【開港祭】 貴婦人のブタ
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■ショートシナリオ
担当:美虎
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月07日〜11月12日
リプレイ公開日:2004年11月16日
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●オープニング
ノルマン王国の北部に位置する町、ドレスタット。
開港祭でにぎわうその港町は、華やかな喧騒に満ちていた。
●ドレスタット某貴族の屋敷前
「あいたたた‥‥話も聞かずに門前払いかよ」
「は! 馬車から転がり落ちたモンを、わざわざ届けにきてやったのに!」
まったく、これだから貴族ってやつはっ! ‥‥と言いつつ聞かれると怖いので、小声で毒つきながら歩く老人と若者。
身なりからすると、どうやら近くから祭り見物に来た村人らしい。
「でもなぁ。紋章入りの首輪をつけるぐらいに大事にされてたんだ、返してやりたいよなぁ」
「こんなに可愛く着飾ってなぁ‥‥ウチに持ってかえってもロクなもん食わせてやれないし、逆に‥‥かかあの好物だし」
「‥‥そういやジジイ、字が書けたよな」
「ん? まぁ、少しぐらいはな」
うなずく老人の腕の中で眠る動物を眺めつつ、若者は「それでいこうや!」と手を打った。
●冒険者ギルド内
「迷子保護の依頼が出ています。名前は明かせませんが、依頼人は身分の高い女性です」
冒険者ギルドの受付口、開口一番にそういわれた。
「彼女の屋敷に今日、このような手紙が投げ込まれました」
受付担当者は手紙の写しを広げた。そこに書かれていた文面は‥‥
『ブタはあずかった。ブタがだいじならば、港のひろば前までとりに来い。日がくれるまでまつ』
‥‥‥‥‥‥‥‥。
あの‥‥その‥‥迷子って言うのはまさか‥‥?
おそるおそる聞き返す冒険者に向かい、受付担当者は至極当然のように頷いた。
「できることなら傷一つなく無事に保護してください。ブタは依頼人の屋敷から一歩も外に出たことがないそうです。ブタが無事ならその他のことはかまわないとおっしゃっております。が‥‥くれぐれも依頼人に累が及ぶような騒ぎにだけはならないように願います」
●ドレスタット裏路地
薄暗い路地裏に二つの影。
祭に華やぐ表通りを眺めながら、影たちはささやくように語り合う。
「しくじりましたね」
「はい。まさかブタに牙があるとは‥‥」
「こんなことなら眠らせず、屋敷の中で殺しておくべきでした」
もう片方がうなずく気配。
「でも‥‥まだチャンスはあります。私たちの働きに乗じて、あの貴族から金を取ろうとした者がいるそうですよ」
「おお! ではその者が今、例の『モノ』を?」
「持っている可能性はあります。素直に渡すならよし、渡さぬなら‥‥うふふ」
影は紅い唇を笑みの形にゆがめた。
●リプレイ本文
●広場にて
その日、いつもなら海鳥の声響くその広場は祭の喧騒に包まれていた。
呼び込みをかける露店商人、朗々と冒険の歌をうたい上げる吟遊詩人、特別公演演劇の観賞を誘う口上が高らかに響く。
屋台からは香ばしい香り。旅芸人の出し物に子供たちが歓声を上げている。
広場の入り口近く、子供たちが興味津々でのぞきこむ屋台があった。
店主は「危ないから離れて」といいつつ、平らな鉄鍋に小ぶりの栗を丸ごとザラザラと放り込み、フタをして火にかける。
しばらく間をおいて‥‥盛大な破裂音。
見物していた子供たちが笑う。
鉄鍋からは、こんがりと栗の焼けたいいにおいがした。
「すごい音やったなぁ!」
相 樹樹(ea2893)はやや興奮したように焼き栗屋を振り返った。子供たちと並んで見物したい気持ちをグッとこらえ、依頼に気持ちを集中させて前を向く。
「確かに」
とうなづいたのは鑪 純直(ea7179)。彼は例の脅迫状の写しを取り出し、内容をもう一度確認している。
「それにしても『日暮れまで待つ』‥‥って言うのは、ちょっとおかしいよな。『日暮れまで待て』っていうならともかく」
純直が広げた脅迫状の写しをのぞき込みながら、ゾナハ・ゾナカーセ(ea8210)。
「うん。僕もおかしいと思ったんや。身代金のこともゆうてないし」
と、樹樹。
「だろう? 誘拐犯の書いた文章とは思えないんだよな」
と、ゾナハ。
「ブタが身につけていた『鴉天狗の羽』は、先日それがしがパリからの移送を手伝いいたした。かなり高価な代物と聞く」
と、純直。
「目的がブタであれ羽であれ、手紙の主とブタをさらったものが別人だという可能性が高いだろうね。仮にも警備の厳重な貴族の屋敷で盗みを働くほどの者が、こんなつたない文章を書くとは思えない」
と、片方だけの碧眼(もう片方は海賊風の眼帯に隠れている)を細めて、スイフリィ・ハーミット(ea7944)。
そもそも誘拐なら投げ文ではなく、さらった時点で置き文した方が確実だろうとつけ加える。
「それよりも問題は、この人の出だろう」
「‥‥然り」
ため息まじりのスイフリィに、生真面目にうなづく純直。
彼らは『広場の前』に行きさえすれば、手紙の主に会えると思っていた。
普通ならば会えただろう。しかしドレスタットは開港祭の真っ只中。右を見ても左を見ても、人人人、人の海である。
誰もこの人の多さを考えていなかった。手紙の主が誰なのか見当すらつかない。
万が一の時のため、少し離れた場所で待機しているはずのクオレスト・ヴァンシール(ea8309)の姿を探すのも一苦労。
ブタ探しのため、早めに出てきて正解だったようだ。
「ここでジッとしとってもしゃあないよ! 探しにいこう!」
さらわれたブタを心の底から案じる樹樹の言葉に、やはりまっすぐに頷く純直。純直のサポートをするつもりだったスイフリィもこの二人に同行することにした。
「私はこのあたりで待機しているよ」
と、途中で購入した黒い羽のアクセサリーを手にしてゾナハは笑った。
相手からの指定はなかったが、ブタが身につけていたアクセサリーに似たこれを見れば、相手から接触があるかもしれない。
一同は二手に分かれて手紙の主を探すことにした。
異国の祭を眺めながら、小さな東洋人は心ひそかに決意を固める。
「あの人はもうパリに戻ったのだ。これからは一人‥‥気を引き締めなければ!」
そして純直は仲間と一緒に手紙の主を探し始めるのだった。
●知られざる幕間
「もし‥‥お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
黒いフードの二人連れが焼き栗屋に声をかけたのは、それからしばらくたってからのことだった。
普段ならばうさんくさい風体だが、今は祭期間中。妙な仮装をした者も少なくなかったので店主は気に留めず、『はいはい、なんでしょう?』と笑顔を向けた。
ついさっきも東洋人の二人連れとか、海賊風の眼帯をしたエルフとか、馬の頭の被り物をした黒づくめの男とかが通り過ぎていったばかりだ。
「ツレとはぐれてしまったのですが、このあたりで見かけませんでしたか? 黒いブタを連れているはずなのですが‥‥」
「黒ブタ? ああ‥‥それならほんの少し前にウチで栗を買って、あっちの方へ歩いていったよ」
ブタを抱いて歩く男も珍しい。店主は迷いなく船着場への道を指差した。
黒フードたちは互いに顔を見あわせ、ほほ笑みあう。
●広場から路地裏にて
一通り広場を探した冒険者たちだったが、ブタを連れた手紙の主を見つけることはできなかった。
「だめやー! 見つからん!」
「まいりましたね」
「ゾナハ殿は?」
「いや、こっちも接触なしだ」
まさかこんな所でつまづくとは‥‥
一旦合流し、これからどうしたものかと相談する中、憤慨する男の怒鳴り声に視線を向けたのは耳のよかったゾナハ。
「まったく最近の若者は! 礼の一つも満足に言えんのか!」
「貴族の関係者なんてあんなもんだろ。まぁいいじゃないか、チビが家に帰れたんだから」
怒鳴る老人となだめる若者が肩を並べて船着場の方から歩いてくる。取り立てて気を引く光景ではない。
だがほんの少しだけ視線をそらし、その後ろを歩く二人連れに気づいたゾナハは声をあげた。
「いた! ブタだ!」
ゆっくりと路地裏に姿を消した二人の黒フード。そのうちの一人がブタを抱いていた。
ゾナハが指差した路地裏に向かい、弾かれたように駆け出す冒険者たち。
広場から一本道を入っただけで、町の雰囲気は変わっていた。
祭でにぎわう広場が明るく楽しげであればあるほど、建物の投げかける影と遠くに響く歌声に満ちた路地裏は暗く寂しさを増す。
「まって! ちょぉまってや! そこの人!」
一番身軽な樹樹が真っ先に路地裏にたどりつき、路地裏の奥へと向かう人影に声をかける。
だが人影はとまらない。
聞こえないのか、聞こえないフリをしているのか、振り向きもせずにその場を立ち去ろうとしているようだ。
その足が止まったのは、機転を利かせて回り道をしたゾナハが二人の進行方向から姿を現した時だった。
「少しよろしいですか? お聞きしたいことがあるのですが‥‥」
丁寧な口調で問いかける間に、樹樹と、彼に遅れて純直、スイフリィが到着した。
前後を挟まれた黒フードたちはお互いにささやきあうと、ブタを抱いていない方が答えた。
「何か御用ですか?」
と、女性の声。
冒険者の中、最初に一歩前に出たのはスイフリィ。
「手紙を出したのは君達かね?」
「手紙? 何のことですか?」
不思議そうに問い返す女性の反応に、スイフリィは眉をひそめる。
純朴な文面を書いた主ならばこんな反応はしないはずだ‥‥いやな予感がしたスイフリィは、予定を変更してやや遠まわしな表現で話しかける。
「実は今、さる貴族のブタが行方不明なのだ。それで私たちが探しているのだよ」
「まぁ‥‥このブタがそのブタだと?」
「人違いじゃないんですか?」
ブタを抱いた方の黒フードが口をはさむ。こちらも、やや低いが女性の声だ。
「件のブタは紋章入りのメダルを身につけている」
と、純直。
「失礼を承知の上でお願い申す。そのブタが首にかけているモノを確認させていただけぬか?」
黒フードの女たちは顔を見合わせて笑った。
「どうぞ」
差し出される小さな黒ブタ。
その喉元に添えられる銀色のきらめき。
「ご存分に」
カラン。
柔らかな首の血管と共に断ち切られたリボンから、紋章入りのコインが滑り落ちる。
相手の行動を警戒していた樹樹がダガーを認めた瞬間に飛び出した。が‥‥遅かった。せめて交渉役と同じ立ち位置に立っていたなら、致命傷だけはそらせたかもしれなかったのに。
断末魔のケイレンに震えるブタを投げ捨てた女の手には、黒い羽飾りだけが残る。
女たちは即座に身をひるがえし、ただ一人で道をふさぐゾナハに向かった。
「スリープ!」
「! ‥‥」
魔法抵抗に失敗したゾナハの体が、襲いかかってきた魔法の眠りの中で崩れ落ちる。
地面に倒れた衝撃で即座に目は覚めた。
しかし続けてゾナハを襲ったダガーのきらめきは、彼が身を起こすまで待ってはくれなかった。
ガツッ!
辛くも受け止められる一撃。凶刃を受け止めたのはクオレストのクルスソード。
そのまま突き放すように刃を放し、一合、二合‥‥互いに浅い傷を増やしながらも決定打を打てない二人。
そこに割って入る女の声。
「スリープ!」
抵抗できずに膝を崩すクオレスト。切りかかる女剣士を、今度はゾナハが体当たりで切っ先をそらす。
さらに打ち込もうとした女剣士を抑えたのは、冒険者ではなくもう一人の女。
「目的は達成しました。長居は無用です」
「‥‥はん。運がよかったな、クソ冒険者ども!」
ダガーを引いた女剣士が強がり半分に言い捨て、そして二人の黒フードは路地裏の奥へと姿を消した。
何がいけなかったのだろう。
事態を楽観しすぎていたことか? 手紙の主に会う方策を考えなかったことか? 相手が素直にブタを渡すだろうと思い込んでいたことか?
服が血に汚れるのもかまわず、こときれた小さな動物を抱き上げる純直。
流れ落ちる体温をさえぎるようにマントに包みこむが、冷たくなっていく体に熱が戻ることはない。
「これを」
戻ってきたクオレストが、ヒーリングポーションを差し出した。しかし首をかききられ、すでにこときれているブタはポーションを飲むことができない。
唇をかみ締めてブタの頭をなでる樹樹を眺めながら、純直が思い描いたのは癒しの力を持っていたあの人のこと。
「そうだ‥‥教会ならば!」
あの人と同じ、癒しの力を持つ聖職者がいるはずだ!
一同は冷たくなっていくブタを抱え上げ、ドレスタットの教会へと向かうのだった。
●その後
教会に運び込まれたブタは無事に蘇生された。
蘇生にかかった費用は冒険者がたてかえ、あとで依頼人から依頼料と共に冒険者へと支払われた。
結果的に生きたブタが依頼人には届けられた。しかし、一度死んだことは依頼人に報告されている。
依頼料は規定通りに支払われたが、依頼は事実上の失敗。ギルドでの評価はかなり落ちてしまった。
浮かない顔で依頼料を受け取る冒険者たちに、受付担当者は言う。
「確かにギルドでの評価は下がりました。けれどブタは生きています。ブタのために動こうとする者がいなければ、ブタは誰にも知られることなく死んでいたことでしょう」
下がった評価は取り返せばいい。だが、死んでしまったものは二度と取り戻すことはできない。
「どこに価値観をおくかは人それぞれですが、生きて戻ったことはいいことだと思いますよ。今回は大変でしたね。本当におつかれさまでした」