地の底で待ち伏せるもの

■ショートシナリオ


担当:美虎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月18日〜08月24日

リプレイ公開日:2004年08月26日

●オープニング

「やぁ。これなんかどうかな? 退治モノだよ」
 冒険者ギルドの受付口、開口一番にそういわれた。
「この先のちょっと街道筋からそれたところにある村なんだけどね。隣村への道筋近くに、モンスターが住み着いたみたいなんだ」

 最初の異変は、その村で飼っていた羊の数が一頭ずつ減っていったことだった。
 人間が盗んでいるならまとめて何頭かを連れて行くだろうし、それなら羊番も早々に気づいたことだろう。獣が襲ったにしては殺された血の跡や食べ残しの残骸がどこにもなかった。
 原因がわからず首をかしげていた村人たち。
 それがモンスターの仕業だとはっきりわかったのは、隣村へ使いに行った村人が襲われたからだった。

「その村人の話だと、『いきなり地面がパックリと開いて、(腕を広げて)こんな大きな黒くて黄色い縞々のバケモノが牙をつきたててきた!』‥‥んだそうだよ」
 さいわい、牙をつきたてられたのは村人が抱えていた荷物だったので、村人は荷物を捨てて村に逃げ帰ったそうだ。
 ギルドの受付担当者はにっこりと笑った。
「モンスターは地中で待ち伏せるタイプのようだね。鳴き声、うなり声の証言もなかったから、獣ではないようだけれども‥‥まぁ、そのあたりの予想はお任せするよ。でも羊の悲鳴も聞こえなかったってことは、悲鳴を上げさせない毒か何かをもっているかもしれないから、充分に気をつけてね」

●今回の参加者

 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4297 ベルナルド・シーカー(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・フランク王国)
 ea4739 レティシア・ヴェリルレット(29歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4746 ジャック・ファンダネリ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4954 リースト・オーストラフ(20歳・♀・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●牧草地にて
 そこは村境にある丘陵地だった。
 なだらかな斜面一帯を青々とした牧草が覆いつくし、真夏の太陽を受けて輝いている。

 その日、いつもならば羊がのんびりと草を食んでいるその斜面に羊の姿はなかった。
 代わりに道の側を奇妙な集団がゆっくりと移動していた。はたから見ただけでは愉快な様態の一行だが、張り詰めた空気がその見た目を否定している。
 先頭には若い男。
 手に杖を持ち、慎重に地面をたたきながら歩いている。
 若い男の腰にはロープが結ばれ、少し離れた後方を歩く騎士の手にその端が握られている。
 騎士の側には峻厳な面持ちの女性聖職者が寄り添い、同じく若い男の腰に結ばれたロープの端を持っている。
 ロープを持つ二人の側には白髪のエルフが油断ない視線をあたりに向け、反対側には忍び歩きで移動する黒髪の女性が、その後ろではスピアを手にした神聖騎士がまっすぐに、肩にメタルクラブをかついだジャイアントの男が泰然と歩いている。
 そのさらに後方で「あ。これ食えそう」と、草の選別をしている男は‥‥同行者なのかはよくわからない。

 ふと、先頭の男が足を止める。
 前方に色の違う地面を見つけたからだ。ちらりと後方に視線を向けて合図をする。改めてロープを握りなおし、うなづきあう同行者たち。
 若い男は手に持つ杖で、色の違う地面の側をそっとたたいた。
 とたん。
 毒牙を持つ生き物が、地面を割って飛び出した!

●事前調査
 時間は少しさかのぼる。
 冒険者たちはまずモンスターの囮になるウサギを狩る班と、村で情報を収集する班の二手に分かれて行動していた。

「どうよこの戦果! ふっ‥‥つくづく使える男だよな、俺!」
 自慢の弓でしとめた七羽のウサギをかかげて見せるのは、レティシア・ヴェリルレット(ea4739)。
 彼はリースト・オーストラフ(ea4954)と共に食用&囮用の獲物を捕る狩りから帰ったところだ。自画自賛しながらさりげなくリーストの肩に手を置いていたりする。
「ふー‥‥(肩に置かれたレティシアの手をつねりつつ) 今さらなんだけど、生け捕り用に罠の一つでも作っておくべきだったかな」
 リーストが巣穴を見つけレティシアが獲物を狩るという連携でのこの成果だったが、リーストの携帯した武器では小動物のすばやい動きに対応できず、あたっても威力が大きすぎた。
 狩りの知識はなくとも小動物相手に最適な弓と専業の猟師並の腕を持っていたレティシアだったが、ウサギの急所を外して矢を射るほどの腕は持っていなかった。それを成し遂げるのは、達人でも難しいことだろう。
 結局、二人は生きたウサギをとることはできなかった。
「それで情報は集まったのかな?」
「おおまかな場所なら大体。今、キラ嬢と烽火嬢が詳しく話を聞いてるっスよ」
 死んだウサギを痛ましげに眺めて答えたのはジャック・ファンダネリ(ea4746)。
 彼が指差した先には、実際に襲われた村人が二人の女の子にはさまれて立っていた。

「貴方の情報しか、今は頼りに出来ませんの。だから詳しく教えてくださいませんこと?」
 と、キラ・ジェネシコフ(ea4100)。
「襲われたときに持っていらしたカバンの中身は、なんだったのでしょうか?」
 と、城戸烽火(ea5601)。
 狙ったわけではないのだろうが若い女の子にはさまれて鼻の下が伸びまくりの村人は、身振り手振りを交えて襲われた日のことを語る。
「いやぁ、あの日も暑い日だった‥‥」
 話が長くなりそうなので割愛するが、あった事だけを取り出すとこういうことらしい。
 彼は野菜の入った籠を背負い、背負えなかった荷物を両手に抱えて持っていたそうだ。
 荷物の中身は隣村に住む親戚から譲り受けた古着。
 ゆるやかなカーブを描く村と村をつなぐ道のりを、近道のためにまっすぐに突っ切ろうと牧草地に足を踏み入れた時、突然襲われたそうだ。
「嗅覚の可能性は薄れましたね」
 持っていた荷物がモンスターを呼び寄せた可能性を考えていた烽火が小さくつぶやく。
 古着ならどの村人でも着ている。嗅覚が引き寄せるなら普通に道を歩いていた村人も襲われるはずだし、羊が襲われる理由には弱い。
「やはり歩く振動で獲物を見分けているのでしょうか?」
 モンスター知識のない彼女には聞いた話から予想することのみ。確信にこそ至らなかったが、状況的にはそう考えるのが妥当のようだ。

「主よ‥‥御心に沿う機会をお与え下さったことに感謝致します」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)が『大いなる父』に感謝の祈りをささげたあと、村で調べた状況を簡潔に説明しはじめた。
「羊がいなくなったと思われる場所は‥‥気づいていなかったのもあるから曖昧ですし、証言も少しバラついておりますが、おおよそ村人が襲われた付近に集中しているようです」
 そこから調査を開始した方が効率がいいでしょう、と言葉を結ぶ。
「今、羊はどうなっているのかしら?」
 モンスター退治が終わる前にうろついては危ないだろうと心配するリーストに、
「丘陵地に出ないように頼んであるでやんすよ」
 以心伝助(ea4744)が請け負った。

 必要な情報を手に入れた彼らは村長に挨拶し、おすそ分けのウサギの肉を渡した後、すぐに行動を開始した。
 生きたウサギが取れなかったので、事前の相談どおり伝助が囮役となった。
 伝助の胴にロープを(万一の時はすぐに外すことのできる漁師結びで)結わえ付け、モンスターに引き込まれる前にロープの端をもつジャックとフランシアが引っ張る手はずだ。
 その横で、いつでも飛び出せるように待機するのはリーストと烽火。その後ろで、囮に引き出されたモンスターに一撃を加えるために待機するのは、キラとベルナルド。
「後ろはわいに任せときや!」
 手慣らしにメタルクラブをフルスイングしてみせるベルナルド・シーカー(ea4297)。
 伝助の頭の上方を、凶悪な破壊力を秘めた風がブンブン通り過ぎていく。小柄な伝助からみるとジャイアントのベルナルドは見上げるほどの巨漢である。
「は、はははははははは‥‥頼もしいでやんす」
「あれ? レティシアは?」
「ここここ〜」
「どこいってたんですの?」
「ん。ヤボ用〜♪」
 彼の荷物が微妙に増えているのは余談である。

 そうして調査を始めて半刻ばかり。
 伝助が仲間に合図し、色の違う地面をたたいた時。
 それは姿を現した。

●戦闘開始!
 毒液滴る牙が伝助の腕に迫る!
  ガッ!
 牙は柔らかな肉を貫くことなく空でかみ合わされた。
 ジャックとフランシアが伝助の腰に結ばれたロープを力いっぱい引っ張ったからだ。
 毒牙の第二撃目は体勢を崩した伝助の足が狙われた。
「うわっ!」
 かする牙。
 側に駆け寄ったジャックが伝助の襟首をつかんで引き倒し、これも何とか回避できた。
 さらに伝助とクモの間にリーストが割って入り、剣を構えて牽制する。
「やはり‥‥土蜘蛛!」
 そう。
 一同が予想したとおり、バケモノの正体はグランドスパイダ‥‥土蜘蛛だった。
 囮に釣られて巣穴から姿を現した土蜘蛛は、逃げた獲物を追うか追うまいかを迷うようにゆらゆら体をゆらしている。
「はぁっ!」
 最初の一撃を加えたのはキラ。気合の声と共にスピアをつきたてる。
 予想外に柔らかな手ごたえ。巨大蜘蛛の腹からどろりとした体液がもれた。
 しかし彼女の腕ではスピアで攻撃することはできても、蜘蛛を引き寄せるのは難しいよう。
 その時、後方で援護のために待機していたフランシアが警告の声をあげる。
「いけない‥‥逃げ出します!」
 思いがけず痛い思いをさせられた蜘蛛は、安全な巣中に戻るべく逃走を開始した。
 あわてたのは烽火。
「みんな! はなれてっ!」
 叫びおいて、蜘蛛よりも早く巣穴へと駆け寄る。彼女はこの機会を狙って巣に近寄っていたのだ。
 相手が巣穴から充分に離れてから行動するつもりだったが、このままでは間に合わなくなる!
「っ、微塵隠れ!」
 烽火を中心に円状の爆発が起こり、もろい土で作られた巣穴の入り口が崩れ落ちた。
 爆発に巻き込まれた蜘蛛は軽微のダメージ。蜘蛛の最も近くにいたキラが多少の砂塵を受けただけで、仲間への被害はなんとか出さずにすんだようだ。

「よっしゃぁ! 実録・毒矢実験タ〜イム!」
 着実に毒草知識を増やしているレティシアが、ウキウキ持参の毒矢を選んでいる。
「麻痺毒、ケイレン毒、壊死毒、阻害毒‥‥虫系に炎症系は効果薄そうだなあ」
「仲間に当てないでね!」
「だぁれに言ってんの!」
 といいつつ壊死系はマズイか‥‥と、麻痺効果のある毒矢を用意して放つ!
  トス。
「おっし! 成功‥‥かな?」
 蜘蛛の動きは鈍くなったが、毒のせいなのか矢のダメージのせいなのか今一歩確信がもてない。
 四六時中見るわけでもない虫の表情は、慣れない者にはよくわからないもの。
「此処からはわいに任せとき! イテまうど、コラァ!!」
 二メートル半あるジャイアント・ベルナルドの凶悪なフルスイング!
 蜘蛛は声なき悲鳴をあげた。
 しかし動きの鈍った蜘蛛に逃げ場はない。巣穴の入り口もつぶされてしまった。
 表情はわからないなりに決死の覚悟をしたのか、土蜘蛛は敢然とベルナルドに立ち向かい、彼の足に鋭い毒牙をつきたてた。
「ぐぁっ!」
「大丈夫かっ?!」
「ぐぅ、ぐっ、くぅっく‥‥こっ、このわいに‥‥毒なんぞ効くかぁっ、コルァァアアアアアアッ!!!」
  ぐしゃっ!
「‥‥‥‥うわっ」
「マジデスカ?」
 いや、たまたま毒の抵抗に成功したようだ。
 他人事ながらホッと胸をなでおろすリースト。解毒薬は駆け出し冒険者にはまだまだ大変な出費。
「潰したるわ、こんボケェ!! おラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!!!」
 切れたジャイアントのフルスイングフルスイング。
 ぐっちゃぐっちゃと文字通り殴りつぶされる蜘蛛の体はすでに原型を留めておらず‥‥(以下自粛)。
 ヘタに手を出せばとばっちりを受けそうで、仲間たちには手が出せない。
「オラオラオラァァァ!!!! ふははははははははははははっはー‥‥(ぱったり)」
 高笑いを上げてクラブをふるっていたベルナルドは突然、前のめりになって倒れた。
 (正確に表記するならば、『ぱったり』ではなく『ズシン』。体感できるほどの地響きを伴っていた)
「ベルナルド‥‥?」
「ベルナルドさん!!」
「まさか遅効性の毒っスかっ?!」
「いやいや、そんなこたぁないだろ」
 蜘蛛の毒は即効性のはずだとレティシア。
 おそるおそるベルナルドに近づいてみると‥‥
  ぐー (注:腹の音)
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥そういえばベルナルドさん、保存食ケチって食べてたでやんすねぇ」
 たださえでかいジャイアントが食料をケチれば、そりゃぁ倒れもするだろう。
「どうするっスか?」
 さすがにこのままおいて行くわけにもいかないと、ジャックは腕組みをしてうなる。しかし相手の体重はジャックの軽く3倍。馬を連れていない今、彼らに運ぶ手立てはない。
「ま。クモも退治できたことだし、ここらでメシにするってのは?」
 事前に捕ったウサギと道々採取した草、そしてなぜかカブと葉野菜をバックパックからとりだしながら提案するレティシア。
「その野菜、どうしたの?」
「ん? 村でウサギの肉と交換してもらったのさ♪」
 いつのまに‥‥ちゃっかりした男である。
「他にどうしようもないですからねぇ」
 と、一同は村に帰る前に一息入れることにしたのだった。

●牧歌的風景
 冒険者たちの少々遅めの昼食は、『野ウサギとカブのスープ ノルマン風 & 野ウサギの香草包み焼き』。
「んまい!」 と、レティシア。
「さすがは本職でスね!」 と、ジャック。
 フランシアは『大いなる父』に、この日も糧が得られたことに感謝の祈りをささげている。
 仲間の賞賛を受けて胸を張るのは先ほどまで倒れていたベルナルドだ。
 そんなにお腹がすいているのならと、ジャックが分けてくれた保存食を口にするや否や起き上がり、
「料理ならわいにまかせんかい!」
 一気に鍋一杯のスープとウサギの焼肉を作り上げ、さらに「余った肉で帰りの保存食つくったるわ!」と、でっかい手で器用にウサギを捌き始めたのだ。これだけの肉があれば帰りの保存食は節約できるだろう。

「退治できたこと、早く村の人に知らせてあげたいね」
「わたくしは、犬をお借りしたいわ」
「犬?」
 首をかしげるリーストに、キラは苦笑して答える。
「大蜘蛛が一匹だけとは限らないでしょう? だから犬を使って確認しようかと思っているの」
「たしか、村長のうちにやせたのがいたっけ?」
 しかし羊のいる村にいる犬はおおむね牧羊犬。立派な村の働き手である。もし、万が一の事が起こってしまったら大変な事になるだろう。
「心配しなくても、あっしが付き合うでやんすよ!(胸たたき)」
「なら引っ張り役も必要っスね」
「‥‥主よ。新たな試練をお与え下さったことに感謝いたします(祈)」
「まぁ、まだ試してない毒もあるしなぁ」
「穴をふさぐ役も必要でしょう?」
「ほっとけないな‥‥(ため息) 今度噛まれてタダですむとは限らないし、解毒剤は高いし‥‥」
「この下ごしらえさえ終われば、わいはいつでも出発できるさかい!」

 腹ごなしを終えた一同は再び陣形を組み、丘陵地を注意深く探索し始めた。
 そして杞憂は現実となる。
 先ほどよりは小ぶりではあったが二匹の蜘蛛がみつかった。一匹倒しただけであとの確認を怠っていれば、また被害が出ていただろう。麻痺の牙に充分注意し、これらの駆除も行った。
 日が暮れるまで念入りに調査し、蜘蛛はもういないだろうと確信できた時点で村に戻って報告した。

「死んだ羊さんが戻ってくる訳じゃないし、今後の足しにしてください」
 報酬支払いの際、伝助が受け取りを辞退する一幕があったが、
「いやいや。お気持ちはありがたいですが、村もほどこしを受けるほど貧乏なわけでは‥‥あるかもしれんが‥‥(むにゃむにゃ)。むぅ、それなら現物支給ということで!」
 と、村長が若いころ使っていた釣り道具(中古)を手渡された。
 その日は村長の家に泊めてもらい、翌日の早朝、一同は帰路についた。

 街道からは丘陵地帯の羊たちがよく見えた。
 朝露にぬれた花や草をのんびりと食んでいる羊たち。
 冒険者たちは羊たちに軽く手を振って、そしてその村をあとにしたのだった。