花畑に安らぎを
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月11日〜05月16日
リプレイ公開日:2008年05月20日
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●オープニング
一面に広がる花畑。
厳しい冬を越え、一ヶ月程前から漸く開花し始めた花々は、多種多様な彩を持って見る者を楽しませる。
その只中を微笑みながら歩くのは、その身に新たな命を宿す一人の女性‥‥レミィ・ピータル。
大分大きくなってきた自身の腹部を幸せそうに摩りながら、花の一輪一輪に挨拶をして回る彼女の姿は、誰の目から見ても幸せそうであった。
――ところが、それはある日突然の事。
朝目覚めたレミィが、いつもの様に花畑に行って見ると、そこにあったのは何者かによって無残に踏み荒らされ、見る影も無くなってしまった花々の姿。
余りにも酷いその様に、ショックを受けたのは彼女だけではない。
その花畑は、彼女の村の者達が総出で植え付けをしていた。
故に、皆が皆失意と憤りに頭をもたげる中‥‥一人歩み出ると無事な花を探し、それらを植え直すと言う作業を始めるのはレミィ。
彼女に続く様に、村の者達も続々と足を踏み入れ、花畑を元の姿に戻そうと尽力を始めるが。
「その後も、何度と無く荒らされる様になった訳ですね?」
冒険者ギルドのカウンターで、受付係の問い掛けに頷くのはウィル在住の騎士の男性。
「左様。荒らされた跡を見るに、どうやら何者かが故意に花畑の中で馬車を乗り回す等しているらしくてな」
「それは悪質ですね‥‥」
顎に手を当てながら、相槌を打つ受付係。その表情には、明らかな憤慨の色が浮かんでいる。
「うむ。恐らくはレミィもかなり気に病んでいる事だろう‥‥本人は顔にこそ出していなかったが。それに、あの花畑は彼女の夫‥‥今は亡きカロッゾとの思い出の場所でもあるらしいのだ。もしこのまま放って置けば、やがてレミィやその身に宿る子までもが、心労に押し潰されてしまうであろう事は想像に容易い。そうなる前に、何としても花畑に再び平穏を取り戻してやってくれ」
そう言って、依頼料をカウンターに置く騎士。
すると、受付係はペンを走らせる手を止め。
「ええ、分かりました。その様な事をする不届きな輩を放っても置けませんからね。では、依頼として受理しましょう。後の事は冒険者にお任せ下さい」
その言葉に満足げに頷くと、ギルドを立ち去っていく騎士。
そんな彼の後姿を見送りながら――受付係は、ふと過去の依頼の報告書を漁り始めた。
●リプレイ本文
●花畑を護る者
「やれやれ、まったく。ろくでもない奴って言うのはどこにでもいるんだねえ」
村に着いて一番、無残に荒らされた花畑を見るや呆れた様に言うのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
彼の横に居るセシリア・カータ(ea1643)も、普段は物腰が柔らかい人物でありながら憤りを隠せないと言った様子で。
「正直気に入らない犯人ですね。こういうことをする輩は、捕まえて反省させないといけません」
「そうだね。きっちり自分がやった事のつけを払ってもらわないと」
意気込みながら、二人は村の者達に事件の状況や様子等を聞きに回る。
その頃、郊外の村にしては想像していた以上に大規模な花畑、その中心で屈みながら黙々と作業をする女性の後姿に近寄るのは、二人の冒険者。
「よっ。久し振りだな、レミィ」
「えっ‥‥? あ、貴方は‥‥!」
掛けられた声に振り返ると、レミィは驚いた様に目を見開き、次いで表情を輝かせた。
そう、それは彼女の夫カロッゾが病死するよりも以前の事。
レミィとカロッゾの一度切れかけた絆を取り持ってくれたのは8名の冒険者達‥‥その中の一人が彼、陸奥勇人(ea3329)だったのだ。
実に半年振りの再会。互いに積もる話も有るが、それよりも彼女の視線は隣に居たエルフの女性へと向けられる。
すると、その女性ヴァイエ・ゼーレンフォル(ea2066)はにこりと微笑み。
「レミィさん、はじめまして。ヴァイエといいます。私もお花が大好きなの。お花達を植え直すお手伝いをしても良い?」
そう申し出て来た彼女に、レミィは心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「は、はい! 勿論です! この子達もきっと喜んでくれます!」
そして、互いに肩を並べながら作業を始める二人。
その様子を遠目に眺めていた勇人は――ふと、一際無残に潰された花を手に取って悲しげな表情を浮かべるレミィ、彼女にゆっくりと近付き。
「酷い事をする奴も居たもんだな‥‥。だが、花畑の方は心配無用だ。ま、任せておけ」
そう言って、ニッと笑顔を浮かべながら親指を立てて見せた。
「どうだった、シルバー? 何か分かったかい?」
花畑の傍らで、スクロールを広げながら調査に当たっていたシルバー・ストーム(ea3651)に声を掛けるのはアシュレー。
すると、シルバーは小さく頷き。
「はい。犯人が現われる凡その時間や人数、そして馬車の外見など、必要な情報は大方集りました」
言いながら、ふと自身の手に握られたレミエラ付きのスクロールに目を落とす。
「そして、レミエラに関する実験ですけれど、これはどうやら強く力を引き出さない限りは、胸の前の光点が光る事も無い様です。武器であれば攻撃をする時に、それ以外ならば効果を発動した時に、と言った感じです。そして、光の強さはレミエラの数に比例する‥‥以上が、実験の結果分かった事ですね。残念ながら、スクロールに因る魔法には、私のレミエラは効果がありませんでした」
彼の説明に、ふむふむと頷くのはアシュレーとセシリア。
「では、今回の様に密かに行動する場合には、無理して外していかなければならないと言う事も無さそうですね」
「けど、やっぱり暗い所で目立つのは変わりないよ。なるべく不必要な物は持たない様にした方が良いだろうね」
今回の捕獲作戦において、隠密行動は必須。故に、その妨げとなりうるレミエラについては、慎重に扱わなければならないのだ。
かくして、改めて捕獲作戦を打ち合わせ、その準備を整えた一同は、犯人の現われると思われる夜に向けて寝床に着く。
そしてその夜、彼らと入れ替わりに村人達が寝静まった頃‥‥一台の馬車が街道を伝い、村へと現われるのであった。
●不届き者に鉄槌を
「来たね。人数はシルバーがパーストで見た通り3人か‥‥」
花畑のすぐ脇に掘られた横長の穴、そこに伏す様に身を潜め、呟くのはアシュレー。
明かりも無く薄暗い中で、更に身体をすっぽりとシャドウマントで身体を覆っている為、馬車の御者は進行方向の先に居る彼に全く気付く事無く‥‥馬を走らせ、一直線に花畑へと向かって行く。
「馬車の特徴も私が見たものと相違ありません。どうやら間違い無い様ですね」
「ああ、後は巧いこと引っ掛かってくれれば‥‥」
民家の陰に隠れ、声を潜めながら話すのはシルバーに勇人。そして。
ガラガラガラッ!!
「うわっ!?」
用意された木材にぶつかる音と共に、バランスを崩す馬車。次の瞬間。
「今です、アシュレーさん!!」
響くセシリアの声と共に、アシュレーの腕を狙った狙撃により馬車から落下する御者。操作する者を失った馬車は花畑に至る前に横転し、残った二人も地面に投げ出された。
何が起こったか分からないまま、がむしゃらに逃げ出そうとする犯人達。その進行方向で弾けるのはヴァイエのウォーターボム。
彼等が怯んだその瞬間、物陰から飛び出したシルバーはダガーofリターンで一人の足を止め――。
「この程度で済む事を有り難く思え」
残った一人は勇人の峰打ちにより地に伏し‥‥そして御者もセシリアに捕縛された事により、村に静寂が訪れた。
「どうしてこんな事をするの? 彼らだって生きているのよ?」
手回し発電ライトの下に映し出された三人の男、彼らを前にして憤りを隠せないと言った様子で尋ねるのはヴァイエ。
するとその内の一人‥‥他の二人に比べても人相の悪くない男は、不意に口元をニヤリと歪ませる。
「理由なんてねぇよ。ただ、俺達が何度も呆気なく壊したものを、村の連中が必死になって直していく様が可笑しくてな」
その語調に、反省の色は見えない。さしたる理由も無く、ただ花々を馬車で踏み荒らしては、村の人達の悲しむ姿を見て喜んでいた男。
「‥‥許す余地はなし、ですね」
湧き上がる怒りを抑え込みながら、ふと呟くセシリア。
彼女は犯人を捕縛した暁には、一緒に花畑を直すのを手伝わせようと考えていたのだが‥‥彼らを見ていると、そんな気さえも失せてしまった様子で。
「お前達は、然るべき所で相応の裁きを受けて貰う。覚悟しとけよ」
平静を装いながら、言い放つ勇人。それでも彼らの顔に浮かぶ歪んだ笑みは消える事無く――冒険者達の事をじっと見据えていた。
●訪れた平静の中で
翌日、冒険者達に呼ばれ村に訪れた依頼人の騎士、彼によって犯人達は引き取られて行った。
後日の彼の報告によれば、その中に貴族に関わる者等は無かったそうだ。
もしそう言った者が混じっていた場合には、爵位を持つ勇人が対応しようとしていたのだが、その必要が無くなった事に、彼は胸を撫で下ろしていた。
再び花畑に訪れた平和‥‥だがしかし、心無い行為によって残された爪痕は、未だ痛々しく残されている。
そこで冒険者達は、残された期間を使ってレミィを助け、花畑修復の手伝いをする事にした。
「もう大切な場所が荒らされる事はないわ。私達も手伝うから、また綺麗なお花が咲ける様に、花畑を直しましょう」
昨晩の事を詳しくは知らされていないレミィ、彼女に向けて言いながら、ヴァイエは桃のラリエットで髪をくるくると纏める。
するとレミィは満面の笑みを浮かべながら大きく頷き、彼女と一緒に屈んで花畑を直そうとするが。
「おっと、その作業は俺達に任せておけ」
「そうですね。レミィさんは身重なのですし、その格好はお腹の中の子供に負担が掛ってしまいます」
そんな彼女の腕を両側から抱え、立ち上がらせるのは勇人にセシリア。
かといって、何もしないのは申し訳ないと言った面持ちで立ち竦むレミィに、すっと水の入った小さな桶を渡すのはシルバー。
水遣りで余り重い物を持たなければ子供に負担は掛らないだろうと言う、彼なりの気遣いである。
そんな様子を微笑ましく見据えながら、花を植え直すアシュレーはふと顔を上げ。
「いやぁ、それにしても汗水垂らして働くのは良いものだねぇ」
一言呟くと、鼻歌交じりで作業を進めるのであった。
そして、依頼最終日。
ウィルに向けて出発しようと準備をする冒険者達に、レミィから贈られるのはハーブの花束。
「私とお腹の中の子と、皆さんに直して頂いたお花達と‥‥そして私の夫のカロッゾからの、せめてものお礼です。皆さん、本当にどうもありがとう御座いました」
言いながら、深々と頭を下げるレミィ。その表情は、本当に幸せそうなもので。
(「私を産んでくれた人も、こんな顔をしていたのかな‥‥。レミィさんのように、私の事を愛おしく思ってくれていたのかな‥‥」)
ふと表情を曇らせるのは、ヴァイエ。だが、それも一瞬の事。
「またお花のお世話を、お手伝いに来ても良い?」
同じく笑みを浮かべながらの彼女の問いに、レミィは大きく頷くのであった。
「しかし、何だろう。カロッゾと聞くと、鉄の仮面を被った男が思い浮かぶ様な‥‥」
ふとしたアシュレーの呟きに、首を傾げる一同。
まあ、分かる人にしか分からない発言であるが故、取り合えずそれはさておいて‥‥勇人はレミィに歩み寄り。
「そういや、子供の名前はもう考えたのか?」
彼が尋ねると、レミィはぱっと表情を輝かせる。
「はい! ずっと前に、カロ君が考えてくれたんです! 子供の名前は――」
『それが子供の名前か。良い子に育つと良いな』
「ああ、きっと良い子に育つさ」
帰り道、既に見えなくなった村の方向を振り返り、呟く勇人。
レミィとカロッゾ、二人の愛を一身に受けた子となれば、それは疑う由も無い。
夏も近い春の日の中、冒険者達は胸に暖かいものを感じながら、王都へ向けて足を進めるのであった。
『アイビー。永遠の愛と言う意味の花だと言っていました』