氷に染み入る蛙の声?

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2008年09月14日

●オープニング

『郊外の湖にて、ポイゾン・トード及びジャイアントトードが大発生』

 現場の近隣に住まうと言う男性からそんな情報がもたらされたのは、ある蒸し暑い日の午後の事だった。

 蛙達も、暑さの余り涼でも取りに来ているのだろうか。
 視線を向ければ、そこには大型の蛙がうじゃうじゃと。
 見た目には確かに気味の悪いことこの上ない光景ではあるが、近付きさえしなければ大した危険がある訳でもなく‥‥。
 ましてや現場の湖と言うのは大分集落から離れた場所にあり、近くに住んでいる者と言えばその男性くらいなものだと言うのだから、別段放っておいても何も支障は無さそうに思えた。

 ――が、しかし。

「蛙が‥‥凍らされていた、ですって?」
 受付が声を上げると、途端にカウンターへと注目が集まる。
 そんな中、依頼主となる男性は肩を竦めながら頷くと。
「そうです。放っておくのも気が引けたんで、あっしは定期的に蛙達の様子を見に行ってたんでさ。そしたら昨日は、なにやら湖の周辺が妙に冷えてて‥‥。で、様子を見てみたら畔に冷凍の蛙がゴロゴロと転がってたって訳です」
 彼の説明に、ハーブティー(勿論ホット)を啜りながら考え込む受付係。
 ちなみに付け加えると、凍らされていた蛙は全部と言う訳でなく、ごく一部なのだそうだ。

 誰が一体何の為にそんな事をしたのか。皆目見当がつかない分、不気味な事この上ない。
 そこで、冒険者達には蛙の氷像の真相を突き止め‥‥ついでに、増えすぎた蛙の方もどうにかして欲しいと言うのが、依頼の内容だった。
 だがそれを対応した受付係からしてみれば、何となくそこまで大騒ぎをする程の事件では無い気がしていたのだが‥‥まあ、駆け出しの冒険者にとっても手頃な仕事となるだろうと言う事で、依頼は掲示されるに至った。




「ちょっ‥‥な、何よあんた達!? そんな大勢で取り囲んだりして‥‥」
 ゲコゲコ。
「あ、もしかして仲間凍らされた事怒ってる‥‥? べ、別に良いじゃん! この暑さならすぐに氷は溶けるし、そしたら元通りなんだし!」
 ゲコゲコゲコ。
「う、うぅ‥‥『ききみみもたれ』って奴? し、仕方ないなぁ。でも、いくらあたいでもこの数はちょっと‥‥」
 ゲコゲコゲコゲコ。
「って、のわー!?  な、何よ! あたいの事食べる気なのっ!!? じょ、冗談じゃないってば‥‥ちょっ、これ、アッーー!?!?」

 ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

イコン・シュターライゼン(ea7891)/ ラマーデ・エムイ(ec1984

●リプレイ本文

●詩人暴走
「大蛙と毒蛙の大発生ですと!?」
 事情を聞くや身を乗り出すギエーリ・タンデ(ec4600)、彼から張り上げられた大声に、ギルド中の者達がビクリと肩を震わせる。
「それはもしや、古の伝承に記された大海嘯の前触れではありますまいか!?」
「だ、大海嘯‥‥?」
「左様。伝承には、大いなる破滅をもたらす其れを防がんとするならば、前兆に留まるうちに精霊の御力以て鎮めよとありました。冷気と氷像は、恐らく水の精霊魔法。ならばこの一件、誰も知らぬ処で繰り広げられる大海嘯を巡る争いの‥‥」
 恐らくは何処かの妄想混じりな書物から得た知識なのであろう、彼の口から止め処なく溢れ出て来る浪漫満載の話に、ディーネ・ノート(ea1542)はツッコミも入れられずコクコクと相槌を打つばかり。
「ま、まあ、本当に大海嘯とやらが関わってるのかどうかは分かりませんが‥‥氷像が水の精霊魔法に因るものと言う点は、私も同意見です」
「ああ。何の為かは知らないが、恐らくは誰かが魔法で凍らせたのだろうな。もっとも、氷像の現れた時期と蛙の大発生に気付いた時期とを鑑みても、何の関連性も浮かんで来なかったから‥‥裏付けは難しいかもしれないが」
 物輪試(eb4163)の言葉に、ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)も小さく頷く。
 天界人二人が依頼人も交えて状況分析を行ってる最中、その横に居る加藤瑠璃(eb4288)とエリーシャ・メロウ(eb4333)の女性二人組はと言えば。
『え〜、マジ? カエル? キモ〜イ!』
 とか言ったノリで話してても、それはそれで違和感の無さそうなヴィジュアルなのだが‥‥現実は。
「蛙の大発生とは‥‥正直あまり見たくはありませんね」
「そうね。でも、腕試しにはちょうどいいかもしれないわ」
「ええ。それにもし、群れが人里へ移動すれば一大事になりますからね」
「そうならない様に、しっかりと駆除しないとね」
 うん、何とも冒険者らしい会話である。これはこれで、見様によっては彼女達の魅力とも言えるのかも知れない。

 なんて頷きながら、二人を見据える者に、声を掛けてくるのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)とソフィア・カーレンリース(ec4065)。
 どうやら二人は、久し振りに見たその顔に、労いの言葉を掛けに来てくれたらしく。
 ‥‥これが、嬉しさの余り涙ながらに書き綴られていた報告書であるのは、ここだけの話。



●蛙飛び込む水の音(大音量)
「しかし、これだけ多いと‥‥夜になったらげこげこ五月蝿そうだねえ」
 現場の湖、そこは誰しもが想像していた以上に、広大な場所であった。
 その上空を、グリフォンのオオマガツヒノミコトを駆りながら見下ろすアシュレーが、苦笑を浮かべながら呟く。
 何しろ、畔と言う畔には見渡す限りの蛙、蛙、蛙‥‥。湖面の色まで蛙の体色に染まってしまう程の異常発生振り。
 だが、周囲を探ってみても主だった原因らしきものは見当たらない。
 恐らくこの大繁殖は、人里から離れており天敵も少ないというこの湖の環境に加え、何かしら気象等による要因が加わった故だろうと結論付けると、アシュレーは陸路を往く仲間達の方へ進路を取る。

 と、その時。

「――な、何よ! あたいの事食べる気なのっ!!?」

 眼下から響いた声に思わず視線を下げると、そこにあった物は遠目に見ても分かる程の数の氷像化された蛙、それを更に上回る頭数の蛙‥‥そして、それらの群れの中をちょこまかと動き回る、青い影。
「‥‥シフールの女の子?」
 彼女は飛び交うポイゾン・トードの毒液を掻い潜ると、舌を伸ばすジャイアントトードに近付き‥‥かと思えば、その1.5mもある蛙の身体を凍り付かせてしまった。
 ――どうやら、氷像の件の犯人は見付かった様だ。
「っと、取り敢えず助けないと!」
 一つ呟くとアシュレーはグリフォンに命じて湖面擦れ擦れまで一気に下降し、そしてシフールの少女を今にも飲み込もうとしていた畔のジャイアントトード目掛けて、狙い済ました矢を放つ。
 寸分違わず急所を射抜かれた巨大蛙が鈍い鳴き声を上げながら絶命すると、少女は驚いた様に目を見開き。
「‥‥っ! ファー、エド! お前達は其処で待っていなさい!」
 次の瞬間、逆方面から声が響くと同時に、長槍を構えた女性が飛び込んで来た。
 エリーシャである。
 彼女の助走を加えた渾身の一突きの前には、タフなジャイアントトードと言えど命を保つ事叶わなかった。
 そこに更に切り込んで、活路を開くのは瑠璃。
 オーラマックス(ただし、気力と成功率の問題でレミエラの効果を付与するのは断念した)の効果を持って、次々に毒蛙を斬り倒しながらエリーシャの元まで突き進むと、互いに背中を合わせ蛙の大群と睨み合う。
「其処の貴女! 今助けますから此方へ!」
「あ‥‥う、うん」
 エリーシャの声で漸く我に帰ったといった様相の少女は、一つ頷くとパタパタと羽ばたきながら冒険者達の方へ――。

 ゴロン。

「をおっ!? 一発で掛かってくれちゃったよ‥‥」
 少女の安全を確保するべくアイスコフィンの魔法を発動したディーネが、驚きの声を上げる。
 魔法抵抗の関係上、まずこの少女には掛からないだろうと駄目元で撃っただけに‥‥この展開は予想外であったらしく。
「くっ‥‥彼女をこっちへ!!」
「仕方ないわね‥‥手荒な真似してごめんなさいっ!」
 瑠璃は大急ぎで少女の氷像を拾い上げると、声を張り上げる試の方へと投げ付ける‥‥筈が、大分見当違いな方向へと飛んで行ってしまう。
 それを試は必死で追い掛けると、身体から滑り込んで無事腕の中に収めた。
 ナイスキャッチ。
 その後、ゾーラクがレミエラ効果によるムーンフィールドを張って少女やギエーリ達の安全を確保すると、冒険者達は残された蛙の大群に向き直った。
 群れの中に居た瑠璃とエリーシャの両名が離脱したのを見計らうと、ライトニングサンダーボルトを放つのはソフィア。
 レミエラの効果によって範囲攻撃となった稲妻は、所狭しと密集していた蛙達に容赦なく襲い掛かる。
「流石にこれだけ数が多いと気持ち悪いなぁ」
 思わず顔をしかめながら呟くと、次の瞬間グリフォンから飛び降りたアシュレーがスクロールを広げ、放たれるのはグラビティーキャノン。
 二人による範囲魔法の波状攻撃に、ポイゾン・トード達は瞬く間にその数を減らして行く。
 また、取り零した蛙は試やディーネ、エリーシャと瑠璃の四名が各個撃破する。
 冒険者達の戦い振りに隙は無く、気が付けば畔の一角は大量の蛙の死骸と氷像が残るのみとなっていた。
 幸い、出発前に懸念されていた毒を受けた者も――。
「あ、あはは‥‥ごめんなさい。僕、一回浴びちゃいました‥‥」
 苦しげに息を吐きながら、乾いた笑いを漏らすのはソフィア。
 ポイゾン・トードの毒は浴びれば最悪死に至る事さえも有り得る恐ろしいものだが、解毒さえしてしまえば問題はない。
 医者であるゾーラクによって解毒剤を飲まされ、応急処置を受けるソフィアは、ギエーリが粘液で汚れた皆の武器を洗う音を聞きながら、少しずつ身体の毒が中和されて行くのを感じていた。



●氷結娘
 ――スパーン!
「はゔっ!?」

 依頼人の住居に響く、小気味の良い音。
 救出した少女を、青筋を浮かべたディーネがスリッパで叩いたのだ。
「だ、だって仕方ないじゃん! 暑かったんだから!」
「そう言う問題かっ!!」

 ――スパンスパーン!!

 慣れた手付きでツッコミ(違)を入れるディーネを、ソフィアは介抱されながら何処か羨ましげに見詰める。
「ディーネさんの仰る通りです。さしたる理由も無く、遊び半分であの様な危険な場所に居たと言うのは、感心できたものではありませんね」
「ええ。今回は運良く助かりましたが、今後は身の安全を考えて行動するべきですよ」
 努めて優しく諭すゾーラクとエリーシャ。だが、少女はと言えば耳を貸す事無く。
「誰も助けてくれなんて言ってないもん! ふんだ!」
 頬を膨らませながらプイッと余所を向いてしまった。
「やれやれ‥‥困った人だな、クーさんは‥‥」
 頭を掻きながら、聞こえよがしに言う試。クーとは、見た目にも幼いこのシフールの少女の名である。
 その後頭部に、スリッパを掲げゆらりと忍び寄るディーネ‥‥を、アシュレーは苦笑交じりに制しながら。
「まあまあ。ああ言ってるけど、今回の事で少しは懲りてるだろ? だから、一先ず良しとしようよ。それよりも‥‥」
「問題は、残った蛙だな。一匹見たら百匹ではないが、今後の為に卵も見付け次第、駆除しておいた方が良さそうだ」
 試の提案に異議を唱える物は無く、その後冒険者達は一日かけて湖の周囲を一周し、増え過ぎた蛙を駆除していった。
 ちなみに産卵期ではない故か、卵らしき物は殆ど見つかる事がなかったものの、それを産む根源を減らせば、自然と今後の大発生を抑える事にも繋がるだろうと言う事で。

「しかし‥‥残念ですな。歴史の節目との遭遇が叶ったかと思っていたのですが‥‥」
「いえいえ、やはりそう言った災害は起きないのが一番です。医者に掛からない方が良いのと同じ様に」
 ゾーラクの言葉に、ギエーリは「もっともですな」と頷く。
 だが、やはりその表情は何処か寂しげ。きっと彼は根からの詩人ゆえに、そう言った浪漫を切望して止まないのだろう。
「まあ、冒険者を続けてれば、いずれ機会にも巡り会えるわよ。それより、クーちゃんは一体何処に行ったのかしらね‥‥」
「僕達が戻ったら、居なくなってましたからね〜。依頼人さんも見てないって言ってましたし」
「ま、大方自分の家にでも帰ったんじゃない? けど、放っておくとまた何かやらかしそうで恐いわ‥‥あの娘」
 ディーネの言葉に、思わず苦笑を浮かべる一同。

「‥‥」
 その背後を、木々に隠れながら窺っている者の存在に、気付いた者は無く。