便利屋稼業 枝伐り

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月07日〜10月13日

リプレイ公開日:2004年10月15日

●オープニング

「枝を伐って欲しいんだが」
 冒険者ギルドの受付口。ここから数日離れた町の町長だという、依頼人の男性はそういった。
「うちの町の外れにある、荒れた敷地に生えてる木なんだがね」
 この敷地、もとはどこかの商家の店舗兼倉庫だったらしい。持ち主が事業に失敗してからは買い手もなく、建物も敷地も寂れる一方。しかし片付けるにしても壊すにしても、人手と金がかかるので放置されていた。
「ところが最近になって、ここを買い取りたいという人がでてきたのだよ」
 買い叩かれたとしても、敷地を管理する町としてはうれしいばかりの話なのだが、どうせ売れるなら高く売りたいのが人情である。
 依頼人が問題にしているのは、倉庫の側に生えている『どんぐりの木』。
 手入れされずに伸び放題に張り出した枝が、倉庫の明かり取りの窓をふさいでしまっているのだという。
「光が入る明るい倉庫はいい印象を与えるだろうからね。とりあえず、窓をふさがない程度に枝を落として欲しいんだ」

 木の剪定‥‥これが冒険者の仕事の現実なのか。
 依頼人を見送った後、理想と現実の狭間で遠い目をする駆け出し冒険者に向かい、依頼概要が書かれた羊皮紙を眺めながら、受付担当者は「あ、そうそう」と言葉を付け足した。
「依頼人は言い忘れたみたいだけど、さっきは木の近くで蛇を見たとも言ってたよ。話からは毒蛇かどうかまではわからなかったけど、いろいろと気をつけたほうがいいだろうね」

●今回の参加者

 ea1848 カレリア・フェイリング(25歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea4873 リール・ハザード(26歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6505 ブノワ・ブーランジェ(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7414 ヴィエラシュカ・ジゼル・ユリシュ(19歳・♀・ウィザード・シフール・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●事前準備
 その建物は実にあっけらかんとした印象でたたずんでいた。
「うわ。これはまた‥‥見たまんまの倉庫やな」
 幽霊でも出そうなオドロオドロシイ廃墟を想像していたヴィエラシュカ・ジゼル・ユリシュ(ea7414)は、ちょっと拍子抜け気味につぶやいた。
 町長からきいた話では、建物には夏に軽く人の手が入っているということ。しかし中庭は手付かずのまま。
「これだけ荒れている庭を見ると、主婦の血が騒ぐわ!」
 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は腕まくりして闘志を燃やす。
 問題のどんぐりの木は中庭の奥、草が特に勢いよく生えている一角に生えていた。
 夏の日差しで大きく育ったのだろう太い枝が、倉庫の窓を押しやぶらん勢いで大きく張り出していた。

「最低でもこの大枝は切り落とさないとダメね。あとは、こことここを‥‥」
「なぁ、ここの枝は残した方がええんとちゃうん? この木はこの形がええんよ。遠くから見て木の形が歪んどったら、高く売れへんやろ?」
「うぅ〜ん。ここを残すとなると、ちょっとキビシイわねぇ‥‥」
「だったら、ここは?」
 選定の作業を始める前にまず、どの枝を伐るかの相談から始めることにした。
 絵に多少の心得のあるアヴィルカ・レジィ(ea6332)が、手に持つ棒で地面に木の絵を描き(かつては馬車で荷物を搬入していたのだろう、硬く踏みしめられた裏門から倉庫の入り口までの地面には、草がほとんど生えていなかった)、その絵を参考にリュシエンヌとヴィエラシュカが額を寄せ合って論議する。
 リュシエンヌは植物の生態から、ヴィエラシュカが見た目の観点から、剪定の基本計画を立てていった。
「いい天気だ‥‥」
 その隣ではパラのエルネスト・ナルセス(ea6004)が、話を聞いているフリをしながらのんびりと日向ぼっこをしていた。
 多少の植物知識はあるが、自分より詳しいリュシエンヌに任せた方がラク‥‥いや、上手くいくだだろうと考えたためだ。
 ここを買う予定の流通商人は大きな倉庫のある拠点が欲しかったとのことで、この木については特に注文はないと事前に調べてある。あとは木が枯れないように剪定すればいいだけの話。
「それにしても‥‥まさに枝刈り日和だな」
 エルネストのつぶやきに、アヴィルカは無愛想ながらもこっくりとうなづくのだった。


 一方こちらは、蛇対策に動き出した面々である。
 どの枝を伐るかの相談が終わる前に、依頼人が見たという蛇を取り除くつもりだった。
「うわ〜 本当にすごい草ですね」
 シフールのカレリア・フェイリング(ea1848)が感嘆の声をあげる。
 今は飛んでいるからいいが、地面に降りれば彼女の姿はすっかり草の中に隠れてしまうだろう。
「でもぉ、なんでここだけこんなに草が高くてビッシリなんでしょうぉ?」
 町長から借りてきた鎌を手に首をかしげるリール・ハザード(ea4873)。
 中庭でも土の軟らかな場所にはまんべんなく生えている草だったが、なぜかどんぐりの木にほど近い、とある一角の草だけが特にイキイキしていた。
「あはは‥‥ここにはぁ、何か別のモノが埋まってたりしてぇ」
「あはははははは‥‥怖いこと言わないでくださいよ、リールさん!」
 幽霊話より、何かが埋まっていると考えた方が怖いカレリアだった。

「どんぐりか‥‥幼少の頃、この実でよく遊んだものだ」
 蛇退治用のフレイルを手に、もう片方の手で木肌に触れるのは鑪 純直(ea7179)。
 ひとしきり感慨にふけった後、彼は蛇の位置を探知するためバイブレーションセンサーを行った。
 しかし地面を伝わる振動は仲間のものばかりで、蛇のものらしい振動はなかった。おそらく蛇はじっとしているのだろう。
 純直は仲間に向き直り、深々と頭を下げた。
「何もわからなかった‥‥不甲斐なくてすまない」
「ま、そんな時もありますよ。蛇には作業中、僕も気をつけますから大丈夫です」
 スタッフを手に純直の側に控えていたブノワ・ブーランジェ(ea6505)は十字をきり、励ますようにほほ笑んだ。

●剪定開始
 まずは剪定によって建物を破損しないように、木と建物の間に防護ネットを設置することにした。
「いいか? おろすぞー」
「はぁい、いいですよぉ〜」
 倉庫の屋根に上ったエルネストが固定用のロープを地面に下ろす。
 下で待機していたリールがそのロープを受け取り、木の幹に固定する。
 次にエルネストが屋根からおろしたのは、以前この倉庫の持ち主が荷物運びに使っていたのだろう小ぶりの網だった。
 倉庫に残された道具の使用は、アヴィルカ、ブノワとも協力して町長に許可をもらっている。
 少し長さが足りなかったが、足りない分は「使っていただければ」と純直が提供してくれた毛布を継ぎ足して使用することにした。
 移動時間の関係で大きな網を手に入れるために川へは寄れなかったが、これなら何とかなりそうだ‥‥胸をなでおろすエルネスト。
「我らが貴婦人の御名において‥‥」
 防護ネットが設置された後、ブノワは作業者全員と剪定される木にグッドラックで祝福をする。
 そして本格的に作業は開始された。

 シフールたちがリボンを手に飛び回る。
 少しはなれたところから木全体を視野に入れて眺めるアヴィルカが、剪定計画を元に指示を出す。見るまに伐るべき枝にはリボンがつけられていった。
「一つどうだ?」
 倉庫にあったノコギリを二つ持ち出したエルネストが、ハシゴを木に固定しているリュシエンヌにノコギリを手渡そうとした。
「あ。ありがと。でもその前に、伐る枝全部に印をつけようと思ってるのよね〜」
 枝の剪定で必要なのは『伐る位置と角度』なのである。これを間違えると切り口から木が腐ってしまう。
「ま、剪定に強い木ではあるんだけどな」
 そのぐらい知識はあるエルネストだったが、剪定すべき『位置』がわかるのは専門知識のあるリュシエンヌだけ。木のダメージを思えば、彼女が伐るべき位置を線で印していった方が効率がいいだろう。
「伐るだけなら、ムーンアローを使ってもいいんだけど‥‥」
「ウィンドスラッシュ!」
 顔を見合わせた二人の頭上で、真空の刃が枝を切り裂いた。

 魔法を使ったのは、伐るべき枝に印をつけ終わったヴィエラシュカだった。
 彼女の持つナイフでは大きな枝を伐るのは困難。なので魔法の刃ならどうだろうかとの試し斬りをしてみたのだが‥‥
「ごふっ!」
 落下した枝が木の下で作業をしていた純直に直撃した。建物に被害を出さないようにはできたが、伐った枝の落下地点まではコントロールできなかった。
「ご、ごめんな〜」
「む‥‥大事ない‥‥」
 頭をさする少年志士が、ちょぴり涙目だったりしたのはヒミツである。

 魔法による剪定をあきらめたヴィエラシュカは、倉庫の屋根近くにある明かり取りの窓に目をつけてポムリと手を打つ。
「せや。このさいやから、窓も磨いたろ!」
 しかし街道筋にあるとはいえ普通の商人が作った倉庫である。窓に高価なガラスを使ってはいなかった。
 がっかりしつつも中はどんなものかと、明かり取りからそっと暗い倉庫をのぞきこんで見ると、
「うぷっ! すっごいクモの巣や〜!」
 とても外からは顔を突っ込めたものではなかった。
 しかしものは考えよう。こんな高いところにある窓の掃除はシフールぐらいしかできないだろう。そこのところををアピールすれば‥‥(ニヤリ)
 ヴィエラシュカはヒラヒラと地上に舞い降りた。
「なーなー、ブノワ〜 倉庫の鍵もっとったやろ? 鍵〜! なー、ちょ〜っと、貸してくれへんか?」
「‥‥いいですけど」
 呼び捨てですか‥‥という言葉を飲み込み、町長から借りた倉庫の鍵を取り出すブノワ。
「あ〜りがとさん!」
「‥‥貴婦人よ‥‥僕はまだまだ精進が足りないようです‥‥」
 意気揚々と飛んでいくヴィエラシュカを見送りながら、こっそり十字をきるブノワであった。

●忍び寄る影
 リュシエンヌがリボンのついた枝に線を描き、それにしたがってエルネストがノコギリで枝を伐っていく。
 印のつけ終わったシフールたちは、どんぐりを拾ったり、倉庫の窓掃除をしたりしていそがしそう。
 切られた枝は地面に落とされ、それをリールが拾い集めた。
「私ぃこの枝をかたずけてきますねぇ」
「あ。ちょっとまってください!」
 スタッフを手に蛇を警戒していたブノワがリールを呼びとめ、中庭のさらに奥にある建物を指差した。
「その裏に薪小屋があるんですよ。そこに運んでいただければ‥‥」
 と言いつつ枝を同じ長さに切りそろえ、ロープでくくってみせるブノワ。
「こうして積んで置いて、乾いたら薪として使えるんですよ」
「へぇえ〜」
 薪小屋の場所はあらかじめ町長に教えてもらっていた。元は従業員の宿舎があった建物の隣にあたるそうだ。

 ちょうどその時。
 拾い集めた枝に気をとられていた二人に、無言の小さな影が忍び寄っていた。
 最初に気づいたのは、少し離れた位置から蛇を警戒していたアヴィルカ。彼女はとっさに叫んだ。
「蛇です!」
 ハッと振り向いたブノワとリール。鮮やかな丸い斑をもつ蛇はリールの足元で、彼女に食らいつかんと鎌首をもたげていた。
 とっさにスタッフで蛇を振り払うブノワ。
「蛇嫌い! 暗黒の眠りに落ちなさいぃ‥‥スリープ!」
 呪文を唱え終わったリールが、魔法を発動させる。
 コテリと眠りにつく蛇。
 しかし蛇は一匹ではなかった。
 シュウシュウと舌を伸ばしながらリールの元へ、もう一匹の蛇が迫り来る。
 再び呪文を唱えるリール。だが‥‥間に合わない!
「スネークチャーム!」
 間一髪。カレリアの魔法が間にあい、蛇は所在なげにフラフラと体をゆらして踊り始めた。
「‥‥ふむ。よく似てはいるが、毒蛇ではないようだ」
 動物知識のある純直が、眠っている蛇と踊っている蛇を観察して断言する。噛み付きはするが、このあたりでよくみられる普通の蛇のようだ。
 毒蛇でないのならば、国によっては神の使いともいわれる蛇である。むやみに殺すには忍びない。
 作業の邪魔にならないように袋に入れておくことにして、帰り道に途中の森に離すことにした。

 それからはブノワ、純直、アヴィルカも剪定作業の手伝いを開始した。
 木の枝をリールとブノワがまとめ、アヴィルカが町長から借りてきた小さな荷車に載せて薪小屋に運ぶ。
 純直はそのまま落としてはあぶない大きさの枝を支え、安全に地上に枝を落とす補助役をかって出た。
 作業位置が高くなればそれぞれが命綱をつけ、事故がおきないようさらに慎重に作業を続ける。そのため予想以上に時間がかかり、枝きり作業を終えるころには午後もなかばをすぎていた。
 それから皆で手分けして、暗くなるまで草刈りに精を出した。

●一日遅れの誕生会
 日が暮れて夜もいい時間。
 倉庫の横、かつては従業員の宿舎があった建物に陽気な歌声が響いていた。

  まるで一線越えるよに 世の若者はいうけれど〜♪
  なれば気楽なこの世代 渋みが出るのもこの頃から!♪
  悲観するこた何もない 大人の余裕で生きましょう♪

 『30歳おめでとうの歌』を楽しげに歌って「ようこそ三十代!」、彼女なりの祝福をおくるリュシエンヌ。
 歌の伴奏は、リールが持参の竪琴で担当した。
「はっぴばーすでー、じーぶんー‥‥(拍手)‥‥我等が貴婦人よ‥‥うれしいのですが‥‥なんだか切ないのは何故なのでしょう?(遠い目)」
 彼はこの町にたどり着くちょうど前日に誕生日を迎え、花の三十代の仲間入りを果たしたばかりであった。
 歌を背景音に仲間の祝福は続く。
「誕生日おめでとう!」
 三十路の先輩エルネストが、至極善良そうな笑顔を浮かべて祝福する。
「これはそれがしから‥‥ブノワ殿には一飯の恩義があるゆえ、受け取っていただけるとありがたい」
 クルスダガーを差し出す純直。
「おめっとーさん! これで呼び捨てにできんなるなあ‥‥ブノワ『さん』!」
 にやりと笑うヴィエラシュカ。彼女が差し出したプレゼントは、エルネストに手伝ってもらって作ったやじろべえである。
「おめでとう」
 無愛想ながらも、親しみを込めたしぐさでぽんぽんとブノワの肩を叩いたのはアヴィルカで、
「お誕生日おめでとうございます、ブノワさん! これ‥‥ほとんどブノワさんに作ってもらいましたけど‥‥」
 作業の合間に拾ったどんぐりで作ったクッキーを、そっと差し出したのはカレリアだった。
 石臼で引いて粉にするには時間と手間がかかりすぎたため、砕いてアク抜きしたどんぐりを生地に練りこんで焼き上げた素朴な味のクッキーだ。
 三十代になってしまった事実はさておき、皆は心からブノワの誕生日を祝ってくれている。
「皆さん‥‥ありがとうございます」
 ブノワは十字をきりながらほほ笑み、感謝と共にプレゼントと祝福の言葉を受け取るのだった。

 次の日一同は早めに起き、やりかけの草刈りと倉庫(と、ついでに店舗)の掃除を開始した。
 主目的である枝刈りの作業は終わっているが、どうせならやりかけた仕事を最後までやり遂げた方が気持ちがいい。伸び放題だった中庭の草刈りには手間がかかったが、倉庫と店舗の掃除は予想より早くに仕上がった。
 刈り取った草をホウキで掃きだしているところで、依頼人の町長がやってきた。見違えるほどきれいになった倉庫と中庭に、目を見開いて驚く町長。
「おお! そんなことまでしてくれなくてもよかったのに!」
 と言いつつ、町長の声は弾んでいる。弾んだついでに依頼料の方もかなり弾んでくれた。
「えっ。こんなにですか?!」
 渡された報酬金額は、約束されていたものの約1.5倍。
「実はね。草刈りと掃除には、後で別に人を雇おうと思っていたんだよ。これでもこちらにしてみれば、安く上がって大助かりだったんでね!」

 昼前には掃除も終わり、一同は中庭の入り口に立って自分たちの仕事の成果を検分した。
 枝を切り落とされたものの丸いラインの残った木は、見る者をホッコリさせる愛嬌があった。
 草ぼうぼうだった中庭はすっきりと刈りこまれ、すぐにでも馬車を乗り入れられる状態になっている。
「なんだか‥‥ものすごく充実した、いいお仕事をさせて頂いた気がします」
 カレリアのつぶやきに、誰ともなく「そうだね」と頷き返す。ここまで結果が目に見える依頼も珍しい。

 そして冒険者たちは帰路へとつく。
 ここを買い取ってくれる人が、建物と同じぐらいにこの木を大切にしてくれる事を願いながら。