便利屋家業 害虫駆除

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月19日

リプレイ公開日:2004年07月19日

●オープニング

 冒険者ギルドの受付口。
 今回の依頼人は老人と若者の二人組みのようだ。
 血縁なのかよく似通った顔立ちの二人は、手振り身振りを交えて表情豊かに語りだす。

「村はずれに虫が出るんだよ」
「虫って言っても毛虫とか甲虫とかじゃない。こう、ヒラヒラ〜って飛ぶ蝶だ」
「オレらの村では見慣れないヤツでな。今年の春先あたりから見かけるようになったんだが‥‥」
「はじめはキレイな蝶だな〜 ってなもんだったんだけどな。捕まえようとしたとたん、こう‥‥胸がカァッと熱くなって、むせて倒れちまったんだよ!」
「まぁ体力バカのこいつにとっちゃぁ大したことはなかったんだが、この蝶をほっとくのも危ないなぁと」
「蝶じゃねぇよ。ありゃぁ『蛾』だ! 『毒蛾』!」
「模様がきれいなのは蝶だろう」
「蝶と蛾の区別もつかないのかこのモウロクジジイは」
「は! オシメもとれない若造が、ようも大きな口を叩いたもんだな!」

 (以下、蝶と蛾の違いについての熱い討論中)

「‥‥そうそう。そういやほんの数ヶ月前まで、近くの物置小屋によそ者が住んでたっけなぁ」
「いつの間にいなくなったんだっけか?」
「オレたちの言葉がわかんなくてな、こっちも気味悪いんであんまり近づかなかったんだが」
「悪さもしなかったし、ヘタにちょっかいかけるのも‥‥なぁ?」
「でもほれ。春ごろから見慣れない花があのあたりから増えてきて‥‥」
「そういやそうだったかな?」
「蝶も花もそのよそ者が持ってきたってのが、俺の推理だな」
「へ。ジジイの推理なんかあてになるか」
「は! シリに卵のカラをつけたまんまのボクちゃんには、難しい問題だったかね」
「カンオケに片足どころか両足突っ込んでダンスを踊るジィさまほどには人生経験がありませんでね」

 (以下、若者の父親の母親の親戚筋にあたるラバの舌がいかに短く意地汚く、老人の母親の従兄弟の嫁の隣に住んでいる学者先生の生え際がいかに危険であるかについての討論)

 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
 まじめに聞いていたら耳が痛くなってきた。
 説明なのだか漫才なのだかよくわからない怒鳴りあいはまだまだ続きそうだ。
 途方にくれたまま救いを求めるようにギルドの受付担当者へと視線を向けると、担当者はちょこっと笑って依頼の概要を一言でまとめてくれた。
「まぁとにかく彼らの村に行って、村のはずれに出る害虫を退治してきてくれないかな」

●今回の参加者

 ea1550 エリベル・フルウルド(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea2600 リズ・シュプリメン(18歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea3826 サテラ・バッハ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4739 レティシア・ヴェリルレット(29歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea4801 孫 葉玲(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●緑の草原
 そこは村から少し歩いた場所にある、開墾途中の草地だった。
 物置小屋の存在以外に人の手のはいった場所はない。
 名もなき草花が地を覆い、小さな生命あふれる緑の地。

 六人の冒険者は依頼人に案内され、件の毒蝶が現れるという場所に来ていた。
 一人少ないのは、やりたいことがあるという孫 葉玲(ea4801)を村に置いてきたからだ。
「きれいな所ですね」
 まぶしい日差しを気持ちよさそうに受け、つぶやいたのはエリベル・フルウルド(ea1550)。
 老人は笑って頷き、曲がった腰を精一杯に伸ばして説明する。
「例の蝶はもう少し先の、あの小屋の向こうから木立の間をよく飛んでいますな」
「蝶でも蛾でもよろし‥‥つまるところ、鱗翅目の昆虫の成虫を片付けて欲しいってことでしょー?」
 色の違う瞳を楽しそうに輝かせるリュリュ・アルビレオ(ea4167)。
「いや。俺は絶対『蝶』だとおもっとるんだが!」
 老人の突然の大声に、少々気弱なハルヒ・トコシエ(ea1803)は驚き、一行の最後尾に移動する。
「害虫退治ですか‥‥『小さな虫にも五分の魂』という言葉が、どこかの国にあるようですが‥‥魂が僅かしかないから情け無用という意味でしょうか? 冷酷ですね」
 何気なくつぶやいたのはリズ・シュプリメン(ea2600)。
 彼女に他意はなかったのだろう。消えゆく命のために、思わずわいた憐憫の情が口をついて出ただけだろう。
 しかし、老人の反応は鋭かった。
「あんたは、自分のうちにスズメバチが巣をつくったら放っておくのかい?」
 村人は実際生活で件の毒蝶に被害を受けている。駆除を依頼した冒険者に、『かわいそう』などと言われ、手を抜かれた日にはたまったものではない。
「ただ飛んでるだけなら俺たちだってかまわないさ。特に邪魔にもならんしな‥‥ただ、ここは子供の遊び場でもあるんだよ」
 今でも目を離すとこの場所で遊ぼうとするんだ、と老人。
「大人ならまだしも、子供たちに何かあったらと思うと、な」
 嘆息混じりにつぶやいた老人は、「そんなわけでくれぐれも頼む」と冒険者たちに深く頭を下げるのだった。

●冷気の罠
 蝶と言うものはおおむね暖かな日中に行動し、気温が低くなると活動が抑制される生き物である。
 冒険者たちは蝶の出現場所の気温を下げ、蝶の動きが鈍ったところを狙って駆除する作戦を立てた。
 リズからグッドラックの祝福を受けた一同はさっそく行動を開始した。

「フリーズフィールド!」
 呪文の詠唱を行い、片手で印を結ぶサテラ・バッハ(ea3826)。
 蝶道に現れる、小屋ほどの大きさの冷気に満ちた立方体空間。
 サテラは時間を置いて、別の場所にもう一度「フリーズフィールド!」。さらに時間を置いて「フリーズフィールド!」「フリーズフィールド!」。

 広範囲に冷気空間が作られた場所から離れて待機していたリュリュが、「そろそろかなー」とつぶやく。
 彼女が眺める先には退治すべき蝶が三匹ほど飛んでいた。見た目だけではとても毒があるようには見えない綺麗な蝶。
 やがてサテラの動きが止まり、リュリュに合図が送られた。
「よぉっし! 行動開始〜‥‥の、ウインドスラッシュ!」
 差し出されたリュリュの手のひらから生まれる真空の刃が、平和そうに空を舞う毒蝶の一匹に放たれる。
 ひらり。
 一刃目はよけられた。
 二刃目は命中したが落とすには弱く、蝶はヒラヒラと逃げ出した。
「結構、丈夫なもんだねー」
 トドメをさせなかったというのに、リュリュの口調は明るい。
 そう、彼女の役目は蝶を倒すことではなく追い込むことにある。

 真空の刃に追われた蝶は一匹一匹冷気の罠へと飛び込み、寒さに動きを鈍らせていく。
 そこに待ち構える二人のジプシー。
「えーっと、行きます!」 と、ハルヒ。
「陽の光よ‥‥行け! サンレーザー!」
 エリベルの一喝と共に放たれる陽魔法。
 集中された二本の太陽光線に貫かれ、毒蝶はあっけないほど簡単に倒れた。
「おみごと」
 と、サテラ。
「この調子でまいりましょう」
 また一匹、冷気の罠へと追い込まれてくる蝶を見ながら、エリベルは艶やと微笑んだ。


「ひぃふぅみぃ‥‥あと三匹だっけ?」 指折り数えて、リュリュ。
「あと半分ですね〜」 と、ハルヒ。
「この調子だとすぐに終わりそうだな」
 満足げなサテラの言葉に、エリベルはあたりを見回した。
「でも‥‥他の蝶はどこにいるんでしょう?」
「‥‥あ」
「あれっ?」
「そういえば‥‥」
 眼前には、のどかな草原はどこまでもどこまでも続く。
 今は冷気に包まれた空間が林立する他は見事に何もない。蝶影の一つすらも。
 そう、冒険者たちは蝶を倒す方策の連携は考えていたが、蝶を探し出す方法を何も考えていなかった。
 蝶は時間ごとに移動するという。ならば待っていれば残りの蝶もこの場に現れるだろう。
 多少時間はかかるが特に問題はない、と思っていた一同だったが‥‥

「痛い!」
「指先がまっかっか! なんでこんなことになるのよぅ!」
 『フリーズフィールド』‥‥それは氷点下空間を作る魔法である。
 氷点下の『空間』に敵・味方の区別がつくはずもない。長時間、防寒対策もなくその空間の中にいれば、軽傷ではあるがダメージを受けてしまうのだ。
 もし誰かが蝶の居場所を確実に確認していれば、短時間で蝶を駆除することができただろう。あるいは防寒対策を講じていたならダメージを受けずにすんだだろう。
「こんなに長時間待機するとは思わなかったから‥‥」
 相手はたかが蝶だと、知らず知らずのうちに油断していたのかもしれない。
 『どんな相手でも油断は禁物』、と心に刻む新米冒険者たち。
 彼女たちはかじかむ指をこすりつつ暖を取り、辛抱強く蝶が現れるのを待ち伏せるのだった。

●物置小屋にて
 朝から作業を始め、毒蝶をすべて駆除し終わるころには昼を大きく過ぎていた。
「でもさー。成虫がうろついてたってことは‥‥」
「ええ。卵を産み付けている可能性はありますね」
 リュリュの言葉に頷くエリベル。卵があるのならば、それも駆除する必要があるだろう。
 よそ者がいたという物置小屋の探索も必要だろうと、サテラ。
「あのぅ‥‥そういうことなら私、依頼人に報告しに先に村に帰りますね!」 と、ハルヒ。
 『小屋の中にビツシリと産み付けられた蝶の卵』を想像しただなんて、口にするだけ泣いてしまいそうだ。
「そういえば‥‥レティシア様はどこへ行ったのでしょう?」
 仲間の一通りにリカバーをかけ終わったリズが、慎ましやかに問いかける。
「レティシア?」
「お一人だけ、男性の方がいたでしょう? 村からここに来るまでは確かにご一緒しましたのに‥‥」
「ああ、あの貧弱な体格の」
 趣味ではない男性には特に興味のないサテラであった。

 村へと帰るハルヒを見送った一同は、物置小屋周辺の探索を行った。
 サテラは小屋周りを、エリベルとリュリュは小屋の中を調べることにした。
「依頼人はいないって言ってたけど、誰かいると危ないから」
 とエリベルに言い、リュリュは小屋に向かって呼びかける。
「誰かいますか〜?」
「誰もいませんよ〜」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
  ドバン!
 蹴り飛ばさんばかりの勢いで扉を開けたリュリュとエリベルは見た。
 何の変哲もない物置小屋の中、積まれた薪の上に居心地よく寝ころんだレティシア・ヴェリルレット(ea4739)の姿を。
「こんなところで何してるのっ?!」
「や! 一足お先に探索させていただいてたのさ。美しき女戦士たちのお邪魔になってもわるいしサ!」
 しれっと答えるレティシア。なかなかイイ性格の御仁のよう。
「ま。大したものは見つからなかったんだけどな‥‥小屋の中じゃぁこれだけだ」
 「俺としては『よそ者の死体に咲いた花』〜なんてものを期待してたんだけどな!」という言葉は飲み込む。どう考えても女性向けしそうにない。
 かわりに差し出した羊皮紙の切れ端には、見慣れない小さな文字で何かが書かれていた。
「インドゥーラ‥‥の言葉のようだけど」
 目を細めて読み込んでいくリュリュ。しかし、すぐにため息をついて首を振った。
「内容は難しすぎてダメね。ここらへん、数字が書いてあるのはわかるんだけど‥‥何かの分量なのかな?」
 小屋の中ではそれ以上わかることはないようだ。

「外も調べてみたんだけどさ、蝶の卵が産み付けられてたのは‥‥この花の咲いている草だけだったぜ」
 と、レティシア。
 依頼人が言っていた『見慣れない花』とはこの草のことだろう。駆除に時間がかかった分、卵について新たに調べなおす時間が短縮されたのはありがたい。
 一同は手分けして毒蝶の卵の駆除にとりかかった。
 その中で。
「一つぐらい‥‥持って帰ってもいいよね!」
 とつぶやき、卵がついた葉っぱを隠すリュリュ。その背中に、「みーちゃった!」かけられる声。
 バッと振り向くとニヤニヤと顔のレティシアが立っていた。
「いーのかなー? そんなもの持ってっちゃって〜」
「こ、これは、今後の研究のために‥‥」
 といいかけたリュリュの言葉がとまる。
 マントに隠れているがレティシアの腰に、先ほどまでなかった不自然なふくらみの皮袋。
「それ、何?」
「あ。いや、なんでもないって!」
 明らかに挙動不審なレティシア。気になったリュリュは、ふくらんだ皮袋に向かって手を伸ばした。
 体力的には分のある彼はしかし、女性相手に手荒なことをするのは気が進まない。そんなわけで二人は狭い場所でもみ合いはじめる。
「いやはや! 麗しき女性に襲われるのは光栄なんだが、俺としては美少女よりも美女の方が好みなんで〜 あと十年ぐらいしたらまたお相手願えないかな〜?」
「何言ってるのよ! もう!」
 リュリュが叫んで引っ張った瞬間、二人の間の力の均衡が崩れ、皮袋はどちらの手からも離れて地面に落ちてしまった。
 落ちた衝撃でで開いた袋からのぞいたモノは‥‥
 葉っぱについた卵、死んだ蝶の羽、根っこのついた毒草っぽい草‥‥持ち帰っては『ヤバ気なモノ』が盛りだくさん。
「‥‥ふふふふふふふふふふふ」
「‥‥ははははははははははは」
 皮袋を間にはさんで二人は見つめあい、そして笑う。
「二人とも」
 急に声をかけられ、飛び上がるリュリュとレティシア。
「何か見つけたの?」
 ブンブンブン。
 『卵を持ち帰る』という共通の目的を持った二人は無言のままに同盟を結び、他の仲間に知らぬ存ぜぬを貫き通すのだった。

●そのころ村では
「あら?」
 探索する仲間と別れて一人で依頼人の家に向かったハルヒは、そこに葉玲の姿を見つけて目をしばたいた。
「やぁ、ハルヒさん」
 と迎え入れたのは依頼人の若者。
「葉玲さん、どうしたんですか? こんなところで」
『ああ‥‥ハルヒ様が戻られたということは、蝶はもう‥‥』
 ハルヒのわからない華国語でそうつぶやいた葉玲は、悲しげにうつむいてしまう。
「ああ。村をうろついていたんで家に呼んだんですが‥‥言葉が通じなくて困りましたよ」
 冒険者の中には東洋人も多いため、その点では特に村人も気にせず接していたのだが、必死になって何かを捜し求める葉玲の様子には困惑を隠せないでいた。
「なんせさっぱりわからない言葉なんで、どーにも」
 と、肩をすくめる若者。
『害虫とはいえ彼らとて生きているだけのです‥‥それをこちらの都合だけで殺すなんて』
 心優しい彼女は、力なきモノの命を救えなかった自分の無力に嘆息する。
 人が本気で悲しんでいるかどうかぐらい、言葉がわからなくてもわかるもの。
 ハルヒは慰めるように葉玲の手に、自分の手を重ねるのだった。

 しかし‥‥結果は行動によってもたらされる。
 意志と行動力さえあれば、蝶を逃がすこともできた。その方法も確かに存在した。
 蝶を殺して欲しくなければそれ以外の方法を示すべきだった。少なくともその現場にいる必要があっただろう。
 失敗することは道化か? 恥ずべきことか? そんなことはない。今回は失敗してしまったが次はもっと上手くやれるだろう‥‥生きてさえすればそれは、学ぶべき貴重な経験となる。
 どんな行動も思い通りにいくとは限らないのがこの世界。
 学んで欲しい、そしてあきらめずにいろんな行動をしてみて欲しい。そんな世界の中だからこそ、自分の意図した通りに事が進んだ時の喜びは格別なものなのだ。
 思い描いた通りの物語を紡ぎたいのなら吟遊詩人に頼むといい。それも一つの道。彼らは冒険者が指定したその通りに物語を語ってくれるだろうから。

●依頼のあとに
 駆除を終え、卵の始末をも終えた一行が依頼主の家へたどり着いたころには、とっぷり日は暮れていた。
 結局、一日がかりの作業となってしまった。疲労困憊、足を引きずるようにして歩く冒険者たち。
 扉を開けた一同は、眼前に広がる光景に言葉をなくした。
 ごちそうが並ぶ食卓。その中で、仲間の二人が実に楽しそうに食事をしていたのだ。
「ハルヒさん、葉玲さん‥‥ずいぶん美味しそうなものを食べているのね‥‥」
「あ。エリベルさん!」
 ちょうど杏の甘煮をかじろうとしていた所を見られたハルヒは照れ笑いした。
「今、皆さんの分も用意しますね! 葉玲さん、手伝ってください〜」
『はい』
 葉玲はやさしく微笑んで、ハルヒと共に席を立った。

 あのあと、言葉が通じないなりに励ますハルヒを見るうちに、依頼人も何かしなければと思ったのだろう。
「落ち込んだときは、旨いもんを食べるに限る!」
 と、次々に食べ物を出し始めたのだ。
 ベリージャムを添えた、ソバ粉のパン。とれたての果物。冷やしたワイン。ソーセージ入りの煮物。
 その料理は駆除を終えて帰ってきた一同にも振舞われ、楽しい晩餐は夜遅くまで続いた。

 とにもかくにも蝶の駆除は終わった。さらに、産み付けられていた蝶の卵の駆除も。
 卵のことにまで思いの及んでいなかった依頼人はその報告に大変驚き、そして感謝した。
「こんなことでしか感謝を示せなくてすまないな」
 といいつつ、多少イロをつけた報酬を冒険者たちに手渡すのだった。


 後日。
 こっそり持ち帰られた卵は3日ほどで孵化した。
 小さな幼虫は卵が産み付けられていた葉っぱを食べつくしたあと、食べるものがなくなって死んでしまった。蝶の幼虫はおおむね、同じ種類の葉っぱしか食べない。
 レティシアの持ち帰った毒草は、土が合わなかったのかすぐに枯れてしまった。(ちぇっ)

 緑あふれる村の外れ、物置小屋のその近く、遊ぶ子供たちの元気のいい歓声が響き渡る。
 そこで危険な毒蝶の姿を見ることはない。もう二度と。