冷製ハーブティーを求めて・計画編

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2008年09月22日

●オープニング

「いやぁ、ここのお茶は本当に美味しいですねぇ」
 ウィルに佇む小さな喫茶店、ミスティ・フォルトレス。
 開店直後で他に客の居ない中、一人の青年がそう言いながら舌鼓を打った。
「冒険者仲間の間で知る人ぞ知る名店と言われるのも頷けます。流石は義兄様の見込んだ方ですね」
「いやはや、そこまでお褒めに預かると、かえって恐縮なのですな」
 対する美形の青年は、ミスティ・フォルトレスの店長ウェリス・フォルトナム。
 店を経営するオーナーウルティムの義弟‥‥サマエル・アルバ・フロルデンが訪れたと言う事で、彼は厨房から出て直々に対応していた。

 サマエルによれば、ウルティムはここ数ヶ月ほどイムンの実家とウィルとを行ったり来たりしていて、中々店の様子等を見に来る事ができていないのだとか。
 それでも納税とか言った店を経営する上での手続きだけは欠かしていない為、安心して喫茶店業を継続して欲しい。
 その伝言ついでに、サマエルはお茶をご馳走されている、と言う訳だ。

「いやはや、ウルティムさんには何だかんだで多大な恩がありますからな。足を向けて眠れないのですな」
「ええ、義兄は面倒見の良い方ですからね。おまけに本人は気付いていないながら、天性の人選眼も持ち合わせているみたいですし‥‥」

「「‥‥勿体無いですね」」

 と、二人が声を揃えて苦笑いを浮かべるた所で、誤魔化す様に話題はハーブティーへ。
「それにしてもこのハーブティー、味に関しては全く問題ないのですが‥‥やはり、今の時期に嗜むには季節外れな感がありますよね。特に夏場なんかは、売り上げが伸びなかったんじゃ無いです?」
「う‥‥察しが良いのですな。仰る通り、暑い時に熱いお茶を飲もうとするお客さんは中々居なくて‥‥」
 僅かにはにかみながら笑うウェリスの表情には、隠されているもののそれ故の苦労が窺える。
「ええ、でしょうね。そこで、先日知り合った天界人の冒険者仲間からこんな話を聞いたのですが‥‥試してみては如何でしょう?」
「‥‥? と、申しますと‥‥?」



 そんな遣り取りがあったのが、今から一週間程前の事。
 そしてこの日‥‥冒険者ギルドのカウンターには、喫茶店で働く一人の従業員の姿があった。
 何でも話に因れば、サマエルにアイディアを聞いてからと言うもの、職人ウェリスの悪癖(?)がまたもぶり返してしまったらしく。
 ここ一週間程、研究に明け暮れる余りまともに眠っていないのだという。
 それ程に打ち込んでまで、彼が何を作ろうとしているのかと言うと‥‥。
「アイスティー? と、言いますと‥‥?」
「何でも、冷製のハーブティーだそうです。淹れたお茶を泉の冷水で冷やして飲む物らしいのですけれど‥‥」
「ほう、それはそれは‥‥何とも斬新な試みですね」
 言いながら、傍らのハーブティーに手を伸ばす受付係。
 実を言うと彼自身も、夏場は余りハーブティーを飲んでは居なかった。
 理由は無論、熱いからだ。
 ところがもしその試みが巧くいくならば、季節を問わずいつでも好きな時にハーブティーを嗜む事が出来る。

 ――素晴らしいじゃないですか!!

 と、目を輝かせる受付係に水を差す様に、口を開くのは従業員。
「ところが、ただ冷やせば良いって話でもないそうなのです。と言うのも、冷やすとお茶の味が変わってしまう上に、香りも死んでしまうそうで‥‥」
「あー、なるほど。確かに、ウェリスさんのハーブティーは蜂蜜等を殆ど入れなくても楽しめると言うのが売りでしたからねぇ‥‥。香りが消えてしまえば、残ったえぐ味や苦味等が強調されてしまう訳ですか」
「さあ、私もそこまで詳しい事までは良く分からないんですけど‥‥」
「そう言えば、彼自慢のアップルティーはどうだったんです? あれなら、香りはある程度残りそうなものですが‥‥」
「いえ、尚更駄目だったそうです。林檎の葉の味が災いして、くどくなってしまうとかで‥‥」
 あー‥‥と、苦笑を浮かべながら頷く受付係。
 なるほど、これは思った以上に難解な問題な様だ。
 このまま研究を続けたところで、お客さんに出せる物がいつになったら完成するのか、想像もつかない。
「けど、あの店長の事です。きっと完成するまで不休で研究を続けるでしょう。ですから、お願いします!! 何とかして、あの人を止めて下さいっ!!」
「い、いえ、止めるって‥‥そこは『手伝う』ではないのですか?」
「どっちでも良いです!! 店長さえちゃんと寝かせてくれれば!!」
「‥‥」

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●不摂生な店長
 冒険者達がウェリスを訪ねると、案の定彼はその事にも気付かない程に研究に没頭していた。
 一同は呆れ顔を浮かべながら、如何に声を掛けたものかと思案する――と、そこに歩み出るのは倉城響(ea1466)。
 成程、お茶淹れ撫子の二つ名を持つ彼女であれば、掴みは完璧かも知れない。
 皆の期待の眼差しを一身に受ける中、響はすっと湯気の上がる湯呑みをウェリスの横に置いて。
「失礼しますね。そろそろ休憩してはいかがでしょうか?」
 お盆‥‥もとい、トレイを胸の前で抱えながら、そう尋ねてみる。
「‥‥」
「余り根をつめると、お身体に障りますよ?」
「‥‥‥」
「没頭するのも良いですが、休む事で名案が浮かぶ場合もあると思います♪」
「‥‥‥‥」
「う〜ん、とっても集中してるみたいです。邪魔するのも悪いですね♪」
 響はウェリスの背中に向かって丁寧に一礼すると、踵を返して仲間の下へ――。

 スッパーーン!!!

「どぅはっ!!?」
 彼女と入れ替わる様にして、ハリセン(紀州の絹織物と和紙を張り合わせた簗染めの高級品)を振るうのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
 流石のウェリスもこれには驚いたらしく、思わず振り返った。
「‥‥あ。これはこれは冒険者の皆さん。お久し振りなのですな」
「あ、えっと、御無沙汰しています。最近お店どうですか?」
 てっきり文句の一つでも飛んでくるのかと思えば、返ってきたのは和やかな挨拶。
 そんな彼に思わずソフィア・カーレンリース(ec4065)もペコリと会釈しながら挨拶を返すと――ずいっと割り込んでくるのは物輪試(eb4163)、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、そしてアシュレー。
「またウェリスさんが無茶をしていると窺ったので、お邪魔してみれば‥‥。そんな事ばかり続けていたら、身体が持たないぞ?」
「う‥‥べ、別に無理している訳では無いのです。一度研究を始めると、床に着いても眠れなくなってしまうだけなのですな」
「それ、もはや病気ですよ。仕事の鬼とはこういうことを言うのでしょうか‥‥」
 ニルナは思わず深い溜息を吐きながら、首を振る。
「とは言え、自分の体調管理のできない人が良いお茶を作れるとは到底思わないのですけどね‥‥。良い考えはまず清く健康な体からと言うじゃないですか」
「そうそう。そんな不眠不休でやって、100%のお茶が出せると思う? またそんなものをお客に飲ませたいのかな、ウェリス店長は?」
 ニルナとアシュレーが言うも、やはりウェリスは渋り顔で。
「お、お客さんに出すお茶の味は落としていないのですな。きちんと茶葉の分量から時間まで、寸分の誤差も無く‥‥‥‥あっ、もしかして」
 言葉が終わらない内に、また向き直って研究を始めてしまった。
 流石にこれには、冒険者達も呆れ顔。
「やれやれ‥‥本当にそんな調子だと、今に取り返しのつかない状態の身体になっちゃいますよ?」
 ナンパの達人ソフィアが諭せど、何処からともなく現れた銀髪の美女が胸を押し付けて色仕掛けしてみれど、職人モードでおまけに朴念仁のウェリスには効果を為さない。

「「「か く な る う え は」」」」

 ゆらり、と。
 ニルナ、ソフィア、響の三名が強硬手段(力ずく的な意味で)に出ようと彼ににじり寄ると――その間をすっと抜けて歩み出るのはゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)。
 かと思えば、彼女は先程響が傍らに置いた湯飲みを彼の目の前に差し出し。
「でしたら、せめてこれを飲んで下さいませ。良い気分転換になりますよ」
「ん、どうもなのですな」
 殆ど無意識に湯呑みを受け取り、そしてぐいっとその中身を呷るウェリス。
 ――途端に。

 バタッ。すー、すー‥‥。

「‥‥眠ってしまいましたね」
「おかしいですねぇ? これはただ、塩漬けした桜の花びらを煎じただけの物だったのですが‥‥」
 一同が訝しげな表情でウェリスの周囲に集まる中、その様子に背を向けながら、ゾーラクはキラリと目を光らせる。

「‥‥計画通り」



●久し振りのウェイトレス
 一先ずウェリスを休ませる事には成功した冒険者達は、彼が深い眠りに着いている間、各々が思い思いに店の手伝いに当たっていた。
「はぁい、お帰りなさいませご主人様♪」
 いつの間にかその中に混じって、優雅な身のこなしでウェイトレスをこなすのは、メイド姿の銀髪美女。
 ウェリスにこそ色仕掛けは失敗したものの、その容姿はお客さん方を骨抜きにするには十分過ぎる程の物で。
 しかも妙に、業務に慣れた感じさえも漂わせる‥‥彼女は、一体何者なのだろう?
「そうそう、忘れない内に‥‥♪」
 呟きながら物陰に隠れて取り出したるは、デジタルカメラなる天界製品。
 ‥‥‥‥。

 MA☆SA☆KA


「お久しぶりです。最近涼しくなってきましたね」
 努めて意識を『彼』から逸らすと、目に入るのはお馴染みの赤いエースメイド服に身を包むソフィア。
 豊満な胸元を強調しつつ、他のメイド服型の制服とは一線を画す程に丈の短いスカートは、いつもながら‥‥否、彼女の魅力(ナンパスキル)の向上も相まってか、いつも以上に馴染んで見える。
 思えば彼女のあの姿を見るのも久し振りな訳で‥‥思わず舞い上がってしまう者も客、従業員を問わず少なくは無かった。
 まあ、その中で度の過ぎた行いをする者は、多分に漏れずきついお仕置きが。

 ――ゴバチィン!!!

 ‥‥銀のトレイとブラッディトレイの併せ技により、当者比三倍の威力で待ち受けていたりする。(比較したらしきお客さん曰く)
「聞き分けのない大人は少し手荒に扱っても壊れないそうですから‥‥ふふ」
 妖しげな笑みを浮かべながら店内を巡るのはニルナ。
 優雅にブロンドの髪を棚引かせる笑顔で清楚なメイドさんの彼女も、ソフィア同様に暴走客制裁要員なのだが‥‥やはり客足が少ない故にそっち方面では余り出番が無く、何処か寂しげに下げ膳をしていた。
 そして、その先の洗い場には試。
 何か店の役に立ちたいと、進んで掃除や皿洗い等を買って出た彼は、その貢献度の高さ故に他従業員達からの株が、本人も知らずの内にぐんぐん上がっていて。
「そうそう、ウェリスさんに差し上げようとハーブケーキを焼いたのですが、どうも機会を逸してしまって‥‥。折角ですから、試さん如何です?」
「市場でハーブを調達していたら、幾らかお土産を頂いてしまって‥‥。試さん、宜しければ貰って頂けませんか?」
「ああ、ありがとう。後で休憩の時に頂こう」
 人徳もあって、役得は彼に集まる集まる。
 それはもう、羨ましい程に。

「おや? 何処かで見た顔と思ったら‥‥」
 ふとホールの方で聞こえた声に、冒険者達の視線が集まる。
 そこにあったのは、某領主にして冒険者(にして今回の件の発端)であるサマエル・アルバ・フロルデンの姿であった。



●画期的な手法
「いやはや、暫く音沙汰が無かったから心配したけど、彼が元気にしてると聞いて安心したよ」
 サマエルを見送った後、アシュレー(男)が言うのは『珍獣』ことこの店のオーナー、ウルティムの事。
 何でも今彼は、通いで実家に帰りながら父親に色々と叩き直されている最中らしい。
「もう暫くすれば、またウィルに戻って来るとの事だし‥‥彼『自身』に関しては、一先ず心配無さそうだな」
 もっとも、それはそれで他の心配事が増えそうではある。

「それにしても、『水出し』と言いましたか‥‥。この様な方法があるとは、驚きなのですな」
 元から店に備わっていた氷室、そこにアシュレーのスクロール魔法アイスコフィンによって一部の温度を更に低くし、天界で曰く『レイゾウコ』に近しい空間を作り上げた冒険者達。
 そこで、普通に熱湯で淹れるよりも大目の茶葉を漬けた常温の水を一晩寝かせた物を手に、ウェリスが感心しながら呟く。
 これを提案したのはゾーラク。どうやら彼女の出身地である天界で編み出された手法らしく‥‥そもそも茶を冷やして飲むと言う事自体が一般的でないアトランティスにおいては、斬新な事この上ない。
「ふふ‥‥もちろん試作品ができたら頂けるんですよね?」
「ええ、それはもう。皆さんの意見も是非窺いたい所なのですな」
 と言う訳で、ニルナが再度作り直したハーブケーキと共に、卓を囲んだ冒険者達は水出しした冷製ハーブティーの試作品を各々口に運ぶ。
「‥‥へぇ。ゾーラクさんの言った通り、水出しするとハーブティー特有の苦味が消えて、中々飲み易くなっていますね〜」
「その割には香りも余り失われず‥‥成程、これはこれでいけるかも知れません」
 目を見開きながら言うのはソフィアとニルナ。
 天界出身のゾーラクと試も、想像以上に巧く淹れられた事に、一安心と言った様子だ。
 だがしかし。
「ふむ‥‥確かに普通に嗜むには問題無いかも知れ無いのですな。けど、やはり既存の茶葉ではどうにも味が弱く、物足りなくなってしまうのですな‥‥」
「そうですね〜。これでもかなりふんだんに茶葉を使ったのですけど‥‥」
 響も頬に片手を当てながら、困った様に首を傾げる。
「それに、もう一つ‥‥大きな問題があるのですな。それは‥‥」
「――水、だね」
 目を瞑りながら、レミエラ効果で味覚と嗅覚を研ぎ澄ませていたアシュレーが、ボソリと呟く。
 そう、水出し法で淹れた茶は、水の味に大きく左右されるのだ。
 ウェリスも普段茶を入れる時には、かなり上質な水を使っているのだが‥‥それでもやはり雑味が残ってしまっているらしく。

 加えて、この方法で茶を淹れるには一晩と言う時間を要する上に、魔法無しで低温を長期間保持出来るレイゾウコの様な氷室も確保しなければならない。
 氷室に関しては、試がかなり具体的な案を出してきたものの、5日という依頼期間では到底為し得るものではなく‥‥。
 加えて、冷製ハーブティーの為だけそこまでするとなると、どうにも採算が合いそうも無い。
「まだまだ、研究の余地有りだね」
 アシュレーの言葉に、一同は顔を伏せるばかりであった。

 ともあれ、水出し法の発案は、彼の研究に大いなる進展をもたらした。
 加えて、サマエルが差し入れてくれた『紅茶の葉』も組み合わせる事で、ハーブのブレンドの幅も広がった。
 未だ完成までの道程は険しいが、冒険者達の協力とウェリスの意欲さえあれば、いずれこのかつて無い試みを、実現させる事が出来るかも知れない。

 その日まで、彼の研究は続く。
 ‥‥ゾーラクの残した、『強引にでも休息がとれる薬』(本人はその実態を知らない)を傍らに置きながら。