希望の村〜闇医者グリーフの依頼

■ショートシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月05日〜11月08日

リプレイ公開日:2008年11月13日

●オープニング

●魔物の刻印
 ルシーナがホープ村に住み始めてから、もうじき半年が経つ。
 ルシーナは魔物の魔の手から逃れて来た娘。フオロ分国の東部、ドーン伯爵領内に存在していた魔物の巣窟から命がけで逃れて後、彼女は冒険者が領主を務めるホープ村にて保護を受ける身となった。
 10月になり、ルシーナは思わぬ人物の訪問を受けた。やって来たのは眼光鋭い初老の男。見るからに数々の修羅場をかいくぐってきた凄みがある。男はホープ村の領主が呼び寄せた闇医者グリーフだ。
「お前がルシーナか。近々、手術を受けると聞いたが、お前の手首に彫られた刺青を見せてもらおう」
 威圧するようなグリーフの口調。ルシーナはおずおずとその手を差し出す。手首に巻かれていた布を取り去ると、奇怪な刺青が露になった。
「これは‥‥!」
 グリーフは絶句した。
 そもそもグリーフがホープ村に呼ばれたのは、グリーフが麻薬の扱いに長けた人物であるからだ。ルシーナの手首には、カオスの手の者によって彫り込まれた刺青が未だに残っている。ホープ村の領主は手術によって刺青を消し去ることを望んでいたが、痛みなくしてそれを行うには麻薬の力を借りねばならない。麻酔薬としての麻薬の利用については、マリーネ治療院の副院長たる冒険者が積極的に計画を進めていたが、最初のうちグリーフはそれに反対した。麻薬の危険を知る彼にとって、麻薬を麻酔薬として普及させるなど無謀極まりない試みに思えたからである。
 だが、ルシーナの手首の刺青を目の当たりにして、グリーフは考えを改めた。
「条件によっては協力しても良い。だがそれは副院長の為でも領主殿の為でもなく、カオスどもの悪事を阻止する為だ」
「詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
 ホープ村の領主が問う。
「いいだろう。ルシーナの手首の刺青だが、これはカオスの刻印と呼ばれるものだ」
 グリーフは話を始めた。それはウィルの国の隣国であるハンの国から伝わってきた噂のことだ。
 その噂によれば、ハンの国の辺境にはカオスに支配された土地があるという。カオスの魔物、そしてカオスに魂を売り渡した悪人どもが、我が物顔で歩き回る土地だ。しかもその土地にはカオスの奴隷にされた人間達もいて、奴隷の印として体の一部に奇怪な刺青を彫りこまれる。
「その刺青を彫られた者は一生、カオスの魔の手から逃れる事は出来ない。たとえ逃亡してもカオスの魔物やカオスの手先に付け狙われ、最後には逃亡の見せしめとして世にも惨たらしい殺され方をされる」
 ルシーナがじっと息を詰め、怯えているのを見て、グリーフは笑い飛ばすように言った。
「誰が広めたかは知らぬが、人を怖がらせるにはうってつけの噂だな」
 しかしすぐに真顔に戻る。
「だが、俺は似たような刺青をされた死体を見たことがある。そいつは船に乗ってハンからウィルの港町に逃れて来た者だったが、船の中で何者かに殺され、見つかった時にはバラバラの死体となっていた」

●手術のための手配
 ここでグリーフは話題を変える。
「さて、ルシーナの手術の件だが。麻薬は麻酔薬として使用するとしても、非常に危険な代物だ。患者に吸わせる量を誤れば、患者は眠ったまま二度と目覚めることはない。すなわち患者は死ぬということだ。かといって少量を少しずつ試すのも危険だ。麻薬を幾度も吸えば患者は麻薬中毒になり、麻薬の虜になってしまうからだ。しかも体が麻薬に慣れてくると、体がより多くの麻薬を求めるようになる。かつては少量の麻薬で効いた麻酔が、麻薬の量を増やさねば効かなくなり、しまいには命に関わるほどの大量の麻薬を使わねばならなくなる」
「でも、あなたはのその麻薬を使って、何人もの手術を行ったでしょう?」
「そうとも。だが俺が手術したのは、生きるか死ぬかの瀬戸際にあった者達ばかりだ。腐った手足を切り落とさねば死ぬ。手術の苦しみを和らげる為なら、危険な麻薬でも使うしかなかった」
「何かいい方法は無いの?」
「1つだけある。それは患者に麻薬を吸わせて手術を行った後、解毒の魔法を使って速やかに体内の麻薬を取り除くことだ。後は手術の傷を魔法で癒せばよい。冒険者ならば、その手の魔法に通じた者達とのコネもあることだろう。そちらの手配を頼む。手術に使う麻薬の量を見極めるのは俺がやる。手術の報酬は50Gだ」
 50Gと言えば、この世界の並の人間にとっては大金だ。
「高いなどと言うなよ。これでも大まけにまけたんだからな」

●カラン商会
 手術の話が終わると、何気ない口調でグリーフは過去の出来事に触れた。
「時に領主殿。かつてはバクルの町の悪党どもと、派手にやり合ったそうだな。連中のアジトを丸ごと燃やしたとか、噂は聞いている」
 それはもう1年以上も前の話だ。当時はまだ一介の冒険者に過ぎなかった領主が、仲間達と繰り広げた冒険だ。
「悪党は倒した。でも、悪党に連れ去られた民はまだ戻って来ない」
 奴隷として悪党に売り飛ばされたウィルの貧しき民は、国境を越えたハンの国に送られ、その消息は未だ不明なのだ。
 グリーフが言う。
「1ついい事を教えてやろう。ホープ村のずっと南には、大河に面した船着場の町があるな? そこにはハンの国の商人も船でやって来るが、その中にハンのカラン商会が所有する船がある。船の名はオニキス号で、商会の有力者であるレミンハール・カランが乗っている。実はここだけの話だが、この男は麻薬密売や売買など数々のあくどい裏稼業に手を染めている男だ。それからもう1つ、カラン商会の連中はホープ村にも目をつけているぞ。将来の発展が見込まれる村で、商売のお得意様になりそうだからな」
「そんな話を持ち出して、どうするつもり?」
「手にした情報をどう使いこなすか、まずは冒険者達のお手並み拝見と行きたい。成果が上がれば、さらなる情報も与えよう。だが大きなヘマをやらかしたら、俺との付き合いはこれまでだと覚悟しておくがいい」
 値踏みするような視線を向け、グリーフは不敵に笑う。

●オニキス号
 ホープ村の南にある隣領、ワザン男爵領には船着場の町ガンゾがある。シムの海に流れ込む大河に面した町だから、海からも大きな船がやって来る。
 船着場にはオニキス号の姿があった。帆とオールとを併用した商船だ。
 広い船室ではレミンハール・カランが、王都から戻った配下の者と話している。高価で見栄えのする礼服をスマートに着こなすレミンハールは、一見すると品の良い紳士だ。
「報告、ご苦労。王弟ルーベン・セクテ閣下とミレム姫の結婚話も順調に進んでいるようで何より。我々にとってもいい儲け話になる」
「しかしあちらの商売の方は、ウィルではすっかりやり難くなりましたなぁ」
「なに、昼の後には必ず夜が来るものだ。今は夜の訪れをじっと待てばよい」
 ふと思い出したようにレミンハールは尋ねる。
「時にホープ村の様子はどうだ?」
「相変わらず貧民どものためにせっせと金を費やしておりますが。あの村の領主、まるで金の使い方を分かってねぇ。金が有り余っているなら見栄えがして、他所にも自慢できる贅沢な品々を買えばいいものを」
「贅沢に溺れぬなら、別の手もある」
 レミンハールは含み笑いを浮かべた。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4245 アリル・カーチルト(39歳・♂・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●王の認可
 エーロン王は難しい顔をしている。目の前にいる2人、ホープ村領主クレア・クリストファ(ea0941)と、麻薬対策室室長を兼任するマリーネ治療院副院長ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が、医療用の麻薬をエサにしてカラン商会と取引しようと進言するのだから無理もない。不法に密売される麻薬の流通ルートを、国が管理する医療用合法取引に転換することなど、果たして出来るのだろうか?
 ゾーラクは言う。
「ハンに連れ去られた領民の奪還を図るのが、カラン商会との取引の至上目的。麻薬取引はきっかけ作りに過ぎないと考えます。あくまで用途を医薬用に限定し、品物が陛下や私の目の届く所に全て届けられるのであれば、私はカラン商会との麻薬取引には応じてもいいと思います。決定は陛下のご意志に従います」
 王の返事を待つが王は黙したまま。
「私はやってみせます、この命を懸けて」
 クレアがその決意の程を伝えるや、厳しい口調で王の言葉が返ってきた。
「そこまでの覚悟があるのなら、この目論見が悪しきをのさばらせる結果に終わった時には、おまえ達の命を差し出してもらおう」
 そう言った後で、王は幾分言葉を和らげる。
「だが俺も忠節を誓う臣下を、むざむざと2人も失いたくはない。だから決してしくじるな。事態の進展は必ず俺に報告しろ。くれぐれも念を押しておくが麻薬は魔薬だ。油断して流通の手綱さばきを誤れば、大勢の民に災いをもたらすことを常に心しておけ。状況によっては俺が横槍を入れることもあろうが、悪く思うな」
 このような言葉で、エーロン王は2人の進言を認めた。

●ルシーナの手術
 ホープ村でルシーナの手術が始まる。村長の家に場所を借り、手術の道具一式が運ばれて用意が整うと、ルシーナが連れて来られた。
 ルシーナは緊張の面持ち。大勢の村人が見守る中、ルシーナが家の中に入ると、領主クレアは周囲の者達に呼びかけた。
「手術が済むまでの間に魔物の襲撃があるといけないから、警戒を怠らずにね」
 ヴェガ・キュアノス(ea7463)は魔法を使って魔物の気配を探ってみたが、魔物の存在は探知されず。だが念のためにホーリーフィールドの結界を張り巡らせる。
 家の中でルシーナはグリーフと対面。最初にグリーフは、皿の上に乗せられた黒い粘土状の固形物を示す。ケシの未熟果から作り出された麻薬だ。産地は麻薬対策室が厳重に管理する西ルーケイのケイ畑だ。
「これが麻薬だ この煙を吸うと、天にも昇るような幸せな気持ちになれる。だがその快楽に溺れたが最後、麻薬が切れればとてつもない苦しみに襲われ、麻薬なしには生きられなくなる。その挙句に迎えるのは死だ。そのことを決して忘れるな」
「はい」
 ルシーナは頷き、グリーフはさらに続ける。
「用意したこの麻薬はあくまでも、麻酔薬として手術の痛みを消し去るために使うものだ。今後、領主や副院長の許しなく、自分勝手に麻薬に手を出さないことを誓うか?」
「誓います」
「よろしい。では手術を始めるとしよう」
 ルシーナは寝台に寝かされ、その傍らにヴェガが寄り添う。
「大丈夫。グリーフは顔は怖いが腕は一流じゃ。わしもついておるから安心するのじゃ」
 言葉をかけてルシーナの手を握ると、ルシーナがぎゅっと手に力を込めて握り返すのが分かった。ドーン伯爵領での戦いの時より、ずっとルシーナの事が気がかりだったヴェガである。記憶は消せなくても、せめて忌わしい魔物の呪いから解き放ってやらねばと思う。
 グリーフがパイプに麻薬を詰め、火をつけてルシーナの所に持ってきた。
「この煙をゆっくりと吸うのだ」
 ルシーナはためらっていたが、意を決してパイプに口をつけ、煙を吸い込んだ。だが煙を吸うや顔をしかめ、激しく咳き込む。
「大丈夫か?」
「私の魔法が心の支えになれば」
 導蛍石(eb9949)がメンタルリカバーの魔法をかけてやる。心の中の恐怖と緊張が取り除かれたせいか、ルシーナは落ち着いた様子で再び吸引を試みる。
「ゆっくり、ゆっくりとな。まずは数を数えながらゆっくり吸え。1、2、3‥‥よし、吐け。1、2、3‥‥よし、吸え」
 言葉をかけながらも、グリーフはルシーナの呼吸と脈拍そして瞳孔の広がり具合をチェック。麻薬が効き始め、ルシーナの表情がうっとりしてくる。
 グリーフは針を取り出し、その先端をルシーナの手の甲にぎゅっと押し当てた。
「痛みを感じるか?」
「‥‥いいえ」
「よし、今だ」
 この時を待っていたゾーラクが動き出す。消毒用のワインでルシーナの手首の周りを消毒すると、入墨の彫られた部位にメスを押し当て、その刃で皮膚を切り裂く。ぼたぼたと滴る血は消毒済みの布に染み込ませて取り除き、メスが手首の周りをぐるりと2周すると、入墨された皮膚を引き剥がしにかかった。
 ルシーナはまどろむような、うっとりした表情のまま。麻薬のお陰で痛みを感じないのだ。
 程なくゾーラクの作業は終わる。
「ヴェガ、次を頼みます」
 ヴェガの出番だ。まずはリカバーの魔法。皮を剥ぎ取られた手首からの出血が止まり、後には手首をぐるりと回る幅広の傷跡が残る。続いてクローニングの魔法をかける。傷口に見た目は変化はないが、あと2日も安静にしていれば皮膚が再生し、傷口は消滅することだろう。
 そして最後はアンチドートの魔法。ルシーナがその体内に吸い込んだ麻薬の成分は、瞬時にして消え去った。
「あっ‥‥!」
 夢から覚めた人のようにルシーナが叫ぶ。そして自分の手首をまじまじと見つめる。
「‥‥‥‥」
 その視線は手首に吸い付いて離れない。
「おっと、私の出番ですか」
 再び蛍石がメンタルリカバーの魔法をかける。ルシーナの視線が手首から離れ、回りの一人一人に向けられる。
「よしよし、手術はめでたく成功じゃ。神に感謝を」
 祝福の言葉と共に、ルシーナを抱きしめるヴェガ。
「‥‥ありがとう」
 ようやくルシーナは微笑んだ。
 蛍石は足早に外へ向かう。外では村人達が心配そうに待ち続けている。
「手術は成功です! ルシーナの手首の入墨は消え去りました!」
 蛍石が告げると村人達はどっとどよめき、口々に手術の成功を祝った。

●王都の商館
 カラン商会の情報を集めようと思い立ち、フィラ・ボロゴース(ea9535)は王都へやって来た。
「まぁ、あくどいっつーのはもう分かってる事だが‥‥情報は多い方がいいだろうしな」
 噂話でもいいから集めようと人々に聞いて回るうちに、カラン商会の商館が王都の貴族街にあることを知る。早速に足を向けてみると、これが小奇麗で品の良い館だった。
 最近ではセクテ公とミレム姫の結婚が待ち望まれているせいだろう、商売は繁盛しているようで、館には人が頻繁に出入りしている。
 通りかかった通行人を呼び止めて、カラン商会について尋ねてみると、親切にもこんな事を教えてくれた人がいた。
「少し前まではベクトの町にもカラン商会の拠点があって、随分と羽振りが良かったらしいけどな。ほら、ベクトの町を悪代官が仕切っていた頃の話だよ。あの悪代官が捕らえられた後も、カラン商会は上手に立ち回ったと見えて、ジーザム・エーロン両陛下からも何のお咎めも無し。今じゃこっちの商館を拠点にして、商売に励んでいるって訳だね」
 商館に近づいてみると、玄関近くに掲げられている告知の札が見えた。簡単なセトタ語で書かれていたので、フィラにもすぐに意味が分かった。
「求む、働き手? ──求人募集か」

●ベクトの町で
 ここはベクトの町の某酒場。執行猶予中の死刑囚、イクラ三姉妹がこき使われている店だ。
「あら、久しぶりじゃないの」
 やってきたアリル・カーチルト(eb4245)の姿を見て、三姉妹の長女ベルーガが笑顔を向ける。アリルとは過日の依頼での馴れ初めがある。
「元気にしてたか?」
「元気だけど相変わらず籠の鳥の暮らし。でも、もう慣れたわ」
 アリルは声を潜め、ベルーガの耳に囁く。
「実はカラン商会に探りを入れてんだ。ボスや構成員の性格や特徴やら、どんな細かい事でもいいから何か知ってたら教えてくんねぇか?」
「よりによってカラン商会に?」
「幸運にも、あの女傑領主クレアが領民奪還に燃えてんぜ。有力な情報を提供できれば、おめぇらの減刑や領民を取り返しての罪滅ぼしに光明が見えるかもしんねぇぞ」
 ベルーガは俄然、真剣な顔になった。
「そういう事なら渡りに船よ。レミンハールとオニキス号のことはご存知かしら?」
「まあな」
「でもカラン商会を取り仕切るボスは、カラン一族のラインハームという男よ。レミンハールも切れ者だけど、ラインハームはもっと切れ者でしたたかな男よ。そう言えば‥‥」
「何だ?」
「昔、ラインハームがお忍びでこの町にやって来た時、こんな事を言っていたわ。我々には『富貴の王』がついている。だから金に困ることはないって」
「富貴の王? 何だそりゃ?」
「あたしもそれを知りたくて尋ねたけど、笑って誤魔化されたわ。でも『富貴の王』って何なのかしら?」
 ベルーガから一通り話を聞くと、アリルはベクトの町の治安を預かるルーケイ水上兵団の本部を訪れた。対応に出たのは顔見知りのベージー。
「アリルか。生憎、セリーズ殿は留守だが」
「いや、あんたでいい。さすがにこれからルーケイの母になろうって奴に、あんま無理させられんよな。あんたらは働き甲斐があるだろが」
 アリルはニヤリと笑い、銘酒「桜火」2本を差し入れる。
「まぁ、ひと仕事終わったらこいつで宴会をやってくれってコトでよ」
「こいつは有難い」
 ベージーは酒を受け取り、その後は2人でカラン商会についての情報交換を進める。
「ところでオキニス号の船長だが、調べたところありゃ元海賊のワルだ。今じゃ名前を変えて別人を装っているが、金の為なら平気で何十人もぶち殺しかねんヤツだぞ」
 ベージーの言葉にアリルは顔をしかめる。
「そいつはヤベェぞ」

●会見
 ホープ村から南へ下る馬車がある。乗っているのは領主クレアとフィラ、そしてニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)とチカ・ニシムラ(ea1128)の4人。
 チカはクレアの隣に座っていたが、いつの間にかクレアに抱き付いている。
「にゅふ〜♪ 一緒に移動にゃ〜♪」
「あのね。分かっているとは思うけど、遊びに行くわけじゃないのよ」
 4人の目的はカラン商会のレミンハールとの会見なのだ。
「にゃー、何はともあれ攫われた人達を取り戻すことを考えないとだにゃー。明らかに怪しい人達だから、ほんとは叩いておきたいけど今は我慢なのにゃっ」
 フィラはクレアの護衛役。
「クレアにチカにニルナ、それにあたいと女ばっかりだからな‥‥相手方も油断してくれるといいが」
 煙管を手にして呟くがその煙管、実は武器にも使える『真鉄の煙管』だ。
 馬車はガンゾの町へ入り、大河の岸の船着場へと進む。そこにはオニキス号が停泊していた。
 船に十分近づくと、チカはブレスセンサーの魔法を発動。
「んにゅ、結構人がいそうだにゃ‥‥伏兵とか何か仕掛けてないといいけどにゃー‥‥」
 船の中に何十人もの人間の気配を感知したが、動きからして船に雇われた人夫のようだ。
 クレアはスネークタングを一気に頬張る。これで話術も少しは上手くなる。
「さぁて、行ってみましょうかっ!!」
「みぅっ! 準備完了にゃ♪ それじゃあ行こうにゃー」
 クレアとチカは気合を入れて馬車から降り、その後からフィラとニルナが続く。
 レミンハールは船の中で待っていた。最初にクレアとレミンハールが挨拶を交わし、次はニルナの番。
「初めまして。私は神聖騎士のニルナ・ヒュッケバインと言います。あのカラン商会のレミンハール・カラン様とお会いできたことを光栄に思います」
「天界の神聖騎士とは、しかもお美しい。この出会いは良き出会いとなりましょう」
 レミンハールも礼儀正しく答える。続く話題はホープ村の話となった。
「ホープ村は慈悲深き領主の元、以前とは見違える程に明るい村になったと聞いております」
 と、レミンハール。ニルナが言う。
「ですが、幾ら私達が施しを与えたところで、領民全員を納得させることは不可能です。できるならばカラン様のお力添えがあれば、これからのホープ村も安泰なのですが‥‥」
「私でお役に立てることがあれば、何なりと」
「時に、カラン様は色々な物を取り扱ってると聞いているのですが、例えばどのような物でしょう?」
「およそ、人が欲しがり必要とするありとあらゆる物です。絵画や彫刻などの美術品から、畑に蒔く作物の種に至るまで」
 頃合を見て、クレアは要件を切り出す。
「私はハンの国に奴隷として連れ去られた人々の消息を知りたいの。ご協力願えるかしら?」
「それはそれは」
 レミンハールは深く同情する素振りを見せ、協力を約束した。さらにクレアは、エーロン王と相談した麻薬の合法取引の話をちらつかせる。
「お互い悪い話ではないと思うけど、如何かしら?」
「実に興味深い取引です。ですが私の一存では決めかねますので、ここは商会の上層部に相談するとしましょう」
 こうしてレミンハールとの会見は平穏無事に終了。一行がオニキス号から下船すると、アリルがルーケイ水上兵団の者達と一緒に待っていた。
「無事に終わったわ」
「そりゃ良かった」
 アリル達は万が一の事態に備えて、ずっと待機していたのである。が、結果的にはその必要は無かった。

●謎への一歩
 手術から2日後、ルシーナの手首の傷跡はすっかり消えた。懸念されていた魔物の襲撃も起きなかった。
「これは約束通りの報酬よ」
 50G入った金袋がクレアからグリーフに手渡される。
「確かに受け取ったぞ、領主殿」
 そのやり取りを見ながら、ルシーナは戸惑いとはにかみの表情。
「あの‥‥ここまでしてくれて‥‥何とお礼を言えば‥‥」
 その胸中を察し、クレアは言葉をかけた。
「必ず消すと約束した、それだけで十分よ」
 ゾーラクはグリーフに願う。
「麻酔の使用の手際の良さには感服しました。今後は、私の麻酔治療の先生になってもらえないでしょうか?」
 グリーフは答える。
「まあ良かろう。だが俺は金のあるヤツからは、がっぽり頂くことにしているからな。覚悟はしておけ」
 ヴェガが求める。
「改めて話を聞かせてくれぬかな? 魔物の刻印とハンの国の噂、殺された逃亡奴隷についてもじゃ」
 するとグリーフはこう言った。
「より詳しく知りたいならば俺の話を聞くだけでなく、自分の足で歩き回って情報を得るのが良かろう。近いうちに俺は君たちを、俺の住処がある港町に招待しよう。色々な手がかりがあるはずだ。その分、危険も大きいがな」