【武田侵攻】小田原城の宴
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■ショートシナリオ
担当:松原祥一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 86 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月09日〜08月16日
リプレイ公開日:2008年09月01日
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●オープニング
現在のジャパンで一番強いのは誰か?
難しい質問である。
強さは考え方一つだし、移ろいやすいものだ。
なので、石高に限ってジャパンの諸侯を比べてみよう。
石高も実際には単純な数値では言いきれないものだが、ここでは表面上の石高を、同じく表面上の勢力図に置いて比較する。
そうした場合、天下第一位は奥州藤原氏である。奥羽を支配し、蝦夷に影響力を持ち、更に伊達政宗が武蔵の過半数と千葉氏の所領を奪った。石高は百万石を越える(ちなみにジャパンの総石高は約六百万石と言われている)。
続く第二位は藤原秀吉。延暦寺の乱にて関白は山城(京都)を押さえ、本領は長崎で肥前筑後筑前の三国。南九州の雄である薩摩島津氏は秀吉傘下、大阪城を中心に摂津和泉河内も秀吉領同然だ。
第三位は尾張平織氏である。所領は尾張美濃近江伊賀。播磨にも大きな影響力を持ち、畿内中部における最大勢力であり、交通の要所を押さえている。延暦寺の乱以降、天台宗と反目状態にあり、都を秀吉に譲っている。
上位三者はいずれも50万石を超え、その勢力は突出している。天下を狙う大大名の代表格だ。
今のところ、安祥神皇を擁した秀吉が天下人だが、その秀吉より平織家の方が畿内の勢力が大きい。天下布武を唱える平織家は質量共に最大級だが、天台宗から魔王扱いされるなど敵も多い。家康を関東から追い払った奥州藤原氏は国力ではジャパン一だが、都から遠すぎる。
彼らを追う天下第四位に、武田氏が入った。
屈強な騎馬軍団で知られた甲斐源氏の名門。小田原藩を降伏させた武田信玄は、甲斐信濃相模の三国を手中にし、所領は三十万石余り。四位と言っても、三位までとは2倍以上の国力差がある。
第五位は、判断が難しいが、ここでは長州毛利氏(五条神皇)を挙げておく。長門周防の二国を有する毛利氏は、反乱を起こした五条の宮と結託して三種の神器を奪い、今は大宰府を中心として豊前豊後にまで勢力を広げている。
第六位は、これも微妙ながら源徳家康だろう。家康はこの数年で著しく勢力を減じた。上州の乱、江戸を奪われ、水戸は荒廃し、千葉が落ち、堅固と言われた箱根が敗れた。それでも家康は三河に健在であり、隣国遠江もほぼ支配下。諸侯への影響力も大きく、八王子の源徳長千代は政宗の目の上の瘤となってきている。
六位までは、後少し天下の争奪戦に届く者達だろう。
七位以降は、単独では天下を論ずるに足りないが、堂々とした大身達である。
七位は越後の上杉氏。沼田城を中心とした上州北部に所領を持つ。藩主謙信は毘沙門天の生まれ変わりと言われる戦上手で、昔は信濃の領有を巡って信玄と戦ったが、今は同盟を結んでいる。
八位は安房上総の里見氏。関東覇者の夢を持つ野心家。敵の多い家康が関東の後詰に入れない現在、親源徳派の拠り所として江戸城奪還を虎視眈々と狙っている。
九位は薩摩の島津氏。南九州の雄で、その影響力は琉球にまで及ぶ。藤豊派だが、平和路線の秀吉に比べて長州への反発から独自路線を取る事も多い。
以上は表面上の石高からの比較である。
間違いもあろうし、それぞれ裏の関係もあるだろう。国力に現れぬ古代からの神魔も居れば、数々の戦を覆してきた超人的な英雄達も在る。
国力がすべてでは無い。
神聖暦一千三年8月。ジャパン小田原。
大久保氏の主城、小田原城に武田軍が入って一ヶ月が経った。
武田の占領政策は順調と言って良い。城を枕に討ち死にも辞さぬ覚悟だった源徳武士は時代に翻弄されて生き恥を晒し、半ば呆然としていて直ぐには反抗する気力もない様子だ。
「お屋形様。無事に小田原をお取りなされたこと、お喜び申し上げます」
重臣の一人が言うのを、信玄は苦い顔で聞いていた。
「いよいよ、三河の源徳家康を攻める時にございますな」
小田原を取り、背後の不安は解消した。八王子や里見の懸念はあるが、それは同盟国である伊達の領分だ。天下第四位の大身として国力で源徳を抜いた今、三河を倒す好機である。
「いや、三河の前に駿河を攻めるべきでござろう」
駿河の北条早雲は関東指折りの風魔忍軍を従え、小田原を唆して上杉と組ませようと画策するなど、謀略の主である。結果的に小田原落城の原因を作った。油断のならない人物だけに、小田原を得た今、真っ先に倒したい相手ではある。何より、駿河を征すれば源徳攻略が容易になる。
「駿河は忍者や冒険者を使うだけの小物、三河は死に損ない。左様な者共よりも、魔王を名乗る平織虎長こそ武田が戦うべき相手と思うが如何でござろう」
武田家は仏法僧との付き合いが深い。延暦寺の慈円に請われて一度、上洛を試みたが平織市に防がれた経緯があり、比叡山を逃れた後、武田を頼った僧侶は多かった。慈円を殺して第六天魔王を自称した虎長を快く思ってはいない。
「ふむ。三河、駿河、尾張か」
伊達新田上杉との同盟は今のところ盤石。となれば敵国、或いは必然的な仮想敵国はその三勢力か。無論、無理に戦う理由は無いが、戦わずに済ませる事も難しい相手だ。小田原の平定を進めながら、準備はしておかねばならない。
「いずれにせよ、関白から和睦の使者が来ております。伊達殿と協議をせねばならず、迂闊には動けませぬな」
関白秀吉は家康と反源徳陣営の和睦を仲介しようと、諸侯に使者を出していた。関東側からみれば、要らぬ横槍という意識が強いが、最高権力者の言葉だけに無碍にも出来ない。
武田は小田原領有に関して、関白から相模守の官位を貰う必要がある。同盟を組む伊達新田上杉の口添えと、天台宗等の後押し、小田原が内乱で崩れて殆ど血を見ずに信玄が混乱を鎮めた事など、状況的には問題無い。今の家康にそれを防ぐ力は無い。
が、関白に嫌われると話は別である。信玄は平織家と仲が良くないだけに、秀吉とも敵対して朝廷との関係が劣悪化する事は避けたい。
カイザード・フォーリア(ea3693)が冒険者ギルドを通じて、武田信玄に意見具申、提案を行いたいと言ってきたのは、ちょうどそんな時だった。
今後を見据えて内政に力を入れるのは信玄も考えていた事であり、秀吉の和平交渉の為に今は軍事行動が取れない。
「カイザードは武田や同盟国以外の者も参加させたいと申しておりますが‥」
「源徳や平織、北条であろうと許すと返答いたせ」
カイザードは密偵や破壊工作、誹謗中傷でなければ他勢力の意見も聞くべきと言ってきた。広く士を招いて意見を聞くのは君主の徳であり、尤もな話だと信玄は許可した。
武田にとって重要な選択である。
誰と組み、誰と和して、誰と戦い、何を目指すか。
誤れば家は滅び、確実な正解は無い。意見を聞くに、ある意味、冒険者ほどの適役は無いかもしれない。
●リプレイ本文
甲斐の国主武田信玄は、名を晴信と言う。
信玄は法名であり、出家大名という訳だ。
仏法を説く者がなお俗世の権力を持ち続け、あまつさえ戦で人命を奪う事は理不尽極まる。が、古来より王権と宗教は密接に結び付いてきたのは事実。
とまれ、大名が出家し、戦場を駆けても異常と思われぬ風土がある。
その信玄が箱根小田原城で宴会を開くと聞いて、デュラン・ハイアット(ea0042)は歩いて江戸を離れた。
「飲み食い出来る上に報酬までもらえるのだ。まぁ、暇潰しには丁度いいだろう」
自分程度の名士になれば、領主に歓待を受けるのは当然だと胸を張る。実際、デュランほどの冒険者はザラには居ない。稀代の風使いで英雄志向の野心家。尊大で不遜、何より冒険が好きで、世界中を回っている。
「高名な貴公が歩き旅とは心苦しいな。私はこのエル・ソルの他にもう一頭用意している。貴公が良ければ、旅の道連れとなりたいが如何かな?」
軍馬に跨るカイザード・フォーリア(ea3693)は街道を行くデュランに声をかけた。
「嬉しい申し出だが、私はこれで旅を楽しんでいるのだよ。不満は無いのだ、先に行ってくれ騎士よ」
デュランも今は騎士位を持つが、馬を楽しいと思えるほど騎乗技術は無い。カイザードは他人に押し付ける男では無かったから、あっさり納得した。
「無粋な真似をしたか。では小田原城で会おう」
先を行くカイザードは馬に山盛りの荷物を積んでいた。武田の幕下に入る男で、小田原の戦では兵站や開城工作で活躍したと聞く。
「ん、匂うな‥‥さては宴の食材まで運んでいるのか。忙しい男だ」
カイザードは数十匹の魚を背負い袋に入れていた。小田原に着いたカイザードは何も言わなかったが、黙って信玄は宴会用に彼の魚を受け取る。魚代という訳では無いが、先の戦功の恩賞として大鎧を一領、与えられる。
真夏であり、彼の体にもかなり匂いが付いた。出迎えの武田武士は魚臭いカイザードに眉を顰める。
「匂いますか?」
「うむ。そのまま御前に出るは非礼であろう」
「故郷の公衆浴場が懐かしい。あ、そう言えばこちらには箱根の湯がありましたな」
デュランが来るにはまだ時間がある筈だ。カイザードは城から箱根の温泉郷まで足を伸ばす事にした。
「異国の参謀殿は働きものじゃな。一刻も同じ所には留まらぬ」
入れ違いで小田原城に到着した天城烈閃(ea0629)はそんな噂を聞いた。後でカイザードが語った所では、
「新領内、とりわけ箱根と城の間は良く見聞しておく必要があったまでのこと」
だそうだ。
小田原攻略戦で轡を並べたイリアス・ラミュウズ(eb4890)は、
「カイザード卿は考えの多い人だからな」
と言った。ちなみに武田の同盟国である伊達家に所属するイリアスは、宴会だというのに龍の兜に愛一文字の武者鎧という軍装で現われて、武田武士を驚かせた。
「常在戦場の心構えでござろう。伊達家中は和平に乗り気でない証拠」
と噂する者も居た。
イリアスは否定も肯定もしない。まるで誤りとも言えなかったが。
祝勝会は盛大な規模で開かれた。
武田軍は小田原藩の完全平定のため、なお主力が小田原城に駐屯中。小田原支配に対する信玄の本気の現れだが、一方で信濃、甲斐の二国の守りが心配されてもいた。その懸念は後日、現実の物となるのだが。
祝勝会の前に、四人の冒険者は信玄と対面した。信玄の配慮である。正式の宴では大大名に自由な意見は切り出し難い。
「武田を囲む情勢は複雑だ。その方らの存念をゆっくりと聞きたい」
「有り難き仕合せにて」
平伏したカイザードの頭には、信玄への献策が溢れるほど存在した。
「まず、内政にて武田が取るべき策は、陸と海の道を拡げる事でありましょう。即ち、陸は馬車の導入とそれに合わせた街道の整備。海は小田原港の拡張と商人誘致、商路確保を目的とした海軍の充実‥‥関白の和平案は渡りに船。軍略は政治の延長であり、今、兵馬を疲弊するは上策では無いと申し上げられましょう」
武田軍には勢いがある。攻勢を進言する者が多いが、カイザードは反対に内政重視を説いた。
「このような好機はまたとありません。官位を条件に秀吉の和睦を受け入れて大阪商人と誼を通じましょう。元より、江戸の商人は同盟国伊達様の支配下。奥州商人も味方ですから、陸路海路を整備すればこの小田原に巨万の富を築けましょう」
カイザードの案では、尾張平織家との仲も修復する。それにより駿河商人、三河商人を圧迫し、経済封鎖で源徳、北条を日干しにする。
「大阪江戸の廻船問屋には三河・駿河よりも小田原に寄って貰い、両国の通商を絶ちましょう」
「それほどの航海術があるか」
「水軍の設立が急務です」
この時代は世界規模の大貿易が成立していたが、月道貿易に因る所が大きく、海洋貿易は未発達だ。大抵の船は陸を見ながら沿岸を進むので、三河遠江駿河を飛び越えさせるのは簡単ではない。当然、妨害もあるだろう。江戸や尾張には源徳や平織が育てた水軍衆や海運のプロが居るが、武田にはそれが無い。
何事も一足飛びにはいかない。馬車にしても、ジャパンの身分制度や街道の問題などがある。カイザードは、馬車は武田家が製造所有し、免許制で商人達に貸し出す事とし、商人からの運上金で街道や馬車の維持、管理を行う仕組みを考えた。
「戦をしている暇は無い忙しさよな」
「その通りです」
カイザードの案は、経済戦争で三河・駿河を叩く事を当面の目的とし、表面上は全勢力と事を構えず、特に通商上重要な平織家の懐柔策を不可欠とする。
「最終的に虎長公を目標とするにしても、源徳・平織両方を同時にやるのは避けたく」
「私も尾張平織家とは同盟を結ぶべきと思う」
天城烈閃の案はカイザードに近い。
「多方面に敵を抱えたまま行動するのは、得策では無いからな。三河の地を平織氏に譲る条件で手を結んでも、こちらは後顧の憂いを減らした上で駿河を叩き、その上で遠江まで取りに動ける。しかし今は、やはり自分から急いで動かぬ方が良いだろう。カイザードの言うように準備を怠らず、機会を待つのが良いと思う」
武田が平織と手を組めば、駿河・三河相手には無敵だ。多少の我慢をしても、今の武田には最善の選択と信じた。
「機会は来ぬかもしれぬぞ」
「残念なことに人って生き物は、万人が万人とは分かり合えないように出来ている。一時的に目に見える草だけが刈られたところで、根を残したままの和平など、すぐに崩壊する。その時に素早く動けるようにしておくのが、今の武田に必要なことだと思う」
天城は実のところ、今回の秀吉の和平運動を疑っていた。
(「あの男が、これで人間同士の戦が終わると考えている訳が無い」)
天城は未来を、秀吉の考えを読み切ってはいなかったが、和平が崩れる事を想定して力を蓄えておくべきだと判断した。その点で、彼はカイザードの内政重視案を支持した。
「それでは、あまりにつまらん」
大真面目で不真面目な反論を口にしたのはデュラン・ハイアット。
「内政に力を入れるだと。その間に今でも武田より大きい伊達や平織が、手がつけられないほど大きくなったら一体どうするのだ? いっそ貿易商人にでもなって、大勢力の間で金の城を築くかね? 上がり調子の時に戦わないで何時戦うのだ。小が大を食う機会は、時勢を味方につけねばやって来ない。保身に長けた小利口な政治など、犬に食わせてしまえ」
物凄い暴言を吐いた。
元より、どこに所属もしていない一冒険者。小田原にも、タダ飯タダ酒を食らい、忌憚の無い個人的な意見を述べに来たのだった。
「貴公は立場が違う故‥」
「確かにそうだカイザード。貴様は武田の配下、利口な策を出すのが仕事だろう。否定はしないとも」
ニヤリと笑う。
如何に信玄自身が望んで招いたとは言え、手ごめにされても文句は言えない。本人はそれを知って楽しんでいる、まさに生粋の冒険野郎である。
「まず、戦うならば平織がよかろう。幸い、向こうから魔王だと名乗ってくれたのだ。仏敵討つべしと立ち上がれば、大義名分としては十分」
笑顔で進言する。
「‥‥その方が面白いからか?」
「愚問だな」
武田と平織が戦えば大きな戦争になる。そうなればギルドにも大きな仕事が舞い込んでくると言うもの。三人には、デュランの考えが手に取るように分かった。
「延暦寺戦でのダメージが残る今が好機なのだ。まごまごしていれば源徳と同盟を締結して、手に負えない相手になってしまうぞ」
デュランは派手なマントを翻し、大仰に発言を続けた。
「ついでに源徳とも和睦してしまえ。少なくとも平織側に付かれるよりはマシだ。関白からの話ともなれば、新田や上杉にも顔は立つ」
滅茶苦茶な話しっぷりだが、デュランは彼なりに大真面目だ。信玄は冒険者の意見が聞きたいと言ったのだから、武田の吏僚と同じ意見を出す事もない。
「デュラン殿の意見にも一理あると思う」
と言ったのはイリアス。伊達家臣の彼はそれまで発言を遠慮していた。内政や、平織との関係修復に関してはカイザードに賛成でもある。だが、非戦論が大勢を占めたのは内心困っていた。
「我が伊達も関白様の一件は無視できず、今すぐ三河を攻める事は勧められませぬ。かと申して、武田が平織を攻めれば、喜ぶのは源徳ばかり」
武田が平織とやり合うなら、同盟する伊達、上杉、新田も必然的に平織と事を構える話になる。或いは四国同盟自体が消滅するか。
上杉謙信は仏敵虎長を討つ事を喜ぶかもしれないが、伊達にとっては秀吉の和平を蹴り、虎長とも戦うとなれば江戸を保つ事が難しい。
「では貴公も我らと同心ではありませんか」
「いや、異なります」
敵は駿河と八王子、特に八王子は直ぐにも始末すべき相手だとイリアスは言った。カイザードは失笑を浮かべる。
「八王子など、たちの悪い山賊に過ぎぬでありましょう。兵糧攻めにすれば、敵にもならないと思いますが」
「確かに、八王子は武田殿が小田原をとられた事で四方を敵に囲まれ、今は物資調達にも事欠くと聞く。だからこそ危険だと俺は思う。俺は、八王子はこの小田原を狙ってくるとみている」
「馬鹿な」
今や三国を有する大武田に対し、八王子軍は一、二郡の小名に過ぎない。戦力差は圧倒的である。正面から攻勢を仕掛けてくる筈が無い。と思う反面、神がかりの源徳長千代と、志に殉死する気満々な八王子同心なら有りそうな話だった。
「しかし、八王子は源徳の家臣。家康と和睦の話を進めれば、自然と根が枯れていくのではないかな?」
覚悟を決めた死兵と戦うのは気が重い。損害が甚大だからだ。天城は、正面から戦うより本丸である源徳家康を籠絡した方が良いと言った。家康が和睦に応じれば、八王子は孤立し大義を失う。
「それが良いでしょう」
頷くカイザード。簡単とは思っていない。が、神々が出てくる話でもあり、積極的に関わりたくない。この男は信玄に虎長を打倒させるまでの道筋を思い、寄り道で兵を損なうのを嫌った。
「武田は平織と戦って勝てるのかね?」
デュランが単刀直入に聞いた。この男は、小さな戦にあまり興味が無い。
武田と平織の国力は二倍以上違う。武田の兵は精強だが、平織はジャパンでも飛び抜けた先進国だ。神皇家に許されて精霊魔法技術を持ち、延暦寺の乱では既にレミエラも導入していた。
「勝てぬ戦はせぬものだ」
信玄は多くを語らなかったが、祝勝会で家臣達の話を聞くと、寺社勢力が武田に味方する雰囲気らしい。虎長打倒は慈円が上洛を頼んだ武田家に、という声は強い。もし武田が全国の天台宗や他の仏教徒をまとめられるなら、平織に対抗するにも十分だ。延暦寺を甲斐に移してはどうかという話もあるらしい。
「ふうむ。京都に地盤を作るため、新撰組を抱きこんだらどうかと言ってみたが、色々と考えているものだな」
信玄は冒険者達の意見に良く耳を傾けていた。デュランは不満だったが、戦よりも暫く内政に力を入れそうな雰囲気だ。
この約一週間後、甲斐の黒川金山が八王子衆の襲撃を受けた。