フオロ再興〜敵はアネット男爵領にあり

■ショートシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月18日

リプレイ公開日:2008年04月21日

●オープニング

●新しい親衛隊長
 去る2月25日に決行された、悪代官フレーデンの討伐戦は討伐軍の勝利に終わった。
 王族として戦いの行く末を見届ける使命を果たしたマリーネ姫は、意気揚々と王都ウィルに凱旋。しかし姫を護る2人の親衛隊員、ルージェ・ルアンとカリーナ・グレイスにとっては厄介な問題が持ち上がった。
 マリーネ姫親衛隊の設立者であり、自らもその隊長を務める鉄仮面男爵が、世俗から身を引く決意をなし隊長職を辞すというのだ。
「親衛隊隊長の座は貴公らのうち、どちらかに譲る事になる。2人で話し合い、どちらが親衛隊隊長を引き継ぐか決めてもらおう」
 そうは言われても急な話だ。
「経験からしても剣の腕からしても、私はまだまだ未熟者だ。隊長はカリーナに任せたい」
 思案の末、ルージェは同僚のカリーナにそう願い出たが、カリーナはあっさり断った。
「私の天分は隊長職よりも、むしろ別のところにある」
「自分でそれを言うか? どう考えたって、君の方が私よりも優れているじゃないか」
「だったら、君が努力して私を追い越せ」
「おい‥‥!」
 カリーナの物の言い方に、ルージェはムッとする。それでカリーナも少しだけ譲歩した。
「ならばくじ引きで決めよう」
 くじを作って引いてみると、当たりを引いたのはルージェ。
「では、ルージェが隊長だな」
「本当にそれでいいのか?」
「これも運命の導きだ」

●アネット男爵の乱心
 フオロ分国王エーロン直属の若き騎士マーレン・ルーケイは、フレーデン討伐戦では討伐軍本隊を支援する別働隊の指揮官を務めた。戦場から帰って来て後はエーロン王の補佐役として職務に励んでいたが、4月も半ばに差し掛かった頃、彼の元に凶報が届いた。
 マリーネ姫の父にあたるアネット男爵が乱心し、事件を引き起こしたのだ。
「かかる重大なる不始末、騎士として恥じ入るばかりでありまする」
 平身低頭しエーロン王の前で報告する男は、長らくアネット男爵に仕えてきた騎士ボラット・ボルン。満身創痍でアネット男爵領から脱出してきた彼の話によれば、乱心したアネット男爵は彼の下で働く100人もの人間を人質に取って、館に立て籠もった。ボラットは他の騎士や配下の兵士達と共に、乱心した男爵を取り押さえようと館に乗り込んだが、館の中で待ち構えていたのは魔物どもだった。
「翼を生やした醜い子鬼が何匹も飛び回り、並みの兵士の剣では傷一つ付けることも叶いませぬ」
 マーレンが尋ねる。
「しかしいかな魔物とはいえ、修練を積んだ騎士であれば闘気の力で魔物を倒すことも可能なはず。アネット男爵の下には相当な数の騎士がいたはずですが、彼らは何故に魔物の侵入をむざむざ許したのですか?」
「それが真に不名誉な話ながら、騎士とは名ばかりの連中ばかりで‥‥おまけにその一部は乱心した男爵の命令に何一つ異を唱えることなく従い、人質が館から逃げ出さぬよう剣を振るって脅しをかける有り様です」
「まともな騎士は何人います?」
「このボラットを含め、3人がいいところです」
「事件解決のため、その力を借りることが出来ますか?」
「それは難しいでしょう。男爵が乱心する数日前から、アネット領内には怪しげな連中が侵入し、あちこちを荒らし回っているのです。お陰でまともな騎士達は、その対処に追われて館にまで手が回りませぬ」
 王の怒声が響いた。
「何たることだっ!」
 王は険しい形相で椅子から立ち上がる。
「陛下‥‥」
 ボラットは身をすくめ、おずおずと王を見上げる。
「ボラット、下がってよい。後の戦いに備えて今のうちに英気を養っておけ」
 先程の怒声とはうってかわって、ボラットにかけた王の声は静かだったが、内心の怒りを抑えていることは明らかだった。
 ボラットが恐縮しながら立ち去ると、エーロン王はマーレンに告げる。
「この件に関しては箝口令を敷く。並みのロクデナシ領主が起こした事件なら躊躇うことなく討伐令を発するが、相手がマリーネの父親とあってはそれも出来ぬ。表向きはアネット男爵領内の盗賊討伐を名目として、討伐軍を派遣するとしよう。討伐軍はマーレン、おまえに預ける」

●マーレンの作戦
 マーレンは急遽、討伐軍指揮官として作戦をまとめた。
 今回の討伐戦に投入される軍勢は、次のようになる。

・ルーケイ水上兵団
 新ルーケイ伯の配下にあるが、そのうちアネット男爵領の隣領である王領ラシェットに進駐している兵士の一部を借り受ける。
 精鋭兵・雑兵合わせて総勢100名。
・対カオス傭兵隊
 元テロリストの地球人シャミラが率いる傭兵隊。その主力は魔法が使える地球人である。
 総勢12名。
・冒険者
 冒険者ギルドに所属し、ゴーレムを借り受けることができる。
 総勢8名。

 作戦の主目的はアネット男爵の領主館の制圧、男爵の身柄取り押さえ、そして100人にも及ぶ人質の解放だ。
 領主館の制圧については、主としてマリーネ姫の身辺にいる冒険者たちに任される予定だ。マーレンが行うべきことは領主館の制圧に邪魔が入らぬよう、周囲の状況に対応することだ。
 アネット男爵領内における最大の武装勢力は、アネット男爵の騎士団である。騎士ボラットの話によれば、その数は総勢およそ100名。10名の自称・騎士がいて、それぞれが10名ほどの自称・従騎士や一般兵を率いている。ただし騎士団の統制は取れておらず、領内をバラバラに動き回っているという。
 館への突入に際してはこいつらが妨害を仕掛けてくることも考えられるが、アネット騎士団の側にゴーレムは無いから、館の周囲にバガンを4体も配すれば妨害を抑えることは出来よう。それに騎士団そのものは討伐の対象ではない。館制圧の間、大人しくしてもらえればそれでいい。
 また領内ではカオスの手先と思しき怪しげな連中が動き回っているが、館の制圧が行われる間はそちらにも牽制をかける。アネット騎士団のまともな騎士とその配下の兵士たちも、筋を通して話せば討伐軍に協力してくれるはずだ。少なくとも妨害はするまい。
「怪しげな連中とは具体的に、どういった者達なのですか?」
「見たところ金で雇われたゴロツキのようで、その数は10名ほどと見込まれます。ただ、私の配下の兵士から気になる報告がありました。奴等の中に、グライダーを操る者がいるというのです」
「グライダーを?」
 ボラットの話を聞き、マーレンは厄介なことになったと思った。先のフレーデン討伐戦においても、出所不明のゴーレムグライダーがフレーデンの逃走用に持ち込まれていたのだ。幸いなことにフレーデン討伐戦では敵グライダーが動き出す前に、冒険者が破壊することが出来たけれど、今回の討伐戦ではグライダー同士の戦闘が起こるかもしれない。

【領主館の概略図】
 北↑                ↓跳ね橋
 ∴□□□□□□□□□□□□┃┃□□
 ∴□┏━━━━━━━━━━┫┣┓□
 ∴□┃∴∴∴┌――――┐∴裏門┃□
 ∴□┃┌―┐│〜本館〜│┌■■┃□
 ∴□┃│西││〜〜〜〜││■■┃□
 ∴□┃│館│└――――┘│東│┃□
 ∴□┃└―┘∴∴∴∴∴∴│館│┃□
 ∴□┃∴∴∴∴∴∴∴∴∴└―┘┃□
 ∴□┃∴城門∴∴正門∴∴∴∴∴┃□
 ∴□┗━━━━━┫┣━━━━━┛□
 ∴□□□□□□□┃┃□□□□□□□
 ∴∴∴∴∴∴∴∴↑跳ね橋∴∴∴∴∴

 ∴ 平地
 ━ 石壁
 □ 壕
 ■ 物見の楼閣

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4213 ライナス・フェンラン(45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●出撃の準備
 旧型フロートシップの舷側に作られた出入口から、3体のバガンが船に乗り込む。船倉に設けられた格納区域でその歩みは止まり、機体がしゃがんだ姿勢を取ると、制御胞が開いて3人の者が姿を現した。
 討伐軍指揮官の騎士マーレン・ルーケイに、ガイアス・クレセイド(eb8544)とライナス・フェンラン(eb4213)だ。
「この戦い、これまでの戦いとは勝手が違うな」
 今年になってメイの国からウィルの国へ移ってきたガイアスが呟く。メイの国での戦いといえば、明確な敵と正面からぶつかり合う戦いだ。ウィルに来てから最初の依頼ではウィルの援軍としてランの国に送られ、バの国の艦隊との戦いを目の当たりにしたが、これも基本的には明確な外部の敵との戦いだ。
 しかし今度の戦いの敵は、乱心した男爵とその騎士団。その背後には真の敵であるカオスの魔物が潜んでいるが、連中はそうやすやすと表には姿を現さず、一枚岩であるべきウィルの国を策謀によって分裂させ、互いを争わせようと仕向けてくる。
 マーレンと話をしたりするうちに、ガイアスもそういった状況が分かってきた。
 フロートシップ発着所に近い王都ゴーレム工房から、1機のゴーレムグライダーが飛来し、船の甲板に着艦した。操縦者してきたフレッド・イースタン(eb4181)が、マーレンに報告する。
「兵士たちを借り受けてゴーレム工房に連れていき、ゴーレム操縦の出来る者がいるかどうか調べましたが、残念ながら適格者はいませんでした」
 マーレン配下の討伐軍の一般兵たちは、並みの兵士としての訓練は積んでいても、日頃からゴーレムに接する機会は皆無といっていい。ゴーレムの運用はどうしても冒険者が中心となる。
「今回の討伐戦に参加するゴーレムはバガンが3体、グライダーが1体となります。出来ればもっと数を揃えたかったのですが‥‥」
 すると、岩のような肌をした6本足のドラゴンが、のっしのっしと船に乗り込んできた。その後からは動く壁のような得体の知れない生き物が続く。
「紹介するのじゃ。フォレストドラゴンパピーのピィちゃんと、塗坊の塗ちゃんじゃ」
 そうマーレンの耳元で伝える2匹の飼い主は、身長ほんの60cmのシフール、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)である。
「ピィちゃんの性格は温厚じゃが、毒の息を吐かれては困るから、わしがそばに付いてやらねばいかんかのう?」
 続いて1匹のグリフォンが、空から甲板に舞い降りる。乗り手は同じくシフールのディアッカ・ディアボロス(ea5597)。マーレンの顔がほころんだ。
「頼もしい戦力が増えましたね」
 最後には別依頼で動く冒険者が、ペットのスモールホルスを持ち込んだ。体長8mもある巨大な鳥だけに、戦力がどっと膨れあがった感がある。
「ガイアスさん、ここにいたのね」
 ガイアスに声をかけたのは、地球人っぽい身なりの少女。
「対カオス傭兵隊の者か?」
「ええ、ガイアスさんの希望で配属されたわ。あたしはカーシャ、地球のロシアという国の生まれで17歳よ」
「魔法は使えるな?」
「ええ、地の精霊魔法を色々と」
「頼みにしているぞ。カオスとの戦いを経験した者はまだ少ない。この戦いでしっかり経験を積んで欲しい」
「任せてね」
 ゴーレムとペットの搬入が終わると、次は船内での作戦会議だ。
 冒険者たちとマーレンとが協議した末に、作戦の概要が定まる。
 最初にマーレン指揮下の主力部隊が、領主館の正面で陽動を行う。その隙に領主館の裏側に潜伏した突入隊が領主館に突入し、主力部隊を領主館の敷地内に引き入れ人質を解放する。これが作戦の手順だ。

●進撃
 夜明けが訪れるや、討伐軍主力を乗せたフロートシップは、アネット男爵の領主館を目指して出撃。さしたる妨害もなく船はアネット男爵領の奥深くへと進み、やがて領主館の間近に到達した。
 船が着陸するや、バガンを先頭に多数の兵士達が下り立つ。さらにフォレストドラゴンパピィと塗坊も。スモールホルスとグリフォンは空に舞い上がる。
ユラヴィカは最初、高空に舞い上がってテレスコープの魔法使い、領主館の偵察を試みた。領主館は壕と石壁に囲まれており、中に通じる跳ね橋は正門・裏門ともに跳ね上がっている。敷地内に駐留するアネット男爵側の軍勢はおよそ30名だが、突然に現れた討伐軍の姿を見て右往左往している。
 一旦、ユラヴィカは地上に戻り、パピィに大人しくしているよう言い聞かせると、今度は領主館を目指して地表すれすれを飛ぶ。敵は正面の主力部隊に注意を奪われていたが、ユラヴィカが領主館を囲む石壁を乗り越えた時、見張り兵に気づかれた。
「シフールだ!」
「さては敵の斥候か!?」
 ユラヴィカはさっと物陰に隠れる。
 石壁の向こうからは討伐軍の使者の声。人質を解放し、アネット男爵の身柄を引き渡せとの呼びかけに、アネット男爵側の騎士や兵士たちは怒声で答える。
「これは不当な要求だ!」
「我等は断固として戦うぞ!」
 ユラヴィカを探し回っていた見張り兵たちも、正面の敵に気を取られてその場から離れていく。
「‥‥危ないところじゃった」
 ユラヴィカは行動再開。東館、本館、西館と順に巡り、エックスレイビジョンの魔法を使いつつ、各所から館の内側を偵察を続けた。

●睨み合い
 跳ね上がった正門の跳ね橋を臨む場所に、3体のバガンがどっしりと立つ。指揮官マーレンの機体を真ん中に据え、その右手にはガイアス、左手にはライナスの機体。その姿は背後に居並ぶルーケイ水上兵団を守る壁のように見える。
(「カオスの魔物と、それを放置する自称騎士団。そんな連中を見過ごし、野放しにする訳には行かない。彼らによって怯える人質を必ず救出してみせる」)
 討伐軍の要求は拒まれ、使者は自陣に引き返したが、ガイアスは決意を胸になおも敵軍へ呼びかける。
「騎士名乗るなら、国家に忠誠を誓うべし! カオスの魔物に組する等、万死に値する所業なり! 心を改め、門を開かれよ!」
 敵軍の者たちは剣を振り上げて威嚇する。
「戦いは望むところだ!」
「我等は一歩も引かぬぞ!」
 それにしても、100名の人員を擁するアネット騎士団の残りの者たちは、どこで何をしているのだろう。領主館の危機を知れば、我先に駆けつけてもよさそうなものだが。よほど連絡が上手くいっていないのだろうか。
「北西からこちらに向かってくる軍勢がいます。その数12名」
 フロートシップの見張りが、バガンの風信器から連絡を送ってきた。
「南方からも軍勢です。30名はいます」
 敵かそれとも味方か?
「やりにくいな」
 ガイアスはじりじりしながら次の連絡を待つ。これがバの騎士やカオスニアン相手の戦いなら、戦いに勝ことだけ考えればいれば良かったのだが。
 やがて、風信器からさらなる連絡が入った。
「南方の軍勢が停止しました。遠くから様子見を決め込む構えです。南方の軍勢は今だ進軍中ですが‥‥待ってください。今、軍勢から使者が駆けてきます。紋章旗は‥‥フオロ王家のものです!」
 今回の討伐戦に当たって、マーレンは騎士ボラットに、アネット領内に散らばる騎士たちとの交渉を依頼した。討伐軍の戦いに手を出さぬとの約束を取り付けるためだ。使者がフオロの紋章を掲げているということは、南方の軍勢はマーレンの側についたということだ。
「一気に片をつけます。進撃開始!」
 マーレンの号令が下る。
「いよいよだな」
 肩を並べる2人と共に、ガイアスはゆっくりとバガンの歩を進める。領主館からは矢が幾本も放たれ、バガンの装甲にぶつかって音を立てる。構わず3体のバガンは大勢の兵士たちを背後に従えて歩き続け、ついに正門の間近に達した。跳ね上がった跳ね橋は、ガイアスのすぐ目の前だ。

●突入
(「敵戦力は正面の陽動隊に注意を奪われています。裏手はがら空き同然です」)
 グリフォンと共に上空から偵察中のディアッカは、テレパシーの魔法でマーレンと連絡を取る。
(「突入隊が進撃を開始しました。先行するアレクシアスが跳ね橋を下ろしています。‥‥突入隊、全員が裏門からの突入に成功しました。うち1名が正門の跳ね橋に向かいます。援護願います」)
「了解!」
 マーレンのバガンがサインを送り、空を飛ぶフレッドのグライダーが領主館の上空に向かう。敵兵はそこかしこから突入隊に向かって矢を射るが、今のフレッドに出来るのはせいぜい空から敵兵に接近して、その注意を逸らすことぐらいだ。それでも敵兵の幾人かはフレッドのグライダーに向かって矢を射てきた。
「おっ‥‥!」
 フレッドの目に、敵兵に向かって降下する巨鳥スモールホルスの姿が映った。敵兵は慌てふためき、もはやフレッドのグライダーどころではない。
 やがて正門の跳ね橋が落とされ、討伐軍の軍勢が3体のゴーレムを先頭に、橋を渡っていく。それを確認したフレッドは、地上の味方の所へ舞い戻り、自分に預けられた10人の兵士たちに命じた。
「橋の制圧を維持せよ!」

●東館の戦い
 領主館内の偵察を終えたユラヴィカが、上空から偵察を続けるディアッカの所に飛んできた。
「西館の酒蔵は魔物だらけじゃ。グレムリンもどきが人質たちを監視しながら酒盛りをやっておる。東館の人質たちはネズミの群れにたかられておるが、見た感じだとネズミは魔物が変身したものじゃな。最も人質が捕らえられているのが本館で、大勢の兵士が見張っておる」
 ディアッカは直ちにその内容を地上の味方に伝え、ユラヴィカはドラゴンパピィの所にに舞い戻って、フレッド配下の兵と共に橋の守りについた。
「自称・騎士と兵士たちは我が輩に任せろ! 貴殿にはカオスの魔物の排除して貰う!」
「了解!」
 ガイアスがバガンから呼びかけ、配下のサーシャは建物の陰に消える。程なくして東館の味方から、救援の要請がテレパシーで送られてきた。
(「東館の馬屋で魔物の群れに襲われ、苦戦しています!」)
「ライナス! バガンで壁の破壊を!」
 マーレンが命じるが、ライナスは躊躇する。
「下手に壊せば、中の味方や人質に被害が‥‥」
 マーレンは再びテレパシーで交信すると、ライナスに告げた。
「東館の南寄りの場所には人がいません!」
「了解!」
 ライナスは指示された場所の壁に向かって、ゴーレムパンチを繰り出す。
 ゴォン!! ゴォン!! ゴォン!!
 やがて壁はガラガラと崩れ去り、大穴が開く。そこへ舞い降りてきたのがスモールホルス。開いた大穴に体を突っ込むや、ウィンドスラッシュの魔法を放った。
「おい、そんなことをして大丈夫か!?」
 スモールホルスはうなずくように首を縦に振ると、空へ舞い上がる。ライナスが穴の中を覗き込むと、中の者たちは無事だった。

●勝利は間近
(「魔物が大挙して逃げていきます。応戦願います」)
 正門を守るユラヴィカに、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)からテレパシーの連絡が届く。ディアッカも今はグリフォンと共に地上に降り、解放された人質の誘導を担当していたが、その所持する『石の中の蝶』の羽ばたきが、にわかに強まった。
「魔物が来ます!」
 やがて現れた魔物は、翼を生やした醜い小鬼の群れ。そいつらが散り散りに逃げていく。敵兵も今や逃げ惑うばかりだが、魔物と違って外に逃げるには橋を渡るしかない。
「逃走を阻止するのじゃ!」
 正門の橋に陣取るユラヴィカは、ドラゴンパピィと塗坊とで逃げ道を塞がせ、敵兵をサンレーザーで撃ちまくる。
「た、助けてくれぇ!」
 敵兵は次々と降伏した。
 逃げる魔物の何匹かはディアッカにも向かって来るが、逆にディアッカを守るペットのエシュロンの攻撃を受け、悲鳴を上げる。
「サーシャ、どこだ!?」
 姿を見失ったサーシャを、ガイアスがバガンの中から探すと、
「ここよ!」
 サーシャはクリスタルソードの魔法でせっせと水晶剣を作っては、側にいる兵士たちに手渡していた。
「小さな魔物にはこれが一番よ!」
 魔法の剣を手にした兵士に魔物どもは恐れをなして逃げ惑い、やがてその姿は1匹残らず消え去った。

●敵のグライダー
 ついに戦いの終わりの時が来た。本館では手強い魔物が火事を引き起こしたが、冒険者の手で魔物は退治され、人質たちの多くは無事に救出された。本館に立て籠もっていたアネット男爵も、生きたままで身柄を拘束された。
「でも、姿を現していない敵がいます」
 マリーネ姫を狙い続けた悪女マラディアだ。その名を呪文に織り込んで、ケンイチがムーンアローの呪文を唱えると、光の矢は東館の楼閣へと飛んでいく。
「いました! あそこに!」
 マラディアは楼閣の高い場所に立っていた。
「あっ‥‥!」
 1機のグライダーが楼閣に近づく。その後部座席にマラディアが飛び乗ると、ホバリングしていたグライダーは急発進。
「後を追います!」
 フレッドのグライダーが追跡を開始。ディアッカのグリフォンも後を追うが、速力はグライダーの方が遙かに早い。たちまちグリフォンとの距離は離れ、残るは2機のグライダーのみとなった。
「1対1か」
 突然、敵のグライダーが反転。
「何!?」
 気がつけば敵グライダーはフレッドの真上だ。操縦の技量は敵の方が遙かに上だ。敵グライダーの後部座席に座すマラディアが言葉を投げつける。
「高度を・下げろ」
 その一瞬、マラディアの体が黒い霞に包まれて見えた。これは何かの呪文か?
「高度を・下げろ。高度を・下げろ」
 2度3度とその言葉を聞くうちに、フレッドの心の中に抗いがたい衝動が沸きあがる。
「高度を‥‥下げなければ‥‥」
 敵の言葉に命じられるように、フレッドはグライダーの高度を下げる。敵との距離はどんどん開き、もうじき地面に激突するという時になって、フレッドは我に返った。
「危ない!」
 咄嗟に機体へ思念を送り、上昇に転ずる。地面への激突は回避したものの、敵グライダーは彼の視界から消え去っていた。
「逃げられたか‥‥」

●戦い終わって
 戦いが終わった後。ユラヴィカは討伐軍が設営した救護所で、運び込まれた人質や敵兵たちの身体を調べて回っていた。
「魔物と何らかの魔法で繋がった者には、怪しい模様の痣(あざ)が生じるという話を先だって聞いたところでもあるし‥‥」
 しかし、不審な痣や入れ墨のある人間は見つからなかった。
「じゃが今回の魔物の出所、どうもこの間の酒飲み魔物などと同じ所っぽいのう‥‥」
 ディアッカは騎士ボラットと共に、アネット領内での調査を続けている。
 そして、これまではメイの国に所属していたガイアスは、冒険者ギルド総監のカインにウィルの国への転属を申し出た。
「理由は、メイでの戦いで力不足を感じたからであります。ウィルの鎧騎士の戦いを正式に学び、非道なカオス勢力に苦しめられる人々を助けたいのです」
 カインはその申し出を受理した。
「ウィルの為に貴殿の力を借ります」