お嬢様とゴーレム開発計画

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2008年06月06日

●オープニング

 机の上に並べられた、多数のゴーレムの人形。
 それをじっと見据えながら、何やら考え込むのはイムン分国王ドーレム・イムンの姪たる令嬢ベルドーラ。
 他に誰も居ない室内、その中心でただぽつんと佇む彼女は――かと思えば、次の瞬間何かを思い立った様に立ち上がり。

「ルオウ伯! ルオウ伯はおらぬかっ!?」

 大声で叫びながら、屋敷内を駆け回り始めた。
 ――その声を聞くや、ルオウ伯エルガルドが隠れたくなったのは言うまでも無い。


「ゴーレムの開発計画、ですかな?」
「そうじゃ! 先日に冒険者に教えて貰ったTFW(テーブルフィギュアウォーズ)をしている内に、やはりその有用性は今のイムンに必要不可欠と思ったのじゃ!」
 そう捲くし立てるベルドーラの言葉に、苦笑いを浮かべるエルガルド。
 と言うのも、現状イムンにはゴーレムの力を必要とする様な強大なモンスターの存在も無く‥‥必要不可欠どころか、寧ろ無用の長物と言う表現の方が正しい。
「甘いのじゃ! 敵はいつどこから湧くのか分からんぞえ!! 手遅れになってから慌てるのでは、遅すぎるのじゃ!!」
 敵って、湧くものなのだろうか‥‥。
「とは言え、現状のイムンにはその開発計画を推し進められる様な技術や知識を持つ者がおらん。そこで、冒険者を召集するのじゃ! 先日話を聞かされて良く分かったのじゃが、かの者達ならば十二分にその役目を果たしてくれよう!」
 ずいっ、ずいっと人差し指を近付けてきながら語るベルドーラに、参った様な表情を浮かべるエルガルド。
 彼は少々悩んだ末。
(「まあ、あくまでも計画を立てるだけならば、大した問題もあるまい」)
 と結論を出し、早速遣いの者を出す。


 そしてその翌日、ウィルの冒険者ギルドには、依頼状と並んで一枚の書類が張り出されるのであった。



***

●ゴーレム開発計画、協力者募集

 今日のイムンでは、ゴーレムを配備する上でそれに関する知識や技術を持つ者が乏しく、故に開発・配備における計画を思う様に進められずに居る。
 そこで、ゴーレムに関する知識豊富な冒険者達の知恵を貸して頂くべく、会議の場を設けさせて頂こうかと存じ上げる。
 今回確定させて頂きたいのは、イムンの土地柄に適した新型ゴーレムの開発案件、及びその練り上げである。
 実際に計画を実現させるのは大分先の事になるかとは存じ上げる故、気楽に臨んで頂きたい。
 柔軟な発想力を持った冒険者諸君の参加を御待ちしている。

・会場
 イムン分国領ルオウ、エルガルド・ルオウ・フロルデン伯爵邸内。
 ウィル、会場間の旅路に関しては、フロートシップ等を用意し片道一日で行き来出来る様配慮させて頂く。

・期間
 当該依頼書に記された依頼期間における2〜4日目。

・イムン南部の開拓状況概略図

   ↑至北部
 ▲○BC○○○
 ●○ D ◎A◎
  ●○○◎◎◎
  ●●●◎◎○○○  シムの海
  ●●●●○E●●
  ●●●●●●●○F
   ●●●●●●
  ↑ ●●●●
  北 ●●●


 ○:開拓地
 ●:未開拓地
 ▲:リュス山脈南端(『リュス山脈』はイムンに差し掛かっている部分の呼称)
 A:ルオウ
 ◎:ルオウ領地
 B:トニャリ
 C:ムキャイ
 D:ミュラ
 E:カリエス
 F:ルファ
 北以外の空白部分:海


***

●今回の参加者

 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4245 アリル・カーチルト(39歳・♂・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4287 結城 敏信(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec4972 チャー・チャ(33歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●会議開始
「此度は良くぞ集まってくれたの。礼を言うのじゃ」
 集った冒険者達を前に、鷹揚な笑顔を振りまくのはベルドーラ。
 その外見的な年齢とは明らかにかけ離れた動作や口調に、初見の者達は僅かに驚きの表情を浮かべる。
「初めまして、ベルドーラ様。今回はとても興味深い試みに参加する機会を与えていただき、ありがとうございます。微力ながらお役に立てればと思います」
 冒険者側で真っ先に前に歩み出るのは、草薙麟太郎(eb4313)。
 かと思えば、下げた頭をずいっと持ち上げ。
「『新型』。なんとも心弾む響きじゃないですか。『新型』はやはり男のロマンですよね!」
「おお、リンタロウとやらもそう思うのじゃな!? そうなのじゃ、『新型』の浪漫は今のイムンに必要な物なのじゃ!」
 機械弄りが好きな工学青年と、多少変わった趣味をお持ちのお嬢様。
 何だか二人は異様に意気投合してしまった様子で。
「相変わらずですね、ベルドーラ様は」
 結城敏信(eb4287)は、笑みを浮かべながらそんな二人に近付く。
「おお、トシノブ! 今回も来てくれたのじゃな! 感謝するのじゃ!」
「ええ、ベルドーラ様の為ですし。ところで、具体的な会議に入る前に、少しゲームをしませんか? 僕が昔遊んだ事のある戦略級のボードゲームを再現したものなんですけど、イメージを得る上で良い資料になるかと思いまして」
「賛成なのじゃ! 是非教えて貰いたいのじゃ!」
 はしゃぐベルドーラの姿は、先程までとは違って年相応の少女そのもの。
 そんな彼女の姿を見遣りつつ、口を開くのはセオドラフ・ラングルス(eb4139)。
「何とも、変わったお嬢様で御座いますな。今日まで如何な教育を受けてきたかと言うのが、一挙一動に出ています」
「まあな。あの嬢ちゃんが果たして今後どう成長していくか、何とも言えねぇが‥‥この機会に顔を売っとくぜ。イムンには縁もあるしな」
 そんな事を言いながらアリル・カーチルト(eb4245)はサングラスを直し、そしてさり気無くベルドーラに敏信、そして麟太郎の方へ視線を向ける。
 と言うのも、彼が気にしているのはもう一方の依頼の事。ついうっかり誰か口を滑らせたりと言った事が無い様に、気を配っているのだ。
 もっとも、他の者達もその点は弁えている様子で、誰も口に出そうとはしなかった。
 一方、エルガルドが声を掛けるのは物輪試(eb4163)。
「御主、もしや試殿では無かろうか?」
「えっ? 俺の事をご存知なのですか?」
「うむ。サマエルや、先日はウルティムからも話を聞かせて貰った。我輩の息子達が、いつも世話をかけておるの」
「いえ、こちらこそ。色々お世話になってます」
 と言った感じに、ちょっとした世間話が交わされる。

 依頼初日。
 この日に至っては、会議と言うよりも顔合わせだけに終始してしまう様な形となってしまったが‥‥まあ、最初はこの位気楽な方が良いのかもしれない。



●チャリオットに関する考察
「取り敢えずは、分国内の連絡網を整備し、連絡があり次第グライダーでの偵察を行える様に‥‥また、軽量ゴーレム部隊を先遣隊として派遣出来る様にフロートシップ(以下FS)を待機しておくと良いと思うんですよ。そして、状況に応じて、重量級ゴーレムを追加で派遣出来る様にしておく。有事の際に、なるべく素早く、一定の戦力を各地に送り込める様にする訳ですね」
 配備におけるベースの案として、最初に発言するのは試。
「まあ、基本はそんな感じだろうな。後は、連絡網に関しちゃ、新型携帯風信機の更なる発展や通信区域を拡大させるべく、一定地域間ごとに送受信局を作れば良いんじゃね? 緊急時は素早い情報伝達が鍵だし、通信可能なら僻地探査も楽になるからな」
 付足す様にアリルが言うも、それは未だ開発途上にあるイムンにおいては、難しい案件であって‥‥。
「しかし、将来的な形態としては、悪く無かろう」
 頷きながらエルガルドは言う。
 そこに、挙手して意見を述べるのはセオドラフ。
「ところで、先程FSを配備すると申しておりましたが、イムンという土地は森や未開拓地域が多いとの事。FSを降ろせる場所は限られてしまいます。それならば、むしろフロートチャリオットがお勧めかもしれませぬ」
「そうですね。けれど、チャリオットと言えどやはり障害物が多いところでは扱い難いと思いますが‥‥」
 敏信が言えば、アリルはサングラスを直しながら身を乗り出し。
「だったら、バイクやヘリみたくもっと小回りの利くチャリオットとか作れね? 森とかで乗れるなら便利だしよ。グライダーも同じだな。材質を金属に改造するとか、形を流線型に近づけるとかな」
「ばいく、へり‥‥りゅうせんけいとな?」
 聞き慣れない言葉のオンパレードに、首を傾げるのはベルドーラ。
 そんな彼女に、天界出身の冒険者達は一つずつ補足説明をしていく。
「なるほど。噂には聞いておったが、天界の技術は進んでおるのお」
 感心した様に頷くベルドーラを横目に、セオドラフは口を開き。
「話を戻しますが、確かにチャリオットの汎用性の向上も必要で御座います。ですがそれ以前に、実の所チャリオットにゴーレムを乗せて運ぼうとした結果は、いずれも失敗ばかりなのです。まずはその点を解決しなければ、折角の新型と言えど実用性は大して得られずとなりましょう」
 失敗の原因としては、チャリオットが重量を超えて機体がたわんだり、動かなかったり、なによりも安定してゴーレムを固定できる機構が無い事が挙げられるそうだ。
「その解決策として、わたくしがイメージしているのは揺り籠です。揺り籠が前後に揺れても中の赤ん坊が飛び出すことも無いですし、赤ん坊が安全なよう、振動を吸収する工夫もされていますからな。加えて、速度を多少犠牲にしてでも搭載力を向上させれば、ゴーレム輸送専用型フロートチャリオットになるのではないでしょうか?」
 成程、彼の案はかなり具体的だ。
 僻地でゴーレムが必要になる場合を想定して、チャリオットを改造するのも悪くは無いだろう。

 そんな感じで纏った所で、議題はグライダーへと移っていった。



●グライダーに関する考察
「僕が提案するのは、手と足のあるグライダーのドラゴンタイプ、それと操手槽のあるグライダーですね」
 椅子から立ち上がって言うのは麟太郎。
「まず前者の方ですが、通常のグライダーに着陸時の衝撃吸収と発信時の補助に使う脚部と、ランスあるいは投下物を保持するための腕部を装備した物を指します。脚部は二足歩行できる程の精度は必要ありません。その形状はドラゴンの姿を模した物となります。バランス制御のため、首や尻尾も多少の稼動部があったほうが良いかもしれません。そしてなにより、これの最大の特徴は『カッコイイ』事です」
「おおっ! 確かにそれはカッコイイのじゃ! 言うならば『ドラグライダー』と言った所じゃろうか?」
「ほう、中々巧い名を付けますね」
 麟太郎が言うと、照れた様に頭を掻くベルドーラ。
「しかし、グライダーに装備を搭載する為の腕部を付けると言うのは、良いかも知れないな。扱うのに技術は必要になるけど、巧くすれば操縦にのみ専念出来る様になるかも知れない」
「とは言え、そこまで安定して装備を搭載できる機構と言うのも、開発するのは難しいかも知れません。これに関しては、相談の余地ありですね」
 と言った感じで『ドラグライダー』(仮名)に関する案件は纏った所で、話は後者の操手槽付きグライダーに移るが。
「確かに実用性という点において、画期的なものとなるだろうが‥‥その外張りに用いる素材が、アトランティスじゃ確保出来ないんじゃね?」
 アリルの指摘はもっとも。透明で強度が高く安全な素材は、アトランティスにおいては安定して供給する技術が無い。
 また、もしくは人型のゴーレム機器と同じ様な構造にするにしろ、素材の強度が強度なので、安全面においてはそれ程の効果は無さそうだ。加えて、機構が複雑になってしまう上に人手も掛かる。余り現実的な案とは言えないだろう。
「しかし、着目点は悪くないな。もう少し練れば、実現可能な形になるかも知れない」
 と言った感じに麟太郎の意見のディスカッションが終わった所で、案を出すのはアリル。
「地図見て思ったんだけどよ、イムンって周囲が海で囲まれてるよな。だったら、グライダーを改良して小型潜水艇作、ゴーレムがサーフィンできる水流板とかモーターボートとか腕のついた潜水艦とか作れね? 海の鉱物資源やら水産資源の調査などそこそこ使い道はあると思うぜ」
「成程。あえて飛ぶのではなく、水上移動の為のオプションとして使うのですね。いわば極小型のゴーレムシップと言った所でしょうか」
 確かに、それはそれであると色々と便利そうだ。海上戦闘の際に、戦局を大きく左右し兼ねない。

 と言った感じでグライダーに関する議論が繰り広げられた所で、二日目の会議は幕を閉じた。



●ゴーレムに関する考察
 そして会議の最終日、いよいよメインともいえるゴーレムが議題として取り上げられた。
 これに関しては各人から様々な意見が出たが、主立って議論されたのは以下の項目である。

・潜水可能な水中用ゴーレム。
 これに関してはアリルや試が提案したが、基本ゴーレムの操縦胞は気密性が無きに等しく、それを如何するかが最大の問題である。

・僻地戦を想定した特機よりも、汎用性に優れたカッパー、ストーンのゴーレム。
 あまり配備の進んでいないイムンにおいては、まずは基本的な戦力を整える事が最優先と言う敏信の案。それが鎧騎士育成にも繋がる。

・森林や岩地などの不安定な未開拓地における運用を前提とした、小回りの利くゴーレム。
 重心を低くする等の手法を用い、安定性を高めた機体。
 これに関して、主に例として挙げられたのはセレのノルン。あれ程のレベルとはいかなくとも、不安定な場所で通常のゴーレム相手に有利に戦えれば十分。
 そして、敏信が提案した機体名は『ボルj(ギルドにより規制)』。

 時間が足りず、これ以上煮詰めた議論は出来なかったが、アイディアとしてはいずれもイムンの情勢を弁えた上での、良質なものが出されたと言えるだろう。
 これが実現するか否かは現時点では何とも言えないが、今回の会議が今後のイムンのゴーレム配備における重要な布石となった事は、間違いない。
「マジに性能高い新ゴーレムが作れたら、『ベルドーラ』と名づけちゃどうだ? 嬢ちゃんの名の良い宣伝になるかもだし」
 会議の最後に、冗談交じりでそう提案するアリル。だが、当の本人はと言えば。
「おおっ!! それはナイスアイディアなのじゃ!! わらわの名を冠したゴーレム‥‥いつか実現させてみたいのじゃ!!」
 と、すっかりその気になってしまっていた。

 しかし、彼女は未だ、『ゴーレム』と言う物の本当の意味を、余り深くは考えて居ない。
 その本分が『戦』と言う物にあると言う事を真に理解した時、それでも彼女は今の様に目を輝かせていられるだろうか。
 この場で唯一人、不安げな眼差しをベルドーラに送るエルガルド‥‥そんな彼の心は余所に、イムンのゴーレム開発計画会議は幕を閉じるのであった。