決闘・漆黒の堕騎士
|
■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月09日〜11月14日
リプレイ公開日:2008年11月16日
|
●オープニング
暗い室内に響くのは、羊皮紙を捌く微かな音。
それが止むと同時に、二人居る人物の内の一人が「くっくっく」と押し殺す様な笑みを浮かべる。
「ご苦労だったな。コイツがあれば、今後の行動も考え易いってもんだ」
「‥‥」
片方の愉快そうな声とは裏腹に、もう片方の人物はと言えば無言で仏頂面。
それはいつもの事と、分かっていながらも‥‥この時の彼の様子には、どうにも気になってしまった様で。
――どうかしたのか?
そう尋ねるよりも早く、黒いフードの中から覗かせる彼の口が開いた。
「‥‥だが、残りもう半分の資料は取り返されてしまったがな‥‥」
「――ああ。けどそっちはドラグーンとかに関する物がメインだったんだろ? なら、今は急いて必要な物でも無いからな。取り合えずは、これだけで十分だ」
「‥‥とは言え、今必要とされる資料の中にも欠落してる物もあろう‥‥。今後を見越して、早期に奪い直しておくべきと思われるが‥‥」
「なに、そう焦んな。それこそ、必要になったらまたいつでも、手に入れられんだからな」
「‥‥だが次からは、彼奴を相応の危険に晒す事になるが‥‥」
「うっ‥‥」
黒ずくめの男の言葉に口篭るもう一方。
部下達からは『カオスの魔物さえも騙す』と称えられ、真偽は兎も角いざとなれば本当に遣ってしまいかねない程の先見の明を持ち合わせた、この男。
とてもではないが食い物に出来たものではない、そんな彼の数少ない泣き所――。
長らくその業に加担している黒ずくめの男にとっては、そこを熟知した上での発言だった。
「‥‥案ずるな。我に今一度任されれば、今度こそ残る半分を‥‥おまけを付けて、貴様の元へ持ち帰ってくれる‥‥」
「こちらが‥‥本日、御宅の騎士団の詰所に?」
一枚の羊皮紙から顔を上げた受付係、そんな彼の問い掛けに小さく頷くのは双子の鎧騎士クラウディア姉妹の妹、アレミラ。
彼女がそれ程に重苦しい表情をしているのは、当然先日賊に奪われたゴーレム関連資料の事や、以前までその賊と通じていて、今では命を狙われる身の上にあるアンの事が気掛かりと言うのもあるが‥‥。
何よりも、最たる理由は受付係の手に持つ手紙。
そこには、異様に整った字体でこう記されていた。
***
八度の夜明けを超えた後の、最も明るい時。
都より南西に進んだ先に在る、岩地の丘の頂にて待つ。
此方は以前に頂戴した書物の片割を。
其方は以前に頂戴し損ねた片割を。
此方は一つの身に。
其方は四つの身の四度の機会に賭け。
剣戟交えん事を望むもの也。
尚、此方には一切の支援も無ければ、途中で傷を癒す手段も無い。
この身一つで、正々堂々剣を振るう事を約束する。
――L.D.
***
そして、アレミラがカウンターに置くのは、この手紙に包まれて届いたと言う――黒い手袋。
もはや疑う余地も無い。
これは、果たし状である。
しかも、差出人は『L.D.』。黒の神聖魔法と思われる術を使役する、黒ずくめの男‥‥。
彼は冒険者達と、以前にも二度に渡ってまみえた事がある。
一度目は、ゴブリンの大軍勢を率いていた時。
その際には応戦した冒険者達が撃退に成功したものの、結局有効打を与えるには至らなかった。
そして二度目は、ウィルの街中で資料を持って逃げるL.D.を追跡した時。
この時にも、対応に当たった者達はその身柄を確保するには至らず、資料の半分を持ち逃げされてしまった。
「‥‥手強い相手ですね」
ふとした受付係の呟きに、アレミラも小さく頷く。
「これが届いて間も無く、我が団の団長は冒険者の皆様のご助力を請う意向を表明致しました。無論、資料を奪われた事への汚名を返上すると言う面子もありき、騎士団だけでこれに臨もうと言う意見もありましたが‥‥」
――面子ばかりに拘って事を仕損じてしまえば、余計に事態が悪化する事も有り得る。
加えて、今までにも何度と無く助けられてきた冒険者達への信頼もあれば、それだけ相対する敵の事を手強く見ていると言う事もある。
それらを鑑みた上で――恥を忍ぶ覚悟を推しての、苦渋の決断であったらしい。
かくして、受付係は申請通りにしたためた依頼書を、ギルドの壁面に張り出すのであった。
●リプレイ本文
ウィルから歩いて半日と要さない場所に聳える、小高い岩山。
街道から見えるそこは、されど道から大きく外れている為、普通では立寄る者の無い場所である。
その頂には、一つの黒い影。
何日前からだったか。ずっと何かを待ち続けるかの様に、それは唯佇んで――。
「‥‥来たか」
黒いフードの隙間から眼光を覗かせれば、その先に捉えるのは冒険者と護衛の騎士3名。
勾配の緩い場所を続々と登ってくる彼らを――男は、ただ静かに見据えていた。
●堕騎士の誇り
「‥‥そいつは本当に、罠等は何も仕掛けていないと言ってたんだな?」
鳳レオン(eb4286)が尋ねれば、歯切れ悪く頷くのはラマーデ・エムイとギエーリ・タンデ。
依頼初日、明記されていない決闘の場所を調べる事で仲間サポートをするべく、動き回っていた二人。
そして目的の場所はいとも簡単に見付かった――決闘相手『L.D.』との邂逅と言うおまけ付きで。
しかし、二人が訝しく思うのも無理も無い。相手が相手なのだから。
それは、他の誰しもが同じく思う所で。
――――。
「指定した時間まで余裕があるが‥‥貴様達も我と世間話でもしようと‥‥?」
その言葉には耳も貸さず、決闘の場となるのであろう比較的平らな台地の周辺を調べ始める冒険者達。
だが、やはり罠らしき物は全く見当たらない。
岩山から周囲を見渡せば、ただ荒れ野が広がっているばかりで、伏兵等の姿も‥‥。
「‥‥気は済んだか‥‥?」
「ええ、お陰様で」
問い掛けに、セシリア・カータ(ea1643)は上品に微笑みながら返すのであった。
●轟鳴る豪腕の騎士
「それでは‥‥始めっ!!」
同行した騎士団長の声が響くや、真っ先に飛び出したのは冒険者の先鋒セシリア。
オーラ魔法によって気合も十分に飛び込んでくる彼女に対して、堕騎士はと言えば直立不動のまま。
その見定める様な視線には、何処か余裕さえも
「てやあぁぁっ!!」
――ゴウンッ!!!
剣で空を切っただけで、これ程の音がするだろうか。
当たっていれば、唯では済んではいまい。
途端に堕騎士は一気に距離を取ると、剣を握った腕を突き出し――すると、その腕がまるで投げ縄の様に伸びて来た。
黒の神聖魔法、ミミクリーである。
セシリアも来るべき斬撃に備え、反撃の構えを取る。その身に纏った強固な装甲は、唯では破られまい。
甘んじて攻撃を受けてでも、相手に一矢を報いる事で――。
ガシャンッ!!
「えっ‥‥」
音は、足下に叩き落とされたセシリアの剣によるもの。
見れば、堕騎士の胸の前にレミエラの光点が輝き、持っていた筈の両刃の剣は刃を持たない歪な鈍器へと姿を変えていた。
ディザームされてしまった彼女に、反撃する術は残されていない。
――そして。
「うぐっ‥‥!」
背後に回りこんだ腕が、狙い澄ました様にその首筋を捉え。
セシリアの意識は、深く沈んで行った。
●用心
「なるほど、採石部隊の襲撃は、騎士団にスパイを潜り込ませるための演出でしたか。これは迂闊でしたな」
出発前。仲間や騎士達を前に、落ち着き払った様子で言うのはセオドラフ・ラングルス(eb4139)。
彼が言うのは、ゴーレムの材料となる石を運搬していた部隊が襲撃されたと言う、大分前の事件の事である。
その際に関わっていた一人でもある彼は、されどその何とも言えない憤りを噛み締める様に。
「資料をこれ以上賊に渡す訳には参りませぬ。同じ失敗を繰り返さぬ為にも、決闘はただの囮と考え、騎士団の方々には施設の警備をいつも以上に厳重にしておいて頂きたい」
そして、もう一つ。彼が騎士団に依頼した事は。
――――。
「資料は無事ですかな?」
セオドラフが尋ねるのは、決闘を受けた騎士団に属する双子の姉アステル。
その腕には、氷付けのゴーレム関連資料が、しっかりと抱えられていた。
「けどこれ、冷たくって‥‥」
「我慢しろよ、こうしておけばこっそり盗まれたり、すりかえられる危険は減るんだから」
「は、はいコーチ! 頑張りま‥‥くちゅんっ!!」
とは言え、ここはやはり最強のフェミニスト、鳳レオン。流石に彼女の事を可哀想に思いつつ、毛布を掛けてあげるのだった。
●聡明なる策士
気を失い運び出されたセシリアに続いて堕騎士と対峙するのは、セオドラフ。
その視界は、突如深い闇に包まれた。
「‥‥ダークネスですか」
冷めた調子で呟くセオドラフ。彼に抜かりは無かった。
――ヒュンッ。
「そこっ!!」
闇の中から伸びて来た腕を、秀でた聴覚と気配だけで感じ取り、死角を突いて急所を狙う一撃を読みきって避ける。
さしもの堕騎士もこれは予想外だったか――既に攻撃を繰り出せる状態に無い彼に向け、感覚を頼りに一気に詰め寄るセオドラフ。
(「ホーリーフィールドが張られているのならば‥‥!!」)
「せいっ!!」
ザシュッ――。
掠める様な斬撃により、刀を通じて伝わって来たのは――鎧を穿ち肉を抉る感覚そのもの。
「っ‥‥!」
そして間も無く闇の晴れたセオドラフの視界には、フードの下で苦悶の表情を浮かべる金髪碧眼のエルフの顔が間近で映し出されるのであった。
その後、互いに決定的な一撃を加えられないまま、交わされる攻撃と回避の応酬。
決め手となる攻撃こそ凌いでいるものの、手傷を負ったにも関わらず余り衰えを見せない身軽さと軽装による機敏さに翻弄され、セオドラフは徐々に追い込まれていく。
そして遂に――。
ドゴォッ!!
「がっ‥‥!」
繰り出されたスマッシュEXを貰ってしまい、片膝を着くセオドラフ。
重傷を負い著しく動きを鈍らせた彼に、続け様のスタンアタックを避ける事は出来なかった。
●思惑
「‥‥やっぱりアンは脅されてスパイをやってたのか。俺も疑ってたんだから、一度魔法による確認を提案しておけばよかったぜ」
口惜しげに呟くのはレオン。
だが、悔しいのは彼だけではない。
「あの時もっと上手く出来てたら良かったんだけど‥‥ゴメン」
ラマーデが俯きながら言えば、そんな彼女の肩を叩くレオン。
「それにしても、アンを利用していた奴らは許せんな」
彼が怒りを顕にしながら言うと‥‥今まで後方で黙り込んでいたエリーシャ・メロウ(eb4333)が、唐突に騎士団長の前に歩み出る。
「‥‥失敬、少々お伺いしたい事があるのですが」
そう切り出すと、一呼吸置いて――。
「此度の決闘、本当に受ける必要があったのでしょうか?」
その言葉に、騎士達の驚きに見開かれた目が向けられる中、彼女は続ける。
「勿論依頼を請けた以上、決闘の相手をする事について否やはありませんし全力を尽くします。ですが、父親の命を盾に娘に悪事を行わせる卑劣漢に対し守る騎士道はありませんし、此度も必ずや何か企てているでしょう。それでも‥‥」
――――。
ところが、今この場においては堕騎士が特に怪しい動きをした気配は無い。
そして、有事には超速達で報せると言っていた詰所の方からも、未だ何も報告は無い。
けれど。
『彼奴等は以前、賊の襲撃情報を陽動に捕縛から逃れました。同様の事が無いよう騎士団員で詰所を厳重に固めアン殿や他の資料を守り、私達との同行は団長殿他最低限として頂けますか?』
(「そう、いつ仕掛けてくるか分からない。ならば、私達に出来る事は、常に気を配る事‥‥」)
『頑張ってね、エリりん!』(by ラマーデ)
思考を巡らせていると思ったら、何やら微妙な表情をするエリーシャの事を、堕騎士は訝しげに見据えていた。
●決着
三回戦開始直後から、盾を構え守りの姿勢に入るエリーシャ。
普通の状況であれば受動的になってしまえば魔法の餌食だが、堕騎士の方もそれを使用してくる気配は無く、伸ばした腕で死角を執拗に狙ってくるばかり。
だが、それでも彼女の防御を崩す事は一向に出来ず。
「ふ‥‥っ!!」
やがて繰り出された比較的甘い攻撃を身を翻し避けると、槍を構え堕騎士に向けて一気に駆け出すエリーシャ。
そのまま勢いを乗せた一撃を繰り出そうとはしたが‥‥ミミクリーの腕が届く距離程度の助走では、威力の増加は望めない様だ。
しかしそれでも彼女の一撃は手負いの堕騎士を戦闘不能に至らしめるに十分である。
それは寸での所で回避されるが、その鋭さは確実に彼を追い詰めた。
そして、この状況に及んでも尚、もう一撃加えるだけの余力がエリーシャには残っていた。
「これで‥‥終わりですっ!!!」
ドゴォッ――!!
鈍い音と共に彼は後方に飛び退き、そして崩れる様にその膝を地に着けた。
その姿からは、既に戦意は感じられない――。
●捕縛、そして奪還?
「倒せた‥‥みたいだな」
確認する様に言いながら、歩み出るのはエリーシャの後に控えていたレオン。
その先には、未だ片膝を着いたまま、右脇腹を押さえるL.D.の姿。
負傷しているとは言え、この男の事だ。まだ何かあるかも知れない‥‥。
レオンは警戒をしながら慎重に、少しずつ彼に近付いていく。
そして、その距離がある程度縮まった所で。
「‥‥今だ! 神妙にお縄に着け、L.D.っ!!」
レオンの身体が青く淡い光に包まれ、発動されるアイスコフィン。
だが、術は実ったにも関わらず、それは効果を為さなかった。
「くっ、抵抗されたか。ならもう一回‥‥?」
――と、ふとL.D.の手が後方に伸び、自らの鞄を漁る。
そして、取り出されたのは赤い筒の様な物体。それを良く知る天界人のレオンは。
「!? まずいっ‥‥」
ブシュォーーー!!!
噴射音と共に、真っ白な粉末で覆い尽くされる周囲。
余りの勢いに一同が驚き右往左往する中――。
「‥‥決闘は貴様らの勝ちだ‥‥。だがしかし、我は未だ、貴様らに裁かれる訳にはいかんのだ‥‥」
そして、舞う粉が消え身体中を真っ白に染め上げられた一同が目を向けると、L.D.の居た場所には――先に奪われた資料だけが取り残されていた。