人の恋路を‥‥

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2008年02月11日

●オープニング

 ウィル街中において、ここ一ヶ月程とある噂が真淑やかに囁かれている。
 それは、街外れにある精霊を象った石像の前で、意中の相手に告白をすれば、必ず恋仲になれると言う‥‥良くある色恋話である。
 おまけに、何でも噂に則って告白すると、その直後に像に象られた精霊が二人を祝福する為に現れるのだとか。
 そう言った噂は、根も葉もないものであれば大抵は一週間程で自然と消えてしまうものだが‥‥この噂に至っては一向に話題としての衰退を見せず、むしろ実体験談も混じえてどんどん拡大していた。


「ウルティム様から聞いたんですけど、ロマンチックな話ですよね〜♪」
 カウンターからひょっこり顔を出しながら夢見心地で語るのは、某貴族の屋敷でメイドとして働く少女ノラ。

 とある一件以来、彼女がある男性の事を心から慕っている事は、話を聞く受付係も良く知っていた。そして、それ以来全く会えていない事も‥‥。
 故に、そう言った色恋沙汰の噂とかまじないには、異常に敏感になって居るのだろう‥‥以前に街中で見掛けた時、色々と奇妙な布やら装飾品やらを身に付けて練り歩いていた彼女の姿を思い出し、苦笑する受付係。

「で、私も是非その噂通り『あの方』に精霊像の前で告白しようと思うんです! それに、天界ではもうすぐ『恋人達の季節』って呼ばれる時期がくるみたいですし!」
 ぐっと握り拳を作り、目を輝かせながら言うノラ‥‥に対し、受付係はふとした疑問をぶつける。
「それは良いんですけど‥‥どの様な御用向きで、ギルドへいらっしゃったのですか?」
「え? それはだって、『あの方』も冒険者ですし、それに受付係の人ってすごい情報通だって聞きましたから‥‥きっと聞けば教えて貰えるって、センパイのミルクさんに言われたんです♪」
 成程。どうやら彼女は同じく屋敷で働くパラのメイドのミルク(毒入り)に勧められるまま、『あの方』の所在を聞きに来たらしい。
 だがしかし、いくら受付係と言えど、冒険者一人ひとりの足取りを把握している訳では無いので‥‥彼女の期待に応える事は出来ない。
 その旨を告げると‥‥思った通り、がっくりと肩を落とすノラ。
「それに‥‥その精霊像には、余り近付かない方が良いですよ」
「えっ? ど、どうしてですか!?」
 受付係の言葉に、案の定ノラはカウンターから身を乗り出して問うて来る。
「い、いえ、実はその精霊像と関係あるかどうかは分からないのですが、妙な情報があるものですから‥‥」
 そう前置きした上で、受付係はその情報の内容を話し始めた。

 それは、丁度精霊像の噂が本格的に広がり始めた頃からだっただろうか。ウィルの街中の至る所で、数多くのカップルの破局談が聞かれる様になったのだ。
 それも、その大部分が付き合い始めて数日と経たない様な‥‥普通ならば熱も冷め遣らぬ様な者達ばかり。
 何とはなしに、精霊像の噂との関連性を感じた受付係が、独自に出来る範囲で調査を始めてみたのが一週間程前。
 だが、これと言った成果は無く、今に至る訳なのだが。

「兎に角、もうしばらくしたら本格的に調査を致しますので、それまでは‥‥」
「そんな悠長な事言っていられますかっ!!」
 バンッ!! と突然にカウンターを叩きながら、捲くし立てるノラ。
「もし受付係さんの考えていらっしゃるとおり、その精霊像が恋人達の邪魔をしてるんだとしたら、絶対に許せません!! 依頼の為のお金なら私が出しますから、すぐに何とかして下さいっ!!」
 いや、そこまでは言っていないのだけれど‥‥と言う言葉は、ノラの剣幕に圧されて呑み込む。何を言ったところで、眼に炎を滾らせている彼女を止める事は出来そうも無く‥‥。
「‥‥分かりました。では、直ぐにでも精霊像の実態調査と、場合によってはその排除と言う事で、依頼を承ります‥‥」

 かくして、小さな少女の大きなお節介による依頼が、ギルドに張り出される事となるのであった。

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●噂の精霊像
 依頼を請け、一旦ギルドに集まった冒険者達は、それぞれ情報を集めるべくウィルの街中へと散って行く。
「あの〜、精霊像の噂ってご存知ないですか?」
 酒場でそう聞いて回るのは、ソフィア・カーレンリース(ec4065)。すると、卓に突っ伏していた女性がふと顔を上げ。
「‥‥知ってるわよ。私もその噂に乗じた一人だもの」
 そう言って、ソフィアの方に向き返る。卓上には、大量の空の酒瓶‥‥恐らくは、自棄酒でもしていたのだろう。
「あ、よかった! 実は‥‥」

「実は私にも気になっている人が居て、告白しようと思っているんですよ。宜しければ、お話を聞かせて貰えませんか?」
 同じ頃、街角で一人の女性に尋ねるのは倉城響(ea1466)。そして、彼女から少し離れた所で他人を装いながら白銀麗(ea8147)が話に耳を澄ませていた。彼女はリードシンキングをもってして、情報に偽りが無いか確かめようとしているのだ。

(「う〜ん、大体ギルドで聞いたのと変わらない話ばっかりだね」)
 別の場所で、話を聞きながら思考を巡らせて居るのはテュール・ヘインツ(ea1683)。彼は噂好きな人物ならば何か知っているかも知れないと考え、聞き込む事既に数名。
「ところで、精霊像の前で告白するのに則らないといけないものがあるって聞いたんだけど、知りませんか?」
 ふと切り出されたテュールの質問に、答えていた男性は頭を抱え――。

「‥‥夕暮時でないと、精霊が現れない?」
 聞いた言葉を繰り返す様に口に出すのは物輪試(eb4163)。一方、如何にも興味有り気に近付いてきた彼の相手をしていた女性は、頷きつつも何ともいえない眼差しを送る。それは、周囲を通り掛かる者達も同様だったり。
 試はそんな視線に耐え忍びつつ。
「成程‥‥。ところで、最近になってその精霊に祝福を受けた恋人達が次々と別れているそうだが、本当なのだろうか?」
 彼の質問に、不意に曇る女性の表情。

「本当の話や」
 あっけらかんと答えるのは、聞き込みをするキース・ファラン(eb4324)と同じパラの少女。男性を中心に回るついでに情報通の同族を探していたキースは、半ば捕まる様な形で彼女の話を聞かされていた。
「ウチが調べた限りやと、噂が流れてから一ヶ月間に成立したカップルは八組。その内の七組が既に別れてはる」
 妙に具体的な情報を出してくる彼女に対し、僅かな懐疑心を抱くキース。とは言え、独自に調査をしていたらしき彼女の情報は、街中に蔓延している漠然とした噂を聞いて回るよりも遥かに信憑性があった。
「それで、その別れる理由にはどんなものがあるんだ?」

 一方、同じ質問をしてから延々と愚痴を聞かされ続けて居るのは酒場のソフィア。
 だが彼女は嫌な顔一つせず。
「うんうん、男の人ってそういう所ありますよね〜」
 と耳を傾けていた。流石は現役酒場店員。
 加えて、彼女は話を聞く内にある確信を抱く様になっていた。それは――。

「いずれの場合も、別れるのには何かしら理由があっての事だった様ですね‥‥」
 響と並んで歩きながら言うのは銀麗。ちなみにその理由と言ってもまちまちではあるが、いずれも付き合っている相手が何かしらとんでもない行動に出た事で愛想を尽かし、破局していると言う事で共通していたのだ。
「どうやら何者かによる妨害説が有力な様です。それも、人を操る魔法を使うか、もしくは付き合っている相手に成済ます事が出来る者による、悪質な‥‥」
 銀麗の言葉に「あらあら、それは大変ですねぇ」と返すぽけぽけ浪人響。
 とは言え、たかが噂話と高を括って入られない事は、彼女を含む誰しもが心得ていた。

 陽精霊の光が弱まり、代わりに月精霊達がその存在を強調し始める黄昏時。
 問題の精霊像の付近に集った冒険者達は、未知なる敵との対峙を前に、胸を高鳴らせる。



●告白‥‥?
 夕暮の朱に染まりながら、高台に佇む精霊像。
 周囲には(幸いにも)人影はなく、それで(ある意味)迷いは吹っ切れたのか、寄り添いながら歩み寄る男女の影。
 腕越しに伝わってくる柔らかな感触に堪えながら、ギクシャクと足を進めるのは試。その様子は、傍から見れば初心な男性に見られなくも無い?
 そして、よりカップルらしくと言う事で腕を組み、試にもたれ掛かる様にして歩くのは響。‥‥既婚者21歳。
 そう、二人は噂の元凶を誘き出す為に囮となり、カップルを装っているのだ。
 そんな彼等を遠目に見守るのは、他の冒険者の面々‥‥加えて、依頼人のノラ。なんでも今回の囮作戦を聞かされて、居ても立っても居られなくなったのだとか。野次馬的に。
「告白ってロマンチックですよね〜」
 何とはなしにノラに話しかけるのはソフィア。彼女の言葉に、ノラも明るく頷き――。
「ところで、ノラさんの告白したい人って、どんな方なのですか〜?」
 続く質問により、真っ赤になって俯いてしまった。いくら耳年増とは言え、やはり性根は純情な少女の様子で。
「‥‥二人とも。お喋りも良いが、そろそろ気を引き締めておけ」
 キースの言葉に、揃って視線を響と試の方へ向ける二人。
 一方、響は精霊像の前でふと身体を離し、試に向き合うと‥‥。

「‥‥以前、会った時から好きでした。‥‥付き合ってくださいますか?」

 僅かな間を置いてからの告白。

 ――すると、その直後。
 突然に周囲が明るくなったかと思うと、光に包まれ羽の生えた人間の子供の様な姿の‥‥精霊像に象られた通りの『精霊』が二人、響と試の前に舞い降りた。
「これが、噂の精霊か‥‥?」
「あらあら、本当に精霊さんが出てくるんですね〜」
 無意識に呟きながら、呆然とその姿に目を奪わる二人――。



●カオスの魔物
「違うっ!! そいつらは精霊なんかじゃないよ!!」

 突然のテュールの声と共に、精霊へ向けて真っ直ぐに飛んで行くのはソフィアの放った雷光。それは二体の内一体に命中すると――見る見る精霊はその姿を歪ませ、鉛色の肌と尖った尻尾を持つ醜い小鬼の姿へと変化していった。
「カオスの魔物‥‥! 邪気を振りまく者、ジ・アースで言うインプです!!」
 銀麗の言葉に、反射的に身構える響と試。だが生憎と彼等は武器を持って居ないので、今は仲間達に合流するしかない。
 それを悟ったか、二体の邪気を振りまく者の内一体が響に向けて襲い掛かって来た。
「くっ、サンレーザー!!」
 詠唱を終えたテュールから伸びる光線。だが、命中したにも関わらず相手は全く動じた様子を見せない。
 ――サンレーザーは、夕方には効果を発揮できないのだ。
「ブラックホーリー!!」
 次いで銀麗の手から飛んで来た黒い光は見事に邪気を振りまく者を捕らえ、多大な打撃を与える。その瞬間。
「はあっ!」
 響の掛け声と共に地面に叩き付けられる邪気を振りまく者。
 投げ飛ばされた敵に、ゆらりとソフィアが近付き。
「人の恋路を邪魔する奴は〜♪」
 バチィン――!!
 手が触れた瞬間、何かが弾ける様な音と共に走る電流。だが、どうやら抵抗されたらしく、思った以上に威力は出なかった。
「やれやれ。仕方ない、捕まえておくか‥‥」
 手持ち無沙汰になっていた試は、他の者から渡されたロープで、伸びている邪気を振りまく者を簀巻きにする。――と。

「危ないっ!!」
 突然のキースの声と共に、盾によって掻き消される黒い炎の塊。それはもう一体の邪気を振りまく者が放った物で。
「チ、チクショウ! オボエテローッ!!」
 ボコボコにされた仲間を見るや、そんな捨て台詞と共に一目散に逃げ出して行った。



●馬に蹴られて‥‥
「ウキョーーーー‥‥‥‥」
 ――キラン。

 響の(何とも言えない威圧感の潜んだ)笑顔によるお説教と、ノラによる憂さ晴らし半分の折檻で散々痛め付けられた挙句、キースの連れた戦闘馬ホーによって蹴り飛ばされた邪気を振りまく者は、簀巻きにされたまま城壁のはるか向こうへと消えて行った。
「これだけの仕打ちを受ければ、そうそう同じ事をしには来れないだろうな‥‥」
 冷や汗を拭いながら言う試。とは言え、止めを刺さずに逃がしたのには理由があった。

 そもそも、精霊像の前で告白をすれば必ず恋仲になれると言う話は、言わば暗示によるものだったのだ。
 例えその気も無い相手に面白半分で告白したのだとしても――精霊が出て来て祝福までされては、どうしても意識してしまうと言うもの。
 未だ破局していない一組のカップルは、実の所そう言った経緯を経て恋仲になった者達で‥‥告白した直後は余りにお互いギクシャクしていた為、邪気を振りまく者達の妨害対象から外されていたらしい。

「謀らずも、デビルがキューピッドになった訳ですね。ですが、そんなにあっさりと反省する程デビルと言う存在は素直なものではありません。もう一体の方も逃がしてしまいましたし‥‥」
 ふと口を開く銀麗。すると。
「それなら心配要りません。『今度こんな事をしたら‥‥と、仲間にも伝えて下さいね♪』と言っておきましたから」
 笑顔で言ってのける響に、思わず一同は引き攣り笑いを浮かべた。
「ま、まあ‥‥もうこんな事が無い様に、念の為ギルドにも注意喚起をして貰った方が良いかもな」
 キースも冷や汗を隠す様にして口を開く。
 何にしても、これ以降無粋な小悪魔達による破局談が聞かれる事もなくなるだろう。
 そして――。
「‥‥本当に結ばれるべきカップルは、今回の事を乗り越えて再びくっつくと思うから、な」
 誰にとも無く、キースは小さく呟くのであった。

「‥‥今のままじゃあ、ノラさんの恋が実るのは難しいかも知れないね。ただ、今ある仕事を一生懸命こなしていけば、きっと‥‥」
「分かりました! それじゃあ、今後ともメイドとして腕を磨いていきます!」
「テュールさん、僕も占ってよ〜」
 高台に寂しげに佇む精霊像の前で、テュールの占いによって盛り上がる者達を微笑ましげに見守りながら――。