消えた採石部隊
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月16日〜01月22日
リプレイ公開日:2008年01月24日
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●オープニング
国内のゴーレムの配備数を増やすべく、その原料となる石を採取し運搬する者達‥‥所謂採石部隊と言うものが増えつつあるウィルの近況。
その中の一隊が突然に消息を絶ったと言う噂が流れ始めてから、この日で3日が経った。
冒険者ギルドのカウンターで、優雅にハーブティーを啜りながら書類整理をするのは受付係。そこに、一人の女性が現れる。
「おや? 貴女は確か‥‥」
何処と無く見覚えのある顔に、作業をする手を止める受付係。
カウンターの前に居たのは、今から2ヶ月ほど前に冒険者達の手解きを受けた、双子の駆け出し鎧騎士‥‥その姉の方のアステルだった。
何処となく覇気の無い彼女の様子に、またゴーレム操縦に関して悩み事でも抱え込んだのだろうかと、受付係が勘を巡らせていると――。
「あのっ、お願いがあるんです!!」
開口一番、アステルはすがりつくような勢いで捲くし立てた。
話を聞いてみると‥‥先日から行方が分からなくなっていると言う採石部隊、その中にはなんと彼女の妹であるアレミラも編入されていたと言うのだ。
表向きでは、単に道に迷ったか何かで帰還が遅れているだけとされているが‥‥何とはなしに、胸騒ぎがして止まなかったアステル。それは、双子の勘とでも言うべきか。
ともあれ、何かあってからでは遅いと言う事で、個人的に捜索をする事を決意した彼女は、自腹を切って手伝ってくれる冒険者を募りに来たのだと言う。
「アレミラちゃんはしっかりした子だから、まさかとは思うけど‥‥」
そう言うアステルの目の下には、色濃いくまが出来ている。恐らくは、心配の余りろくに眠れて居ないのだろう。
受付係は僅かに目を伏せると、新たに淹れたハーブティーを彼女に振る舞い。
「‥‥分かりました。では、至急と言う事でお承り致しましょう。ただ、それでも少し出発までに日が空く事となりますので‥‥それまではどうか焦らず、ご静養なさって居て下さい」
受付係の言葉にアステルは、俯きながら小さく頷いた。
――暗がりの中で揺れるランタンの光。
その下で手足を拘束された女性が、正面に佇む三人の人影を鋭い眼光で睨み付けていた。
「‥‥一体何が目的なの? 採石部隊である私達を襲った所で‥‥まさか積荷の『石ころ』が欲しかったなんて言わないでしょうね?」
女性の言葉に、小さな笑い声を漏らすのは中央の男。
「はっはっは、まさか。いくら俺達でも、そんな物から巨大人形を産み出す技術なんざ、持ち合わせていないからな」
「そう。それよりももっと、ボク達には大事な目的があるんだよ」
「‥‥大事な目的?」
すると、その後ろに居る男は凍て付く様な鋭い眼光を向け。
「‥‥これ以上の詮索は無用。貴様も他の者達同様に斬り捨てられたくなくば、大人しくしている事だ‥‥」
そう言って踵を返す三人組の背中を、女性は唇を噛み締めながら見据えていた。
●リプレイ本文
●出会いと再会
「よっ、久し振りだなアステル」
ギルドに一人佇むアステルを認めるや、右手を上げて挨拶をするのは鳳レオン(eb4286)。
「あ‥‥コーチ? それにクナードさんも‥‥」
だが、上げられたアステルの顔には‥‥二ヶ月振りの再会だと言うのに、元気が無い。どうやら、精神的に相当疲弊している様子だ。
そんな彼女の前に歩み出るのはゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)。
「お初にお目にかかります、アステルさま。治療院のゾーラクと申します。友人のリュドミラより、貴女とアレミラさまの事は伺っております」
「リュドミラ‥‥さん?」
大きく目を見開くアステル。リュドミラは、以前ゴーレムの操縦がままなら無い余り落胆していたアステルに、活力を与えてくれた人物だ。その時の事を思い出したかのか、彼女の表情が少しだけ明るくなる。
「それにしても、採石部隊の帰還が遅れている、か。確かに気がかりだな」
クナード・ヴィバーチェ(eb4056)が腕を組みながら言うと、同意する様に頷くレオン。
「ああ。その上、しっかり者のアレミラが行方不明とは‥‥これは何かあったのかもしれないな」
「しかし、妙な話ですね。モンスターに襲われたなら馬車ごと消えるのは不自然ですし、石を奪って得をする者などそう居ませんよね‥‥」
ふとセオドラフ・ラングルス(eb4139)が呟く。彼の疑問はもっともだ。行方不明になった採石部隊が運んで居るのは『現時点では』何の変哲も無いただの石。襲われたにしても、荷物ごと消えるのはどう考えても不自然である。
「あるいは、わが国のゴーレム配備を邪魔したい者の仕業でしょうか?」
彼の推測混じりの発言に、頭を抱える一同。そこへ。
「何にしても現地へ急ぎましょう。ギルドの配慮で、馬車を借りる事も出来ましたし」
そう言って現われるのは白銀麗(ea8147)。どうやら、今まで手続きをしてくれていた様だ。
そして、アレミラ含む一同は、馬車に揺られながら採石部隊の連絡が途絶えたと思われる森林地帯へと向かって行った。
●掻き消された轍
辿り着いたのは、前後を村と村で挟まれた、森林の中に伸びる一本道。採石部隊の向かった場所を考えると、ここはまず通らなければならない場所である。
道の先にある村での調査は駿馬で先行するセオドラフに任せ、他の面々は手前の村で聞き込みをする事にした。
その結果得られた情報は、行き掛けの採石部隊は見掛けたものの、未だ戻って来ては居ないと言うものだった。となれば、帰り際に何かがあったのだろう。
「単に道に迷っただけなのでしょうか?」
「いえ、アレミラちゃんに限って、そんな事は無いと思うんです。あの子は、昔から迷子になった事がないですし‥‥」
それが根拠になるのかどうかは微妙なところだが‥‥彼女の事を知るレオンとクナードの二人は、何とはなしに納得する。
「まあ、どちらかと言うと迷子になるのは、アステルの方だしな」
「え? ど、どうして知ってるんですかっ!?」
図星だったらしく、レオンの言葉に慌てふためくアステル。
馬車の幌の中が談笑に包まれる中、そこに降り立つのは大きな鳥――こと、ミミクリーによって姿を変えた銀麗。彼女は木陰に隠れながら変身を解くと、走り寄って来た犬が持って来た服と毛布に身を包み、一同の前に姿を現した。
「残念ながら、アレミラさんらしき人物は見当たりませんでしたけれど‥‥空から見た限りでは、地形的に迷ってしまったりする様な場所はありませんでしたね」
彼女の言葉に、思わず目を伏せるアステル。やはり迷ったのではないとすれば、考えられる可能性は‥‥。
そんな彼女を励ます様に、ゾーラクが肩に手を置いた――その時。
「ちょっと止まってくれ。‥‥アレは何だ?」
レオンの言葉に、動きを止める馬車。
彼が見付けた物、それは道から少し外れた所に僅かに残っている、何かを埋めた様な跡だった。
「馬車の轍――か?」
クナードの呟きに頷くのはレオン。出来てからかなり日は経っているものの、積荷の重さ故に深く刻まれた轍を、盛り土する事で隠そうとしている痕跡。目を凝らせば凝らす程、しっかりと見て取れる。もし魔物の仕業であったとするならば、こんな細工をするだろうか。
そこに現われるは、駿馬に跨るセオドラフ。
彼が得て来た情報と、手前の村で得た情報――それらを纏めた上で、導き出された結論は。
「‥‥やはり。賊と思わしき者の目撃情報が無かったと言うのが気になりますが‥‥少なくとも採石部隊はこの森の何処かで行方を眩ませたと見て、間違いありませんね」
「となると、やはりこの痕跡はアレミラ達の‥‥?」
「確証はありませんが、恐らくは‥‥。今から、それを調べてみますね」
そう言って、過去視の魔法パーストの呪文を唱えるゾーラク。とは言え、彼女の技能で見れる過去は一週間前まで。それよりも前に採石部隊は消息を絶ったと推測されるので、何かがあった現場を直接見る事は出来ない。
だがしかし――。
「‥‥なるほど。石の積まれた荷車は、最近まで道の脇に隠してあったのですね。‥‥どうやら、間違い無い様です」
●肩透かしの救出劇
その翌日早朝。場所の検討を付けた上での上空からの捜索により、採石部隊を襲った賊の潜伏場所と思われる洞窟を発見した銀麗。
彼女は蛇の姿でその現地へと先行し、賊の様子を探りに向かって居た。
――ところが。
「賊が‥‥居ない?」
戻って来た銀麗の言葉に、動揺の色を浮かべる一同。
「ええ。洞窟の中も少しだけ調べたのですが‥‥。その上、石の積まれた荷車さえも入口に放置されて居ました」
「一体どう言う事なのでしょうか‥‥?」
頭を抱えながら、呟くセオドラフ。他の者達も同様に困惑の表情を浮かべるが‥‥その中で唯一人、穏やかではない様子のアステルは。
「そ、それでアレミラちゃんは!? アレミラちゃんは無事なんですか!?」
慌てて捲くし立てる彼女に、銀麗はゆっくりと首を振り。
「流石に、そこまでは‥‥。私が調べたのは、ほんの入口だけでしたから」
「落ち着け、アステル。彼女ならきっと無事だ。‥‥まあ、何にしても、一度現場に行ってみないとな」
レオンの言葉に頷く一同。
「罠と言う可能性も在ります。慎重に行きましょう」
ゾーラクが仲間達に注意を促すも――どうやらそれは、取り越し苦労だった様子で。
罠らしい罠も無いまま、あっさりともぬけの殻となった洞窟の中に潜入した一同は、その奥深くで拘束されたまま横たわるアレミラの姿を発見した。
「アレミラちゃん!!」
「無事か、アレミラ!?」
慌てて駆け寄るアステルとクナード。だがしかし、アレミラは眠った様に目を閉じたまま、反応が無い。そんな彼女に、現役治療院勤務者であるゾーラクはゆっくりと歩み寄る。
「‥‥大丈夫、衰弱して気を失っているだけです」
彼女の言葉に、ほっと息を吐く二人。と、その時。
「おい、こっちにも誰か居るぞ!!」
銀麗と共に他の場所を調査していたレオンの声が、洞窟内に響き渡った。
●残された者達
「‥‥ご心配をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。私が不甲斐無いばかりに‥‥」
石を積んだ馬車を操りながら、前を進む馬車の幌の中で寛ぐ冒険者達に言うアレミラ。
「その事なら、もう気にするな。アレミラが無事だったのだから、それで十分だ」
「そうですよ。他の隊員の方々は残念でしたが‥‥落ち込むよりも、むしろ糧にするくらいの気持ちで居た方が、きっと彼らも喜んでくれます」
クナードと銀麗の言葉に、力なく頷く。とは言え、彼女の性格からすると、どうしても気にせずには居られないのだろう。
「それにしても‥‥やはり解せませんね。賊の目的は、一体何だったのでしょうか?」
「ええ。わざわざ採石部隊を襲っておきながら、その積荷を奪うでなく、アレミラさんを人質に取るでもなく‥‥」
セオドラフの言葉に答えながら、頭を抱えるゾーラク。ちなみに、採石部隊の所持していた石以外の金品は全て持ち去られていたものの、大した物を持っている訳でもなかったので、それが目的だったとも考え難い。また、ウィルのゴーレム配備に対する妨害工作であったとしても、効果的な方法であったとは到底言う事は出来ない。
「う〜ん‥‥アレミラちゃんやアンちゃんは、何か聞いてない?」
冒険者達の乗る馬車を操りながら、背中越しに尋ねるのはアステル。ちなみに、アンと言うのはアレミラ同様に賊に捕われていた、見た目15歳程の少女の事である。彼女は行商人である父親と一緒にウィルへと向かう途中、例の森に差し掛かった所で賊に襲われたのだと言う。
父親の安否が定かで無い為、彼女の身柄は一先ずアステル達の騎士団が保護する事になり、こうしてウィルへと向かう馬車に同乗しているのだ。
「う〜ん‥‥アンは怖くてずっと泣いてたから、良くわかんない」
小首を傾げながら言うアン。そして、アレミラも申し訳無さそうに顔を伏せながら。
「私も、余り詳しい事は‥‥。けれど、奴らは何か『大事な目的』があると言っていたわ」
「『大事な目的』、か。賊の考える事だ、どうせろくでもない目的なんだろうな」
軽い調子で言うレオン。だがしかし、アレミラはゆっくりと首を横に振り。
「そうかも知れないですけど‥‥。しかし、私の見た限り、奴らの戦力、士気の高さ、撤退の速やかさ‥‥それに何よりも首領の先見の明には、かなり侮り難い物を感じました。何を考えているか分からない以上、油断をするべきでは無いでしょう」
彼女の言葉に、顔を伏せる冒険者達。
積荷も無事取り返し、捕われの者達も無事救出する事が出来た。
目的は果たせた‥‥そう、果たせた筈なのに。
冒険者達は何やら釈然としないものを胸に抱えながら、ウィルへの帰路を辿って行くのであった。