威信に係るのである。貴殿らは、自らの手で正しさを証明すべき時であろう!」
 ヤングヴラドはさすがに聖堂騎士の一員である。
 ジーザス会のせいでジャパンのジーザス教徒が白い目で見られている、即時撤収して原因を究明し、猛省して出直せと、その主張は分かりやすい。
「残念ですが、協力は致しかねます」
 ザビエルも首を縦には振らない。ここで頷けば、ただの太鼓持ちだ。
「むう。全国の宣教師を集めたら、旅費だけでも凄い額でござるよ」
 暮空は妙な相槌を打った。指を折って計算しつつ、宣教師は何人いるのかとザビエルに聞いた。
「29名です」
 それは初めてジャパンに来た時の人数。宣教師は東国、畿内、西国と各地で活動している。一年以上が経過しているから、信者も増えているだろう。新たに来日した者もいるはずだが、ザビエルは正確な人数は把握していない様だ。
「ふうむ。ところで、平織殿を魔王として蘇らせた、と言う噂はどんなもんでござろうか〜?」
 何気なさを装いつつ、ぶっちゃけた質問を浴びせた。
「魔王として? 虎長様は自ら魔王を名乗られたと聞いています」
「平織殿は復活された後から様子が変わられた。挙句、比叡山を攻めたり、魔王を名乗ったりでござる故、本物の悪魔になったか、悪魔と入れ替わったという噂があるのでござるよ」
 悪魔が権力者に取りつく話は西洋では珍しくないが、ザビエルは暮空に自重を促した。勘違いで悲劇を生むケースは多い、慎重の上にも慎重な検討が必要だ。
「本物の魔王なら、どうすれば良いでござろう」
 少し考えて、ザビエルは若い騎士を見た。
「貴方は、破壊と封印の違いをご存じですか」
「む‥」
 魔王と呼ばれる強力なデビル達はたとえ倒しても元の地獄に落ちるだけで、力を蓄えて復活するという説がある。人類は長い歴史の中で何度か魔王を倒しているが、その度に地獄の大幹部達は蘇ってきたというのだ。不死性の真偽はともかく、倒しても倒せない者を相手取る方法の一つに、封印術がある。
 秘術に属する技で、大抵は特殊なアーティファクトや高度な儀式を要する。
「真に魔王が現れたなら、人の身に余る相手。先人の知恵に頼るしかありませんが、神の教えを持たぬこの国では‥‥」
 人間は一人では魔王に勝てない。だが人には戦いの歴史という遺産がある。欧州には魔王の伝承が多く残され、対抗手段となる秘宝や秘術も伝えられているが、ジャパンはついこの間までデビルの存在も知らなかった国だ。

「暗い話也ね」
 二人と合流した頃助は、溜息をついた。ジーザス会が魔王と関係するなら、その不死身の怪物と彼等が対決する事もあるのだろうか。
「‥‥」
 魔王殺しの一員である男は黙って考えている。
「はぐらかされたでござるな。ザビエル殿は京都を離れるつもりは無い様子、それが分かっただけでも上首尾でござるよ」
 二人がザビエルと会っている間、頃助の方はスポンサー探しとデビルの探索を行っていたが、空振りだった。
「我が輩はデビルの存在に斬り込んだ也が、敵は素早く身を隠した也よ」
 怪しげな格好で動きまわれば通行人だって身を隠すだろう。
「ファーストは?」
「仮設村に行った也」
 正義感のファーストは仮設村をパトロールして帰ってきた。
「生憎、デビルは見つからなかったが、騒動の種はつきねえ場所だ。用心しといた方がいいだろうぜ」

 進展した、とは言えないが、期間が過ぎたので四人はギルドに戻った。