明日を担う二新星

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 97 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月18日〜11月27日

リプレイ公開日:2007年11月25日

●オープニング

「両名とも、準備は宜しいか?」
 格納庫に響くのは、壮年を迎えた地方領主の声。正面に聳え立つ二体のゴーレム『バガン』には、彼の抱える騎士団に所属して間もない新米騎士が、それぞれ搭乗していた。その内一体の内部から、声が響く。
「えっと‥‥はい! アレミラ・クラディア機、発進準備完了です!」
「左様か。アステルはどうだ?」
 頷きながら、もう一体バガンへと視線を移す領主。対してこちらの方からは、情けない声が返って来た。
「あ、あわわわわ‥‥! も、もうちょっとお待ち下さい! え、えっと‥‥」
 だが、石の巨体は先刻からガックンガックンと小刻みに震えるばかりで、一向に起動しない。そんな様子を生暖かい目で見守るバガンと壮年男。絵に描いて貰えば、彼らの傍らに「‥‥‥」と言った吹き出しが付けられそうな光景である。
「ほら、落ち着いて姉さん。操者席に深く掛けて背筋を伸ばしてから、深呼吸してもう一度やってみなさい?」
 アレミラに言われた通り、一度リラックスをしてから、再度起動を試みるアステル。

 ヴ――――ン。

「やった! 動いたよアレミラちゃん!!」
 言いながら、嬉しそうに大きな上体をくるくると動かすバガン。
(「まったく‥‥。双子のくせに、起動だけでここまで差が出るとは‥‥」)
 領主は眉間を押さえながら、やれやれとばかりに溜息を吐く。
「まあ良い。アレミラも中々の手際だが、貴公とて初めての模擬戦闘なのだ。気を緩めるでないぞ?」
 彼の言葉に、ピシッと背筋を伸ばして「はいっ!」と返事をするバガン‥‥もといアレミラ。二人は双子とは言え、性格然りゴーレム操縦然り、見た目以外に似通っている部分はほとんど無いに等しい感じだ。
「では、両名とも前進せよ!」
 領主の言葉に、二体のバガンは同時に足を動かす。

 ズシン、ズシン――。
 ズウゥゥゥゥゥゥゥン――――!!

「‥‥」
「‥‥‥」
 二人の視線の先で、前のめりに転倒するアステルのバガン。その内部では、気を失ったアステルが頭の上でヒヨコを羽ばたかせながら、目を回していた。




「と、言う訳で‥‥このままでは訓練が進まんのだ。手を貸して貰いたい」
 溜息混じりの領主の相手をするのは、ギルドのカウンターを預かる受付係。結局その後アステルを操縦席から助け出すのに時間を食われ、訓練らしい訓練は何も出来なかったらしい。
「あの双子は、陸上での戦闘ならばほぼ互角‥‥いや、最終的には姉のアステルの方が優秀だったか。だと言うのに、そのアステルはゴーレムに関してはからっきしでな‥‥。対する妹のアレミラは、かなりの適性を見せているのだ。しかし今の時期、我が騎士団は皆激務に追われていて、訓練の相手が居ないものだから‥‥はぁ」
 そう言って、また溜息を吐く領主。そんな彼に、受付係はふと浮かんだ疑問をぶつける。
「と申しますと、領主様が直々に訓練に立ち会っていらっしゃるのも‥‥?」
「ああ、それ故だ。今でこそ領主と言う立場ではあるが、かつては騎士としての心得も嗜んで居たからな。とは言え、正直ゴーレムに関しては専門外であるからして‥‥そこで、冒険者達の手を借りる事にしたのだ」
 すると受付係は、頭を掻いて乾いた笑い声を漏らしながら、羊皮紙とペンを用意する。
「はぁ、そう言う事でしたら‥‥。では、冒険者達に募集を掛けてみますので、首尾をお知らせするまでご自宅でお待ち下さい」
 そう言って手続きを進める彼に、領主は「すまぬな」と一言呟くと、ギルドを後にした。




「うう‥‥私、鎧騎士に向いてないのかな‥‥?」
 誰も居ない医務室で呟くのは、ベッドの上で上体を起こしたアステル。
 俯いた顔には乱れた髪が掛かり、表情を窺う事は出来ない。だが、その目からポタポタと滴る雫を見れば、彼女が今どんな心情であるのかは一目瞭然だ。
「このままじゃ、アレミラちゃんや騎士団の皆‥‥それに領主様にも迷惑掛けちゃう‥‥。身を引くなら、早い方が‥‥」
 そんな彼女の姿を見ているのは、窓から差し込む陽精霊の光‥‥そして、医務室の扉の隙間から中を窺う、一人の女性だけだった。

●今回の参加者

 eb1592 白鳥 麗華(29歳・♀・鎧騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb4056 クナード・ヴィバーチェ(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4561 ティラ・アスヴォルト(33歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8122 ドミニク・ブラッフォード(37歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●鎧騎士として
「どうですか? 凄い眺めでしょう」
 ゴーレムグライダーを操り、大空を駆けるリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が、後ろで振り落されない様しがみ付くアステルに問い掛ける。
 地上で彼女達を見上げる冒険者達。そして、アレミラの乗るバガンでさえも、豆粒の様に小さい。
「このゴーレムグライダーも、バガンと同じゴーレムなんですよ。人も同じです。様々なゴーレムがあるように、様々な鎧騎士がいていいんです」
 リュドミラの言葉は、風切る音に掻き消されそうになりながらも、しっかりとアステルの耳へ‥‥そして心へ届く。
 やがて、その瞳に宿るのは、決意の光。
「わ、私‥‥!」

 時は、同日の朝に遡る。
 依頼人の案内の下、訓練場に到着した冒険者達は、早速問題の双子と顔を合わせた。
「初めまして、アレミラ・クラディアと申します。宜しくお願い致します」
 恭しく頭を下げる妹のアレミラ。だが、やはり双子と言うだけあってか、首から上を見ただけではどっちがどっちだか判別するのは難しい。
 取り合えず、青い鎧を着ていて、威圧的とも取れる視線を向けているのがアレミラ。そして、赤い鎧を着ていて、物憂げに俯いているのがアステルの様だ。
「私もこないだ受勲を受けた駆け出しなの。同じ新米同士よろしく!!」
 差し出された白鳥麗華(eb1592)の手を、アレミラはしっかり握り返す。アステルも自分の前にその手が差し出されると、力なく握り返した。
 彼女の様子がおかしいのは、誰の目から見ても明らかだ。
「恐らくは、ゴーレムを動かせない事で大分思い詰めてしまっているのだろう。普段は明るい娘なのだが‥‥」
 他の冒険者達も続いて挨拶をする中、彼女を心配そうに見据えながら呟く依頼人。
 そんな彼の横に立つクナード・ヴィバーチェ(eb4056)は。
「ふむ‥‥ともあれ、領主殿の御意向に沿える様、やれるだけのことはやらせてもらう」
 そう言って、微笑んで見せた。

 その後、ティラ・アスヴォルト(eb4561)の提案によって、鳳レオン(eb4286)と麗華の二人は、バガンを用い模擬戦を披露した。
 駆け出しと自称しておきながら、麗華の操縦技術はかなりの物。だがしかし、達人並の腕前を持つレオンにはとても敵わない。とは言え、女性に優しい彼が手加減して相手したと言う事もあり、結果的にかなりハイレベルなゴーレム戦を見せる事が出来た。
 アレミラはそんな二人の演舞に目を奪われていたが、アステルは案の定上の空。
「今度はお二人の番だ。バガンに乗り込んで、起動から基本動作に至るまで、一通りやって貰う」
 ドミニク・ブラッフォード(eb8122)に言われるまま、バガンに乗り込むアレミラとアステル。

 手っ取り早く動き出したのは、アレミラのバガン。だが、案の定アステルの方は起動さえもままならず、その場で燻っているばかり。
 やがて、その石の巨体に精霊力が通わないと見るや、沈んだ面持ちで操縦席から降りてくるアステル。どうやら気力が切れた様だ。
「仕方ないわね。それじゃあ私とクナードさんとで、先にアレミラさんの手解きをしておくわ」
 言いながら、アステルに入れ替わりバガンに乗り込むティラ。そして。
「アステルさん、ちょっと宜しいでしょうか?」
 リュドミラに連れだされ、アステルは格納庫へと向かって行った。


●作戦会議
「もう、彼女は大丈夫です」
 にっこりと笑みを浮かべながら言うリュドミラ。自分の操縦するグライダーに同乗させる事で、アステルの覇気を取り戻す事が出来たのだ。
「それは良かった。では、二人の長短を鑑みて、明日からどの様な訓練をするか決めていこう」
 ランプの光が照らす宿屋の卓上に、二人の現在の能力が事細かに記されたスクロールを広げるドミニク。だが、アプト語で書かれているそれを読める者は彼以外にいない。仕方なく、ドミニクは内容を口頭で説明していく。

 まず、アステルは身軽さを生かした回避能力に長けていて、生身の訓練の時には手数を重視した戦い方をしていたらしい。
 だが、回避が得意と言う事は、感覚もそれなりに鋭い筈。にも関わらず、精霊力を用いるゴーレムを動かせないと言う事は‥‥余程知力が以下略。
 それでなくても、ゴーレムは気合と根性さえあれば動かせるもの。彼女はその辺りから鍛え直せば良いだろうというレオンの提案に、反対する者はいなかった。
 そしてアレミラはと言うと、基本を踏まえた無難な立ち回りをするのだが‥‥どう言う訳か攻撃を一切回避せず、必ず盾等で受け止めようとするのだ。
 本人曰く「攻撃を避けてしまっては、後方に居る者に被害が出てしまう」だそうだが、だからと言って攻撃の全てを受け止める事など不可能に近い。
「アレミラに必要なのは、意識改革だな‥‥」
 クナードの言葉に、彼と一緒にアレミラを担当するティラも小さく頷く。
 ともあれ、これで大体の訓練指針は決まった。
「よーし、明日からが本番だね! 皆、頑張ろう!」
 麗華の元気な声と共に、冒険者達の夜は更けていった。


●鬼コーチ
 翌日。昨日とは打って変わって晴れやかな表情で姿を見せたアステルは。
「おっはようございま〜す!!」
 開口一番、耳をつんざく様な大声で挨拶をした。これが本来の彼女の姿。
 多少たじろぎながらも、表情を綻ばせる冒険者達――の間を縫って、一人の男が前に歩み出る。
 腕組みをしながら威圧的にアステルを見下ろすその男は‥‥女性に優しい筈のレオン。
「さて、今日から本格的な訓練に移る訳だが、その前に言っておく。俺の事は『コーチ』と呼べ!」
 どーーん! と言う音が聞こえて来そうな言葉。彼は女性に甘い自分を封印するべく、鬼コーチになりきっていた。
 そんなレオンに面食らっていたのは、アステルばかりではない。他の冒険者達も驚き交じりで彼を見据えていたが、物言わせぬ雰囲気に圧倒され、誰も突っ込めない。
「確かにお前に才能は無い。だが、甘ったれるな! 才能が無くてもゴーレムを立派に操っている奴は山ほど居る! 足りない才能は努力と根性で補え!」
「は、はいぃっ!」
 思わず、そのノリに合わせてしまうアステル。‥‥これが拙かった。

「何て言うか‥‥体育会系って奴だな」
 後から様子を見に来たドミニクが、重装を身に纏い訓練場をウサギ跳びするアステルを見据え、苦笑しながら呟いていた。


●頑固なアレミラ
 訓練を始めてから5日目、休日の翌日の事。
 ゴーレムの基本的な操縦方法を身に付けると同時に頭角を現して来たアステル。
 特にこの日は、休日に彼女を担当する冒険者達と一緒に町へ買い物に出かけた事でリラックス出来たのか、絶好調だった。
 その時ばかりは、普段の女性に優しい鳳レオンに戻り、麗華やリュドミラの分も含む荷物持ちに徹していた鬼コーチ。その気合に満ちた一喝が、今日も高らかに響き渡る。

 対して出だしの良かったアレミラの方はと言うと、初日から足踏みを繰り返していた。
 いや、確かにティラとクナードの手解きの甲斐あって、全体的な動きや戦術面等は成長したのだが‥‥それでも、彼女の『攻撃を避けない』と言う問題点は解決されていなかったのだ。
 クナードが盾による受け流しを教えつつ釘を刺したり、ティラが持ち前の毒舌で嗜めたりもするが、やはり本人は改善しようとしない。
 まあ、ゴーレムによる戦闘においては、強力な力を持つ敵の突進を止めるという事も大事だと言う考え方により、彼らもスタイルを変える事を強要はしなかったのだが。
 それは、アステルとアレミラの決定的な差を、後に知らしめる事になる。


●訓練の成果
 そして、来る最終日。
 約一週間と言う訓練期間を経て、双子の新米鎧騎士がどれ程成長したのか。依頼人である領主の立会いの下、模擬戦闘によってそれを示す為に用意された日である。
 恙無く起動を終え、訓練場の広大なスペースの中央で睨み合うのは二体のバガン。
 そして。
「では――始めっ!!」
 6人の冒険者達の見守る中、最初に駆け出したのは両腕にゴーレム短剣を備えたアステルのバガンだった。
 初日からは想像出来ない程に機敏な動作で振り下ろされる短剣。対するアレミラのバガンは、ヘビーシールドを構える。
 生身の人間にとっては重量級の盾も、ゴーレムからしてみればライトシールド同然。だが、これまた巧みな動きで短剣の連撃を防ぎ抜く。
 そして、機会を見てアレミラがカウンターの構えを取った瞬間。
「今だっ!!」
 同時に振り下ろされる両腕の短剣。その片方は盾で止められたものの、もう片方は――カウンターを繰り出そうとしていた腕に当たる直前で静止した。
「そこまでっ!!」
 依頼人の声で、構えを解き一礼する二体のバガン。その傍らで。
「あれは、私が初日に見せてあげたダブルアタック‥‥。ふふ、やるね」
 麗華が微笑みながら、成長したアステルのバガンを嬉しげに見詰めていた。

「参りました。流石ね、姉さん。ついこの間まで鎧騎士を辞めようか悩んでいたとは、とても思えないわ」
 バガンを降りて一番のアレミラの言葉に、驚き目を見開くアステル。それは、先日医務室で落ち込んでいた時に言った事。だが、アレミラはおろか、他の誰にもそれを言った覚えはないのだが。
 そんな彼女を横目に、アレミラは冒険者達の方に向き直り、深々と頭を下げる。
「これも、一概に冒険者の皆さんのご教授のお陰です。本当にどうもありがとう御座いました」
 そんな二人、思い思いの労いの言葉を掛ける冒険者達。幾らか取りこぼしはあったかも知れないが、それでも二人の新米を立派なゴーレム乗りとして育て上げる事が出来た。

 先行きの明るいウィルの国。その一端を担うであろう双子の鎧騎士に見送られながら、冒険者達は帰路に着くのであった。