【レッツ宝探しっ!】棄てられた魔窟

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月16日〜11月23日

リプレイ公開日:2007年11月20日

●オープニング

 それは、月に一度だけ一般人に月道が解放される日の夜の事。
 渡道を終え、手続きを済ませた一人の少女が、国家管理の象徴たる月道塔から姿を見せる。
 顔を覆うフードに阻まれてその表情を窺う事は出来ないが、星明りを頼りに足を進めながら周囲を見回す様子は、どこか高揚している様にも見える。
「ここがウィルかぁ。ウチのいたメイと、見た感じはそう変わらないんやな〜」
 言いながら、肩から下げたポーチから取り出したるは、古びた文献。その至る所には訳された文字がびっしりと書き殴られていて‥‥これはこれで持ち主しか読めない様な状態になっている。もっとも、どのみち夜闇に阻まれて、今は読む事が出来ないのだけれど。
「この古文書によれば、どっかに『太陽の瞳』がある筈‥‥。何としても、見つけ出したるさかい」
 その呟きを聞いていたのは、夜の街を包む月精霊達のみ。
 少女は大きな夢と希望‥‥と言うよりも欲と野望を胸に、ウィルの大地へと踏み込むのであった。


 それからしばらく経ったこの日、冒険者ギルドのカウンターに少女の姿があった。
 片手には、何処から持ってきたのか、これまた古い書物。表紙には『きっとみつかる! アトランティスに眠るお宝ガイドマップ〜ウィル編〜』と言う、見るからに胡散臭いタイトルが、大きく書かれている。
(「まさか、こんな眉唾物な本の内容を鵜呑みにして、宝探しの手伝いを依頼するつもりなんでしょうかね‥‥」)
 受付係の予想は、見事に的中していた。本をしっかりと脇に抱えた少女は、熱の篭もった様子でお宝の事を延々と話し続けている。
「でな、この本にも書いてあったんやけど、この街の近郊にもお宝が眠っていそうな場所が沢山あるみたいやねん! せやけど、どこも聞くに物騒な場所やさかい、このか弱くて可憐なパラのティーナちゃんが一人で行くのは厳しい程にな〜。と言う訳で、冒険者の手を借りたいんやねん。勿論、見つけたお宝も公平に分配するつもりや」
 少女‥‥ティーナの話を呆れ半分で適当に聞き流して居た受付係――と言うのも、ツッコミ所が多すぎて、まともに聞いていたら心労が凄い事になりそうだったからなのだが――は、ここに来て漸く依頼についての話が出て来た様なので、かったるそうに顔を上げる。
「はあ。では、冒険者達には護衛ついでに、貴女の宝探しも手伝って欲しい。そんな所ですかね?」
「ほな、そう言う事や! さっすがギルドのうっちゃん、話が良う分かるんやネ〜♪」
 うっちゃんとは、恐らく受付係の事を言っているのだろう‥‥。何だか一言喋っただけでもどっと疲れてしまったうっちゃん‥‥もとい受付係は、傍らのハーブティーに手を伸ばしながら尋ねてみた。
「それで、どちらを探索なさるおつもりなのです?」
「うん、それが俗に『セメタリーホール』呼ばれてる場所らしいんやけど、知っとる?」

 ぶーーーーーーーっ!!!

 凄まじい勢いで、口に含んだハーブティーを噴出する受付係。
 その様子に驚いたのは目の前に居たティーナだけでなく、ギルド中の者達が何事かと視線を向ける。と同時に、ドン引きしていた。
「げほげほっ!! ちょ、ちょっとティーナさん!! そこがどんな場所だか分かって仰っているのですか?」
 受付係の言葉に、案の定首を傾げるティーナ。まあ、そうだろう。彼とてうっちゃん‥‥もとい、ギルドの受付係という情報に敏感でなければ務まらない立場でなければ、その存在すら知り得なかったのだろうから。
 それにしても‥‥どうやら、そこに何かがあるかとは書いていながら、場所については触れていないと言う、大変に無責任な書物であるようだ、『お宝ガイドマップ』と言う代物は。



 セメタリーホールとは、ウィルの郊外‥‥徒歩にして1日半程の山裾に位置する、古い洞窟である。
 元来アトランティス人は、こう言った洞窟の中には入りたがらないのだが‥‥それ故なのか、いつからか近隣に住まう貧困に苦しむ者達が、この洞窟の中に亡くなった家族や知人の亡骸を棄てに来ると言う風習が出来てしまっていたのだ。
 そんな事が長い事続けば、増えて来るのは死体ばかりではない。死臭に釣られてか死者の怨念に釣られてか、いつしか洞窟の中には大量の魔物が住み着く様になっていたのだ。
 領地内を管轄する騎士団がそれらを掃討し、入口に封印を施して立ち入りを規制したのは割と新しい出来事。だがしかし、それでも入ろうと思えば入れてしまうのが現状。もっとも、それ以後にも湧く様に増え続けて溢れかえっていると噂される魔物やら、死体置き場という不気味な肩書きやらのお陰で、誰も入ろうとはしないからそれで十分なのだろう。

 ――ここに例外は居るが。



「ふーん。まあ、危険でおっかない所言うんは、良う分かったわ」
 受付係の話にも、全く動じた様子を見せないティーナ。
「けど、冒険者達やったら、その位なんて事無いんやろ?」
「いえ‥‥まあ、そうかも知れませんけれど、でも自らわざわざ危険を侵しに行くのは、どうかと‥‥」
 何とかして思い止まらせようと、受付係は言葉を選びながらティーナを諭す。しかし、当のティーナは思い止まるどころか、その話により一層目を輝かせていた。
「それに、そんな人の立ち入らなそうな場所やったら、尚更望みありや! 盗賊なんかがお宝の隠し場所にするのに、絶好な場所やん♪」
「いや、その発想にはかなり無理が‥‥」
「よ〜し、決まったで〜! 『ティーナちゃんのトレジャ〜ハンティングウィル編』の第一話は、セメタリーホールに隠された秘宝を探せ、や!!」
「‥‥‥‥」
 駄目だ。この少女の目には、有るとも知れないお宝しか写っていない。もうどうやっても、思い止まらせるのは不可能だろう。
「と言う訳でや、うっちゃん! 善は急げ、や! 報酬はお宝山分け! 後の手続きは宜しく頼んだで〜♪」
 そう言い残して、弾む様な足取りでギルドを後にするティーナ。その背中を見送りながら、うっちゃんは‥‥溜息を吐きながらも、渋々とペンを持つ手を動かすのだった。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea9142 マリー・ミション(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

シルバー・ストーム(ea3651

●リプレイ本文

●いざ魔窟へ
「魔窟探検なんて素敵じゃない。何か見つかるかも!」
 思った以上に大勢の冒険者達の協力を得る事が出来て、弾む様に嬉々と歩くティーナ。そんな彼女の隣を行くマリー・ミション(ea9142)が、冗談とも本気とも取れない調子で言う。
「やっぱそう思うやんな? いやぁ、お目が高いねぇマリちゃん♪」
 対してそれを気に留めるでもなく、陽気に返すティーナ。
 そんな彼女を、後ろを歩くレイ・リアンドラ(eb4326)は微笑ましげに見据えている。
「ふむ、可愛らしい‥‥勇ましいお嬢さんですね。私にとっては大空を飛ぶことが浪漫ですので、その気持ちは良く分かります。夢は忘れてはいけませんよね」
「そうだな。宝探しは浪漫だ。いくら胡散臭くても、瓢箪から駒という事もある」
 アルジャン・クロウリィ(eb5814)も、合わせる様に言う。
 だが、実の所は彼らを含む冒険者達は皆、心から本当にお宝があると思っている訳ではなかった。
「死者が蠢く洞窟に眠る秘宝‥‥字面は凄そうなんだけど、悲報にならないように注意しないとな」
 一同の後ろを歩くレオン・バーナード(ea8029)の呟きに、隣の本多風露(ea8650)も小さく頷く。
「とは言え、聊か不謹慎ではありますが遺跡や洞窟といった場所を探索するのは久しぶりです。まさに冒険者の基本に立ち返った様な気になりますね」
 感慨深げに言う風露。
 そんな彼女の前を歩くオラース・カノーヴァ(ea3486)は、ティーナ達の会話を聞きながら「むふっ」と笑みをこぼす。何か思う所があるらしいのだが‥‥横に居たディーネ・ノート(ea1542)は、そんな彼に思わず尻込みしてしまった。

「ところで、アンデッドって何の事やの?」
 自身の知識を駆使して説明をするマリーに、ふとティーナは問い掛ける。
 アトランティスでは、ジ・アースで言うアンデッドと言う存在自体がほぼ見られない為、余り認知されていないのだ。
「ああ、こちらで言うカオスの魔物の事だ。中々手強くて、冒険者でも敵わない相手もざらに居る」
 飛天龍(eb0010)の言葉に、「ああ、なるほど!」と手を打つティーナ。
 それでも臆した様子を見せない彼女は‥‥ある意味大物なのかもしれない。



●棄てられた魔窟
 一同は各々の用意したランタンと、オラースの従えるエシュロンの灯りを頼りに、洞窟内部を隊列を組みながら慎重に進んでいた。
 途中幾度と無く飛び出してくるのは、ジャイアントラットやラージバットと言った大型の動物モンスター。
 だが、例え群れで来ようと後方から来ようと、歴戦の冒険者達の敵ではない。或る者は一撃に伏し、或る者は氷漬けにされ、或る者は死に物狂いで逃げ延び‥‥。
(「これだけ強い人達に周りを固めて貰えれば、安心して宝探しが出来るわ♪」)
 何も手出しをしていないティーナは、うししと小さく笑みを浮かべながら、迷わない様壁面に印を付けていた。

 やがて、大分進んだ所で一同は比較的開けた空間に辿り着く。
 相も変わらず暗くて陰気臭い場所なのだが、マリーはふと疑問を口に出した。
「‥‥死体が、全く見当たらないわね」
 ギルドの情報に寄れば、この洞窟には近隣住民の死体が、大量に放置されている筈。にも関わらず、ここに至るまで一切その姿が見えないのだ。
「ですが、それらしき臭いはします。と言う事は‥‥」
 言いかけて、口を紡ぐ風露。その先は、言わなくても分かる。先程のモンスター達に貪られたか、或いは‥‥。
「まあ、なんにせよ早いとこ探すもん探して引き上げようぜ? 今日はもう‥‥ぬぉっ!?」
 突然飛び上がるオラースに、一同は驚き視線を向ける。その足下の地面が、良く見ると蠢いている。
「それはクレイジェルゆーて、地面に擬態して不意打ち掛けてくるせこいモンスターや!」
 咄嗟に説明をするティーナ。そして、指を差した先にもう1体仲間が居た。
「ちっ、小癪なっ!」
 オラースは不意打ちをもろともせず自らの獲物を取り出すと、勢い良く突き出す。その先から広がる扇状の衝撃波に、2体のクレイジェルは動きを鈍らせた。
「今だ!」
 そこに飛び掛るのは、レオンにアルジャン、そして風露。見る間に敵は地面に平伏す様にして、そのまま動かなくなった。
「ふぅ、やれやれね‥‥って、上っ!!」
 感覚の鋭いディーネの指差した天井の一部が、剥がれる様にして垂れ下がって来ている。どうやら、まだ居た様だ。
 そこに飛び込み、渾身の一撃を加えるオラース。続け様天龍が拳打によってとどめを刺し、最後の1体も地面に剥がれ落ちたまま動きを止めた。
「ふん、同じ手を二度も‥‥ぐがっ!?」
 ――ゴスッ!
 不運なオラースの頭に直撃したのは、派手に崩れた岩塊。
 バーストアタックは、使い所に気を付けましょう。



●太陽の瞳
「ひぇ〜、ベタベタや〜」
 言いながら、ディーネのクリエイトウォーターで作り出される水を浴びるティーナ。
 あれから彼女はクレイジェルの居た場所を這う様にして探索していたのだから、無理も無い。
 汚れを落とした服や手袋等は傍らで乾かしつつ、寒いのを我慢しながら一糸纏わぬ姿で身体を洗うティーナに、ディーネはふと尋ねてみた。
「ねぇ、そう言えば貴女の探してる『太陽の瞳』って、一体どんなお宝なの?」
 すると、普段から明るい彼女にしては珍しく、その表情を曇らせるティーナ。
「うん、実はな‥‥‥‥!!!」
 言いかけて突然真っ赤になった彼女の視線の先を、ディーネが追うと‥‥。
「あ、いや、その‥‥夕飯の準備が出来たから、呼びに来ただけ‥‥‥」
 ――ゴロン。
 シフール天龍の氷漬けが、地面に転がった。



●死者との遭遇
 それから3日が経った。
 思った以上に深く入り組んだ内部構造に手こずり、まだお宝らしいお宝を見付けていない一同は、探索の最終日であるこの日、洞窟の更に奥の方へと足を進めていた。
 段々と強くなる異臭に顔をしかめながらも、足下に目を凝らして歩いていると‥‥ふと、マリーが足を止めた。
「‥‥居るわ。ここから約10mで、数は5体‥‥内2体は素早い。こちらに向かって来ているわ!」
 彼女は、初日から念の為にとデティクトアンデッドを定期的に詠唱しながら、探索していた。それに引っ掛かったという事は‥‥。
 武器を取り、戦闘に備える冒険者達。そして、依頼人ティーナもスクロールを広げ‥‥その手に現れるのはアイスチャクラ。どうやら、彼女も戦うつもりらしい。
「‥‥無理はしなくて良い。危なくなったら、僕の陰に隠れるんだ」
 盾を構えながら、庇う様に前に出るアルジャンに、ティーナは小さく頷く。

 やがて、一同の前に『それ』は姿を見せた。
 腐敗した身体を揺らしながら歩み寄ってくる4体の死人と、武装した人骨。
 死体の内の素早いものは、人骨と足並みを揃えながらこちらに迫ってくる。
 そして、人骨の装備は良く見れば地元騎士団の物で‥‥。
「ふむ、これが天界で言うミイラとりがミイラという奴ですか。もっとも、私達はミイラになるつもりはありませんがっ!」
 レイの言葉を合図に、冒険者達は一斉に前へ踏み出した。

 ――それは、あっという間の出来事だった。
 まず動きの遅い死体達は、或る者はレオンの素早い連撃の元に瞬殺され、或る者は天龍の華麗なストライクEXのコンボで吹き飛んだ所を風露に切り捨てられ、そして或る者はアイスチャクラで牽制された所をディーネに凍結させられた。
 一方機敏な死体と人骨は、出会い頭にオラースのソードボンバーで身体の一部を抉り取られる。
 そして防御もする間も無くレイのスマッシュが炸裂し、人骨は粉々に砕け散った。
 残るは機敏な死体。だがこれも、他の死体を切り伏せてからこちらに来た風露の目にも止まらぬ一閃とアルジャンのスマッシュ2連発に吹き飛び‥‥マリーのピュアリファイにより、姿も残さず朽ち消えて行った。

 ――カイィン。
 けたたましい金属音は、返ってきたアイスチャクラとアルジャンの盾が接触する音。そして。
「生有る者、いつかは無に帰るもの。眠りなさい‥‥永遠に」
 マリーの静かな追悼の言葉が、洞窟の中に響き渡った。



●報酬
「しかし、ホンマ驚いたわ! あのカオスの魔物軍団が、ものの10秒で全滅やで? これなら、次の探検の時にも安心して任せられるな♪」
 褒めちぎるティーナに照れながら‥‥『次の探検』と言う言葉に硬直する冒険者達。
 今回は散々振り回された挙句、見付けたお宝をしまっておこうとディーネが用意した麻袋も空っぽ。自然と引き攣り笑いが出てしまうのも無理は無い。
「あ、そや。はい、レオたん。これ、欲しがっとった盾や」
 そう言って差し出されたのは、ライトシールド。だが、薄汚れたそれには何処と無く見覚えが‥‥。
「って、これ! スカルウォーリアの持ってた奴じゃないかっ!!」
 大声でまくし立てるレオたん‥‥もといレオンを、「そんなの気にする事ないやん」と軽くあしらうティーナ。
 だが、彼女が持ち出していたのは、それだけではなかった。
 バックパックの中から取り出したるは、泥だらけの金貨に、スリングに使う銀の礫(これは地面に落ちていたらしい)がじゃらじゃら。
「あの‥‥では、この金貨は一体何処から‥‥?」
 恐る恐る尋ねる風露に、さらっと「カオスの魔物からくすねて来た」と言い放つティーナ。
 流石にそれは拙いと思った風露は、すぐに洞窟の中に戻す様に言うが‥‥。
「それこそ死人に金貨や!! このお金かて、あんな陰気臭いとこでカオスの魔物と一緒に腐っとるくらいやったら、世に出回った方が喜ぶわっ!!」
 と言って、聞いては貰えなかった。

 結局分配されたそれらを渋い顔で受け取った冒険者達は、どっと疲れを感じながらウィルへの帰路を辿る。その最中。
「いつか見つかるといいですね、太陽の瞳」
 そう言ってレイに頭を撫でられるティーナの瞳は、既に次のお宝を見据えているらしく、光り輝いていた。