フレーデン討伐戦〜騎士マーレン出陣す

■ショートシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月24日〜02月29日

リプレイ公開日:2008年03月04日

●オープニング

●王命下る
 フオロ王家直属の騎士であるマーレン・ルーケイは、謀反人として先王エーガンから死を賜った旧ルーケイ伯マージオ・ルーケイの子息。その彼も今では現国王エーロンに認められ、王の身近で騎士としての修行を積んでいる。
 その日、エーロン王がマーレンを伴って訪れたのは、王都ウィルの城壁外に増設されたゴーレム工房。工房の者に訓練用の中古バガンを用意させると、エーロン王はマーレンに命じた。
「乗って、動かせるかどうか試してみろ」
 その言葉のまま、マーレンはバガンの制御胞に潜り込んだ。
 ゴーレム操縦のやり方なら、教えられた知識を頭の中に叩き込んである。しかし実際に動かせるかどうかは、試してみるまで分からない。
 操縦席に座ると、手元にある水晶玉に手を当てて念じた。
「動け!」
 バガンが起動した。制御胞の内部に外の景色が映し出され、バガンはマーレンの念ずるままゆっくりと立ち上がる。
「よし! 次はゆっくり歩いてみろ!」
 王の命令は続く。前進、後退、回転、ジャンプ、命じられた動きをマーレンが一通り行うと、エーロン王は満足の表情を浮かべた。
「最初にしては上出来だ。今日はこのくらいにしておこう」
 マーレンがバガンから下りると、王は告げた。
「フレーデンの討伐戦は近い。既に冒険者達が入念に戦いの準備を進めているが、俺としては一抹の不安が残る」
「と、申しますと?」
「討伐戦に参戦する新ルーケイ伯をはじめ、戦力の中核となる冒険者には正攻法の戦いを好む者が多い。旧ルーケイ伯遺臣軍のような、筋を曲げず信念を通す敵と戦うにはそれも良かった。だが、今度の敵は卑劣にして狡猾なフレーデン。自分が生き延びるためとあらば、どんな汚い手でも平気で使う男だ」
「ルーケイの地を長く苦しめた盗賊『毒蛇団』が、まさにそういう敵でありました」
 毒蛇団討伐戦の記憶は、マーレンにとっても未だ生々しく残っている。あの戦いは大ウィル国を挙げての一大決戦となり、総司令官ロッド・グロウリング伯の指揮の下、大型フロートシップ・イムペットやウィングドラグーンをも含む多数のゴーレム兵器が投入されたのだ。当時のマーレンはエーロン王の捕虜の身だったが、フロートシップから観戦した戦いの壮絶さを一生忘れることはないだろう。
「トルク王家の軍事力、そしてロッド卿という優れた軍略家がいたからこそ、あの戦いには勝てた。だが、新ルーケイ伯にしても、彼と行動を共にする冒険者にしても、ロッド卿のように非情にはなりきれぬ」
「ならば、誰かがロッド卿の役割を果たさなければ」
「そう言いたいところだが、ロッド卿ほどの名将はそうそう転がってはおらぬ」
 言うなり、エーロン王は気迫のこもった目でマーレンを見据える。続いて発せられた言葉にはマーレンも驚いた。
「討伐戦の準備を進めている本隊とは別に、俺は別働隊を出す。マーレン、おまえはその別働隊の指揮を取り、本隊の手が回らぬところを補え」
「しかし、陛下‥‥」
「いや、何もロッド卿と同等の働きをしろと言うつもりはない。但し、最善を尽くせ。今度の戦いでは、どのような最悪の事態が起きるかも分からぬ。その事を肝に命じておけ。そして刻々と変化する戦いの流れを見極め、臨機応変に行動しろ」
「陛下、畏れながら‥‥」
「何だ?」
「此度の戦いにおいて、必ず成し遂げねばならぬは悪代官フレーデンの捕縛と領民の保護。しかし、ぎりぎりの状況でそのどちらかを選びどちらかを捨てねばならぬとなった時には‥‥」
 マーレンは暫し沈黙し、王の言葉を待つ。すると、逆にエーロン王は問いかけた。
「おまえならどうする?」
「私は躊躇わずフレーデンを捨て、領民の命を取ります」
「それでよい」
 エーロン王は、満足の微笑みを見せながら言い添えた。
「別働隊にはフオロ王家の所有する旧型フロートシップを1隻、貸し与えよう。戦いの準備を急げ。言うまでもないことだが、本隊の足手まといにはなるなよ」

●悪夢
 悪夢を見ていた。
 燃え盛る炎の中で人々が叫んでいる。
「助けくれぇ!」
「熱いよ、熱いよぉ!」
「俺は死にたくない!」
「お願いだからこの子の命だけでも!」
 叫んでいるのは男に女、老人に子ども。皆、炎に焼かれて苦しみもだえている。
 だが、焼かれる人々の苦悶をあざ笑う笑い声が聞こえる。
 馬に乗ったならず者達、悪代官フレーデンの手勢だ。
 ならず者達は人々を一つ家に閉じ込めると、ありったけの油を撒いて家に火を放ったのだ。
 焼かれる人々を置き去りにし、ならず者達は逃げていく。見れば遠くにも、立ち上る幾筋もの黒い煙が見える。フレーデンの支配地に存在する全ての村は、一斉に火を放たれていたのだ。
「‥‥‥‥っ!!」
 恐ろしさのあまり目が覚め、それが夢だと気づく。
 時は真夜中。周りは真っ暗闇。
 再び眠ろうとしたマーレンだが、夢の衝撃が強すぎて眠れない。
(「あの夢が正夢にならなければいいけれど‥‥いいや、正夢にしてはならないんだ」)
 正夢かどうかはともかくとして、討伐戦のことばかり考えていたせいで、夢にまで見てしまったのだろうと自分を納得させる。そしてマーレンは火打石を使い、部屋のランプに火を点す。
 枕元のテーブルには地図が載っていた。最新の情報が記載された王領ラシェットの地図だ。
(「僕は、どうしたらいい?」)
 これまで幾度も発した問いを、再び繰り返す。
(「やはり、向かうべきは東だ。それしか考えられない」)
 フレーデンの軍が逃走する先は東の隣領、親密な関係にあるドーン伯爵領としか考えられない。館から通じる地下通路の出入り口も東側だし、フレーデンが設置したエアルートの拠点も東を守る位置にある。そして東側に広がる森は、多数のモンスターが出没すると言われる場所。
(「問題は、東に向かうタイミングだ」)
 既に冒険者ギルドからは、フレーデン討伐戦に関連した3つの依頼が出されている。戦いが始まるまでのフレーデンの足止め、戦いが始まってからのフレーデンの捕縛、そして戦いの最中における領民の保護。それぞれの依頼で厳密な役割分担が行われているわけではないが、3つの依頼において冒険者はそのいずれかの役割を果たすことになる。
(「だけど、何か見落としていることはないか?」)
 考えを巡らすうちに、マーレンは思い当たった。
(「もしも隣領のドーン伯爵領から、フレーデンの逃走に呼応する形で敵が攻めてきたら?」)
 その敵はならず者の一団かもしれないし、森からおびき出されたモンスターの群れかもしれない。恐らく何が起きるかは、戦いの時になってみるまでは分かるまい。何も起きないことだってあり得るのだ。
 だが、マーレンの決意はここに定まった。
(「僕の果たすべき役割は、東からの敵襲に対する盾となることだ。東から敵が攻めて来ない時には、領民の救援に回るなりフレーデンの捕縛に回るなりすればいい」)
 それから程なくして、マーレン指揮する別働隊に加わる人員の募集が、冒険者ギルドにおいて行われた。

●冒険者ギルドより
 当依頼では、以下のゴーレムが冒険者に貸し出される。

 バガン 最大4体
 フロートチャリオット 最大4台
 ゴーレムグライダー 最大4機

 別働隊の人員はフオロ王家の所有する旧型フロートシップ『ミントリュース』で移動を行う。なお操船に必要な人員は、フオロ王家で手配する。

●今回の参加者

 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●出陣
 時は2月24日の夜。フロートシップ『ミントリュース』の出航準備が慌ただしく進む。乗船したリール・アルシャス(eb4402)は、甲板で手際よく作業を指揮する若武者を見た。
「あれがマーレン様?」
 初めて見るマーレンは思ったよりも若い。聞けば今年の2月12日に16歳の誕生日を迎えたのだとか。
 慌ただしい最中ながらも冒険者一同、討伐軍別働隊の若き指揮官に挨拶。ついでにリールは訊ねてみた。
「マーレン様とお呼びして宜しいでしょうか?」
「構いませんよ」
 マーレンに対するリールの第一印象は、物静かな若者。
 同じく初対面であるマグナ・アドミラル(ea4868)は、礼を逸さず堂々たる立ち振る舞いでマーレンに挨拶。
「民の為、王家の為になるなら、わが剣の全てを委ねよう。フォロの剣として、この戦いに全てを注ぐ」
 歴戦の戦士を前に、マーレンも真剣に言葉を返す。
「貴殿の命、預からせて頂きます」
 しかし、乗船した冒険者の中には七刻双武(ea3866)のように、かつてマーレンと戦いを共にした者もいる。最初に出会った頃と比べると、今のマーレンは騎士としての修行を積み重ね、一回りも二回りも頼もしさが増して見えた。
「悪代官の心を読み、もっとも重要な場所を戦場に選ばれたマーレン殿の判断に間違いはござらん。この戦い勝ちまそうぞ」
 と、双武は励ましの言葉を贈る。
「お言葉、感謝します」
 マーレンは短く礼を述べたが、一つの兵団を預かる指揮官の緊張は、身近にいる双武にもひしひしと伝わってくる。
(「敵は毒蛇に匹敵する悪代官じゃ。努々油断せず、民を守り、マーレン殿の戦にまた一つ、勝ち戦を加えるとしようじゃて」)
 双武の決意は固い。
 ゴーレムも次々と船に搬入される。うち1つはフレッド・イースタン(eb4181)が独占使用権を持つバガン。装備はソードとシールドだ。
「このバガンをマーレンさんに使ってもらいます」
 フレッドの好意による貸与である。マーレンは律儀に、ありがとうと礼を述べた。

●敵地
 明けて25日の朝。フレーデン討伐軍を乗せた4隻のフロートシップは王都を発つ。本陣は王領ラシェットの南、大河の岸辺に設けられ、ここにマリーネ姫の座乗艦アルテイラ号を残して、残るフロートシップはラシェット領の奧深くへと進軍した。
 ゴーレム工房から借り受けたライフエアバックの点検を終え、リールが船窓から外を見れば、下界には荒れ果てた村が点在する平原の広がり。既にここは敵地だ。リールは心中でつぶやく。
(「マーレン様、皆と力を合わせ、皆が安心して日々の生活を送れるような世界に。それが私の使命。領民を守る為に戦う皆の邪魔はさせない。兎に角、敵の進撃は食い止める」)
 ミントリュース号は兵員輸送の役目も果たし、その船内には100名ものルーケイ水上兵団兵士が乗り込む。村が近づくやフロートシップはその間近に着陸し、水上兵団兵士で編成された攻略隊を手際よく下ろすと、次なる村へと向かう。冒険者達の事前工作が功を奏したと見え、敵の目立った抵抗はない。
「村は1つたりとも焼かれずに済みました。村人も無事でいることでしょう」
 船から状況を見届け、マーレンは安堵の表情。
「じゃが、正念場はこれからじゃな」
「はい」
 双武の言葉にマーレンは頷く。
 船は東進を続け、やがてフレーデンが建設したエアルートの拠点が見えてきた。
 本隊の到着前に、既に冒険者の別隊が戦闘を始めている。敵兵を蹂躙するのは巨大なロック鳥、戦いは冒険者優勢だ。これなら別働隊は東から攻め入るであろう敵に専念できそうだ。

●誘き出された魔物
 ミントリュース号がラシェット領の東部、森と平地の境目に着陸すると、シルバー・ストーム(ea3651)は真っ先に辺りの地面を調べて回る。別隊の者から聞いた話では、フレーデンの館から伸びる地下通路への出入口がこの辺りにあるはず。ダガーを何度も地面に突き刺して調べるうちに、刃先が固い物にぶつかった。出入口を塞ぐ石蓋だ。
「ここか!」
 シルバーは出入口の回りに水を撒き、フリーズフィールドのスクロール魔法で氷点下の空間を出入口の場所に作りだした。滑って転ぶ程度の罠だが、逃走防止に役立てばいい。マグナも出入口の近辺にトラップを設置する。
 作業を終えたシルバーは地面に耳を近づけて探りを入れてみたが、地下からはまだ何の物音も聞こえない。
 その代わり、東の森がやけに騒々しい。怯えた動物が何匹も森から飛び出してくる。
 近くには本隊のフレーデン捕縛班に属する冒険者も展開しており、その仲間とディアッカ・ディアボロス(ea5597)はテレパシーで連絡を取る。入った情報によれば、森の中を魔物がうろついているらしい。上空で哨戒を行うのはディアッカの連れてきたペットのグリフォン2匹、そして草薙麟太郎(eb4313)の操縦するグライダー。
「敵の出方が分からない以上、空と地上の両方に対処しなくてはいけませんね。こんなときこそドラグーンがあれば楽なのですが」
 実は空戦騎士団長たっての願いで、討伐戦には1騎のドラグーンが投入されている。これは目下、1kmほど離れたエアルート拠点を攻略中。その姿は麟太郎のいる場所からも視認できる。
 突然、グライダーにくくりつけた風信器から、急を告げるディアッカの声が。
「緊急事態です! 魔物の大群です!」
「何っ!?」
 下界を見下ろした麟太郎の目に、森からぞろぞろと現れる魔物の大群が映った。ジ・アースでズゥンビと言われるところの、動き回る死体だ。人の死体、オーガの死体、馬の死体‥‥いや、そればかりではない。地球では滅亡した巨大生物、恐竜によく似た生き物の死体までもがぞろぞろと。それはヒスタ大陸に住む恐獣だ。
「助けてくれぇ〜!」
 男の悲痛な叫びが聞こえる。しかも間近の空中から。
 そこへ目を転じた麟太郎は見た。
 空飛ぶ魔物だ。翼の端から端まで4mもある巨大なハゲタカだ。かぎ爪のついた足で血まみれの男を足でつかみ、男は恐怖に叫んでいる。
 空飛ぶ魔物はもう1匹いる。そいつの足にぶら下がっているのは血まみれの子どもだ。
「血の臭いで魔物を誘き出しているのか!」
 ハゲタカの魔物2匹は低空を飛び、魔物の大群を西へ西へと誘導する。その進行方向にあるのは人々の住む村だ。
「村の手前で食い止めなければ!」
 麟太郎はハゲタカの魔物に狙いを定め、グライダーで迫る。

●チャリオットの戦い
(「こんな時に!」)
 シルバーは焦った。魔物の群れは地下通路の出入口の間近に迫っている。魔物相手に戦うのはいいが、このどさくさに紛れてフレーデンに逃げられたら?
(「ここからは動けない」)
 だが、シルバーにはアイスチャクラのスクロール魔法がある。魔法で氷の円盤を現出させると、シルバーは出入口の間近に踏みとどまったまま、近づく魔物への攻撃を開始した。
(「これは便利」)
 氷の円盤は投げても投げても手元に戻ってくる武器だ。こんな時にはとても重宝する。
 だが、魔物は呆れる程に数が多い。
 指揮官マーレンのバガンとリールのバガンが動き出した。マーレンはバガン搭載の風信器で指示を飛ばす。
「チャリオット班、準備は!?」
「既に準備完了!」
「チャリオット班は前衛を! バガンは後方の盾になります!」
「承知した!」
 上空ではシフールのディアッカが哨戒中。そちらへもバガンの手を振って合図を送る。
 ディアッカからテレパシーで報告が届いた。
『地上の魔物は人型が約30体、馬型が5体、人サイズ恐獣型が7体、大型恐獣型が2体、まだまだ数は増えています』
『ディアッカは引き続き空から状況の報告を! グリフォンは手薄な場所の支援に!』
『了解!』
 フロートチャリオットが動き出す。操縦者はフレッド、車体の左右側面には双武とマグナが、攻撃手として配置する。発進するやチャリオットは急加速、車体を前屈させて魔物の群れに肉薄し、十分に距離が近づくと勢いを残した慣性移動で車体を水平に戻して魔物の群れに突っ込んだ。
 一見すると勢い任せだが、実は巧みに正面衝突を避けつつ、車体の左右の魔物にはぎりぎりまで接近する。敵は動きの鈍い死体の魔物、フレッドは余裕で魔物の群れの中を突っ走れる。
「ぬうっ!!」
「むおおっ!!」
 双武の太刀「三条宗近」とマグナの斬馬刀が魔物の手足を切り飛ばし、首を刎ね、胴を薙ぐ。チャリオットの側面からの攻撃は、双武にとっては既にチャリオットレースで経験済み。あの時の標的は動かぬ人形だったが、今回の動き回る敵にしても、剣術に熟達した双武にとっては動かぬ人形も同然。
 そしてマグナの斬馬刀は長さ2m。リーチが長く、チャリオット上からの攻撃にはうってつけだ。
 馬型の魔物がマグナの目に止まる。
「ぬあああっ!!」
 チャリオットとすれ違った一瞬、突き出される斬馬刀。馬の首が胴と離れて宙に舞う。
 斬馬刀はその名のごとく馬をぶった斬った。死体の馬ではあったけれど。
 さらなる得物がマグナの視界に入る。三本角の大型の恐獣トリケラトプスだ。その全長は9m、チャリオットよりも一回り大きい。
「こいつはぶった斬るのに難儀するな」
 十分に距離が近づくや、斬馬刀の一撃。だが図体がでかいだけあって、斬馬刀の一撃でもびくともしない。
 すると、マグナの頭の中に声が響く。
『援護します!』
 ディアッカからのテレパシーだ。
 空からディアッカが急降下。トリケラトプスの真上を通り過ぎざま、シャドウバインディングの魔法を放つ。トリケラトプスは足元の影に固定されて動かなくなった。
「動かない敵なら、思いっきりスピード出して近づける!」
 フレッドの操縦の腕ならチャリオットを正面衝突させてぶち壊す心配はない。チャリオットがUターンし、一段とスピードを上げてトリケラトプスに接近。絶妙のタイミングで繰り出された斬馬刀は、トリケラトプスの胴体を大きく切り裂いた。

●空飛ぶ魔物
 2体のバガンはもう一頭のトリケラトプスと戦闘を繰り広げる。振り下ろすゴーレム剣で胴体をめった打ち。トリケラトプスは今度こそ完全な死体と化す。
「これで大きいのは片付いた。リールはグライダーに乗り換えて空からの援護を」
 マーレンが風信器で指示するや、その目の前でハゲワシの魔物が、足に掴んでいた血まみれ男を投げ捨てた。
「うわああああっ!!」
 男は地に転がり、回りの魔物どもがどっと群がり寄せる。
「ぎゃああああーっ!!」
 断末魔を残し、男は魔物に貪り喰われた。
「何てことを!」
 ハゲワシの魔物は投げ捨てた男の代わりに、地上にいた女性をかっさらう。討伐軍のドラグーンがそれに気づき、魔物を追う。
 もう1羽のハゲワシの魔物は、麟太郎のグライダーを相手に戦っている。
 麟太郎は苦戦していた。魔物はその足に子どもを捕らえている。うかつに攻撃すれば子どもが墜死しかねない。
(「森の上に誘き出し、イリュージョンの魔法で木の生い茂る場所に墜落させるか」)
 イリュージョンの魔法は麟太郎が使える唯一の魔法。他に手は考えられないが、グライダーを操縦しながらの魔法使用は困難を伴う。だが、やるしかない。
 麟太郎のグライダーが接近するや、ハゲワシの魔物は逃げるようにして森の上空へ。
(「今だ!」)
 魔法の射程内に魔物を収めんと、さらにグライダーの速力を増す。
 突然、魔物が墜落する。魔法を使ってもいないのに。
「何!?」
 いや、墜落は見せかけだった。魔物はわざとグライダーにその頭上を通過させ、麟太郎の背後に回り込んだのだ。
「しまった!」
 後方から魔物のかぎ爪が迫る。慌ててグライダーの速力を増し、魔物を引き離す。
 リールのグライダーが応援に駆けつけた。2機のグライダーを相手の戦いは不利と考えたか、魔物はいきなり掴んでいた子どもを投げ捨てた。
「あっ!」
 子どもの体は鬱蒼と生い茂る木々の中に吸い込まれ、魔物もグライダーから逃れるように森の奥へ姿を消す。
「子どもが落ちたのはこの辺りです!」
「僕は敵に備えます! リールさんは子どもの救出を!」
 麟太郎に警戒を任せ、リールはグライダーをゆっくりと森の中へ下ろす。降下の邪魔になる太い木の枝を避けつつ、慎重に。
 着陸して程なく子どもは見つかった。だが重傷を負い、グライダーの後部座席に座らせることも出来ない。リールはグライダーにくくりつけた風信器に叫ぶ。
「至急、森へ応援を寄越してください! 重傷の子どもがいます!」

●勝利
 魔物はおおかた片付いた。エアルート拠点も既に本隊が制圧。
『討ち漏らした魔物は数体を残すのみ。森からの魔物出現も止みました。ですが、南方の森ではまだ戦闘が続いています』
 ディアッカからテレパシーでの報告を受け、マーレンは配下の者達に命ずる。
「ここは本隊に任せ、我々は南の森の支援に向かいます! 総員、速やかに乗船を!」
 走ってきたフロートチャリオットがふわりと浮き上がり、船の甲板に乗っかる。グライダーも甲板に着艦。マーレンのバガンも船体に手をかけてよじ登り、船の回りに展開していたルーケイ水上兵団の兵士達も大急ぎで乗船する。
 そして船は南の森へ急行。船が着地するや、フレッドの操縦するチャリオットが、船の甲板からふわりと地面に着地し、車上のマグナは斬馬刀をその手に構え、迫り来る魔物の群れを見据える。
「民を苦しめる魔物は、全て斬る!」
 先の戦法そのままに、チャリオットは再び魔物の群れに突っ込む。勝負が決するまでにさほど時間はかからなかった。
 魔物が全て片付くと、冒険者達は地下通路の出入口にぞろぞろと集結。やがて、屋敷を逃げ出したフレーデン一味が地下通路から姿を現したが、冒険者を目の前にするやその誰もがろくな抵抗も出来ずに引っ捕らえられ、フレーデンは冒険者の1人に散々にぶちのめされた。
 頃合いを見計らい、シルバーはアイスコフィンのスクロール魔法を使ってフレーデンを氷の中に閉じこめ、捕らえられたフレーデンはフロートシップに乗せられて王都への移送を待つ身となった。

●救出
 ここは討伐軍によって設けられた救護所。
 毛布に横たわった子どもが目を開ける。
 目の前にはリールの姿。
「気がつきましたね、良かった」
 リールからの連絡で救護兵が森に遣わされ、子どもを救護所まで運び込んだ。手当てを受けて意識を取り戻した子どもは、感情を失ったような表情のない顔でリールを見つめて尋ねる。
「‥‥お父ちゃんは?」
 リールはその問いに答える代わりに、小さなナイフを差し出す。
「これに見覚えは?」
 それは魔物に貪り食われた男の遺品。
 子どもは答えた。
「‥‥これ、お父ちゃんの」
 後に子どもから聞きだしたところによれば、犠牲になった男と子どもは流民の親子。この辺りの土地を彷徨っていたところを怪しげな連中にさらわれ、気がつけば魔物を誘き出す囮にされていたという。