空に舞う騎士
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月27日〜03月03日
リプレイ公開日:2008年03月04日
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●オープニング
着々とゴーレムの軍備普及が進みつつあるウィルの近況。
だが逆に言えば、それだけ多くの操縦技術を持つ者達に、この強大な力を扱う機会が与えられる可能性が出て来たと言う事だ。
故に、今後更なる発展を見せるであろうゴーレムの時代に備え、それを扱う者達の練度を高める事が急務となりつつある。
「そう言う訳で、空戦騎士団所属のフロートシップでショア沖に出て、海上演習を執り行おうと思っております。その参加人員を募集させて頂きたいのです」
カウンター越しに冒険者ギルドの受付係に言うのは、冒険者でありながら空戦騎士団の騎士団長と言う肩書きを持つシャルロット・プラン(eb4219)。
「演習の演目に関しては、フロートシップの操舵やドラグーンの使用など含め、参加者の意向を出来るだけ反映させるつもりです。あくまで権限の範囲ですが」
そう言って微笑むシャルロット‥‥だが、要するに冒険者のゴーレム乗り達に普段扱わない特殊なゴーレム機器や武器運用の経験を積ませようとしている訳で。
何とはなしに、苦笑を浮かべる受付係。
「あと、効率の良いギルドのゴーレム活用や緊急出動のアイデアがあるようなら、発案してみて‥‥と書き加えて置いて下さい」
そこで言葉を切ると、シャルロットは僅かに微笑を浮かべ。
「割と仕事がギルドに回ってくるかもしれませんからね♪」
そんなやり取りがギルド内であってから数日。ダメモトで頼んでいたドラグーン等の使用‥‥その許可を知らせる書類が、冒険者ギルドに届いた。
それを見るや驚きを隠せない受付係であったが。
「それだけ、国が空戦騎士団の存在を重要視していると言う事でしょうね」
一言呟くと、依頼書をしたため始める。
――そこに。
「わー、ドラグーンが出てくるの?」
ふと掛けられた声に顔を上げると、そこにはつい先日盗賊から保護された少女アンの姿があった。
「アンも見てみたいなぁ♪」
目を輝かせながら言うアン。それに対して、受付係は何とはなしに首を傾げる。
見た所、アンの年齢は15歳程度。そんな年頃の鎧騎士でも無い少女が、ゴーレムに興味を示すものだろうか?
だが、思い当たる所はあると言えばある。彼女は現在、鎧騎士姉妹のアステルとアレミラの所属する騎士団の元で生活しているのだ。もしかすれば彼女達に話を聞いて、アンも鎧騎士を目指す様になったのかも知れない。
「そうですね、では空戦騎士団長のシャルロットさんの許可が貰えれば、参加出来る様にお話を通しておきます」
受付係が言うと、アンは満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。
●リプレイ本文
●空飛ぶ船で
「出発から帰還までが訓練です。皆、気を引き締めて下さいね」
そんなシャルロット・プラン(eb4219)の言葉に応える様に声を上げるのは、フロートシップに乗り込んだ冒険者達。
彼女自身はその舵を取る鳳レオン(eb4286)の横に付き、操舵におけるアドバイスをしている。
レオンは海上を走るゴーレムシップならば何度か動かした事があるのだが、フロートシップに関しては未経験なので、こうして指導を請うている訳だ。
そんな二人の背後から、操舵の様子を遠慮がちに伺って居るのはソーク・ソーキングス(eb4713)。
その頬は僅かに赤く。
「そ、その、ちょっと、見てみたかったんですよね。楽しみだな〜‥‥」
そんな発進前の彼の言葉を思い出しながら、少し苦笑いを浮かべるシャルロット。
「確かに、砲撃はともかくフロートシップ自身を動かす機会はなかなかないか‥‥」
冒険者ギルドの依頼でフロートシップを利用する機会はあっても、ギルドの所有艦が無い現状では大抵の場合それを動かす人員が付いてくる。
故に、こうして冒険者が自らフロートシップを動かす事の出来る機会は多く無く、それが今回の演習に参加した一部の者達にとっての動機でもあったりする。
「‥‥すまない、少し用事を思い出したので、操舵をソークに代わって貰っても良いか?」
「え、ええっ? あ、あの、私ですか?」
殆ど押し付ける様な形で舵を渡すと、直後に聞こえて来た高笑いに背を向けながら船内へと足を進めて行くレオン。
シャルロットは、その背中を黙って見送って居た。
●不信感
話は戻って、出発前の事。
「‥‥判りました。搭乗条件として冒険者登録を行うか、所属騎士団からの紹介状をとってくること、これが最低条件。何より、もし何かあれば多くの方に迷惑がかかることを理解した上で判断して下さい」
今回の演習への見学を申し出て来たアン。彼女の面接を承っていたシャルロットは、その動機を伺うと仕方なさげに言った。
「まあ、未来の鎧騎士殿の熱意を無碍にするのも良くねーもんな」
一部始終を聞き、腕を組みながら言うのはオラース・カノーヴァ(ea3486)。
自分もつい最近叙勲を受けたばかりなので、何とはなしに鎧騎士になりたいと言うアンに対して親近感を感じて居たりする。
だが、その隣に居るレイ・リアンドラ(eb4326)とレオンは難しい顔をしながら。
「しかし、やはり興味本位の部外者を同行させる事には懸念を感じざるを得ません。団長の判断ですから、目を瞑っておきますが‥‥」
空戦騎士団の副長として、レイは国際問題や機密保持と言った事までを鑑みた上で意見を述べている。
だが、アンを助けた冒険者の一人であるレオンは、彼とは違う不安を感じていた。
「助けた俺が言うのもなんだが、彼女だけ無事だった経緯が不明だからな‥‥」
「それはつまり、アンさんがスパイだと‥‥?」
リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)の言葉に、小さく頷くレオン。
「確証は無いがな。実は盗賊やらに脅迫されてか何かで、ゴーレムについての情報を集めているという事も考えられなくは無い」
彼の言う事ももっともと言う事で、シャルロットを通じて彼女の保護をしている騎士団に連絡した所、そのお目付け役として一人の鎧騎士が派遣される事になった。
(「アレミラが一緒なら大丈夫だとは思うが‥‥」)
そう自分に言い聞かせながらも、何処となく胸騒ぎを覚えたレオン。
故に彼は舵を代わって貰い、アンの様子を見に行こうとしているのだ。
すると、正面から歩いてきた人物‥‥それが誰かと知るや、彼は目を瞬かせた。
アレミラである。しかも、その傍にアンの姿は無い。
話を聞いてみると、少し目を放した隙に居なくなってしまったらしく‥‥二人は顔を見合わせ一つ頷くと、同時に駆け出した。
●演習開始
前日の準備により、正方形の升目状に区切られた訓練海域に到着したフロートシップ。
早速レイはグライダーの操縦席に座り、起動を始める。
「今回私は裏方担当と言う事で、上空から演習のサポートをしますね」
「私も演習の内容を記録致します。皆さん頑張って下さいね」
言いながらリュドミラは起動されたグライダーの副座に着き、レイと共に一気に上空へと舞って行った。
その様子を見送りながら、自分達もグライダーの起動を始めるのはオラースとレオン。そしてソークはと言うと――。
「あの、その、ぐ、グライダーは何度か乗っているんですけど、ドラグーンは初めてでして‥‥」
――ピキーン。(擬音)
「ふむ、これがドラグーンですか。やはり同じゴーレム故か、内部構造はバガン等と余り変わらない様ですね」
ウィングドラグーンの操縦胞に着くや否や、途端に目付きが変わる。そして入念なチャックを済ませ、竜の力を付したその巨体に精霊力を通わせると。
「さあ、行きますよ! 『雷鳴』の名に恥じない動きをお見せしましょう!」
力強い声と共に、空へと飛び立って行った。
「あの人、二重人格?」
その様子を見ながら、呟くのはアン。
違う、違います。彼はただ躁鬱の差が激しいだけなのです。とは言え、近いものが(以下略)。
「‥‥今度は目を離さないでくれよ」
「はい、分かってます‥‥」
縦横無尽に宙を舞うドラグーンを見上げるアンを見据えながら、呟くのはレオンとアレミラ。
ちなみに、先程彼女はグライダーやドラグーンを格納している場所の近辺でオラースに発見されていた。本人ははぐれてしまったアレミラを探していたと主張しているが‥‥。
「まあ、余り疑り深くなっても仕方ないけどな。兎に角、用心しておかないと‥‥」
言いながら、グライダーを発進させるレオン。彼に遅れて、起動を終えたオラースも空へと飛び立って行った。
「では、これより演習を始めます。まずは――」
フロートシップの舵を取りながら風信器を通じて指示を出すのはシャルロット。
まずは海上の目標物に向けての攻撃訓練と言う割と基本的な演目から始める。
これに関しては、レオンもソークも難なくこなせたのだが‥‥。
「くそっ‥‥! 中々勝手が掴めねぇな‥‥!」
オラースは、慣れない空中でのグライダーの操作に悪戦苦闘していた。
それでもレイの指示を受けながら何とか目標を達成すると、今度は砲丸の代わりに貴婦人の踵と呼ばれる火炎瓶の様な武器を射出する実験に取り掛かる。
本来これはグライダーの機尾に備わっている鎖に括りつけて使う物なのだが。
「これを投射武器として利用できれば、対艦攻撃や砦の攻略等に対して有効かと思いまして」
と言う、レイの発案である。
‥‥が、砲丸ならば兎も角陶器製の火炎瓶を備え付けるのに適正な装置といえばやはり機尾の鎖くらいなもの。手で持って投げるにしても事故が起これば操縦者が負傷する危険もあるので、現時点ではグライダーからの投射武器として活用するのは難しいと言う結論に至った。
もう少し工夫すれば、不可能ではない気もするが‥‥。
●フォーメーション・ウィーブ
「では、今回はリュドミラさんの仰っていた『機織り(ウィーブ)戦法』の訓練に移りましょう」
翌日、訓練海域に到着すると指示を出すのはシャルロット。
機織り(ウィーブ)戦法とは、グライダーの軌道を機織り機の横糸と縦糸と見なし、それが交錯する様に多方向から挟撃を見舞うと言う、リュドミラの発案した戦法である。
今回の演習ではソークのドラグーンを敵機と見なし、実戦式の訓練においてその実演を行う事になっていた。
まずグライダーを駆って、ドラグーンと近接戦闘を繰り広げるのはレオン。
二人の空中におけるゴーレム操縦技術はほぼ互角だが――やはりスモールとは言えドラグーンとでは、主に攻撃面における性能が違い過ぎる。
「ははははっ! 先程から防戦一方では無いですかっ!!」
槍を振り回しながら高笑いを上げるソーク。レオンは、それを避けるのに手一杯で――。
「今です!!」
声と共に、ドラグーンの側面へと一直線に飛び込んでいくのはリュドミラのグライダー。
勿論、ソークもこの戦法の内容を事前に知らされては居たのだが。
「うわっ‥‥!?」
レオンに気を取られている所への別方向からの攻撃に、溜まらず胴体部への直撃を許してしまうドラグーン。ペースさえ崩せれば、後はこちらの優位で戦局を運べる。
「なるほど。シンプルながら、中々有効な攻撃手段の様ですね」
その様子を見ながら、シャルロットは嬉しそうに頷いていた。
●対艦訓練
そして、演習最終日。
この日は、フロートシップに対する対艦攻撃の演習を行っていた。
牽制程度とは言え精霊砲を用い、迎撃訓練も兼ねるかなり本格的な訓練である。
ドラグーンを中心としてグライダーが周囲を縦横無尽に飛び回り、敵の照準を撹乱させつつ各所に少しずつ打撃を与えていく。
「左舷、弾幕薄いですよ! あ、ドラグーンは接敵し過ぎです! 他のグライダーを護る為の囮も兼ねながら、照準の撹乱も適度に行って下さい!」
全体を上空から見渡しながら、指示を飛ばすのはレイ。やはり戦場において全体を把握し適正な指示を送る事の出来る人材が居るのと居ないのとでは、戦力に大きな違いが出る。
「ふう‥‥とは言え、声を張り上げてばかりでは流石に疲れますね。グライダーに積む事が出来る様な小型の風信器でもあれば、便利なのですが‥‥」
レイは苦笑しながら呟くのであった。
●羽ばたき前の瞬き
一連の演習を終え、ウィルへと向けて進むフロートシップ。
その甲板に立ち、先に見える大陸を見据えながら一通の書類を握り締めるのはシャルロット。
今回の演習において浮かび上がって来た、ゴーレムの緊急出動における案件。書類は、それに対する返答である。
冒険者ギルド総監カイン・グレイスへ提出したシャルロットの案。即ち。
「小型フロートシップを冒険者ギルド側の裁量で動かせるものとして1台配備してはどうかと思います。救助や緊急事態などのスクランブル発進に備え常時整備。どうしても動くまでに諸々の手続きが必要な騎士団の代わりに、柔軟に運用してもらうという形でしょうか」
それに対するギルドからの返答は、
「フロートシップ占有は国とゴーレム工房と調整している最中なので、そちらからも書面で提案していただければ幸いです」
との事。
そしてオラースの提案した、空戦騎士団所属員はゴーレム工房に行き先を明示するとともに、常に人員の3分の1以上が工房に待機、非常事態への即応体制をつくるという案についても、同じ様な返答であった。
それに加え、工房に待機すると言う案に関してはいずれにしても騎士団は指令が下るまで動く事が出来ないので、余り意味が無いらしく。
どちらにしても、もう少し柔軟に動く事が出来れば良いのだが‥‥。
そして、ついでと言う事で提出したレイの発案。それは、優秀な竜騎士育成及び組織的な空戦技術の向上の為の、ドラグーン複数とフロートシップを投入した実戦形式での模擬戦。つまりは、今回の様な形式の演習でドラグーンを複数機利用しようと言うものだ。
一先ずはシャルロットを通じて窺っては見たものの、現状ではフロートシップに加えてこれ以上のドラグーンまでも使用すると言うのは、かなり難しい事らしく‥‥。
ともあれ、ギルドがフロートシップを自由に扱う事が出来る様にさえなれば、多少は話を進め易くなるだろうとの事であった。
「何にしても、まずはゴーレムの配備数を増やさなければ仕方ないですね‥‥」
橙の空を仰ぎつつ、呟くシャルロット。
今回の訓練を見る限りでは、ゴーレム乗り達の練度は上々。いつゴーレムが冒険者達に出回っても、困った事態に陥る事は無さそうだ。
その事に一先ずは胸を撫で下ろしつつ‥‥真剣な眼差しで遠くに姿を現して来た王都を見据える。
空戦騎士団長と、冒険者と。二つの役割を持ってウィルを護らんとする騎士、シャルロット。
彼女に見えて居るのは、今後に起こりうる戦乱か、それともその先にあるものか。
どちらにしても、いずれは多くの騎士達が羽ばたき飛び回る事になるであろうウィルの空。その平和な一瞬を、今はその眼にしっかりと焼き付けていた。