イムンに蠢く巨獣の影
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2008年06月06日
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●オープニング
ウィルの遥か南方に位置するイムン分国。
この国は大陸の南端に位置すると言う事もあってか、特に南部においては外部からの干渉を余り受ける事も無く、然程脅威と成り得るような魔物も見受けられない為、比較的治安が安定している。
故に、今回の出来事は――イムン南部において政に携わる者達を大いに揺るがし兼ねない事態と成り得るものであった。
「謎の巨大生物‥‥で御座いますか?」
呼び付けたアレックスを前に、頷くのはルオウの領主を勤めるエルガルド・ルオウ・フロルデン伯爵。
「左様。ルオウは南端、カリエス地区との境の辺り近隣に住まう者達から、報告が来たのだ。何でも家畜とは思えない様な不気味な肌色をしており、頭には二本の巨大な角を頂く、見るからに凶暴そうな獣がうろついている、とな。これのせいで、住民達は竦み上がってしまい、ろくに作業が手に付かぬそうでの」
「成程、それは捨て置けない問題で御座いますね」
顔を俯けながら相槌を打つアレックス。そして、ふとその顔を上げると。
「そうなりますと、私の御用と言うのは‥‥」
「うむ。御主には彼の獣の素性を探り、必要とあらばその討伐を命ずる。ただし、無理の無き様にな」
エルガルドの命は、ほぼ彼の予想通り。――『無理は無き様に』の部分以外は。
その言葉に、妙な勘繰りを入れてしまったアレックスは‥‥。
「だから、無理は無き様と言うたに‥‥」
数日後、近隣の村で介抱されている彼から、エルガルド宛に手紙が寄越された。
案の定と言った感じで巨獣に立ち向った所、返り討ちに遭って両足を折られてしまい、自力での帰還が出来なくなってしまったそうだ。
手紙に同封された羊皮紙にはアレックスによる巨獣の絵が描かれており、それに目を遣りながらエルガルドは唸り声を上げる。
「う〜む‥‥しかし、この様な奇怪な生物は見た事が無いのぅ。牛の様に四足で立つものと思えば、首周りには禍々しい形の襟が付いており、口は鳥の様に鋭い‥‥。草を食んでいるものと思えば、アレックスの姿を見るや唐突に鼻息を荒げ‥‥。そして、あ奴でも敵わぬ程の怪力を振るう‥‥か」
呟きながら暫く考え込んでいると、彼はふと立ち上がり。
「これは、忌々しき事態であるな。加えて、ゴーレム兵器に関する会議の依頼も取り付けたばかり。万一ベルドーラ様の耳に事の始終が入ろうものならば、尚更厄介‥‥否、余計な御心配をお掛けしてしまう事になり兼ねん。事は内密に、かつ迅速に解決せねばならん」
言いながら、ウィルの冒険者ギルド宛に手紙をしたためる――と。
「‥‥ついでに、アレックスも運んで来て貰うとするか。とは言えども、あ奴は絶対に拒絶するであろうから‥‥『力ずくにでも』だな」
「な、何であろう、今の悪寒は‥‥?」
その頃、天界で言う死亡フラグ待ちのアレックスは、民家のベッドの上で身を震わせて居た。
●リプレイ本文
●巨獣の正体
エルガルドからの依頼を請け、一路イムンへと向かう冒険者達。
フロートシップを相乗りした仲間達と別れ、巨獣の目撃現場に到着すると、一同は予め決めていた通りに分担して情報収集を始める。
「‥‥あれですね」
片や空を駆る白馬ペガサスに跨り、片や神聖魔法ミミクリーをもって大フクロウに変身し、空から村周辺を探るのはルエラ・ファールヴァルト(eb4199)に白銀麗(ea8147)。
彼女達は件の巨獣の姿を、アレックスの介抱されている村から僅かに離れた岩地近辺で発見した。
「概観は、アレックスさんの描いた絵の通りですね。ただ‥‥凶暴そうには見えませんよね」
ルエラの言葉に、頷く銀麗。と言うのも、空から見ている限りでは、巨獣は何をするでもなく、ただ緩慢な動作で草を食んでいるばかり。
ともすれば、温厚な家畜の様にすら見えてくる。
「でも、聞いた限りだとアレックスさんの姿を見た途端、急変したと聞きますし‥‥油断は禁物ですね」
二人は頷き合い、巨獣の姿を目に焼き付けると、一旦村へと戻って行った。
「ふぅ、気難しい方でしたね〜」
民家から出て来るや、仲間達の方を振り返って言うのはソフィア・カーレンリース(ec4065)。
現場の調査は銀麗とルエラに任せ、残った者達はと言えば村で聞き込みに当たっていた。
シャリーア・フォルテライズ(eb4248)を除く三名は、手始めにと言う事で手当てを受けているアレックスを尋ねたのだが‥‥結果は、ソフィアの一言が表す通り、と言う訳だ。
「まったく、子供じゃあるまいし‥‥あそこまで頑なになる事は無いだろう」
時雨蒼威(eb4097)が愚痴っぽく呟けば、その隣のメイ・ラーン(ea6254)は申し訳無さそうに苦笑いを浮かべ。
「いやはや、しかし悪い事をしてしまったよ。出会い頭にスタンアタックなんて、強硬手段を使う事になろうとは‥‥」
「しょうがないですよ〜。あんな身体であんな怖そうな巨獣にリベンジなんて、絶対無理ですから」
そう、アレックスは冒険者の姿を認めるや「これは私の仕事だ、手を出すな」と言わんばかりに、這って巨獣に再戦を挑みに行こうとしたのだ。
そこでメイがきついの一発見舞って大人しくさせた、と言う訳だ。
「やれやれ、アレックス殿の冒険者嫌いも相変わらずか」
そこに現われるのは、シャリーア、ルエラ、銀麗の三名。
彼女達は各々情報収集を終え、話を纏める為に集った所だった。
なにしろ、帰りももう一方の依頼に参加している者達のフロートシップに相乗りしなければならないので、討伐に費やせる時間は実質一日しかない。
と言う訳で、一同は迅速に準備を進めているのだ。
「例の巨獣の姿、確認して来ましたよ。大体はアレックスさんの絵に描かれていた通りの姿でした」
「そうか。って事は、やはり恐獣で間違いないだろう。‥‥それにしても」
言いながら、蒼威は一つ大きな溜息を吐くと。
「どこで何を間違えた‥‥なぜ幼女趣味の誘拐犯に‥‥! 今すぐ、今すぐ親兄弟親戚祖先に全力で詫びろ、ウルティム‥‥!」
「「「「あ〜‥‥」」」」
事情を知っている女性陣4名は、思わず引き攣った笑みを浮かべる。とある男に面識のある一同は、彼の気持ちが物凄く良く分かるだけに、誰も突っ込みを入れられず。
メイはそんな仲間達の様子に首を傾げつつ、その何とも言えない空気を察したのか、ふと口を開く。
「しかし‥‥ついこの間アトランティスに着いたばかりなのに、ずいぶんと危険そうなモンスターと戦う事になりそうだね。‥‥アトランティスだと、これぐらいの危険は普通なんだろうか?」
「いえ、恐獣の様なモンスター相手に生身で戦うと言うのは、今までを見ても稀なケースの筈です」
「とは言え、今後もやはりそれなりの覚悟はして置いた方が良いでしょうな。何しろ‥‥」
言いかけて、口を紡ぐシャリーア。そう、もし巨獣の正体が本当に恐獣だったとすると、ともすれば背後に他国の間者やカオスの魔物等の存在があるやも知れないのだ。
彼女は事ある毎に、石の中の蝶を確認する。だが、蝶は石の中で静かに羽を佇ませるばかり。
「杞憂である事を、祈りたいですね」
銀麗が声を掛ければ、小さく頷くシャリーア。
かくして、一抹の不安を抱きつつ、一同はルエラと銀麗の確認した巨獣の出没地点へと向けて、村を発って行った。
●トラップ作戦
岩の間から生える草を、のんびりとした動作で食むのは噂の巨獣。
今彼の周囲には誰の姿も無く、気ままに食事をしながら徘徊するばかり。
だが――そんな彼に、突然変化が起きた。
視界に飛び込んで来たのは、二頭の空飛ぶ動物に跨った二人の人間。
途端に目を見開くと、息遣いを荒げ、敵意を剥き出しにし――そして、一目散に二人へ向けて突っ込んで行く。
何しろ9mはあろうかと言う巨体に加え、その頭には二本の大きな角を生やした生物だ。まともに攻撃を喰らってしまえば、一溜まりも無い。
当然の如く、二人は左右に散る様にして巨獣の突進をかわす。
それでも尚、興奮冷めやらぬ巨獣は人間に向かって突っ込んでいく。
――それが罠だとも知らずに。
ズズン!!
突然、頭上から降り注ぐのは石の雨。
巨獣は気が動転して暴れまわるも、狭い小路に飛び込んでしまっていた為、思う様に身動きが取れない。
「今だ!!」
グリフォンの山茶花に跨った蒼威が声を張り上げると、一斉に周囲から飛び出してくる冒険者達。
「すまないな。民の暮らしの為、お前を全力で討たせてもらう」
ある者は矢を放ち、ある者は魔法を放ち、ある者は飛び込み斬り付けては離れを繰り返し、一方的な展開で巨獣にダメージを与えていく。
だが、やはり巨獣は見た目通りのタフさを持ち合わせていて‥‥こちらに被害こそ出なかったものの、仕留めるまでかなりの時間を要した。
「何とか終わりましたね」
「ああ。取り合えず盾役の自分の出番が無かったって言うのは良い事だけど‥‥正直冷や冷やしたよ」
肩を叩いてくるソフィアに、冷汗を拭いながら言うのはメイ。
何しろ、役割的に最も巨獣に近い位置に居る訳だから、無理も無い。
加えて、余りにも対格差のある相手から攻撃を受けると防具が壊れてしまう恐れも有る。
「お疲れ様です。本当に、何事も無くて良かったですね」
ルエラの言葉に、改めてメイは頷いた。
その後、屠った巨獣の骸を細かく分解し、火葬して丁寧に埋葬した冒険者達。
「放置しておくと、カオスの魔物となって蘇る場合もありますからね」
銀麗の言葉に頷きつつ、メイは手に持った物をバックパックに仕舞う。
それは、巨獣の正体を調べる為にと回収しておいた角。
これは後に、エルガルドの手に渡る事になった。
「後は‥‥草食動物らしからぬ獰猛さから考えるに、卵を産んでいる可能性もあります」
「そうだな。1匹見たら20匹‥‥後顧の憂いを絶つ為にも、この辺りを念入りに探しておこう」
銀麗と蒼威の提案で、余った時間を周囲の捜索に費やす一同。
だがしかし、心配していた様なものは一切見当たらず‥‥それが逆に、巨獣の行動に対する謎を残す結果となってしまった。
釈然としないものを感じつつ、再び石の中の蝶に目を落とすシャリーア。
蝶は、最後までその羽を動かさず、静かに佇んだままであった。
●最後の一仕事
一先ずは巨獣の討伐と言う大目標を達成した冒険者達は、村へと戻って最後の仕事に取り掛かっていた。
即ち。
「お送り頂いた絵のお陰で、相手の事もわかって助かりましたよ」
「‥‥私は貴殿らの為に、あの絵を描いた訳ではないのだがな。まったく、余計な事を‥‥」
↑これの運送。
最初にメイから鳩尾スタンアタックを貰った事を未だ根に持っているのか、その表情は何処かやさぐれていて‥‥一筋縄とはいかなそうだ。
「僕が思うに、アレックスさんってツンデレなんじゃないですかね?」(ぼそっ)
ソフィアが呟くと、慌ててその口を塞ぐのはメイ。
しかし本人にはしっかりと聞えていた様で‥‥‥‥けれど、首を傾げている所から察するに、意味は分からなかった様子なのでセーフ。
「エルガルド様もあなたをご心配の筈、御主君の為にもどうか我らと共にすぐ帰って頂きたい」
最大限の礼を持ってそう諭すのはシャリーア。けれど。
「‥‥わざわざ仰って下さらなくとも、すぐにでも帰らせて頂く。貴殿等が居なくなった後でな」
帰ってくるのはこんな返事ばかり。流石のシャリーアも、思わず頭を抱える。
「仕方ないですね。それじゃあ、ここは僕のシルフィードに乗せて、強引にでも‥‥」
言いながら、ロープ片手に滲み寄るソフィア。
だが、蒼威はそんな彼女の肩を掴み。
「待て待て。そんな事じゃ生温い。ここは俺に任せておけ」
と言う訳で、アレックスは山茶花に乗せて空輸決定。
「お、おい!! 何をする!! 離さんかっ!!!」
当然本人は必死に抵抗するも、両足が折れている状態で冒険者6人相手に敵う筈も無く――。
「ア゙ーーーーーッ!!?」
「危ないですから、じっとしてて下さいね〜」
アレックスの悲鳴とソフィアの声がイムンの空に木霊する中‥‥念の為ペガサスに乗って彼の横を飛ぶルエラは、何とも微妙な笑みを浮かべながら、その様子を見守っていた。
「おーい、山茶花。もっと高度上げて良いぞー」
「や、やめ○■×▽!!?」