新撰組の明日
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月06日〜08月11日
リプレイ公開日:2008年08月31日
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●オープニング
神聖暦一千三年8月。ジャパン京都。
壬生の狼、新撰組の屯所に近藤勇、芹沢鴨の両局長が揃っていた。
副長の土方歳三、新見錦。それに清河八郎の姿もある。実戦部隊である新撰組において幹部が揃う日は月に一、二度も無い。
「清河さん、それは本当ですか?」
近藤勇が尋ねた。
新撰組の設立幹部で、渉外担当と言って良い清河八郎は宮中にも顔が利く。その清河が、藤豊秀吉が関東の戦を治めようと本腰を入れ始めたという話を持ってきた。
「近藤君。君も、出雲のイザナミが京の近くまで侵攻して来ている噂は知っているだろう。上手く隠しているが、山陰は惨い事になっているらしい。関白は、人間同士が争う時では無いと陛下に掛け合ったそうだよ」
藤豊秀吉が神魔と対抗する為にジャパン人の結束を求めている話は聞いていた。その為に関東の源徳家康と伊達政宗の戦、東海の平織家と源徳家の不和、畿内の平織家と天台宗の争いを全て調停しようと使者を立てているらしい。
「人間同士が争う時では無い、ですか。‥‥どこかで聞いた台詞ですな」
新見錦は浅薄な平和主義だと笑う。
「馬鹿は貴様だ、新見。関白はな、陛下の玉言を正面から受け止めてるんだぜ?」
芹沢鴨に睨まれて、新見はあっと声をあげる。
安祥神皇が無類の平和主義者である事は、都では知られた話だ。延暦寺の乱で、若い陛下が自ら御所を出て、虎長と慈円の説得に当たった事は記憶に新しい。
今の停戦や坂本の仮設村、それらは皆、今上の御心あっての話だ。それを支えたのは新撰組や冒険者達だった。
「いくらあの関白でも、日本中の戦を無くす事が出来るか」
土方はまるで戦が終わる事を望まぬように言った。
「問題はこの話、どう転んでも、源徳様が摂政を辞されるのは間違いない事だ」
伊達も平織も、源徳家康の摂政辞任は条件の一つであろう。それは関白秀吉も同じである。そもそも、摂政と関白が共に在る事が異常なのだ。和平を呑んでも拒んでも、家康が摂政で有り続ける事は無いだろう。
源徳家にとっては最大の危機であり、源徳家の家臣である新撰組にとっては最も大きな岐路と言って良い。京都一の治安組織である新撰組は、講和の条件とされる可能性は十分にある。
「近藤君、君はどう思う?」
「‥‥俺達は源徳様の侍だ。清河さんは、情勢の移ろいで忠義が変わるとでも言うのですか」
近藤勇の眼はどこまでも真っ直ぐ。清河は扇を取り出して、暑さを払おうと扇ぐ。
「ふーむ。困りましたな」
さすがに隊士達にも動揺が広がっていた。清河の話では今月中に正式な和平の使者が其々の勢力に向かうという話である。この時期に隊の内部もまとまらないのでは話にならない。土方は局中法度を定めて隊の規律快復を図るべきと近藤に進言しているらしい。そして、こんな時いの一番で行動を起こす芹沢は沈黙を守っている。
「組長、副長、局長を呼んで、新撰組の今後の方針を冒険者と語る場を設けたい」
ミネア・ウェルロッド(ea4591)は冒険者ギルドに新撰組と冒険者の大会合を開きたいと冒険者ギルドに申し込んだ。
「はあ‥‥まあ、話してみるだけで良ければ」
ミネアがしつこいので、ギルドの手代は駄目元で新撰組に趣旨を説明すると、意外な事に承諾する旨の返事が戻ってきた。
「どうやら、向こうでも何やら悩みを抱えていたようで‥‥」
「ちょうど良かったってこと。誰も彼も考えることは同じなんだね」
さあ、新撰組の明日はどっちだ?
●リプレイ本文
目打ちで固定した鰻に、将門司(eb3393)は手慣れた所作で包丁を入れていく。
今晩は鰻の蒲焼きやと告げたところ、ホクホクと顔をほころばせた銀髪の少年剣士を思い出す。
「あないに楽しみにされると、料理人冥利に尽きるわ」
司の生業は料理人。素性は浪人であり、肩書きは新撰組十一番隊士である。隊士として会合に参加したが、一緒に今日の料理も引き受けていた。
真夏日の続く京都、妹の将門雅の仕入れで鰻を中心に、鱧と旬の菜を揃えている。
「鱧は吸い物がええやろ」
好い匂いが廊下まで漂い、手土産を仲居に渡して上がった月詠葵(ea0020)ははしゃいだ声を出した。
「ああ。将門さんが来ていると、食事の楽しみが増えますですね」
「あんたは暢気だねぇ。俺は、今夜の話のことを考えると、胃の腑が抉られる気がして仕方がねえってのに」
笑顔の月詠に苦い顔で答えたのは氷川玲(ea2988)。二人とも新撰組隊士であり、月詠は三番隊、氷川は一番隊に所属する。
「そんなに緊張すること無いのにさあ」
襖から顔を出したミネア・ウェルロッド(ea4591)は氷川の心配を笑い飛ばした。
「お前さんはもっと緊張した方が良いと思うぞ」
「そうかな? 悩んで事が上手く行くなら、幾らでも悩むけどさ」
肩をすくめるミネアを見て、氷川は苦々しく笑った。若者らしい考え方だと思い、同時にそのように比較した自分が不快だった。実際、年齢は二倍違うが、氷川もまだ若手の筈である。
「ぱっぱと、終わらせちゃおう」
ミネアが袖をひくが、氷川は動かない。首を傾げる少女に青年は意外な事を云った。
「いや俺は中には入らねえ。外から聞かせてもらうぜ」
近頃、新撰組の仕事を受けていない氷川は、会合に参加し辛いのか。では、何故来たのか。
「訳わかんないよ?」
「気にするな。鷲尾には話を通してある」
一番隊組長代理が了承済と言うので、納得はしかねたがミネアと月詠は氷川を残して座敷へと向かった。
先に来ていた鷲尾天斗(ea2445)に聞くと、鷲尾は難しい顔で腕を組んだ。
「まぁ、しょうがない。あいつが自分で決めた事だからな」
理由を聞こうとしたが、その前に新撰組の幹部達が姿を見せた。芹沢鴨、近藤勇、土方歳三。新見錦と組長達も来ると聞いていたが、現れたのはこの三人。
どこかで五つの鐘が鳴るのが聞こえた。
「ウェルロッド君。今日はどんな話を聞かせてくれるのかな」
土方は事務的な口調で言った。
局長や副長を呼び出して、ロクな要件でなければ只では済まないぞと暗に脅されたように思えるが、悩まない質なのか少女は気にした風もない。
「えーと。源徳おじちゃんの立場がアレでナニだから、今のうちに色々と話しといた方が良いかなぁと」
我ながら要領を得ないなとミネアは苦笑した。行動力は十二分にある少女だが、論客の類ではない。一つ咳払いをして、話を繋ぐ。
「藤豊おじちゃんが進めてる和平案のことだけど、まだどうなるか分からないけれどさ、もし話が進んだら新撰組は無関係では要られないよね。今のうちから、意思は固めておいた方がいいと思うんだよね」
「‥では、君の意見を聞こう」
土方に促されて、ミネアはこの少女らしくも無く躊躇った。が、それで物怖じするくらいなら、彼女はこんな所に居なかっただろう。
「ミネアは、源徳おじちゃんの新撰組では居られないと思う‥‥正直厳しい。別の雇い主を考えておかないと、折角のこれまでの苦労が水の泡だよ」
忠義者には噴飯物だが、世故に長けた傭兵の理とも言える。
現状、源徳家は京都政界に返り咲く目が無い。となれば新撰組の庇護者足り得ず、それでも主従の忠誠心を発揮するなら、京都を下るより無い。無論、世の中何が起こるか分かりはしないのだが、珍奇な意見ではなかった。
「なるほど。皆も同じ意見かね」
近藤は静かに隊士達を見回した。息苦しい議論は勘弁と、料理を運んできた司が居住まいを正して局長の前に進み出た。
「俺は今更、他のとこの配下になる気はあらへん。後ろ盾の状況が厳しいからて、鞍替えするんはあかんやろ。犬でも忠義を忘れんで。不器用な生き方やけど、それが【誠】の文字を背負う者やないか?」
司がそこまで言う横で、月詠は彼が運んできた蒲焼きを頬張る。
「まあ。この鰻は絶品です」
「ほんとだ。美味いねぇ」
言う事を云ったミネアも食い気を出していた。若い二人は食べるのに夢中で、緊張した司もつい相好を崩す。
「お前ら、局長の前だぞ‥」
眉を顰めた鷲尾に、土方は苦笑を浮かべる。
「気にするな鷲尾君。今日は自由な意見交換が目的だ。食おう」
見れば芹沢と近藤も膳に箸を付けている。と思うと、鷲尾も無性に腹が減る。蒲焼きを三串平らげた。が、話題は続いている。
「ミネアの言う事も分かりますが、武士は忠義こそが第一義です。義を持って立たねば侍ではない。主に対する忠義、親子の孝養、血族への義理、それらを重きに置けば源徳公から離れる事なぞ、考えるまでもないでしょう」
些か酒は入っていたが、酔ってはいない。失踪した沖田総司に代わって一番隊を預かる男は、あくまで源徳配下を貫くべきと論じた。
源徳譜代の臣でさえ時勢に屈する者が出ている。無論、新撰組隊士にも動揺はあり、それが為の今夜の会合だが、鷲尾や将門のように忠義に殉ずる意見に共感する隊士は少なくないようだ。
「お前ぇはどうだ?」
芹沢が月詠に水を向けた。葵は幸せそうに鱧の天ぷらを味わっていたが、箸を置いて腕を組んだ。
「うーん。‥‥家康様次第じゃないですかね?」
源徳や新撰組がどうなるにしろ、主君が決めた事に従えば良い、と月詠は云う。もし、その決定が従えないものであったなら、その時に反抗する。
「政治はしねぇって事か」
「まあ、そうです」
愚直な武士の意見であろう。必死に立ち回る者から見れば、流されるだけの愚か者だが、勝手に動かず主君の命に従う、宮仕えの正論だ。
「こんな所だろう。他の隊士の考えも、お前達と似たり寄ったりだ」
ミネアのように源徳を見限って運動すべきとする考え、将門と鷲尾のように最後まで源徳臣下であろうとする考え、月詠のように決定するのは我らではなく主君だとする考え‥‥どれも間違いではあるまい。
「このまんまじゃ、纏まらねぇ。お前達の考えを言ってみろ」
手酌で酒を注ぎ、芹沢は何気ない風に冒険者達の顔を覗いた。肝心なのはそこだ。それぞれの主張に忠実であろうとすれば、新撰組は分裂するか消滅する。腹を割って話せば意見がまとまるものでもない。
「‥‥」
四人とも確たる方策は無く、芹沢を失望させた。
「おい鷲尾よ、お前は仮にも組長代理だろうが。俺はこう思います、ってだけか?」
「勘弁して下さい、芹沢先生。俺は代理ってだけの人間です」
射竦められて、鷲尾は精一杯に恐縮した。
鷲尾が沖田の一番隊を預かってから随分と経つ。そろそろ代理を取ったらどうだとの意見が隊内で上がっていたが、鷲尾は己の昇進を酷く嫌がっていた。
「僭越ですが、僕はさすがに沖田組長の不在期間は長過ぎると思います」
葵が話題を変えると、鷲尾の顔が露骨に歪んだ。
「いや、今でも問題無いからな。こんな所で話す事でも無いだろう」
「本気でそう思うなら、正式に新組長となってくれたら有難いのです。一番隊は新撰組の表看板、中途半端な立ち位置に甘んじているのは拙いと思いますです」
「うっ」
天斗は黙った。なるほど、代理は取れそうにない。
「何か策があるのか?」
「この際、新しい風を入れてみてはどうでしょう。外部から招聘を考えてみてはどうかと思いますのです」
外から招く、この時期に‥‥面白い考えではある。憮然とする鷲尾に土方が聞いた。
「代理としては、どうかね?」
「自分は問題を感じていませんので、特に意見はありませんが‥‥沖田組長は日本一の剣士です。一番隊の組長はそうあるべきと思います」
沖田総司は、負ける姿が想像出来ないほど強かった。あの頃より鷲尾は格段に成長したが、今も沖田とし合って勝てる気はしない。もし新組長を選ぶとすれば、同じように化物のように強い男か、或いは沖田とは違う一番隊を作らなければ。
「そうか。‥‥この話は考えておこう」
一番隊については、近藤と土方が検討する事で芹沢も了承した。
ちょうど話が一段落した所で芹沢が中座した。屯所から使いが来て、四半時で戻ると言って芹沢は席を立つ。議論は中休みになり、座が少々くだけた。頃合と見た鷲尾が近藤に近づいた。
「なんだ?」
「氷川の事です」
近藤が頷くと、隣の部屋で控えていた氷川玲が姿を現した。土産の酒樽を二つ置いて、近藤局長の前に進み出た氷川は両手をつき、深く頭を下げた。
「新撰組を抜けさせて貰いてぇ」
一瞬、座の空気が凍りついた。
「新撰組が今、大変なのは重々承知だが、江戸に足場が出来ちまった。あっちを無碍にも出来ねぇし、動けない奴が隊士を名乗るのも迷惑に違いねえ。今更、顔を出せた義理じゃあねえが、どうかこの通りだ」
鷲尾が、氷川から預かった辞表を出す。話を聞いた鷲尾が書かせたものだ。他家に仕官するのかと土方が聞くと、江戸の白鐘一家であるという。
「ほう」
声は平静だが、土方の怒気に鷲尾が慌ててとりなした。
「‥土方さん。辞表は俺が受け取った。気に要らないって言うなら、咎は俺が‥」
「黙れ鷲尾。貴様が入る話じゃねえ」
氷川は顔をあげる。
「俺が決めた事だ。辞める為なら、何でもするぜ」
「どんな覚悟だ?」
鷲尾があっと思った時には、氷川は短刀を抜いていた。気合いを込めて、庖丁正宗を膝に突き立てる。
「ぐっ‥」
「いい覚悟だ。鷲尾、介錯してやれ」
冷たい刃金のような土方の声に、氷川は喘いだ。
「まさか生きて残るつもりで刃を刺した訳じゃねえだろう。氷川に恥をかかせるんじゃねえ」
氷川は生きる気満々で、ヒーリングポーションと止血用の布を準備していた。土方は見抜いている。魔法薬を準備出来る者の自傷行為は虚仮おどしにもならない。医者を連れてきて腹を切るようなもんだ。
「氷川、違約金でも積んだ方がマシだったな」
戻ってきた芹沢は血の匂いを嗅いで笑った。
「幾らなら許して貰えるんで」
「馬鹿、冗談さ。好きな所へ行けばいい。だが新撰組の席は入れたままだぜ」
治療はしたものの、青い顔の氷川は芹沢の裁定に否やは言えなかった。
この顛末を見ていて、狼狽したのは今回の根本の依頼人、ミネアである。
(「‥‥うわぁ、言いだし難い。すっごく言いだし難いよ」)
ミネアは尾張藩にも席がある。若輩ながら飛ぶ鳥落とす尾張武将の一人として活躍したが、とある一件から、今は一線引いた扱いを受けている。一つには、源徳配下の新撰組としての二足の草鞋を疑われていた。
密かに今回を新撰組最後の仕事と期していたが、生憎、斉藤組長の姿もなく(斉藤一が居ても口添えしてくれたかは疑問であるが)、この状況で実は自分も、とは切り出し難い。
「近藤さん、俺は手伝えないが。鷲尾が手足となり働いてくれると思う。あいつは新撰組としてちゃんと考えてる奴だ。‥‥代理取ってやってもいいんじゃねぇですかねぇ」
「その話はもういいって」
肩を落として鷲尾達と他愛無い話に興じる氷川。その背中を見るミネアは、だらだらと冷汗を流した。
「反源徳の旗本みたいな藩だしなぁ、やっぱり腕の一本は取られちゃうかなぁ」
腕を再生するのに幾らかかるだろうと考えながら、ぶつぶつ呟くミネア。
その横を通り、月詠は差し入れた老酒を芹沢の盃に注いだ。
「ところで、河上さんとか岡田さんとか、人斬りの動きとかどうですかね?」
「死んだとは聞かねえが」
戦乱の影響で無頼の輩は増えたが、暗殺者達は姿を消した。彼らは西国の間者で、秀吉が天下を取ったので鳴りを潜めたという説がある。戦だ魔王だと時勢が変わったせいだとも。確かな事は分からない。
「時勢か‥‥あの長州も何故だか大人しいし、俺達は戦や魔物の心配ばかりしてる。おかしな気持ちだが、やらなきゃな」
鷲尾はこっそり近藤と土方に源徳公へ働きかけるよう進言していた。それが正しいか否かはともかく、走り続けねばすまない男だ。すっかり出来上がって、今は氷川と話している。
「鷲尾、伊達は止めとけ。いけすかねぇ‥‥」
「それが政治なんだ」
「俺はそういうのは分からねぇ。だけど、今でも俺は江戸で源徳の手伝いをしてるつもりだぜ」
「本当か」
酔っ払った鷲尾は、氷川を江戸の新撰組だといい、その手を握った。
「江戸は頼んだぞ」
何を言ってやがると思ったが、氷川も人情に強い男で胸が熱い。
「なし崩しで宴会やなぁ」
酒を楽しんでいた司は酒肴を追加するために席を立った。蒲焼きの残りはうざくに。それに鰻の肝焼き、鱧の子の塩辛、ニシンの煮付けに、茄子の味噌焼き、薬味豆腐‥‥人数の割と多すぎたかと思いつつ、司が戻った時には土方を囲んで局中法度を話題にしていた。
「これからは、結束して行かねば新撰組は瓦解するでしょう。その為にも局中法度制定は必要不可欠と思います!」
推進派の筆頭になったのは鷲尾。
局中法度は新撰組の隊規として土方が構想したと言われるが、隊士達の反発にあって現在に至るも実現していない。
「草案も考えています」
一、士道に背く事を禁ず
二、無断で局を脱する事を禁ず
三、勝手に金策する事を禁ず
法度に違反した者は切腹とした。
「ある程度指針となるものを制定するのには賛成ですが‥‥」
難色を示しているのは月詠。法度に背けば切腹は、厳しすぎる。
「届け出れば新撰組を抜けるのは自由か。鷲尾君は私が嫌いらしい」
土方も不満顔だ。
「いや、これは氷川とは関係ありません。去る者は追わず、が武士でしょう」
この難局に、腰の座らぬ者が居るのは無駄だ。むしろ除隊を勧めて、隊の結束を高めるべきと鷲尾は論じた。氷川はさすがにこの議論には加わらず、ミネアは何故か挙動不審である。
「統率は必要やと思うけど、ゆう事しか聞けんのはいざっちゅう時に弱いで。あんまり賛成はできへんなぁ」
司は反対派に回る。粛清の嵐を危惧した。粛清も一つの手段だが、彼の料理とは正反対と言って良い。
「ただ、冒険者隊士の事は考えて貰えると嬉しいわな」
これは月詠も同意見で、融通のきく法度があればと思う。が、良い思案が出ない。今の新撰組は細かい所は組長に任されている。おかげで異動の自由が無いとも司はぼやいた。その後は夜更けまで酒宴になり、明確な決定事項は無かった。冒険者達の発現はどれも己の考えを述べる程度だったから、本当に意見交換の宴会で終わった。
隊の再編に関しては政局を見据えた上で検討すると近藤は言う。