ホープ村の魔物退治

■ショートシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月12日〜02月15日

リプレイ公開日:2008年02月20日

●オープニング

 ホープ村は王都ウィルの南にある。徒歩でも王都から一日のうちに行って帰って来られる程に、王都の近くにある村だ。
 ホープ村の人口は、去年の秋口には100人程。しかし冬の間にじりじりと人が増え、今では200人を超えている。
 流民が村へ流れてくるからだ。
 それでも去年の今頃と比べたら、王都の景気はよくなっている。去年の今頃ときたら、食い詰めてボロボロの流民ばかりで悲惨な状況だったのだが、今なら冬の間でも王都に行けば、とりあえず仕事にはありつける。仕事があれば家族を養っていけるし、村に戻れば家族の待つ家がある。去年は貧しさのあまり寒々としていた村も、今では貧しいけれど暖かみのある場所に変わりつつある。
 この村がまだワザン男爵の領地だった頃、村は貧民村と呼ばれていた。だけど、この村がワザン男爵の領地から切り離され、冒険者出身の領主がこの村を治めるようになると、村の名前はホープ村に変わった。
 ホープとは、領主の故郷の言葉で希望を意味する言葉。この村はまさしく、希望の灯が灯る村。
 さて、この村には1人のバードが住んでいる。名前はキラル、ほっそりしたエルフの若者だ。
 キラルには忌まわしい過去があった。悪党どもの悪事の片棒を担がされ、闇の世界から足抜けできぬよう、背中に魔物の入れ墨まで彫られてしまった。
 もう、闇の世界でしか生きていけない。そんな思いからずるずると悪の道へのめり込んでいたキラルだったが、冒険者達との出会いが彼の運命を変えた。冒険者達はキラルに正しき道を歩むよう説得し、忌まわしき入れ墨が彫られた背中の皮を剣で剥ぎ取った。キラルは相当に痛い思い出となったけれど。そしてキラルに魔法の治療を施し、皮を剥ぎ取られた背中を元通りにしてやった。
 実は村にはもう一人、ことさらに忌まわしき過去を背負った者が住んでいる。リーサという人間の娘だ。
 彼女の親は、数々のケチな悪事に手を染めた鼻つまみ者。その悪事が祟ってか、その家はカオスの魔物に乗っ取られた。とりわけ魔物が執着したのがうら若きリーサ。魔物はリーサに憑依し、甘い夢を見せながらその生命力の全てを奪い去ろうとした。
 魔物退治に駆けつけた冒険者の活躍でリーサは救われたものの、魔物に取り憑かれたことでリーサとその家族の評判はますます悪くなった。その結果、リーサの一家は王都を追われ、行き着いた先がこのホープ村。最初のうちは村人達に忌み嫌われていたリーサだったが、彼女を気遣う冒険者の説得で村人も次第に態度を改め、今ではリーサも村人の一人として受け入れられている。
 お互い、人に言えない辛い過去を背負っているせいか、キラルとリーサは何かと気が合った。バードのキラルは村の子ども達の人気者だったが、彼が子ども達の前で演奏する時にはリーサも子ども達に混じり、その歌声や笛の音にじっとききいっていた。
 その日もキラルはリーサと子ども達に笛を聞かせていたが、冬は夜の訪れが早い。
「ああ、もうこんな時間だね」
「そろそろ戻らなきゃ。明日も笛を聞かせてね、キラル」
 キラルに別れを告げ、リーサは自分の家に戻る。2人の弟と一緒に質素な食事を済ませると、毛布にくるまって藁のベッドに身を横たえた。
 ところが。
「ゲェヘェヘェヘェ!」
「ゲェヘェヘェヘェ!」
「ゲェヘェヘェヘェ!」
 暗闇の中から不気味な笑い声がする。
「‥‥誰!?」
 恐怖にかられて暗闇に目をやれば、そこには闇の中で不気味に輝く人ならざる者の目。
 カオスの魔物『邪気を振りまく者』だ。翼を生やした身長1mくらいの醜い小鬼。ジ・アース出身の冒険者にはお馴染みのインプにそっくりなヤツだ。それが3匹も。
「キャアアアアアアーッ!!」
 リーサは悲鳴を上げて寝室を飛び出したが、後から魔物どもが追いかけてくる。
「見つけたぞぉ、リーサ!」
「逃げられると思うなぁ!」
「おまえは魔物に魅入られた娘、どこへ行っても後から俺達がやって来るぞぉ!」
 騒ぎに気付いた村人達も、ぞろぞろと家から飛び出したが、リーサと魔物の姿を見てびっくり。
「うわぁ! カオスの魔物だぁ!」
「早く番兵に知らせるだぁ!」
 ホープ村がもともとワザン男爵領の村だった関係で、村の警備は今もワザン男爵の警備兵が担当している。ホープ村領主との契約に基づく出張である。
 しかし夜盗の類ならいざ知らず、カオスの魔物は警備兵の手に余る。いくら剣で斬りつけても、魔物どもは宙を飛び回って嘲るばかり。
「我々の剣では魔物を倒せない! お館様から銀の剣をお借りしなければ!」
 魔物用心ということで、ワザン男爵も立派な銀の剣を所有している。しかし、急ぎ駆けつけた警備兵達の求めに対して、ワザン男爵は首を振った。
「銀の剣を預けてホープ村に行かせた隙に、この館が魔物に襲われたらどうする?」
「では、どうすれば?」
「食堂に銀の皿がある。剣の代わりにそれを使うのだ」
 一方、ホープ村では居残りの警備兵と共にキラルが奮戦していた。
「魔物の好き勝手にさせるか! 月光の矢よ、魔物に当たれ!」
 目の前の魔物に向かってムーンアローを放ったつもりが、魔物は3匹もいたものだからムーンアローは目標を定められず、逆戻りしてキラルの体を貫いた。
「痛ぁ‥‥!」
 やがて、隣領に向かった警備兵が銀の皿を持って戻って来たが、既に魔物どもは闇夜に消えた後。
「この役立たず!」
 傷ついてうずくまるキラルを警備兵が罵る。さらにもう一人の警備兵も。
「こいつは使えねぇ。もとから魔物と仲良しだったヤツだ」
 ‥‥ぐさっ! 体を貫いたムーンアローよりもさらに深く、この言葉はキラルの心に突き刺さった。
「いいんだ、どうせ僕なんか‥‥」
 ともかくも警備兵達は、借り受けた銀の皿を戻しに館へ戻る。館では男爵の奥方が、心配そうにして待っていた。
「銀の皿は無事かしら?」
「はい。村に着いた時には既に、魔物達は逃げた後で」
 その言葉を聞いて、奥方の顔がぱあっと明るくなる。
「ああ、よかった! その銀の皿で魔物を殴っていたりしたら、気持ち悪くて二度と使えなくなるところだったわ!」
 で、数日後。知らせは冒険者ギルドに届けられた。
 本来ならばホープ村の領主が事件の解決に乗り出すべきだが、冒険者ギルドに籍を置く領主は別件の依頼で忙しかったりで、必ずしもホープ村の事件に専念できるわけでもない。そこで冒険者ギルド総監のカイン・グレイスが、領主の仕事を代行する形で冒険者を派遣することになった。
「しかし、面倒なことになりましたね」
 伝わってきた話によれば、魔物は今も夜ごとリーサに付きまとっているという。キラルはいじけてやる気を無くし、ずっと自分の家に閉じこもっているらしい。ワザン男爵の警備兵達は、所詮は隣領の厄介事だとばかり、魔物退治にあまり熱心でない。村人達は魔物に付きまとわれるリーサを巡って、意見がまとまらずカンカンガクガクで言い争うばかり。
 そして当のリーサは、この数日でげっそりやつれてしまったとか。
「まあ、ギルドの冒険者ならうまく状況を落ち着かせてくれることでしょう」
 早速、カインは冒険者ギルドの掲示板に依頼書を張り出した。ホープ村の魔物退治の依頼である。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9244 ピノ・ノワール(31歳・♂・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●カオスの魔物退治
「カオスの魔物退治ですか。自分のやりたい依頼は久々です」
 その言葉通り、ピノ・ノワール(ea9244)はやる気をみなぎらせていた。
「知った仲間もいることですし、必ず成功させます!」
 これまで知り得た情報によれば、リーサにまとわりつくカオスの魔物は、ピノの故郷の世界ジ・アースでインプと呼ばれていた悪魔にそっくりだ。モンスター知識に詳しいピノは、集まった仲間達を前にして自分の知るインプについて説明。同一視は出来ないまでも、何かの参考にはなるだろう。
 集まった中には、魔物の被害者であるリーザを知るアトス・ラフェール(ea2179)もいる。
「リーサとはあのときの娘ですか」
 王都の貧民街にあるあばら屋で、リーザに取り憑いた魔物と戦いを繰り広げたのはおよそ1年前。今回、再び狙われた事で、これからも狙われる事が考えられる。しかし、魔物がしつこく寄って来るのなら、その都度退治するまで。アトスはそれが天職と思っている。
「ジ・アースとアトランティスをまたに駆けた魔物退治も悪くない。結局やる事は同じですから」

●リーサ
 ホープ村の入口にやって来た時、イシュカ・エアシールド(eb3839)はこの村の名の由来を思い起こしてつぶやく。
「希望の灯を消させはしません」
 村を訪れた冒険者達の姿を認め、幾人もの村人達が駆け寄り訴えた。
「冒険者様! あの娘を何とかして助けてくだせぇ!」
「もう見ちゃいらんねぇだ!」
 かと思えば、遠巻きに見つめるばかりの村人達も。むしろそちらの方が数は多い。
 ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は真っ直ぐにリーサの家に向かおうとしたが、村人に止められる。
「あの家はもうがら空きです」
「がら空きって‥‥リーサの家族は?」
「リーサの父も母も魔物騒ぎでいたたまれなくなり、夜逃げ同然に村を出て行きやした。弟達の面倒だけは、あっしらが見ていますが」
「リーサはどこ!?」
「案内しますだ」
 村人が冒険者達を導いた先は、村の外れのゴミ捨て場。そこにリーサがいた。リーサは粗末な毛布にくるまって、寒空の下に身を横たえていた。
「リーサ!」
 気がつけばニルナはリーサに駆け寄り、弱り切ったその体を抱いていた。
「守ると約束したのに‥‥ごめんなさい、リーサ‥‥だけどこんなことはもう繰り返させない」
「‥‥ぁ‥‥‥‥」
 乾ききったリーサの唇から漏れ出たのは、言葉にならない微かな声。
 早速、ニルナはグッドラックの魔法をかけ、イシュカもメンタルリカバーの魔法を施した。これで、魔物がリーサにかけたかもしれないディスカリッジの効果はうち消され、リーサは恐怖や落胆から立ち直ると思ったが、リーサは微かに微笑んだのみ。その体はなおもニルナの腕の中でぐったりしている。
 ニルナとイシュカは悟った。
「何日もろくに食べもせず、すっかり体が弱り切っているのですね」
「なぜ、こんなところに置き去りにしたの!?」
 問い詰めるニルナに、村人は申し訳なさそうに答える。
「ここに置いとけば、たとえ魔物にまとわりつかれても村の誰にも迷惑かからんし。‥‥みんな、魔物が怖いんです」
 ソード・エアシールド(eb3838)は村人達を集めて告げる。
「夜に魔物退治を行います。夜になったら皆さんは全員、家にこもって外に出ないで下さい」
 しかし彼が求めるまでもなかった。魔物を恐れる村人達は、夜になれば誰もが固く家の戸を閉じ、ひたすら朝が来るのを待ち続ける毎日だったのだ。魔物に苛められるリーサを外に置き去りにしたままで。

●キラル
 ひとまずリーサの介抱を仲間達に任せると、ニルナはキラルの家に足を向ける。
 キラルは家の中にじっとうずくまっていた。
「キラル、貴方はリーサを守りたいのでしょう? なのに、こんなところで体を遊ばせて」
 非難めいたニルナの言葉に対してもキラルからの返事は無く、ずっと背中を向けたまま。
「‥‥私はリーサを守りにいきますからね」
 そう言い残してニルナは立ち去る。
 そのまましばらく時が過ぎると、今度はイシュカがソード・エアシールド(eb3838)ともどもキラルの家にやって来た。
「よく逃げずに魔物に立ち向かったな」
 文句でも言われるかと思っていたキラル、逆に誉められてちらりと顔を向ける。でも、直ぐに顔をそむけてつぶやいた。
「でも、僕じゃ勝てなかった‥‥」
「云いたい奴等には云わしておけばいい、以前のお前とはもう違う」
 キラルは再びソードを見る。ソードは続けた。
「だがリーサはまだ魔物に付き纏われている。村の中で魔物に対抗出来る手段を持つのはお前だけだ。‥‥お前はどうしたい?」
「こんな村なんか出て行きたい。リーサと一緒に。でも‥‥」
 ソードは何も言わず、バックパックからクレセントリュートを取り出した。魔力を帯びた楽器だ。
「これは養娘が俺にくれた物だ。装備すると魔法の成功率が上昇する。娘と同じバードのお前が使う方が活用できるだろう」
 キラルはためらいがちにリュートを手に取り、試みに弦を爪弾く。
 ルルルルル〜ン♪
 響いた音色は心地よく感じられた。もう1度、さらにもう1度とキラルはリュートを鳴らす。さらにリュートを手に抱え、その重さを確かめて呟いた。
「重たいんだね」
「重すぎて魔法を使うのに障りが出るなら、これを貸しましょう」
 イシュカがキラルにマジックパワーリングを渡す。キラルがそれを指にはめると、心なしか力が宿ったような気持ちになる。
「戦闘には慣れていないようですけど、学ぶ事で補える事はありますよ。私達の養娘がバードでしたから多少はアドバイスできると思います」
 そう助言するイシュカにキラルは訊ねる。
「おじさん、リュートは弾けるの?」
「ほんの手すさび程度なら」
 イシュカはリュートに手を取り、短いメロディーを奏でてみた。素人っぽいが、ちゃんとした曲にはなっている。
「戦いだけじゃなくて、リュートの弾き方も教えてよ。こういうの弾くのって初めてなんだ」
 キラルは徐々にやる気を見せ始めた。

●仮の住処
 村の外れの方にその大きな家は建っていた。
 かつては倉庫と馬屋を兼ねていた建物だった。
 ずっとボロボロのまま放置されていたのだが、少し前に冒険者の手で補修されていた。今は僅かな荷物や資材が置かれているだけで、住む者はいない。
「これだけ広ければ、派手に斬ったはったをやらかしても大丈夫ね」
 これぞ、ルスト・リカルム(eb4750)の探していた物件だ。魔物との戦いの場にはうってつけ。
 ホープ村の物件は全て冒険者出身の領主の所有物だから、借り受ける点については問題なし。村人達に建物の徴用を告げると、冒険者達は建物の中にリーサを運び込んだ。
 レンガを積んで即席の暖炉を作り、炭火を熾(おこ)してリーサの回りだけでも暖める。何枚も敷かれた毛布がリーサのベッド。
「ここが‥‥新しいお家?」
 周りの様子にリーサはおぼつかなげ。
「リーサ、よく聞いて」
 これからの戦いのために、ニルナがリーサを説得する。
「魔物はあなたを狙っています。だからそれを逆手に取って、貴方には魔物をおびき寄せる囮を勤めて欲しいのです」
「‥‥嫌! ‥‥もう魔物に苛められるのは嫌!」
 リーサは激しく拒絶する。
「夜が来るのが怖い‥‥もう、あたしを一人にしないで‥‥」
「大丈夫よ、私達がついてるわ。ずっと、あなたのそばにいるから」
 リーサの片手をぎゅっと握ってルストは言い聞かせると、リーサの手に十字架のネックレスを握らせる。
「これを身に着けてね。母なるセーラ神が護ってくれるわ」
 冒険者達は付きっ切りでリーサの世話をした。
「差別されるのって結構こたえるのよね」
 そんな言葉を口に出しながらもマリー・ミション(ea9142)は、弱って食事もままならないリーサに、作りたてのスープをスプーンで飲ませてやる。マリー自身も忌み嫌われてきたハーフエルフ。リーサの苦しみは他人事とは思えないけれど、卑屈になっていては何も前に進まないことは十分に承知している。
「こんなのは習うより慣れろ。自分の立場を理解した上で人の言葉に耳を傾ければ、何をしてはいけなくて何をすれば良いのか自然と分かるわ。‥‥あら、お客さんよ」
 訪ねて来たのはリーサの2人の弟。
「さあ、いらっしゃい。お姉さんと話したいことがあるでしょう?」
 マリーが招くと、弟2人はマリーに飛びつき、その体にしがみついて泣きじゃくった。
「父ちゃんも母ちゃんも‥‥もういないんだ」
「お姉ちゃん‥‥死なないよね‥‥お姉ちゃん‥‥ずっといてくれるよね」
 リーサもすすり泣いている。
「私のせいよ‥‥私が魔物なんかに取り憑かれるから‥‥」
「それは違いますよ、リーサ」
 ルストがきっぱりと言った。
「悪いのは魔物。あなたではありません」

●魔物の目
 キラルは魔法の訓練に励んでいた。彼の周りには魔物を模した木の板の的が幾つも。
「月光の矢よ、三番目に近い的に当たれ!」
 放たれたムーンアローは指定された的に当たり、小さな穴を穿(うが)った。
「お見事です。これなら一人でも十分に戦えますよ」
 と、指南役として見守っていたピノが賞賛する。
 二人のはるか頭上には、ピノのペットの隼が飛んでいた。魔物への警戒のためにピノが飛ばしたのだ。
 するとどこからともなく3羽の鷹が現れ、隼に迫る。
「あっ‥‥!」
 鷹が隼に襲いかかった。隼もしきりに反撃するが、鷹は平然としている。
「あの鷹は魔物だ!」
 キラルが叫び、ムーンアローを飛ばそうとする。
「月光の矢よ──」
 だが呪文を言い切る前に3羽の鷹は遠くへ飛び去り、隼は傷だらけになって地上に下りてきた。
「間違いありません。あの3羽の鷹は魔物でした」
 と、ピノが言う。デティクトライフフォースの魔法の効果範囲ぎりぎりだったが、最大限の力で呪文を発揮しても、上空には隼以外の生命が感知できなかったのだ。
 その日の夜。冒険者達は魔物の出現を待ち続けた。
 レヴィア・アストライア(eb4372)もミストトライデントを手に、戦いの時を待つ。
「私の出来る事は限られる。せめてこれくらいは完璧にやり遂げる!」
 しかしその夜、魔物は現れなかった。
 朝が来て空を見ると3羽の鳥の影。遠くにいるから魔法は届かない。
「魔物はずっと、この場所を見張ってるんだ。外から来た冒険者がいる限り、魔物はここへやって来ない」
 キラルが言う。
「どうすればいい?」
 思案顔で顔を見合わせる冒険者達。だが、その答はキラルがもたらした。
「僕に任せてくれる? 僕は魔物のすぐそばで生きてきたから、魔物の考えはよく分かるんだ」

●魔物退治
 再び夜が訪れる。村はずれの大きな家の中に3つの影が忍び込み、横たわる娘の姿を見てあざ笑う。
「げへへへへ! 今夜も遊びに来てやったぜ!」
「邪魔な奴らはもういねぇ!」
「村から出て行くところを、ちゃんと見届けたのさ!」
 リーサ苛めを楽しみにやって来た魔物ども。だが次の瞬間、家の中はホーリーライトの光に満たされた。
「げげぇーっ!!」
 魔物どもは狼狽した。いつの間にか冒険者達に囲まれている。慌てて出入り口から逃げようとした魔物は、出入り口を塞ぐ形で張られたホーリーフィールドの壁に逃走を阻まれた。用意周到なイシュカの戦術は見事、功を奏したのだ。
「いつ見ても醜い。目障りな悪魔め、永久に滅せよ!」
 ピノがブラックホーリーを放ち、命中。
「ぎゃあああっ!」
 傷つき叫ぶ魔物の前にニルナが立ちはだかる。
「悪魔を滅することは神聖騎士として当然の行い。ですが、楽に逝けると思わないことです‥‥!」
 ニルナ、破邪の剣で魔物を滅多斬り。
 アトスも魔力を帯びたノーマルソードで魔物を滅多斬り。
「インプに似たカオスの魔物共。その姿が私を闘争に駆り立てる。恨むならそんな姿をしている自分を恨むことです」
 ザンッ! ザンッ! ザンッ!
「ぎゃああああっ!!」
 たちまち魔物の1匹が絶命し、その死骸は灰の塊が崩れるように消滅。別の一匹は壁際に逃れたが、ミストトライデントを手にしたレヴィアが迫る。
「うりゃりゃりゃりゃりゃ! 私の武器で魔物に効き目があるのはこの槍だけ。当たらぬなら当たるまで突くのみ。闇の亡者よ、覚悟!」
 最初のうち、魔物はひらりひらりと逃げ回っていたが、ルストの放ったコアギュレイトがその動きを封じ、そこへミストトライデントの突きが決まる。
 ぐさっ! ぐさっ! ぐさっ!
 2匹目の魔物も絶命し消滅。
 最後の1匹は、毛布に包まって横たわる娘に飛びついて叫んだ。
「ち、近寄るなぁ! 近寄ればリーサを殺すぞ!」
 だが、怯むことなくマリーが迫る。
「神聖魔法は効き目が弱いと思われているみたいだけど、相性の問題。デビルやカオスの魔物には効くはずよ。そぉーれっ!」
 続くはホーリーの連続攻撃。
「ぎゃああああーっ!!」
 ついに魔物は断末魔を放ち、跡形もなく消滅した。
「終わりましたよ、キラル」
 ピノが声をかけると、横たわっていたキラルが起き上がる。
 キラルは服と髪型を変え、ずっとリーサの振りをしていのだ。本物のリーサは建物に荷物を出し入れする振りをして、こっそりと冒険者が外へ運び出した。そして冒険者達は村から引き上げる振りをして魔物を油断させ、暗くなってからこっそり戻ってきたのだ。
 その全てはキラルが考え出した作戦。
「僕の魔法、出番なかったね」
 キラルは照れながら、でも誇らしげに言った。

●共に手を取り合い
 朝が訪れる。呼び集められた村人達と警備兵を前にして、ニルナは魔物退治の成功を告げた。
「今回はリーサの魔物騒ぎで皆さんを混乱させてしまったこと、私からも深くお詫び申し上げます。‥‥ただ私達、リーサとキラルのおかげで無事魔物を退治することができました。今後このようなことがなきよう、リーサには特別なお守りを預けました」
 ニルナの横に立つリーサが、はにかみながら十字架のネックレスを皆に示す。
「警備の皆さんも万が一、次にこのようなことがあればキラルがいます、彼は今回魔物を打ち倒した1人なのですから」
 続いてソードからも。
「今回は以前、魔物に狙われたリーサがいてくれたから魔物達は彼女を狙ったが、彼女がいなかったら誰が狙われていたか分からない。恐怖に駆られ人同士が争うような事になれば、魔物はそれに気付いて更に混乱と不和を呼ぼうとするだろう。俺達も民が皆、平和に暮らせる為に力を尽くそう。皆も魔物の企みに負けることなく、隣人を愛し共に手を取り合い助け合いの心を忘れるな」
 こうしてホープ村の魔物騒動は幕を閉じた。キラルとリーサは今もホープ村で暮らしている。リーサを気遣う村人達もさらに数が増し、キラルも警備兵から一目置かれるようになった。
 なお今回の依頼の報酬だが、ソードとイシュカの2人はこれを受け取らず村への寄付に回した。