【ハロウィン】仮装はコスプレだぜ!?
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月31日〜11月05日
リプレイ公開日:2008年11月09日
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●オープニング
天界には、アトランティスには無い独特の文化・文明による産物が、数多く存在する。
『ハロウィン』と呼ばれる祭典もその一つで、かなり変わった趣を持つこの行事は、アトランティスの人々の間にも徐々にその存在を知らしめられてきていた。
だが、その趣向故か些かいけない方向に走ってしまう者も、中には存在する訳で。
メイの街の一角に佇む、衣類専門店『レイニーデイ』。
この店は開店してから間もないと言う事も言う事もあり、一見してこじんまりとはしているが――されど扱っている商品のデザインの斬新さもあり、少しずつ口伝で評判を呼びつつあった。
ここの店主は、15歳と言う若年にしてそれらの衣装全てのデザインを手掛ける、マリ・ミストレインと言う名の天界人の少女。
何でもその才能を貴族に認められ、街中に店を構える事を許されたと言う経歴を持つものだから‥‥。天界の文化に根付いたデザインと言う要因もありきではあろうけれども、それにしてもそんな才気溢れる少女の姿を見る為にと言った目的で、店に足を運ぶ者も少なくはない。
が、年若い分『若さ故の過ち』と言ったものも存在する訳で――。
「な、何ですかコレはっ!?」
声を張り上げるのは、レイニーデイに勤める従業員の少女アリサ。
と言うのも無理は無く、店の中は何やら蝙蝠の羽の様な切れ込みの沢山入った黒いマントとか、貴族の屋敷とかで働くメイドさんの服をやたらカスタムした様な衣装だとか、目と口の様な形の穴が開けられている白い布だとか‥‥そう言った類の、奇々怪々な衣装に埋め尽くされていて。
「お? おはよーだぜ、アリサ」
だが当のマリはと言えば、そんな事気に掛けた様子もなく口を開き、しゅびっと右手を上げアリサに挨拶。
が、アリサもそのまま黙っている筈はなく。
「『おはよーだぜ』じゃありません!! 何なんですか、この気味悪い衣装の数々はっ!!」
「‥‥気味悪いとは心外なんだぜ。これは『ハロウィン』の仮装用の衣装なんだぜ」
「『はろうぃん』‥‥? って、確か天界のお祭りでしたっけ?」
「あー、そうか。アトランティスには『ハロウィン』が無いんだっけ。良いか、『ハロウィン』って言うのは――」
間。
「‥‥お願いです、店長を止めて下さい‥‥」
それから数刻後、冒険者ギルドのカウンターには何処かげんなりしたアリサの姿があった。
「何でも『はろうぃん』とか言う天界のお祭りにちなんで、あの子はお客さん達に『コスプレ』をさせるつもりらしいんです‥‥。いえ、お客さんだけならまだ良いんですけど、その前後にはメイの孤児院に衣装を寄付しに行くって‥‥! そんな事されては、子供達に悪影響が出てしまいますっ!! ですから、そうなる前に‥‥!!」
まるでクイックシューティングとダブルシューティングEXを組み合わせた弾幕射撃の様に、早口で紡ぎ出される言葉。
そんな彼女に、受付係はたじたじになりながらも口を開き。
「あ、あの、そもそも『こすぷれ』って何なんです?」
間・その二。
「へへへ、今から楽しみだぜ♪」
そんな遣り取りがギルドで行われて居る事など露知らず、マリは寝る間も惜しんで『ハロウィン』の衣装を仕立てていくのであった。
●リプレイ本文
●コスプレって如何な物?
「‥‥ふむ?? 一応、そのマリ殿と言う少女店長を抑えればよいと言うのは分かるが。いまひとつ、要領を得んな」
一旦店の外で、依頼人のアリサと落ち合った三人の冒険者達。
その一人、アマツ・オオトリ(ea1842)は全く解せないと言った様子で、首を傾げる。
「ギルドでも窺ったが、『そういった気』だの『属性』だの、面妖な術でも使うのか? そも、こすぷれとは如何なものなのか?」
「ああ、ええと、コスプレと言うのはですね‥‥」
アリサに代わって口を開くのは、同じく冒険者の御紅蘭(eb4294)。
そんな彼女の説明に、やっぱり分かった様な分からない様な表情を浮かべるアマツは。
「ふむう‥‥天界とは、未だ謎に包まれた世界なのだな」
「まあ、ここはファンタジーの世界という認識なので、コスプレと言われてもあたし的にはあまり違和感ないかも」
そう言って、二人は苦笑を浮かべ合う。
「わ、笑い事じゃありませんって!! べ、別に私だってその趣味を否定する訳じゃ無いんですけど、子供達にはまだ早いって言うかっ!!」
「まぁなー。俺も普段からシャクティがしてくれるのをほぼ毎晩夜の営みで見て愛d(ギルドにより規制)て楽しんじゃいるけど、それから考えると‥‥ちょっと子供達に教えるには、なぁ?」
そう言って現れるのは、1m近くも身長差のある人間の男性とジャイアントの女性の二人組‥‥こと、伊達正和(ea0489)とシャクティ・シッダールタ(ea5989)。
彼らも依頼を請けた冒険者なのだが、店に向かう前に一旦別の場所で落ち合った為、来るのが遅れてしまったらしい。
‥‥何となく別の理由がありそうな気もしないでも無いけれど、『ラブラブバカップル』を自称してしまう程にべったりな彼らに問い詰めると、話が終わらなくなってしまう気がするので、控える事にするが。
閑話休題、正和が苦笑しながら言うと、そんな彼に寄り添うシャクティは「あら」と目を見開き。
「わたくしはそうは思いませんわ。こう言った趣味やセンスのお陰で、毎晩伊達様には愛して頂けて居るのですし。この幸福を子供達の将来にも分け与えられるのだと思えば、早い内から慣れて頂くと言う分には悪い事とは思えませんわ♪」
物事を前向きに考える彼女らしい発言、それに正和も嬉しげな表情を浮かべ。
そして二人は(以下規制)。
閑話休題。
「‥‥やっぱりあの子を止めて下さい。うん、絶対」
アリサの言葉に、他の冒険者達も苦笑しながら曖昧に頷くのであった。
●通じ合う気質
「んん〜、まあいいんじゃないの? あたしはスキよ、こういう子」
いざ衣類専門店『レイニーデイ』の店内に入り、マリと会話をして間も無く、そんな事を口走るのは長曽我部宗近(ec5186)。
彼の発言にアリサは仰天するが、他の者達も思う所は大体同じな様子で。
「まあ、本人に悪気はなさそうだしな。被服に没頭して周りが見えなくなるなら、やんわりと諌めておけば良かろう」
「そんな、アマツさんまで‥‥」
がっくりと肩を落とすアリサ。そんな彼女に、蘭が天界におけるハロウィンの概念を説明してフォローを入れる。
取り敢えずアリサの事を他の面々に任せ、宗近は一度店内に陳列されているマリの衣装をぐるりと見回すと。
「それにあたしもプロのはしくれ、モノの良し悪しは分かるつもり。趣味はともかく、仕立てた衣装はかなりのものね。いい仕事してるじゃないの、マリ」
「そ、そうか? 何だか照れるぜ‥‥」
彼の言葉に、恥ずかしげに頭を掻きながら縮こまるマリ。――かと思えば、その眼前に宗近がピッと人差し指を突き立て。
「で・も。相手もシロウトさんなのよ。ちょっと自重しなさい」
「いや〜、これでも自重してるつもりだぜ?」
‥‥彼女の周囲に畳まれている仮装は、天界曰くドラキュラやゴーストと言った物よりも、寧ろどう見てもカスタムなメイド服やら、ふさふさ尻尾の九尾狐やら、羽と一本歯高下駄完備の天狗ルックやら、そう言った何とも妙なデザインの物ばかり。
何処をどう自重しているのか。
「まあ、ある程度は目を瞑ってあげるとして‥‥。あたしも美のアーティストよ。ハロウィンが成功する様、手伝ってあげるわん☆」
「おおっ! 宜しくなんだぜ♪」
と、宗近とマリがガッチリ握手をした所で、丁度仲間達のアリサの説得も終わった様子。
話術巧みなアマツと天界の知識を全般的に持ち合わせている蘭の二人が主体となり、子供達が仮装をする意味等を教え込まれたアリサは、自分の思い込みに恥じらいを感じ、店の隅で縮こまっていたりして。
ともあれ、一先ずハロウィンを迎える上での憂いを取り除いた一同は、本格的に衣装を選ぶ事にした。
●仮想選びは‥‥
騎士たるもの、婦女子に優しくあるべし。
騎士道において、そう言った女性を敬う精神の事を『ミンネ』と言う。
――それが関係あるのかどうかは定かではないが(だって本人も女性だし)アマツは最初からマリの趣味にあえて乗じるつもりで居た。
と言うのも、一応彼女には色恋や化粧、流行やお洒落等と言った、所謂ナンパ技能に関して中々の心得がある故。
「‥‥取って喰われる訳でもなかろうが‥‥ふうむ」
嬉々と手を引いて店の奥へと向かうマリの背を見据えながら、ポツリと呟くアマツは――今にして思えば、この時既に多少なりとも悪寒を感じていたのかもしれない。
その結果が。
「な、何だコレは!? その、何だ‥‥布地が少ないではないか!!」
店の奥から響くのは、アマツの喚く様な声。
「な、何故私が女中の格好なぞ!? おまけに胸元も腰周りの‥‥ともかく、色々と見えてしまうではないかっ!!」
一体何が起こっているのだろう。
凄まじく興味は湧くが、色々と怖くて見に行く事は叶わない。
「ちょ、まだまだ衣装があるから試せと!? な‥‥そ、それは待てっ!! 最早装束と言うよりも下着では‥‥え? このヒラヒラなツナギに被り物もセットって‥‥!!?」
合掌。
「あ〜もう、どれもこれも可愛くて迷ってしまいますわ〜。あ、伊達様この様な装いは如何でしょう?」
「ああ、シャクティなら似合うだろう。ただ、少し身体を隠し過ぎじゃないか?」
「そうですか? でしたら‥‥こっちの物は如何です?」
「おっ、可愛いじゃないか。シャクティが着れば、更に見映えしそうだ。是非一度着て見せてくれないか?」
別の方向を見たら、繰り広げられているのはそんな感じのあんま〜〜〜い遣り取り。
何とも甘味剤と嫉妬心を集約しそうな二人ではあるが――その中のシャクティは、実は内心少し残念がっていた。
と言うのも‥‥今回の依頼において、さり気にかなり多額の資金を持ち込んでいた彼女。
その目的は勿論、マリの仕立てた衣類の中から『せーらー服』と『体操服&ぶるまぁ』なる天界のこすぷれ用品を買い上げようとしていたのだが‥‥。
どうにも当てが外れてしまった様子で、そう言った扇情的な衣類は取り揃えておらず、ある中でも一番露出の多そうなカスタムメイド服に至っても、どちらかと言うと可愛さ重視の仕様となっていた。
それはマリの属性なのか、それともハロウィンに乗じて孤児院に寄付しようとしている物であるが故か――はたまたその両方なのか。
だが、試着を繰り返し恋人の正和に披露している内に、そう言った衣装を着こなす事にも楽しみを見出してきた様子で。
「では、早速着替えて参りますわ♪」
そう言って仮設試着用室に消えて行く彼女の事を、正和は心底惚気きった表情で見送った。
と、そんなシャクティのファッションショーを傍らでほけーっと眺めていた蘭に、背後からそっと忍び寄る何者かの姿。
「蘭ちゃ〜ん♪」
「ひぇっ!!?」
手の掛けられた肩をビクンと震わせ振り返ると、そこに居たのは宗近だった。
「どうしたのよ、呆としちゃって。あなたはコスプレ‥‥じゃなかった、仮装はしないの?」
「あ、いえ、ええと‥‥着ようと思っていたのは見付かったんだけど、何だか気後れしちゃって‥‥」
彼女の言葉に、「あー」と首を縦に振る宗近。
「まあねぇ。あたしら地球人からすれば、アトランティスやジ・アースの人間の衣装がファンタジー衣装のコスプレに見えるからねェ」
言われて見ればその通りなのかも知れないが、それは逆も然りと言えば然り。
アトランティスに住まう者達にしてみれば、寧ろチキュウと呼ばれる天界人が身に付けている衣装こそ、誰も見た事の無い変わった代物と見られるだろう。
‥‥そう考えると、天界人は普段着を身に付けているだけでともすれば仮装になるかも知れないが、それはそれ。
「けど、折角のお祭りなんだから楽しまなきゃ損よ? あたしが完璧に着付けて可愛く仕上げてあげるから、安心して仮装しなさいな♪」
「でも‥‥」
照れ屋と言う事もあってやっぱり恥ずかしいのか、縮こまってしまう蘭。
そんな彼女の肩に、宗近は手を置き。
「ほら、着たい物も決まってるんでしょ? 大丈夫よ、恥ずかしくなんて無いから。で、どれが着たいの?」
彼の問い掛けで、漸くその気になったか。おずおずと蘭が指し示した衣装は――。
●パーティータイム
「いや〜、忙しかったわ。こんなに少ない時間でこれ程沢山のメイクをこなす事になるなんて」
「でも、お陰様で皆完璧なんだぜ! 宗近が手伝ってくれなきゃ、とてもじゃないけど手が回らなかったんだぜ」
「良いのよ、そんな事♪ こちらこそ貴方の趣味に付き合って着せ替え人形‥‥げふげふ、皆に色んなコスプレをさせるのは、純粋に楽しかったしね」
「そう言って貰えると、こっちとしても嬉しい限りなんだぜ♪ おまけに、私やアリサの着付けまでして貰っちゃって‥‥」
そう言うマリの身を包んで居るのは、フリル多めの白黒魔法使い衣装。
姿の見えないアリサは、今頃ホラーっぽい人形の飾り付けを大量に吊り下げながら、何処かでしょぼくれているのだろう。
「も〜、こういったものは楽しんだ者勝ちよって言ったのにねぇ。ま、けど良く似合ってるわよマリちゃん♪」
そして、一方で着せ替え人形‥‥げふんげふん、仮装をした冒険者の一人が、何やら恥ずかしげに立ち竦んでいた。
「ぐぬぬ、なんたる屈辱‥‥騎士たるもののする格好では‥‥」
と言う事で、今や下に履いたドロワーズの見え兼ねんばかりのミニスカートに、羽なのか枝なのか良く分からない背飾り付きの真っ赤なワンピースに身を包む騎士アマツ。
マリ曰く「これは吸血鬼の格好だぜ」なのだそうだが‥‥。
「そも、コレの何処がバンパイアだと言うのだ‥‥」
まあ、その辺りのイメージの差異は、天界人デザイナー・マリのセンスに他ならないのだろう。理解はし難いが。
ともあれ、普段のお堅いイメージから掛け離れたテンパリ振りによって、すっかりマリの萌属性に嵌ってしまったアマツは、ある意味今回の依頼における一番の犠牲者かも知れない。
と、気が付けばそんな彼女の周囲には人だかり(パーティーと言う事で孤児院に来訪していた大人の男性方が主成分)が――。
「ええい!! いつのまにか観衆も山と出来ておるではないか!!?」
「べ、別に貴様らの為に斯様な無様な姿をしておる訳ではないわっ!!!」
「‥‥む、そこの貴様! 今淫らな事を考えたな!! くっ、万死に値する!!!」
「そこへなおれい、成敗してくれる〜〜〜!!」
「‥‥何だか騒がしいな」
シャクティによって選んでもらった、スタンダードなドラキュラ仮装に身を包む正和(これが異様な程にしっくり着ていた)がチラリと視線を騒ぎの方へと向けるも、すぐさまそれは隣の恋人へ。
当のシャクティはと言えば、色々と迷ってはいたものの、最終的にハロウィン仕様のメイド仮装(仮装?)で落ち着いていた。
――だが、その寸法が元々人間用に作られていた上、マリ拘りの一着はそれしかなかった為‥‥まあ、色々と、その、目のやり場に困ると言うか。本人は殆ど気にしていない様子だけど。
とは言えそんな事、とてもではないが口に出せたものでは(以下略)。
「ううん、でもやはり残念ですわぁ。余り変り映えした装いをご用意できなくて‥‥」
「なに、そんな事気にすんな。そうでなくとも天界の衣装を着たシャクティは、何ものにも代えがたい程に美しいんだからさ♪」
ドザザザザ、と、何処かで粉末状の何かが雪崩れる様な音が聞こえた気がする。
そして、他方を見れば、子供が数名集ってフットサルと呼ばれる天界のスポーツに興じていた。
その中で一際目立つのは、ふわふわもこもこと九本の尻尾を揺らしながら、だぼっとした白い装束に身を包む女性の姿――蘭である。
彼女が着たがっていたのは、この『九尾狐』の仮装であった。
‥‥いや、これが本当に九尾狐なのか物凄く疑わしいが、どうやらこれもマリのセンスらしく‥‥それをあえて選んだ蘭にも、何処か通じる所があったのかもしれない。
ともあれ、そんな彼女の格好は見るからに動き辛そうで、子供達にフットサルを教えている最中にも何度も尻尾に足を掛けて転んでは。
「ひゃっ!? ちょっ、尻尾に縋り付かないでっ!!」
「ふかふか〜♪」
「あ、あたしもあたしも〜!」
うん、人気者である。
ちなみに、この時に使った天界製のサッカーボールは、孤児院に寄付しようとしていたのだが‥‥結局の所、それは断られてしまった。
と言うのも、子供達に必要以上の贅沢の味を覚えさせたくは無い。それ故、寄付にしても必要最低限の物しか受け取らない。それが、この孤児院の主義であるからなのだそうだ。
現にマリにしても、今回寄付するつもりで持っていった中で実際孤児院に受け取ってもらえた衣類は、四半分にも満たなかった程だ。
勿論本人も渋ってはいたが、それが受け取る側の方針であるならば仕方が無いだろう。
ともあれ、ある程度時間が経ってくれば会場内の至る所に響いていた子供達の「トリック・オア・トリート!」(お菓子をくれないと悪戯するぞ)の声も止み‥‥。
何時しか平静を取り戻していたアマツの歌声が響き渡る中、会は静かに幕を閉じていった。
「さて、二人だけのパーティーを始めようぜハニー♪」
そんな声がメイの街中に響く頃には、一晩の思い出と言うプレゼントを胸に、子供達はきっと楽しげな夢の中――。