わらわらゴブリン大作戦!

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2008年02月19日

●オープニング

「た、大変だぁっ!!」

 叫び声と共にギルドに転がり込んでくるのは、全身ズタボロの騎士。
 突然の事に視線が集まる中、そんな彼に応対する受付係は、あくまで冷静に。
「落ち着いて下さい。何が大変なのか、ちゃんと仰って下さいませんと‥‥」
「だっ、だから大変なんだったら大変で大変な大変を!!」
 駄目だこりゃ。
 苦笑交じりにそう呟くと、受付係はハーブティーを勧めつつ、彼が落ち着きを取り戻すのを気長に待つことにした。



 そして――数刻後。
「す、すまない‥‥余りの事に気が動転してしまって‥‥」
 ハーブティーを啜りながら、恥ずかしげに呟く騎士。
「いえ、構いませんよ。それで‥‥一体何があったのですか?」
 受付係の言葉に、騎士は真剣な面持ちで一つ大きく息を吸い込むと――。

「――ゴブリンが出たんだ」

 ‥‥。

「‥‥‥‥‥‥はい?」

「いや、だから、ゴブリンが出たんだって」

 予想を盛大に裏切る騎士の言葉に、開いた口が塞がらなくなる受付係。
 それはそうだ。ゴブリンと言えば姑息で臆病で、決して強くはない事で知られるオーガモンスター。ましてや、一騎士ともあろう者がそんなモンスターに遅れを取るなど、考えられたものではない。
 すると、解せないと言った表情をする受付係の様子を察した騎士が。
「ああ、すまない、言葉足らずだったか」
 そう言って身なりを正し、表情を引き締めながら口を開いた。
「私は、ウィルに住まう貴族に遣える騎士だ。数日前、任の為にここから徒歩にして一日の場所にある村へと視察に行っていたのだが‥‥着いた時から、妙な気配を感じてな。その正体は直ぐに分かった。3匹程のゴブリンが、村の至る所に隠れていたのだ。だが、奴らは襲って来るでもなく、暫くしたらいつの間にか姿を消して居てな。その時には、特に気にしていなかったのだが‥‥。ところが、今朝方私がウィルへと引き返そうとした矢先、奴らが襲撃して来たのだ。それも‥‥信じられない様な大群を引き連れてな」
「大群? それはどれ程の‥‥?」
「さあ‥‥数える暇も無い程だ。それでも5〜6匹は切り倒したのだが、気付けばあっと言う間に、村はほぼ壊滅状態に陥っていてな‥‥私自身、命辛々引き返して来たと言う訳だ」
 悔しげに唇を噛み締める騎士。自分と言うものがありながら、村を護れなかった事に責任を感じているのだろう。それも、よりにもよってゴブリンにしてやられたのだから‥‥悔しさも一入なのは、察するに容易い。
「しかし、妙ですね。それ程の数のゴブリンが結託し、一貫して行動を起こしてくる事など、まず無い筈なのですが‥‥」
「何でも良い! このままでは、また何時他の村が奴らの餌食になるか、分かったものではない! 頼む、奴らを殲滅してくれ!!」
 カウンターに額を着け、声を張り上げる騎士。すると、受付係はゆっくりと顔を上げ。
「‥‥そうですね。何にしても、放っては置けません。ところで、少々お願いしたい事があるのですが‥‥」




 夜闇の中に蠢く大勢の影。それは‥‥頭数を数えるのも気鬱になる程のゴブリンの大群。
 中には鎧を着込んだ者も混じっているその軍勢に――更に、加えて幾らかのゴブリン達が合流してくる。
「‥‥戻って来た様だ」
「ああ。よし、これで全員か」
 崖上で焚き火に当たりながら、その様子を見下ろすのは二人の男。その内一人が立ち上がり、ゆっくりと崖際に歩み出ると――。

「良いか、ゴブリン共!! 次の標的は、ウィルの東側にある二つの村だ!! 今まで一番規模のでかい作戦となるが、抜かるんじゃねえぞ!!」
 ――オオオォォォォ!!

 声に応える様に響く、ゴブリン達の雄叫び。もっとも、彼らはどこまで言葉を理解しているものか、怪しいものだが。
「まあ、あいつらは一旦力で捻じ伏せちまえば、奴隷の様に従順になるからな。‥‥よし、それじゃあ俺は次の段階の準備に入る。こっちは任せたぜ」
「‥‥御意。『実際に動く姿』を、この眼に焼き付けて参ろう‥‥」

●今回の参加者

 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4639 賽 九龍(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4713 ソーク・ソーキングス(37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4538 赤川 コガネ(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)/ 江 月麗(eb6905

●リプレイ本文

●迎撃準備
「また、綺麗に染まるといいなぁ‥‥」
 自身の乗る事になっているバガンを見上げながら、語り掛ける様に呟く賽九龍(eb4639)。その何となく近寄り難い雰囲気(&その脇を陣取る二頭の熊)に怯えた村人達は、彼に近付けず遠くから見守るばかり。
「安心してくれ。いざ攻め込んできた時には、ちゃんと護って見せるから」
 そんな彼らの避難誘導をするのはレオン・バーナード(ea8029)。
 やがて大部分の村人の避難を終えた所で。
「えーっと、ところでこういうのなんて言うんだっけ?」
 ふと思い出した様に、腕を組んで考え込むレオン。と思うと、すぐにポンと手を打ち。
「‥‥あぁ、あれだ。戦いは数だよ、あ(本人により規制)」

 一方その頃、乗組員達と共に近くの森付近に降ろしたフロートシップやバガン等に偽装を施し、目立たない様にして居るのはフレッド・イースタン(eb4181)。
 黙々と作業を進めていると、そこにソーク・ソーキングス(eb4713)がおずおずと近寄って来た。
「あの、その‥‥」
「? どうかなさいましたか、ソークさん?」
 フレッドが尋ねると、ソークは少し躊躇った末。
「‥‥あの‥‥あ、やはりいいです‥‥」
 ボソボソと言い残し、その場を去ってしまった。どうやら彼は、技術のある者によるフロートシップの操縦を見せて貰いたかったらしいのだが‥‥いつゴブリンの軍勢が攻めて来るか分からない状況下なので、遠慮した様だ。
 そうとも知らず、フレッドは首を傾げてソークの背を見据えていた。



「しふしふ〜! 俺達が来たからにはもう大丈夫だぞ」
 一方、もう片方の襲撃候補の村でフロートシップに群がって来た村人達に挨拶をするのは飛天龍(eb0010)。
「事態を鑑みるに、騎士団の出動を要請するべき問題な気もしますが‥‥しかし緊急に動けるのが私達だけならば、是非もありませんね」
 呟きながら、空戦騎士団副長等の肩書きを持つエリーシャ・メロウ(eb4333)が、船から降りたバガンの制御胞の中から現われる。
「では、住民の皆様は準備を整え次第、女性や子供優先でこのフロートシップに乗り込んで頂けますか? こちらの方が安全ですので」
 そう言って、村人をフロートシップに避難させるエリーシャ。
 キース・ファラン(eb4324)の手伝いを得ながら、着々と準備を進める中――そこに現れるのは赤川コガネ(ec4538)。
 彼は村の至る所にブービートラップを仕掛けつつ、依頼期間中の食料を確保しようとしていたのだが‥‥。
「冬の森って、思った以上に獲物が少ないんだな‥‥」
 残念そうに言う彼の手には、漸く捕まえた獣が一匹。だが、それではとても足りそうに無い。
 そんな彼の様子を見兼ねた村人達は、村を護ってくれる御礼にと食料と寝床を提供してくれた。
 今回は何とかなったものの、冒険者たるもの今後はしっかりと準備を整えなければなるまい。



●ゴブリン無双!
「‥‥はは、はははははっ!!」
 ゴブリンの接近を確認し、グライダーに乗るや否や突然に高笑いを上げるのはソーク。
「この『雷鳴の操者』にお任せを! ヤツラを串刺しにしてやりましょう!!」
 普段はおどおどしているのに、今の彼は打って変わって躁状態。その余りの豹変振りに仲間達は苦笑を浮かべつつ、来るゴブリンの軍勢を見据える。
「数は‥‥少なく見ても60匹と言った所ですか。いくらゴブリンとは言え、囲まれれば危険ですね。ここは慎重に――」

 メキメキメキッ――!!

 フレッドの言葉を遮る様に、偽装を破りゴブリンの大軍に突っ込んで行くのは九龍のバガン。
「なっ!? 早い、早いよ九龍さん!!」
 レオンが慌てて引き止める‥‥とは言え、ゴブリンも突然に現われた4mの巨体に怯んでいるので、好機といえば好機。
 九龍に続く様に、フレッドのバガンとレオンも軍勢に向かって飛び出して行った。
「死ね、死ね、死ねぇぇー!!」
 ゴーレム剣を振り回しながら、力任せにゴブリンを薙ぎ倒していく九龍。見る間にゴブリン達は次々と瀕死の怪我を負って行き、逃げる間も無くバガンに踏み付けられるやら蹴り飛ばされるやら‥‥。
 もはや狂戦士さながらの戦い振りをする彼の後に続くフレッドは、ゴーレム短剣で取りこぼしの敵を一体ずつ仕留めて行く。
「‥‥ん? あれは、ゴブリン戦士!」
 鎧を着込んだその姿を見るや、短剣を投擲するバガン。突然の事にゴブリン戦士はとまどうがまま装備を破壊され、続く斬撃により呆気なく地に伏してしまう。
 ゴブリン戦士と言う小隊長格を失った軍勢は、逃げ場を求める様に右往左往し――ふと、その視線がレオンに集まった。
 ゴーレムに乗っていない彼ならば、何とかなるとでも思ったのだろう。ゴブリン達は一斉にレオンへ向かって行き――。

「ギャアァァッ!!」

 断末魔と共に、一刀両断された骸が地面に転がる。
「さぁさぁ、斬られたいならかかってこいよ!!」
 眼力で威圧をするレオンに敵わないとみたゴブリン達は、今度は蜘蛛の子を散らす様に逃げ回り始めた。
「卑しきものどもよ、この雷鳴の槍を受けなさい!!」
 そんなゴブリン達を低空飛行による攻撃で各個撃破していくのはソーク。
 こちらの村には以後増援の姿も無く、一先ずは防衛成功の様相を漂わせていた。



 その頃、もう片方の村では30匹程のゴブリンの大群を相手にしていた
「大丈夫か、コガネさん?」
 グライダーを駆り戦場を飛び回りながら、副座で具合を悪そうにしながらもミストフィールドを展開するコガネに声を掛けるキース。
 どうやら、彼は防寒具も用意していなかったので、体調を崩してしまった様だ。
「ああ、大丈夫だ‥‥」
「そうか? だが、無理は良くないからな。どうしても拙くなったら言ってくれよっ!!」
 そんなコガネの為に気遣い操縦をしつつ、霧の立ち込める中に砲丸を撃ち込むキース。それほど命中精度は高くないものの、死角からの攻撃と言う事もあり確実にゴブリン達の数を減らして行く。
「ここから先へは一歩も通しません!!」
 気迫の篭もった声と共に、ハルバードを手にしたバガンを駆るのはエリーシャ。彼女はゴブリンを薙ぎ払いつつ、その巨体とリーチの長さを生かして全体的な戦線を押し上げるような形で前進する。戦術に心得のある者だからこそ出来る所業である。
 そして――。
「はっ! せいっ! たあっ!!」
 グリフォンのセラと共に、軍勢の中を縦横無尽に動き回り、一撃の下にゴブリン達を捻じ伏せていくのは天龍。
 シフールと言う一般的に見て非力と思われがちな種族でありながらその凄まじいまでの戦い振りは、後に『二つと無き龍が如し』と謳われる様になるとかならないとか。

「‥‥成程。これは驚いた‥‥」
 ゴブリン達の屍山血河を前に、ふらりと現われるのは黒いマントを羽織ったブロンドの男。
 その一般人とは明らかに違う雰囲気から、一同はすぐさま察した。
 この男こそが、ゴブリンを掻き集め大軍勢を作った黒幕であると――。



●L.D.
「な‥‥何者だ貴様!!」
 グライダーから降りるや、声高に男に尋ねるコガネ。すると、男は。
「‥‥L.D.とでも呼んで貰おうか」
 そう言って、マントの中に右手を差し入れ――そのまま一気に、エリーシャの乗るバガンへ向けて飛び込んで来た。
「なっ‥‥!?」
 ――ガキィン!!
 マントの中から抜き放たれると同時に襲ってきた斬撃に反応しきれず、バガンの胴体部分への攻撃を許してしまうエリーシャ。だが、幸いにもゴーレムの動作に大した支障を及ぼす程のダメージにはならなかった。
「くっ‥‥! このぉっ!!」
 反撃とばかりに、ハルバードを横に薙ぐバガン。だが、男は攻撃を後宙で避けると、そのまま距離を取る。
「成程‥‥そのゴーレムではそこまでが限界の様だな」
 バガンを見据えながら呟くL.D.。如何に乗り手が猛者であろうとも、バガンではやはり発揮できる能力に限界があるのだ。
「そこだっ!!」
 観察する様な素振りを見せるL.D.の顎元を狙い、唐突に飛び込み龍爪を振り上げるのは天龍。その渾身の攻撃をL.D.は寸での所で背を仰け反り回避したかと思うと、突然に伸びた腕が近くの木の枝を掴む。
「‥‥ふっ、今回は我々の負けだ。だがそう決着を焦らずとも、いずれまた相まみえる事になろう‥‥」
 そう言い残すと、腕の伸縮を繰り返しながら枝を伝い、森の奥へと姿を消して行くL.D.。
 その後を誰も追う事は出来ず‥‥一同は、悔しげに唇を噛むのであった。



●陰謀の影
「そうですか、逃がしてしまったのですね‥‥」
 エリーシャ達の防衛した村に赴き合流したフレッド達。その一部始終を聞くや、残念そうに肩を落とす。
「それにしても、L.D.か‥‥。特徴を聞いた限りだと、そいつはいつだかの嘘つき三人組の一人だな。あいつらが絡んでるとなると‥‥」
 渋い顔をして言うレオン。と言うのも、以前に彼らに関わった時には最終的に出し抜かれてしまったと言う苦い経験がある故で‥‥。
「まあ、何にしてもゴブリンがこれだけの徒党を組むって時点で怪しいとは思ってたが‥‥取り合えず黒幕が居るって分かったんだし、何より無事村を護る事も出来たんだから、良しとしようぜ」
「ええ。ですが、この事はやはりギルドを通じ国王陛下に詳細に報告した方が良さそうです。今後ウィルの防衛体制が手薄になるような事があれば、また同じ事をして来ないとも限りませんし‥‥」
 キースとエリーシャの言葉に、一同は小さく頷いた。

「うぅっ‥‥!! ‥‥くくく、今回もまた、綺麗に染まったなぁ‥‥」
 蒼白した顔で、ゴブリンの血により赤黒く染まったバガンを見上げるのは九龍。そんな彼の只ならぬ様子に気付いていた仲間は――――この時には誰一人として居なかった。