お嬢様とゴーレム人形

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 47 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月23日〜05月01日

リプレイ公開日:2008年04月29日

●オープニング

 ウィルの遥か南方に位置するイムン分国。
 その南部に位置するルオウ地区を治めるエルガルド・ルオウ・フロルデン伯爵の下に、一人の客人が訪れた。
 屋敷の正門前に止まった馬車の中から現れたるは、年の頃10歳と言った所の少女。
 だが、その長い黒髪の毛先から靴の爪先に至るまで手入れが行き届いており、見るからに高貴な家の令嬢と言った様相を醸し出している。
 彼女が長いスカートを引き摺りながら門を潜ると、玄関前では領主のエルガルドをはじめとする屋敷中の住人達がずらっと並んでおり。
「お待ちしておりました、ベルドーラ・イムン様。ルオウへ、ようこそお出で下さいました」

 ベルドーラ・イムン。
 イムン分国王ドーレム・イムンの姪(ただ、余り面識は無いらしい)であり、政治家としての英才教育を受けて育てられた9歳の令嬢。
 将来はイムン全土を治める事が夢らしく、その為の勉強の一環として現在はイムン中の領主の下を訪れ、視察(見学)に巡っているらしい。
 そんな彼女がルオウを訪ねるのはこれで二度目。と言うのも、どうやら初回の視察の際に彼の治める地が気に入ってしまったらしく‥‥。
 前回ルオウを発ってから二ヶ月余りしか発っていないと言うのに、付き人の反対を押し切りながら、半ば強引に戻って来たのだとか。


「色々な領地を回ってきたけれど、やっぱりここが一番落ち着くのじゃ♪」
 寛ぐ彼女をハーブティー(蜂蜜たっぷり)で持成しながら、「それは光栄痛み入りますな」と――苦笑いを浮かべながら言うエルガルド。
「ところで、噂は聞いたぞえ? 何やらムキャイ伯と一悶着あったそうだの?」
「うっ‥‥ご存知でしたか」
 ベルドーラが指摘すると、エルガルドとアレックスは困った様に頭を掻きながら。
「その件に関しましては、現在調査を進めております故‥‥」
「よいよい、わらわに任せてたもれ」
「‥‥は? と、申しますと‥‥?」
 彼等が訪ねると、ベルドーラはぴっと人差し指を立て。
「事情は伺ったが、アレックスが決闘中に不正を行うとは到底思えはせんしの。この件に関しては、わらわが対処してしんぜよう。安心するが良い」
「ごふっ!?」
 ハーブティーで噎せるのはアレックス。
「い、いえ、その様な事をベルドーラ様にお任せする訳には‥‥」
「心配するでない。わらわとて伊達に政を学んでおらんわ」
 それは、どちらかと言うと余り表沙汰には出来ない政の様な‥‥。
「良いから、わらわに任せておくのじゃ。これは命令じゃから、背く事は許さんぞえ。良いな?」
「‥‥」
 そう言われてしまうと、誰も止める事は出来ず。
 とは言え、彼女が動いてくれる事で助かるのには間違いない。

 一同が申し訳ないと言いつつも、肩の荷が降りたと言った気分で内心胸を撫で下ろす中――。
「ところでなのじゃ! ルオウ伯、お主ゴーレムは所持しているかえ?」
「‥‥はい? ゴーレムで御座いますか?」
 唐突な質問に、エルガルドは目を瞬かせながら考え込む。
 あると言えばあるが、イムンと言う国自体がそれ程ゴーレムの配備に力を注いでいる訳では無いので‥‥領地内に配備されているゴーレムといえば、精々旧型のフロートシップに小型ゴーレムシップ、そしてゴーレムグライダーにフロートチャリオットが3機ずつと言った所だ。
 その旨を伝えると、途端にベルドーラは。
「そんなんじゃ駄目なのじゃっ! 全然かっこよく無いのじゃっ!」
 ぷんすか憤慨しながら地団駄を踏み出す。

 ‥‥この時点でエルガルドは、何やら嫌な予感がしていたらしい。

「左様ですか? では、どの様なゴーレムであれば宜しいのですかな?」
 エルガルドが訪ねると、ベルドーラはぴたっと動作を止め。
「そうじゃのう‥‥やはり、ゴーレムと言えば『ドラグーン』と相場は決まっておろう!」
「ぶごふっ!!?」
 ハーブティーで噎せるのは、その場に居合わせたサマエル。‥‥お気持ちは良く察します。
「べ、ベルドーラ様? ドラグーンは、セトタ大陸内でも数える程しか配備されて居ないのですよ? ましてや、ルオウの様な比較的平穏な地域に、その様な兵器が配備されている筈が‥‥」
「イヤなのじゃっ! わらわはドラグーンが良いのじゃ〜っ!」
 再び地団駄を踏み出すベルドーラ。
 やれやれ‥‥と、周囲の者達が呆れ顔になった所で。
「ドラグーンが駄目なら、シルバーゴーレムでも良いのじゃ! 白銀のフォルムに身を包む巨兵‥‥想像するだけで胸が疼くのじゃ♪」
「ごふぉっ!?」
 再び噎せるサマエル。‥‥お気持ち(以下略)。

 等と言った問答が暫く続いた後‥‥。

「‥‥で、ベル嬢は今まで挙げて来たゴーレムを、全て配備しろと仰るのですかな?」
 笑みを浮かべながら、冗談交じりで言うのはエルガルド。‥‥見た目通り、タフな男な様だ。
 すると、ベルドーラは「う〜ん」と顔を俯け。
「それが出来れば最高なのじゃが、現状のイムンの人員や予算、果ては製作期間などを鑑みるに、到底無茶な話じゃろう」
 残念そうな顔で言う彼女に対し、内心ほっとする面々。そんな事言われたら、本気で洒落にならない。
 ‥‥だが、安心するのも束の間。
「けれどじゃ、人形程度なら幾らでも作れよう? と言う訳で、わらわはゴーレムの人形が欲しいのじゃ! 勿論、先程の物全部!!」
「「「‥‥‥‥‥」」」


 と、言う事があった数日後。
 ウィルの冒険者ギルドにはどこかげんなりしたサマエルの姿があった。
「ベルドーラ様はどこかで話を聞かされて以来、すっかりゴーレムの虜になってしまわれた様で‥‥。一応領内にも細工師は居るのですが、やはり『ゴーレムの人形』と注文した所で、実物を見た事が無いから作れない者ばかりなのです‥‥。そこで、ギルドにお願いする事にしたのです」
「は、はあ‥‥」
 彼の応対をする受付係も、話を聞いてどこか引き気味。
「僕も色々な場所を巡ってますけれど、流石にゴーレムとは縁が無いのでそっちの知識は薄くて‥‥。ゴーレムに関して詳しい人が居れば、人形作りの他にもベルドーラ様の子守‥‥あ、いや、お話し相手をしてくれても良いかも知れません」
 まあ、要するにお嬢様の我侭を叶えてあげて欲しい、と言った所であろうか。
「分かりました。では、依頼として受理致しましょう」
 そう言いつつも、受付係は一抹の不安を抱いていた。
 それは、勿論ベルドーラに関することもあるが‥‥。
「確か、ルオウ伯の抱えるアレックスさんって、冒険者嫌いなのでしたよね‥‥」
 何やら、一波乱起こりそうな予感。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4287 結城 敏信(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●冒険者嫌い
「お初お目に掛かります。私はルーケイ伯に遣える騎士のシャリーア・フォルテライズと申します。此度はベルドーラ様のお人形をお造りするべく、冒険者として伺わせて頂きました。どうぞ宜しくお願い致します」
 フロートシップから降りた冒険者達を出迎えるのは、エルガルドにアレックスを始めとするルオウの者達。彼らを前に、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は最大限の礼節を持って挨拶をする。
 それ程に丁寧な対応に出られて、気分を害する者等居はしない。‥‥一人の例外を除いては。
「遠路遥々ようこそいらっしゃった。主な目的はベル嬢の人形作りと言う事だが、それに限らず滞在中は心の赴くまま気楽に過ごして頂きたい。未だ開発途上故に都出身の貴殿達からすれば退屈な場所やも知れぬが、少しでもルオウを堪能して頂ければ幸いだ」
 シャリーアに同じく、ルオウ伯のエルガルドも丁寧に礼をする。
 だが、彼に続くアレックスの挨拶は案の定おざなりなもので。
「‥‥アレックス・ダンデリオン。宜しくお願いする」
 そう言い放つと、ぷいと踵を返して立ち去ろうとした。
 そんな彼の腕を掴み、引き止めるのはシャリーア。
「アレックス殿。私の主、ルーケイ伯も冒険者です。冒険者の全てが敵であるような物言いだけは、どうかお止め下さるよう切に願います」
 同じエルフでも比較的長身なアレックスをキッと見据える彼女は、以前決闘における不正騒ぎの調査依頼が冒険者ギルドに張り出された時に、彼の事を助けようとした人物。
 だが、結局その依頼は人手が足りないまま期限を満了してしまい、冒険者が実際に動く事は無いまま終った。
 故に、彼女が実は恩人であると言う事を知る由も無いアレックスは。
「‥‥お放し願いたい」
 ぶっきらぼうに言いながら半ば振り払うようにシャリーアの手を退き、足早に去ってしまった。
「愛想のねえ奴。あんなの放っておけ」
 彼女の横から歩み出ながら言い放つのは、冒険者のオラース・カノーヴァ(ea3486)。
 そんな彼に続く加藤瑠璃(eb4288)に結城敏信(eb4287)も。
「まったく。いくら冒険者嫌いだからって、あの態度は無いと思うわ」
「彼には、何かしらのトラウマがあるのかも知れませんね。しかし、あの様子でTFW(テーブル・フィギュア・ウォーズ)に興味を持ってくれるでしょうか‥‥」
 と、アレックスの後姿を見据えながらそれぞれ思うところを口に出す。

 ともあれ、一同は気を取り直してベルドーラに会うべく、エルガルドの屋敷へと向かって行った。



●我侭令嬢と卓上遊戯
「はじめまして。私は加藤瑠璃。地球という天界から来ました」
 ベルドーラに会うと一番、深々と礼をする瑠璃。
 彼女に続いて仲間達も挨拶をしながら――ふとその身形に目を遣る。
 明らかに年端も行かない子供であるにも関わらず、身に付けている衣装や装飾品は、明らかに位の高い貴族のそれ。何とも倒錯的な彼女の様子に、どうしても意識が向いてしまう。
「うむ、苦しゅうない。楽にしてたもれ。御主達が、わらわにゴーレム人形を作ってくれると言う冒険者じゃな? 此度はわらわの為に集まってくれて、とても感謝しておる」
 ついでに言うなら、その口調や態度も‥‥。
 そんな彼女に、実はオタクっぽいところのある敏信は通ずるものを感じ取ったのか、ずいっと一歩踏み出して。
「ゴーレム人形を集めたいとは、お嬢様なかなかいい趣味してますね。でも、ただ眺めてるだけだと飽きるでしょう。ゴーレム人形だと、普通の人形みたいに抱きしめたり話しかけても面白くないですし、やっぱ戦わせなきゃ!」
「おお! 分かっておるな、ええと、トシノブとやら。して、御主にはそれを実現させる秘策があるのかえ?」
「ええ、勿論ですとも!」
 ベルドーラの問い掛けに敏信は身を乗り出し、『秘策』とやらの説明を始める。
「今ルーケイではTFWという遊戯を広めているところです」
「てーぶるふぃぎゅあうぉーず?」
「はい。TFWは様々な人形を、戦場を見立てたテーブル上のマップに配置し、プレイヤーが人形を駒として動かして戦わせるゲームなんですよ。これにゴーレムも加えてみれば面白いと思いませんか?」
 ベルドーラの眼がきらーんと光った――気がした。
「要はチェスの発展した様な卓上遊戯じゃな? 面白そうなのじゃ! 是非やってみたいのじゃ!!」
「かしこまりました、では早速お教えしましょう。まずはですね‥‥」
 すっかり打ち解けた敏信とベルドーラの二人を、様々な表情で見据えるのは冒険者達にエルガルド。
「お嬢の相手は、あいつに任せておけば問題なさそうだな。それじゃあ俺達は、人形作りに取り掛かろうぜ?」
 オラースの言葉に一同は頷くと、熱の入った様子で話し込む二人から視線を背けながら、部屋を後にして行った。



●冒険者とゴーレム
「イムンかぁ。そういえば私、ウィルカップっていうゴーレムサッカーでチームイムンの選手だったのよね。思えば、ゴーレムに乗ったのはあれが初めてだったわね」
 用意された工房で、雇われた職人達に指示を出しながら隣に居るサマエルと話すのは瑠璃。
「ドーレン王にも何度かお会いした事はあるし、ベルドーラ様とも仲良くなれるといいわね」
「ほう、叔父上に会った事があるのじゃな?」
 突然掛けられた声に驚き目を向けると、彼女達の目線の下にはベルドーラが居た。
 どうやら、TFWの合間に人形作りの様子を見に来たらしく。
「御主は見る目があるの。叔父上よりも、わらわと仲良くなっておったほうが良いぞえ。何せ、わらわは将来のイムン王なのじゃからな♪」
 胸を張って言うベルドーラに‥‥思わず笑みを溢してしまう瑠璃とサマエル。
 勿論苦笑いである。
「そうだ、どうせならウィルカップの時のお話を聞かせて貰えませんか? 僕も興味がありますし」
「はいはいはいっ!! 私めもウィルカップに出場した選手の一人で御座いますっ!!」
 しゅびっと手を上げながら申し出てくるのは、人形制作をしながら聞き耳を立てていたシャリーア。

 かくして、二人はベルドーラとサマエルを前に、話を始める。
 瑠璃はウィルカップで3連勝した事、シャリーアは空中ジャンプシュートを決めた事に始まり――他にもゴーレムを用いた依頼において、それぞれの印象に残っている事を話せば、聞き手側の二人は真剣な眼差しで耳を傾け。
「恥ずかしながら、おそらく私はウィルで一番ゴーレムを壊した経験のある鎧騎士でしょうね」
 苦笑いを浮かべながら言うシャリーアに、サマエルは大きく頷く。
「そうですね。でも、裏を返せばそれだけゴーレムを託されていると言う事ですし、むしろ尊敬に値しますよ。同じ冒険者として、僕も見習わなければなりませんね」
「そうなのじゃ! それにドラグーンの操縦経験者のする事じゃ。どんなに木っ端微塵にされても、余程止むを得ない事情があっての事と、わらわならば見なすのじゃ!」
 ‥‥それは責任を追う立場の者としてどうなのでしょうか、お嬢様。
「それにしても、ベルドーラ様は本当にゴーレムに夢中みたいですね。もし将来的に配備する事があったとしたら、その時はカッパーゴーレムを主軸にしてみては如何でしょう?」
 そう言う瑠璃の知識はあくまで書物から得た物らしいが、それによると銅で造られたゴーレムは、アイアンよりも一回り高性能で、出力だけならシルバーに近いのだそうだ。
「アイアンじゃ性能が物足りなく、シルバーじゃ高すぎるって時にはいいんじゃないでしょうか?」
「そうじゃな、わらわとしてはやはりシルバーやドラグーンが理想なのじゃが、いずれ配備を検討する際には参考にさせて貰うのじゃ」
 瑠璃の説明に対して深く頷くベルドーラ――の事を横目で見るサマエルは、内心ひやひやしていたのだとか。



●グライダー遊覧飛行
 翌日、ある程度人形の数が揃ってきた所で、シャリーアは気分転換も兼ねてベルドーラを連れ出し、ゴーレムグライダーで遊覧飛行を行っていた。
「うわー! うわー! 凄いのじゃ! 高いのじゃー!!」
 副座でしっかりとシャリーアに掴まりながらはしゃぐベルドーラの姿は、年相応の少女そのもの。
 顔こそ向けられないものの、その声に耳を澄ませて顔を綻ばせながら、シャリーアはふと眼下に広がるイムンの大地を見下ろす。
「改めて見ると、綺麗な場所ですね。広大な内陸部には、未だ多くの自然が残っていて‥‥」
「けれど、それは裏を返せば余り開発が進んでいないと言う事なのじゃ。イムンの都から離れたこの南部地方は特にの。けれど、いつまでもこのままにしておくつもりは無いのじゃ。いずれわらわがイムンの政を取り仕切る日が来た暁には、ここをフオロやトルクに負けないくらいの大国にするのじゃ!」
 意気揚々と宣言する彼女の言葉に――思わず表情を強張らせるシャリーア。
 と言うのも、イムンと言えば本来は歴史的にトルクと仲の良くない国家である。
 現状では発展途上のイムンが、もしそれほどに力を付けたとなると、その時に考えられる事は‥‥。
「一つだけ、お伺いしても宜しいですか?」
 ふとシャリーアが口を開くと、ベルドーラは「なんじゃ?」と小首を傾げる。
「ベルドーラ様も、やはりトルクの事を良く思っていらっしゃらないのでしょうか?」
 少し直球過ぎただろうか‥‥と、言ってから後悔するシャリーア。けれど、ベルドーラは大して気にするでもなく、う〜んと唸り声を上げると。
「そうじゃな、父上や叔父上などは、良く思っていないらしいのじゃが‥‥わらわは寧ろトルクに対しそこまで対抗心を燃やす理由が分からんのじゃ。どの様な理由があれ、一緒になって発展していけばそれで良いと思うのじゃがのう」
 問いに対する彼女の答えに、ほっと胸を撫で下ろすシャリーア。
 あくまで現時点ではと言う話かも知れないが、今の気持ちを忘れずにベルドーラが成長していけば、恐らくは心配している様な事態にはならないだろう、と。
 シャリーアは後ろを振り返る事無く、代わりに目一杯明るい声で。
「ベルドーラ様、頑張って下さい。私も応援しております!」



●ゴーレム人形
 そして、依頼7日目。
 この日までに作り上げられたゴーレム人形の数は、合計27個。
 いずれも職人技と冒険者達のゴーレムに関する知識によって忠実に表現されており‥‥とは言え、本物と見比べれば多少違う部分があったりもするが、それでもベルドーラを喜ばせるには十分過ぎる物が揃っていた。
「セレのノルンなんて、ここじゃまずお目に掛かれない代物だからな。多少うろ覚えになっちまったが、まあ大丈夫だろう」
 そう言って頭を掻くオラースが手掛けたのは、多少無骨な形状のウッドゴーレム人形。
 けれど、デクとも違うその珍しいフォルムは、ドラグーンに次いでベルドーラの興味を大いに引いていた。
「ベルドーラ様やエルガルド様、サマエル様にもTFWに興味を持って頂けて良かったです。ゴーレムの能力を如何にバランス調整してゲームに組み込むか、これは将来的課題ですね」
 そう言う敏信の表情は満足げ。とは言え、唯一アレックスだけは興味を示さなかった事が、心残りと言えば心残りな様だが。
「ともあれ、実り多い滞在になったわね。ベルドーラ様やルオウ伯とも結構親しくなれたし」
 言いながら、早速ゴーレム人形を机上に並べるベルドーラを見遣る瑠璃。
 その瞳には、普段人には見せない様な優しい光を湛えていて――されど、それも一瞬。次の瞬間にはエルガルドの方へ向き直った彼女の顔は、冷静な冒険者のものになっていた。

 そして翌日早朝、大勢の者達に見送られながら帰りのフロートシップに乗り込む冒険者達。
 彼等が改めて上空から見たイムンは、やはり開発途上の田舎そのもの。
 だが、そこで出会った者達は皆朗らかで精気に満ち溢れていて――。
 彼らならば、すぐにこの地をより住み良い場所にしていくであろう事は、想像に容易い。
 三方向を海に囲まれたイムンの地を満たす朝の光に包まれながら、冒険者達は朗らかな表情で目を細めていた。


 ――冒険者達がこの地に足を付けた瞬間、動き出した『何か』。
 今は未だ、イムンにおける物語の、ほんの序章に過ぎない。
 これから果たしてこの地がどうなるのか。
 何が起こり、何が創られ、何が失われていくのか。
 全ては冒険者達と共に築き上げられていくであろう事を――この時には未だ、知る者は居ない。