その笑顔は誰が為 〜珍獣軍団〜
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月25日〜03月01日
リプレイ公開日:2008年03月01日
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●オープニング
賑やかだった新年の雰囲気もすっかり明け、通常営業を続ける喫茶店『ミスティ・フォルトレス』。
春先に向けて段々と忙しくなりつつある中、この店のオーナーである貴族ウルティムの元から臨時の手伝いとして、彼のメイドを務めるパラのミルク(毒入り)が遣わされたのが今から二週間程前の事。
‥‥だが、それからと言うもの。
「ミルクた〜ん! こっち向いて〜!」
「ミルクたん。ウルティム卿の所ではなく、我が屋敷のメイドになっては頂けませんか?」
「ミルクたんの胸の谷間で教育されてみたい〜!」
‥‥‥‥と言った感じの所謂『量産型珍獣軍団(仮名)』が大繁殖してしまったのだ。
どうも、見た目が幼いにも関わらずグラマーな体型や、のほほんとしているのに毒舌だったり危険な香りを漂わせてたりと言った妙に倒錯的な彼女の雰囲気が、彼らの心の奥底にヒットしてしまったらしく。
「‥‥‥‥」
毎日の様に開店直後から閉店直前まで居座る彼等を見つつ、無言で頭を抱えるのは店長のウェリス・フォルトナム。
別に以前殴られた時の痛みがぶり返している訳ではない。彼がいくら意識改革を行い寛容になっていたとしても、この店の現状を直視する事が出来ずにいるのだ。
「と言う訳で、もう鬱陶しくてしょうがないんですよ〜。何とかしてくれませんか〜?」
カウンター越しにギルドの受付係に言うミルク(毒入り)。だが、やはり言葉とは裏腹にその表情はあくまで大人しいもので、どうにも困っていると言う感じがしないと言うか‥‥。
「それに〜、ウェリスさんもこのままじゃ新しいお茶の研究が出来ない〜って言ってましたし〜。このままだとノイローゼになって倒れちゃうかも〜?」
「それは困りますね‥‥。とは言え、彼らもお客さんですし、どの程度で何とかすれば良いのやら‥‥」
「そんなの決まってるじゃないですか〜。必ず殺すと書いて『必殺』と読むくらいですよ〜」
‥‥にこやかに言ってのけるものの、その表情に冗談や躊躇と言った物は一切感じられず。
「わ、分かりました。では、その方向で依頼を承りましょう‥‥」
何やら嫌な汗を滲ませながら、受付係は羊皮紙にペンを走らせていった。
やがて、手続きを済ませたミルク(毒入り)がギルドを立ち去った所で。
「‥‥そう言えば、ミルクさんと言いツンさん‥‥いや、改めレモンさんと言い、何故本名を名乗らないのでしょうね?」
実は、これは彼にとっても前々から気になっていた所らしく。
「まあ、彼女達のプライベートにも関わる事ですし‥‥取り合えず、置いておきましょうか」
と言うよりも、本当の所は無闇に首を突っ込んだら危なそうな予感がしたからだったりするのだが‥‥。
●リプレイ本文
●嵐の前の冒険者
「初めまして、倉城です。今回は宜しくお願いしますね」
微笑みながら頭を下げるのは倉城響(ea1466)。
その雰囲気は何処と無く依頼人のミルク(毒入り)と似ているものがあるが‥‥片や見た目幼いパラで、片や人間の成人女性。
実はこの二人が同い年だと言われた所で、誰もすぐには信じられないだろう。
そんな響の後ろから、アシュレー・ウォルサム(ea0244)がすっと現われる。
「やあ、こんにちは。こないだの新年会はどうもありがとう。おかげで大成功できたよ。まあ、今回はそのお礼もかねて店の問題の方は何とかするからさ、大船に乗った気でいてよ」
そう言う彼の手には鳥篭。初日には中に入っている二羽のヒヨコを棲家に置いて行く時間が取れなかったので、止む無くこうして連れて来ているのだ。
「今回も宜しくお願いしますね。ただあんまり穏やかではないようですが‥‥」
苦笑いを浮かべながら言うのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。その横に立つメイベル・ロージィ(ec2078)も顔を伏せながら口を開く。
「このままでは、他のお客さまにもウェリスさんにも、店員さんにも迷惑がかかってしまいますの」
「ええ。何より可憐な女性に迷惑をかけるとは許せないことです‥‥なんとかしなければ」
ニルナ卿、女性だと言うのに実に発想が紳士的である。
その後ろから、申し訳無さそうにおずおずと出て来るのはソフィア・カーレンリース(ec4065)。と言うのも、彼女は以前の新年会の時に酔った勢いでウェリスを撃沈させた事を気にしているらしく‥‥買い込んだ薬草や干し果実等を差し出しながら。
「あの‥‥この間の事はごめんなさい。これ、良かったら使ってください」
「この間‥‥? 一体何の事ですかな?」
ところが、当のウェリスは全く記憶に無い様子。まあ、泥酔状態だったので当然と言えば当然である。
ソフィアが呆気に取られていると、その脇から妙な声が上がる。
「すっご〜いイケメンじゃないですか〜!」
声の主は‥‥ミルク(毒入り)。
同族の危機を救うべくと駆け付けたキース・ファラン(eb4324)を見るや、突然はしゃぎ出した彼女。
確かに銀髪碧眼で身長の割りに逞しく、童顔故に実年齢よりも幾分か若く見える彼の容姿は一般的に見ても美形の類に入るだろう。
「あ、ああ‥‥宜しくな」
ところが、案の定キースはそんな彼女の様子にたじろいでいたりする。
ともあれ冒険者達は問題の客の対応について相談しながら、間近に控えた開店に備えるのであった。
●奴等に制裁を
「いらっしゃいま」
「ミっルクた〜ん! 今日も会いに来‥‥」
――バタム。
「やり直しを要求します‥‥」
一度開きかけた店の扉を閉めるのはメイド姿のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)。
「どうかしましたの、ルエラさん?」
「‥‥うん。なんかおぞましいものが見えた気がしますけど、やっぱり気のせいですよ。だって記憶に残ってないもん。全くないもん」
何やら上の空で呟くルエラに、尋ねたメイベルは首を傾げる。
――が、無情にも彼女の押さえていた扉は数の暴力により開け放たれる事となり‥‥。
「まあ、一度は店に入れない事には仕方ないしね」
扉に跳ね飛ばされるまま床に伏してシクシクシクと泣声を上げるルエラ。その横を通りすがった銀髪で背の高いメイドさんが、囁く様に言って行く。
それは、開店前に冒険者達が店の制服に着替えている時の事。
「倉城さんもメイド服姿、似合っていますよ♪」
「そうですか? ‥‥思えば、スカートを身につけるのは初めてでした私♪」
と言った感じで、女性陣が盛り上がっている最中。
「そう言えば、アシュレーさんの姿を見かけないな?」
「え? 俺ならここに居るけど?」
キースの言葉に応えたのは‥‥なんと、メイド服に身を包んだアシュレーだった。
それも、持ち前の理美容技術で完璧に身嗜みを整えており、誰がどう見ても多少骨太な美女メイドさんだ。
「‥‥まさか本当にあの格好で店に出るとは‥‥」
優雅に店の中を巡るメイドアシュレーの姿を遠目に見ながら、しみじみと呟くキース。
ともあれ、その傍らで席に着く珍獣軍団は、来たばかりだと言うのにそうそうたる壊れっぷりを見せ付けていた。
「さあミルクたん! 今日こそはその豊満な胸の谷間に(以下略)」
「お待ちを。まずはじっくりと目で愉しんでから(以下略)」
頼むから、朝っぱらから危険発言を連発しないで下さい。(汗)
そんな珍獣の群れに、勇敢にも歩み寄っていくのは健気な天使たるメイベル。
「あの、これはメンバーズカードですの。次回ご来店の際から持ってきて‥‥」
「なっ!? メイベルたんキターー!!」
「何と言うラッキーデー! まさか幻とまで言われたエンジェルメイドのメイベルたんにまで会う事が出来るとはっ!!」
聞いちゃいねぇ。
しかもその後メイベルだけでなく、ニルナやルエラ、そしてソフィアを見付けると更に舞い上がる珍獣軍団。
まあ、彼女達は冒険者の仕事上で時々手伝いに来ているだけなので‥‥幻と謳われる様になったのは、それ故なのかも知れない。
「しかし、時間制限のシステムを導入しようにも、奴等があんな状態で説明を聞いてもくれないんじゃぁ仕方ないな」
メンバーズカードは、その上で彼等の入店記録などを分かり易くする為の物だったらしい。
‥‥とは言え、一度居座ってしまった客を追い返すのは、余り良い事ではないだろう。
執事姿のキースが、がっくりと肩を落としていると、ニルナがその横をすっと横切り。
「お客‥‥ご主人様、このようなお品はいかがでしょうか? きっと気に入ると思うのですが‥‥駄目ですか?」
そう言って差し出された物は、牛肉を煮込んだシチューと小麦を使って焼かれたパン。喫茶店にはそぐわない様な高級品である。そう、あえて高級品を振舞う事で金銭的に締め上げ、珍獣軍団の来店頻度を減らす作戦なのだ。
そうとも知らず、珍獣軍団は。
「勿論! ニルナ嬢のお勧めならどんな物だってご馳走ですとも!!」
そんな調子で、全く疑う事無く平らげてしまった。
「ご主人様に喜んで頂けて光栄ですわ‥‥ふふふ‥‥」
トレイを胸元で抱えながら、クスクスと笑みを漏らすニルナ。
そして、もう一方ではルエラやキースがこっそりと珍獣軍団の素性を探っていた。
これにより身内の者達に彼等の今の姿を暴露する事で、自粛させようと言う作戦である。
その甲斐あって、依頼最終日になるとめっきり珍獣軍団の来店回数は減っていた。
――それでも。
「家族の目なんて関係無い! 金は溢す程あるっ!! さあ、いざその胸の(以下略)」
「‥‥旦那様〜? どうぞこちらへ〜♪」
懲りないのを店の奥の部屋に連れ込むのはウェイトレスエース・ソフィア。
その後から、他の残党を鞭で絡め取ったルエラとミルク(毒入り)も続く様に部屋の中へ――。
‥‥‥‥。
「俺、実は男ですから♪」
にっこり、と微笑んだメイドアシュレーに助け起こされる傷だらけの珍獣残党。
この台詞が彼等にとって一番堪えたとか何とか。
●ミスティブレンド
「御忙しい所、失礼します♪」
そう言って、香木の炊かれた厨房に入ってくるのは響。
対するウェリスは、奥の部屋から聞こえて来る「必殺! 電光乱舞!?」等と言った物音から必死に意識を背けながら、ハーブティーの研究を続けていた。
「私の故郷で飲んでいたものですが、よろしければ飲んでみてください♪」
そう言って差し出されたのは、以前ルエラの提供した唐物茶釜によって淹れられた緑茶。
それをウェリスは一口啜り。
「これは‥‥渋みが強いのにまろやかで、凄く飲み易いのですな!」
舌鼓を打ちながらの言葉に、にっこりと微笑む響。
この後、ウェリスは彼女に茶の淹れ方の教えを乞おうとしたのだが‥‥やはり緑茶は紅茶と同じく茶葉を入手するのが困難な代物の為、断念せざるを得なかった。
ともあれ、初めて味わう茶の味はウェリスにインスピレーションを授けたらしく――。
「新作のお茶が完成したのですな! 皆さん、どうか味見をお願いしたいのですな!」
閉店後、集まった冒険者達の前に振舞われるハーブティー。
それを一口啜るや。
「!! これは‥‥砂糖も蜂蜜も入っていませんね?」
驚きの声を上げるのはルエラ。
本来ハーブティーとは、言わば薬草湯。故にストレートでは余り美味しくは無いので、高価な砂糖や蜂蜜を入れるのが一般的だ。
「けど、このお茶には飲み難さが全くないね」
「これは、えっと‥‥林檎の香りでしょうか? それがえぐさを絶妙に打ち消して居るんですね」
アシュレーに響が味の分析をする中――他の面々はと言うと、一心不乱に茶菓子を摘みながらお茶を堪能していた。
「ふう、こんなに美味いお茶をご馳走して貰えるなんて。頑張った甲斐があったな」
「ええ。お土産に頂きたいくらいです♪」
嬉々と言うキースとニルナ。そんな彼等の希望に応え、今回のお礼も兼ねてと一同に新作ハーブティーの茶葉が手渡された。
かくして、ウェリスに見送られながら冒険者ギルドへと向かう冒険者達。
「ありがとうございました。また今度、飲みに来ますね〜」
元気に手を振りながら言うのはソフィア。彼女につられる様に、他の面々も手を振りながら。
「そう言えばこの間の新年会のお礼で、ウルティムさんの一日メイドになろうかと思っているんですけど‥‥」
自前のラビットバンドをちょこんと頭に乗せて言うのはメイベル。‥‥ここ五日間ずっと珍獣漬けだったと言うのに、大した娘である。
ところが、そんな彼女にミルクは少し困った様な表情を浮かべ。
「あ〜‥‥今は屋敷に近付かない方が良いと思いますよ〜?」
意味深な言葉を残し、そのまま去ってしまった。
思えばこの時の彼女の言葉は、後日に起こる何とも珍妙な事件に関わるものとなるのだが――それはまた、別の話。