学校の怪談1〜お隣は惨劇の館

■シリーズシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月20日

リプレイ公開日:2008年03月26日

●オープニング

●生徒の噂
 庶民の学校は王都ウィルの平民街にある。先王エーガンの治世下、冒険者の進言を受けて創られた学校だ。開校までは紆余曲折があったが、今では元騎士アージェン・ラークが校長に、その老いたる父ラーシェン・ラークが副校長に据えられ、王都の庶民を相手に授業が始まっている。
 熱意をもって求める生徒に、当人が必要とする知識を教え、必要な技術を伝授する。学びたい者は老若男女を問わず受け入れる。これがアージェン校長の方針だ。読み書きの熟達を望む者には読み書きを教え、悪党に負けぬ強い人間になりたいと望む者には護身術を教える。もちろん教師を勤めるのはラーク親子だ。
 学校の存在は庶民の間で評判になり、少しずつだが生徒が集まり始めていた。その生徒の間に流れる噂がある。
「学校の隣のお屋敷だけど、あそこに出るんだってよな〜」
「出るって、魔物でも住んでいるの?」
「はっきりと姿を見た者はいないけれど、人間じゃない何かが住んでいるのは本当みたいだよ」
「昔、屋敷に住んでいた旦那がぶち殺されたのも、魔物の仕業だっていうじゃないか」
「旦那の死体、ぐっちゃぐちゃに潰されていたんだってよ」
「‥‥きゃあっ! 怖い!」
「しかも犯人は未だに見つからないし」
「おまけに旦那が殺された時、お屋敷の扉は全て鍵がかかっていたっていうじゃないか。誰も館の外へ出ていった形跡がないんだよ」
「すると、魔物はまだお屋敷の中に‥‥」
 噂に興じていると、いきなり足元を黒い影が横切った。
「で、出たぁーっ!!」
 驚いて叫んだ生徒達だったが、よく見ればそれはご近所で飼われている飼い猫。
「‥‥な〜んだ、脅かすなよ」

●校長乗り出す
 やがて噂はアージェン校長の耳にも届く。
「せっかく生徒も集まりだしたというのに、妙な噂ばかりが広まって困ったものだ」
 校長は隣のお屋敷の管理人に掛け合い、自ら調査に乗り出すことにした。
 屋敷の管理人が鍵を持ってやって来ると、アージェンは2人で屋敷の中に足を踏み入れる。
「この屋敷の主は裕福な商人でして、屋敷の中には各地から取り寄せられた高価な品々で溢れかえっていたものです」
 と、管理人は説明するが、今の屋敷の中はがらんどうで寒々としている。
「過去の栄華も今いずこ、か」
 虚しさを感じつつアージェンがつぶやいたその時。
 どん!
 いきなり物音が響いた。商人の使いはびくっとする。
「今のは何だ?」
「さあ‥‥ネズミでもいましたか」
 どん!
 またしても物音。
「あれがネズミだとしたら、それは子牛ほどにも大きなネズミだろうな」
 アージェンの言葉に管理人は困った顔をする。
「そういえば、かつて冒険者がこの屋敷を調べた時も、謎の物音がしたのではなかったか?」
 アージェンは去年の話を思い出した。
 2人は息を潜めてその場に立ち、次に起こるかもしれない何かを待ち受ける。
 しかし待てども待てども何も起こらない。2度聞こえた謎の物音も、もはや響いてこなかった。
「物音は地下室から聞こえてきたようだな。地下室の鍵は持っているか?」
「はい‥‥ございます」
「では、地下室を調べよう」
 アージェンと管理人は地下室への階段を下りて行く。地下室の扉の鍵を開けて扉を開き、手に持つランタンの光りで中を照らすと、そこには‥‥。
「何だ、これは?」
 地下室には彫像が置かれていた。
 等身大の女性の像が1つ。そして、実物サイズの豹の像が2つ。
 そして床には血の広がった痕が、黒い染みとなって残っている。
「屋敷の主はこの地下室で殺されたのでございます。ここは主にとって、とっておきの宝物をしまっておく部屋でして‥‥」
 語る管理人の声は震えていた。
「主が殺された時、地下室の扉は内側から鍵をかけられ、閉じられていたのだな?」
「‥‥はい。使用人達がいくら外から主を呼んでも返事が無く、仕方ないので奥方様に預けられていた合い鍵を使って扉を開きました。そしてぐちゃぐちゃに潰された主の亡骸を発見したのでございます」
「主の亡骸が運び出された後、この地下室はどうなった?」
「何もかも当時のままで‥‥」
 アージェンが等身大の女性像にちらりと目をやると、その胸にはニワトリの卵ほどにも大きな赤い宝石が。アージェンの胸中を嫌な予感が過ぎる。
「ここから出よう。この地下室以外にも、屋敷の中を調べておきたい」
 早々と地下室から立ち去ると、アージェンは管理人と一緒になって屋敷の中を調べて回る。元々が裕福な商人の館だったから、屋敷は広く部屋数もある。しかしざっと調べても、とりたてて怪しい箇所は見付からない。あの地下室を除いては。
 一通り調べ終えると、時は夕暮れ時。屋敷の門から外へ出ようとしたその時だ。
「ひえっ!」
 管理人が恐怖の声を上げ、屋敷の井戸を指さした。
「どうした!?」
 振り返ったアージェンも井戸に視線をやり、それを見た。
「‥‥あれは何だ?」
 夕暮れの薄暗がりの中、井戸の周りを炎がゆらゆらと飛んでいる。まるで命を持った生き物のように。
「あ、あれは‥‥魔物の炎でしょうか?」
 管理人、アージェンの背中の影に隠れてガチガチ震えっ放し。
「あれがカオスの魔物だとしたら、とんでもないことだ。だが館で殺人事件があってから長いこと、館の近辺で人が魔物に襲われたという話はまるで聞かない。だから俺は、あれがとりたてて邪悪なものとは思えぬが、完全に無害と決めつけるわけにもいかんだろう」
 見たところ炎は井戸の周りから離れようとしない。井戸の周りを飛び回る炎は放っておいて、アージェンと管理人は屋敷の外へ出た。
 さてその翌日。アージェンは冒険者ギルドに依頼を出した。

『庶民の学校に隣接する屋敷の調査を行う。勇敢なる冒険者よ来たれ。なお屋敷は奇怪なる殺人事件の現場につき、予期せぬ危険に晒される可能性も少なからず。十分に注意されたし』

●今回の参加者

 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●屋敷の怪
 平民街にバガンがやって来た。
「こりゃ一体、何ごとだよ!?」
「何でも学校の隣のお屋敷の魔物退治だとさ」
「へえ? あの空き家に魔物が住んでいたのかよ?」
「そういや昔、お屋敷に住んでいた商人が殺された事件があったよな」
「その犯人が魔物で、まだお屋敷に巣くっているらしいぜ」
 街人は噂し合う。このバガン、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)が持ち込んだものだ。例の屋敷に潜んでいるかもしれない魔物が外に逃げ出すという、最悪の場合への備えである。
 屋敷にはアージェン校長と、屋敷の管理人が待っていた。
 シャリーアのバガンを屋敷の庭に停め、やって来た冒険者達はアージェンと管理人に挨拶。
「せっかく生徒が集まりだしたというのに妙な噂が広がるのは‥‥今後の為に解決するのは急務かと」
 まずはイシュカ・エアシールド(eb3839)が事情を聴取する。
「以前にも冒険者のニシムラ様が物音を聞かれていましたよね? ニシムラ様とラーク様達が物音を聞かれたのは屋敷のどの辺りですか?」
「玄関口からしばらく歩いた場所だ」
 アージェンが一行を屋敷の中に導き入れる。屋敷の奧へしばらく歩くと‥‥。
 どん! 地下室の辺りから物音が響く。
「あの音だ」
 どん! 再び物音が。
「もしや、一定の所を通った時だけ音が聞こえるとか?」
 イシュカは試みに、今し方通った場所を何度か往復してみた。だが、先ほど聞こえた物音が再び聞こえることは無かった。
「では、地下室へ行ってみましょう」
 階段を下りて地下室へ。地下室の扉を開き、ランタンの光で照らすと、1体の女性の像と2体の豹の像が光の中に浮かび上がる。
「他の部屋はがらんどうなのに、何故地下室の彫像は残っているのでしょう? ご主人が亡くなられて奥様が屋敷を手放したにしても、収入の道が断たれたのに彫像の宝石も売らずに。これは納得がいかないような‥‥」
 答を期待して管理人に目線をやる。
「それは、色々な事情がありまして‥‥」
 管理人は困惑の表情で言葉を濁す。すると代わりにアージェンが答えた。
「商家に仕える者の口からは話し難い事もあろう。だから俺の口から答えてやろう。屋敷の主が殺された後、その奥方がこれらの像を売り払わなかった理由は、主の死が像の呪いによるものではないかと恐れたからだ。呪われた像を売り払った相手がまた怪死するような事態になれば、像を売った商家の評判も悪くなろう。だから屋敷に残る財物を売り払った後も、像だけは人目に触れぬよう地下室に残したというわけだ」
 管理人は曖昧な笑いを浮かべ、取り繕うように言う。
「私はただの使用人、私から申し上げることは何も御座いません」

●過去見
「それでは、先ほど音がした時にこの地下室で何が起きていたのか、私が過去を見て調べてみましょう」
 ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が先ほど音の聞こえた時間に合わせて、過去見の魔法パーストを発動した。
 見えたのは真っ暗闇。そりゃ当然だ。この地下室に窓は無く、冒険者達が来る前にランタンやロウソクなどの光源が置いてあったわけではない。いくら夜目が利く人間だって、星明かりさえも存在しない闇の中で物を見ることは出来ない。
 だが過去見を続けていると、魔法の視界にぼおっとした光が現れた。その光は豹の形で、さっと動いた後で動きを止め、やがて光は闇の中に消えた。
「ああ、つまりはこういうことですか」
 目の前にある豹の像を眺めつつ、ゾーラクは地下室で何が起きたのかを悟る。
「この豹の像には何かの魔法がかけられていて、近づいてくる者の物音に反応して動くようです」
 先ほど見たおぼろな光を形をファンタズムの魔法で再現しつつ、ゾーラクは仲間達に説明する。ゾーラクの見た光は、像にかけられた魔法が発動する時に放たれる微かな魔法光だったのだ。
「井戸に現れた炎についても、過去見で確かめてみましょう」
 ひとまず一行は屋敷の外へ出て、井戸に向かった。

●井戸の底
「炎を見た日時を覚えていますか?」
「あれは3月13日の夕方、空が夕焼け色に染まっていた頃合いだ」
 アージェンの答を元にゾーラクは時間の見当をつけ、井戸の場所でパーストを発動。
 見えた。井戸の周りをふわふわ飛び回る炎が。
 幾度かパースト魔法を繰り返し、炎がどこから現れたかを確かめた。
 炎は井戸の中からふわりと現れている。
「もしかしたら井戸の怪奇現象は、井戸に落ちた何者かが助けを求めるものかもしれません」
 井戸の底を覗いてみると、陽精霊の光の届かぬ暗がりの中、かなり下の方で水面がちらちらと光を反射している。
「炎が友好的かどうかわかりませんし‥‥出ていない時に一度調べておいた方が宜しいかと」
 1mおきに結び目を作ったロープの端を馬の鞍にくくりつけ、もう一方の端を井戸の中に垂らすと、イシュカはロープを伝って井戸の中へ。シャリーアも同じくロープを伝ってイシュカに続く。
 チカ・ニシムラ(ea1128)はリトルフライの魔法が使えるから、宙をふわふわと浮きながら井戸の底へと下りていった。
「井戸の中に何かあるのかにゃー?」
 井戸の底が近づくと、イシュカはホーリーライトの魔法で光球を作りだし、水面を照らし出した。
「水の底に何かが沈んでいます」
 水底に何かが沈んでいる。よく見るとそれは片手で持てるくらいの金属製の像だ。翼のある竜の形をしている。部屋を飾る置物だろうか? いや、どこかの遺跡に安置されていそうな魔除けの像にも見える。
 すると、ホーリーライトの光球とは別の明かりが、イシュカ達の間近に現れた。
 ふわふわと宙を漂う炎だ。
「にゅ、あれが例の炎‥‥。話できるようなものなのか‥‥とりあえず試してみるにゃ♪」
 以下、チカが炎と交わしたテレパシーの会話である。

──こんにちわだにゃー。
〜〜なんだこいつらは?
──ここで何してるにゃ?
〜〜番をしている。
──何の番をしているにゃ?
〜〜水の底に沈んでいるアレだ。
──あの竜の像かにゃ?
〜〜アレの近くにいると気持ちがいい。アレから離れたくない。
──あの像を調べてみてもいいかにゃ?
〜〜おまえアレを盗む気か? ならば許さんぞ。
──分かったにゃ。像には触らずにそっとしておくにゃ。

 シャリーアが指にはめた『石の中の蝶』の指輪を見ると、宝石の中の蝶はまったく動かない。現れた炎は邪悪な魔物ではないということだ。
「このまま放置しておいても、人々に危害を加えることはないだろう」
 冒険者達は調査を切り上げ、井戸から上がった。

●地下室の像
 一行は再び屋敷の地下室へ。
「むー、地下室っていうだけで怪しい雰囲気だにゃー。‥‥とりあえず虫はいないよにゃ?」
 ランタンの光を頼りに、地下室の内部を調べるチカ。置いてある像にはあまり近寄らず、離れた場所から観察するに留める。
「何かの罠なのかにゃー‥‥? この銅像の宝石守るための‥‥」
「地下室は宝物庫だし、女性像の宝石や像本体を触ると触った相手を撃滅する為に像が動きだす、盗賊除けの仕掛けがあるのでは?」
 シャリーアの言葉を聞いて、アージェンが言う。
「しかしいかな大金持ちとはいえ、たかが一介の商人にそんな大それた仕掛けを作る力があるとは思えぬ。石像に魔法を付与して動かすなど、経験を積んだウィザードくらいにしか出来ぬ技。そんなウィザードを使役するなど、一国の王か王に匹敵する大貴族でもなければ出来ぬことだ」
 言いながら、アージェンは女性の像と豹の像をじっくりと観察する。
「よく見れば、見事な像だ。まるで国でも指折り数えられる程の、名工の手になるかのようだ。それにしても美しい‥‥」
 心を奪われたかのように、アージェンは女性の像に見入っている。その耳元でシャリーアが囁いた。
「もしもこの像が殺人事件の原因なら、なるべく破壊すべきでは?」
「こんな見事な像をか? 勿体ないようにも思うが‥‥」
 アージェンは思案顔。心中では像を壊すべきか壊さぬべきか迷っているようで。
「原因が本当にこの像かどうか、確かめてみよう」
 シャリーアがダーツを像に投げつけた。
 コン。ダーツは乾いた音を立てて像に当たり、床に落ちる。
 シャリーアは再びダーツを手にし、今度は女性の像の胸に輝く宝石めがけて投げつけた。
 コン。ダーツが宝石に当たった途端。
 像が動いた。垂れていた両腕が素早く動き、胸の中央で固く組み合わさる。その有り様はさながら、真正面から宝石に手を伸ばした者を締め付けるような動きだった。
 同時に2匹の豹の像も動いた。女性の像の左右を護る位置に移動し、威嚇する姿勢を取る。
 咄嗟に、イシュカはホーリーフィールドを張り巡らして仲間達を護る。
「碧丸!」
 連れてきたペットの忍犬をシャリーアは呼び寄せる。像が攻撃してきたら、いつでも飛びかかれるように。
 ところが、3つの像は襲ってはこなかった。女性の像も豹の像もしばらくその場に踏みとどまると、やがて何ごともなかったかのように動きを止めた。
「なんて悪趣味な像だ‥‥」
 アージェンが呟く。
「つまりこの女性の像は、胸の宝石に触れた者を両腕で締め付けて殺す、一種のトラップだったわけか」
 シャリーアの脳裏に、屋敷の主が殺された時の光景がありありと浮かぶ。女性の像の美しさに見とれ、思わずその胸の宝石に手を触れる主。それをきっかけとして動き出す像。両腕で主をぎりぎりと締め付け、主は苦痛に身もだえするが誰も助けに来ない。やがて全身の骨がべきべきと折れ、主は口からどっと血を吹き出し、苦悶の表情を浮かべて絶命する。やがて像は動きを止め、後に残されたのはぐちゃぐちゃに潰れた主の死体。
「やはり壊すしかなさそうだ」
「同感だ。しかし、この像はどこからこの館に持ち込まれたんだ?」
 しばらく考えた後、アージェンは決めた。
「もう少しこの屋敷を調べてみるか。この像の正体を知る手がかりが見付かるかもしれないし。これらの像自体が重要な手がかりだ。少なくともめったやたらに人を襲う像ではないし、像を壊すのは手がかりが見付かってからでも遅くはないだろう」

●屋敷の調査
「うにゅ、ちょっと時間あるみたいだし探検してくるにゃ〜♪」
 とりあえずチカも屋敷の中を見て回る。裕福な商人の館だけあって、屋敷の中は使用人部屋がいっぱい。ざっと数えただけでも50〜60人は泊まれる部屋数だ。ちょっと手を加えて改装すれば、学校の寮にだって使えるだろう。
 もちろん屋敷には客間もあるし、主が使用した書斎もある。広々とした食堂だってあるけれど、どの部屋も家具を取り払われ、今はがらんとしている。
「結構広いけど使ってなかったから汚れてるにゃねー‥‥。大掃除は必要そうだにゃー‥‥」
 大掃除は必要だけれど、修理に手間取るほど壊れていたり痛んだりしている部屋はない。
 イシュカも屋敷の調査に加わっていたが、彼は手持ちの金巻尺でそれぞれの部屋の寸法を測り、それを元に屋敷の平面図を描いてみた。そしてイシュカはそれを見つけだした。
「書斎の裏側に隠し部屋があります」
 書斎の裏側の壁の厚みが不自然なほど大きいので、それが分かった。
 隠し部屋への出入口は分かったけれど、幸いシャリーアの連れてきたペットのエレメンタラーフェアリーは、ウォールホールの魔法が使える。
 魔法で石壁に穴を開け、隠し部屋に入った冒険者が見た物は、幾枚もの古びた地図。
「これはどこの地図だ?」
 森が広がり川が流れる土地に、遺跡と思しき建造物が描かれている。だが、それがどこの土地なのかは分からない。一応、地図には書き込みが為されているけれど、それは暗号めいていて、一読しただけでは意味がつかめない。


 夕方になると、あの炎がまた井戸の周りを飛び回り始めた。チカはまたも炎との会話を試みる。

──良かったらお話するにゃ。
〜〜好きにしろ。
──どこから来たにゃ?
〜〜昔は森に住んでいた。あの気持ちいいモノに引き寄せられ、今の場所に来た。

 テレパシーの会話が続く間、ゾーラクはリシーブメモリーの魔法を使って、炎の記憶を探ってみた。
 鬱蒼と生い茂る木々の気配。ここは森の中だ。
 人の気配がする。幾人もの人間が、すぐ側を通り過ぎて行く。人間たちは大荷物を持ち、森の中を足早に移動しているようだ。
 荷物の一つから火の精霊力が感じられる。そばにいると気持ちがいい。火の精霊力に引きずられるようにして、ふわふわと宙を飛ぶ炎は人間達の後を追いかけてゆく──。
「そういうことだったのか」
 冒険者達が情報を集めた結果、アージェンはようやく事件の全体像が見えてきた。
 地下室に置かれていた3つの像は、元々は盗賊避けとして古代の遺跡に置かれていた物だったのだ。それを遺跡荒しが盗み出して館の主に売りつけた。
 井戸の底に沈んでいる竜の像もやはり遺跡荒しに盗まれたものだったが、何らかの魔法の儀式に使われたらしきその像には火の精霊力が宿っていた。その精霊力が近くの森に住む火の精霊を引き付け、火の精霊は遺跡荒しの後をつけていき、やがて王都の屋敷にまで移動していた。
 ところが火の精霊の出現に驚いた遺跡荒しは、火の精霊を引き付ける像を井戸に投げ込んで逃げ去った。それから後、火の精霊はずっと井戸のそばにいる。
「事件は解明されたはいいが。さて、困ったぞ‥‥」
 アージェンは頭を悩ませる。もしも遺跡の所在地がどこぞの領主の土地にあるのなら、遺跡で見付かった品は土地の領主の物。アージェンには返還する義務が生じる。
 しかし遺跡の場所は分からない。さりとて、厄介な危険物である像を勝手に壊せば、後で遺跡のある土地が判明した時に、所有物を勝手に壊したということで、土地の領主から弁済を求められる恐れがある。
「‥‥まあいい。隠し部屋から見付かった地図を手がかりにして、遺跡の場所を突き止めてみよう」

●寄付と出資
 こうして謎解きが一段落すると、チカからアージェンに100Gの寄付金が贈られた。
「学校の経営に使って欲しいにゃ」
 シャリーアも隣の屋敷の購入費に管理費として500Gを投資。
「元々の計画通り、学生寮や教師寮として役立てて欲しい」
 ゾーラクも屋敷の購入費として50Gを出資した。
 アージェンは厚く礼を言い、必ず学校の為に役立てると約束した。