海上の脅威

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 47 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜01月05日

リプレイ公開日:2007年12月29日

●オープニング

 それはウィルの南方沖合での事。
 辺りはすっかり陽精霊の光が陰り、不気味な闇色に染まっているシムの海上。小型の漁船は、そんな只中で木の葉の様に揺られていた。
 その船主である漁師はと言えば‥‥甲板で大口を開けて眠っている。どうやら、昼寝をして居る間にこんな時間になってしまったと言った様相である。
 彼が目を覚ますまでには、それから更に数刻。真っ暗な周囲に慌てて飛び起きると、夜闇の中に僅かに見える陸地の影を目指し、船を進め始める。

 ――その時、闇色の海面が、不気味に轟いた気がした。
 思わず手を止めて、辺りを見渡す漁師。だがしかし、目視できる範囲の海面には、何も見えず‥‥。気味悪くなった彼は、急いで陸地へと船を進めて行く。
 そんな小船を水面下から追うのは、長細く巨大な影。
 漁師は明らかな異変を感じ、もはや死に物狂いで船を進めるも‥‥突然に進行方向の海面から現われた『何か』に阻まれ、悲鳴を上げる。

 そして――海上を漂っていた漁船が一隻、姿を消した。



 それから数日後‥‥場所は変わってウィルの冒険者ギルド。そのカウンターに、一人の男が訪れた。
 彼の名は鳳レオン(eb4286)。その卓越した船舶技術を生かし、普段は船乗りを生業としている、天界出身の冒険者である。
「おや、こんにちはレオンさん。依頼をお探しですか?」
 受付係の問いに、首を横に振るレオン。
「いや、今日は船乗り連中の代表で来た。なんでも、この所ウィル南方の海上で、漁に出掛けた漁師が次々と行方不明になっているらしくてな。その原因の究明と除去の為に、人手を集めたいんだ」
 すると、受付係は難しい顔をして腕を組む。
「海上‥‥ですか。それは、確かに放っては置けない問題ではありますが‥‥仮に原因が魔物だとすれば、一般的な帆船では少々難しいかもしれませんね」
「ああ。だから、ゴーレムシップを使わせて貰いたいんだ。それと、グライダーも3機程‥‥流石にこの時期、海に潜って戦うのは厳しいからな」
 そう言って苦笑するレオン。確かに、この寒空の中で水の中に入ろうものなら、それこそ風邪では済まないだろう。
 想像して思わず身震いしながら、受付係は暖かいハーブティー片手に羊皮紙を広げた。
「ああ、ちょうど海岸線の領主連名でも似た内容の依頼が出ていますね。こちらの依頼人ならゴーレムシップも用意できるでしょう。レオンさんは出発の日に備え、準備を整えておいて下さい」

 かくして、船に揺られての長旅‥‥もとい、海上の脅威を取り除くべく、冒険者達は大海原へと旅立つ事になるのであった。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●怪物の正体
「海は良いねぇ‥‥」
 大海原を漂う全長80m程のゴーレムシップの甲板で寝そべりながら、のんびりと言うのはキャプテンの鳳レオン(eb4286)。
「っと、いけない‥‥危うく眠ってしまう所でした」
 マントに包まりながら海面の様子を見ていたフレッド・イースタン(eb4181)が、首を振る。確かに、季節柄吹き付ける潮風は冷たいものの、降り注ぐ陽精霊達の陽気に包まれ、それが身体を浮かばせる様な何とも言えない心地良さを生み出しているこの環境では、睡魔に襲われるのも無理は無い。
「やれやれ。いつ怪物が襲ってくるとも知れないのですから、気を引き締めておかないと駄目ですよ」
 グライダーを甲板に着けながら言うのは、空から近辺の捜索に当っていた草薙麟太郎(eb4313)。
 そんな彼に目を向け。
「で、首尾はどうだったんだ?」
 船縁の内側に背を預けるオラース・カノーヴァ(ea3486)が尋ねる。
 すると、麟太郎は首を横に振り。
「いえ、残骸はあったのですが‥‥やはり、それらしき魚影を見付ける事は出来ませんでした」
「そうか。となれば、後は銀麗を待つばかりだが‥‥」
 身体を起こすと、依頼申請時にギルドに提出した70Gの一部を使い、無理を言って搭載してもらったエレメンタルキャノンに目を向けるレオン。
 今回怪物討伐に乗り出した冒険者の内一人である白銀麗(ea8147)は、単身海に潜って前方に口を開けている海食洞へ捜索に向かって居た。とは言え、かなり危険な試みである事は誰しもが分かっている。
 レオンは万一彼女が戻って来ない様な場合に備え、海食洞にエレメンタルキャノンを撃ち込む位の気持ちで居るのだ。

 ――ビタッ。

 その時、船底から響いた何かが張り付く様な音。一同は思わず武器を構え、怪物を迎え撃つ準備をするが‥‥次いで現われたのは、ゴーレムシップの甲板に一生懸命よじ登ろうとする大きなペンギン――こと、ミミクリーで姿を変えた銀麗だった。
「良かった、無事でしたか。それで、様子は‥‥」
 フレッドが尋ねるも、首を横に振りながら一目散に船室へと飛び込んで行く銀麗。と言うのも――今のままミミクリーを解除すると、洋服を身に纏っていない状態で元の姿に戻ってしまうからである。そんな彼女を、麟太郎は苦笑しながら見送り。
「しかし、ウィルの海も最近はなにかと物騒になってきましたね」
 無言で頷く一同。
 レオンが依頼を提出した後にギルドが詳細な情報を集めた所、今回の事件はシーウォームによるものである可能性が高いと言う見解が為されていた。この海域では、それ程目撃例の無いモンスターなのだが‥‥。
「何にしても被害が出ている以上、やるしか無いな。しかし、夜間に戦うのは厄介だよな‥‥」
「とは言え、相手は光に弱い習性を持っていますので、こちらから居場所を割り出せない以上、明るい内に退治するのは難しいです」
 レオンの言葉に答えるのは、犬と一緒に毛布に包まって現われた銀麗。この二人の情報収集と知識により、大体の敵の棲息地を割り出した冒険者達は、先手を打つ為に海食洞等を巡って探し回っていたのだが‥‥結果として、見付からず仕舞と言う訳だ。
「それに、オレが今まで戦ったヤツは皆光源に寄ってくる習性があったからな。今回はどーか分からねぇが、暗くなってからの方が誘き寄せ易いだろう」
 オラースの言葉に頷く一同。
 決戦は夜――。誰しもが覚悟にも似た緊張感を抱きながら、やがてゆっくりと陽精霊の光は陰っていった。



●現れたる巨大な影
 シムの海上がすっかり暗くなった頃。ゴーレムグライダーに跨った麟太郎は、ある実験を試みていた。即ち、イリュージョンによって作られた光は、光源として使用できるか、と言う物である。
 しかし。
「‥‥駄目ですね。やはり相手が見えてからでないと駄目です」
 あくまで、イリュージョンで生み出されるのは幻覚。偽薬の様な効果は望めたかも知れないが、決して本来の能力を凌駕する事は出来ないのだ。
 残念そうに肩を落とす麟太郎、そこに。
「ちなみに、相手がシーウォームであった場合は、精神に働きかけるイリュージョンは効きませんので、注意なさって下さいね」
 銀麗がシュパッと釘を刺す。まあ、思った通りに事は運べなくとも、出来る事は沢山在る。気を落とさずに‥‥。

「‥‥来たぜ」

 屑肉を撒いていたオラースの声で、不意に張り詰める船上の空気。見れば、船から少し離れた場所の海面がぐぐっと盛り上がっている。そして――。

 ――ザッパァァン!!

 派手な水音と飛沫と共に、現われたるは全長8mはあろうかと言う大ミミズ‥‥こと、シーウォーム。
 ランタンの光が揺れる船上で、冒険者達は各々配置について武器を構え、巨大な敵と対峙するのであった。



●船上の死闘
「操舵は任せましたよ、キャプテン!!」
 フレッドの言葉に頷くと、ゴーレムシップを操舵するべく精神を集中させるレオン。こう言った場面で、風の影響を受けずに操作が出来るゴーレムシップは非常に便利である。巧みな動きでシーウォームの攻撃を二度避け切ると、正面から現われた相手の側を抜ける様に進んで行き――。
「喰らえっ!!」
 船縁に足を掛け、災厄の大剣に因る強烈な一撃を叩き込むオラース。
 見た目通り、余り動きが機敏では無い様子の相手に、更に降り掛かるのはフレッドの放った矢と、麟太郎による上空からの砲弾。
 だがしかし、かなりの打撃を与えたにも関わらずシーウォームはそれをもろともせず、擦れ違い様に触手を船上で滑らせる様にして、反撃を仕掛けて来た。
「あっ‥‥!!」
 それを避け切れずに受けてしまうのは銀麗。ゴロゴロと甲板を転げ周り、船室に至る階段の手前で漸く動きを止めた彼女に、オラースが駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
 見た所、かなりの深手を負っている様子。おまけに、シーウォームの触手には特殊な毒素が含まれて居る為、麻痺して身体を動かせる状態では無くなっていた。
「こいつを飲んで、休んでろ。後はオレ達が何とかしてやる!」
 そう言ってヒーリングポーションを握らせると、甲板の中央へと戻っていくオラース。
「しかし、妙ですね。確かに手応えはあった筈なのに、まるで痛みを感じていないかの様な‥‥」
 今は水面下に居る敵を見据えながらのフレッドの呟きに、一生懸命口を開くのは銀麗。
「も、もしかすると‥‥あれ、はシーウォームのズゥンビ‥‥。カ、カオスのま、ものと化した姿かも知れ、ません‥‥」
 彼女の言葉に、驚きの表情を浮かべる一同。
「だが、確かに今までに戦った奴らは、こんなタフじゃなかった筈だぜ‥‥っと!」
 水面下から伸ばされた触手の攻撃を、ゴーレムシップは寸での所で避ける。流石海の男レオン、と言った所か。そしてすでに死んでいるシーウォームの動きも鈍い。
「くっ、きりが無いな。こうなったら‥‥」
 彼の呟きと共に、シーウォームから一気に距離を取るゴーレムシップ。そして、ある程度距離を取った所で、迫る敵の方へと船首を返すと――。
「エレメンタルキャノン、発射っ!!」
 轟音と共に、放たれる火属性の閃光。着弾と同時に海面で球状に破裂するそれは、シーウォームに直撃させるには至らなかったものの、その姿を水中から引きずり出すには十分であった。
 そして、そのまま真っ直ぐ飛び掛って来た敵をゴーレムシップが巧みに避けると――。
「うおぉぉーーっ!!」
 擦れ違い様に、シーウォームに飛び掛らん勢いで災厄の大剣を振りかざすオラース。
 一撃、二撃と加えられた斬撃は、痛みを感じて居ないらしき敵の身体を派手に抉り抜き――そして、そのままオラースを海中へと引きずり込んでしまった。
「オラースさん!!」
 船縁から闇色の海中を覗き込むフレッド。その眼下では、大剣を身体に刺されたまま暴れまわるシーウォームと、振り払われない様しっかりと剣の柄を握り締めるオラースによる死闘が繰り広げられていた。
 そして、巨体が海面へと飛び出した瞬間――。
「こちらへ! 早く!!」
 その横を掠める様にして、グライダーを駆る麟太郎。それを見たオラースは大剣を引き抜き、シーウォームから身体を離してグライダーへと飛び乗った。
 そして――。

 「‥‥ディストロイ!!」

 ほぼ同時に、シーウォームに着弾する黒い光。それは、何とか呪文を唱えられるまでには回復した銀麗の放った物だ。
 再現の神に与えられし厳しき制裁は、余りにも巨大な死者の身体を縦横無尽に引き裂き――間も無く、数え切れない細切れに砕け散らせた。



●海の平和を護る者
「ありがとう。あんた達のお陰で、また安心して漁に出られるぜ。こいつは俺達漁師からの礼だ。こんな物で悪いが、船の上で食ってくれ」
 近隣の漁港で冒険者達に渡されたのは、地元で獲れる魚介類を乾燥させて作った保存食。
 帰りの旅路を凌ぐには十分な量で、余り沢山保存食を用意してこなかったフレッドや銀麗にとっては、まさしく渡りに船といった感じであった。

「しかし、奇妙な話ですね。一度死んだシーウォームが尚もカオスの魔物として甦り、人を襲うとは‥‥」
「そうですね‥‥それ程頻繁に起こり得る事なのでしょうか?」
「いえ、アトランティスにおいては、かなり稀な筈ですよ。可能性としては、有り得なくも無い事ですが‥‥」
 貰った保存食を食みながら見解を述べるのは、麟太郎とフレッド、そして銀麗。その傍らで腕を組むオラースも、次いで口を開く。
「だが、あのカオス‥‥暗くて良くは見えなかったが、死んでから余り日が経っていない様子だったぜ」
「ああ、実際に剣を突き立てるまでは、普通のシーウォームだと思っていたくらいだからな‥‥」
 レオンの言葉に、顔を伏せる一同。

「何かが、起きているのか?」
 確証の無い、だが頭から離れる事の無い、不明瞭な不安。
 轟き波打つ海上に奇妙さを覚えながらも‥‥一同はゴーレムシップに揺られ、ウィルへと帰って行くのであった。