フオロ再興〜歓迎・井戸堀りドワーフ様
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■ショートシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月17日
リプレイ公開日:2008年06月23日
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●オープニング
●東への道中
6月の日差しの中、王都へと続くルーケイの街道の街道を行く一団がある。
ドワーフの井戸掘り職人たちだ。皆、一様にごつい体つきをしており、顎にはドワーフのシンボルとも言うべき顎髭(あごひげ)を生やしている。
「平和じゃのう」
一団を率いる親方が、歩きながらしみじみとつぶやいた。
目に映る光景は陽光の下、緑栄えて広がる草原。時折、空を鳥が飛んでいく。
「平和なのは良いことじゃ」
つい2年前まで、ここは盗賊はびこる無法の地だった。街道は長いこと閉ざされ、道行く者といえば盗賊どもに、西も東も分からぬ流民ばかり。方々には白骨と化した死体が野ざらしになっていた。
だが冒険者の活躍でこの地を支配していた盗賊は討伐され、再び平和がよみがえった。街道も再び王都と西方を結ぶ交通路として甦り、ドワーフの職人たちは今、その街道を歩いて王都に向かっている。
後ろから馬車の一隊がやって来た。乗っているのはジプシーの芸人一座。
井戸掘り職人たちの真横で馬車は止まり、座長が声をかけてきた。
「あらドワーフさん達、あなた方も王都へいらっしゃるのかしら?」
座長はすらりと背の高い中年女性。着ている物はひらひらした踊り子の衣装。
ドワープの親方も足を止め、返事する。
「わしらは王都のその先へ向かうのじゃ。まずはホープ村、次にラシェット領の村々を周り、ついでにアネット領の東にも立ち寄ることになるじゃろう」
「あら、それは奇遇ね。実は私たちもラシェット領の巡業に向かうところなの。でも王都の東に向かうのなら船に乗るか、せめて馬車に乗ればいいのに」
「何を言うておるか。わしらドワーフは大地から生まれた種族、大地を踏みしめ歩いて行くのが当然じゃろう」
その言葉にジプシーの座長はくすっと笑った。
「やっぱり生粋のドワーフなのね。ところで、もうしばらく歩けばクローバー村という村があるわ。歩いて王都まで行くとまだまだ遠いから、今夜は私達と一緒にその村に泊まらない?」
「うむ、良かろう。旅は道連れ、ここで出会ったのも竜と精霊のお導きじゃ」
●旅中の宴
ルーケイの地が荒れ果てていた頃、クローバー村は盗賊の巣くう村だった。
だが今はまともな村に生まれ変わり、街道沿いには旅人目当ての小さな店も出来ている。
ドワーフの職人たちとジプシーの一座は、村外れの空き地に寝泊まりの天幕を張った。
「お店で美味しいお酒が手に入ったわよ。今日は賑やかにいきまょう」
座長の言葉に、親方はにんまり。
「そうか、酒か。それは良い」
とかくドワーフは酒好きの種族だと巷では言われているが、親方とその連れ合いに限って言えばそれは本当のことだ。
酒宴は夕方に始まり、辺りが暗くなると篝火を囲んで歌ったり踊ったり。酒を酌み交わしながら座長と親方の話も進む。
「実はジプシーの私達にも、王都の東からお呼びがかかっているの。対カオス傭兵隊というのをご存じかしら?」
「初めて耳にする名じゃな」
「カオスの魔物退治を専門とする傭兵隊よ。天界人のシャミラさんという方が隊長を務めていて、傭兵隊には魔法の使える天界人もたくさん加わっているの」
その言葉に親方は渋面を作った。
「そんな傭兵隊までも作らねばならぬ程に、カオスの魔物ははびこっているのか?」
「話によれば、特にフオロ分国の東部は酷いみたいよ。それでシャミラさんはジプシーにもコネがあって、私たちも魔法の使える専門家ということで、一緒に戦わないかって声がかかっているの。いちおうシャミラさんとは王都で会って、今後の詳しいことを相談する予定なんだけど‥‥。でもドワーフさん達は、戦いをするために東へ向かうんじゃないわよね?」
「当たり前じゃ。わしらの仕事は戦いにも増して、命を守るための最も大事な仕事。すなわち井戸掘りじゃ」
●冒険者ギルドにて
ここは王都の南、ホープ村。
「え〜、領主様はおられますか?」
やって来たのはお隣のワザン男爵領からの使いの者。
「折り入ってご相談したいことが御座いますので」
いきなりやって来た使いの者に、村人たちはあたふた。
「御領主様は今、出払っておりますので‥‥」
ホープ村の領主は冒険者である。だが冒険者の常で忙しく、村にはいない時の方が多い。
「では、村長殿はいらっしゃいますか?」
「そ、村長と言われてもなぁ‥‥」
村の村長もまだ決まっていない。
「あ〜、分かりました。これは冒険者ギルドに行って話した方がよさそうですね」
使いの者は村を去ると冒険者ギルドへ出向き、カウンターの職員と向き合った。
「ホープ村の領主殿が籍を置いていらっしゃるのは、こちらのギルドでございますね?」
「はい」
「では領主殿にお伝え下さい。ホープ村では近々、井戸掘りのドワーフ様をお迎えして井戸の清めの儀式が行われると聞いております。その折りに我等が主、ワザン男爵殿も来客として儀式に立ち会い、ついでホープ村の領主殿と今後のことを相談したいとお望みです。話によるとホープ村では農作物の増産が予定されているとか。ワザン男爵領からもカブの種やクローバーの株などを適価で提供できることでしょう。今後の友好関係を維持するためにも、是非ともホープ村領主殿のご意見をうかがいたく思います」
使いの者が要件を伝えて立ち去ると、その後からカウンターにやって来たのはドワーフの井戸掘り職人の親方。
「わしらは王都に着いたばかりじゃが、ホープ村の領主殿への伝言はこちらに伝えればよいのじゃな?」
「はい」
「では伝言を頼む。わしらはホープ村領主殿の依頼により、村の井戸を清めるためにやってきた。ついては領主殿にも準備をお願いしたい。それと、4つの誓いを忘れぬようにな」
ドワーフはこのアトランティスの世界において唯一、深い穴を掘ることを許された種族。日々の暮らしに欠かせぬ井戸を掘るから、ドワーフの井戸掘り職人は人々に敬われる。井戸掘り職人の親方もまたその仕事を聖なるものとみなすから、井戸を掘ったり清めたりする際には、その土地の領主に4つの誓いを為さしめて、井戸の大切さと領主の務めの大切さを思い起こさせる。
4つの誓いとはすなわち。
一つ。竜と精霊を崇め、その怒りを招く悪しき行いを為さぬこと。
一つ。井戸を独り占めせず、民に分け隔てなく水の恵みを与えること。
一つ。井戸掘りのドワーフを敬い、これから先も決してその生業を邪魔せぬこと。
一つ。以上の誓いに背いた場合、その償いを果たすこと。
「私も一緒にお邪魔するわね」
と、一緒にやって来た芸人一座の座長が、横から顔を出した。
「井戸の清めが終わったら、歌と踊りで盛り上げましょう」
●リプレイ本文
●希望の子たち
ホープ村には、最近になって領主クレア・クリストファ(ea0941)が受け入れた、ルシーナという名の娘がいる。ドーン伯爵領に存在した魔物の巣窟『惨殺の廃墟』から逃れてきた娘。彼女を気遣うニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)が仲間と共にホープ村へやって来た時、彼女はリーサとキラルの2人と一緒にいるルシーナを見つけた。
キラルもリーサも過去に魔物の支配を受け、冒険者に救い出された者達だった。
「リーサ、キラル‥‥お久しぶりです。元気でいましたか?」
ニルナが声をかけると2人は笑顔を見せ、元気ですと答える。2人して手を繋いだその姿には、まるで恋人同士のような親密さがある。
もっともキラルはエルフ、リーサは人間。異種族間結婚に対するタブーのあるアトランティスでは、婚姻関係で結ばれてはならない仲なのだけれど。
ルシーナは2人の後ろに立って、戸惑ったような眼差しをニルナに向けていた。
「はじめましてルシーナ、領主様からお話は聞いてます‥‥私はニルナ、よろしくお願いしますね?」
「私こそ‥‥よろしくお願いします」
「ルシーナはこれからどんなことをしたいですか? 決まっていないなら、私達と一緒にゆっくりで良いので考えていきましょう‥‥?」
ニルナが問いかけると、意外にもルシーナははっきり答えた。
「やりたいことは決まっています。‥‥でも。‥‥私はにその力がありません」
「構わないから、言ってごらんなさい」
「魔物に苦しめられている人々を救いたい‥‥。魔物に殺される前に‥‥助けてあげたいのです‥‥」
話していると、領主クレアがやって来た。領民達の1人1人に微笑みかけて近況を尋ねていたクレアだが、ルシーナとは久々の再会。魔物を崇める邪悪な者に彫られたという、ルシーナの右の手首の刺青はまだ残っている。
「手首を隠すなら、腕輪式の物の方がやはり便利かと‥‥」
イシュカ・エアシールド(eb3839)が手持ちの腕輪『聖者の護り』をクレアに渡そうとしたが、クレアはそれより先に自分の『聖なるウィンプル』を裂き、その一部で作った腕巻きで、ルシーナの手首の入れ墨を覆い隠してやった。
「不恰好で悪いけど、暫くは我慢してね、必ず消してあげるから」
「そうだ、キラル。渡すものがある」
ソード・エアシールド(eb3838)はバックパックからクレセントリュートを取り出し、キラルに手渡す。
「重いって言っていたから、少し軽くなる物をつけてみた」
クレセントリュートにはレミエラが取り付けられ、不思議な輝きを放っている。
「俺が持っているよりお前の手に渡った方が人々を喜ばせるだろうし、楽器としても本望だと思うからな」
「すごいや! 本当にこれを僕にくれるの!?」
途端、キラルは目を輝かせる。さっそくリュートを手にして、メロディーを奏でてみる。
ルルルルルン♪ 心地よい戦慄が響く。だけど弦をかき鳴らしただけ。曲にはなっていない。
そばに来ていたイシュカに、キラルは声をかける。
「前にも頼んだけど、弾き方を教えてくれる?」
イシュカは答えた。
「‥‥リュートの弾き方、私は手すさび程度ですから‥‥上達したいのなら、今回来ておられるヤマモト様は素晴らしい弾き手ですから、行ってみられたらどうですか? こんなチャンス、めったにないですよ」
●村の代表者
長いこと村の代表者が決まっていなかったホープ村。だがこの度、領主不在の時の代表者が決められることになった。
「1人は魔物への対抗能力を持つキラルを推薦。残りの2人は『人生経験の豊富なご老人』と『貫禄がある女性』とするわ。私が不在の間、何か重要な事があればその3人で話し合って対応し、報告して欲しいの」
領主クレアの提案である。もちろん、仲間の冒険者もクレアの提案に賛意を示している。
「え、僕が!?」
突然のことに驚くキラル。村人達も驚いたが、クレアはさらに一言。
「私は貴方達を『家族』だと思っているの‥‥お願いね?」
ともかくも領主様のご意向ということで、キラルの他に老人と女性が1人ずつ、村の代表者に選ばれた。
●井戸浚い
井戸掘りドワーフの職人達と、ジプシー一座の一行がホープ村に到着した。彼らを真っ先に出迎えたのはニルナ。
「今回は遠いところから遥々ありがとうございます。どうかこの村に命の恵みをよろしくお願いします」
「うむ。ではいにしえからの仕来りにより、領主殿に4つの誓いを為して頂こう」
親方の求めに従い、クレアが親方の前に進み出る。そして堂々と4つの誓いを立てた。親方は大いに満足。
「そなたは大地と水の精霊の恵みを得るに相応しき者。では、わしらは井戸の清めを始めるとしよう」
早速、仕事が始まった。職人の1人が様子見にロープを伝い、井戸の底へ下りていく。しばらくして井戸の底から声があった。
「親方、これは大仕事になりますぞ」
そして井戸浚いが始まる。かつて冒険者がそれを行ったが、手伝いの村人に怪我人が出たり。やはりこの手の仕事は専門職に任せるべきだ。
「何か手伝うことは‥‥?」
セシリア・カータ(ea1643)が問う。今回は力仕事をするつもりで来ていたけれど、親方は言う。
「まあ待て、用事が出来たら呼ぶでな」
やがて井戸の底から出るわ出るわ、山ほどの汚泥に混じって腐った木切れや板きれやらが。そればかりではない、変色した骨がいくつもいくつも。
「これは‥‥人間の骨?」
かき集められた骨の中には人間の頭蓋骨が幾つも混じっている。それに動物の頭蓋骨も。かつて井戸浚いに携わったフィラ・ボロゴース(ea9535)は、驚き呆れる。
「道理で水が濁っていたわけだ。にしても、前にも井戸を浚ったはずなのに‥‥」
すると、親方が言う。
「やるからには、もっと井戸の底の底まで浚わねばな」
仕事が一段落すると、親方が冒険者に求めた。
「済まぬが、この骨達を埋葬してやってはくれぬか?」
村の一角に墓地が作られ、骨はそこに葬られる。セシリアは仲間と共に、名も知れぬ死者に祈りを捧げた。
●甦った井戸
「さて、井戸の内側の補修に必要な石を集めるとするか」
言って、親方は村の中を歩き始める。
「石なら石屋で手に入れましょうか?」
セシリアが言うと、
「待て待て、石なら村のあちこちにあるじゃろう」
親方が指さしたのは、村の建物の改築の際に取り残され、転がっていたり半ば埋もれたりしている土台石。
「この石達を、新しい居場所へ運んでくれ」
空魔紅貴(eb3033)は妙に感心した。
「成る程、石の1つさえも無駄にはしないか」
その日の夕方までには井戸の内側の補修も終わり、井戸の底には玉砂利と木炭が敷き詰められ、井戸は見違えるようにきれいになった。
「なんだか、前よりも井戸が深くなったみたいだな」
井戸の底を覗き込んでフィラがつぶやくと、親方が言う。
「これまで井戸の底と思っていたものは、実は積もりに積もった汚泥とゴミの天辺だったわけじゃ。それが井戸の水を汚していたが、これからは井戸の底から湧く清水をそのまま汲めるぞ」
試しにフィラが井戸水を汲んでみると、とても清らかな清水だった。
●炊き出し
「すみませんねぇ、イシュカさんにこんな手伝いさせちまって」
手伝う村の女性が済まなそうに声をかける。
「いえ、私は力ないですから。力仕事のお手伝いは出来ませんし‥‥」
仕事の最中の炊き出しは、イシュカが担当していた。仕事が終わった後の夕食でも、イシュカは腕を振るう。
「ところで、もしこちらでは余り見ない料理を知ってる、という方は教えていただけませんか?」
「そうさねぇ。あたしが昔、住んでいた村には大きなクルミの木があって、料理にはいつもクルミを入れていたんだ。そりゃあおいしかったよ」
「クルミですか」
近場にあるワザン男爵領の町は、割と物資が集まる。後で買いに行くとしよう。
●ドワーフのつながり
翌日は、井戸の清めの締めくくりとなる儀式の日。儀式に使う木の枝が欲しいと親方が言うので、紅貴は村の近くの森まで案内してやった。
「近場で一番、大きな木が生えているのはこの辺りだが‥‥」
「この木が良かろう」
豊かに枝を広げた大木を選ぶと、親方は大木に一礼して数本の枝を切り取る。
「そなたの枝を使わせていただくぞ」
村に戻ってくると、儀式が始まるまでの間、紅貴はドワーフの職人達と話に興じる。
「そう言えばドワーフといやぁ、ウチの義父もなんだがね」
紅貴の言葉に職人達は驚いてみせる。
「ほぅ、あんたの義父殿もドワーフとは。ここでこうして出会えたのも、竜と精霊のお導きに違いない」
「ドワーフといえば、鍛冶や石工の専門達もやっぱコッチに居るんだよな?」
「そりゃ、ドワーフだからな。わしらの仲間には遠き土地や遠き国で働く者もおれば、王侯貴族の工房で働く者達もおる。もっともどれだけ離れていても、わしらドワーフは一家のようなものだ」
「誰か新天地を探してたら、出会ったらの偶然でも良いからココの事でも伝えてくれんかね?」
「いいだろう。ホープ村のこと、しかと伝えておくぞ」
●儀式
清められた井戸の周りに一同が集まり、儀式が始まる。
「ぎしき?」
卵から育てた土のエレメンタラーフェアリーが、領主クレアの肩の上から主人に問いかけた。
「そう。儀式の間は大人しくしているようにね。儀式とは何時、如何なる時でも大切よ」
その小さな姿に、親方が目を止める。
「おや、こんなお連れさんが一緒だったとは。領主殿をよろしゅう頼みますぞ」
親方はフェアリーに一礼し、儀式に取りかかった。
森から切り取ってきた枝を使い、作られたのは小さなお社。
そこに親方が携えてきた、2つの木彫りの像が安置される。1体はきこりの姿をした大男で、地の精霊フィルボルグスを表す。もう1体はほっそりした少女で、水の精霊フィディエルを表す。
「地の精霊と水の精霊よ、末永くこの井戸をお守り下され」
井戸から汲まれた清水が2つの像に注がれると、親方は平伏しつつ厳かに唱える。続いて井戸から汲まれた清水の杯が回され、人々は清水を一口ずつ飲んで、大地と水とを守護する精霊に感謝を捧げる。
こうして儀式は無事に終わった。次はお楽しみの宴。
でもその前に、領主クレアにはやる事がある。
客人として招かれ儀式に立ち会った隣領の領主達、そしてワケアリな農業指導者レーガー卿との会合だ。
●領主会合
「せっかく王都という大量消費地の近くにあるんだし。小麦以外に新鮮さが物をいう葉野菜系なんか、現金収入にはいいと思うんだがな。村全体で鶏買うとか‥‥救護院作るなら栄養価の高い卵は自給自足した方がいいだろうし‥‥。でも周囲の領地がどんな特産持ってるか、確認してから出ないと角が立つだろうし」
「それを確かめるための領主会合よ」
意見を述べるソードに言い置くと、クレアは領主会合の場に向かう。といっても、それは準備の始った宴会場の一画。
「またずいぶんと風通しのいい場所だな」
と、ワザン男爵。
「そして、こちらが何かと噂のレーガー卿かね?」
シェレン男爵も、クレアとレーガー卿を見比べて言う。
「噂は、あくまでも噂ということで‥‥」
クレアは微笑んで言葉を返したが、内心では妙な噂の立つ状況を面白がってもいる。
「では本題に入りましょう」
クレアは交渉を始める。互いの領地間での物資の取引、農業支援、ワザン男爵領からの警備兵派遣。
「そして、互いの領地と競合しない農産物についても模索中です。今後の発展を見据え、良好な関係を得る為に」
とは言え、ホープ村はまだまだ発展途上の村。
「しかし、その全てが実現するには‥‥」
「まだまだ時間がかかりそうだが‥‥」
2人の男爵はそう言うが、クレアは自信たっぷり。
「でも私には信頼できる仲間が、そして村人がいます。私は、この地に理想の楽土を皆と共に築いてみせる」
その言葉に男爵2人は思わず笑いを誘われた。
「これはまた」
「大きく出たな」
●宴
宴の準備、進み具合は順調だ。
「‥‥と、舞台はこんな感じでいいかな? 酒も沢山、用意できたし」
「上出来よ! 上出来!」
フィラの仕事に、ジプシー一座の座長は大いに満足。でもイシュカは、持ち込まれた酒の量の多さに少々呆れている。
「エール酒の大樽を3つもですか」
そう言うイシュカだって、調達した大量の食材を使って料理の真っ最中だ。ちなみに今回、酒代も材料費も支払いは後回し。エーロン分国王の覚え目出度き領主クレアには信用があり、あちこちの店でもツケが利くからだ。ツケはまとめて今年中に支払えば文句は言われまい。まあ、このところのウィルの好景気も一役買ってはいるけれど。
村人達も宴の始まりが待ち遠しい。
「酒はどうした、料理の皿が足りないぞ!?」
今日は体力の無い者や老人までもが張り切り、手伝いに精を出している。怪我人が出ては大変だから、紅貴が仕事を手伝いつつ声をかけて回る。
「おいおい、あまり張り切りすぎないようにな」
ルルルル〜ン♪ ルルル〜ン♪
おや、何処からか流れてくるこの絶妙なるリュートの調べは?
見ればケンイチ・ヤマモト(ea0760)が、キラルにリュートを教えている。
真似してキラルも弾いていたが、暫くするとケンイチの所を離れてイシュカの所にやって来た。
「やっぱりイシュカが教えてよ。今の僕にはついていけないよ」
そして宴が始まるや、ドワーフ達の飲みっぷりの凄いこと凄いこと。フィラは酌をしつつ、興味のある鍛冶・木工・石工の話題を振る。
「物作りの話は凄い興味があるからね」
「はっはっは! 物作りのことは口で言っても分からんわい。その気があるならいい師匠を紹介してやるから、そこで100年ばかり精進いたせ! さすればそなたも、師匠と呼ばれる腕になれるぞ!」
職人の言葉に思わずフィラは苦笑。
「100年って、人間の寿命じゃ追い付かないよ。あと、この鍛治をしてくれるか、教えてくれそうな人がいれば教えて欲しいな」
「任せとけ! 他ならぬそなたの頼みだ! さあもう1杯!」
●学校へ行きたい?
「そうそう、これも確認しておかないと‥‥」
宴の合間に、ソードは近くにいる子ども達に尋ねてみた。
「もし王都の学校で授業を受けられるなら、行ってみたいですか?」
村の子ども達は学校というものを知らない。貧しさ故に、もしくはワケアリな事情で流民になって、ホープ村に流れ着いた親達の子どもなのだ。
「学校って、よくわかんない」
「難しい勉強するのは嫌い!」
「あたし、頭悪いし‥‥」
「おらの父ちゃんも母ちゃんも、字が読めないもん」
「でもオレ、大きくなったら冒険者みたいな大人になりたいな」
「冒険者になって、悪いやつらをやっつけるんだ」
学校よりも冒険者、子ども達の答を聞いて、ソードは苦笑した。
●記録係より
実は、この報告書に書ききれなかった話が色々ある。それについては新たな依頼書で明かされるであろう。