王都ゴーレム工房への招き
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■ショートシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月16日〜11月19日
リプレイ公開日:2007年11月24日
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●オープニング
●活況の王都
時は精霊歴1040年11月。王都ウィルは活況を呈していた。
「おいしいパンだよ! 出来たてのおいしいパン、残りあと5つだよ!」
秋晴れの空の下、露天商が声を張り上げる。
通りかかった人夫が、さっそく目をつけた。
「おう、1ついただくぜ」
「まいどあり」
売り買いついでに立ち話。
「これからどちらへ?」
「今日も荷運びで工事現場さ。ゴーレムを出し入れするっていう、あのでっけぇ建物だよ」
「ああ、あれかい。工事が始まってから、もうだいぶたつね」
「仕事はきついが、金にはなる。俺もやっとこさ、貯金ってものが出来た」
このところ景気がいいから、露天商は品物の売れ行きがいいし、人夫は仕事にあぶれる事がない。
パンを買うと、人夫は王都の門をくぐって城壁の外に出る。仕事場までは歩けばかなりの距離だが、建設中の建物は規模が大きいだけに、遠くからでも良く見える。
その建物は王都ゴーレム工房だ。資料庫を兼ねた小さな工房は先王エーガン・フオロの時代から王城に設けられていたが、工房と名がついていたとはいえ、実質的には整備所レベルのもので使い勝手も悪かった。そこで現ウィル国王ジーザム・トルクの王命によって、より大規模な施設が王都の城壁外に造られることになったのだ。
遠くから見やると、まるで大きな城が一つそこに造られつつあるかのよう。
建設現場の上空に浮かんでいるのは、遠方の石切場から建材の巨石を運んできたフロートシップだ。巨石は太いロープで縛られ、空中から現場に下ろされる。現場では大勢の人夫達が、蟻のようにせっせと働いている。
大きな影が空を横切った。鳥か? いや、違う。空を見上げた人夫の目に映ったのは、翼を広げて空を飛ぶドラゴンに似たゴーレムだ。ウィルの誇る最新鋭ゴーレム、ドラグーンである。
このドラグーンはジーザム・トルク王の出身分国であるトルク分国から、フロートシップに乗って到着したばかり。操縦者はジーザム王に仕えるパラの鎧騎士リーザ・メース。その操縦の腕前はウィルの国でも十本の指に入る程だとか。だが、人夫はその事を知らない。ただ空飛ぶゴーレムの雄姿に見とれるばかり。
「てぇしたもんだよ、今のウィルの王様は」
人夫の口からそんな呟きが漏れた。
●ゴーレムの時代
ウィルの国で発明されたゴーレムは、ウィルの国そのものを変えつつある。
精霊力で空に浮かび高速で飛行するフロートシップは、これまで馬でさえ何十日もかかっていた道のりでも、僅か1日のうちに移動することを可能にした。同時に、それまで人の侵入を阻んで来た険しき山、深き森さえも楽々と飛び越え、前人未踏の地にもたやすく足を運べるようになったのだ。
海においてはゴーレムシップの登場で、風や潮流に影響されず自由自在で、かつ短時間での遠距離航行が可能となった。
また、人型ゴーレム、フロートチャリオット、ゴーレムグライダーといった各種ゴーレム機器は、それまで各地の領主たちが手を焼いていた盗賊やモンスターの討伐に、大きな成果を上げつつある。
今や、時はゴーレム時代。先のウィル国王エーガン・フオロの退位を受け、ウィルの王座に就いたジーザム・トルク王は、6分国から成るウィルを束ねる手段としてゴーレムを位置づけた。その王命により王都と各分国の中心地はフロートシップの航路で結ばれ、王都ではゴーレム工房が拡張されつつある。今後、冒険者の行動範囲はゴーレムの助けによって、ウィルの国の各地へとさらなる広がりを見せることだろう。ゴーレムが活躍する機会もいっそう増えるはずだ。
城壁外で建設中のゴーレム工房が完成するのはまだまだ先だが、一部の施設は既に稼働中だ。工房にはゴーレム格納庫も併設される。今後、ウィル近隣で使用される各種ゴーレムはこの工房で生産され、戦闘で傷つけば工房に戻されて修理を受け、使用しない時には厳重な警備の下に保管されるのだ。
●グロウリング伯の依頼
さて、一部稼働中の工房の一室では、ロッド・グロウリング伯が苦虫を噛みつぶしていた。王弟ルーベン=セクテ公と並ぶジーザム王の片腕であり、ウィルの軍事に大きな発言力を持つロッドを苛立たせているのは、冒険者酒場の名物教官ジェームズ・ウォルフの件である。
「また、あの男が工房にのこのこ現れたというのか!?」
「はい。古代の伝承を調べるとかで、工房のナーガ達に色々と話を」
「たわけがっ!」
どん! 怒りに任せて拳でテーブルを叩いたその音があまりにも大きく、報告する部下は冷や冷やした。
ジェームズ教官は現在、退位してシム海の離宮で暮らす前国王エーガン・フオロに入れ込み、エーガンの進める歴史編纂の手伝いをしているという。これまでは冒険者酒場に入り浸り、冒険者の相談相手などを務めていたのだが、今ではウィルの各地に伝わる伝承を調べるという口実で、軍事機密の巣である工房にまで顔を出すようになった。
それがロッドにとっては癪の種。先王贔屓の言動に加え、ゴーレムの運用に何かと余計な口を出すジェームズのやり方、ロッドにとっては気に入らないことばかりだ。
「ギルド総監に会いに行くぞ。おまえも一緒に来い」
部下を誘い、ロッドが足を向けた先は冒険者ギルドの総監室。部屋の主のカイン・グレイスは元々は騎士学院の教官だったが、過去に色々あって今は冒険者たちを指導する冒険者ギルド総監を務めている。
「冒険者が何か問題でも起こしましたか?」
「違う、ジェームズ教官の調査だ」
「教官にスパイの嫌疑でもかけられましたか?」
「有り体に言えばそういうことだ。ジェームズに関わる最新の報告書を見せてもらおう」
「‥‥‥‥」
「心配はいらん。嫌疑を晴らすための調査だ」
言われて、カインは『隠居エーガン〜世に棲む日々』と題された報告書をロッドに手渡す。報告書を一読したロッドの顔は険しいものだった。
「ほぅ。俺の発言としてこんな事まで書かれていたか」
「もしや、内容に誤りでも?」
「いや、報告書に嘘偽りはない。嘘が書かれていたら重大な信用問題だ。だが、この報告書の担当記録係は、後で俺の所へ呼び出せ」
そこまで言うと、ロッドは表情を和らげ話を続ける。
「さて、俺の方から依頼を一つ出そう。まだまだ先の話だが、増設中の王都ゴーレム工房が落成した暁には、大々的な祝典を執り行う。そのお膳立てを冒険者に任せよう。これからは冒険者にも拠点となる工房だ。今回の依頼は工房の下見で、冒険者が工房の内部に立ち入る最初の機会となる。案内役は鎧騎士リーザに任せよう。運がよければ工房で働くナーガ達にも会えるぞ」
「ナーガと? あの秘密を冒険者にも明かすのですか?」
ナーガとは人と竜との要素を併せ持つ竜族。人里離れた地に住み人と交わることは少ないが、一部の冒険者はゴーレム工房で働くナーガがいることに薄々感づいている。
「そうだ。今後は工房の軍事機密についてもオーブル工房長と相談の上、可能な限り冒険者に公開していく。今回の依頼でも、冒険者からの質問には可能な限り応じさせよう。だがここ最近、工房の軍事機密を盗み出そうとするスパイの動きが活発化している。それには十分に気をつけろ。‥‥ああそれから、たとえジェームズが工房に現れたとしても、奴には関わるな」
余談だが、ロッドに呼び出されたギルドの記録係は、直後に配属異動を希望したという。
●リプレイ本文
●目指すは強国ウィル
王都ゴーレム工房を訪れるに先立ち、ベアルファレス・ジスハート(eb4242)はロッド・グロウリング伯と対面。伯の進めるウィルの強国化に賛同を示した。
「私の目指すものはこのウィル国を千年王国と成す事です。その為に、この国はこれまで以上に強くなってもらわねばなりません。かつては先王に仕えた身ではありますが、それ以上にこの国とジーザム王の為に仕えていく所存です」
「貴公の存在は心強い」
ロッドは好感を覚えた様子。
「今後、貴公に相応しい依頼も増える。期待しているぞ」
かつてベアルファレスが提案したゴーレム弓兵部隊にもロッドは触れた。
「対空防御の拡充については、俺も色々と考えてはいる。増設された王都ゴーレム工房が本格的に稼働すれば、半年内に軽く20〜30体のバガンが揃うだろう。だがゴーレム本体のみならず、弓術に優れた鎧騎士の確保も必要だ。これは短期間では難しい。或いは別の手段を取るかもしれん」
この件については遠からず、ウィル空戦騎士団にも協議させるとロッドは答えた。
●メイの国から
「ウィルの事は俺に任せるってか? それはいいけど、今回は大人しくしてろよ」
なにせ今回は軍事機密がぎっしりのゴーレム工房見学だ。メイから来た友人には自重を促し、物輪試(eb4163)は友人から聞いたメイ情勢をロッド伯に報告。
「情報の提供に感謝する」
ロッドは礼を言い、メイとの関係についてはまた別の機会に冒険者の意見を聞きたいと語った。
「ところで、頼みがあるのですが」
試に同伴したメイの国出身の冒険者、マリア・タクーヌス(ec2412)の頼みとは、今回の依頼への参加許可。他国人ゆえの気遣いだったが、ロッド伯はあっさりと許可した。
「メイはウィルの友好国。今も少なからぬ数の冒険者がウィルとメイとを行き来している。共に騎士道を歩む冒険者であれば、たとえメイ国人であろうと差別はしない。気兼ねなく工房を見学したまえ」
●工房内で色々あって
「あまりカリカリしておるとハゲるぞえ?」
「え? 誰が?」
案内人の鎧騎士リーザが訊ねたが、ヴェガ・キュアノス(ea7463)は誰のことかはあえて口に出さず。
「さておき、ゴーレム工房の内部へ、しかも新築ぺかぺかとは楽しみじゃのう♪」
なんて話をしながら、増設中の王都ゴーレム工房へやって来た冒険者一同。
「新築ぺかぺかというより、ぶかぶかしてないか?」
と、試が言う。工房の大部分はまだ工事中だから、あちこちに仕切りの垂れ幕がぶら下がっている。
「この垂れ幕って、船の帆じゃないか?」
「まあね。手っ取り早く仕切りに使えるのは船の帆だし」
と、リーザ。
「だけど仕切りの向こう側は軍事機密だから、覗き見しちゃだめよ」
「うわっ、ヤベぇ!」
ぶかぶかする仕切りをいじくっていた試は、慌てて手を引っ込めた。
セシリア・カータ(ea1643)も工房の機密が気になるもので、
「外部に漏らしてはまずいものが色々ありそうですし。そういう場所を通る時は目隠しでもしましょうか?」
そう訊ねると、リーザは首を振った。
「そこまでしなくても大丈夫。‥‥ね、ベアルファレス様」
「そういうことだ」
と、鉄仮面で素顔を隠したベアルファレスが説明する。
「今回の見学に先立ち、私の方で見学ルートをきっちり定めておいた。立ち入り可能場所と立ち入り禁止場所を仕切りで区切り、仕切りのこちら側を冒険者用の通路としたから、軍事機密が目に触れる心配はない。工房全体が完成した折りには、より確実な区分けを行う必要はあるが‥‥」
「おい、あれ‥‥」
すぐ近くの仕切りを試が指さした。
「仕切りの向こうの軍事機密がこっち見てるぞ」
「あ‥‥!」
いや驚いたことに、仕切りの隙間から女の頭や竜の頭が突きだして、冒険者たちを見ているじゃないか。
「ちょっと、あなた達!」
「うわあっ!」
リーザが叱った拍子に、仕切りの向こう側から首出していた連中がバランスを崩し、どっとこちら側に倒れてきた。
「痛てててて‥‥」
「もう! そんな大勢で首なんか突き出すからよ。‥‥あ、紹介するわ。こちらは工房で働いてるナーガの皆さんよ」
照れ笑いしながら、折り重なってる連中を冒険者に紹介するリーザ。
「おや、工房ではナーガ族が働いておるのかえ?」
ヴェガが手を貸し、起こしてやる。以前、ヴェガがシーハリオンの麓で出合ったナーガと同じく、男は人間の体に竜の頭、女は人間の上半身に大蛇の下半身という姿だ。
「いやぁ失礼。冒険者が物珍しいもので、つい‥‥」
弁解するナーガ。すると、垂れ幕の向こう側から貫禄たっぷりなナーガの男がぬうっと姿を現した。
「こんな所で何をしておる? さっさと仕事に戻らぬか?」
「すみません、ザフル様」
ナーガ達はすごすごと立ち去り、ザフルと呼ばれたナーガも姿を消す。
「今のは?」
ヴェガの問いにリーザが答えた。
「ザフル・ザラグンっていうナーガで、現場の親方みたいな人よ」
すると、時雨蒼威(eb4097)が仕切りの陰に隠れていた人物を目ざとく見つけた。
「おい、そんな所に隠れていないで出て来い」
「いや、別に隠れていたわけでは‥‥」
ぶつぶつ言いながら姿を現したのは、あのジェームズ・ウォルフである。早速、ベアルファレスが釘を刺す。
「エーガン様の歴史編纂の手伝いというのは分かる。しかし、工房に出入りするのは感心せんな。軍事機密の近くにいれば、貴公自身にもあらぬ嫌疑が掛けられるのは判ろう」
「そうは言いましても、まあ色々と訳がありまして‥‥」
だが、ジェームズの釈明にはお構いなしに、ベアルファレスは背中を見せて歩き去る。
「あの、私にはまだ話すことが‥‥」
「貴公に一言、釘を刺す許可はロッド伯から貰ったが、長話をする許可は貰っていない」
そして蒼威はリーザに耳打ち。
「ジェームズ教官はもう冒険者と関わらせるな。あの男の評判を知っているのか?」
リーザも真顔で答える。
「いろいろと噂は聞いているけど、確かに要注意人物よね。あまりにも言動が目に余る時には多分、ロッド伯が何とかするわ」
どすん!
「あっ‥‥!」
いきなり誰かがセシリアにぶつかった。
「痛ぁ! ‥‥す、すみません」
床に尻餅ついた男を見れば、新米っぽいゴーレムニスト。余所見して駆け回っていたせいでこの災難。手に持っていた図面やら筆記用具やらが、床のあちこちに転がっている。
「気をつけて下さいね」
言いながら、散らばった品々を拾い集めるセシリアだが、奇妙な物品が転がっているのに気づく。
「これは‥‥」
銀色に輝く小さな器だ。銀製品かと思ったが、並みの銀よりも際だって輝いて見える。よく見れば器のあちこちに散りばめられた紋様、今のウィルに流行るものではない。それは見たところ、古代の遺物によくある古代文字のような‥‥。
「あ! だめですっ!」
ゴーレムニストはひったくるように、輝く器をセシリアの手からひったくった。
「‥‥すみません、今のは見なかったことにしてください」
ゴーレムニストは逃げるように立ち去った。
「あれも軍事機密?」
リーザに訊ねても、返ってきたのは曖昧な返事。
「‥‥まあ、そういうことにしておいて」
ふとセシリアは、以前に聞いた話を思い出した。ブランという魔法金属の話である。セシリアの生まれ故郷の世界であるジ・アースでは、極めて稀少な金属だ。その輝きは銀に似ると言われているが、もしかしたら先ほどの器はブラン製だったのかもしれない。
●工房内の見学
「ここがゴーレム工房の中心部、ゴーレム制作室よ。まだ未完成だけど」
案内されたその場所は、やたらと広く天井が高い大部屋。
「随分と天井が高いんだな」
しげしげと頭上を見上げ、試がリーザに言った。
「だってストーンゴーレムはともかく、シルバーゴーレムはサイズが一回り大型になるから、このくらいの高さは必要よ」
「ドラグーンもここで造られるのか?」
「ドラグーンは別の場所で。残念だけど、そこは最高機密だから冒険者にも見せられないの」
その言葉に蒼威が呟きを漏らす。
「まさか王都でも作るのか、あれを」
なおさら物騒になりそうな予感がする。
ベアルファレスがリーザに質問した。
「今後のゴーレム運用のあり方はどうあるべきだと思う? 貴公自身の考えを聞きたい」
「それは、ウィルの敵が今後どう出てくるかで決まるわ」
厳しい物の見方である。
「先日もフオロの沿岸に敵襲があったって話を聞いたけど、そういう事が続くならゴーレムで海岸線を固める必要が出てくるわ。敵が空から襲って来るようなら、ドラグーンのような空飛ぶゴーレムの開発に力を入れることになりそうね」
蒼威がリーザに求める。
「俺はゴーレム本体よりも、むしろゴーレムの武装に興味がある。武器庫に案内してくれるか?」
「お安い御用よ」
案内された武器庫で、蒼威はゴーレム用の弓を見つけた。
「これはセレで広く使われるウッドゴーレム・ノルンの弓だな?」
「そうよ。でも小型のノルンに合わせてあるから、ストーン以上で装備するには小さいわね」
「出来れば各種ゴーレムのサイズに合わせた物を普及させて欲しいな」
「希望は上層部に伝えておくわ。でも、さすが冒険者だけあってリクエストが細かいわね」
「うん。まあ、冒険者の特徴のひとつは多様性だからな。品質が均一でないとも言うが。冒険者も乗る機会が増えるなら、重量武器、軽量武器、射撃、幅広く用意すれば運用の幅も広がるだろう。他にも工具とか装備させて、工兵専用ゴーレムとかもいいな」
ここで蒼威は話題を変える。
「それで、式典にはどこが来るのかね? ランの国あたりは熱心な事に、既に王族の1人がお忍びで来ているようであるが‥‥」
「ああ、あの件は公然の秘密だし‥‥。でも恐らく、ランの国は工房の落成祝典には招かれないわ」
「では、どの国が?」
「トルク王家と縁の深いリグの国に、カオス勢力と戦う友好国のメイの国は間違いなく招かれるわね。それに、長い歴史を通して頑固に中立を守り続けるチの国も恐らく」
続いて試が質問する。
「落成祝典はどの様な規模で行うんだ?」
「多分、リグ国王のグシタ陛下をお招きしての祝典になるから、先にあったジーザム陛下の戴冠式と同じくらい派手になるわよ。あの時みたいにドラグーンの模擬試合をやったり、工房の前にゴーレムをずらりと並べたりくらいはやるでしょう」
「それと、今後のゴーレムの使用についてはどうだろう? 一応、冒険者がグライダーを使う時には許可証が必要だったり、個人所有のゴーレムを持ち出す時には割り符が必要だったりしたが‥‥」
「それについてはロッド伯が色々と考え中。ロッド伯としては許可証の有無よりも、個人の操縦技能を重視する意向のようだけど、まだ決定はしていないの。だけど冒険者はこれから先、今までよりもずっと容易くゴーレムを動かせるようになるはずよ。もしかしたら個人所有のゴーレムも数がうんと増えるかもね」
話すうちに、一行はドラグーン格納庫の前までやって来た。
「格納庫なら冒険者の立ち入りが可能よ」
格納庫の中には既にウィングドラグーンが収納されている。先の毒蛇団討伐戦で使用された機体だ。
「あら? 空戦騎士団長があんな所に」
皆は空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)の姿に気づく。仲間達とは別行動を取っていたシャルロットは、整備担当と話をしている最中だった。
「データ取りを行いたいという要望もあったので、先の戦いでは矢雨の中、突撃、罠の強行突破、カオスの魔物との戦闘と、消耗を強いるフルコースでいってみた。欠損はどの程度だったでしょうか」
「機体に当たった矢の数を数えていましたか?」
と、整備担当。
「いや、そこまでは‥‥」
「これをご覧になって下さい」
と、整備担当はドラグーンの装甲を示す。
「小さな傷ですが、矢が当たって出来たと思われる物が100以上あります。ですが、ドラグーンにとってはかすり傷も同然。ともあれ、実戦に参加してたいした損傷もなく帰還したことは、100回のテストを繰り返すよりも大きな意味があります。詳しいデータは後ほど提出しましょう」
「実際に使った身としては、扱い易く感じました。追加装備として、ラージシールドとロングランスがあるといいと思います。対ゴーレムでなく対フロートシップやゴーレムシップ、対城攻撃を想定した突撃仕様です。船を落とす程となると、パワーをより用いることになりますが」
「ロッド伯が興味を持たれそうな話ですね。後で報告を入れておきましょう」
「それとサイレントグライダーについても。完成した最新鋭のサイレントグライダーは、至高の芸術品といえる存在ですが、軍事用でなければそこまでの高性能は要求されないかと思います。起動条件を緩やかにした廉価版の作成は可能でしょうか? そのほうが一般普及への早道と考えています」
整備担当はちょっと困った顔になり、答えた。
「そういう立ち入った話は機会を見て、ロッド伯に直接持ち寄った方がいいと思います。私どもの手に余りますので」
●工房のお茶会
工房の見学が済むと、冒険者達はお茶会に招かれた。お茶会の主催者はオーブル工房長の助手、コーネル・フルスフット女史。お茶会の席でメイへの技術提供を願う試に対し、コーネルは好意的に返事を返した。
「最終的にお決めになるのはジーザム陛下ですが、ウィルとメイは友好国。私もその実現を強く願います」
マリアの関心事は、メイで問題となっていた技術的難関を、ウィルではいかなる発想でクリアーしたかについて。その事を尋ねると、コーネルはこう答えた。
「それは発想の違いというよりも、メイとウィルの文化や風土の違いから来るものだと私は思います」
例としてコーネルはノルンの弓を取り上げる。
「メイの国ではゴーレム弓の開発に苦心したと聞いていますが、ウィルではゴーレム弓の開発にさほど苦労はしませんでした。ウィルのセレ分国の森には強靭な蔓草が自生しており、ロープはエルフの樹上都市の建設に利用されていたのですが、同じ蔓草をゴーレム弓に利用することが出来たからです。ですが、砂漠の多いメイの国では、同じような植物を探すにしても苦労したはずです」
ヴェガは工房で働くナーガについて質問したが、コーネルの答は興味深かった。工房で働くナーガは竜語魔法を操るドラゴンホーラーで、ドラグーンの製造には彼らの魔法の力が不可欠だという。だが彼らは大多数のナーガから見れば異端者である。その魔法の力を人間の戦争のために使役することは禁忌とされる行為であり、禁を犯せば二度と故郷には戻れない。
さてお茶会も終わり、一同が帰ろうとすると何やら周囲が騒がしい。
「何があったの?」
暫くして、衛兵がやって来て報告した。
「先ほどジェームズ・ウォルフがスパイの罪で逮捕されました。証拠も上がっています」