テロリストの黒き旗〜動乱編6

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:14人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月20日〜12月25日

リプレイ公開日:2007年12月29日

●オープニング

●ルーケイの平定成る
 精霊暦1040年11月。広大なるルーケイの地はついに、冒険者出身の新ルーケイ伯によって平定された。遺臣軍を相手どっての最後の平定戦は、新ルーケイ伯軍の圧倒的勝利に終わった。
 戦死者は敵味方合わせて僅か3名。この3名は遺臣軍の重鎮達で、自らの意思で戦いによる死を選んだのである。
 負傷した者は大勢いたが、新ルーケイ伯軍が万全の救護体制を敷いていたお陰で、彼らは全員が一命を取り留めた。もっとも冒険者が持ち込んだ貴重な回復アイテムも、かなりの数を消費することになったが。生き残った敵兵は戦争捕虜として武装解除され、今は新ルーケイ伯の保護下にある。
 ともあれ新ルーケイ伯軍の勝利に、フオロ分国王エーロンは大いに満足した。フオロ分国にとって大きな重荷となっていた難治の地が、ようやく平和な地に生まれ変わったのだ。この勝利により新ルーケイ伯は王領代官というこれまでの立場に代わって、正統なるルーケイ伯爵の立場を獲得。新ルーケイ伯と共に戦った旧ルーケイ伯の遺児マーレン・ルーケイも、フオロ王家直属の騎士という立場を得た。
 マーレンの騎士叙任に際し、エーロン王はマーレンに問うた。
「汝は我に心からの忠誠を誓うか?」
「はい。竜と精霊の名にかけて」
「では、我は汝に特権を授ける。我が足に口づけする特権だ」
 王の足に口づけする特権──そもそもはさる地球人の冒険者が、エーロン王の耳に入れた言葉だとか。
 その言葉を受け、マーレンは王の前にひれ伏す。そして王のブーツの甲に口づけした。
 その光景は長らく戦争状態にあったフオロ王家と旧ルーケイ家の間に、最終的な和解が成ったことを象徴するものでもあった。
「忠誠の証立て、しかと見届けた」
 と、王はマーレンに言葉をかける。
「今後は俺がこの足を使って歩む道を、おまえも自分の足を使って共に歩め。遅れを取るなよ」

●ワンド子爵の懸念
 ルーケイの西に領地を持つリボレー・ワンド子爵にとっても、ルーケイの平定が成ったことは喜ばしいことではある。基本的にはそうなのだが、ルーケイの平定が成ったことで、ワンド子爵は少なからぬ頭痛と胃痛の種を抱えることになった。
「毒蛇団の脅威からようやく解放されたと思えば、今度は西ルーケイにシャミラの一派が居座ることになるとは‥‥」
 シャミラは地球のテロリスト。転移して来たアトランティスでは悪逆非道なる盗賊団『毒蛇団』と結託し、暴政を振るう先王エーガンや悪代官にゲリラ戦を挑んできた。だが、それも現ウィル国王ジーザム・トルクが即位するまでの話。聡明にして人徳あるジーザム王の即位により、情勢の変化を敏感に感じ取ったシャミラは、毒蛇団を裏切って国王の側についた。先の毒蛇団討伐戦においては、シャミラは毒蛇団の重要情報を伝えるなどして、討伐軍の勝利に大きく貢献。その功績によりシャミラ率いる地球人魔法部隊は、ワンド子爵領に隣接する西ルーケイに自らの自治領を持つことを許された。これは新ルーケイ伯の処断であり、ジーザム王とエーロン王もこれにお墨付きを与えている。
 とはいえシャミラ一味は毒蛇団と並び、ワンド子爵領を脅かし続けてきた存在でもある。それが今後も西ルーケイに居座るというのだから、隣領の領主としては心穏やかではいられない。
 他にもワンド子爵には懸念すべき事柄があった。ワンド子爵領の北に位置するロメル子爵領のことだ。
 ロメル子爵領は毒蛇団に食い荒らされ、ロメル家当主と息子夫妻は麻薬の罠にはめられた。結果、当主と息子夫妻は麻薬中毒となり、領地の統治能力を失った。そのロメル子爵領も毒蛇団討伐戦において解放され、ロメル一族はエーロン治療院で療養中だ。息子夫妻の子ども達は麻薬に毒されはしなかったものの、統治者たるに十分な教育を受けていない。
「‥‥となれば、ゆくゆくはロメル子爵家はお取り潰しの憂き目を見るか」
 統治者たる者が欠けているのだから、その可能性は高い。これまでにも先王エーガンの不興を買い、領地の北半分を王領アーメルに持っていかれたロメル子爵領だが、今度はルーケイとワンドでロメル子爵領を分割することになるかもしれない。ロメル家に代わる新たな領主を据えるという手もあるが、果たしてガタガタになったロメル子爵領の領主に好んでなりたがる物好きがいるだろうか?
「やはり分割か、あるいはルーケイとワンドのどちらかで丸抱えの併合ということになるか」
 領地は大きくなるにせよ、それに伴う出費がかさめば領地経営の全体を圧迫する。まして問題山積みのロメル子爵領とあっては。
 しかし悩んでばかりいても仕方ない。ワンド子爵は新ルーケイ伯の戦勝祝いとして祝賀会を開き、新ルーケイ伯に縁のある冒険者を招待することにした。シャミラ一味とロメル子爵家の今後について、冒険者の智恵を借りるためである。
 ところがその話を冒険者ギルドに持ち寄ってからしばらくすると、エーロン王が手紙を寄越してきた。西ルーケイとロメル子爵領の視察ついでに、戦勝祝いの祝賀会にも顔を出すというのである。突然の話にワンド子爵は驚いたが、
「これは西ルーケイとロメル子爵領の明日を定めるよい機会かもしれぬ」
 そう考え、エーロン王と冒険者を迎えるためのお膳立てに取りかかった。

●シャミラの村
 シャミラ達は西ルーケイの大河近くに位置する村、かつての毒蛇団の砦を住処として与えられていた。勿論、厳重な監視つきで。今はウィルの国に恭順したとはいえ、シャミラが育てた地球人魔法部隊は強力な魔法を操る危険な連中だ。だから、遮蔽物のない平原のただ中にあるこの村に隔離されている。かつての死刑囚強奪事件で捕らえられたシャミラの部下や、毒蛇団の協力者となった地球人・佐熊達朗も、同じくこの村に収容されている。
 村から遠く離れることは出来ないが、村での行動は基本的に自由だ。かつてのテロリスト達も今では家畜を飼ったり花を育てたりと、傍目にはのんびりした暮らしをしている。

●ケシ畑
 ここはロメル子爵領。統治能力を失ったロメル子爵家に代わり、土地の警備はワンド子爵の警備兵が代行している。
「それにしても、見事なケシ畑だよな」
 と、村の回りに広がるケシ畑を見ながら、警備兵の1人が呟いた。ここは毒蛇団が麻薬の製造に利用していた土地でもある。
「こんな畑、さっさと焼き払っちまえばいいものを」
「だがな、生憎とエーロン陛下から差し止められているからな」
 と、同僚の警備兵が言う。とある冒険者の進言により、エーロン王は麻薬を医療に利用することを考えているのだとか。
「もっともケシの葉っぱから麻薬は取れねぇ。ケシが実を結ぶまで、どっかのバカが麻薬を悪用する心配は無いわけだ。俺達も警備が楽でいい」

●エーロン王の同行者
 ここは王都にあるエーロン王の館。王の前には2人の地球人が招かれていた。テロリストのシャミラを追い続けて来た地球人、ゲリー・ブラウンとエブリー・クラストである。西ルーケイとロメル子爵領の視察に備えて、エーロン王は2人の意見を求めたのだ。
 これに対しゲリーは元テロリストへの警戒を決して緩めぬよう、エブリーは麻薬を慎重に扱うよう王に願った。
 エーロン王はこれらの意見に価値を認め、フオロの騎士となったマーレンと共に、2人を視察と祝賀会に同行させることにした。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ヴェガ・キュアノス(ea7463

●リプレイ本文

●根回し
 ロメル子爵家の者達の身柄は現在、エーロン分国王預かりとなっている。貴族街にあった空屋敷が彼らの住処としてあてがわれたが、時雨蒼威(eb4097)は彼らの住処を訪ねてみることにした。
 玄関の扉の前で来訪を告げると、2人の侍女が対応に出た。年若い侍女に中年の侍女、蒼威がロメル子爵一家の救出に力を尽くした冒険者の一人であることを知ると、2人は篤く礼を述べたが、蒼威も2人の侍女を始めとする使用人達の働きを褒め称えた。
「貴方達の忠義により、ロメル領と幼き子達の未来を繋ぐ事ができました。その働きに敬意と感謝を」
 しかし侍女達は顔を曇らせて言う。
「勿体なきお言葉です。ですが、私どもにもっと力があったなら、お館様も若様も奥方様も、麻薬の虜にならずに済みましたものを‥‥」
 子爵の孫達に会いたいと蒼威が願うと、侍女達は2人の孫に蒼威を引き合わせた。8歳の少年と7歳の少女、2人は礼儀正しく蒼威に挨拶したが、表情がひどく沈んで見えるのは苛酷な過去の出来事が陰を落としているのだろう。
「予定されているエーロン陛下のロメル領ご視察においては、フオロに疑念を持っている領民のわだかまりを解くために、領民の代表者とロメル子爵家の方々を引き合わせたいのです。侍女のあなた方も、逆賊達が領主一族に対して行った非道の証人として、是非ともご同行下さい」
 と、蒼威は求めたが、侍女達は悲しげに首を振る。聞けばロメル子爵もその息子夫妻も、今だに麻薬の誘惑を断ち切れず、領主一族の責任を果たすのが困難だという。それでも侍女と孫達は、エーロン王の視察に同行することを了承した。
 蒼威は館を辞すと、フオロ分国王エーロン王の館に向かう。王と対面した蒼威は、ロメル領解放に参加したセレとイムンの両分国に対し、ロメルの今後の仕置きに対して協力を求める書状を送って欲しいと願う。しかし、今はまだ早いと王は言う。ロメル領の今後について、見通しが十分に立っていないからだ。
 続いて蒼威は、同じことをウィル国王ジーザムの側近であるロッド・グロウリング伯にも求めた。ロッドの答もエーロン王と同様だったが、最後にこう言った。
「但し、今回のエーロン陛下のご視察については俺も注目している。セレとイムンについては、ご視察の結果を見てから考えよう」

●麻薬から麻酔薬へ
 エーロン分国王に対し、医療に麻酔を取り入れる奏上を為したのは、地球人の女医ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)である。彼女はエーロン王に拝謁する機会を得て、奏上を王が取り入れてくれたことへの感謝を述べた。
「他分国王陛下、並びにジーザム陛下へも私の奏上が伝えられ認可されたのですか?」
 肝心な部分を確認するため尋ねると、それはまだだとエーロン王は答える。ジーザム王や他の分国王が認めるのは、フオロ分国において十分な実績が上がってからになるだろう。
 その後、ゾーラクはエーロン王と共に、エーロン王が院長を務める治療院を訪れた。ここで治療を受けているロメル子爵とその息子夫妻を診察するためだ。
 ゾーラクが驚いたことに、息子夫妻は治療院でせっせと働いていた。
「大丈夫なのですか?」
 と、副院長のランゲルハンセル・シミター医師に問うと、こんな言葉が返って来た。
「体はすっかり癒えたが心の病はまだ癒えておらん。だからこうして心の病を治療しているのだ」
「心の病?」
「明け透けに言うなら『麻薬に逃げたい』病だ。放っておけば麻薬を求めて、危ない場所にも平気で入り浸る。だからせっせと働かせているのだ。治療院で働いているうちは、再び麻薬に手を出すことはないからな」
 そして副院長は王とゾーラクをとある病室へと案内する。そこにはロメル子爵が寝かされ、苦しみに呻いていた。
「苦しい‥‥麻薬を‥‥麻薬をくれぇ‥‥」
「これは‥‥禁断症状ですか?」
 ゾーラクが尋ねると、副院長は首を振る。
「いいや、子爵を苦しめているのは別の病だ。年老いた体の中で、年老いた腎臓が悲鳴を上げているのだ」
 ゾーラクが子爵を診察し、これは腎結石の発作だと判断した。激しい痛みは腎臓で生じた結石によるものだ。これまでは麻薬で痛みを抑えていたのだが、麻薬が体内から取り除かれた今では激しい痛みに耐え続けるしかない。
 麻薬を医療に導入できれば、子爵の苦しみを取り除く手段にもなろう。ゾーラクはそう思いながら病室から退き、エーロン王と副院長を前にして医療における麻薬利用について説明を行った。
「麻薬を麻酔に使用する方法については、専門用語混じりで恐縮ですが、大麻を油やアルコールに溶かし‥‥」
「大麻ではなく、ケシだろう?」
 と、その方面に詳しいエーロン王が突っ込む。
「‥‥失礼しました」
 ちなみに麻薬の原料となるのは、未熟なケシの実から採取される乳液である。大麻は別種の麻薬の原料植物とされるが、こちらは麻酔薬としては用いられない。
 医療の専門家である自分がなぜこんな勘違いをしたのか分からないが、ゾーラクは説明をやり直した。
「ケシの実から採れる『あへん』の純度を高め、モルヒネとして使用するのが現在最も適した麻酔法と愚考致します」
 これまで貯えてきた医学の知識を元に説明内容を変更。ここは注射器も注射針も存在しない世界だから、麻酔の使用は錠剤を飲み下したり、蒸気を吸飲する形になるだろう。

●再会
 グラン・バク(ea5229)がメイの国から帰って来た。ウィルの冒険者仲間と会うのは久々だ。グランも仲間達を再会を大いに喜び合った。
「イロイロあったが和平団の一員としての役目は大まかこなせてきたかと思う。竜と会ったり竜になったり、竜と戦ったりしてきた」
 と、メイでこなして来た依頼の数々を、グランは仲間達に話して聞かせる。メイの国にあるもう一つのシーハリオンを訪ね、虹竜と言葉を交わしたこともあった。普通では考えられないような冒険をして来たわけだが、それら全てをイロイロの一言で済ますあたりはグランの性格ゆえ。
 そしてグランはエーロン王の館を訪ね、今はフオロ分国の王となったエーロンに挨拶。遅まきながら、分国王就任の祝言を贈った。
「過去には色々あったが‥‥」
 と、エーロン王。先王エーガンが伝染病への感染を理由に退位させられた時には、独断で王の隔離された離宮に乗り込もうとしてエーロンの不興を買ったグランである。だが、エーロン王はこう言葉を続けた。
「今後もフオロ王家に忠誠を誓うつもりなら、我が父上たる先王陛下に対して為したのと同様、この俺にも忠誠を尽くせ」
 退位させられた先王エーガンは今もシム海の離宮に隔離され、外部の者が接触するのは極めて困難である。ロッド・グロウリング伯などウィルの重要人物に特別な機会を与えられない限り、かつて先王と親しかった冒険者も面会することは許されない。唯一、冒険者酒場の名物教官ジェームズ・ウォルフだけは先王への接触を認められていたようだが、そのジェームズもゴーレム工房に関わるスパイの罪で逮捕され、今は囚人として牢獄暮らしだ。

●船上にて
 早朝。エーロン王とその随行者達を乗せたフロートシップが王都を発つ。
「本当に久しぶりじゃぁ〜」
 と、ヘクトル・フィルス(eb2259)はゲリーとエブリーの顔を見ながら口にする。こうして依頼を共にするのは久方ぶりだ。
「ここまで来るのにこうも長くかかったが、間が空きすぎていろんなことを忘れている気がするんじゃな」
「そりゃそうだ。いつの間にこんな事になってしまったんだろうな?」
 と、仏頂面でゲリーが言う。それを聞いて加藤瑠璃(eb4288)も。
「テロリストを追跡してたのが、いつの間にか和解してるみたいだし。世の中って諸行無常よね。悔しいというより、虚しい感じね」
 しばらく気まずい沈黙がその場を支配したが、それを打ち消すように信者福袋(eb4064)が言った。
「ですが、今後のテロ対策にはやはりプロが必要です。ええ、一つの戦いが終わったからといって、テロはいつ何時仕掛けてくるかわからないものですよね?」
 気を取り直したように、ゲリーはにやりと笑って言葉を返す。
「そうとも。吟遊詩人クレアの一味とか、悪党ヴァイプスの一味とか、戦うに手段を選ばず平気でテロをやりかねない敵対勢力はまだまだ残っている。いやそれだけでなく、最近世を騒がせているカオスの魔物とやらも、恐怖を武器にして卑劣な攻撃を仕掛けてくる点ではテロリストと何ら変わりない。テロとの戦いはむしろこれからさ」
「そう言われてみると、それもそうね」
 と、瑠璃も同意。ゲリーの愚痴でも聞いてやろうかと思っていたけれど、この様子ならその必要はなさそうだ。
 ふと、瑠璃は以前にエブリーが保護していた子どもの事を思い出し、エブリーに尋ねてみた。
「そういえば、あの子供はまだワンド子爵に預けてるの? 祝賀会で会えるのかしら?」
「ええ、今もワンド領で暮らしているわ。祝賀会で会えるといいけど‥‥」
 ルートとしては遠回りになるが、船は西ルーケイより先にワンド子爵領に立ち寄る。ワンド子爵をエーロン王の西ルーケイ視察に招待するためである。これは新ルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)が望んだことで、シャミラ達がもはや脅威たりえないことを子爵のその目で確かめてもらう意図があった。
 船がワンド子爵領に着くや、領主館に新ルーケイ伯の使者として出向いたのは陸奥勇人(ea3329)である。
「初めまして、子爵。ルーケイ伯与力、陸奥勇人と申します。以後、お見知りおきを」
 と、挨拶して勇人は要件を伝えた。
「ウィルに恭順の意を示した以上、シャミラたちも以前と同じ振る舞いが己が首を絞める事は自覚しています。とは言え、西ルーケイの件を子爵が懸念されるのも無理はない。ここは1つ、西ルーケイの現在をご自分の目で確認されてみては如何か?」
「それは有難い」
 ワンド子爵は新ルーケイ伯の配慮に感謝を述べ、船上の人となった。

●シャミラの村
 フロートシップはシャミラの住む村の近くに着陸。シャミラとその配下の者達はきっちりと整列し、降り立ったエーロン王と随行者達を出迎えた。
 シャミラは相変わらずの覆面姿で、エーロンの前に進み出るときびきびした動作で立て膝ついて頭を垂れる。アトランティスの流儀に適った騎士の礼だ。
「礼の作法は見事なものだ。だが、その覆面はいただけんな」
「お言葉とあらば」
 エーロン王の言葉を受け、シャミラは覆面を取り去った。現れた素顔は浅黒い女の顔。
「アラブ人には見えないわね」
 と、瑠璃が呟く。シャミラの顔はアラブ系というよりもヒスパニック系。スペイン辺りの血が混じっていそうだ。それなりに美しい顔だが、目つきの鋭さだけは相変わらず。
「では陛下、我らが村へ案内しましょう」
 と、シャミラは一行を村へ案内する。村には旗ざおが立てられ、空に翻るのはあの黒い旗。大地に目を転ずれば、耕された畑に小麦が育っている。
 死と破壊と再生、それを象徴するような光景だ。──そんなことを思いながら、シャルロット・プラン(eb4219)は村の畑を丹念に調べてみた。畑の土を手に取ってみれば、よく耕されている。小麦の育ち方も順調だ。毒蛇団の討伐戦では激戦場と化した村だが、建物の補修はきちんとなされている。シャミラ達はこの村にきちんと根付く意志ありと見えた。
「この村の天界人の比率はどの程度で?」
 尋ねると、シャミラは淀みなく答える。
「この村に暮らすのは私も含めて25人。うち地球出身の者は14名、残りは自らの意思で我等の仲間となった地元民です」
「農作業や家屋の補修など、皆で公平に作業を分担しているのですか?」
「それぞれがその能力に応じて役割の分担を。基本的にこの村では誰もが平等であり、等しい発言権を与えられています。もしもこの村に長期滞在なされて、人々の働く様をその目で見ることが出来れば、この村の有り様が分かるでしょう」
 シャミラはそう言うが、配下の者達の顔はどれも張りつめている。シャミラの強い統率下にあるのが見てとれるが、冒険者にとっては敵兵のただ中にいるようで居心地が悪い。
「貴方が、傘下の者の為に『闘争』という手段をもしも放棄できるというなら、よき友人になれると思います」
 シャルロットのその言葉に、シャミラは次の言葉で応じた。
「未来において双方の歩み寄りが十分に為されれば、それも可能でしょう。空戦騎士団長殿」
 シャルロットは微笑みを浮かべ、さらに一言。
「願わくば死活の場で見(まみ)えることなきことを」
 そしてシャミラも。
「私もそれを願います」
 ヘクトル・フィルス(eb2259)は見知った顔がいるのに気づいた。以前に出合ったリューという名の少年が、村で暮らす者達の中にいる。かつて教わった秘密のサインを送ると、向こうもサインを返し、屈託のない表情でヘクトルに駆け寄った。
「元気にしてたか?」
「うん。これからは仲間だね」
「カーラちゃんはどうした?」
「カーラは‥‥ここにはいない」
 シャミラの配下の1人であるカーラという少女は、過去にはシャミラに共鳴して仲間になったナーガ娘と行動を共にしていた。瑠璃はシャミラは尋ねてみる。
「カーラとナーガ達は今、どうしているの?」
「我々とは行動を分かち、今は別の道を歩んでいる。ナーガにはナーガの正義があるのだ」
 この件については、後でナーガの特使達に報告しようと瑠璃は決めた。
 頃合いを見て、トレードマークの鉄仮面を被ったベアルファレス・ジスハート(eb4242)がシャミラに歩み寄る。
「毒蛇団討伐戦での協力には、改めて感謝する」
 と、最初に彼は感謝の言葉を述べ、次いでシャミラ達を卓越した行動力ある戦闘集団だと褒め称えた。話術を駆使したその意図は、シャミラの本音を探ることにある。
「味方にすれば頼もしく敵に回せば恐ろしいとは、正しく貴殿らのことだ。その実力が認められた以上、そろそろ率直に話してくれても良いのではないかな? 貴殿らがウィルに求めるもの、そして貴殿らの最終的な目標をだ」
「我等がウィルに求めるものは、その持てる強大な力に奢ることなく、むしろその力をこの世界の為に役立てること。そして我等の最終的な目的は、この世界にとっての真の敵であるカオス勢力を根絶すること」
 それがシャミラの答。とってつけたような答だとベアルファレスは感じた。それが建前だとしても、隠された本音は今後のシャミラの行動から注意深く見極めねばなるまい。
「貴殿に会わせたい者達がいる。長らく貴殿を追い続けていた者達だ」
 と、ベアルファレスはゲリーとエブリーをシャミラに引き合わせる。
「俺はゲリー・ブラウン、この世界に飛ばされて来た時にはアメリカ合衆国軍だったが、まだ除隊手続きはしていない」
 そう自己紹介したゲリーの表情は硬い。
「君はどこの国の人間だ?」
「生まれはアメリカ合衆国だ。その国籍をまだ捨ててはいない」
 シャミラは答え、右手を差し出す。
「ここで地球の戦争の続きをやるつもりはない。今は和解の握手を」
 不承不承ながらも、ゲリーはシャミラと握手を交わす。
 続いてエブリー。以前はアジア各地で救援活動に携わっていたと自己紹介する彼女に、シャミラは微笑みを向けた。
「貴女のことは既に知っている。人権活動で有名だったからな」
「それは光栄ね」
 そして2人は握手を交わした。

●シャミラ達の今後
 その日の夜。フロートシップ内でシャミラ達の今後の扱いについての協議が為される。
「まったく‥‥シュールな展開になったものだ」
 ベアルファレスから視察の感想を求められたゲリーがそんな言葉を口にすると、書記を勤めるリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が言葉の意味の確認を求めた。
「シュールとは、『現実感が消え失せるほどにぶっとんだ』といった意味になりますか?」
「まあ、そんなところだ」
 頷くゲリー。ここアトランティスの世界では精霊力による自動翻訳作用のお陰で、人々が互いに話す言葉が違っても、言葉を聞けば自然と意味が理解できる。だが、文書として記録に残された言葉ではそうもいかず、文字で『シュール』と書いてあっても何が何だか分からなくなる。
「そこは『想定を遙かに超えた』とするのが宜しいのでは?」
「ああ、そうしてくれ」
 リュドミラは記録文書に次のように記す。
『ゲリーにとっては想定を遙かに超えた事態となった』
 この細やかな気遣いのお陰で、要領を得ない意味不明な記録文書が残る心配はない。さて、肝心の記録すべき内容だが──。
「で、停戦監視の手段はどうしたらいいのかしら?」
 瑠璃の質問にゲリーは答え、
「今回の視察だけで全ては分からない。今後もシャミラの村に対する定期的な査察が必要だ。村に出入りする人間についても入念なチェックを」
「あと‥‥問題の解決にはアーメルのギーズ代官と話を付けることが不可欠だと思うんだけど、祝賀会には来ているのかしら?」
 瑠璃に尋ねられたワンド子爵は、否と答える。すると福袋が言った。
「王領バクルの代官があんな目に遭いましたし。今後、生き残りをかけて彼らも動いてくるのでは?」
「それは十分に考えられる。王領アーメルへの働きかけは確かに必要だが、代官ギーズは結構な難物でな。まずは我等で話をまとめてからだ」
 と、ワンド子爵。
 続いてベアルファレスが、油断ならぬシャミラ達を身動きしづらくする方策をエーロン王に提案した。
 1つ目は、ある程度重要な地位につけ、国という組織体に取り込んでしまうこと。組織の一部となればシャミラも早々、勝手な行動には出られない。
 2つ目は、何かしらの理由をつけてシャミラとその配下達の一部を王都近くに配属させ、その勢力を分断しかつ人質とすることである。
 この案にはゲリーも賛意を示した。
「見たところ元テロリストはシャミラ一人。その影響力をさえ排除すれば、残りの地球人達を良き方向に導くことが出来るはずだ」
 同様のことはグランも考え、こう意見した。
「シャミラは別格としても、元々は流浪の天界人を取りまとめ膨れ上がった集団だからな。今後の試金石とすべきは、真っ当かつ地道な稼ぎで領地を盛り立てれるかどうかだろう。裏社会や不正を通じ資金を調達するようなら厳しい処置を取るべきだが。逆に地に足の着いた生活を営むなら、これを支援すべきではと考えるのだ」
 協議の結果、シャミラ達への対処において次の3本柱が定められた。

 1.監視体制の強化
 2.組織の分断
 3.シャミラ以外の者達の非武装化と生計の確保

 監視体制の強化にはシャミラの封じ込めのみならず、悪意ある外部の者がシャミラに接触するのを防ぐ意味もある。
 翌朝、新ルーケイ伯アレクシアスはシャミラと対面。昨夜の会議のことは胸に納め、シャミラには自身の懸念を伝える。
「たとえ本人が望まずとも、その存在が悪意ある者に利用される危険は常に存在する。俺は領内での自治を約束した。だからこそ、共に守りたい。お前達の理想郷を」
 そう言明した上で、クレアやヴァイプスの一味に対する対抗策について、シャミラの意見を求めた。
「攻撃は最大の防御なり。これが私の信条だ」
 そう前置きし、シャミラは対抗策を述べる。
「クレアの背後にはウィルの攪乱を目論むエの国がある。ならば我々もエの国に対し、クレアと同様の戦いを仕掛ければいい。騎士道にそぐわぬかも知れぬが、時にはそれも必要だ。ヴァイプスは犯罪者の巣くう裏世界に生きる男だから、こちらも裏世界に潜り込む。その先は自然と、汚い手を使っての暗闘となるが」
 かつてのヴァイプスの悪行についても、アレクシアスは仲間から聞かされていた。今もあの男はこの世界で、様々な悪行に手を染めているはずだ。
 そしてシャミラは食い入るようにアレクシアスの目を見つめ、こう言った。
「貴殿の目は理想を信じ理想に生きる者の目のようだ。私の故郷の世界では、久しく目にしたことがなかったが‥‥願わくば伯の歩む道が、我が歩む道と共にあらんことを」

●ロメル領視察
 続いてフロートシップはロメル子爵領に向かう。七刻双武(ea3866)の勧めもあってシャミラも同行。
 福袋も今後のロメル領復興を見据え、佐熊達郎を連れて来た。
「元ゼネコンなら産業についての勘がいいかも。横領代官対策にも、ね。働きマンスイッチを入れて欲しいものです」
 ロメル子爵領に着くと、先行して情報収集に当たっていたアシュレー・ウォルサム(ea0244)が合流。
「いやもう、領民の間には鬱屈したムードが漂ってるね。義賊と信じていた盗賊の頭が実はカオスの魔物で、討伐戦では空から降って来たゴーレムに家を潰されるし、今じゃ領主一家も不在で領地はワンド子爵の警備兵だらけ。将来の見通しも立たず、こんなのがいつまで続くんだろう‥‥と、誰もが思って愚痴ばかり呟いてるよ」
 と、簡単に報告した後で、アシュレーもついついぼやく。
「問題を取り除いてもそこからさらに別の問題が浮かび上がって、それを終わらせてもさらに別の問題が起こるから、いたちごっこだねえ。まったく」
 領民の心証としては、代官ギーズは北ロメルを乗っ取った悪党ということで最悪。しかし新ルーケイ伯は先の討伐戦で身を張って領民達を避難させ、ワンド子爵も現在の領民の面倒を見てくれる殿様ということで、2人の心証は代官ギーズよりもずっとマシだという。また、クレアやヴァイプスが暗躍している気配はまだない。
「ところで、彼女は誰?」
 と、アシュレーは覆面無しのシャミラを見て問いかける。素顔を見るのは初めてだ。
「え? これがシャミラ? 意外と美人なんだねぇ」
 ロメル領の村に入り、ベアルファレスが最初に行ったのは、村の領民の代表たる村長との話し合いだった。毒蛇団がカオスの魔物の傀儡だった事を改めて語り聞かせ、今後の協力を求めた。
「全て仰せの通りに‥‥」
 と、村長は約束したが、表情は意気消沈。これで上手く行くのかと思っていると、周りの村人達がざわめき始める。
「マーレン様が来ておられるぞ!」
「どこだ!? どこだ!?」
 そして村人達は、エーロン王の傍らに控えるマーレンの姿を認め、次々と頭を下げる。
 村人達はずっと、今は亡き旧ルーケイ伯の遺児であるマーレンを、近い将来にウィルの王となる者だと信じ込まされてきたのだ。それが毒蛇団の策略によるものだとしても。
 しかし、ずっと憎しみの対象であったフオロ王家のエーロン王までもが目の前にいることで、村人達はどうしていいのか分からず迷っている。
 女医ゾーラクは導蛍石(eb9949)の手を借り、村人達の健康診断を行った。ケシの栽培地だけあって麻薬中毒者が多いのではないかと蛍石は思っていたが、調べてみると麻薬に毒されている者は一人もいなかった。先にはシャミラの村でも検診を行ったが、そちらも麻薬中毒者は皆無である。
「ギリールも私も、麻薬の扱いは厳重に行ったからな。麻薬は敵に対する武器となるが、それで味方が損なわれてはかなわない。禁を犯した者を縛り首にした事もあった」
 と、同行するシャミラは説明した。
 この後、視察団は村のあちこちを見て回る。何といっても一番目につくのは広いケシ畑。
「医療用の麻酔に、こんなに広大な芥子畑は不要だと思うんだけど。作りすぎても横流しの危険が増すだけだし、中毒者を作らないためにも畑の大半は焼き払った方がいいんじゃないかしら? 畑が広いと監視もそれだけ難しくなるし」
 瑠璃の言葉を聞いてシャミラは言った。
「焼き払わずとも花を摘んでしまえばいい。摘んだ花は売り物になる」
 福袋は達郎と共に村を見て回りつつ、達郎に意見をぶつけてみた。
「人口300人の、この世界では標準的な村です。すぐ近くの湖では魚も捕れて、最低限の自給自足は可能なようですが、次に必要なのは復興に必要なプラスアルファの産業ですね」
「いやしかし‥‥肝心の村人がやる気を出してくれなければ困る。が、領主不在のこの村は、村人の心の拠り所となる中心人物を欠いている。まずはその人物をしっかり立てねば。見たところマーレン君は村人の受けがいい。いっそのこと彼を、復興の旗振り役に据えてはどうかね?」
 空戦騎士団長のシャルロットとしては、やはり危急の事態に備えたエアルートの事が気になる。
「この地におけるエアルートの設置はどう致しましょう?」
 と、エーロン王に尋ねると、王はこう答えた。
「毒蛇団が滅ぼされた今、この地も当面は平和が続こう。専用のエアルートを設けずとも、当面の間は街道や河を利用した従来の交通路を、フロートシップとグライダーの航空路とすればよい。逆にエアルートの設置を急ぐべきは、今だ困難な状況下にある地だ。ハンと国境を接するフオロ北部がそうであり、また荒廃するがままに残されている王都の東部もそうだ」

●ロメル領の今後
 ロメル領についての協議で、新ルーケイ伯アレクシアスはその所信を表明する。ロメルの血筋を絶やさずに孫をその地位に残すべきであると。また、ロメル領の問題に尽力してきたワンド子爵ならば、その後見人に相応しいと。
 その代わりルーケイは子爵の負担を緩和すべく、ロメル領復興を全面的にバックアップするとも言明した。
 新ルーケイ伯の与力男爵たる勇人も、これに賛同した。
「ロメル家の取り潰しは、毒蛇団の影響下にあった領民に為政者が悪政を敷いた結果であると認識させかねません。時期尚早かと」
 そのロメル子爵領の現状についてだが、双武はシャミラに発言を求める。
「北ロメル領に意を通じる者を持つシャミラこそ、北、南ロメル領の事を一番知る者じゃと思う。民の現状について、シャミラ殿の口から直に語って頂きたいのじゃが」
 これを受けて、シャミラは北と南を合わせたロメル子爵領の現状を取りまとめて説明する。
「南ロメルについては、視察でご覧になった通りの有り様だ」
 やはり一番の問題は、領地に中心人物を欠いていることだ。そしてシャミラはこうも請け負った。もしもロメル領の復興を担う中心人物が定まるなら、自分はその人物を全面的に支援する用意があると。またシャミラは南ロメルの農業についても語り、もしも適切な援助が行われるなら農業生産は増えるとの見通しを述べたが、これは現地を視察した双武の見立てとも一致する。それまでケシの生産に向けられていた労働力を、今後は小麦や家畜の生産に向ければいい。
 北ロメルについては、シャミラはこう語る。
「北ロメルは本来のロメル領のうちでも豊かな地域で、人材も豊富だった。それを王領アーメルに取られてしまったわけだが、その力を利用することが出来れば南ロメルの復興も早まろう」
 かつて北ロメルの潜入調査を行ったヘクトルも、次のように発言した。
「南ロメルの民の暮らしは豊かな土地を失った為に困窮していて、家族が離れ離れになってしまった民も多数に及ぶ。王領アーメルへの通行や交流も厳しく制限されている為に、そのことに対する憤懣がロメルの民の根底にあるし、それをテロリストなどに利用された感があります」
 そしてヘクトルはエーロン王に求める。
「陛下が国家と民衆の安寧を望まれるならば、領地の枠組みの取り決めも大切ですが、民衆の声を聞き届けていただければ幸いかと存じ上げます」
 毒蛇団の支配を受けていた頃のロメル領の有り様については、グランから説明があった。続いてグランは、毒蛇団に吹き込まれた『王国の支配者イコール悪』という固定観念の払拭が必要だと述べる。
「さし当たっては新年の祭りを催すのはどうだろうかと思う。そこで黒旗や旧ルーケイも交え、融和の姿勢を見せれば時勢が変わったことを領民に示すことができる」
 すると、シャルロットがこんな発言をした。
「祭りですか‥‥。伯は──その際に慶事の発表とまでは、まだいかないのでしょうか?」
 全員の目が新ルーケイ伯に注目。アレクシアスはこう答える。
「とりあえず‥‥月霊祭は彼女と一緒に過ごすつもりだ。何か良き進展があればいいが‥‥」
「良き進展を期待しているぞ」
 エーロン王は笑ってアレクシアスに声をかけると、こう決定を下した。
「ロメル子爵領の今後については領地存続を前提として、ルーケイとワンドによる支援体制を固めるとしよう。ゆくゆくは北ロメルの問題にも決着をつける」
 この後の協議の中心は、過去にロメル子爵領で生産されてきた麻薬の取り扱いに移ったが、女医ゾーラクは自らが麻薬の管理者となることを希望。麻薬を麻酔薬として医療に導入せんが為である。リュドミラと蛍石もゾーラクを支持し、これを受けてエーロン王はゾーラクをフオロ分国麻薬対策室室長に任命した。ただし当面は麻薬の医療への利用よりも、麻薬の蔓延を防ぐことが対策室の第一目標となる。
 ゾーラクは感謝の言葉と共にその任命を受け、資金として3000Gを拠出。この拠出金をエーロン王はフオロ分国の麻薬対策に当てることに決め、王都とロメル子爵領に専用の施設が作られることになった。

●祝賀会
 協議は終わり、一同は無事に祝賀会を迎える。
「ルーケイ平定ばかりでなく、フオロと旧ルーケイ家との確執をも和解に導いた功績は、まさに後世に讃えられる偉業であったといえるでしょう! 伯に盛大な拍手を!」
 ベアルファレスの音頭で、祝賀会の会場を盛大な拍手が包む。
「では、エーロン陛下、並びにワンド子爵、そしてロメル子爵家とルーケイの未来に、乾杯!」
 打ち鳴らされる杯。ここまでこぎ着けたことに双武は感じ入った。
「ルーケイも統一され、陛下の新しき御世が始まるのう」
 祝賀の場にあってもリュドミラと蛍石は警戒を怠らない。しかし幸いというべきか、暴徒もカオスの魔物も祝賀会を邪魔することはなかった。