便利屋稼業 ザクロ狩り

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月15日〜09月21日

リプレイ公開日:2004年09月20日

●オープニング

「この先、二日ほど行った村に大根作りの名人がいてね。彼らが作っている『黒大根』を輸送して欲しいんだ」
 大根の輸送‥‥
 これが冒険者の現実なんだなぁと、遠い目する駆け出し冒険者に受付担当者はハタハタと手を振り、
「‥‥っていうのが『表の』依頼なんだけどね」
 とつけ加えてニヤリと笑った。

 依頼人は大商人というほどではないがそこそこの規模の流通商人。主に食材や日用雑貨を取り扱っている。
「その商人のお得意様が今度パーティを開くそうなんだけど、担当の料理人が『どうしても一味、食材が足りない!』って、ダダをこねはじめてね」
 料理人が所望したのは、『ザクロ』である。
 しかし旬の短いこの果実、市場に出回るのはまだ半月以上先のこと。方々を調べてやっと、早生りの『ザクロ』がこの村にあることがわかったそうだ。
「で。そこまでわかったのなら、依頼人が取りにいけばいい話なんだけれど‥‥どうも最近、依頼人の商売を妨害する人がいるらしくってね」

 他の食材なら、妨害があったとしてもなんとか納品できるだろう。しかし万が一この『ザクロ』をダメにされてしまったなら、食材を納める指定の日に間に合わなくなってしまう。
 納品する相手は苦労してやっと取引にこぎつけたご貴族さま。失敗すれば次はない。
 依頼人は、依頼人自らが出向いて不要の注意を引くよりは、外のギルドに『黒大根の護衛』を名目に『ザクロの入手』を頼んだ方が安全だと考えたのだ。
「そんなわけで『ザクロ』が本命だってわからないように、旨そうなところを三個ばかり手に入れてきてくれないかな?」


●補足情報

 □黒大根(radis noir)
   外見は名の通り黒い大根(ただし、皮をむくと白い)。大きさはかなり小ぶり。
   『辛味大根』並に辛いが、熱を入れると辛さがなくなる。煮ても焼いても美味。
   生を薄く切って塩を振ったものは、エールのおつまみに最適。お好みでバターを添えて。

 □ザクロ
   果実が熟れると外側の硬い皮が自然と割れる。
   中には小粒のルビーのように美しい赤い実が、こぼれ落ちそうなほどたくさん生っている。
   種子が多いことから豊穣のシンボルとされ、大変縁起がよい果物。独特の酸味ある味。

●今回の参加者

 ea1931 メルヴィン・カーム(28歳・♂・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea4325 虚珠 衛至(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4658 黄 牙虎(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5097 ディスラ・グラナム(39歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6439 メノリ・アルトワーズ(21歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea6687 羽生 天音(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●村の入り口
 目的の村は見渡すばかりの農耕地をすぎた先にあった。
 村の入り口にはちょっとした広場があり、冒険者たちを乗せた荷馬車の馬は一旦この広場で足を止めた。

「ん〜、この村にあるって聞いたんだけど‥‥ちょっとザクロを探しに行っていいかしら? 友達に頼まれちゃってて」
 最初に荷馬車を降りたリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)が、さらりと本命を探す名目を口にしてほほ笑んだ。
「僕も少し買い足したいものがあるんだけど‥‥」
 御者台で手綱を引いていたメルヴィン・カーム(ea1931)は、荷台に乗っている仲間へと視線を向ける。
「私も食料を買いたいんだが」
 と、メノリ・アルトワーズ(ea6439)。
『あ。アタシも買い物したいヨ』
 華国語しか話せない羽生天音(ea6687)はとりあえず希望を口にする。
「あたいも、お菓子の材料になるものが欲しいな〜」
 羽生の言葉を訳すついでにハ〜イと手を上げ、燕桂花(ea3501)が主張する。
「私も村の教会に挨拶に行きたいのですが‥‥」
 最後に、戦士と見まごう体格のディスラ・グラナム(ea5097)が謙虚に言い添えた。
 護衛重視のため、一人だけ愛馬に乗って移動していた虚珠衛至(ea4325)は馬上であっさりと頷いた。
「いいんじゃないですか? 黒大根の受け取りは、私と黄さんとで行きま‥‥おや」
 虚珠が振り向いた時、すでに黄牙虎(ea4658)の姿はなかった。依頼人に描いてもらったザクロの絵を持って行ったところを見ると、さっそくザクロを探しに行ったらしい。
 黒大根の受け取りは結局、虚珠が一人で受け持つことになった。
「あとでここで落ち合いましょう」
「ゴメン。黒大根は頼んだよ」
 御者台からヒラリと降りたメルヴィンは、荷馬車の手綱と依頼人から預かった紹介状を虚珠に手渡すのだった。

 預かった紹介状をもてあそびながら仲間を見送っていた虚珠は、ほんの少しだけ振り向いてつぶやく。
「ふむ‥‥村の中にまでは入らない、か」
 尾行者を警戒していた彼は、幌つきの荷馬車がずっと同じ道をついてきていたことに気づいていた。
 御者の見た目はどこにでもいるような村民。ただついてくるだけで積極的に仕掛けてくる気配はなかった。今となっては確認しようもないが、尾行者ではなかった可能性も考えられる。
 思い返してみればこの依頼は表向き『黒大根』の輸送。向こうはまだこちらが重要物『早生りのザクロ』を手に入れようとしている『確信』はまだもてないでいるはずだ。もしあの荷馬車が尾行者だったとしても、こちらから働きかけなければ相手は動かないだろう。
「まぁ、わざわざこちらから仕掛けることもないですね」
 虚珠は軽く肩をすくめると、大根作り名人を探して荷馬車を走らせた。

●雑貨店
 村の入り口で分かれた時、メルヴィンはわざと仲間が行ったのとは別の方向へと歩いていった。もし尾行者がついてきているならば、これでかく乱できるだろうと考えてのことだ。
 その後、通りすがりの村人たちに「買い物をしたいのですが」と訊ねながらたどり着いたのがこの店だったのだが‥‥
「あれっ? なんで皆がいるんだ?」
「あ。メルヴィンだ〜☆」
「あら」
『偶然ですネ』
 シフールの桂花がメルヴィンの目前まで飛んで挨拶する。その後ろではメノリと羽生が顔を見合わせていた。

 四人が顔をあわせたのは実は偶然でもなんでもなく、農業が主流であるこの村には市場どころか『店』と呼ばれるものはこの『雑貨屋』一軒しかなかった。
「え。くだも‥‥っじゃなくて、雑貨しか扱ってないんですか?」
「ああ。わざわざ売る必要ないからねぇ」
 店内にはこの村では取れない穀物や保存食。鍋や桶などが置かれていたが、新鮮な果物や肉類はおかれていなかった。
 秋も間近なこの季節、この村では食べるモノに事かかない。豊かな森にはブタが、きれいな川にはニジマスがいて捕り放題。野菜はこの村で作っている。
 メルヴィンと店のオジさんの話を聞いていた女性三人(羽生には桂花が通訳して聞かせた)はがっかりした。
『ナンダ。果物、売ッテないんダ〜』
「残念ですぅ」
「お菓子作りしたかったのにな〜」
 そんな彼女たちをを見ていたオジさんは、かわいそうに思ったのかこんなことを教えてくれた。
「うぅ〜んと‥‥あ、そうそう。果物が欲しいならこの先の牧場の奥さんが趣味で果樹園もってるから、行ってみたらどうだい?」
「果樹園?」
 特にアテもなかった彼らは、「私は森の方を探してみるよ」と飛び立ってしまったメノリと別れ、果樹園に行ってみることにした。

 一方そのころ。
 直球に『ザクロのある場所』を訊いてまわったリュシエンヌは、村はずれにある老夫婦の家にたどり着いていた。
 小さな家の隣にはこじんまりとした納屋があり、納屋の側には一台の馬車がとまっていた。そしてその納屋の向こうに見え隠れする黒い枝は‥‥ザクロ!
 勢い込んで人声のする方へ歩き出したリュシエンヌは、馬車を迂回する途中に気がついた。
「あら? この馬車、見覚えがあるような‥‥」
 首をかしげながら納屋の裏側に回った彼女は見た。
「痛いよ〜」
 地面に座り込んで自分の頭をさすっているシフールの黄と、
「大丈夫ですか?」
 しゃがんで黄を眺める虚珠の姿。
「ん? おまえさんも見かけん顔だが、何用かの」
 二人の隣に立っていた気難しそうな老人に声をかけられ、リュシエンヌはとっさにほほ笑み、「こんにちは」と挨拶した。

●名人の家
 話は少しさかのぼる。
 梨の花のように純朴可憐な村の女性に道を訊ねつつ、虚珠はすぐに黒大根作りの名人の家にたどり着いた。
「ふむ。旦那の使いに間違いないようだの」
 依頼人から預かった紹介状を確認した老人は一つ頷くと、黒大根を詰めた木箱を納屋から運んできた。
 「小ぶりの木箱が六つ」と確認していた虚珠は最初、馬で運ぶつもりだった。しかし改めてみた木箱の大きさは想像していたより大きい。メルヴィンが馬車を借りてくれていて正解だったようだ。
 どうせ荷台に詰め込むなら納屋に近いほうがいいだろうと、馬車を進ませた虚珠は見た。
 ザクロの木。
 納屋の側に黒い枝を伸ばした木が一本立っていた。木には硬い外皮がパックリと割れた、食べごろの実がたわわに実っている。
 こんなところで見つけようとは‥‥虚珠はさりげない口調で老人に話しかけた。
「ほう‥‥ザクロとは珍しいね。まだ旬には早いのではないかな?」
「地熱だか日当たりだかわからないがね。ここらでは一番に実がなるな。ふむ、一つ食べてみるかね?」
「せっかくだからいただきますか」
 老人はさっそく先がYの字に割れた長い木の枝を納屋から取って戻ってきた。そして木の上に視線を向けて、小さく舌打ちをする。
「‥‥ああ。こりゃまたでっかい鳥がたかっとる」
「あ」
 目のいい虚珠にはその『鳥』の正体が何なのか視認できていた。
 しかし、とめる間もあればこそ。
 ペシっと小気味よい音を立ててY字の長枝にぶたれた『鳥』は、キュルキュルと旋回しながら地面に落ちた。
「‥‥‥‥痛っ、たぁああああい!」
 両腕で頭をかかえるようにして落ちてきたのは、シフールの黄。
「おや、鳥じゃなかったんかい」
「もう!‥‥打ち所が悪かったらどうすんの! 気をつけてよね!」
「じゃがお前さん、あんなところで何をしておったんじゃ?」
「え? ええっと‥‥‥‥‥‥あああああ。頭が割れるように痛いわっ!」
 黙ってザクロをいただこうとしていたなんて、口が裂けてもいえない。
 最初に家の人に断りをいれるか、枝か何かでカモフラージュを試みていたならこんな痛い目にあわなかったかもしれない。
 リュシエンヌがその場にたどり着いたのは、まさにこの時のことだった。

 自己紹介を終えたリュシエンヌはザクロの木を興味深げに見上げた後、謙虚な口調で頼み込む。
「きれいなザクロですね。よろしければ5つつほどわけていただきたいのですが‥‥?」
 虚珠と黄にザクロを一つずつ渡していた老人は、フンと胸を張った。
「欲張りじゃなぁ‥‥一人一個までじゃ。それ以上はやれん!」
 と言いつつ、「友人に頼まれてたのに‥‥困ったわ‥‥」と目を潤ませたリュシエンヌに、こっそり二つ手渡したのはヒミツである。 
 黒大根が詰められた木箱を荷馬車に積み込んだ一行は、お礼を言って名人の家を後にした。
 最終的に手に入れることができたザクロは4つ。傷つかないよう、ワラをしいた木箱の中にそっと納めて輸送することにする。
 三人が集合場所に決めていた広場に戻ってみると、待っていたのはディスラ一人だった。その膝には挨拶に行った教会からおみやげにと分けてもらった旬の野菜が乗っていた。
「あのオジさん、ゼッタイ昔は冒険者だったんだよ! 本当に本当に、ホントーに痛かったんだから!」
「‥‥はい。治りましたよ」
 プリプリと怒る黄の傷に、黙ってリカバーをかけるディスラ。戦士のように厳つい顔には苦笑が浮かんでいた。

●農耕地の道
 黒大根を手に入れた一行はその村で一泊した後、帰路へとついた。
「まさか、名人のところにあったとはね〜」
 再び御者台で手綱を操るメルヴィンが、ほんの少し悔しそうに顔をしかめて見せた。
 彼らが訪ねた牧場の果樹園に生っていたのは旬の果物‥‥リンゴ、ナシ、スモモといったものだけで、ザクロはなかったのだ。そのまま帰るのも不自然なので、牧場の奥さんに頼んで少し分けてもらった。
 市場に出せるほどきれいなものではなかったが、素朴な味はとても美味しいものだった。これはこれで収穫だったといえる。
「は〜‥‥結局、妨害者の正体はわからなかったね」
 ちょこんとメルヴィンの隣に座っていた桂花が小さくため息をついた。
 しかしそれは仕方のないこと。どこで、だれに、どんなふうに調べるかまで考えて『行動』しなければ、それは考えただけである。情報は行動したものにだけもたらされるものだ。
 だが、もともと細かなことを気にしない桂花である。つぶやいたすぐ後にはすでに、今夜のごはんの支度について考えていた。
 食事は支給された保存食だったが、手を一つ加えるだけで驚くほどに美味しく食べることができる。
「あたいたちがもらった果物と、ディスラ君がもらってきた野菜で何か美味しいものできないかな〜」
 と、考えていた桂花の耳にこんな歌が聞こえてきた。

  ♪黒大根 黒大根 ひっこぬけぬけ黒大根♪
  ♪黒大根 黒大根 今日のご飯はジャパンのお鍋♪

 馬車の荷台に乗り、黒大根と一緒にゆられながらリュシエンヌが伸びやかな声で歌う。
 メノリの奏でる素朴なオカリナの音が、陽気な歌声に伴奏を添えた。
 歌詞はわからないだろうが、歌の陽気さにつられた黄と羽生が手拍子をつけていた。ディスラは黙って耳を傾けている。
「ねぇねぇ、虚珠君。ジャパンのお鍋にリンゴとか入れる?」
 との桂花の問いに、
「まぁ、入れる鍋もありますよ」
 ジャパン出身の虚珠は頷いた。
『闇鍋とか、闇鍋とか、闇鍋とか‥‥ところでゲルマン語で闇鍋ってどう言うんでしょうね』

 のどかな農耕地を貫くまっすぐな道を、荷馬車はゆっくりと進んでいく。何事もなく。
 晴れわたる空に歌声が響き渡る。
 その日の夕飯がリンゴ入りの闇鍋だったのかは定かではない。