フオロ再興〜惨殺の廃墟を制圧せよ

■ショートシナリオ


担当:内藤明亜

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月02日〜05月07日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

●惨殺の廃墟
 王領ラシェットの東側にあるドーン伯爵領は謎だらけの土地だ。徘徊する魔物ども、素顔を隠したドーン家当主、そしてドーン城に現れる正体不明の怪人。
 ドーン家当主の求めにより、冒険者たちはドーン領での魔物討伐を手助けすることになったが、密かに領内を調査していた冒険者たちはこんな領民の訴えを耳にした。
「ここに長居してはだめ。ここは魔物に支配された土地なの。ここに暮らす誰もが普通の人間に見えるけれど、本当は魔物の息がかかった奴等がたくさんいるの。恐らくはドーン家当主のシャルナーも‥‥」
 だが、そう訴えた娘は衛兵に見とがめられ、何処かへ連れ去られたままだ。
 娘と共に衛兵の取調べを受けた冒険者は、程なく釈放されたものの、衛兵たちは娘の訴えについてこう釈明した。
「あの娘は魔物に脅かされるあまり乱心し、あらぬ事を口走ったものと思われます。どうかお気になさらずに」
 またドーン領内のどこかには、恐るべき魔物の巣窟も存在するという。
「まだ‥‥大勢残っているの‥‥。あの‥‥恐ろしい場所に‥‥」
 そこから逃げてきたと主張する娘、ルシーナの言葉によれば、そこは古代の遺跡のような石造りの建物で、今も幾人もの人間が捕らえられているという。そこでは何か邪悪な魔法実験が行われているらしく、ルシーナは何かの呪文を朗々と詠唱する声や、身の毛もよだつ人間の叫びを幾度も聞いた。
 冒険者が魔法でルシーナの記憶を調べたところ、遺跡の外観は崩れかけた小さな砦のような感じで、今は根本しか残っていない2つの塔を備えている。その遺跡については魔物に脅かされてドーン領から逃れ、今はラシェット領の東の森に住んでいるオーガたちも知っていた。
「場所はどの辺りになるかのぅ?」
 冒険者が尋ねると、オーガはくねくね曲がりながら延々と続く森道を指さす。
「この道を進め。途中で迷うことなく歩き続けりゃ、そのうちに嫌な臭いの漂う場所に出くわす。この遺跡があるのはその辺りだ」
 その後日。ドーン伯爵家から冒険者ギルドに魔物退治の依頼が申し込まれた。
「ドーン領北部の魔物には手を焼かされています。動き回る死体や、翼の生えた小鬼ばかりではありません。最近では狂ったように人に襲いかかる死体や、骸骨の魔物など、これまで見たこともないような魔物までも現れる有様です。それらの魔物どもはどうやら、ドーン領の北部にある古代の廃墟から出現しているようなのです。魔物討伐のため、ぜひとも冒険者諸氏の力をお貸し頂きたい」
 冒険者ギルドを訪ねたドーン伯爵家の使者は、そのように訴えた。その遺跡はルシーナが逃れてきた遺跡と同一のものと思われる。

●騎士マーレンの戦術
 テーブルの上に広げられた地図は、ドーン伯爵領の北部に所在するはずの遺跡と、その周辺の見取り図だ。いつしか『惨殺の廃墟』と呼ばれるようになったその遺跡は森のただ中にあり、遺跡の近くには腐臭を放つ大小の毒沼が存在する。
 遺跡から逃げてきたと主張するルシーナの記憶を元に、作成された地図だ。
 残念ながら遺跡の内部構造までは分からない。ただルシーナの記憶によれば、遺跡の内部は迷路のように入り組んだ造りになっているらしい。ルシーナは遺跡の内部を歩き続けるうちに、幸いにも石壁に開いた穴から外に脱出することが出来たということだ。
 エーロン王の補佐役の1人であり、軍務を担当する若き騎士マーレンはその地図に見入りながら思案する。
「最初にやるべきは、遺跡の位置を突き止めることだ。位置を突き止めたら、遺跡を偵察して内外の敵の数と配置を確認する。併せて、捕らえられた人質の状況も確かめる。そして十分な数の兵力を動員して遺跡を攻め、敵を討ち滅ぼして人質を解放する。戦いの流れはこれでいいはずだ。だけど‥‥分からないことが多すぎる」
 大きな遺跡だから、空からの偵察を繰り返せばその位置は突き止められよう。だが、遺跡の内部や周囲の森に潜む魔物の数を、正確に突き止めることは困難だ。同じことは、迷路のように入り組んだ遺跡の中に捕らえられた人質についても言える。
「敵と人質の正確な数と居場所を突き止めるには、やはり魔法の力を借りるしかないのか」
「こういう場合、バイブレーションセンサーやブレスセンサーといった感知系の魔法が役に立つ」
 口を出したのは元テロリストの地球人シャミラ。過去にはフオロ王家に敵対していたものの、今では対カオス傭兵隊のリーダーを務め、時にはマーレンにアドバイスしたりもする。
「だが警戒すべきはやはり、魔力を帯びた武器や魔法でしか倒せないカオスの魔物だ。奴等が火攻めを仕掛けてきたら、厄介なことになる。燃え盛る炎や有毒な煙の中でも、奴等は平気で動き回るのだからな」
 シャミラの言葉を聞いて、マーレンはついこの前のアネット男爵領騒擾事件を思い出した。
「アネット男爵の領主館に現れた魔物が、正にその手を使いました。シャミラ殿だったらどのような手段で対抗しますか?」
「魔法の使える者達を連携させて対抗する。プットアウトを使える者が炎を消し、クリエイトエアーを使える者が清浄な空気を確保する。そしてウォールホールを使える者が、壁に穴を開けて脱出口を作るのだ」
「ならば今回の魔物討伐では、是非ともその手を使いたいところです。魔法を使える冒険者が揃えばいいのですが‥‥」
「魔法の使い手が十分に揃わない時には、カオス傭兵隊から人員を募って冒険者に同行させるも良かろう? もちろんその場合、それ相応の手柄は認めてもらう」
 続いてマーレンは、ゴーレムの運用について検討する。
「遺跡の周囲には僅かながら平地が広がっています。ゴーレムを歩かせるには十分な広さですが、フロートシップを着陸させられるほど広くはありません」
「毒沼の上ではどうだ?」
 と、シャミラが言った。
「毒沼の上にフロートシップを浮遊させつつ、格納庫からゴーレムを降ろすのだ。それにフロートシップがあれば、解放した人質たちを早急に安全圏へ移送できる。ただし魔物は毒沼の中に潜んでいるかもしれないから、そこは要注意だ。ところで、今回の戦いにはドーン伯爵家からも援軍が派遣されるそうだが‥‥」
 言葉の最後になると、シャミラは声を潜めた。
「彼らの動きに気をつけろ。これは罠かもしれない」

【惨殺の廃墟の概略図】
 ■■■■■■■■∴∴森森森森森森森森森森森森
 ■■毒沼■■■∴∴∴∴森森森森森森森森森森森
 ■■■■■■∴∴∴∴森森森森森∴∴森森森森森
 ■■■■■∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴森森森
 ∴■■■∴∴∴∴┏━━━┓∴∴∴∴∴∴∴∴森
 ∴∴┏━━━┓┏┛???┗┓┏━━━┓∴森森
 森∴┃???┗┛?????┗┛???┃∴森森
 森∴┃西塔跡??遺跡中央部??東塔跡┃∴∴森
 森∴┃???┏┓?????┏┓???┃∴∴森
 森∴┗━━━┛┗×???┏┛┗━━━┛∴森森
 森∴∴∴∴∴∴∴┗━━━┛∴∴∴∴∴∴∴森森
 森森森∴∴∴■■■∴∴∴∴■■■■■∴∴森森
 森森森森∴∴∴∴■■∴∴∴■■毒沼■∴∴∴森
 森森森森∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴■■■■■∴∴森
 森森森森森森∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴森
 森森森森森森森森森森森森森森∴∴∴∴∴∴森森
 森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森

  ∴ 平地
  ■ 毒沼
  ━ 石壁
  × 石壁の穴
  ? 不明

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8544 ガイアス・クレセイド(47歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●哨戒
 ディアッカ・ディアボロス(ea5597)は『惨殺の廃墟』の真上を飛んでいる。
 遺跡の西と東にある崩れた塔の場所には、たくさんの骸骨が転がっている。
 ただの骸骨だろうか? 調べてみようか?
 思っていると、森を突っ切って仲間のシフールが現れた。ディアッカと同じく偵察に来たのだ。
 そのシフールは崩れた塔のかなり近くまで接近したが、すると転がっていたたくさんの骸骨がむくり、むくりと起きあがる。
(「あれは魔物!」)
 転がる骸骨は『彷徨いし骨兵』と呼ばれる魔物だった。
 ディアッカは携帯する『石の中の蝶』を見る。自分から直径30mの範囲にあれほどの数の骨兵がいるのに、宝石の中の蝶はまったく羽ばたかない。
 骨兵がデビルに分類される魔物ではないからだ。骨兵はアンデッドに分類される。
(「嫌な予感がします」)
 『石の中の蝶』がアンデッドには無力なことを見せつけられ、無力感にも似た感情が心の中に忍び寄る。だが、今は自分の役割をしっかり果たさねば。
 斥候として一足先に遺跡を調べたディアッカは、仲間の待つフロートシップに戻る。
 途中、遺跡の近くにある毒沼が見えたが、危険に思えたのでディアッカはあえて接近しなかった。

●カオス恐獣
 シフール冒険者2人の偵察によれば、森の中も遺跡も魔物だらけ。
「では、遺跡の北側の毒沼に船を降下させ、一気に攻めます」
 魔物討伐軍指揮官のマーレンが決定を下し、遺跡から距離を置いた森の上空に留まっていたフロートシップが進行を開始する。
 毒沼が近づくにつれ、不快な臭気が船の甲板にまで漂ってきた。
 甲板にはヴェガ・キュアノス(ea7463)がいて、遺跡と毒沼を見やりながらディアッカと話をしている。
「何者かが邪悪な魔法実験、とな? ‥‥アンデッドもそやつらが呼び起こしたに違いあるまい、が。‥‥臭う、臭うのう」
「本当に凄い臭いです」
「‥‥あ、腐臭とは別の意味でな。さて、始めるとするかのう」
 船がゆっくりと降下し、毒沼までの距離が十分に縮まったのを見定めると、ヴェガはデティクトアンデットの魔法を最大射程で放つ。
 アンデッドの存在が感知された。
「これは凄い‥‥。森の中におよそ30体、毒沼の中にもでかいのが3匹隠れておるぞえ」
 探知の結果は即座に指揮官マーレンへ伝えられた。
「この沼の下にカオスの魔物が?」
 船の格納庫の出入口から、ガイアス・クレセイド(eb8544)が毒沼を見下ろす。だが見えるのは臭気を放つ濁水のみ。魔物はその下に隠れている。
「バガンで魔物を叩けますか?」
 指揮官マーレンの求めに、ガイアスが首を横に振るはずもない。
「やってみせよう」
 格納庫のバガンに乗り込むと、ガイアスは船から飛び降りた。
 数メートルの距離を降下し、バガンは濁水を派手に跳ね上げて毒沼のど真ん中に着地。
「ギアアアアアッ!!」
 隠れていた3匹の魔物が、一斉にバガンに襲いかかってきた。
「こいつらは!」
 ガイアスの目に映るそれは、ヒスタの大陸に棲む恐獣デイノニクスによく似ている。体長3m、その体は明かに腐敗しているが動きは敏捷で、口が開くと中にびっしり生えた牙が見えた。
「魔物化した恐獣か!」
 聞いた話ではヒスタ大陸からセトタの大陸へ、恐獣の死骸を密輸している何者かがいるらしい。今、戦っているカオス恐獣は、その死骸を利用したものに違いない。
 だが沼地は人型ゴーレムにとって戦うに困難な場所だ。バガンは腰のあたりまで濁水に浸かり、沼底の泥に足を取られて動きを鈍らされる。しかも相手は3匹。
 船の格納庫からフロートチャリオットが飛び出した。仲間の応援だ。格納庫から降下したチャリオットは、毒沼の水面すれすれで地の精霊の反発力を増大させて浮き上がり、走行を開始した。地球のホバークラフトのようなもので、十分な地の精霊力さえ働くなら沼地でも湿地でも平気で走れる。カオス恐獣の1匹に接近するや、チャリオットは体当たりをかました。恐獣の注意はチャリオットに向かい、毒沼から固い地面へと走り行くチャリオットを追っていく。
「これで楽になった」
 まとわりつくカオス恐獣の数が減り、残るは2匹だ。
 バガンの武器はゴーレム斧、右に左に大きくぐるぐる振り回して威嚇するや、ガイアスはその軌道を大胆に変化させ、右手側のカオス恐獣の脚を狙って振り下ろした。
「ギィエエエエエッ!!」
 カオス恐獣が絶叫する。ゴーレム斧は脚を骨を断ちきり、カオス恐獣の体はぐらりと傾いて毒沼の中に沈み込んだ。
 さらに、左手側にいるもう1匹の脚を狙う。
「ぬああああっ!!」
 叩きつけられるゴーレム斧、絶叫するカオス恐獣。脚を折られてこいつも毒沼に沈み込むが、なおも勢いを失わずじたばた暴れている。しかし2匹のカオス恐獣は片足を封じられたことで動きは鈍くなり、もはやガイアスの敵ではない。
 だが毒沼での派手な戦いは、遺跡に巣くう骨兵どもの注意を引き付けた。
 崩れた塔の跡に転がっていた骸骨が総立ちになる。進撃が始まるのは時間の問題だ。しかも仲間のフロートチャリオットがカオス恐獣に追われ、遺跡に近づきつつある。
 その有り様を空から見てとったシフールのディアッカは、チャリオットの仲間にテレパシーで危険を知らせた。
(「遺跡の魔物が一斉に動き始めました」)
(「了解!」)
 テレパシーの会話は続き、ディアッカは仲間からのメッセージを受け取る。
(「船に搭載のエレメンタルキャノンが砲撃を開始する! 目標は遺跡の東西の塔跡! 直ちに避難を!」)
 ディアッカは急ぎ遺跡から離れ、フロートシップからの砲撃が始まる。
 ドオオオオン!!
 ドオオオオン!!
 骨兵が火球に吹き飛ばされ、骨の欠片が舞い散る。一連の砲撃が止むと、降下した船から戦力が本格的に展開される。冒険者と対カオス傭兵隊から成る突入隊が遺跡に突入し、マーレン率いる支援隊は遺跡周囲の敵に立ち向かう。森のオーガ達も支援隊に加わり、森から現れる死体の魔物を相手に戦っている。
「ついに始まったか!」
 進撃を開始した味方軍をガイアスは一瞥。その時にはもう、相手にしていた2匹のカオス恐獣はゴーレム斧でズタズタに切り刻まれ、本物の死骸と化していた。
「残るはあと1匹!」
 残るカオス恐獣の注意は今やチャリオットではなく、進撃してくる味方軍に向いている。
「させぬぞ!」
 バガンがカオス恐獣の前に立ちふさがる。恐獣の首を狙ってゴーレム斧が打ち込まれる。迸る絶叫、2度3度と斧を打ち込むや、恐獣の首が切断されてゴロリと地面に転がった。それでも恐獣は口をバクバクさせている。
「ぬあああああっ!!」
 渾身の力を込めてゴーレム斧を振り下ろすガイアス。恐獣の頭は文字通り真っ二つになった。

●カエル飛び戦法
(「西側の森から魔物が来ます。動く屍です。10、20‥‥数は増え続けています。東側の森からも!」)
 ディアッカからテレパシーで送られてくる敵情報告を受け、マーレンは慌しく指示を飛ばす。
「フレッドはチャリオットに対カオス傭兵隊を乗せ、最前線で魔法による移動攻撃を! ルクスもチャリオットに乗り、戦闘支援を! シャミラの指揮で動いて下さい!」
「了解!」
 フレッド・イースタン(eb4181)のチャリオットに搭乗するのはルクス・ウィンディード(ea0393)、対カオス傭兵隊の隊長シャミラ、それに10歳越えたくらいの少年が1人
「あなたも参戦を? その若さで」
「バカにするな! これでもオレはオーラパワーの使い手だ!」
「ああ、あなたでしたか」
 フレッドがオーラパワーの使い手を希望したので、対カオス傭兵隊から回されてきたのがこの少年というわけだ。
「名前はシェン・トンミンだ、よろしくな」
「では行くぞ!」
 シャミラが命じ、フレッドの操縦するチャリオットはまだ空中にあるフロートシップから飛び出す。
「兵員の輸送は行わないのですか?」
「作戦変更だ。新戦法のカエル飛び戦法を試す」
「カエル飛び戦法?」
「浮遊と降下を繰り返し、チャリオットの車体で敵を押しつぶす。トンミンはルクスの槍にオーラパワーを付与しておけ」
 動く屍の群れが眼前に迫る。
「上昇! 降下! 上昇! 降下!」
 シャミラの号令に合わせ、走行しながらジャンプと着地を繰り返すチャリオット。
 どごっ! どごっ! 魔物どもが次々と車体の下敷きになる。だが潰しても潰しても、魔物どもはゆっくりと起きあがり、再び歩き出す。
「もっと高く上昇し、落下するつもりで降下しろ!」
 命じられるままにフレッドは操縦、チャリオットの上下運動が激しさを増す。
 ぐしゃ! ぐしゃ! 潰されたまま起きあがれなく魔物の数は増えたが、チャリオットへの衝撃も相当なものだ。
「あががが‥‥」
 潰したはずの魔物が、チャリオットの側面を掴んで這い上がってきた。上半身はぐちゃぐちゃに潰れ、放つ腐臭が凄まじい。
「うわっ、来るな!」
 ルクスがロングスピア『黒十字』を突き入れ、魔物は車体から転げ落ちる。
「もたもたするな、敵は増えているぞ! 片っ端から潰せ!」
 ぐしゃ! ぐしゃ! ぐしゃ! ぐしゃ!
 衝撃と腐臭で気が遠くなる。
「人使いが荒すぎるぜ彼女!」
 ぼやくルクス。だが、ついに後退命令が出された。
「チャリオット後退! 突入隊の支援に回る!」
 背後を見れば仲間のバガンを盾にする形で、味方のオーガ戦士の一隊が向かってくる。
「そういうことだったか」
 チャリオットが前方の敵を足止めしている間に、味方軍は戦闘態勢を整えて一気に進撃を開始したのだ。

●最後の大物
「妙じゃな‥‥」
 ヴェガには奇妙に思える状況だった。デティクトアンデットの魔法で探査したところ、遺跡の中には小物の魔物が数える程しかいない。対して周囲の森の中は魔物だらけだ。
「外の魔物に備え、ヴェガはその場に待機を」
 マーレンの要請を受け、突入隊が遺跡内部に踏み入った後もヴェガは遺跡の外に留まった。
 魔物の数は減ったが、戦闘はまだまだ続いている。
 かなり時間が経ってから、シフール冒険者を通じて連絡が入った。
「チャリオットをこちらに寄越して欲しいのじゃ。動けぬ人質が多すぎて大変なのじゃ」
「ならば、わしも中の手伝いに‥‥」
 ヴェガが言いかけた時。
「ギイイイイイ!!」
 耳障りな叫びと共に、森の中からそいつが姿を現した。
「あれはガリミムスか!?」
 メイの国出身のガイアスには馴染みのある、長い首のダチョウに似た姿。だが体長4mにもなるその恐獣の、本来は歯のないそのクチバシからは、尖った歯がびっしりとはみ出ている。魔物化した恐獣だ。その背後からも、動く屍の群れがぞろぞろ現れる。
「カオスの魔物め。メイでは滅多に現れないが、こちらではこれ程現れるのか。民を苦しめ、非道を働くなど、許せん。人の作りし巨人の力にて全てを打ち砕くのみ」
 ガイアスのバガンが動き出した。
「魔物共め、貴様らに民を害させん、全て叩き斬る」
 カオス恐獣に体当たりをかけるバガン。その時にはもう突入隊が、解放した人質たちと一緒になって遺跡の端っこに姿を見せている。そこへ2台のチャリオットが駆けつける。
 だが、遺跡の外にはカオス恐獣が。バガンとの闘いが長引けば、とばっちりで人質たちに被害が及びかねない。
「早くあれを何とかせねば」
 カオス恐獣が迫り、バガンが追いすがる。
 ヴェガはホーリーフィールドを展開。聖なる結界がカオス恐獣の進行を妨害し、そこへバガンがゴーレム斧を振り下ろす。
「ギエエエエエ!!」
 叫びと共にカオス恐獣の片足が斬り飛ばされた。倒れた恐獣の真上から、バガンは斧を幾度も振り下ろす。恐獣はズタズタに切り裂かれ、本物の死骸と化した。
 最後の大物は倒された。ヴェガは解放された人質の元へ走り、傷ついた者たちを励ます。
「安心いたせ。冒険者の指示に従い、落ち着いて避難するのじゃ」

●医療活動
「時間がありません。それにこの辺りの森は危険です。救護所は設置せず、人質たちの治療は船の中で行い、そのまま治療院分院に移送します」
 マーレンは決断し、医療活動を担当するゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は船の中で治療に専念することになった。
 人質は皆、手酷い状態にある者ばかり。全身傷だらけの者もいれば、動けずに死人のように横たわる者もいるが、動けないのは衰弱のせいばかりではないようだ。
「これは、毒に冒されたのではありませんか?」
 共に医療活動に携わるルスト・リカルム(eb4750)がそのことに気付き、持参した解毒剤を与えると、大勢の者達が快方に向かった。
 中には瀕死状態の負傷者もいたので、ルストは惜しみなく手持ちのポーションを提供し、さらに自分のリカバー魔法も使って傷を癒す。そんなルストの存在は、ゾーラクにとってとても心強かった。
「感謝します。これで1人の死人を出さずに済みそうです」
 やがてフロートシップは王領ラシェットとドーン伯爵領の領地境に到着。ドーン伯爵領からの援軍はここで下船する。
「解放した人質たちは、より設備の充実した治療院分院にて治療を行いますので、お気遣いは御無用に願います」
 ゾーラクは援軍を率いる騎士サーシェル・ゾラスに求めたが、事前にエーロン王への根回しを行ったことが功を奏してか、サーシェルはあっさりと求めに応じた。
「では人質達の治療をお任せします。彼らに竜と精霊のご加護を」
 祝福の言葉を贈ると、サーシェルはゾーラクの前から姿を消した。これで援軍に負傷者の治療を邪魔される心配も、救出された人を装った密偵が侵入する心配もなくなったわけだが。
「邪悪な魔道実験が行われていた場所にしては、あの遺跡にはウィザードもいなければその手下もいませんでした。いたのは人質と、さして智恵もなさそうな魔物だけです。まるで我々が攻撃に来ることを予測していたかのようにも思えます」
 戦いが終わってみると、ディアッカにはそのように感じられた。
「不審な人物を見つけられたなら、拘束して尋問することも出来たのに‥‥」
 慌ただしく事後処理が進む中、ヴェガはあの遺跡に関して次のような情報を得る。
 共に戦った冒険者がパーストの魔法で過去見をしたところ、1ヶ月前の遺跡の有り様を垣間見ることが出来た。
 遺跡の中には魔物像が安置され、像の前にはおびただしい人間の生け贄が捧げられていたというのだ。
 だが、その魔物像は現在、遺跡のどこからも見付かっていない。ただ、遺跡内部の床には何か重たい物を引きずった跡が残されていたという。