レッツ現実逃避っ!〜珍獣捜索〜
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月09日〜04月14日
リプレイ公開日:2008年04月16日
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●オープニング
――コンコン。
ノックの音に応える声はない。
「ふう‥‥ウルティム様ってば、いつまでこうしているつもりなのかしら?」
一人呟くのは、ウィルに住まう貴族ウルティム・ダレス・フロルデンの屋敷に住み込みで働いているパラの実質メイド長、レモン(本名ではない)。
屋敷の主ウルティムはと言うと、今から一ヶ月程前に何やら急激に元気が無くなり‥‥ここ最近に至っては、自室に篭もりがちになってしまっていた。
原因はレモンをはじめとする屋敷の使用人の誰一人として存じない所であったのだが、どうも先日屋敷に訪れた彼の弟であるサマエル・アルバ・フロルデンとの間で、何かがあったらしく。
「まったく。大人しいのは結構だけど、こんなんじゃこっちの調子まで狂っちゃうわ」
言いながら、両手に抱えている食事に目を落とすレモン。
盆に載せられたそれは誰が見ても高級品ばかりで、どうにも食欲が湧かないらしいウルティムの為を思った彼女なりの気遣いらしく。
ただし、ここで『ツンデレ』と言うと本人は激怒する為、あえて言わないでおk‥‥。
(断末魔)
「ウルティム様、お食事をお持ちしましたよ?」
扉に向けて声を掛けてみるも、やはり返事は無い。
「‥‥いい加減しっかり食べないと、身体壊しちゃいますよ?」
眉間に皺を寄せながら言うレモン。
と言うか、それ如きで壊れてしまう様なやわな身体をしていない気もするが‥‥。
しかし、案の定音も無く佇んでいるばかりの扉に――レモンの中で何かが切れたらしく。
「ああっ、もう! ウルティム様! ふざけるのもいい加減にして、出て来なさ‥‥!」
勢い良く開け放たれる扉。
だが、その先にウルティムの姿は無かった。
「‥‥え? ウ、ウルティム様!? どこかに隠れてるんですか!?」
ヒステリックに叫びながら室内を探してみるも、やはり何処にもその姿は‥‥と言うか、あの体型で隠れられそうなスペースさえも無い。
見る見る内に、レモンの表情が憤怒から困惑へと取って代わり。
「な、ちょっ‥‥これって‥‥!? だ、誰かーーー!!」
「ふむ、ウルティムさんが家出ですか‥‥」
カウンター越しにレモンの応対をするのは、冒険者ギルドの受付係。
粗方の事情を聞いた彼の口から出てきた言葉は、どこか他人事っぽい。
「ええ、とてもそこまで思い詰めている様には見えなかったんですけど‥‥」
‥‥一ヶ月前から様子がおかしかったと言うのに、そんな台詞を吐かれてしまうウルティムは、ある意味不憫なのかも知れない。
「彼も一応とは言え貴族ですからね。恐らくは思い悩む理由も色々とあるのでしょう。そうは見えませんけれど」
つくづく不憫。
「でも、やっぱりこのままウルティム様に居なくなられると、困る人が沢山居るんですよね。だから、探して来て貰えないでしょうか?」
「そうですね、ウェリスさんのお店の事もありますし‥‥分かりました、依頼として受理致しましょう」
そんなやり取りの後、手続きを済ませギルドを去って行ったレモン。
受付係はと言うと、出来上がった依頼書の掲示を済ませ――ふと、とある書類に目を落とす。
それは、ウィルから半日程歩いた場所にあるパラの集落に、最近になって正体不明の『珍獣』が現われる様になったと言う噂が書かれた物で。
「いえ、まさか‥‥ですよね」
――その「まさか」だったりする。
●リプレイ本文
●悲しきかな珍獣の習性
昼下がりの長閑な牧草地。
簡素な家屋が立ち並ぶここは、件のパラの集落。
あちらでもこちらでも、老若男女の住人達が汗水流して働く中――その空気をぶち壊すかの様に、『奴』は現われた。
「みんな〜! 今日も遊びに来たよ〜!」
リバウンドして丸々と肥えた身体を馬から降ろし、高らかに叫ぶのは――見紛う事なき珍獣男ウルティムである。
そんな彼を遠目に凝視するのは、住人に扮したキース・ファラン(eb4324)。
「‥‥やっぱりな。パターン通りだぜ」
呟くキースには気付かず、足腰を震わせながら住人達に介抱される馬に目もくれないまま、真っ先にウルティムは。
「おぉっ、レニたん! 今日は一段とかわ」
――バタァン!!
『レニたん』によって、光の様な速さで閉められる家屋の扉。だが、閉め出された珍獣はさして気にするでもなく、他のパラ達に絡んでは弾き飛ばされて行き‥‥やがて、彼の目に付いたのは。
「わぉっ! メイベルたんまで居るなんて、僕ってば幸せm‥‥‥‥‥‥え?」
話は、前日に遡る。
ウィルでのある程度の情報収集を終え、パラの集落に到着した冒険者達。
だが、その日は既に珍獣は集落から去った後だった様なので‥‥長に事情を説明し、民家に泊めて貰う事になった。
その晩、一室に集まった冒険者の中で口を開くのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
「やれやれ‥‥。友よ、何故君は悪魔に魂を売ったのか‥‥ではなく、何をやってるんだろうね、わが戦友君は」
一先ずのウルティム捕獲作戦が纏った折、呆れ気味に呟く彼には、珍獣の思考が手に取る様に分かるらしい。
「そこ、同じ穴の狢とか言わない」
‥‥すみません。
「それにしても、いなくなってしまったのは何か事情がありそうですの。メイベルは心配です」
「レモンさんやミルクさんも、ウルティムさんの家出の理由は分からないと言っていた‥‥。むしろ問題はそちらの方かな」
メイベル・ロージィ(ec2078)と物輪試(eb4163)の言葉に、頷く一同。
「彼はイムン分国の領主の息子だって話だし‥‥もしかして、親から『実家に帰って跡を継げ』って最後通牒でも貰ったのかしらね」
加藤瑠璃(eb4288)が予測交じりに言うと、その横で頷くのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
「それが本当なら、現実の逃避の仕方がなんともウルティムさんらしいとは思いますが‥‥人様に迷惑かけるのは頂けませんね」
「ああ。とは言え、ウルティムさんがオーナーをしているあの店は中々だから、そこまで手荒な事はやらないように‥‥したいところなんだがな」
キースの声は、部屋を支配する妙な圧迫感によって尻すぼみになる。
「それは兎も角、特徴を確認した上でもゾーラクさんにファンタズムで見せて貰ったウルティムさんに間違いない様ですし。しっかりとっ捕まえちゃいましょう」
晃塁郁(ec4371)の言葉に頷く仲間達は、目が据わっている。
‥‥ウルティムに死亡フラグ乱立中。
そして、口を開くのはディーネ・ノート(ea1542)。
「まあ、流血沙汰ってのもちょっとアレだし、物理攻撃は無しって方向でいきましょっか」
●珍獣捕縛
と言う訳で翌日。
ニルナやキースが住人達(特に女性)と戯れる最中、現われた珍獣に冒険者達は身を潜め、一部始終を伺っていた。
そして、『うさみみ』にメイク完備のメイベルに条件反射で飛び掛ろうとした珍獣は、寸での所で違和感に気付き。
「やあ。君はこんな所で何をやっているのかな?」
姿を消しながらこっそりと彼の背後に忍び寄り、肩を叩きながら声を掛けるのはアシュレー。
そしてその直後、後退りした珍獣は塁郁の仕掛けた落とし穴に嵌って――。
「って、ああっ!? 穴の広さが足りなかったみたいです!」
彼女の言う通り、ウルティムの丸い身体が穴の淵に引っ掛かって落とし穴は十分な捕縛能力を発揮していなかった。
これには近くに居たアシュレー、キース、メイベルも予想外だった様子で‥‥驚き目を見開いている隙に、珍獣を逃がしてしまう。
「逃がさん!」
声と共に試が飛び出したのを合図に、あちこちの茂みから飛び出てくる冒険者達。
彼らはあっと言う間に珍獣を包囲し、退路を塞ぐと。
「武装姿で垣間見えるのは初めてでしょうか‥‥レモンさんやミルクさんに心配をかけた分は、私が代わりに精算させて頂きますね?」
そう言って、殺意を滾らせながらゆっくりと歩み寄るニルナ。
普段は萌える対象(笑)とは言え、この時ばかりは身の危険を感じたらしく、包囲する冒険者達を突破して逃げようとする――と。
「あー!! メイベルが転んでスカートの中がー!?」
「ええっ!? それは眼福っ! しっかりと目に焼き付けt」
――ぱちん、ゴロン。
指の鳴る音が響くと同時に、地面に転がる珍獣の氷像。
当のアイスコフィンの術者であるディーネは、笑顔と青筋を浮かべながら。
「大丈夫? もう安心して良いわよ。この物体はこっちで引き取るから♪」
周囲に集まっていた住人達に向き返り、何事も無かったかの様に言うのであった。
●珍獣の事情
集落からウィルへ向かう道程にある、一軒の宿屋。
宿屋の主人が何事かと目を見開く中、そこで漸く氷の棺から介抱されたウルティムは、一同に囲まれて頭を垂れていた。
「ウルティムさん、メイベルとの約束‥‥忘れてしまったんですの? ‥‥もう、心配させたり悲しませたりしないで下さい!」
珍しく声を張り上げるメイベルの眼は、良く見れば潤んでいる。どうやら本当に彼の事を心配していたのだろう。
これにはウルティムも良心の呵責と言う物を感じたらしく、ただただ謝るばかりだった。
「それにしても、何故この様な事をしたのです?」
塁郁が訪ねると、顔を俯け黙り込むウルティム。どうやら、それは彼にとってかなり辛い事情であるらしく。
「もしかしてサマエルさんと自分を比べて居た堪れなくなったのかしら? それとも、父親に『故郷に帰って私の跡を継げ』とでも言われた? 社会勉強のつもりで王都に送ったが、やっている事は女遊びばかり。サマエルのように世間の役に立っているわけでも無し、私の下で一から領地の経営を学びなおせ、とか」
瑠璃の一言一言に、ウルティムの背負う陰が濃くなって行く。どうやら、彼女の予測は大方的中していた様子で。
「まあ、縁談とかそう言うのは無いんだけどね‥‥。正確には、サマエル君がウィルに来る事を希望していて、尚且つ僕の品行が問題視されて‥‥と言う訳で、交代させられるんじゃないかって話になっているんだ」
どこと無く疲れた様子で言うウルティムに、同調する様に口を開くのはアシュレー。
「あー、うん。色々世知辛いよねえ、家が家だと。うちも跡継ぐためにそもそも家を追い出されたしなあ。今は異世界まで来てるけど、帰れたら何を言われるか‥‥」
「まあ、俺も25歳を過ぎて感じる家族の圧力と言う物は、相当なものだったからな‥‥。縁談や結婚とは関係ないとは言え、気持ちはお察しする‥‥」
そこに試まで加わり、男三人による『沈鬱トライアングル』が形成される中‥‥ディーネはその中に割って入る様に。
「モグモグ‥‥でも、このまま逃避ばっかしてても、何も解決しないわよね。とりあえず、一時的にでも実家へ帰って自分の意思を伝えてくれば?」
何かを頬張りながら、ウルティムに言い放つ。その腕に抱えられているのは、集落で買ったチーズや串焼肉等の特産品‥‥多数。
それには誰も突っ込まないまま(むしろニルナ等は一緒になって摘んでいたりする)口を開くのはキース。
「ああ、逃げてばかりいても何も解決しないよ。本当に嫌ならば自分から行動して対策取らないと、受け入れるだけになるぜ。無駄かもしれないけど、逃げないで立ち向かおうぜ」
「そうは言っても‥‥」
それでもはっきりとしないウルティムの前に、ニルナは歩み出て。
「むぐむぐ‥‥ゴクン。ウルティム・ダレス・フロルデン! 目を開いて自分のしなければならないことを考えなさい!!」
彼女の一喝に、驚いた様に目を見開くウルティム。その後に続く様にアシュレーも歩み出て。
「もし本当に萌え好きだったら、どんな障害も乗り越えてみろっ!」
バキッ!!
と、ニルナと共に鉄拳制裁。
そしてその後しっかりと二人の手を握り締め、夕日を背景に決意を‥‥まあ、夕日は無いのだけれども‥‥固めたウルティムに。
「ま、まあ、取り合えず話は纏ったみたいね。頑張りなさい、イムンに行っても元気でね」
「困った事があればメイベル達冒険者が解決しますの。何でも言って下さいね」
人事っぽく言い放つ瑠璃と、にっこりと微笑みながら言うメイベル。
すると、ウルティムは大きく頷き。
「僕、やってみるよ! 出来るかどうか分からないけど、イムンに帰って父上やサマエル君を説得してみる! よーし、そうとなったら早速屋敷に帰っt」
「と、その前に」「やる事がありますよね?」
言いながら部屋から飛び出して行こうとした彼の首根っこを掴むのは、試に塁郁。
そしてその後、一同はパラの集落に引き返し――彼のせいで滞ってしまっていた仕事の数々を手伝わせたとさ。
‥‥余談だが、その様子を遠目に見ながら塁郁によって配られたお詫びの雛あられは、住人達に大好評だったらしく。
「あらあら〜。もう良いのですのよ、過ぎた事は〜。それよりも、またいつでも来て下さいね♪」
と言う集落の長の言葉の下、万事丸く収まったのだそうだ。