韋駄天小僧を捕まえろ!

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月16日〜12月21日

リプレイ公開日:2007年12月22日

●オープニング

 ウィルの街中、誰の目にも留まらない程の低空‥‥行き交う人々の足元を駆け抜ける一陣の風。
 それは、ふと正面に女性の姿を捉えると、にやりと口元を歪ませる。
 次の瞬間、風は凄まじいスピードで女性の足元に迫り――。
「キャアアアァァァァァァァーーー!!」
 つんざく様な悲鳴が、周囲一帯に響いた。



「もう、本当にどうにかして下さいません事!? いい加減私達も我慢の限界です!!」
 怒りを顕にしながらまくしたてるのは、ウィルに住まう貴族の令嬢。その迫力に威圧されながらも、ギルドの受付係はあくまで冷静に対応する。
「そうは申されましても、相手は子供なのですよ? それを冒険者が捕縛して教育するなど、後で親御さんに何を言われるか分かったものでは‥‥」
「何を仰います!! まともな親の子ならば、あんな悪ガキを今まで放置するなんて事、ありえませんわ!!」
 確かに、彼女の言う通り。
 どれ程放任主義を掲げている親であっても、街中の者達(主に女性)から目の敵にされ、ギルドに捕獲依頼さえ持ち込まれるに至るまで、我が子を放っては置かないだろう。



 街中を風の様に駆け抜ける緑髪の少年が現れたのは、今から数ヶ月前の事だった。
 それからと言うもの、彼は手当たり次第に悪戯の限りを尽くし始める様になる。
 家の扉を無闇にノックしては逃げ、誰かの飼い猫を引っ手繰ってはどこかに置き去りにし、買い物中の客から財布を掠め取り‥‥。
 だが、そう言った悪戯はどちらかと言えば、まだ可愛い方なのである。
 と言うのも、この少年が本性を現せば‥‥道行く女性と言う女性のスカートを捲り上げるわ、その中身を触るわ、時には服を破くわ、更には●●●を××××(ギルドにより規制)するわ。要するに、いわゆるエッチな悪戯を頻繁に行って来るのだ。
 それも、人の往来の激しい街中で、白昼堂々とそう言った事をされるのだから、被害者達はたまったものではない。
 何とかして少年を捕まえようと試みる者も、後を絶たないが‥‥なにしろ風の様に現れ、また風の様に逃げて行く彼を、一般人がそうそう捕まえられる筈も無い。その為に、ギルドまで足を運んで彼の捕獲を依頼してくる者が、最近に至って後を絶たなくなって来ているのだ。



「親の顔が見てみたいものですわ、本当に!!」
 腕組みしながら憤慨する令嬢を、何とかなだめようと努力する受付係。だがしかし、そんな彼の生温い言葉など、既に彼女の耳に入る筈が無い。
「それに、聞いて下さいな! 先日、友人が宅のお抱えの騎士をけしかけたんですの! そうしたら、後一歩でその子を捕まえる事が出来そうになったのですって! でも、そこで突然暴風が吹き荒んで、騎士は馬ごと吹き飛ばされてしまったらしいですのよ!? 信じられます!?」
 令嬢の言葉に、今まで苦笑いを浮かべていた受付係の表情が、不意に引き締まる。
「‥‥何ですって? 風が‥‥?」
「ええ! でも、それだけじゃないそうですの! 風に吹き飛ばされた騎士が顔を上げたら、路上に居た筈のその子が、いつの間にやら遥かに高い家屋の屋根の上に登っていて、そのまま逃げられたって! 一体どうなっているのかしら!?」
 まったく、信じられませんわ! と、続く彼女の話から意識を逸らし、腕を組んで考えに耽る受付係。
(「風‥‥と言うと、精霊魔法? だとしても、何故そんな能力を‥‥?」)
「ちょっと、聞いてますの!?」
 令嬢の怒鳴り声で、受付係は我に帰る。どうやら、まだ彼女の話は続いていた様だ。
「え? あ、ああ‥‥失礼致しました」
(「これは、少々調べた方が良さそうですね‥‥」)
 彼は決意を固めたように頷くと、傍らから一枚の羊皮紙を取り出した。
「‥‥そうですね。このまま放っても置けませんし‥‥。分かりました、その子の捕獲を、依頼として正式に受理致しましょう」
 唐突に応対する姿勢が打って変わった受付係に、目をパチクリさせる令嬢。
 ともあれ、その後代表者として彼女が手続きを済ませた事により、韋駄天小僧の捕獲依頼はギルドに張り出される事となった。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●噂の悪戯小僧
「いたずら少年‥‥と言うかエロガキか」
 ギルドに集まり、大方の事情を聞かされる冒険者達。その一人、鳳レオン(eb4286)が口を開く。そんな彼の肩に留まりながら、感慨深げに呟くのはディアッカ・ディアボロス(ea5597)。
「何だか、わるしふ達の相手をしていた頃が微妙に懐かしく思い出される様な」
 随分前の事ではあるが、彼はどうやら悪戯小僧ならぬ悪戯シフールに手を焼かされた事例があったらしい。とは言え、今回はそれとは全く関係ない騒動なのだが。
「親の愛情に飢えているんじゃないかな‥‥?」
 ソフィア・カーレンリース(ec4065)がふと呟くと、今まで腕を組んで考え込んでいた白銀麗(ea8147)は。
「どうでしょう。それ以前に、その子が人間かどうか、と言う問題もありますが‥‥」
「? どう言う意味ですか?」
 レイン・ヴォルフルーラ(ec4112)の問い掛けに、自身の見解を述べる銀麗。
 小僧の目撃証言に共通している、緑の髪色‥‥それは、基本的にシフール等のエレメントの影響が強い生き物にしか見られない物なのだそうだ。
「その少年は、もしかすると風の精霊や妖精かも知れません」
「ふん。相手が何だろうと、関係無いぜ」
 すると、今まで輪から離れて話を聞いていたオラース・カノーヴァ(ea3486)が、もたれていた壁から背を離す。
「王都での事件なら、オレの仕事だ」
「うん、それに風の魔法を悪い事に使うのは、許せない!」
 自分も風の精霊魔法を使役するウィザードとして‥‥そして女性として、色々思う所があるのだろう。憤りを顕にしながら意気込むソフィア。
 そして、横にいるレインも次いで口を開き。
「二度と悪戯をしないよう、何としても韋駄天小僧を捕まえましょう!」



●二人の淑女?
 街の大通りが、最も賑わう白昼時。人混みの中を、二人の女性が並んで歩いていた。
 その内一人はソフィア。そしてもう一人は‥‥伏せた顔を窺った限りでは、だれだか見当が付かない。

 それは、その前の日の事。
 冒険者達は手分けをして、韋駄天小僧を捕まえる為の情報収集に走って居た。それにより、大体の行動範囲を絞り込む事は出来たのだが、聞き込みの際に防寒具を忘れていたレインは、どうやら体調を崩してしまったらしく‥‥。顔色が悪いながらも、懸命に聞き込みを続けていた彼女の事を心配したレオンは、彼女に代わって囮を務める事を決意したのだ。

 ――と、言う訳で。

「鳳さん、可愛いですよ」
 隣の彼女‥‥ならぬ『彼』をに目を向けながら言うソフィア。
 銀麗のミミクリーの効果により変身したレオンの姿は、かなり大柄ではあるが女性そのもの。その上に、皆の勧めでフリルスカートなファッションに身を包んでいるものだから‥‥如何に彼が恥ずかしい思いをしているか、察するに容易い。その上で、ソフィアの言葉は‥‥もはや追い討ちでしか無かった。
 一層に肩を竦めて歩くレオンを、首を傾げながら見据えるソフィア。かく言う彼女も、囮を務める為に防寒服にミニスカートと言う格好だったりするのだが。
 そんな彼らを遠目に見るのは、他の冒険者達。その中でもディアッカは、ミミクリーなど使わずとも女性と見紛う端麗な容姿をしているのだが‥‥。
「さすがにシフール相手にその手のいたずらを仕掛けては来ない‥‥でしょうね」
 と言う事で、彼は今回囮役にはなっていない。けれど、こちらにも銀麗やレインが居るので、気を抜いてはいられないのだが。
「うまくこっちへ来ると良いけど」
 ソフィアのふとした呟きが、白い息と共に風に攫われると‥‥その先で人混みに紛れていた緑色の人影が、ニヤリと口元を歪ませた。



●風使い
「!」
「来た様です‥‥!」
「えっ!?」
 感覚の鋭いディアッカ、レオン、ソフィアの三人は、高速で接近してくる何者かの気配に、逸早く気付いた。
 向かう先は、レオンとソフィアの居る方。どうやら、冒険者達の狙い通り囮である二人をターゲットに定めてくれた様だ。
 レオンは、いつでも避けられる様に身構える‥‥が、対してソフィアはと言うと、想像以上に素早い小僧の動きに、戸惑っていた。
「くっ‥‥すまない!」
 小僧が、スカートに手を掛けようとする直前――レオンに押されたソフィアは、よろけながら小僧の手の届かない位置まで飛び退き、そして踏み止まった。
 が、その動作は他者の手に掛からずとも、ただでさえ短いスカートを煽り上げるには十分過ぎて‥‥。
「‥‥‥‥。‥‥逃がすかっ!!」
 見なかった事にしたレオンは、バックパックを投げ出すと、他の仲間達と共に吹き抜けた緑色の風を追うべく駆け出した。

 小僧のすぐ後を追跡するのは、ディアッカにレオン、そして防寒服を脱いだ銀麗。
 その走行速度は、ほぼ互角。だが、人が多くて思う様に走る事の出来ない冒険者達に比べ、小柄な小僧はその間を吹き抜ける様に自在に駆けて行く。
「このままでは、逃げられる‥‥!」
「そうはさせません!!」
 ディアッカの身体が光ると、次いで小僧の進行方向に突如現われた石壁。勿論本物では無い。ファンタズムによって作り出された幻影だ。
 だが、それでも標的の足を止めるには十分。狙い通り、驚いた小僧は咄嗟にブレーキを掛ける。
 追い詰められた彼を前に、唱えられるのはシャドウバインディングの呪文。だが、小僧の影はその主を縛る事無く‥‥入れ替わりに、小僧の身体が淡い緑色に光る。そして。

「うわぁっ!!」
「くっ!!」
「きゃぁっ!?」

 吹き荒んだ突風に、三人は溜まらず吹き飛ばされた。足並みを遅らせて追って来たオラースの横を抜け、15m程転がった所で漸く止まる身体。
 小僧は口元を歪ませると、再び呪文を唱え――宙に浮き上がった。リトルフライだ。
 それを認めるや、銀麗は効果を打ち消そうとニュートラルマジックを唱える‥‥が、小僧までの距離が遠い余りに効果は届かず、まんまと屋根の上に逃げ果せられてしまった。
 眼下の街道を見下ろしながら、屋根から屋根へと飛び移る小僧。まさかこんな所までは追って来ないだろうと言う確信の下、悠々と足を進めていると――眼の前に突然、何かが降り立った。空飛ぶ箒に跨った魔女‥‥ならぬオラースだ。
「オレはこの間の騎士とひと味違う。こと身体の頑丈さにかけてはな」
 フライングブルームを傍らに置くと、ゆっくりと小僧に歩み寄るオラース。
「くっ‥‥来るな!!」
 その威圧感に圧されながら、咄嗟にストームを唱える小僧。だが、彼の揺るがざる事山の如し。
「どうした、それで終わりか?」
 余裕綽々で迫って来るオラース。対して、屋根の端まで追い詰められた小僧には後が無く‥‥。意を決して飛び降りようとした瞬間、突然に硬直する身体。
 オラースの肩には、いつの間にやらシフールのディアッカ。彼の魔法により、動きを封じられてしまった小僧は‥‥ここに来て漸く抵抗を止め、縛に付くのであった。



●颯
「いいかボウズ、女性には優しくしないといけないんだぞ」
 レオンが元の姿に戻り第一声、小僧に言うが。
「ぷっ‥‥あははは!! 何だよそのかっこ‥‥いでっ!?」
 赤面したレオンの拳が、彼の頭を捉えた。
 それが悪かったのか‥‥以降何を聞かれても、だんまりを続ける小僧。
 様子を見兼ねた銀麗が、リードシンキングを唱えよう数珠を取り出す‥‥が、ディアッカが手を出してそれを制した。
「私達がその気になれば、魔法で貴方の考えを読むことも出来ますが‥‥できれば『質問』に自分で答えて頂けませんか?」
 諭す様なディアッカの言葉。だが、小僧はと言うとそっぽを向いてしまった。
 誰もが頭を抱えたその時、彼をそっと抱きしめるのはソフィア。
「君の話、聞かせて欲しいな」
 すると、小僧は赤くなりながら。
「‥‥メロンが二つ」

 ――バチィン!!

 抱きしめたままのライトニングアーマー‥‥。ともあれ、小僧はこれで懲りたのか、漸く口を開き始めた。

 小僧‥‥楓(はやて)と名乗った彼は、なんと天界からアトランティスに召喚された天界人であった。
 10歳と言う若さで突然に親元を離され、おまけに国による保護も受けられないまま(恐らくこれは颯の腕白さ故に発生してしまった手違いであろう)見も知らない場所に一人ぼっち‥‥。
 漠然ながら、彼が悪戯を繰り返していた理由を察した冒険者達は――。
「可哀想に‥‥さぞ心細かったのでしょうね」
 銀麗の言葉に、俯く颯。だが、だからと言って今まで彼がしてきた事は、許されるものではない。
 一同が沈黙する中、熱に顔を赤らめながら歩み出るのはレイン。
「もし、今まで迷惑掛けた人達に謝って、もう二度と悪戯をしないと約束してくれるのでしたら‥‥颯くんがお家に帰れる様、お手伝いして上げますよ?」
 レインの言葉に、颯は――。



●韋駄天小僧の第一歩
 後日、レインに諭された通り、冒険者達が立会う中で被害者(9割以上が女性だった)全ての家を訪ね、迷惑を掛けた事を謝って回った颯。
 その後、彼は国よる保護の下で、正式に施設に引き取られる事が確定した。
 今回の騒動は、一先ずはこれにて一件落着と言えるだろう。

 だがしかし、まだ一つやり残した事がある。
 そう、颯を元の天界の家に、無事送り返す事だ。
 天界人が天界に帰る方法――それは、己が使命を果たす事。
 彼にとっての使命が何かは分からないが、その為に颯、そして冒険者が出来る事。それは。

「レインさん、本当に颯さんの家庭教師をなさるのですか?」
 銀麗の言葉に、頷くレイン
「ええ。今まで余程寂しい思いをしてきた事でしょうから。それに‥‥」
 そこで咳き込み、そして――。
「颯くん、冒険者を目指すらしいです。だから、少しでも力添えをしてあげたくて」

 近い将来、共に同じ道を歩む事になるであろう少年の姿を見送りながら――冒険者達の想いは、白い息と一緒に空へと溶けて行くのであった。