切磋琢磨の剣武会!!
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:3人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2007年12月20日
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●オープニング
日頃冒険者ギルドに舞い込んで来る、沢山の依頼。
それはお遣いの様な簡単なものから、国家の命運を握る様な大事件まで‥‥色々な依頼人が居る様に、それだけ多種多様な問題がここに集まってくるのだ。
そしてこの日も‥‥ギルドのカウンターには、今回の依頼人となる大男の姿があった。
「剣武会‥‥ですか?」
聞き返しながら視線を、遥か頭上にある男の顔の所まで上げる受付係。
すると、男‥‥コロス・ロフキシモ(ea9515)は、大きく頷いた。
「そうだ。冒険者が腕を磨く事を目的とし、民衆の前で戦闘を行って見せるのだ。それにより、互いの戦闘技術を上げると共に、民衆からはその技を見せる事でお金を頂く」
要するに、闘技場形式の対人戦訓練を、闘技場でない場で行う、と言う事だろうか。
確かに、闘技場では色々と規制がある為、単純な力の押し合いになる場合も少なくは無い。
それに比べ、こういった場で相まみえるとなれば、戦略の幅も広がるので、他の者達の向学の為にもなる。
「なるほど、面白そうですね」
腕を組みながら、相槌を打つ受付係。彼は既に乗り気の様で、羊皮紙とペンを取り出し、早くも依頼書をしたため始めていた。
そんな受付係の手を目で追いながら、暫定的に決まっている剣武会の内容を説明していくコロス。
「ちなみに、規定人数は特に定めない。依頼として受理出来るだけの人数が集まれば、その面子で行うつもりだ。それと、剣武会においては如何なる魔法の使用も禁止とする。己が鍛え上げた肉体のみで闘う事こそが、剣武会の意義だからな」
確かに、魔法は大いに戦闘におけるパワーバランスを崩しかねない。それはそれであっても面白そうだとは思ったものの、取り合えず今回は無しと言う事で良いだろう。
そして、今回は結構突発的な話である為、余り大規模過ぎても何かと大変なので、相談の末に最大参加人数は6人と言う事で確定した。
この中で、民衆へ披露すると言う趣旨も鑑み、明確な勝敗を付けた方が良いだろうと言う事で、2チームに分かれての総当たり戦を行うのだ。
やがて、一通りコロスの説明内容を書き終えた受付係は、それまでに浮かんだ幾つかの疑問を口にする。
「粗方これで問題は無いのですが、開催場所は如何致しましょうか?」
すると、腕を組んで考え込むコロス。
「そうだな、闘技場が借りれれば、それに越したことは無いのだが‥‥戦闘が自由に行える場所でならば、何処でも良い」
とは言え、闘技場は連日休まず稼働中。時間外に貸して貰おうにも、連日の戦闘に備えた場内整備などもあるだろうから、難しいだろう。
「となれば‥‥そうですね、ではウィル近郊の平原を使わせて貰う様許可を得て、そこに特設会場を作りましょうか」
「ああ、それで頼む。それと、対戦者の組み合わせも、こちらで事前に決めてしまった方が良いか?」
コロスの言葉に、頷く受付係。
「ええ、それが宜しいでしょう。実力差を吟味して組み合わせを考えた方が、戦術の参考にもなり易いでしょうからね」
と言う訳で‥‥数十分における二人の問答の末、一通りの剣武会の趣旨は決定した。
『第一回ウィル冒険者ギルド主催剣武会』
提供:コロス・ロフキシモ
●要項
・冒険者同士の実力向上を図っての実戦形式訓練。
・民衆の前で戦闘を披露し、それにより観戦料を頂く。
・会場は、ウィル近郊の平原に設置する特設会場。(冒険者ギルドから歩いて1時間程度)
・集まった人数で2チーム(チーム名は各個で決める)に別れ、予め(冒険者達によって)決められた組み合わせによる、総当り形式の個人戦を行う。
・一戦における制限時間は6分。
・降参を宣言されるか、重傷以上の怪我を負わせる、もしくは制限時間を迎えた上でよりダメージの少ない方を勝者とする。
・最大三回戦の戦闘の末、より勝ち数の多いチームを優勝とする。
・CO合成などの、闘技場での対戦では出来ない様な戦術を駆使し、フェアプレイの精神の元力の限り戦うべし。
集え、冒険者の猛者達よ!!
●リプレイ本文
●剣武会開催
「冒険者達の技巧の数々が見ることの出来る、またとない機会です。ぜひ足を運んでみて下さい」
数日前から、街中に広まっていた剣武会の話題。その当日であるこの日、街外れの平原に設営された特設会場には、早くから人だかりが出来ていた。
「レディースアンドジェントルメン、本日はようこそいらっしゃいました。ささやかながら日頃から様々な冒険をこなし鍛え上げている冒険者達の戦いを、ご覧ください」
武会場の上で、歓声に包まれながら出迎えのパフォーマンスをする道化師。その正体は、剣武会に参加する冒険者の一人であるアシュレー・ウォルサム(ea0244)だ。
この会の趣旨の一つは、練磨された冒険者達の戦闘技術を民衆に披露する事。言わばエンターテイメントである。
勿論、アシュレー以外の者達も、ギャラリーを楽しませる事を忘れては居ない。
予算や日程の問題で、大掛かりな物は作れないと思われていた武会場。だが、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が石工の技術を駆使して尽力した結果、即席とは思えない程に立派な会場を用意する事が出来た。
本格的な舞台の上で繰り広げられる、百戦錬磨の冒険者達の力と知略のぶつけ合い。その時を今か今かと待ち侘びるギャラリーの興奮は、否が応にも昂ぶって行く。
そして極めつけは、武会場の中央に、おもむろに設置された岩。アシュレーがその上に座ると、人混みから現われた巨大な影が、ゆらりと歩み寄り――。
ズガァッ!!
岩が砕け散ると共に、アシュレーが宙に舞い飛ぶ。
ギャラリーが一気に沸き立つ中、高らかに叫ぶのは、自身の背丈よりも更に巨大な槍を片手で振るう大男コロス・ロフキシモ(ea9515)。
「元々ゴーレム用の槍であった『ギガントスピア』を片腕で扱う我が豪腕! この剣武会にて存分に振るってくれようぞッ!」
●もう一人の参加者
「参加してくれて、感謝している」
早くも満席になった観客席を満足げに見据えながら、アシュレーとリュドミラに礼を言うコロス。
今回の剣武会の主催者である彼は、事前に会費として6Gをギルドに納めているものの‥‥そのほとんどを会場の設営等の準備に当ててしまったため、彼以外の参加者の報酬を確保するには、それなりの集客が必要だったのだ。だが、事前のベアルファレス・ジスハートの宣伝も功を奏したのか、今に至ってその心配は無くなっていた。
とは言え、問題はまだ他にもある。
「チームで分かれて団体戦も良いけど、3人じゃあ‥‥ねぇ?」
「そうですね。後一人参加者が居れば、2対2で組み合わせる事も出来たのですが‥‥」
アシュレーとリュドミラの言葉に、頭を垂れるコロス。
依頼提出当時では、個人戦を行う予定であった今回の剣武会。だが彼は、どうせ2チームに分かれるならば、団体戦をしようと提案していたのだ。
アシュレーとリュドミラも、それに合意はしていたのだが‥‥人数が集まらないのでは仕方ない。組み合わせを考え直して、やはり個人戦を行おうかと言う流れになったその時。
「話は聞かせて貰いました。僕で良かったら、参加させて頂けませんか?」
一同が声のした方向に目を向けると、そこでは線の細い青年が微笑を湛えながら立ち竦んでいた。
●試合開始!
参加を申し出てきたのは、サマエルと言う名のレンジャーだった。
腕節は如何なものか知れないが、一先ずはこれで人数合わせが出来ると言う事で、喜んで彼の参加を受け入れる一同。
そして、コロスとリュドミラ、アシュレーとサマエルと言う2チームに分かれた彼等は、観客の見守る武会場の中央で向かい合い‥‥時を待っていた。
「では‥‥試合開始です!!」
審判‥‥を務めるギルドの受付係の声と同時に、まず動き出したのはリュドミラとアシュレー。前線から距離を取り、後方から遠距離攻撃をする為である。
次いで、抜き放たれるサマエルのレイピア。コロスも対してギガントスピアを構えるが、それよりも早くアシュレーの放った縄ひょうが飛来した。
正確に手首を狙って放たれた攻撃を、咄嗟に盾で弾き返すコロス。だが、そこに飛び込んで来るのはサマエル。コロスは盾を構えられず、止む無く急所を庇う構えを取る。
――キィン!
鎧とレイピアが接触する音。鎧の隙間を狙い済ましていたサマエルの攻撃は、逆にガードによって防がれダメージを与えるに至らなかった。
その頃、投げた縄ひょうを巻き取るのはアシュレー。だが、そこにリュドミラの放った二本の矢が飛来し‥‥その内一本が、なんと縄ひょうの紐を捉えた。
「なっ!?」
「えっ?」
驚きの声はほぼ同時。そう、リュドミラは狙って縄ひょうの巻取りを邪魔した訳ではないのだ。
とは言え、これは好機とばかりに相手チーム二人に向けてそれぞれ矢を放つリュドミラ。アシュレーはそれを優雅に避けつつ縄ひょうを引っ張り、刺さっていた矢を引っこ抜く。そしてサマエルも、体勢を崩さない様顔のみを横にずらして回避した。
一先ずは初撃を防いだコロス。だが、彼は僅かに焦っていた。
(「このままでは、手数で圧されるか‥‥」)
兜の隙間から見据えるのは、今になって漸く縄ひょうを巻き取り始めたアシュレー。そして、眼前でレイピアを構えるサマエルの姿。
そうこうしている内に、再びサマエルがコロスに向けて飛び掛って来た。もはや覚悟を決めたコロスは、案の定鎧の隙間を狙って来た一撃を盾で受け‥‥そして続くもう一撃は、甘んじて身体で受け止めた。
肩口に走る鋭い痛み。だが、それにも屈せず、コロスは大きく踏み込み‥‥と見せかけて、タイミングをずらし、懇親の一撃をサマエルに叩き込む。
「うわっ‥‥!?」
フェイントにより体勢を崩したサマエルは、溜まらず後方に吹き飛んだ。
そして、コロスの巨体の横を掠める様にして飛び出す影。リュドミラだ。彼女は二の足を踏むサマエルの身体をしっかりと掴み。
「はあぁぁっ!!」
思い切り、地面に叩き付けた。
苦痛に顔を歪ませながらも、跳ね起きて二人から距離を取るサマエル。この剣武会のルールでは、重傷を負った者はリタイアとなる。彼はまだそこまで至っては居ないものの、余り長くは持ちそうに無い事は誰の目にも明らかだ。
――ヒュッ!
その時、リュドミラの顔の横を何かが掠める。それは、後方で仁王立ちしているコロスの肩口‥‥先程サマエルが突いた場所に正確に突き刺さった。
「油断してたら、怪我するよ?」
コロスに繋がった縄ひょうの紐を引きながら、冷笑を浮かべるアシュレー。彼は開会前の道化から一転、今は冷静かつ非情な戦士となっていた。
リュドミラは僅かに身震いしつつも、アシュレーが再び縄ひょうを巻き取っている間に再び後方へと下がり、先程投げた弓を拾い上げる。
一方、レイピアを構えながらコロスの出方を伺うサマエル。そんな彼に、ギガントスピアの文字通り重い一撃が再び襲い掛かった。それを見計らった様にサマエルは横に跳び、再び肩口にレイピアを向ける。――が。
「ぐっ!!」
そこに、リュドミラの矢が飛来し、サマエルは地面に崩れ落ちた。どうやら、限界の様だ。
そして。
「‥‥参りました。降参です」
いつの間に回り込んでいたのか、背後に居るアシュレーにナイフを突き付けられたリュドミラも、弓を手放していた。
●決着
そこから、アシュレーとコロスの一騎打ちが始まった。
逃げ回りながら、縄ひょうを投げ続けるアシュレー。だが、それで一撃は見舞えたものの、急所ばかり狙う彼の攻撃は、段々と見切られ始めていた。
対してコロスも、重い装備に身を包んでいる為、中々間合いを詰められず‥‥。戦局は、膠着状態の様相を呈していた。
(「このままじゃあ、お客さんが退屈しちゃうかな?」)
例え戦士のスイッチが入っていたとしても、観客を退屈させてしまっては忍びない。
アシュレーは一つ息を吐くと‥‥そのままコロスに向けて一直線に飛び込んで行った。
「来たな!!」
対するコロスも、待って居たとばかりに大きく踏み込む。
そこから相手の動きを読んだアシュレーは、唐突にマントを広げて視界を塞ごうと‥‥。
「!?」
だが、マントを広げた先にコロスの姿は無かった。そう、アシュレーの見た彼の動きはフェイントだったのだ。
ここに来て、とうとう動きを捉えられたアシュレーは――。
「しまっ‥‥!!」
ギガントスピアによる一撃を受け、吹き飛んだ。
だが、幸いにもまだ身体は限界には至っていない。そのままの体勢から、右手に持った縄ひょうを構えるアシュレー。
それを見て、コロスは反射的に盾を構え――。
――ガッ!!
死角を縫い、アシュレーの左手から放たれたバタフライナイフが、コロスの膝に突き刺さった。
「ぐぅっ‥‥!」
溜まらず、地面に片膝を着くコロス。
――どうやら、決着がついた様だ。観客の声援が、熱戦を披露した冒険者達を包み込んで行った。
●怪我人は
「いたた‥‥少しは手加減してくれたって良いじゃないかー」
不満げに口を開くアシュレー。
「その程度、何て事は無いだろう。俺はもっと‥‥つっ」
対するコロスも、肩を抑えながら顔を歪ませる。応急手当は済ませたものの、まだ満足に動けたものではない二人は、会場の撤去を他の者達に任せて休ませて貰っているのだ。
一方の撤去を手伝っているリュドミラは、そんな彼等に視線を留めるとゆっくりと歩み寄り。
「後で教会行き、ですね」
そう言って、微笑んで見せた。
ともあれ、予想以上の観客を動員し、彼らを大いに湧かせる事の出来た今回の剣武会は、大成功を収めた。きっと今回の経験は、今後多くの冒険者達の参考となる事だろう。
いずれ何時降り掛かるとも知れない危機。それに備え、こうした会を通じて切磋琢磨するのも悪くは無い。
コロスは静まり返った武会場の跡を見据えながら‥‥兜の隙間から、僅かに微笑を漏らしていた。