フオロ再興〜結婚式防衛作戦
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■ショートシナリオ
担当:内藤明亜
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月24日〜06月27日
リプレイ公開日:2008年06月30日
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●オープニング
●狙われた結婚式
もうすぐ結婚式。待ちに待った結婚式。新郎・新ルーケイ伯と新婦・リリーン・ミスカの、それはそれはおめでたい結婚式。
「え? 新婦の名前はリリーン・ミスカでよかったかしら?」
「さあ‥‥新婦の本名はセリーズ・ルーケイだったはずだが‥‥」
新ルーケイ伯の新妻となるのは河賊上がりの女傑リリーン・ミスカ。
でも、彼女が今は亡き旧ルーケイ伯の実の娘、セリーズ・ルーケイであることは、冒険者の間では公然の秘密。確かめたわけではないけれど、フオロ王家のエーロン王だって、その秘密を知っているんじゃなかろうか?
「まあ、今さら心配することはないだろう。フオロ王家とルーケイ家の確執も、今となっては過去のものだ」
「それはいいことだけれど、今度の結婚式は教会で挙式でしょう? 司祭の前での誓いの言葉、セリーズ・ルーケイとリリーン・ミスカのどちらの名前で行うのかしら?」
「さあ、それは‥‥いや待ってくれ、そんな話よりも大事な頼みがあるんだ」
ここは冒険者ギルドの一室。冒険者同士の相談や作戦会議に使われる部屋だ。
さっきから2人で話しているのは、元合衆国軍兵士ゲリー・ブラウンと、元救援活動家の女性エブリー・クラスト。共に地球からアトランティスに来た冒険者で、同じ地球人のテロリスト・シャミラを追い続けていたのだが、シャミラが冒険者の味方になってからは仕事がなくなって手持ちぶさた。‥‥と思いきや、今は追うべき対象をテロリスト一味からカオスの魔物へと変えて、頑張っているらしい。
「で、頼みって何なの?」
問いかけるエブリーに、ゲリーが言う。
「君はジプシーが使う月精霊の魔法を使えたろう? その魔法を使って、遠からず行われるはずの結婚式の様子を見て欲しい」
「フォーノリッヂの魔法を使えば出来るけれど、何か気になることでも?」
「このところ、王都の近辺でカオスの魔物の動きが活発化している。もしかしたら結婚式が狙われるかもしれない」
「分かったわ」
エブリーがフォーノリッヂの呪文を唱える。指定した言葉は『新ルーケイ伯』と『結婚式』。──未来がかいま見えた。
「これは‥‥どういうこと?」
エブリーが呟きを漏らす。
「何か見えたのか?」
「何かおかしいわ。もう一度、試してみるわ」
さらにもう一度、魔法で未来を垣間見る。途端、エブリーの表情が険しくなった。
「大変! 結婚式は確実に狙われているわ!」
「見えたものを詳しく話してくれ。誰が結婚式を狙っているんだ?」
「全身、入れ墨だらけの筋肉男。スキンヘッドの頭にナチスの鍵十字と666の数字の入れ墨をしているわ」
「カオスマンか!」
カオスマン、それはカオスの魔物『霧吐くネズミ』を率い、大河での襲撃事件を引き起こした男。冒険者の調査により、カオスマンは『カオスの魔物と契約を結んだ地球人』であることが判明している。
●結婚式防衛作戦
急ぎ、ゲリーはエブリーと共にリリーンの元に向かい、話を持ちかける。
「我々も冒険者ギルドの報告書からカオスマンの情報を得たが、奴はカオスの魔物と手を結んだ地球人。その行動パターンはテロリストと似通っているから、長らくテロリストを追い続けてきた我々になら、その行動を予測できる。奴等は間違いなく結婚式を狙う。ウィルの為政者と人々を恐怖で脅かすなら、結婚式という公式行事を魔物テロでぶっ潰すのが最も効果的だ。だが我々は断じて魔物テロを許さない。必ず阻止してみせる」
「カオスマンについて何か情報を得たのか?」
ゲリーに代わり、ジプシー魔法を習得するエブリーがリリーンの問いに答える。
「フォーノリッヂの魔法を使って、未来を予知したの。最初に見えたのは、灰と煤だらけになって教会の前で呆然と立っている新ルーケイ伯と貴女、次に見えたのは、教会の屋根で高笑いするカオスマン」
「つまり結婚式はカオスマンにぶっ潰されると?」
「私たちが何の努力もしなければ」
「もう一度、未来を見てもらえるか?」
「いいわよ」
エブリーはリリーンの前でフォーノリッヂの呪文を唱え、新ルーケイ伯・結婚式・襲撃という3つの言葉を指定して未来を垣間見た。その表情が硬く強張る。
「見えたわ‥‥。霧よ。結婚式を祝福しに教会の前に人々が集まった時を狙い、魔物が霧を起こして人々の自由を封じるわ。そこへカオスマンがファイヤーボムを放ち、人々は霧の中でパニック状態に」
「‥‥そうか、それが奴等の手口か」
手口が明かになれば、対策を講じることが出来る。なにより人望厚き新ルーケイ伯の結婚式だ、結婚式を守ろうという者は数多く名乗り出た。
「ルーケイの現地家臣たちが率いる防衛隊、アネット領の元領主と元騎士たちの戦力、リリーン配下のルーケイ水上兵団、それに‥‥おい、元テロリストのシャミラも、対カオス傭兵隊を連れてやって来るのか?」
リストアップされた戦力の中に、旧敵の名前を見いだして、ゲリーは渋い顔。
「元テロリストは信用できないと?」
気がつけば、シャミラが横に立っている。すかさず、ゲリーは取りつくろった笑顔を見せる。
「いいや、敵の出方を予測するためにも、元テロリストである君の意見は貴重だ。君が敵の立場だったら、どのような作戦で行く?」
「小動物に変身した魔物を群衆の中に紛れ込ませ、頃合いを見て一斉に霧を放つ。続いてカオスマンが頭上から魔法攻撃だ」
「いかにもテロリストの考えそうな‥‥いいや、今の発言は気にするな。で、この魔物テロを防止するための策はあるか?」
エブリーが言う。
「結婚式の行われる教会の周りから、群衆を排除すれば‥‥」
だが、シャミラは首を横に振った。
「群衆を式場周辺から閉め出せば、民衆の目には我々が魔物を恐れているように映る。それでは民衆の信頼がぐらつこう」
「では、どうすれば‥‥」
「策はある」
シャミラは説明する。
「要はカオスマンと、その配下の魔物どもの早期発見だ。教会周辺には千人規模の群衆が集まるとして、訓練を積んだ戦力も相当数が集まっているから、これで100人から成る警備隊が編成できる。警備員1名が10人の一般人を守る感覚で行けばいい。群衆についても極力、家族や隣近所の者など顔見知り同士が一緒になるようにまとめ、危急に際しては担当警備員の避難誘導に従わせる。不審な人物や小動物を発見した時の合図も決めておこう。後は探知魔法を駆使して、魔物や敵意ある者の早期発見に努めるべきだが‥‥」
シャミラは一旦、言葉を句切る。
「一つアドバイスしておこう。敵が結婚式を潰すつもりなら、新郎と新婦が教会に到着する時を狙って攻撃を仕掛けるはずだ。新郎と新婦が姿を現せば、敵の注意もそちらに向けられ、動きが活発化するはずだ。敵を発見するならその時が狙い目だ。ただし無駄に時間を費やせば、それだけ危険も増す」
●リプレイ本文
●祈り
まだ夜も明けぬ頃より、ヴェガ・キュアノス(ea7463)は王都の教会で祈りを捧げる。
結婚式の無事と、カオスの魔物の討伐成功を願って。
「セーラ神よ、どうか我らにお力を」
祈りを終えると、傍らに教会の司祭が立っていた。
「では、後を宜しくお願いしますぞえ。わしは二人の門出の露払い、と参ろうか」
「母なるセーラの祝福を」
司祭は十字を切り、ヴェガを教会の外に送り出した。
●陽精霊の祝福
太陽の代わりに、空全体が光り輝くアトランティス。
空は晴れ渡り、祝賀行事にはもってこい。
結婚式のパレードは、もうじき始まろうとしている。
祝福されたジューン・ブライド、時に精霊暦1041年6月25日。
「見事な程に晴れ渡ったのぅ」
こんないい天気になったのは、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)のかけたウェザーコントロールの魔法も一役買っているはずだ。結婚式を祝福する目的もあるが、カオスの魔物『霧吐くネズミ』の吐く霧への対策もかねて魔法をかけた。
ただしウェザーコントロールが魔法の霧に対して効果があるかどうか、確証は無い。
仲間のディアッカ・ディアボロス(ea5597)は、テレパシーの魔法であちこちと連絡を取っている。
(「現在のところ、異常はありません」)
(「引き続き警戒を頼む。本来ならこの日を、皆と共に楽しんで欲しかったのだが‥‥」)
(「アレクシアス様の式を邪魔する輩を、ただで済ます訳にはいきませんから」)
答えるディアッカは、笑っているけど目が笑っていない。
(「そうだ、ディアッカにも教えておこう。教会での宣誓はアレクシアス・フェザントとセリーズ・ルーケイの名で行うことに決まった」)
(「おめでとうございます」)
ディアッカの目が微笑んだ。
●警戒
パレードに備え、大通りの要所要所には警備兵が配置済みだ。観衆も多いが警備兵の動員数も多い。
ヴェガは警備兵と共に、街中を警戒中。シャミラの提案に従い、観衆は顔見知り同士がまとめられているが、さらにヴェガの出した意見により、警備兵にはそれぞれの担当区域が割り振られている。
「こりゃ、すげぇ人手だな」
「この人混みでは、カオスの手先やら動物に化けた魔物やらが、容易く紛れ込みそうで心配ですが‥‥」
話をしながらやって来たのはオラース・カノーヴァ(ea3486)とセシリア・カータ(ea1643)。すると2人の姿を目にした観衆の1人が声を上げる。
「警備兵殿! お客人がやって来ましたぞ!」
近くにいた警備兵がやって来て、2人に尋ねる。
「そこのお二方、王都へは初めてお越しですかな? 警戒中につき、まずはお名前と出身地を‥‥」
そこへやって来たのがヴェガ。
「心配はいらぬ、2人はわしの冒険者仲間じゃ」
「これは失礼しました」
警備兵は冒険者達に敬礼し、事情を説明。
「周りの観衆は見知った者同士。見知らぬ者を見掛けた時には、声を上げさせるようにとのお達しが、シャミラ殿から出ておりますが故に」
「しっかし、こんな所でお客人扱いされるとはなぁ」
オラースは呆れたようで。
「不審者とあからさまに呼ぶのも失礼でありましょう」
「ま、そりゃそうだが」
セシリアが尋ねる。
「群衆に紛れ込んだ魔物への対策は?」
「飼い主の定かでない、不審な動物を発見した時には直ちに知らせるよう、言い聞かせてあります。発見者には礼金が出ます。なお緊急時には近くの警備兵が赤い旗を振り、周囲に告げ知らせることになっています」
「それもシャミラの発案かい?」
と、オラース。
「はい」
「至れり尽くせりで有り難いぜ」
ヴェガはにっこり。
「それでは、よろしく頼むぞえ」
オラースは、指にはめた『石の中の蝶』をちらりと見る。指輪の宝石の中の蝶は羽ばたいていない。
●カオスマン起きる
路地の暗がりに身を横たえていた男が、むくりと身を起こす。
図体のでかい男だ。スキンヘッドの頭には鍵十字と666の入れ墨。
これがカオスマン、結婚式を狙う不逞の輩だ。
「そろそろパレードの始まる頃合いか」
カオスマンのスキンヘッドには、空からの精霊光が惜しみもなく降り注いでいる。
●サンワード大成功
「ダメで元々、やってみるかのぅ」
サンワードの使えるユラヴィカは、空を輝かせる陽精霊と魔法で会話してみた。
「ツルツルの頭に鍵十字と666の入れ墨をした、図体のでかい男はどの辺りにいるかのぅ?」
こんな特徴のある人物、ざらにはいない。陽精霊は、はっきり答えてくれた。
「西北西に約1km」
「なんと、大当たりじゃ!」
その情報は直ちに、ユラヴィカのテレパシーで仲間達に送られた。
●カオスマンかぶる
カオスマンが帽子を被る。特徴あるスキンヘッドは帽子の下に隠れた。
「行くぞ! ネズミども!」
パレードで賑わう王都の大通りへ向かって、カオスマンは歩き出す。背後に何匹もの小動物を引き連れて。イヌ、ネコ、ネズミ‥‥それらの小動物の正体は、変身して正体を隠したカオスの魔物『霧吐くネズミ』だ。
●サンワード失敗
再びサンワードの魔法を使い、カオスマンの位置を探るユラヴィカ。だが、陽精霊は答えた。
「分からない」
「ううむ、物陰にでも隠れたか。厄介じゃな」
●パレードを狙う魔物
冒険者ギルドの正面からスタートした結婚式のパレードは今、教会に向かって王都の大通りを進んでいる。
新郎と新婦は天蓋無しの馬車に乗り、道の両側を埋め尽くす観衆に手を振り、にこやかな笑顔を見せている。新郎は豪華な刺繍の施されたシルクのマントに身を包み、その姿はとても凛々しい。新婦は白のウェディングドレスを纏い、その姿は輝くばかり。
「新ルーケイ伯爵様、万歳!」
「新たな奥方様に万歳!」
「お二方に竜と精霊のご加護を!」
観衆からは祝福の歓声。パレードを見下ろす高い建物からも、祝福の花びらや祝福の米が撒き散らされる。
人々の頭上を踊りながら飛ぶシフール2人は、ユラヴィカとディアッカだ。着飾ったその姿はパレードの盛り上げ役にしか見えないけれど、それはカモフラージュ。2人の本当の役目は、空を飛びながら敵を発見することだ。
「野良犬にご注意! 野良犬にご注意!」
赤い旗を振る警備兵が見え、シフール2人が急行。薄汚い野良犬が警備兵に囲まれていたが、ディアッカが身につけた『石の中の蝶』は動かない。
「それは、ただの野良犬です」
警備兵は野良犬を捕らえ、その場から連れ去った。
「野良犬にご注意!」
またしても、赤い旗を振る警備兵の声。2人してその場所に向かいつつ、ディアッカが『石の中の蝶』を見ると、蝶が羽ばたいている。
「そいつは本物です!」
ディアッカの叫びと同時に、ユラヴィカがサンレーザーの魔法を高速詠唱で放つ。
「ギャアアアアッ!!」
魔法に撃たれた野良犬が正体を現す。霧吐くネズミだ。
「どけどけどけぇ!」
観衆をかき分けてオラースが走ってきた。体長1mもある魔物ネズミがカッと口を開く。だが、その口から霧が吐き出されるよりも早く、オラースの振り下ろした聖剣「アルマス」デビルスレイヤーが、その脳天を叩きつぶした。
魔物は絶命し、その死骸はあっという間に消滅する。
「これで1匹目か‥‥」
オラースが剣を鞘に収めるや、その耳に警備兵の声が聞こえた。
「ネズミにご注意! ネズミにご注意!」
「今度はネズミかよ!」
再び群衆をかき分けながら、オラースは走り出す。
●観衆の中の戦い
声の上がったその場所に、最初に到着したのはユラヴィカとディアッカ。
「ネズミはどこじゃ!?」
「まだこの近くにいます!」
『石の中の蝶』は激しく羽ばたいている。
続いてやって来たのがセシリア。
「魔物はどこに!?」
辺りを見回しても、見えるのは緊張した面もちの警備兵達に、何事が起きたのか分からずうろたえる観衆ばかり。
「魔物はそこに隠れておるぞ」
ディアッカのテレパシーに呼ばれて、ヴェガもやって来た。デティクトアンデットの魔法を唱えると、地面に置かれた手提げ籠を指さす。
「魔物はほれ、その中じゃ」
言うや、ヴェガは手提げ籠に向かってホーリーの魔法を放った。
「ギャアアアアッ!!」
絶叫と共にそいつは手提げ籠から飛び出した。小さなネズミだったそれは、見る間に霧吐くネズミ本来の大きさへと膨れ上がる。小さなネズミに化けていただけに、ホーリーの一撃で大ダメージだ。
セシリアが動いた。その剣が魔物の体に深々と突き刺さる。魔物は断末魔と共に消滅した。
「どけどけどけぇ!」
またも群衆をかき分けて最後に現れたオラースは、魔物が退治されたのを知ってがっくり。
「畜生、出遅れちまったか」
しかし流石に、この騒ぎに周囲の観衆は動揺を示す。
「今のは何なんだ!?」
「でっけぇネズミが現れて消えたぞ!」
オラースは大声で人々に言い聞かせる。
「いや、騒がせて悪かったな。なに、結婚式を邪魔する不届きな魔物が忍び込んだだけの話さ。俺達が退治したからもう心配はいらねぇ」
その言葉に人々は安堵したが、それでも女性が1人、目にした光景のおぞましさから立ち直れず、がたがた震えている。
「今のは何なの‥‥今のは何なの‥‥」
すかさずヴェガはメンタルリカバーの魔法を施し、女性を落ち着かせる。
「もう心配はいらぬ。わしらが付いているからの」
このようにして、群衆の中に忍び込んだ魔法は次々と退治されていった。もはや『石の中の蝶』は羽ばたかず、探知魔法にも魔物は引っかからない。
残るはカオスマンだけだ。
●カオスマン出現
観衆の中にヤツはいた。図体のでかい男だ。帽子を深めに被り、顔は良く見えない。
「ここにお客人ですぞ!」
男のすぐ側で声が上がり、警備兵がやって来た。
「失礼するが、名前と出身地を‥‥」
男は警備兵の問いに答えず、早々とその場から姿をくらます。
「お客人が到来! お客人が到来!」
警備兵が赤い旗を振って叫ぶ。その声を聞きつけ、オラースとセシリアが駆けつけた。
「どこだどこだ!? お客人ってのはどこだ!?」
「あれを‥‥!」
最初にセシリアが気づいた。群衆を押しのけて、こちらに向かって来るスキンヘッドの男に。そのツルツル頭には鍵十字と666のマークがくっきりと。
「奴がカオスマンか!」
「見て! もう1人!」
「何だってぇ!?」
見ればさらにもう1人、そっくり同じ姿のカオスマンが進んで来るではないか。
「どうして奴が2人もいるんだ!?」
訳が分からないまま、オラースは向かってくるカオスマンに、左手のフレイムシールドを叩きつける。
ぶわっ!
進行を阻んだつもりが、カオスマンは突然に消滅。その体は一握りの灰と化して舞い散る。
セシリアも同じく、もう1人のカオスマンに剣を叩きつけたが、やはりカオスマンは途端に消滅。
「これは、どういうことでしょう?」
唖然としているのも束の間。
「ウワーハッハッハッハ!!」
猛々しい高笑いと共に、カオスマンが姿を現した。魔法炎を身にまとった姿となり、驚く観衆を後目に空へ上昇していく。
「しまった! 奴が本物か!」
先ほど倒されたカオスマン2人は、アッシュエージェンシーの魔法で作られた身代わりだったのだ。
●カオスマン敗北
「あれは何だ!?」
「鳥には見えねぇぞ!」
人々が騒ぐ中、カオスマンはパレードを臨む物見の塔に下り立ち、空に向かってファイヤーボムを1発放つ。
ボウウウウン!
それは観衆の中に潜む魔物への合図となるはずだった。
だが、何も起こらない。
「ええいネズミども、何をしているっ!?」
怒鳴ったが後の祭り。霧吐くネズミは全て退治されていた。
しかもその塔は、冒険者が精鋭兵と共に身を潜めていた塔。警戒が手薄と見せかけて誘き寄せたその罠に、カオスマンはまんまと引っかかった。
「俺達も行くぜ! 乗っかれ!」
オラースにはフライングブルームがある。その後ろにセシリアを乗せると、フライングブルームは物見の塔に向かって飛び始めた。
「うひょー! たまんねぇぜ!」
魔法の箒を操るオラースは実に爽快。だけど、その後にしがみついたセシリアは、振り落とされまいかと冷や冷や。操縦者には箒の魔力が働いて、箒と一体となった心地だけど、後ろに乗っかる者に魔力は働かない。うっかり手を放して落ちて、大怪我で済めばいい方。
フライングブルームの2人乗りは危険です。
2人はそのまま、物見の塔の戦いの場へと飛び込んだ。
オラースは颯爽と箒から飛び降り、セシリアは転がるように箒から離れると、カオスマンに打ちかかる。
「くらえ!」
「覚悟っ!」
「ぐあああっ!!」
塔の上で組んず解れつの格闘戦。ついにカオスマンは冒険者ともども塔の下へ落下。
どおん!! ばりばりばりっ!!
「だあっ!」
「うっ‥‥!!」
「があああっ!!」
下に建っていた小屋の屋根をぶち破り、そのまま大通りへ転げ出た。
「下がれ! 下がれ!」
声を張り上げる警備兵。観客の目は目の前の乱闘に釘付けだ。
気がつけば他の冒険者やら、よく分からない連中やらが、カオスマンにちょっかいを出し始めている。怒鳴りつけるやら罵倒するやら。
「わけが分かんねぇ。一体、何がどうなってるんだ!?」
と、オラース。
「とにかく‥‥こちらが優勢なのは確かです」
と、セシリア。
今、カオスマンは冒険者仲間の老志士と向き合っている。空にはディアッカの飛ぶ姿。
「まあいい、早いとこカタを付けつまおうぜ」
態勢を立て直すや、オラースとセシリアはカオスマンに突撃。冒険者の老志士と共に、3方からカオスマンを同時攻撃。
「うぐ‥‥ぐぁぁ!!」
傷ついてもなお闘志を見せるカオスマン。そこへなんと、新郎の新ルーケイ伯が馬車から下り立てやって来て、カオスマンにサンソードの強烈な峰打ちを叩き込んだ。
「がぁぁ‥‥!」
カオスマンが白目を剥き、巨木が倒れるように後ろ向きにぶっ倒れる。
どぉん!
「おおおおおーっ!!」
人々はどよめき、盛大な拍手喝采が湧き起こった。
「アレクシアス様」
サンソードを鞘に収める新郎に、ディアッカが近づく。
「分かっている。シャドゥバインディングの魔法で、奴の動きを封じてくれたのだったな。絶妙なタイミングで助かった、ありがとう」
新郎はディアッカに礼を言った。
「さて、こいつには色々と聞き出すことがあるのでな」
観衆の中から現れたヴェガが、意識を失ったカオスマンをさらにコアギュレイトの魔法でガチガチに固め、動かぬ彫像のようになったそれを警備兵が引きずられていく。その姿を見ながら、ヴェガはつぶやいた。
「‥‥それにしてもヴァイプスやらカオスマンやらのように、カオスの魔物に組する天界人が増えると厄介じゃの。ま、そやつらは元々一種の『適性』があったのじゃろうがの。現時点でもかなりの数が存在しておるのかもしれぬな」
こうしてカオスマンは生捕りにされ、後に冒険者の魔法でその記憶が詳しく調べ上げられたという。