便利屋稼業 池さらい

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月03日

リプレイ公開日:2004年10月05日

●オープニング

「う〜ん、これなんかどうかな? 池さらい。村長の奥さんが池に指輪を落としたんだって」
 冒険者ギルドの受付口、開口一番にそう言われた。
 池さらい‥‥そのぐらい、わざわざ金を払って冒険者にたのまなくても‥‥
 理想と現実の狭間で遠い目をする駆け出し冒険者に向かい、依頼概要が書かれた羊皮紙をひらひらさせながら受付担当者はにっこりと笑った。
「ただし、池にはこーんな大きなカエルがいるそうだから。シフールぐらいだと丸呑みされちゃうかも知れないから、気をつけてね」

●補足情報
 ○池の大きさ:周囲を歩いてグルッと回ると、人間の足で200歩ほど。
 ○池の深さ:浅いところは膝下。深いところは鳩尾の辺りまで。
 ○池のある場所:村の外れ。子供たちがよく遊んでいる草地の近く。村の貯水池でもある。
 ○カエルの大きさ:小柄な人間の大人ほどの大きさ。
 ○村長の奥さんが目撃するまで、そのカエルの存在を村人は知らなかった。(ちなみにこの時、カエルに驚いて転んだ拍子に指輪を落としたもよう)

●今回の参加者

 ea1848 カレリア・フェイリング(25歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea4873 リール・ハザード(26歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6278 エミリエル・ファートゥショカ(26歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6389 イシス・シン(26歳・♀・ファイター・ドワーフ・インドゥーラ国)
 ea6392 ディノ・ストラーダ(27歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6505 ブノワ・ブーランジェ(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●貯水池にて
 村の外れ、開墾途中の草地を抜けた先にその池はあった。
「広い池ですね‥‥」
 エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)は小さくため息をついた。
「大丈夫! 落とした場所を確認してあるんですもの。そこから徐々に調べていけば全部を調べなくてもすむはずよ」
 と、元気づけるリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)。
「奥様が言っていたのはぁ、このあたりでしたよねぇ?」
 リール・ハザード(ea4873)は池には入らず注意深く水面をのぞく。
 水がにごる前にのぞけばあるいは‥‥と思ったのだが、残念ながら指輪はチラとも見えなかった。
「ここの水は畑にも引いているそうだが、最近は使っていなかったそうだ。水の流れに運ばれたとしても、そう遠くには、ない、は、ず‥‥‥‥抜けん」
 自分の指輪を外そうと奮戦していたエルネスト・ナルセス(ea6004)は、大きなため息と共にその努力を放棄した。とりあえずそのまま作業することにするが、万が一にでもなくしたら妻になんと言われるかは‥‥(怖いので)あまり考えないことにする。
 イシス・シン(ea6389)は、さっそく池の縁の草地を探しはじめていた。
「カエルはやはり退治しなければいけないのでしょうか?」
 駆除に気の進まないカレリア・フェイリング(ea1848)がつぶやく。
「罪なき生き物ではありますが、危険な生き物でもありますから」
 それに依頼人も望んでいることですとブノワ・ブーランジェ(ea6505)はつけ加え、敬虔なしぐさで十字をきった。

 時間は少しさかのぼる。
 7人は事前調査のため、依頼人である村長夫人の家を訪ねていた。
「指輪は植物が絡み合った意匠の銀細工。サイズはやや細め。花びらの部分に五つの小さな青い石がはめられている‥‥で、間違いないですか?」
 と、リュシエンヌ。
「ええ‥‥主人が最初の記念日に贈ってくれたものでした‥‥」
「カエルはどんな様子でしたかぁ?」
 と、リール。
「‥‥ま! 『そんなもの』見ている余裕なんてありませんでしたわっ!」
 どうやら、『カエル』という言葉を口にしたくもないほど嫌いなようだ。
 エルネストが池の様子を聞いた後、エミリエルがおずおずと尋ねる。
「そんな大きなカエルが今年になって急に棲み付いたということも無いでしょうし、そのままにしておいても何事もないとは思うのですけれども‥‥奥方様はそのカエルをどのように処理なさりたいのでしょう?」
「ギルドでもいいましたが、カエルはいきなり現れたんです!」
 不思議な話だが、夫人がカエルを発見するまで誰もその存在に気づかなかったらしい。

「私は‥‥襲ってこない限り、蛙はそっとしときたいわね」
 と、リュシエンヌ。
「僕は今後のことを考えると退治したほうがいいと思います。子供たちの遊び場に近いということですし‥‥」
 ブノワの言葉に、手を打ち合わせて喜ぶ依頼人。
「まぁ! 退治してくださるのなら願ってもないわ!」
 依頼人がそう言うのならばしょうがない。
 リュシエンヌとカレリアが顔を見合わせて肩をすくめた‥‥その時。
 窓の外で声を押し殺した怒声があがった。
「そんな‥‥グルちゃんを退治するなんて! ひど‥‥(モガっ)」
「しっ! 声がでかい」
「し〜!」
 真っ先に振り向いたのは、一同の中で特に耳の良かったリールとカレリア。
「どうしました?」
「ん〜? ええっとぉ」
「何か聞こえたような気が‥‥」
 窓から身を乗り出した二人は走り去る三人の子供たちの後姿を目撃した。
 不審には思ったが、相手は子供。取り立てて調べるほどでもないだろう。
 そうして情報を仕入れた一同は依頼人の家を退去し、指輪を探すために件の池へと向かったのだった。

●池さらい開始
「あら? これは何でしょう?」
「‥‥さぁ?」
 エミリエルの問いに首をかしげるエルネスト。
 夫人が指輪を落とした場所のほど近く、『立ち入り禁止』の立て札とロープで作られた簡単な罠がおかれていた。
「あ。見てください」
 荷物を置いて身軽になったカレリアが池の上を飛び、岸の反対側を指差した。
 そこにはディノ・ストラーダ(ea6392)が、風通しのいい木陰で昼寝をしていた。
「ゆうべ先に出て行ったと思ったら、こんな罠を仕掛けていたんだね」
 と、イシス。
「でもぉ、蛙はかかってないみたいですねぇ」
 と、リール。
 それもそのはず。
 罠には保存食が餌として使われていた。カエルが主に食べるのは生餌。動きもせず、取り立てて臭いがあるわけでもない保存食にそう都合よく食いつくものでもない。
「どうします?」
 困惑するブノワに、リュシエンヌは肩をすくめてみせた。
「こちらはこちらでやるべきことをやりましょう」

 池の水は澄んでいたが池の底に堆積した腐葉土はやわらかく、踏むとにわかに水がにごり始めた。
「指輪を踏み込んでしまうとマズイ。ゆっくり足の先で探りながら進んだ方がいい」
 エルネストの提案もあり、ことさら慎重に池の中を移動する一同。
 身長のあるリュシエンヌとブノワが水深のある所を担当し、背の低いエルネストとイシスは岸に近い浅瀬を探す。リールはその間、浅瀬から深いところへ移動しながら指輪を探した。
 水中で苦労しながら移動していたリュシエンヌは、共に進むクレリックが持っている縄梯子に気づいて首をかしげる。
「そのハシゴは?」
「ああ‥‥池の真ん中まで行くと移動に大変でしょう? これがあると帰りが楽になるかと思いまして」
 はしごの端は池のほとりに生えている木の幹に固定されていた。

 そして池さらいは開始された。
 夫人から借りた、あるいは自前の道具を使って仕事を進める。
 基本的には池の底をスコップですくい、ザルやふるいにかけて固形物を探すという地味な作業。木の一部などの大きな堆積物を見つけては陸地に上げ、指輪が引っかかっていないか丹念に調べる者もいた。

 その一方。
 陸地で指輪を探していたエミリエルは、背の高い水草の後ろに巨大カエルを発見した。
 本当に退治したほうがいいのか迷いつつも、彼女はリールを手招いて耳打ちする。
「リール様、お願いできますか?」
 『何を』と言わなくても話は通じた。
「スリープで眠らせましょう。暴れられると捜索の邪魔になりますからぁ」
 リールは満面の笑みを浮かべた。

●カエル駆除
 エミリエルに起こされたディノが現場にたどり着いた時、巨大カエルは魔法による眠りについていた。
「よっしゃぁ! 俺の出番だな!」
 慎重に狙いを定め‥‥矢を放つ!
  グェアッ!
 矢じりが湿った肌に食い込んだ瞬間、カエルは目を覚ました。
 スリープは眠らせる魔法だが継続的に眠らせ続けるものではない。痛みを覚えた対象は即座に目を覚ます。
 荒れ狂ったカエルは一番近くにいたディノに体当たりした。
「うわぁっ!」
「ディノ様!」
 エミリエルがカエルの目を狙ってダーツを構えて放つ! ‥‥が、弱い。
 体勢を整えたディノは弓を構えて再びカエルを狙う。
 しかし、飛び跳ねるカエルは思いのほかすばやい。
「くっ!」
 見切りで放った矢もかろうじて命中。だがカエルは池の中に飛び込んでしまった。
 泳ぐカエルは、ディノが一歩あるく間に四歩の距離を移動する。とても捉えられない!
「さあ、暗黒の眠りにつきなさい‥‥スリープ!」
 リールの魔法の援護で眠ったカエルに放たれる三本目の矢も‥‥命中!
 しかしすべての矢を打ちつくしても、カエルはまだぴんぴんしていた。
 たかがカエル‥‥その侮りは致命的なミスだった。

 事態はさらに悪化する。
 攻撃されたカエルは池の中を泳ぎまわり、池さらいをしていた者に体当たりを開始した。
 標的にされたのは、リュシエンヌとブノワ。
「え?‥‥きゃぁ!」
「リュシエンヌさん! これにつかまって‥‥わぁっ!」
 成人ジャイアントほどもの体重があるカエルが高速で突っ込んでくるのである。軽装備の二人がただで済むはずがない。
「ウォーターボム!」
 浅瀬にいたエルネストが事態に気づき、魔法でカエルを牽制して二人の避難を手伝う。
 もしブノアが事前に縄ハシゴを用意していなければ、魔法の援護があったとしても避難に時間がかかりすぎ、癒しきれない打撃を受けていたに違いない。

 カエルは攻撃的に泳ぎ続ける。
 ディノの矢が尽きた今、カエルにダメージを与えられそうなのはイシスのロングソードだけ。ディノは叫んだ。
「イシス、手伝ってくれないか!」
「わかった」
 イシスは切っ先で弧を描くようにロングソードをカエルに向けた‥‥その時。
 ディノの後頭部にゲンコツが落ちる。
「あいたっ!」
「‥‥なにをやってるのっ!」
 振り向くと、ずぶぬれのリュシエンヌが仁王立ち。
「いや、だからカエルを倒してからゆっくりと‥‥」
「浅瀬で暴れて、指輪がどっかいっちゃったらどうするのって言ってるのっ!」
「‥‥うっかり、土の中に踏み込んでしまうかもしれないしなぁ」
 ポツリとつけ加えるエルネスト。そうなれば指輪の発見はほぼ不可能。
 もしこれがカエル退治の依頼であったならば、倒した対象を煮ようが焼こうがそれは冒険者の自由であったのだが。

 ようやく自分の失策に気づいたディノはカエル狩りを中止した。
 あまりこだわりのないイシスもあっさりと剣を納めた。
「カエルの腹を裂くのは、見つからなかった時でいいか」
「お腹を裂く!?」
 カレリアが驚きの声を上げ、そしてグッと拳を握り締めた。
 そんなことはさせない!
 彼女の瞳には決意が浮かんでいた。

●しばしの休息
 カエルが落ち着くのを待つ間、一同は休憩を入れることにした。
 陸に上がったエルネストは事前に用意しておいた乾いた布で全身を拭く。
「用意がいいですね〜」
 作業着のすそを絞りながら声をかけるブノワに、苦笑するエルネスト。
「三十路を越えるとな、体のあちこちがきつくなるんだよ」
「あはは‥‥そんなものなんですか?」
 つい真剣な口調になってしまったブノワは、まさに三十路にカウントダウン。

 のんびりとした会話がある一方、こちらでは特攻準備がすすめられていた。
 カレリアの腰にはロープが結ばれ、その端をリュシエンヌが握っている。
 彼女はカエルに飲み込まれることでお腹の中に指輪がないかを確かめようとしていた。
「大丈夫‥‥リュシエンヌさんが引っ張ってくれるんですから!」
 勇気を奮い立たせ、対岸に寝そべっていたカエルの前に舞い降りたカレリアだったが、
「きゃぁっ!」
 いまだ興奮しているカエルは、近づいた彼女を舌で弾き飛ばしてしまった。
 水面に叩きつけられる直前に体勢を整えたカレリアは、再度カエルに向かって特攻する。
 二度、三度目も弾かれた。が、四度目でカエルは彼女を飲み込んだ。

 カエルの口の中はねっとりとして狭い。
 そのうえカエルはすぐに飲み込まず、彼女の体をすりつぶすような動作で上あごに舌を押し付けてきた。
「う‥‥うごけな‥‥」
 動かせるのはカエルの口からはみ出た足だけだ(ジタバタ)。
 それでも何とか腕を動かし、手にもっていモノでカエルの口の中をグッと押す。
  ゴハッ!
「きゃぅっ!」
 カエルに吐きされたとたんに腰のロープに引っ張られ、空中高くに跳ね上げられるカレリア。
 リュシエンヌは引っ張っていたロープを捨て、彼女に駆け寄った。
「大丈夫?!」
 カレリアは引きつりながらも、笑顔を見せた。
 手に持っていた刃のように尖った葉っぱは、重いナイフの代わりにリュシエンヌが持たせてくれたものだった。

 決死の行動ではあったが、指輪は見つからなかった。
「カレリアさん、無茶しすぎですよ」
 カレリアにリカバーをかけていたブノワだったが、木の陰から出てきた小さな人影に気づいて視線を上げた。
 出てきたのは三人の子供。
「あの‥‥」
「指輪さえ見つかったら、グルちゃ‥‥(モガッ)」
「じゃなくて、あのカエルは殺さないでもらえますか?」
 その言葉にハッと気づく一同。
 ここは子供たちの遊び場近く。夏の暑い盛りに子供たちが遊ばないはずがない。カエルに気づかないはずはない。
 大人たちに黙っていたのは何か理由があったのだろう。それが何かまではわからないが‥‥
 おそらく冒険者たちが作業をしている間、様子をうかがっていたに違いない。カエルのために危険を冒したカレリアの行動に心動かされて出てきたのだろう。
 子供たちの安全のために駆除を願ったブノワであったが、当の子供たちは望んでいないようだ。しかし神に仕える身としてはウソもつけない。
 だから彼は苦笑して、事実だけを口にする。
「残念ながら私たちの力ではあのカエルを倒せないようです」
 その言葉に子供たちは笑った。

 カエルはこの場所にいるから危険なのである。
「他の場所に移してはいかがでしょう?」
 と、エミリエル。
 しかしリールの魔法で眠らせたとしても、カエルの重さは200キロ程度。馬がなければとても運べない。
「だが、それより先に指輪を探さないとな」
 とエルネスト。
 このままでは指輪を見つける前に日が暮れてしまうだろう。一同はあわてて指輪探しの作業を再開した。

 子供でも人手が増えたことで、能率は上がる。
 対岸のカエルは近づきさえしなければこちらにかまうつもりはないようだったが、子供たちに危険がないように気を配りながらも作業は続けられた。
 指輪が見つかったのは日が暮れる直前。
「‥‥あ。あったよ! ママの指輪だ!」
 覗き込んだ子供の手のひらの中には、地平に沈みかけた太陽の残光を浴びて小さな指輪が一つ輝いていた。

●そして
 依頼人の家に戻るころにはすっかり夜になっていた。
 指輪を渡すと、夫人は小躍りして喜んだ。
「お疲れでしょう? 体を清めてから食事を召し上がってくださいね」
 夫人が用意してくれていた湯を使って体を洗い、暖かな食事とたっぷりいただいた後、一人一人に報酬が支払われた。
 が、しかし‥‥
「あれ? 俺の分は?」
 何も渡されなかったので声をあげたディノを、不思議そうに見つめる夫人。
「でもあなた‥‥カエルハンターさんでしょう?」
 報酬は要求された仕事を成し遂げたものに渡される対価である。夫人が依頼したのは指輪探しであって、カエル退治ではない。
 前日の夜、一人でやってきてカエルのことについて聞きまくったディノ。夫人は彼を『カエル狩り専門の冒険者』と誤解したようだ。

 とにかく指輪は見つかった。依頼は成功である。
 その夜はそのまま村長宅に泊めてもらい、一同はゆっくりと休息をとった。
 翌朝早く夫人と子供たちに見送られ、冒険者たちは帰路につく。
 それはとてもきもちのいい、秋晴れの日のことだった。