便利屋家業 ブタ狩り

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月06日〜07月11日

リプレイ公開日:2004年07月13日

●オープニング

「ブタを手に入れてきて欲しいんだ」
 冒険者ギルドの受付口、開口一番にそう言われた。
 『冒険者』という肩書きを手に入れたはいいが、回ってくる仕事は便利屋と大差ないような気がするのは気のせいだろうか?
 理想と現実の狭間で遠い目をする駆け出し冒険者に向かい、依頼概要が書かれた羊皮紙をひらひらさせながら受付担当者は言葉を続ける。
「今度そこの区画で大きなパーティを開くことになったんだが、今頃になって担当の料理人が『野豚でなければ料理しない!』とダダをこね始めたそうなんだ」
 頭を抱えたのが食材を担当した流通商人。
 大商人というほどではないがそこそこの規模の流通を扱う依頼者としては、『食材が届きませんでした』では事は済まされない。商人としてのメンツにかかわることである。
 あちこちに手を回し、万が一届かなかった時の保険として冒険者ギルドにも声をかけたのだという。
 とりあえずとはいえ依頼は依頼。成功させればギルドの評価も上がり、依頼も増えることだろう。
「そんなわけで、旨そうなところを三頭ばかり手に入れてきてくれないか?」

●今回の参加者

 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea1906 ヴォルディ・ダークハウンド(40歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3124 北道 京太郎(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3350 相馬 景滋(33歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4210 ティーア・グラナート(28歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●ブタ狩りの大地
 目の前にはどこまでも広がる大地があった。
 むき出しの土をまばらに覆う牧草。思い出したように点々と生える大木。
「こんな広い場所でブタを探すのか?」
 途方にくれたつぶやきは、誰のものだったのか。

 依頼におもむく前、冒険者たちは手分けして情報収集にあたった。
 ギルドの受付担当者にたずねたのはメリル・マーナ(ea1822)。
「ブタのえさを買いたいのじゃ。狩り場の近くでブタを飼うような牧場のある、適当な場所はないかのう?」
 重ねて受付担当者に問いかけたのは北道 京太郎(ea3124)。
「俺は‥‥落とし穴を掘るつもりだ‥‥広い場所があるといいのだが」
「そうだなぁ。依頼人の手配した業者と重なっても都合が悪いだろうし‥‥」
 ギルドの窓口担当者はしばらく考えた後、歩いて一日半ほど離れた狩場を教えてくれた。
 それがこの場所だった。

 とはいえ、いつまでも呆然としたままでは始まらない。
「とりあえず依頼人の好みを、もう一度確認してみよーぜ」
 切り替えの早いヴォルディ・ダークハウンド(ea1906)が真っ先に立ち直って提案する。
「俺は依頼人に会いに行ったんだが、あいにくと留守だったんで情報は特にないな」
 それに同行したディアルト・ヘレス(ea2181)が同意の意を示して頷く。
「私たちが彼にあえるのは、ブタを納品する時だけだろう」
 彼が商人の店の従業員に聞き込みをした限りでは、依頼人は座って食事をする時間もないほど働きづめなのだそうだ。
「俺たちは料理人の所に行ってみたぜ」
 と、ラシュディア・バルトン(ea4107)。
「『生きたまま』『生後三週間の子豚、あるいは半年ほどのメス』『できれば皮に傷がつかないように』ってなのが、料理人の指示‥‥そうだったよな?」
「‥‥ん」
 ラシュディアの問いに、こっくり頷くティーア・グラナート(ea4210)。
 子豚はとろけるような白身の肉とパリッとした皮が旨く、半年ほどの豚は豊潤な肉の旨みがどっしりとにじみでているのだという。そしてどの豚でも皮のあたりが特に旨く、見栄えのためにも傷はないほうがいい。大人のオス豚は少々肉が硬い。

 情報を確認しあいながら落ち着いて狩り場を見直すと、朽木のような柵が目についた。
 よく見れば地面に荷馬車が通った跡があり、ここで牧場と外が分かれているようだ。
 それさえわかれば、あとは行動を起こすのみ。
「そんじゃま、いきますか」
 一同は行動を開始した。

●エサを買いに
「囲いから逃げ出した家畜は狩られるだけ、か‥‥世知辛い世の中だね、どーにも」
「辛くても甘くてもよい。出すものをだすのじゃ、ホレ」
 シリアスに遠い目をしていた相馬 景滋(ea3350)は口の中でなにやらつぶやきながらも、手のひらをヒラヒラさせるメリルにエサ代を半額手渡す。
 二人は近くにある農場にブタのエサを購入がてら情報収集にやってきていた。これにはティーアも同行している。
 牧場で作業をしていたオバさんに声をかけ、柵の向こう側でブタ狩りをすることを説明し、ブタのエサを分けて欲しいと交渉する。
 オバさんは快く承諾してくれた。
「わざわざ報告に来るなんて礼儀正しい冒険者さんだねぇ」
「狩りには板切れを使うことになっているのじゃが‥‥よろしいじゃろうか? ブタが触るとカラカラと音が出る」
「ああ、『鳴子』だね。わかったよ。狩りをしている間はそちらに家畜をやらないようにするよ‥‥っと」
 エサの代金を数えていたオバさんは、「少し多かったよ」と差額をメリルに返してくれた。
 メリルとしては情報に対する対価のつもりだったのだが‥‥
「いいよいいよ、お金なんて。まぁブタが取れたら少し分けてもらえればそれでね」
 鷹揚なようで結構ちゃっかりしているオバさんだ。
 相馬は続けて豚の習性や生息場所を聞こうとしたのだが、彼のゲルマン語能力には少々難がある。
「ブタはいつもどこにいるかな。いつもは何をしている?」
 という質問にオバさんは、「んー?」と首を傾げてしまった。
 そこで、この国生まれのティーアが質問を引き継いだ。
 ブタがよく出る場所と好物、いつも農家がどうやってブタを狩っているかとの質問に、
「大抵は犬を使って罠に追い込むね。外で何を食べているかわからないけど、ウチで飼っている豚より肉の味がいいんだよねぇ。狩りは畑や牧場から離れたところでやるよ。だから荒れないんだ」
 とオバさん。
 さらにブタはいつも10匹ほどの群れで歩いていると付け加え、よくいる場所も教えてくれた。
 必要な許可とエサと情報を手に入れた三人は、足取りも軽く仲間のところへと戻ることにしたのだが‥‥

●落とし穴作成
 三人が狩り場予定地に戻ると、誰の姿もなかった。
 ぐるりと辺りを見回しても、目の前に不審な山盛りの土があるだけだった。
 耳を澄ますと「おおい、おお〜い」と、どこからか聞こえる呼び声。
 警戒しながら山盛りの土に近づくとその影の地面に大きな穴があいていて、その中から泥だらけのスコップを手にした北道が、覗き込む三人を見上げていた。
「深く掘りすぎた‥‥手を貸してくれ」
 掘る事に熱中するあまり、穴から出る方法を考えていなかったらしい。深さはちょうど彼の身長ほどある。
 三人は顔を見合わせた。

「ちょうど野草を探しに行っていたので気づきませんでした」
 と、イリア・アドミナル(ea2564)。
「俺は鳴子の板切れを探していたもんでな」
 と、肩をすくめるヴォルディ。
 ディアルトはまだ帰ってきていない。
「まぁこれも一つの精進だろう‥‥」
 枝を拾ってきて穴を覆いながら北道。ティーアがそれをさらにわかりにくくするため、カモフラージュをくわえている。
 相馬は大穴を前に考え込む。
「ブタの通り道から少しはずれているようなんだが‥‥」
「少しだけ? なら獣道からこの鳴子で道を作れば、ここに誘導かけれるんじゃねーかな?」
「ああ、なるほど」
 ヴォルディの提案に一つ頷いた相馬はその提案をより確実にするべく、いくつかの落とし穴を新たに掘り始めた。北道が作ったような深いものではなく、足止めを優先させた浅い穴。
 仲間が落ちないよう、さりげなく目印をつけていく気の配りも忘れない。

 メリルは北道の作った落とし穴に注意しながら、購入してきたブタのエサを仕掛けていった。同じくイリアもなにやら背の高い草を置いている。
「なんじゃ、それは」
「飼料にも使われる牧草で、マメ科の多年草です。家畜が好んで食べる草なので、ブタも喜ぶかと‥‥」
「へー。じゃぁ、このエサの中にも入っているのじゃろうか?」
「ええ、たぶん」
 イリアは笑った。

●狩り開始
 冒険者が立てた計画はこうだ。
 豚がエサの罠にに食いつきそうならそっと見守る。エサの罠がある場所から遠ざかりそうなら、罠に追い込むというもの。
 そんなわけで地元の情報をもとに、ヴォルディとラシュディアはブタの行方を追っていた。

「いた」
 と、最初に声をあげたのはヴォルディだ。
 隠れる場所のない開けた場所。白い集団がポテポテ歩いているのですぐに目に付いた。
「魔法、必要なかったな」
「これだけ見通しがいいところだとな。ま、次に期待だな」
 声をひそめてブタを見守る二人。ブタといえども相手は獣、気づかれないように風下から近寄る。
 位置的には落とし穴のある場所からは遠く、鳴子で敷いた罠の道の入り口にほど近い。
 しばらく様子を見ていたが、ブタはそのまま通り過ぎようとしていた。
 そこで彼らは行動を開始した。大声を上げながらブタを罠へと追い立てる!
「うぉりゃああああああああ!」
「わぁあああああああああああああ!」
 その声に、臆病なブタは跳ね上がって驚いた。
 そして一目散に走り出す。
 その先には鳴子がついたロープで囲まれ、落とし穴へと誘導された道。
 道からはずれようとすればロープについた鳴子がカラコロと音を鳴らす。その音にブタはまた驚いて、誘導された通りの道を走り続ける。
 それでも道をはずれようとするヒネクレ者はどこにでもいるものだ。鳴子のついたロープに体当たりし、そこから抜け出そうとする。
 そんなブタへは、鳴子の罠のある道の途中で待機していたイリアが対処した。
「豚さんこっちだよ、ウォーターボム!」
 ブタをおどかして道の中に戻すべく、水の塊をブタの前方に放‥‥とうとした。
  ごがっ!
 ウォーターボムは『対象物』に放たれる魔法である。『豚の前方に』放とうとしたのでとっさに彼女は、『豚の前方にある罠』を対象としてしまったのだ。
 ロープはその一撃であっさりと壊れ、穴の開いた罠の道から何匹かのブタが逃げだしてしまった。
「イリア〜っ!」
「ご、ごめんなさい!」
 だか立ち止まるわけには行かないヴォルディは、そのままブタを追って走り去ってしまった。
 この失態を挽回しなくては! イリアはあとを追って、先を急いだ。

 多少数は減ったが、ブタたちは確実に落とし穴のある場所へと誘導されていた。
 まずは相馬が数多く仕掛けた浅い落とし穴群がブタたちを待つ。
「ピギー!」
 逃げ惑いながら走り抜けようとしたブタたちは、巧妙に隠された落とし穴に次々を足をとられてころげまわる。
「とりゃぁっ!」
 待ってましたとばかりに、待機していたメリルが手製の投網をブタに投げかけた。
 しかし、六本のロープで作成された即席の投網の目は少々荒かったようだ。
 中ブタが二匹ほど引っかかったが、子豚は必死になって大きな投網の目の間から逃げ出てしまった。
「ふほほほほほほ! まぁよい、二匹ゲットじゃ!‥‥って、のわ〜っ!」
 投網をかぶせたまでは良かった。
 が、小さな彼女の体では二頭のブタをおとなしくさせることはできなかった。
 死に物狂いになった二頭の豚は投網を引っ掛けたままメリルを引きずり、爆走を開始した。
「メリル!」
「わしはよい! ブタをのがすな〜‥‥!」
 ブタに連れられ遠く離れていくメリルをやや呆然と見送ったイリアだったが、首を一つ振って気を取り直した。
 彼女の視線の先には、落とし穴に落ちてマゴつく子豚が一頭。
 慎重に狙いをつけて魔法を放つ!
「鮮度が一番‥‥アイスコフィン!」
  コキン!
 魔法が発動した瞬間、子豚は悲鳴を上げる間もなく氷の塊に包み込まれ、イリアは子豚を手に入れた。

 その瞬間。
 彼女の背後で『ドーン』と大きな音があがった。
 振り返ると、ハンマーを持った北道が自分の作った特大落とし穴をのぞいている姿。
「やはり深く掘りすぎたのか‥‥」
 そんなことをつぶやきながら首をひねっている。
 氷漬けの子豚を抱いたまま、北道の作った落とし穴を一緒になってのぞいてみたイリアは、はるか下の方にかなり大きなブタが首を変な方向に曲げてヒクヒクしているのを見た。
 北道が作ったのは、ブタの体長より二まわりも大きな直径の落とし穴。そこまで大きなの穴を隠すフタとなるとかなりの強度となってしまう。
 そのため子豚と中ブタが落とし穴の上を駆け抜けても罠が発動せず、かなりの大物だけが引っかかってしまったようだ。
 それはいい。問題はその穴の深さ。
 北道の身長ほどの高さから落ちれば、普通のブタならタダではすまない。
「まぁ‥‥大人しくさせる手間は省けたな‥‥」
 とにもかくにも、大ブタが一頭しとめられた。

 北道と合流したヴォルディが苦労して大ブタを引き上げたころには、中ブタに連れ去られたメリルも戻ってきた。疾走の術を使った相馬の尽力だ。
 中ブタ二頭(生け捕り)と子豚一頭(氷漬け)、大ブタ一頭(ご臨終)。
 なかなかの成果である。
 あとは罠の後始末をして、帰るだけ。
「終わったのか?」
 馬を引き連れたディアルトがひょっこりと顔を出す。
「おまっ‥‥どこにいたんだ?」
「馬の世話をしていた。レンジャーが二人もいただろう。猟の知識があるファイターも。俺がいなくても大丈夫だと思ってな」
 わりと要領のいい神聖騎士さまだ。
「牧場も畑も荒らさなかったから、謝りに行く必要はないよな! 最後には修理に行かなきゃ行けないかと思ってたんだけど〜」
 最悪、強制労働をも覚悟していたラシュディアが上機嫌で胸をなでおろしていたその時、大きな手が彼の肩にポムリと置かれた。
「暇そうだな‥‥手伝ってくれ」
「はぁ? なんで俺が‥‥ああああああっ!」
 有無を言わさず連れ出されたラシュディアは、北道の作った巨大落とし穴の穴埋めに借り出されてしまった。
 これだから世の中、うかつなことは言えない。

 大ブタの一部はお礼と報告がてら牧場のオバさんに手渡し、残りは夕飯として皆で食べた。
 さすがは野豚。料理人がこだわるだけはある味だった(ような気がする)。
 その間にの氷漬けの効力が切れて子豚が蘇生し、手近にいたものに噛み付きまくったのは余談である。
「あいたっ!‥‥イリア! これじゃ鮮度が良すぎるぞ!」
 アイスコフィンは生きているものは生きたまま氷に閉じ込める魔法である。しかし、効力は永久ではない。 
 再び氷漬けにしてもこちらが眠っている真夜中に蘇生して逃げられてはたまらない。何とか捕まえた子豚は、ズタ袋に押し込まれた。

●報酬受け取り
 指定の場所に納品しに行くと、依頼人が待ち構えていた。
 さっそく捕まえたブタを引き渡すと飛び上がって喜ぶ。
「ちょうど食べごろのブタじゃないか‥‥おお! これは子豚! しかも無傷!」
 ほお擦りせんばかりの勢いである。
 ご満悦の依頼人は、依頼に使ったお金を必要経費として依頼料とは別に支払ってくれた。消耗品については流通商人が選んだという最高級品を現物支給された。
「しまった。もっとふっかけるんだった!」
 とは、ヴォルディの談。
 もっと複雑な駆け引きをするには、もう少しこの国の言葉を習得する必要がありそうだが、消耗品を出させることに成功したのはさすがというべきだろう。
 保存食の干し肉は、ブタを所望した料理人が直々に燻製したものだ。
 繊細な塩加減と絶妙なスモーキング。
「‥‥いい香りだ」
 料理好きの北道はうれしそうにつぶやいた。
 欲を言えば料理を作る所を見たかったのだが、まぁ本物の料理人の料理が味わえただけでもよしとしよう。
 物静かなので目立たないが、要点だけは外さないティーアが借りていた荷馬車を返還して、依頼のすべては完遂された。

「実は依頼人、ほかで満足のいくブタが手に入らなかったらしくってね」
 と、ギルドの受付担当者が後でこっそりと教えてくれた。
「彼はあの業界じゃ結構な顔役なんだよ。これでギルドの株もかなり上がったと思うよ。本当におつかれさま」
 ねぎらいの言葉も心地よい、初夏の出来事あった。