あの子をお持ち帰り!〜珍獣成敗〜

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2007年11月16日

●オープニング

「うう、すっかり暗くなっちゃった〜」
 呟きながら、夜の街中を駆け抜けるのは、人間の少女。
 年齢は10歳前後と言った所だろうか? あどけない顔には焦りを浮かべ、小さな四肢をパタパタと忙しなく動かしながら、少女は帰路を急ぐ。
 こんな時間に出歩くものではないと、親に口うるさく言われては居るが‥‥だからと言って家に帰らなければ、余計に心配を掛けてしまうだろう。
 そう言う訳で、彼女はこうして息を切らしながら、星の光も射さない程に暗い夜道を走っているのだ。
 ところが‥‥。

 ――ガバッ!!

「!?」

 道端で一旦立ち止まって呼吸を整えていた少女の視界が、突然真っ暗になる。同時に、何かの力によって身体が浮かび上がる様な感覚。正確には、持ち上げられたのだ。厚い麻袋を被せられた上で、何者かによって。
 突然の事に気が動転する余り、ただされるがままになっていた少女は‥‥しばらく時間を置いてからようやく自身の置かれた状況に気付き、同時に開きっぱなしだった口に空気が通る。
「いっ‥‥!!」
 暗い街中に響き渡る悲鳴。
 だが、それを聞いていた者は、袋詰めされた少女の身体を肩に担いで運ぶ、何者かのみ。
 そして、少女の姿はウィルの街中から消え失せた。



 ギルドに依頼が舞い込んできたのは、その翌日。依頼人は、行方不明になった少女‥‥ノラの両親である。
「昨日は朝から、近所の仲の良いお友達の家に遊びに行ってたんです! ところがどれだけ待っても、帰って来ないものですから‥‥心配で心配で、昨晩は一睡も出来なくて‥‥!」
 おろおろと事情を説明する母親の目元には、なるほど睡眠不足を象徴する様に、色濃いくまが残っている。先程から俯いて何も言わない父親も同様で‥‥いや、母親にも増してかなり酷い有様だ。何も言わないと言うよりも、むしろ心配で心配で心配で心配過ぎて、放心の余り言葉も出ない、と言った表現が適切な程に落胆していた。
 そんな二人の応対をしていた受付係は、内心気の毒に思いながら、傍らの資料の山を漁る。そして手に取られたのは、二通の捜索依頼書。いずれもここ一週間以内に起こった失踪事件に関する物で‥‥被害者はパラの成人女性。
 しかし、今回消えたのは人間の少女。三つの事件に共通点があるとすれば、一様して子供の容姿を持つ女性が何者かにさらわれていると言う事位だが‥‥受付係は、これらが同一犯によるものである気がしてならなかった。
「‥‥分かりました。では、一刻も早くお嬢さんが見付かる様、尽力致しましょう。安心して‥‥と言うのは無理かも知れませんが、どうか捜索に当たる冒険者達を信じて、ご自宅でご静養なさって下さい」
 その言葉に表情を僅かに緩ませたノラの両親は、それでも重い足取りで帰路に着く。そんな二人の背中を見送った後で、受付係は正式に依頼書として認めた書類を、ギルド内に張り出すのであった。



 その頃、ウィルのとある貴族の屋敷では、一見して年端もいかない様なあどけない容姿のメイド達三人が、思い思いに家事をこなしていた。
 その内の一人、最も背が低く、ぎこちない動きをしているメイドが、ぐらぐらとお盆を揺らしながらティーカップとポットを運んでいる。
「ご主人様、お茶でございま‥‥きゃあっ!?」
 お約束通り、それを目の前の主人と呼んだ青年にぶちまけるメイド。途端に彼女の顔から血の気が引き、半泣きになりながら「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」と連呼する。
 だがしかし、熱湯を被った主人はと言うと怒るでもなく、むしろ丸く越えた顔に不気味な笑みを浮かべながら、気色悪い程の猫なで声で言った。
「良いの良いの、こんぐらい。それより、ちゃんと前をみて歩かないとね。可愛いノラたんが火傷でも負ったら、大変だもん♪」
 ノラは自分の失態を咎められなかった事に安堵するも、何故だか息を荒くする青年の様子に、思わずサブイボが走る。
 気付けば、青年の肥満した身体から上がる湯気。どうやら、引っかけた茶による物では無さそうだ‥‥何か変な臭いするし。
「し、失礼致しますっ!!」
 ノラは逃げる様に踵を返し、部屋から飛び出る。
 それから数分後、赤いカーペットの敷き詰められた長い廊下の突き当たりで、うずくまりながら泣いている彼女の姿があった。
「もう嫌ぁ‥‥あんな珍獣のメイドなんて‥‥。誰か助けてよぉ‥‥」
 

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec2078 メイベル・ロージィ(14歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

イコン・シュターライゼン(ea7891

●リプレイ本文

●二人の少女(?)
「‥‥本当に、来るのかしらね?」
 何度目とも知れないディーネ・ノート(ea1542)の呟きが、夜闇に掻き消される。

 冒険者達が、行方不明になったノラ達3人の捜索に乗り出してから、早3日。
 それまでに、各人の丹念な聞き込みや、犬の嗅覚を混じえた調査、そしてゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)のパーストとファンタズムの併用により、犯人像やその手口に至るまでも知る事が出来た。流石にノラ達や犯人の正確な居場所までは突き止められなかったが、成果としては上々である。
 と言う訳で、残された課題は犯人の捕縛とノラ達の救出。その為に、白銀麗(ea8147)のミミクリーによって体型を調整したディーネとメイベル・ロージィ(ec2078)の二人が囮となり、幼い容姿の女性を狙うであろう犯人を誘き寄せるべく、こうして夜の街を徘徊しているのだ。
 もっとも、シルバー・ストーム(ea3651)だけは今一つ、この人選の意味を理解していない様子であったが。

「う〜ん‥‥昨晩までと違って二人が別々に行動すれば、現れると思ったんだけどな」
 物陰からディーネの様子を伺っていた物輪試(eb4163)のぼやきに、リール・アルシャス(eb4402)も小さく頷く。ちなみに、同じ理由でこの日は誰一人としてペットを連れて来ていなかった。ファンタズムで見た限りの犯人の体型ならば、普通に走って追跡しても振り切られる心配は無いだろうと判断したからだ。
 しかし、肝心の犯人が出て来ないのでは仕方ない。
 この日も一先ず引き上げて、メイベル組に合流しようかとシルバーが提案したその時。

「――キャアァァァァァァァッ!!」

 突然響いた悲鳴に、驚いて顔を上げる一同。
「メイベル殿の声だ!!」
 言うが早いか、慌てて駆け出すリール達。やがて見えたのは、人気の無い表通りに立ち竦むゾーラクと時雨蒼威(eb4097)の姿だった。
「くそっ、油断した!! まさかあんなに逃げ足が速いなんて!!」
 悔しげに地面を蹴る蒼威。
「恐らくは、魔法の力を持つ道具か何かを使っているのでしょう。今、梟に変身した銀麗さんが追跡しています!」
 ゾーラクの言葉に頷くと、セブンリーグブーツを履いていた試は一足先に、通りを駆け出した。夜闇に羽ばたく、大きな翼に向かって。

 一方、ジャイアントオウルに変身して犯人を上空から追うのは銀麗。しかし、彼女も振り切られない様にするので精一杯だった。飛行による追跡とは言え、魔法のアイテムを使っているらしき犯人の方が若干速い。それでもメイベルの詰め込まれた麻袋を抱える相手を、銀麗は梟の視力で見失わない様必死に追っていた。
 だが、それもしばらくの間。街の外れでとうとう犯人に逃げ切られてしまい、彼女は止む無く地上に降りて元の姿に戻る。その後に合流した試と他の面々も、首尾を聞いて残念そうに肩を落とした。
「ですが、手掛かりは掴みましたよ」
 そう言って、銀麗は犯人の逃走した方向を指差す。街道沿いには、貴族の屋敷が遠目に数軒。そこから先には一軒も建物が見えない。どうやらここが街の最端らしい。
「つまり、あの中の屋敷のどれかに、犯人が潜んでいるって事か」
 蒼威の言葉に頷く銀麗。だがしかし、どの屋敷に逃げ込んだか断定出来ない以上、夜遅くに一軒ずつ訪ねて確かめる訳にもいかない。
 仕方なく、冒険者達はこの日の調査を打ち切る事にした。誘拐されたメイベルの身は心配だが‥‥。
「‥‥そう言えば、ディーネさんはどうしました?」
 ふと立ち止まったシルバーの言葉に、一同は「あ‥‥」と声を揃えた。


●ばったり
 翌日。
結局今まで見付ける事の出来なかったディーネ(彼女はとんでもない方向音痴)の事を気掛かりに思いつつも、冒険者達は一軒の屋敷の扉の前に立っていた。
 日が昇る前にシルバーが各屋敷に潜入して調査を行った結果、この建物の中にメイドの格好をしたノラやメイベル、そして犯人と思われる肥満男が居る事を確認したのだ。
 その姿を試に借りたデジカメに収め、両親等に裏付けを取る事で証拠も揃えて来た。これならば犯人に言い逃れする余地は残っていないだろう。
 仲間達の先頭に立つリールは胸を張り、大仰な扉を二つ叩く。
「ごめんください。少々お伺いしたい事が‥‥」
「あ、は〜い! 一寸待ってっ!」
 元気な声と共に聞こえて来る足音。やがて、軋んだ音と共に扉が開き、一人のメイドがひょこっと顔を‥‥。
「‥‥‥‥あ゛」
「‥‥え゛っ?」
 見詰め合ったまま硬直する、リールとメイド‥‥の格好のディーネ。
 そのまま二人は、仲間達に声を掛けられるまで、ずっと凍り付いていた


●成敗!!
「ヒィー! ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!!」
 肥満した身体を冒険者達に小突き回されながら、しきりに謝り続ける誘拐犯こと、屋敷の主人の珍獣男。
 拍子抜けするくらいあっさりと罪を認めた彼に、冒険者達は思い思いに憂さ晴らし‥‥もとい、制裁を加えていたのだ。
 そんな彼を傍らで気の毒そうに見詰めるのは、メイベル達を含むメイド一同。
 きっかけこそ誘拐であったものの、攫ってきたノラ達には手荒な真似をするどころか、むしろ客人並みに優遇していた珍獣男。そして、そんな彼の姿勢を一晩だけとは言え見続けていたメイベル。
 それはディーネも同様であるが、それ以上に彼女には、昨晩迷子になって途方に暮れていた所を拾われ、屋敷に留まらせて貰った一宿一飯の恩義もある。
 ――メイドとして働いていたのは、成り行きらしいが。
「ま、そのぐらいにしときなよ。本人も反省しているみたいだしさ」
 歩み出て珍獣を庇うディーネは。
「うわぁぁん!! ディーネたーーん!! ほげらっ!?」
 次の瞬間、左腕を唸らせた。

 パラの被害者達の話によると、彼が今回この様な行動に出たのは、屋敷の侍者不足がきっかけだったらしい。
 だが、最近はウィル内の景気が良く‥‥ちょっと良い条件を出したくらいでは、誰も募集に応じてくれなかったのだとか。
 で、どうせ雇う(攫う)なら可愛い女の子を以下略。

「まあ、可愛い娘を侍らせたいのは理解できない事も無いけど、誘拐してってのは悪かったわね」
「俺だって、身なりとか色々と気を使ってんの。突飛な行動に出る前に鏡を見ろー」
「自らの欲のために他者を力で自由するというのは獣の考え方です。突如娘を攫われた、彼女達のご両親の悲しみも考えてもみなさい。って、聞いているのですか?」
 ディーネと蒼威に続いて諭すのは銀麗。だが、彼は既に白目を剥いていて‥‥そこに、ディストロイで追い討ちが掛かる。
 ‥‥何かむごい。
「ま、まぁ、珍獣さんも大分懲りてるみたいですの。でも、無理矢理誘拐して誰かを困らせたり悲しませてしまうのは、やっぱり悪いことなんですの。もうこんな事しないって、約束してくれますか?」
 メイベルの言葉に、むくりと起き上がる珍獣男。不死身かこいつは。
「うんうん、するする! メイベルたんの言う事ならなんだってするよっ!!」
 そう言って息を荒くする珍獣に、にこっと天使の様な笑顔で「よかったですの♪」と言うメイベル。
 次の瞬間、奇声を上げながら珍獣男の身体が跳ね上がり‥‥そして盛大に転がった。
「ああ、すまない。気付かなかった」
 足を掛けたリールは青筋を浮かべながら、笑顔でその頭を踏ん付ける。ついでにグリグリ。
「どうも、まだ懲りていない様だな。仕方ない、最近天界で流行っていると言う短期間エクササイズで、しごいてやるか?」
 そう言って、何やら怪しい動きをしながら試は珍獣に歩み寄る。
「ええ、まだお仕置きが足りていない様ですね。では、ここは被害者の皆さんの意思を尊重するとしましょう。彼にどんな罰を与えましょうか?」
 ゾーラクの質問に、楽しげに考えを巡らせるパラメイド二人。その側では、シルバーがアイスチャクラを用意していたりして‥‥。

「‥‥それではリトルレディ、お父様とお母様の下へ帰りましょう」
 断末魔に背を向けて、ノラを抱きかかえた蒼威は、室内に繋がれた自分の軍馬に跨る。ノラもノラとて、頬を染めながらそんな彼を見詰め。
「はい、王子様‥‥♪」
 ‥‥もしかして、どっちもどっち?


●大団円?
 蒼威は不満そうな顔をしたものの、結局二度とこんな事はしないという約束の下、お縄放免となった珍獣男。
 そんな彼の屋敷に残ってメイドを続ける事にしたパラの女性達に見送られ、冒険者達はギルドへと向かっていた。その後ろを歩くシルバーが、ふと口を開く。
「それにしても、いくら人手不足だったとは言え、何故ノラさん達を攫ったのでしょうね? 普通なら可愛いかどうかよりも、経験や手際を重視するでしょう?」
 思わず硬直する一同。
 どうやら彼は、この期に到ってもまだ珍獣男の煩悩と言う物を理解しきれていなかったらしい。
「‥‥まぁ、その方が良いのかも知れないな。純朴なのは良い事だ、うん」
 そう言って肩を叩いてくる試を、首を傾げながら見据えるシルバー。

 ともあれ、今回の事件は冒険者達の適確な捜査と作戦‥‥そして何よりも、勇気を振り絞って危険な役回りをこなした健気な少女達(?)の活躍により、事なきを得たと言えるだろう。
「はい! 怖かったですけど、我慢しました! メイベルも冒険者ですもの!」
 そう言って微笑むメイベルの頭を、ゾーラクは優しげな表情で撫でていた。

「うみゅ、これにて一件落着ね♪ それじゃ、これから皆で打ち上げに行きましょ!」
 声高に言って一足先に駆け出すディーネを、一同は慌てて追いかける。また迷子にでもなったら、堪らない。

 思い思いに街中を駆け抜ける冒険者達と一人の少女の笑い声。それは、ウィルの秋空の下で、陽気に響き渡って居た。

 そしてその後、イコン・シュターライゼンに渡された大金をほぼ飲み食いに費やさん勢いの団体客に、酒場の従業員達が悲鳴を上げる事になるのだが――それはまた、別の話。