深淵から響く歌声
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月18日〜02月25日
リプレイ公開日:2008年02月23日
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●オープニング
ウィルから歩いて2日程の場所にある、小さな村。
その中央には、如何にも物々しい様相の古代遺跡が佇んでいる。
だが、村には古くからの掟があり、それ故に中に踏み入ろうとする村人は居ない。
皆子供の頃から、中には恐ろしい魔物が居るとか、カオス界に繋がっていると言った御伽噺を両親に聞かされている為、それが当たり前になっているのだ。
だから、遺跡の中に一体何があるのか‥‥周辺に住んでいる村人達でさえも、その真実を知りはしなかった。
故に――この出来事は、長い事掟によって護られてきた遺跡の封印を破るきっかけとなるのである。
それは、雲一つ無い月夜の事。
既に寝静まった村の中を、何処からとも無く響く微かな旋律が包み込んだ。
それは陽気で聞いているだけでも元気が出る様な明るいものでなく、はたまた静かで荒んだ心を洗い流してくれる様な優しいものでもなく‥‥。
あえて表現するのであれば、地獄の底から死者達を呼び起こしてまで来そうな‥‥そんな、恐ろしげな旋律。
それが毎晩の様に村中に響き渡るものだから、村人達は堪ったものではない。
子供は泣き出す、大人も恐ろしくて眠れない、当然翌朝は誰も仕事が手に付かず‥‥。
その様な状態が、二週間も続いたある日。寝不足でやつれ切った村人の青年が、呼び付けられて村長の家を訪ねていた。
「ふぁ〜い‥‥なんでしょうか?」
思わず開口一番、大きな欠伸をしてしまう青年。
だが、村長はそれをとがめる事はしない‥‥気持ちは良く分かるから。
「ふむ。すまんの、忙しい所を呼び付けてしまって。実はの、お主にウィルの冒険者ギルドまで、遣いを頼もうと思ったのじゃ。‥‥例の遺跡の事でな」
村長の言葉に、眠い眼を見開く青年。
だがしかし、それでもまだ睡魔に対抗するには至らず‥‥一つ欠伸をすると、スローテンポで村長に尋ねた。
「ふぁ〜あ。いえ、失礼‥‥。と仰いますと、あの遺跡に余所者を踏み込ませるのですか?」
「‥‥ああ、仕方ないじゃろう。明らかにあの旋律は、遺跡の中から響いて来ておるのじゃから。お主とて、これ以上寝不足に苛まれて、仕事を滞らせる訳にもいかんじゃろ?」
「それは、そうですけど‥‥」
それでも納得がいかないと言った風に、言葉を濁らせる青年。だが、確かに今のまま放置してはいられないと言うのも事実。
「それに、依頼料はどうするのですか? 冒険者を雇うには、それなりの先立つものが必要と聞きますし‥‥ふぁ〜‥‥」
またも湧き出た欠伸に、言葉を遮られる青年。
すると村長は部屋の片隅の戸棚を漁り、そこから幾許かの金貨を取り出した。
「これで何とかしてもらうしかあるまい。だが、これだけではギルドも冒険者も、納得してくれはせんじゃろう。だから、遺跡を探索する内でもし宝などを見付けて参ったら、それは出来る限り冒険者達に譲ろうかと考えておる」
村長の言葉に、仰天して飛び上がる青年。今度こそ、睡魔も完全に吹っ飛んだらしい。
だが、何か言おうとした青年を、村長は手を突き出して制した。
「分かっておる‥‥あの遺跡は我ら村の民の祖先が、末代までの守護を祈った不可侵の聖域。そこへ余所の者を踏み入れさせるばかりか、中の物を与えてしまうなど、如何に罰当たりな事か‥‥」
そこで一度言葉を切り、大きく息継ぎをする村長。
「だがの、その遺跡に祭られた何かが、それに縛られる我らの身を害そうとしているのであれば‥‥抵抗するのは、生き物としての道理じゃ。しかし、不運な事にも我らには、その力が無い。じゃからの、我らに代わって遺跡の正体を明かし、我らを苛むものを退けてくれると言う者には、最大限の礼を尽くしたいのじゃ‥‥分かってくれるな?」
村長の言葉に、物憂げに目を伏せる青年。その顔が次に上げられた時には、先程までの迷いはどこかに消えていた。
「‥‥はい、承知しました。村長が、その様にお考えなら‥‥。では、早速冒険者ギルドに行って参ります」
そう言って、村長の家を去る青年の背中に一言。
「あ、落馬には気を付けるんじゃよ?」
数刻後、案の定青年はウィルに向かう街道の最中で、居眠りをして馬から落ちてしまったらしく、ギルドに到着する頃にはかなり酷い格好をしていたそうな。
●リプレイ本文
●村に伝わる御伽噺
「古代の遺跡から聞こえてくる謎の旋律ですか‥‥中々興味深い出来事です。是非調べてみなければ」
落ち着き払った様子で、けれども内に熱意を滾らせながら言うのはアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)。
とは言え、何の情報も無しで臨むのは余りにも危険なので、冒険者達は問題の遺跡に入る前に下調べをしていた。
「掟ってなに? 不可侵の聖域というけど、放ったらかしにしているわけではないよね?」
村長宅にて話を聞いている内に、熱くなってそう捲くし立てるのはメリル・スカルラッティ(ec2869)。
彼女の言葉に頭を抱える村長を見兼ねたレイ・リアンドラ(eb4326)は。
「まあまあ、それくらいにしてあげて下さい。今回は掟と言う物がありながら、私達をお呼びになったのですから。むしろその勇気は賞賛に値しますよ」
微笑みながら言うと、手に持った書物に視線を戻す。
「‥‥しかし、参りましたね。これ程に難解な文字が羅列していると‥‥」
「でも、これだけ沢山冒険者が集まってれば、誰か一人くらいは読めるんじゃないかな?」
レイの後ろから覗き込む様にして言うメリル。
だがしかし‥‥残念な事に今回集まった面子の中には、この書物を読む事が出来る者は誰一人として居なかった。
「そうそう。遺跡の下調べをして参りましたが、見た限り地下を走る一本道が続くばかりで、特に迷いそうな構造ではありませんでしたよ」
情報整理の為集合した冒険者達、その中で報告をするのはエリーシャ・メロウ(eb4333)。そんな彼女の手に握られている円形の石盤は、村長から借り受けた遺跡の入口を開く鍵である。
「俺達が見た場所に限っては、だけどな」
エリーシャの横で羽ばたきながら言うのは飛天龍(eb0010)。彼の言葉に一同は首を傾げるも、その意味は実際に遺跡に入ってから知る事になる。
「村に伝わる御伽噺等に関しても、所によってそれぞれ脚色されていたりして、余り手掛かりになる様な情報はありませんでした」
考え込みながら言うのはルエラ・ファールヴァルト(eb4199)。とは言えどれも元は一つの伝承をベースに作られた物らしく、纏めてみるとある共通点が浮き出てきた。
「それが『月の子』が『精霊の瞳を望む』と言う綴りですか‥‥」
アハメス・パミ(ea3641)が腕を組みながら言う。彼女は事前に月精霊が関わっているのではないかと推測を立てていたので、それを事実へと近付ける証拠が出て来た事に少し嬉しげだ。
かくしてその夜、歌声が聞こえて来た事を合図に、冒険者達は遺跡の中へと踏み込んで行った。
●旋律を辿り
遺跡に入った冒険者達が最初に見たのは、広間に並ぶ五つの扉。
その内の正面にある一つは開け放たれており、残りの四つは閉ざされたままになっている。
「あの扉は俺とエリーシャが調べた時に開けたんだ。残りは押せども引けども開く気配が無かったな」
「恐らくは、入口の扉と同じく石盤か何かを嵌めれば開く構造になって居るのでしょう。その為の窪みも、それぞれ形は違えど全ての扉にありました」
仲間達に説明する天龍とエリーシャ。
とは言え、開かない扉の先は調べようが無い。もし旋律の原因が、そちらの方にあったら‥‥。
「大丈夫、どうやら演奏は開いた扉の先から聞こえて来ている様です」
楽士たる聴覚を生かし、旋律を聞き取ったケンイチ・ヤマモト(ea0760)は仲間達を促しながら、扉の先の通路へと足を進める。
彼に続く様にして、一同は暗がりの中を慎重に進んで行った。
「眼のある剣よ、頼りにしています。エドも周囲の警戒を頼みましたよ」
腰に差した剣に手を掛けつつ、足下で感覚を研ぎ澄ませているボルゾイのエドに目を遣りながら呟くエリーシャ。
その横では、メリルが探索の為の呪文を唱える。
「ブレスセンサーはダメだったけど‥‥ステインエアーワードは効果があったよ。身体の小さな銀色の精霊が羽ばたいて行ったんだって」
「銀色の‥‥と言う事は、月のエレメンタラーフェアリーでしょうか?」
「でしょ〜か?」
レイ(と彼に続く風のエレメンタラーフェアリーのパール)の言葉に、頷く一同。
「恐らくそうでしょう。月の精霊は音楽と縁が深いですし」
ケンイチが自らの知識を駆使し、説明をする。
「それにしても‥‥何故こんな恐ろしげな演奏をして居るのでしょうか?」
手持ちのスクロールに遺跡の内部構造を書き込みながら、ルエラが呟く。彼女は事前にオーディオレコーダーで歌声を録音し、時間を変えて聴き直してみたりもしたのだが‥‥やはり聴こえたのは今響いているものと同じ、なんとも不気味な演奏だった。
「もしかして‥‥演奏をしている者に何か障害が起こっているために恐ろしげなものとなっているということでしょうか?」
「それか、本来美しい旋律だった筈が、長期間調律しない楽器がそうなる様に、音階が変わって恐ろしげな旋律に聞こえるのでは?」
アハメスとアレクセイが予測を述べるも、流石にそこまでは実際に原因を調べてみなければ分からない。
「ですが私が聴いた感じだと、旋律自体を変えて暗く陰気な音楽にしていると言った感覚かも知れませんね」
ケンイチの言葉に、頷く一同。――と、罠の警戒をしていたアハメスとアレクセイが。
「それにしても、罠が全く見当たりませんね」
「そうですね。あ、足下に気を付けて下さい。何か転がって‥‥っ!?」
言葉を詰まらせたと同時に、カタカタと乾いた音を立てる『何か』。
それは、通路に無造作に転がっていた人骨‥‥本来動く筈の無いそれが、今まさに彼らの目の前でゆっくりと立ち上がろうとして居た。
●轟く人骨
「カオスの魔物‥‥以前に『棄てられた魔窟』を調査した時にも出くわしましたね」
動き出した人骨を見据えながら呟くレイ。その時には他の魔物も出て来たのだが、今回は自分達の前後を挟む二体の人骨のみの様だ。
「だが、油断は出来ないぞ。こいつらは事のほかタフだからな。一気に仕留めなければ――っ!!」
言い終わるが早いか、前方に立ち塞がる人骨に向けて飛び出す天龍。彼は一気に相手に迫ると。
――ガラガラガラッ!!
たったニ発の拳で、人骨を粉砕してしまった。
「さ、流石は無双翼竜‥‥。私達も負けては居られませんね」
エリーシャの言葉と共に、残った敵に向かって行く一同。だが、最初に現れた二体を倒した後も、人骨は次々に沸いて出る。
ケンイチとメリルが魔法で敵を薙ぎつつ、二人を護るような形で立ち回るのはアハメスにアレクセイにレイ。
隊列の前では天龍、後ろではルエラとエリーシャが人骨を退け――やがて喧騒が収まる頃には、彼らの周囲に人骨の残骸が散在していた。
●精霊
「何だろ、これ?」
砕けた人骨の中に変わった形の物体を見付け、拾い上げるメリル。平べったく楕円形のそれは、何となく遺跡の入口の扉を開く円盤に似ていて。
「ひょっとすると、何処かの扉を開く鍵なのかも知れませんね。後で村長に渡しておきましょう」
エリーシャの言葉に頷くと、メリルは石盤をバックパックに詰めた。
そのまま一同が足を進めると‥‥やがて、一際大きな石扉が冒険者達の前に現われた。
「‥‥どうやら、演奏はこの先から聞こえて来て居る様です」
耳を澄ませて一つ頷くと、皆に目を向け言うケンイチ。すると、アハメスは腕を組み。
「困りましたね‥‥扉が開かない事には、旋律の原因に辿り着く事が出来ません」
「あ、さっきのこれ使えないかな?」
言いながらメリルは先程の円盤を取り出し、扉の中央にある窪みに宛がってみた。
しかし、扉の窪みの形はもっと複雑で、どう考えても楕円形の石盤は嵌りそうも無い。
――そこに。
「アルテ、お客様?」
突然掛けられた声に振り向くと、銀色の髪を持つエレメンタラーフェアリーが羽ばたきながら冒険者達を見詰めていた。
「お客様! お客様!」
「アルテ、喜ぶ!!」
途端に、歌う様に口ずさみながら四方八方から現われるエレメンタラーフェアリー達。
「‥‥『アルテ』? その方が、この曲を演奏しているのですか?」
ルエラが問うと、エレメンタラーフェアリー達は一斉に彼らの前に集まり。
「そだよー!」
「アルテ、教えてる! 大変な事!」
「泣いてる! 恐れてる!」
「瞳、探す人呼んでる!」
‥‥多数の口が一斉に違う事を言うものだから、冒険者達は何が何だか分からなくなってきた。
ともあれ、彼等はこの旋律の根源たる『アルテ』と接触する事が出来る様子だ。
「ところで、お願いしたい事があるのですが‥‥」
そう切り出し、レイは彼等に伝えた。
毎晩続く演奏の為、村の住人達が苦しんでいる事を。
そして、出来る事ならば演奏する時間を調整して欲しい、と。
すると――。
「‥‥あれ? 演奏が‥‥止んだ?」
天龍が驚きの表情を浮かべ、閉ざされた扉を見据える。
まるでレイの要求に応じるかの様に、突然に鳴り止んだ旋律。
冒険者達が困惑する中、そんな彼等の周りをエレメンタラーフェアリー達は舞い飛びながら。
「アルテ、安心した!」
「伝わってた! もう大丈夫!」
「瞳探す! アルテ手伝う! また来て!」
口々に何かを言い残すと、そのまま何処かへ消えてしまった。
「‥‥何だったのでしょう?」
演奏も止み騒々しい精霊達も居なくなり、一気に静かになった通路に呆然と佇む冒険者達。その中のエリーシャが、まるで狐に摘まれたかのような顔をしながら呟く。
そして、楽器演奏の心得のあるルエラとケンイチの手元には、いつの間にか小さな竪琴が握らされているのだった。
その後、手書きの地図と見付けた円盤を村長に預け、ウィルへと帰って行った冒険者達。
それからと言う物、村に恐ろしい旋律が流れる事は無くなり‥‥代わりに、時々聞く者の心を穏やかにする子守唄の様な優しい音色が聞こえて来る様になったと言う。