【ハロウィン】の夜を護れ!〜珍獣帰還〜
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月30日〜11月04日
リプレイ公開日:2008年11月07日
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●オープニング
天界には、アトランティスには無い独特の文化・文明による産物が、数多く存在する。
『ハロウィン』と呼ばれる祭典もその一つで、かなり変わった趣を持つこの行事は、アトランティスの人々の間にも徐々にその存在を知らしめられてきていた。
だが、百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、話でしか聞き及んだ事の無い者達がそれを再現しようとすると、至る所に誤解による齟齬等が生じたりするもので。
今回の出来事は――その中でも最も悪質なケースであると言えるだろう。
ウィルの街の東端に佇む、一軒の大きな屋敷。
そこはイムンに領土を持つ貴族の子息、ウルティム・ダレス・フロルデン――通称『珍獣男』の居住いとされている場所。
彼が思うところあって、実家に帰ったのが今から数ヶ月前。それからと言うもの、貴族としての心得やら政の基礎やらを、一から叩き込まれていたのだとか。
屋敷に住み込みで働いているメイド達は、彼の義弟で冒険者でもあるサマエルから、そんな主人の苦労談を聞かされていた。
故に――まあ大分アレな主人ではあるし、正直彼女達としてもサンドバッグにしていた感も少なからずあったのだが――少なくとも久し振りに帰ってくると言う時くらいは、精一杯持て成してあげようと誰しもが考えていた。
そして、イムンで患っていた病も治り、いよいよ迎えたその日。
事前に報せを受けていた屋敷のメイド達は、皆が皆正面玄関に集って主人の帰りを出迎え‥‥。
そして、硬直した。
「あ、あの、ウルティム様? そのお荷物は、一体‥‥?」
相変わらず肥満体型の彼が、数人の手伝いと共に抱えて来た巨大な麻袋。
それを指差し恐る恐る尋ねるのは、実質メイド長のレモン(パラ・23歳)。
「ああ、これ? いやさ、もうすぐ天界で言う『ハロウィン』って言うお祭りがあるらしいじゃん? それに備えたお菓子だよ♪」
「お菓子、ですか〜?」
彼女達の誰しもが『ハロウィン』と言う名前は聞いた事があっても、その概要までは理解していなかった様子で。
その中の代表として、小首を傾げながら間延びした調子でメイドのミルク(パラ・年齢不詳)が尋ねると、ウルティムは心なしか頬を上気させながらにんまりと笑みを浮かべ。
「そうそう、ボクも知り合いの天界人に聞いて初めて知ったんだけどさ――」
――この後の彼の言葉には、公の文章として公表するには不適切な表現が多々含まれていた為、詳細な内容までは示す事が出来ないが。
要約すると、彼の『ハロウィン』に対する解釈は、こんな感じだった。
・お菓子を用意した家。
・コスプレをした子。
・『イ タ ズ ラ』。
「‥‥‥‥‥‥(絶句)」
その場に居合わせた皆が皆、ディフォルメ調な顔で硬直する中、そんな彼らの気など知る由も無く一人で舞い上がっている珍獣。
この時、出迎えに上がった誰しもが、ちょっとでも彼に対して情を移していた事に後悔した事は、言うまでもない。
と言う訳で、このまま当日まで彼を放置するのは余りにも危険と判断したメイド各位は、一丸となって自腹を切り、ギルドに依頼を提出する事にした。
とは言え、彼の邪な推測(笑)とは一切関係無しに、皆が皆『ハロウィン』と言うイベントを楽しみたいと言う気持ちもあるので、無難な形でその如何を教えて欲しい、ついでに一緒に祝って欲しいと言うメッセージ付きで。
こうして、様々な思惑が巡る中――天界の行事を基にした世にも珍妙な夜が、ウィルの街の一角に訪れようとしていた。
●リプレイ本文
●再会と言う名の修羅場
珍獣屋敷に訪れる冒険者達を迎えるのは、屋敷の主ウルティムと、彼に仕えるメイド達。
多くの者とはこうして再会するのは数ヶ月振りと言う事で、かなり気合の入った出迎え方をするウルティム――の横を、すっと擦り抜けること数名。
「や♪ お久しぶりね。また、よろしく」
早々に何とも華麗なスルーを披露したディーネ・ノート(ea1542)は、しゅたっと左手を挙げメイド達に挨拶。
ついでにお土産と軽めのお菓子を一同に配ると、そんな彼女の後からすっと現れる導蛍石(eb9949)。
「お初にお目にかかります。僧兵の導蛍石です」
『僧兵』と言う言葉に一部の者は耳慣れて居ないのか首を傾げていたが、それでも人当たりの良さ気な彼の挨拶に、メイド達も笑顔で応える。
――そう、この時には誰しもが彼に対し、『優しそうな人』だと言う印象を抱いていた。
「ウルティムさん、お久しぶりです! すっかり元の体型ですね〜」
と、忘れ去られかけていた珍獣に対し、元気良く挨拶するのはソフィア・カーレンリース(ec4065)。
「おおっ!? ソフィアたん久し振りっ!! 君こそ相変わらずのメロンカッpげぱっ!!?」
めきょり。
ソフィアの顔の横を掠めて伸びるのは、畳んで縦に構えた羽扇。鳥の羽で出来た扇子と言えど、親木は割と硬い。
ウルティムの丸っこい顔面にめり込むそれの持ち主‥‥ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は、不吉な程に麗しい笑顔を見せて。
「お久しぶりです。そしてさようなら‥‥な状態になりそうですね、ウルティム・ダレス・フロルデン」
――中略。
「まあ、ウルティムだから本質は変わらないよね」
珍獣の戦友たるアシュレー・ウォルサム(ea0244)も、互いに相変わらずな光景に苦笑を禁じえず、少し下がった位置でやれやれと手を広げていた。
●お菓子をくれなきゃ‥‥?
――カキィン、ボゴッ!!
「げふぅ!!?」
「ほら、ボールから目を離さない!! まだくたばるには早いぞっ!!」
一体何をして居るのかと言うと。
話は数分前に遡る。
一応冒険者達は、一部始終をギルドで聞いてはいたのだが‥‥念を押して、物輪試(eb4163)は彼に対し、こう尋ねていた。
「ハロウィンとは何か? どういう事をするのか? 教えて頂けませんか?」
そ の 結 果 が こ れ だ よ !
端折り過ぎな気もしないでも無いけれど、寧ろその遣り取りに関して詳しい描写をすると、規制が掛けられてしまうので御容赦(以下略)。
「珍獣殿‥‥ちょっとは見直したものと思えば‥‥」
鬼の様なノックに励む試の傍ら、捕球の手伝いをしているシャリーア・フォルテライズ(eb4248)が口を開けば、深い嘆息と共にそう漏らす。
「まさかお菓子を『犯(規制)』と間違えて、『(規制)してくれないと(規制)しちゃうぞ』等と、本当に勘違いされていたとは‥‥」
まさにご名答。奇跡的な物を感じざるを得ない程に彼女の予測は、ぴたりと的中していたのだ。
嬉しくない奇跡だが。
「ぜぇ‥‥ぜぇ‥‥」
と、気が付けばもはや虫の息なウルティムを見遣り、流石にやり過ぎたかと戸惑いを見せる試。
そんな彼の不安は――直後、取り除かれる事となった。
「はい、これでもう動けるでしょう?」
ウルティムにかざした手を退けるや、にっこりと微笑むのは蛍石。
彼は神聖魔法のリカバーを持ってして、傷を治療したのだ。
すると一部始終を見守っている物好きなメイドのギャラリー達からは、「蛍石様やっさしぃ〜!」等と声が上がる。
‥‥だが、考えてみて欲しい。
どんなに手酷い傷を負ったとしても、直ぐに回復されると言う事は――。
「さあ、治ったなら続行だ!! さっきよりも激しく行くから、気合入れろっ!!」
試の熱の篭もった声、そして情けない悲鳴が響き渡った。
蛍石「リカバー入りま〜す」
「死ななければどんな重傷だろうとあっという間に元通りに治療できますので、皆様どうぞ心おきなくお仕置き‥‥もとい、修正の方を」
「それって延々とお仕置きされるって事?」
「いえいえ。負傷した方を元通りに治療するのが私の役目でございまして」
「お喋りしている場合じゃないぞ! 次は零距離ノック百本だ!!」
「ら゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙!!?」
蛍石「おお、リカバーリカバー」
「あはは〜、本当相変わらずですね〜」
漸く試の息も上がってきた頃を見計らって、現れるのはソフィア。
対してボロ雑巾の様な状態で地に伏していたウルティムは――その姿を見るや、瞬間的に飛び起きた。
と言うのも、何故か彼女はその身にセーラー服を纏っていたからで‥‥次の瞬間。
「‥‥っ! 水でもかぶって反省してください!」
ウルティムに桶一杯の水がぶちまけられる。何が起きたかはお察し。
だが、寒空の下の水如きで止まる珍獣でもない。案の定メロン‥‥ゲフンゲフン、胸元にダイブを決め込もうとする彼を前に――突然、ソフィアはセーラー服を脱ぎ去った。
すると、その下から現れたるは透き通る絹の様な柔肌‥‥ではなく、なんと忍装束がっ!!
そう、彼女こそ妖艶なる女仕置き人、稲妻のソf
「その行動、失敗でしたね! ライトニング・フィンガー!!」
――巻き添えである。
蛍石「リカバー二丁で〜す」
「ぐぅぅ‥‥僕のこの手が真っ赤に萌える、メロンをつかm(規制)」
アシュレー辺りがフラッシュバックでぶるりと身震いをする中、それでもまだ懲りた様子を見せない珍獣がわきわきと手で空を掻いていると――その手を、誰かがぎゅっと掴む。
そんな状況に無駄に時めいたか、珍獣は希望に満ちた表情で顔を上げ――直後、一気に血の気が引いた。
「ふ、なかなかまるっとしたトコロが可愛いじゃないか」
そこに居たのは金髪青眼の美青年、所謂ウホッ☆いい男。
彼はブロンドの髪を優雅に揺らしながら、ポカンとしているウルティムの丸っこい顎に手を掛けて。
「や ら な い k」
「イ゙エ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ァ゙!!!!?」
‥‥実は、その男性の正体は禁断の指輪で性別の境界を超越したシャリーアだったりするのだが。
タネを知っていないと、これはなかなかどうして見ている方にも中々な大打撃を与え兼ねない絵面。(ただし、一部の嗜好をお持ち合わせの方は(以下略))
とは言え、本人も一線を越えないようにと程度を弁えていたのだが‥‥そこに遥か及ばない内に泣き出してしまったウルティムに、一同は申し訳無さそうな表情を浮かべる。
仕方ないとばかりに、メンタルリカバーを掛けてあげようと前に踏み出す蛍石――を、アシュレーが片手で制した。
どうやら彼は、ウルティムにフォローを入れると言う(ある意味)難しい役割を買って出てくれるらしい。期待3割不安7割の視線が、その背に集う。
そんな中、アシュレーは這い蹲るウルティムをガッと起こし上げると。
「答えろウルティム!! 流派!! 萌道は!!」
「巨竜の風よ!!!」
――嗚呼、アトランティス。
願わくば、彼等の身にヒュージドラゴンの怒りが降り注ぐ事の無い様。(合掌)
●ハロウィンパニック!
翌日。屋敷では当初の予定通り、地元の子供達等も集めてハロウィンを祝うパーティーが催されていた。
元々祭り好きなアトランティスの人々の性分もあってか、冒険者達が口伝でこのイベントの事を広めてみた所予想以上に受けが良く、気が付けば大勢の人々と「トリック・オア・トリート!」の声で埋め尽くされていた珍獣屋敷の広大な庭。
「やれやれ‥‥今朝の有様を見た時には何事かと思ったが‥‥」
そんな様子を隅で見据えながら、腕を組んで居るのはウルティムの父のお抱え騎士アレックス。
何故イムンはルオウに居る筈の彼が此処に居るのかと言えば‥‥今回の騒動の発端、即ちウィルに帰って来た直後のウルティムの荷物持ちを勤めさせられていた事を、謝らせようとどちら様かが動いたが故だったりする。
ついでにパーティーにも参加する事になったのだが、本人は仮装も固辞し、こうして隅で仏頂面を浮かべている訳で。
そんな彼の姿を認めて近付いて来るのは、シャリーアにディーネ、そして蛍石の三名。
「とりっく・おあ・とりーと♪」
と、シャリーア。案の定、突然の事に何事かと目を見開くアレックスに対し。
「『お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ』と言う意味だそうです」
「否、それは存じているが‥‥」
まあ、彼も一応はハロウィンのある世界の出身、それで居て神聖騎士だし。
言いながら目を逸らす彼に、シャリーアは目に見えて切なそうな表情を浮かべる。
どうにも彼女がヴァンパイアと呼ばれる吸血鬼の姿を見せた時から、彼はずっとそんな調子で。
「照れているのでは?」
「だ、断じてそれは無いっ!」
蛍石からシャリーアへの耳打ちに、過剰反応アレックス。
「まあけど、今朝は悪かったわね〜、驚かせちゃって」
にははと笑みを浮かべ両手一杯の菓子を頬張りながら言うのはディーネ(けものみみもーど)。
それはそうだろう、珍獣屋敷を訪れたアレックスの目に飛び込んで来たものが、土下座をする主の子息の姿だったなんて‥‥。
「まあけれど、ウルティム殿が間違った認識を改めて下さったのは、ディーネ殿の根気強い説明のお陰ですからな」
「むぇっ!? い、いや、私はそんな大層な事は‥‥」
途端に真っ赤になりながら顔を俯けるディーネ。それに伴い獣耳ヘアバンドもまるで本物の様にピクピクと‥‥‥‥いや、気のせい‥‥?
「そ、そう言えば、あいつは何処行ったのかしら? 何かさっきから姿を見ないけど‥‥」
――それは、庭の物影で蹲りながら、しきりに何かを呟いていた。
「メイドさんこわい、メイドさんこわい‥‥」
まるでどこぞのラクゴの様だが、そんな彼の背後数十歩の位置には、ノリノリで子供達等に銀のナイフを‥‥じゃなくてお菓子を配り歩く、一人の銀髪メイドの姿が。
代わりに先程までソフィアやニルナにちょっかい出したり、宴も酣な所を見計らってトランペット演奏をしたりしていた道化師アシュレーの姿は無く――。
「メイドさんこわい、メイドさんこわい、メイドさんこわい‥‥」
‥‥合掌。
と、そんな『彼』から少し離れた所には、チャイナドレスに身を包む女性二人の姿があった。
「お菓子があれば何もいらないですね」
言いながら、その内の背の高い女性――ニルナは見てる方の胸が透く程豪快に、目の前のお菓子を平らげて行く。
だが、対して背の低い方‥‥レモンはと言えば、彼女の言動に驚きの表情を浮かべ。
「‥‥甘いお菓子も良いですが、酸味のある果実も私は好きですから。ふふ、安心してくださいレモンさん」
「ニルナ様‥‥♪」
ドザザザザ、と、何処かで粉末状の何かが雪崩れる様な音が聞こえた気がする。
「‥‥おっといかん、見とれている場合では無いな」
努めて目を逸らし、「トリック・オア・トリート」の言葉と共に沢山群がってくる子供達にお菓子を配っていくのは試。
別段目立つ仮装をしている訳ではないのだが、彼の発する『オーラ』によるものか、どう言う訳か彼の周囲からは子供による人だかりが消える事無く。
お陰で、彼の用意した酒類も手を付けられる事無く、最寄のテーブルの上で寂しげに。
‥‥。
‥‥あれ?
酒が、無い?
――バチイィン!!!
突然に何かを引き裂く様な音が響くと、その場に居た者達の視線が一斉に集る。
その先には、脱ぎ捨てられた巫女服を無造作に掛けられた黒こげウルティムと――。
「やっぱりこの服は窮屈じゃの〜!」
何やらやたらに素肌の露出の激しい、天界曰く『スク水』に良く似た形の仮装に身を包んだ‥‥ソフィア。
「‥‥だ、誰かしらん? ソフィアさんにお酒を呑ませたのは‥‥」
「い、いや、持ち込んだのは俺だが‥‥あ、あれ? いつの間に‥‥」
「ビッ!(サムズアップ)」
「しかし、ソフィア殿に比べて私は‥‥。ホントに男性に見えるとか、そんな事は無いよな‥‥」
「い、いえ、今はそんな事を言っている場合では‥‥」
「そ、そうですね。取り合えず退散を‥‥」
「うぅ‥‥珍獣は一人だけでは無かったかっ‥‥! ええい、お主ら全員平伏せぃっ!! まだまだクイーン・ザ・スペードの名を捨てた訳では無いぞ!!? 名誉の‥‥ばんかいの一つも見せてみぃ!!!?」
「「「「「「に‥‥逃げろおぉーーーーーー!!!!」」」」」」
(「笑」)
会場が騒然とした雰囲気に包まれながら――ハロウィンの夜は、結局慌しく更けていった。