キル・蛭
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■ショートシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月24日〜07月27日
リプレイ公開日:2008年08月02日
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●オープニング
●沼地の怪人
王都からそう遠くない場所に、『役立たずの沼地』と呼ばれる広い沼地がある。
ところどころに申し訳程度の地面が突き出ている以外、そこに広がるのは臭気を放つ泥沼ばかりだ。
しかもこの土地には霧がよく発生し、極めて視界が悪い。
おまけに沼地は蛭(ひる)だらけだ。沼に落ちた生き物がいると、血を吸いにわらわらと集まってくる。
この沼地で魔物騒ぎがあったのは先月のこと。魔物退治に冒険者達が派遣されたが、霧に邪魔されて魔物を仕留めることは出来なかった。だがその代わり、1人の少女を魔物の手から救いだすことが出来た。その少女の名はマイラという。
「で? また俺達でこんな所を見回りかよ? 鬱陶しいったらありゃしねぇぜ!」
「だから文句ばっかりたれるなって。娘は助け出したけど、魔物はまだ退治されねぇんだぞ」
沼地に響く声は、ルーケイ水上兵団の見張り兵の声である。2人はこの辺りの土地の見回りを担当しているのだ。
「へん! どーせケチな魔物どもだ。冒険者の姿を見て逃げちまったに決まってら」
「だが一応、見回りも俺達の仕事だからな」
「ならばさっさと仕事を終わらせて帰ろうぜ。魔物の姿は見当たらずと、上には報告しとけばいいさ」
ところが2人して沼地の見回りを始めようとするや、
「ククククク‥‥ククククク‥‥」
くぐもった不気味な笑い声を上げながら、目の前を通り過ぎた怪しいヤツがいた。
黒いローブをまとい、フードを目深に被って素顔を隠した男だ。しかもその肩に気絶した女の子を担いでいる。
「何だヤツは!? 変質者か!?」
「畜生! 余計な仕事増やしやがって!」
怪しい男は沼地に立ちこめる霧の中に飛び込んだ。見回り兵も男を追って霧の中に飛び込んだが、たちまち男の姿を見失った。
「この野郎! どこへ行きやがった!?」
霧の向こうから男の声が響く。
「ククククク‥‥マイラはもうここにはいないのだな? だから新しい遊び相手を連れてきた。さあ、おまえの声をたっぷり聞かせてやれ」
続いて響き渡ったのは、助けを求める少女の声。
「助けてぇ! あたし殺されるぅ!」
見回り兵は怒り、剣を引き抜いた。
「この変態野郎! ただじゃおかねぇぞ!」
大口開いて叫んだ時、その開いた口の中に何かが飛び込む。
小さな虫だ。
「あん?」
飛び込んだ虫がそのまま食道を通り抜けていく。そして胃に達した時、虫は何倍もの大きさに膨れあがり、胃に激痛が走った。
「あがががががががぁ!!」
「おいしっかりしろ! 何がどうしたっ!? ‥‥うああっ!!」
苦しむ同僚を落ち着かせようと、もう1人の見回り兵がその体を押さえた時、運悪く足をすべらせて2人とも泥沼へ転げ落ちる。
どばしゃあっ!!
「畜生! 蛭に吸い付かれるぞ!」
「が、があああっ!!」
苦しむ見回り兵が口から血を吐き出す。続いて口の中から現れたものを見て、仲間の見回り兵は我を失った。
「うわああっ!」
口から飛び出してきたのはドブネズミだ。そいつは沼の水面に飛び込んだが、再び水面に姿を現した時、その大きさはさらに大きく膨れあがっていた。
「ギイイイイッ!!」
耳障りな鳴き声。ネズミの正体はカオスの魔物『霧吐くネズミ』だった。体長1.2mにもなる大ネズミの姿をしているが、変身能力で他の生き物の姿もとれる。この魔物は虫に化けて見回り兵の体内に侵入すると、ドブネズミに化けて胃の中をかじりまくったのだ。
「ゲェヘェヘェヘェ!!」
頭上からも魔物が襲い来る。カオスの魔物『邪気を振りまく者』、翼を生やした醜い小鬼だ。いや、そればかりではない。
どっぷんどっぷんどっぷんどっぷん‥‥。
沼の水面を波立たせて、こちらに近づいてくる幾つもの影。それを見た時、見回り兵の理性はぶっ飛んだ。
「うわっ! うわっ! うわあああああああーっ!!」
蛭の群れだ。それも並大抵の蛭ではない。体長なんと2m、もはやモンスターの域に達したジャイアントリーチだ。
「ククククク‥‥ありきたりの蛭では面白くなかろう。だから沼地にこいつらを蔓延らせてやったぞ」
霧の向こうから、あの男の声が嘲るように響く。
「あぎゃうげぇあびょげへぇ〜〜っ!!」
もはや言葉にならない声を発しつつ、見回り兵はもう1人の仲間を引っ張って泥沼から這い上がり、逃走本能の命じるまま一目散に逃げ出した。
そしてようやく安全圏に達した時、見回り兵は助け出した仲間の姿を見て、
「うあああああ‥‥」
思わずその場にぶっ倒れた。
仲間の体には、どでかいジャイアントリーチがへばりついていたのだ。
そして沼地に立ちこめる霧の向こうからは、あの怪人の声がかすかに響く。
「ククククク‥‥さあお楽しみはこれからだ‥‥」
●急報
冒険者ギルドの新参者、駆け出し鎧騎士のシェーリン・ラシェットは、先の依頼で保護されたマイラの元に足を運ぶ。
「どう、元気にしてた?」
「ここはつまんない」
マイラが保護されている場所は、王領ラシェットに設けられたルーケイ水上兵団の駐屯地。周りに遊び相手がいないから、マイラは不満を見せているが、思ったよりも元気そうだ。
「あれも何かと手のかかる子どもでねぇ」
と、マイラの面倒を見る兵士はぼやく。
「とにかく子どもをこんな場所に長居させる訳にもいかねぇだろ?」
「それもそうね」
さて、マイラを落ち着かせるにはどこがいいだろう? シェーリンは考えを巡らせる。フェイクシティ? それともマリーネ治療院? それとも‥‥。冒険者のコネを使えば、色々な受け入れ先の中から選べそうだけど‥‥。
考えていたところへ、兵士が飛び込んできて告げた。
「緊急事態だ! 役立たずの沼地にまた魔物が現れたぞ! 見回り兵が1人、蛭に吸い付かれて重傷を負った!」
「またあそこに!?」
あの場所はつい先月、シェーリンと冒険者達が魔物退治に出かけたところじゃないか。
それから程なくして、冒険者ギルドから沼地の魔物退治と少女救出の依頼が出されたことは、言うまでもない。
●ジプシーの踊り子
ここは王領ラシェットにある小さな村。ちょうどジプシーの芸人一座が巡業に訪れている。歌ったり踊ったり芸を見せたり。娯楽に乏しい土地だから、村人達は大喜びで喝采を送っている。
そこへ現れたのがシェーリン。催し物が終わった頃を見計らい、一座の女座長に声をかけた。
「初めまして。あたしは駆け出し鎧騎士のシェーリンだけど、ちょっと相談があるの」
「話してくれるかしら?」
「ジプシーって魔法が使えるわよね。実は冒険者ギルドで魔物退治の依頼があるのだけれど、出かける場所が霧の出る土地なのよ。魔法の力で霧を何とか出来ないかしら?」
「エックスレイビジョンの魔法を使えば、霧や煙の中でも見通せるわよ」
「それはよかったわ! それで差し出がましいお願いかもしれないけれど、もしもその魔法の使い手がいたら、依頼に同行させて欲しいの。エックスレイビジョンの使える冒険者が来てくれるかどうか分からないし」
「この子、どうかしら?」
座長が呼び寄せた踊り子は、まだ10代にしか見えない女の子。
シェーリンの顔が曇る。
「こんな小さな子を? やっぱりやめとくわ。下手したら魔物に捕まって人質にされちゃうわよ」
すると踊り子は言った。
「大丈夫よ、冒険者に守ってもらうから」
●リプレイ本文
●沼へ
王都を発って大河を船で下れば、役立たずの沼地までさほど時間はかからない。
やがて、船に乗り込んだ冒険者達の目の前に、霧の立ち込める岸辺が見えてきた。
役立たずの沼地は、今日も霧に包まれている。
「またあの沼ですか‥‥、カオスの魔物は厄介な場所を選んで現れますな」
つぶやくセオドラフ・ラングルス(eb4139)にとって、あの沼地に足を運ぶのはこれで2度目。
「しかし、放置すればラシェットの安全が脅かされ、ドーン伯爵領に居る魔術師ヴァイプスを追い詰めようというする際に、大きな足かせとなりましょう」
「私としても‥‥」
と、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)。
「フェイクシティの近くに魔物が出るというのは関係者としては放ってはおけませんし、前回逃してしまった責任も有りますしね」
建設中の町、フェイクシティは沼地のすぐ東側だ。
再びセオドラフが言う。
「単に魔物を倒すだけでは魔物が再来するおそれもありますし、いっそゴーレムを用いて沼地を開拓できませぬかな」
「ゴーレムで沼地を開拓ねぇ‥‥。できるのかしら?」
近くで話を聞いていたシェーリンが関心を示したので、セオドラフはさらに詳しく話してやる。
「出発前、ゴーレム工房に問い合わせてみましたが、ゴーレム用の大型スコップは頼めば作ってもらえるそうです。一度泥さえ除去できれば、水路を作って、湿地を河川と干拓地に生まれ変わらせる事もできるでしょうから」
「ふ〜ん」
「無論、その前に魔物退治が必要ですが」
セオドラフは船に同乗するジプシーの踊り子に目を向ける。
「覚悟の程はよろしいですかな?」
「私なら大丈夫よ」
踊り子の名はミニー。エックスレイビジョンの使い手だけれど、この魔法は生憎と他人には付与できないから、霧の中では彼女の目だけが頼りだ。
「念のため、全員が口元をスカーフか何かで覆っておいた方が良いかも知れませんね。虫に変じた魔物に、体内に入り込む様な事をされない様に」
「こう?」
ジャクリーンの言葉を聞いて、ミニーが手持ちのハンカチで口元を覆う。他の仲間達も、船の中にあった備品のタオルなどで口元を覆い、これで準備完了。
そして、船は岸辺に近づく。ゴーレムも運搬できる大型の川船だけれど、岸辺近くは推進が浅いので接岸は出来ない。
「シェーリン殿には、バガンにゴーレム盾だけ持ってもらい、味方を守る壁になっていただきましょう」
「盾だけ持って?」
セオドラフの指示にシェーリンは不満そうだったけれど、
「まあ、仕方ないか。実力はみんなの方が上なんだし」
と言って納得。
「では参りますか」
セオドラフがバガンに乗り込んだ。続いてシェーリンも。船から岸辺に向かって幅広の踏み板が渡され、2体のバガンが歩いて渡っていく。
他の冒険者達は、ジャクリーンの操縦するフロートチャリオットに乗り込んだ。水深の浅い場所だから、チャリオットも難なく進める。
「上陸します。しっかりつかまって」
ボートのようにゆっくりと水面を進んだチャリオットは、岸辺に達するとそのまま車体を浮遊させて上陸した。
●霧の沼地
周りを見れば霧、下を見れば泥沼。
濁った水面にティアイエル・エルトファーム(ea0324)がじっと目を凝らすと、泥水の中で何かが動いているような。‥‥きっと、蛭だ。
「蛭って‥‥気持ち悪いっ。そのままにはしておけないよね。絶対退治するんだから」
チャリオットは沼地をゆっくりと進む。その後ろからは2体のバガン。足場の悪い沼地だから2本足歩行に難儀している。しかもバガンは腰の辺りまで泥水の中に浸かっている。
チャリオットの上では、ミニーがエックスレイビジョンの魔法を使い、霧に隠れた沼地の様子を透視していた。
「何か見えましたか?」
操縦しながらミニーに尋ねるジャクリーン。
「何にも。ほんっとに何もない殺風景なところだわ。‥‥待って! 遠くに人影が見えたわ!」
「では、その人影に向かって進みましょう」
「車体の向きをもっと右に変えて。‥‥はい、そのまま一直線に進んで」
ミニーの指示通りに操縦しながら、ジャクリーンは指にはめた『石の中の蝶』にも注意を払う。しばらくすると宝石の中の蝶がゆっくり羽ばたきはじめた。
魔物が近くにいる証拠だ。
「気をつけて。魔物が近くに‥‥」
口にした途端、何かが沼の泥水の中から飛び出した。
びゅう!
飛び出してきたのはジャアントリーチ。人間達の気配を感知したのだ。
「うわっ!」
直撃をまともにくらったのがオラース・カノーヴァ(ea3486)。並みの人間ならそのまま吸い付かれて血を吸われただろう。だけどオラースは鍛え方が違うし、しかもプロテクションリングを9つも装備。巨大な蛭は口の吸盤で吸い付くことも出来ず、いたずらに頭を振るばかり。
「こら! 俺ばかり狙うんじゃねぇ!」
オラースの右手には聖剣「アルマス」デビルスレイヤー、左手にはダガーofリターン。だけどここは狭いチャリオットの上だ。闇雲に武器を振り回せば仲間にぶち当たる。
ジバジバジバジバ!
オラースのすぐ目の前で電光が輝いた。小さな生き物が電光を放ちながら、巨大な蛭と取っ組み合っている。それはディアッカ・ディアボロス(ea5597)の連れてきたライトニングバニーだ。常時、ライントニングアーマーをまとっており、触れた者に雷のダメージを与える。
ダメージを受けた蛭はあっさりとジャンプして逃げ出し、沼の泥水の中に姿を消した。
「もう、気持ち悪いっ! 絶対、退治してやるんだから!」
ティアイエルの叫びが響く。
ディアッカはライトニングバニーを抱き寄せ、励ました。
「その調子です。頑張ってください」
ライトニングバニーの体長はたったの30cm。
でも、飼い主だって体長は60cmに満たないシフールだ。
ペットとの絆は十分にあるから、ディアッカが雷で傷つくことはないけれど。
「またジャイアントリーチが飛び出してきては厄介です。私とシェーリンとでチャリオットの両側をガードしましょう」
後から付いてきたセオドラフのバガンがチャリオットの左側へと進み、シェーリンのバガンは右側へ。両側をバガンで守り固める態勢を取り、一行は再び沼地を進み始める。
ジャクリーンの『石の中の蝶』の羽ばたきが激しくなった。
「魔物が近づいてきました!」
●戦闘
びゅう! またしてもジャイアントリーチ。狙いは低速で進むチャリオットに乗った人間達だ。
「おっと!」
セオドラフのバガンが動く。沼から飛び出した蛭めがけてゴーレム斧が振り下ろされ、蛭の胴体を両断。2つに千切れた体が宙を舞い、沼の中にどぼんと落ちる。
「お見事っ!」
声援を送るミニー。
シェーリンもゴーレムの盾をかざして、沼からジャンプしてくるジャイアントリーチを1匹また1匹とブロック。
「あたしも結構、役に立ってるみたい?」
だがジャイアントリーチの1匹が、2体のバガンのブロックをすり抜けた。
どぉん!
「うわっ!」
チャリオットの上に飛び込む蛭。思わず身を伏せ後ずさる冒険者達。蛭はのたのたと動き、でかい吸盤の付いた頭をティアイエルに向ける。
「こ、来ないでーっ!」
彼女が叫ぶよりも早く、ライトニングバニーが蛭に体当たりをかました。
ジバジバジバジバ!
ほとばしる電撃。ショックを受けた蛭はチャリオットの上から沼にジャンプ。そこへセオドラフのバガンがゴーレム斧を振り下ろし、蛭をスパッと一刀両断。
「ネズミよ! 大きなネズミが来る!」
ミニーが叫ぶ。
「それは魔物です! ネズミはどこに!?」
チャリオットを操縦するジャクリーンは周囲の霧に目を凝らすが、彼女の目では何も見通せない。だがその指の『石の中の蝶』の羽ばたきは、なおさらに激しくなっている。
「ネズミはチャリオットの正面から‥‥あっ!」
「どうしました!?」
「ネズミが‥‥消えちゃった」
「小さな虫に変身したのでは?」
ティアイエルがジャクリーンの隣に並ぶ。そしてストームの魔法をぶっ放す。
ブオオオオオオーッ!!
暴風が沼を大きく波立たせ、泥水を跳ね上げる。
「霧は消せないだろうけど、小さな虫なら近づけないでしょ‥‥ていうか近づけさせないっ!」
「また現れたわっ! ネズミの姿に戻ってる!」
ミニーが警告する。
「どこどこ!? どこにいるの!?」
「沼を泳ぎながら大きく回り込んで‥‥真後ろよ!」
「方角は!?」
「あっち! この指の先!」
チャリオットの後方、霧に隠れた一点をミニーが指さす。
「なら、これを使うかい」
オラースは得物を「破魔弓」デビルスレイヤーに持ち替えた。
「距離を教えて!」
「チャリオットまであと20m‥‥10m‥‥5m‥‥」
「見えたっ!」
霧の中からその姿が見えたその瞬間に、ティアイエルが高速詠唱でライトニングサンダーボルトの魔法を放つ。ほとんど同時にオラースも魔力を帯びた矢を放つ。
稲妻と矢はネズミの魔物を貫いた。
「ギャアアアッ!!」
傷ついた魔物はぞっとする叫びを上げる。その真上からセオドラフのバガンが、巨大な手で掴みかかった。
「ギィーッ!! ギィーッ!!」
魔物はバガンの手に捕らえられ、叫びながらジタバタ暴れている。
「さて、捕らえたのはいいのですが。ゴーレム斧やゴーレム短剣では、ゴーレム本体とは違って魔法の武器にはなりませんので‥‥」
バガンの手に力がこもる。
「ギィエエエエーッ!!」
ネズミの魔物はバガンの手の中で握りつぶされ、その体は灰のように崩れて四散した。
「あーっ! 大変!」
霧を見透かしてそれを見たミニーが叫んだ。
「悪い奴のそばに女の子が! あのままじゃ殺されちゃうわ!」
謎の人影に向かって進み続けていたチャリオットだが、今や両者の距離はうんと縮まっていた。
●救出
「一足先に行ってくるぜ! ディアッカ、誘導を頼むぞ!」
オラースがフライングブルームに跨り、チャリオットから飛び出して霧の中へ。
「もっと右! もっと右!」
霧の中を見通せるミニーの言葉を、ディアッカがテレパシーで中継してオラースの頭の中へ送る。
(「もっと右、もっと右です」)
「こんなもんかい?」
(「はい、後はそのまま直進で‥‥」)
「うわあっ!」
オラースの気配を感知して、沼の中からジャイアントリーチがジャンプしてきた。オラースはその体当たりをくらい、蛭はそのまま再び沼の中へ姿を消したが、フライングブルームの方向が狂った。
「悪ぃ! もう一度、誘導を頼むぜ!」
(「左へゆっくりと回転して‥‥はい、そのまま直進してください」)
フライングブルームは、再び霧の中を進み始める。
「おっ! 見えてきたぜ!」
泥沼の中に突きだしている陸地が見えた。そこに黒いローブをまとい、フードで顔を隠した怪しい男がいる。その手に握られたのは黒いナイフ。
しかも男のすぐ側には祭壇がある。木の棒を交互に重ね合わせて積み上げた祭壇だ。その祭壇の天辺に横たわるのは、手足を縛られ猿ぐつわをかまされた娘。
「こいつはヤベぇぞ!」
娘を生け贄にする気か!?
「させるか! ひとさらいの罪で成敗してやる!」
オラースは男の目の前に着地。フライングブルームから下りるや、背後で嫌な気配。
「邪魔するな!」
閃く聖剣「アルマス」デビルスレイヤー。
「ギャアアアアッ!!」
背後から忍び寄ってきたのは翼ある醜い小鬼だったが、そいつは聖剣に切り裂かれ、あっという間に消滅した。
「ククククク‥‥」
目の前の怪しい男が不気味に笑う。
「娘が欲しければ、くれてやるぞ。そぉら受け取れ!」
怪しい男が祭壇を蹴飛ばした。
ガラガラガラガラ!
祭壇が崩れる。その勢いで娘は沼の中へ真っ逆様。
「しまった!」
「う〜! う〜!」
娘は沼の中であっぷあっぷしながら助けを求めている。そこへ沼に巣くう蛭どもが、どっと群がり寄せる。オラースはフライングブルームに飛び乗り、宙に浮かびながら娘の襟首を掴んで引き上げようとする。
「お、重てぇ‥‥!」
仲間達も助けに駆けつけた。セオドラフとシェーリンのバガンで、娘をチャリオットの上に引っ張り上げる。娘の体にはジャイアントリーチがへばりついていたが、ライトニングバニーの攻撃をくらって逃げ出した。
娘はまだ生きている。
「これで一安心ですが、念のためにリヴィールエネミーで確認を‥‥」
「任せておいてね」
ティアイエルがリヴィールエネミーのスクロールを広げ、念じた。
魔法が発動する。娘は敵対心を持っていなかった。
「こ‥‥こわかった‥‥」
縛めを解かれた娘は、オラースの腕に抱かれてぐったり。
「おい、ヤツはどこだ?」
オラースは周囲を見回すが、怪しい男は見当たらない。ミニーも見つからないという。
「逃げられたか‥‥」
●マイラ
こうして娘は救われた。
調べたところ、娘は王都で行方不明になっていた下町の娘だった。
さて、先に救われたマイラの受け入れ先だが。
「マイラについては、多分どこに行っても問題が起こるだろう。だけど、俺は何度でも協力するつもりだ。これは俺の個人的な考えだが、魔物に接触したマイラの受け入れ先はネバーランドのようなところよりも、マリーネ治療院のような施設が相応しいと思う。理解者が多くいるはずだから」
オラースの言葉を聞いて、シェーリンが言う。
「あたしはフェイクシティにコネがあるけど、あそこはちょっとね。とにかく受け入れ先を当たってみるわ」
そういえば王都に近いホープ村でも、とある冒険者からマイラの受け入れについて打診があったとか。いずれマイラの受け入れ先も、正式に決まることだろう。