レッツ書物整理っ!

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月01日〜02月05日

リプレイ公開日:2008年02月06日

●オープニング

「やれやれ‥‥困ったものですね」
 ウィルの街中に佇む教会、その奥にある一室で一人呟くのは、神父のヨアヒム・リール

 片付けれど片付けれど片付かない書庫。
 日中のヨアヒムは神事や布教活動に追われる故に、手が付けられず‥‥夜になったらなったで、翌朝の為早くに就寝しなければならない上に、冒険者等の怪我を癒すと言う仕事もあるので、悲しいくらいに捗らない。
 それでも空いた時間を使って、着々と整理を進めているのだが‥‥大分綺麗になったかなと思った所に決まって。

「やほ〜ヨアりん!! また本を見せて貰いに来たで〜!!」

 と言った感じに、嵐が通り過ぎ‥‥その後は、元の木阿弥どころの騒ぎでは無くなって居るのだ。
 余りにも無礼な元凶に説教をしたのは数ヶ月前‥‥だがしかし、それでも素行は改まらず。
 気が付けば、円形の部屋中に本が散在し、まさに足の踏み場さえも無くなってしまっていたのだ。
 さしもの神父とて、溜息を吐かずには居られない。
「このままでは、何時まで経っても片付きそうにありませんね‥‥」

 と言う訳で、彼は最後の切り札を切ることにした。
 それは――冒険者に書庫整理の手伝いを依頼する事。
「以前大ホールでお約束したきりでしたからね」
 そう言って、ギルド宛ての依頼状をしたためるヨアヒム。
 と、不意にその手が止まり。

「‥‥‥‥大丈夫、まだ秋に頂いた食材は、十分過ぎる程残っている筈です」

 冷汗を拭いながら呟くと、書類の最後に『事後にはささやかでは御座いますが、お食事会と言う形でお料理を振舞わせて頂きたく存じ上げます』と書き足すのであった。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7842 バシレイオス・フェビアヌス(27歳・♂・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●教会へ
「やほ♪ 久し振りっ」
「こんにちは神父様。教会でお会いすると、やっぱり雰囲気が違いますね」
 教会で出迎えたヨアヒムに会うや、左腕をしゅたっと上げるディーネ・ノート(ea1542)と、にっこりと微笑むレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)。
「大ホール以来ですね。またお会い出来て嬉しいです」
 ヨアヒムも釣られて左手を上げながら微笑み返す。‥‥と、すぐに恥ずかしげに左手を下ろした。
 そんな彼の様子を見て苦笑いをしながら。
「この様な形でお会いするのは、初めてだな。拙者はバシレイオスと申す。宜しく頼む」
 名乗り出るのはバシレイオス・フェビアヌス(eb7842)。彼だけでなく、最初に挨拶した二人以外の面々は『教会の神父』としてのヨアヒムしか知らない。
「‥‥ヨアヒムって名前だったのか」
 小さな仮面に隠れる様にして呟くのはオルステッド・ブライオン(ea2449)。その傍らに佇むシルバー・ストーム(ea3651)やソード・エアシールド(eb3838)、イシュカ・エアシールド(eb3839)も小さく頷く。
「ともあれ、日頃から書物や巻物や石版等の資料に囲まれて研究している身としては人事とは思えませんしね‥‥」
「ああ。いつもお世話になっている神父さんの為に、一肌脱ぐとしよう」
 そう言って意気込むシルバーとオルステッド。そして。
「ソードも来てくれて、助かりました。私だと一度に多くの本を運べませんから」
「気にすんな。今回の面子見てみたら、結構細いのや女性が多かったんでな‥‥」
 苦笑しながら話すイシュカとソード。確かに、本は嵩張るとかなり重くなる。故に、ソードは専ら力仕事を請け負うつもりの様だ。
「お集まり頂き、どうもありがとう御座います。では、早速で御座いますが書庫の方へ御案内致しますね」
 そう言って教会の扉を開き、冒険者達を通すヨアヒム。彼に続いて奥にある一室へと足を進めた一同は‥‥思わず、息を呑んだ。



●惨状
 書庫と言って通された一室‥‥その中央を占拠して居たのは、こんもりと積み上がった書物の山。壁際にある空の本棚の規模を見るに、想像していた程量は無いものの‥‥乱雑に散らばった本は、何倍にも多く見える。
「こりは‥‥随分派手にやられたわね」
 口角を引き攣らせながら言うディーネ。彼女の言葉に、ヨアヒムは力なく頷く。
「こうなると‥‥途中まで片付けていたヨアヒムさんには申し訳ないが、一から整理し直した方が良さそうだな‥‥」
「そうですね。勝手ながら私達で事前に分類の仕方を相談して来たのですが‥‥」
「具体的には、神事や地理等のジャンル別に分けた上で、言語毎に纏め、更にタイトル順に並べていくと言った感じですね。ですが、一番使う方が迷われるようでは困りますから‥‥如何でしょうか、ヨアヒムさん?」
 オルステッド、シルバー、イシュカの言葉に、ヨアヒムはにこりと微笑み。
「ええ、問題ありません。寧ろそこまで考えて下さっていたと言うだけで、とても有り難いです」
 彼の答えに、一同は大きく頷く。
「では、神父様の為に頑張りましょう♪」
 レインの言葉を合図に、一斉に部屋中に散る冒険者達。そんな彼らに。
「私も教会の仕事が一段落致しましたら、作業に加わらせて頂きますので‥‥どうぞ宜しくお願い致します」
 ヨアヒムはそう言い残すと、踵を返し聖堂へと向かって行った。



●書物整理
 二日目の朝。
 ここに至って漸く散らばっていた全ての書物を纏め終えた一同は、続いてジャンル、言語別に纏める作業に取り掛かった。
「しかし、よくこれだけ本を集めたものだな‥‥」
 バシレイオスが呟くと、傍らで作業に加わっていたヨアヒムは。
「ええ。とは言え、これらの大部分は頂き物なのですけれどね」
 肩を竦めながら言う。なるほど、それでこれ程までに様々な言語の書物が入り混じっている訳だ。それに、アトランティスの物よりも圧倒的にジ・アースの言語で記された書物が多いのも頷ける。
 その横で作業をして居るのはソードとイシュカ。だが、力仕事専門のソードは手に持っていた本を元あった場所に戻すと。
「本棚、掃除と雑巾がけやっておこうか?」
「いえ‥‥ソードも簡単な文は読めますでしょう? 第一貴方に掃除をさせたら本棚が壊れます」
 イシュカに窘められ、渋々と先程の本を手に取るソード。そんな彼を見ていたヨアヒムは、苦笑を禁じざるを得なかった。
 一方。
「ディーネさん?」
「うをっ!? あ‥‥ゴメン」
 シルバーに声を掛けられ、恥ずかしげに読み耽っていた本を『その他/セトタ語』と記された札の元に置くディーネ。
 ちなみに、そのタイトルは『アトランティスの珍しい食材』‥‥なんとも彼女らしい。

 そして、作業が一段落する頃には二日目の夜も更けていた。
「後は、これらの本を元の棚に戻すだけですね」
 ジャンルと言語ごとに纏められた書物に目を遣りながら、感慨深げに言うレイン。現時点でここまで作業を進める事が出来たならば、依頼期間内には余裕で片付ける事が出来そうだ。
「あと一息だな。よし、今日はここまでにしておこうか」
 オルステッドの言葉に頷くと、一同は聖堂へと足を進めて行った。



●作業終了!
 そして、翌日の夕方。
「ふぃ〜、全部終わったぁ〜」
 ディーネがぐったりと突っ伏しながら、心底疲れきった様子で言う。
 書庫にある本の大部分は羊皮紙の物であった為、嵩張った場合の重さは半端ではない。ソードを中心に手分けして取り掛かり、漸く全ての書物が本棚に収まった頃には、誰しもが疲弊し切っていた。
「出来れば作業と同時進行で目録も作りたいところだったのですが‥‥それ所ではありませんでしたね」
「ええ。今から取り掛かろうにも、皆疲れ切っていますし‥‥明日にしましょうか?」
「その辺はまかせる。‥‥あー肩凝った」
 イシュカとシルバーの話を横で聞いていたソードは、肩に手を当てながらグルグルと腕を回す。流石に、リカバーでは皆の疲れた身体を癒す事は出来なかったが‥‥。
「うわー! もうすっかり片付いちゃってますね!」
 そこに現れたるは、午後から教会に訪れていた子供達の遊び相手を勤めていたレインと、神事を一段落させたヨアヒム。
「皆様のお陰で、本当に助かりました。どうもありがとう御座います。感謝の気持ちと申し上げるにはささやかでは御座いますが、明日の晩餐は腕によりを掛けて振舞わせて頂きますので‥‥」
「!! やたっ!! 楽しみにさせて貰うわっ♪」
 途端に嬉々と跳ね起きるディーネ。彼女にとって、それが一番の労いの言葉だったのかも知れない。



●読書の冬?
 依頼最終日。
 後日に修復する事になった劣化の激しい本を別の一室に纏めた一同は、日中から教会に訪れ、思い思いに本を読み漁っていた。
「神の子ジーザス、彼の教えに因れば神には弱き者に救いを与える慈悲深き『聖なる母』という顔と、優れた者に祝福を与える『大いなる父』という顔の二つの顔を持っているとされている‥‥。ふむ‥‥」
 聖書を初めとする神学関連の本を読むのはバシレイオス。全ての書物を読みたいと願っている彼にとって、アトランティスには無い宗教に関する本は新鮮な事この上ないらしく、声を掛けられても気付かない程に没頭していた。
 そして同じく神事関連の書物が集められた棚から、ジ・アースの御伽噺(流石にもう一つの天界の物は無かった)等を抜き取って読み漁っているのはレイン。と言うのも、彼女は覚えた御伽噺を自分の教え子に話して聞かせようと考えていたのだが‥‥言語が分からないので、傍らでディーネに読んで貰っていたりする。まるで、家庭教師たるレインが教え子になっているかの様な光景である
 一方。
「シェルドラゴン、水系のエレメンタルビースト‥‥目撃例は非常に少なく、伝説にも近しい存在、か。なるほど、これは簡単には進化してくれなそうだな」
 苦笑いを浮かべながら、傍らで首を出すスモールシェルドラゴン、ヘキサフランジの頭を撫でるオルステッド。そして、彼の持つ書物にはこうも書いてあった。

『一般的に全長約20mと言われている』

「‥‥棲家に入りそうにありませんよね」
 隣で呟くシルバー。そんな彼の手に持っているのは、精霊碑文学関連の書物。
「初級の物で90種類以上、専門は20種類以上存在すると言われる。非常に便利な物であるが、通常の魔法の5倍もの気力を必要とし、尚且つスクロール自体もそれほど丈夫なものでは無い‥‥。大体知っている事ばかりですね」
 残念そうにシルバーは呟く。その後も卓越した碑文学知識を持つ彼を唸らせる様な書物は、書庫中探せど見つかる事は無く。
 その代わりに‥‥。
「これは‥‥古代魔法語でしょうか? えーと‥‥」
 一冊の古い書物を手に、リードセンテンス専門のスクロールを広げるシルバー。そして。
「『6‥‥精霊‥‥祝福‥‥陽の力‥‥試練‥‥』?」
 辛うじて読上げられたのは、単語の羅列。だが、それ以上は字が掠れていて読む事が出来ず‥‥結局、正体の分からないままその書物は本棚に戻される事となった。

 その後、イシュカとレインの手伝いの元、チーズや麦パン等を中心とした夕食が振舞われ、教会の食堂においてささやかな食事会が催された。
 一仕事の後の食事は、質素ながら心なしかとても美味しく感じられ――冒険者達の疲れた身体に、深く染み渡るのであった。