【聖夜祭】宴へ向けての第一歩

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月26日〜12月01日

リプレイ公開日:2008年11月30日

●オープニング

 暑い季節が漸く終わりを迎えたと思えば、息つく間も無く駆け足で切り換るかの様に、冬の訪れを迎えつつあるウィル。
 心身ともに凍えさせてしまう様な冷たい風が吹き荒ぶ街中――それでも道行く人が絶えないのは、生業に勤しむばかりでなく、何処とも知れぬ誰かに温もりを求めてか。
 なんて、独り身の者達には割と辛い季節を例える様な表現はさておき。(人それを自虐行為とも言う)

 ウィルに佇むジーザス教の教会では、一人の男性が祈りを捧げていた。
 世界が違えど‥‥いや、世界が違うからこそか、神に仕える者としての責務を一日として忘れないその姿は、実は噂好きと言う側面さえも覆い隠してしまうに十分である。
 と言う訳で、神父のヨアヒム・リールにとって、昨今は大変に忙しくなる時期でもあった。
 未だジ・アースの神の教えがそれ程広まりきってはいないと言え‥‥それでも今から約一ヵ月後に控えるとある行事に関しては、自分や身内の信者だけ集めてひっそりと、と言う訳にも行かなくなってしまってきているのだ。
 その行事と言うのは、言うまでも無く――。

「うぅ寒っ!」
 ふと礼拝堂の入口の方から聞こえた声にヨアヒムが振り返れば、そこにはしきりに手を口の前で併せながら、身を縮こまらせて木戸を潜ってくる一人の少女の姿があった。
「おや? これはかえでさん、お久し振りです」
「どもども、お邪魔するよ♪」
 と、陽気に挨拶しながら教会に現れたのは――天界人の彩鈴かえで。
「ねえねえ? 神父さんって今暇かな?」
 いきなり何を言い出すかと思えば。
「え? ええ、丁度本日の行事も一通り終えた所ですし‥‥暇と言う程でなくとも時間はありますね」
「だったらさ、ちょこっと相談に乗ってもらいたい事があるんだけど、良いかな?」



●二つの天界と二つの聖夜
「『クリスマス』ですか」
 ヨアヒムが呟けば、それに応える様に頷くかえで。
 クリスマス‥‥即ち聖夜祭は、先日のハロウィンと同様にジ・アースとかえでの故郷のチキュウの両方に存在する、年末の行事である。
 もっともヨアヒムは、出身地であるジ・アースにおいて『クリスマス』と言う呼び方が聖職者達等の間での専門的な呼び名と言った解釈であった為、その言葉が広く一般的に知られて居ると言う天界の文化に、驚き目を見開いていたが。
 閑話休題、ヨアヒムがこの時期に矢鱈忙しいのは、その聖夜祭の為であったりもするのだ。
 元来お祭り好きなアトランティス人の気質もあってか、その意味を尋ねにと教会へと足を運ぶ者も数知れず。
 聖夜祭への関心が毎年毎年高まる中、教会においても昨年までにはリースを飾るだけに留めてはいたものの、そろそろツリーでも用意しなければ、とまで考えていた所なのだ。
 加えて、当日のミサに向けた準備や、その他諸々‥‥時間がいくらあっても足りそうに無い。
 とまあ、嬉しやら遠い目をしながら何だか良く分からない笑みを浮かべるヨアヒムに、かえでは首を傾げつつ。
「でさ。折角の聖夜祭だし、どうせなら大きな会場で沢山人集めて、盛大にパーティーをしたいなぁって思ってたんだよ。けど、中々それが難しくってねぇ‥‥」
 何が難しいのかと尋ねると、真っ先に出てきたのがその『会場確保』の問題である。
 ウィルの街中、もしくは歩いて半日も掛からない様なアクセスの良い場所にあって、堂々と人を集めてパーティーが催せて、ある程度どんちゃん騒ぎをしても怒られず、作りたての料理をすぐに用意出来る様な、何人でも収容できる広い場所。
 まさに注文の多い聖夜祭会場。
「けど、そんな所そうそう無いんだよね〜。教会を借りる訳にもいかないだろうし‥‥」
「ええ、此処は聖夜祭当日にはミサが行われますからね。流石に宴の場としては広さも足りないでしょう」
「だよねぇ。それに、資金も問題なんだよね。何処かの貴族さんでも、スポンサーになってくれれば‥‥」

 ――w√W―キュピリィイン―ww――。

 その時、ヨアヒムに衝撃が走る。

「? どしたの?」
「あ、いえ‥‥もしかすると、心当たりがあるかも知れません」
「え!? ホント!?」
「ええ、ですが‥‥‥‥‥‥いえ、取り合えずは私の方で手を打っておきますので、一先ずは会場に関してはご安心下さい」
 そんなヨアヒムの言葉に、かえでは何処か釈然としない表情をしながらも‥‥肩の荷が降りたと言った様子で、嬉々と教会を去って行った。

 ――その後、ギルドに張り出されたこの依頼を見て、口角を引き攣らせながら硬直する事になるとは、夢にも思わず。



●心当たり
「ミ・ル・ク・た〜ん!!」
「鬱陶しいです〜」

 めきょり。

 中略。

「ねぇねぇミルクたん、クリスマスって知ってる?」
「ああ〜、12月の末に行われる天界の祭りですよね〜? 勿論知ってますよ〜」
「そっか、なら話が早い♪」
 そう言って取り出されたのは――何だか色々と間違ってるデザインの、真っ赤なスク水。
「これ、その行事にちなんだ特注品なんだ♪ 当日は是非この格好dうべべべべっ」

 ゴロゴロゴロゴロガッシャーン!!!


 ――神父様、色々と選択を間違えちゃったかも知れない。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4399 岬 沙羅(28歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

ケル・ナグール(eb8406

●リプレイ本文

●忍び寄る影(冒険者的な意味で)
 ウィルの街の東端に立ち並ぶ屋敷の中でも、一際大きな外見で目を引く珍獣屋敷。
 その門前に立ち並ぶ冒険者達の中で、ラマーデ・エムイ(ec1984)は口元を引き攣らせていた。
 元々彼女は、相手が貴族である上頼みごとをするのは此方の都合である故、ちゃんとシフール便で事前に約束を取り付けて‥‥と礼節を弁えた訪問を勧めていたのだが。
 仲間の『珍獣』をよく知る者達から、主人の気質を考えればその必要は無いだろう――ついでに依頼期間もあまりないから、と諭され、のっけからこうして押し掛ける様な形で屋敷に足を運ぶ事になっていた。
 だが‥‥彼女が何処となく不安な気持ちを抱えていたのは、実の所そう言った経緯ありきと言う訳ではない。

「って言うか皆、なんだか目が怖いわよー?」

 そう、その表情――特に珍獣と面識のある者の中でも加藤瑠璃(eb4288)や物輪試(eb4163)辺りは、もはやこの時点で目が据わっていたり。
 しかし対照的に倉城響(ea1466)は、この(ある意味)魔境を前にしてもいつも通り穏やかに笑顔を浮かべている。
 それが寧ろ、得も言わぬ底の知れなさを(断末魔)。
 思わずズリズリと後退りするラマーデに同じく、岬沙羅(eb4399)やジュディ・フローライト(ea9494)も悪寒を感じているのか、自らの身を抱くようにしながら。
「‥‥なんでしょう‥‥昔、悪友の先輩に地球のイベントの手伝いにかり出され、ベタやトーン貼りなど2日貫徹させられた時のような悪寒が‥‥」
 ちなみにそのイベントと言うのがどの様なものだったのか聞いてみると‥‥要するに絵師や職人達が寄り集まって自らの作品を自由に売って回る、芸術祭典の様なものだとか。
 それで何故珍獣に同種の気配を感じて居るのか、理解に苦しむ所ではあるものの、まあさておいて。
 隣のジュディは、そんな沙羅よりも更に顔色を悪くしていて。
「それにしても、聖夜祭の時期も近付き冬も深まって‥‥。しかし、こう寒いと体の調子が‥‥けほっげほっ!」
「わっ、ちょっ!? だ、大丈夫ジュディ!?」
 突然咳き込むジュディに、驚き背中を摩るラマーデ。
 どうやら、単に具合が優れなかっただけだったらしい。
 けれど、やがて上げられた顔は何だかとっても爽やかで。
「ともあれ、わたくしも聖なる母の教えに従う者の端くれ。聖夜祭の成功のため尽力致しましょう。それにどうやら、この度のパーティーは恋人達の為の物でもあるとか。‥‥うふっ、個人的にも頑張りたkごふぉ」
 わ゙ーっ!! わ゙ーっ!!?
 と、慌てながら仲間達がその身体を支える。
 だ、大丈夫なのだろうか、この娘‥‥。

「おや、初っ端から随分賑やかだねぇ」
 と、後から合流するアシュレー・ウォルサム(ea0244)は何か遣り遂げた後の様な清々しい表情で、愉快そうに言う。
 その少し前、ギルド裏で『ばくはぁつ!!』等といった声が響いていたのは、此処だけの話。



●いつもの珍獣
「本来、聖夜祭とは何かご存知ですか?」

 中略。

 カキィン――!!
「ぐべぇ!?」
「ほら、だから反応が遅いと言ってるだろうっ!! もっとボールを良く見るっ!!」
 毎回試に快く野球道具を貸し出しているシエラも、まさかこの様な使われ方をされているとは、夢にも思っていないだろう。
 とは言え、今回は前回の様にどんな怪我をしてもたちまち元通り‥‥と言う訳にはいかないので、適度な所でタイムを挟んでジュディがリカバーを掛ける。
「あ、ありがとージュディたん!! 君はボクの癒しの精r(カキィン)げぶろっ!!!」
 とっても正確なバットコントロール。
「‥‥まだまだ平気そうだな。では、もう500本追加っ!!」
「ひぎぃーーー」(ひぎぃーー)(ひぎ(ry))←こだま

 ‥‥‥‥。

「よし、今回はこの位にしておくか」
 と、爽やかに汗を拭いながら言う試に対し、珍獣ことウルティム・ダレス・フロルデンは半死半生。
 その肥満した身体をぐってりと地面に横たえていると――ふとそこに影が掛かり。
「こぉの、馬鹿弟子があぁ!!! クリスマスにスク水着せてどうするっ!!!」
 ずべしゃぁッ!!!
 西萌不敗・マスターウィルの二つ名を持つアシュレーから、容赦のない制裁が加わる。
 流石は師匠、萌えしき中にも礼儀ありと言う格言(?)を良く弁えていらっしゃ
「良いか、時期は聖夜祭っ!! ならばミニスカサンタの格好で絶対領域を楽しむのが通だろうがぁ!!!」
 弁えていらっしゃらなかった様だ。
「ミニスカ‥‥サンタ?」
「その通り! 真っ赤で暖か気な衣装でありながら、ギリギリラインのスカートから覗かせる太腿っ!!」
 ここで、試が『グッ!』と拳を握っていた事に、気付く者は無く。
「そ、それは‥‥萌えるっ!!!」
「だろうっ! 見えるか見えないかの極限、その魂を揺さぶるチラリズムを堪能s」

 ――ビィィン。

 次の瞬間、アシュレーの眼前では壁に突き刺さった銀製のナイフが小刻みに揺れていた。
「良いから話を進めやがれです〜」
 パラメイドのミルクの言葉にも、アシュレーは目を見開いたまま硬直していて、何も言えず。恐らくは殺気に敏感な彼でも、その投擲に気付く事が出来なかったのだろう。
 ‥‥おお、恐い恐い。いやまぢで。

「ともあれ、一度聖夜祭が何たるか、ウルティムさんにご説明して差し上げた方が宜しいでしょうね♪」
 と、今まで屋敷の中へメイド達への挨拶回りに行くついで、人数分のお茶を持って戻って来た響が切り出せば、仲間達も大きく頷く。
「そうそう、あたしも気になってたんだけどさ‥‥そもそもクリスマスって、何? ただのお祭りじゃないの?」
 ラマーデが尋ねれば、ウルティムにこの行事を教えると言う意味合いも兼ね、じっくりとっくり懇切丁寧に説明を始めるのはジュディ、瑠璃、試。
 だが、ジ・アース出身のジュディとチキュウ出身の瑠璃に試の説明の間には、同じイベントでありながら相違点も多々見受けられ。
「そうね‥‥地球においても原型は、概ねジュディさんの言った通りよ。どちらの世界でも共通している事は、教祖となった聖人の誕生日と言う事ね。地球の本場西洋でも基本は、ミサに参加し、家族一緒に心安らかに過ごす日よ」
「‥‥だが、日本の場合はなぜか、子供にとって『プレゼントを貰う日』、大人にとって『前の日であるイブをどう過ごすかが重要』であったりと変質しているが‥‥」
 瑠璃の説明にそう付け加えて苦笑する試。と、そこでラマーデが再び首を傾げる。
 と言うのも、アトランティスにおいての『神』の認識は『傷の治療などをする天界の精霊』と言う認識。なのに精霊が人間から生まれる日と言うものが存在するのか、そしてチキュウとジ・アースは別の世界なのに、同じ精霊(神)が居るのか、と言った辺りに疑問を抱いているらしい。
 すると、そんな彼女にジュディがたおやかな笑みを浮かべ。
「そうですね、正確に言うならばその精霊さんは聖なる母『セーラ』様と大いなる父『タロン』様と呼ばれています。聖夜祭にて生誕を祝わせて頂くジーザス様というお方は、そのお二方の教えを伝えた人物なのです。聞いた話によれば、チキュウにおけますキリスト様と言うお方もジーザス様と同じ様な偉業を為された聖人と窺っておりますが‥‥恐らくは、お二人は別の方なのでしょう」
「そうね、第一地球じゃ魔法で傷を癒す様な教えなんて伝わってないし」
「ふ〜ん? 要するに、アトランティスで言うウーゼル・ペンドラゴンみたいな人の誕生日を祝う、って事なのね。何にせよ、楽しいお祭りが増えるのはいい事よね☆」
 と、一先ずの疑問が解決した所で‥‥ジュディがウルティムに向き直り。
「と言う訳で、少なくとも、『すくみず』を着る事を強要されるお祭りでは御座いませんよ。そう、何事も強要すべきではないのです。でないと『めっ』ですよ?」
「そう言う事。って訳で不埒な行動は禁止! 良いわね!?」
 ズビシィッと瑠璃がウルティムに指を突き付け釘を刺すが、撃沈中の彼に刺せる程の硬さは残されていない様子で。
「‥‥仕方ありませんね。当日まで、しっかりと見張ってるしかないでしょう」
 いつの間にやら工具箱から取り出した割とえげつない機材でウルティムの肥満した身体を小突いていた沙羅が、片眼鏡を直しながら言うのであった。

 ――その頃、いつの間にか姿を消していたアシュレーの動向に、気付く者は無く。



●赤い聖人(目の保養的な意味で)
「‥‥ところで、『ミニスカ』って何ですか?」

 初日において、挙手と共に響からされた質問――。
 その答えが、依頼最終日のこの日、最も分かり易い形で示される事になった

「うぅ、足元がスースーします。ちょっとコレ、胸がキツいような‥‥って、何覗こうとしてますか!」
「ひゅぶるっ!!」
 ドゲシッ。と、沙羅の足蹴にされる(ある意味)勇者ウルティム。
 けどお嬢さん、そんな丈の短いスカートで足を上げたら‥‥。
「って、アシュレーさんも何撮ってますかっ!!!」
 飛来する凶悪工具、ドリルをひょいとかわし。
「大丈夫大丈夫。ウルティムが貸した天界製下着、よく似合ってるから♪」
「そう言う問題じゃありませーーーーーーーんっ!!!!」
 身を包む衣装の様に顔を真っ赤にした沙羅が繰り出す工具弾幕。それをひょいひょいと避けながら、デジタルカメラをパシャパシャと瞬かせるアシュレー。

 ‥‥巻き込まれない様しっかり距離をとって、と。

「伝説上の、『よい子にプレゼントをくれる』聖人‥‥赤い服を着た白い髭の老人で、クリスマスの夜にトナカイのソリに乗って子供達にプレゼントを配る‥‥なのに、ねぇ」
 呆れた様に、自身のしたサンタクロースに関する説明を反芻するのは瑠璃。
 その眼前には――沙羅と同じく、絶対領域萌えな赤い衣装に身を包むジュディの姿があって。
 ちなみに、この衣装を考案したのはアシュレー、デザインの原画を書き起こしたのはラマーデ、実際に手掛けたのは珍獣屋敷のメイド達(但し仕方なく)だったりする。
「とは言っても、これは未だ試作品だからね。何か改良案とかがあったら言ってちょーだい?」
 と、顔を伏せるジュディの横に並んでラマーデが言えば――次の瞬間、ふらりと糸の切れた人形の様に崩れ落ちるジュディ。
 ‥‥恐らくは(主に足の辺りからの)風通しの良さの余り、身体に障ったのだろう。
「そうですね‥‥ミニスカサンタさんの衣装もいいとは思いますが‥‥」
 彼女を一先ず別室で休ませると、小首を傾げ考える仕草をしながら口を開くのは響。
 そんな彼女が提案したのは、短い丈のズボンや長い丈のスカート等の、サンタ衣装のバリエーション。
 衣装の種類が多ければ着る側にも楽しみが増えるだろうし、色々と組み合わせも考えられるから、との事。
「そうね、当日そういう衣装をウルティムさんが用意して選択出来るようにして、着替えた人だけには特製のお菓子や秘蔵のワインを進呈って事にすれば、着てくれる人も増えるかも?」
 と、ラマーデが案を出せば――いつから居たのか、すぐ横ではウルティムがキュピーンと目を光らせていた。
「なるほど、着替えた人には贈り物で」
 ‥‥どうやら、強引ではなくあくまで合法的に、参加者をコスプレさせる手段として、彼女の今の発言を捉えてしまった様だ。衣装の選択云々について耳に入っていたかは相当怪しい。
「‥‥な、何かあたし、悪い事言ったかな‥‥?」
 そんな事知る由も無いながら、気配で良からぬものを感じたラマーデは、思わずそう呟く。
「‥‥念を押しておくけど、『ミニスカサンタ』はただのサンタっぽいファッションで、別にクリスマスに必須のアイテムじゃないわよ!」
 瑠璃の言葉に、ウルティムはきょとんとした表情を浮かべ――かと思えば、何やら納得した様にポンと手を打ち。
「ああ、そっか! 瑠璃たんと響たんは、試作品は胸のサイズが合わなくて入らなかったんだよね? 心配しなくても、当日にはちゃんtめぎゃぽっ」
「その服、サンタっぽく真っ赤に染め上げてあげましょうか?」
 丸顔にめり込むナックル。例え答えが『No』でも、既に手遅れな気がする。
 だが。

「いやあああぁぁぁ!? ボタンが弾けたあぁーーっ!!?」
 ‥‥沙羅の悲鳴が響くや、途端に息を吹き返し――そして、ものの数秒で(アシュレーもろとも)撃沈させられるのであった。


 相変わらず騒ぎの絶えない珍獣屋敷。
 けれど、冒険者達もただはしゃいでばかりと言う訳ではなく、するべき所はしっかりとこなしていた。
 一先ずはこの珍獣屋敷をパーティー会場とする事の許可も(かなり乗り気で)得られたので、当日へ向けての準備の打ち合わせを始める一同。
 とは言っても、日数的な余裕が殆ど無かった為、クリスマスツリーの配置等と言った会場設営や、催し物に関する相談も殆ど進まず、またミニスカサンタ衣装も試作品の二着のみで改良の余地有り、と言った所までしか纏める事は出来なかった。
 ともあれ、準備において資金面等における全面協力をウルティムが約束してくれた為、今後更に綿密に計画を錬りつつ準備を進めていけば、恐らくはある程度想像通りのパーティーを開催する事が出来るだろう。
 尚且つ、暴走しない、苦情が出たらやめる(破ったらエロスカリバーもたせてウィルの町一周)といった、珍獣抑止用の誓約書にもサインを貰えた故、余程でない限り本イベントが後に問題を起こす様な事態にはならないだろう。
 ‥‥もっとも、前者の約束はどの程度守られたものか、疑わしい所であるが。
 何にせよ、此処まで珍獣を屈p‥‥でなくて、協力を仰ぐ事が出来たのは、一概に彼の趣味ど真ん中を突いて落としに掛かった冒険者達の功労と言える。

 聖夜祭まで後一ヶ月。
 今は未だ気は早いものの、当日を待ち遠しく思う気持ちを心の中で躍らせながら――珍獣屋敷を後にした冒険者達の足取りも、何処か弾んでいた。


「‥‥それにしても、ああいう貴族様が心当たりって事は、ヨアヒムさんも同じような趣味があるのかも」
 ぼそり。