【聖夜祭】催し物談義&嫉妬の炎

■イベントシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 99 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月19日

リプレイ公開日:2008年12月25日

●オープニング

 ウィルの街はすっかり冬ならではの冷気に覆われ、道行く人の姿も大分減りつつある昨今。
 その只中を、一人急ぎ足で駆け抜ける少女の姿があった。
 儚げな顔色の頬を上気させ、手に握られた木刀と脇差が一歩踏み出す度にカチャカチャと乾いた音を立てる。ピンク色のヴェールを棚引かせながら進む姿は、まるで桃色の風の様。
 そんな彼女は、『ミスティ・フォルトレス』と書かれた木製の看板の前で立ち止まると、未だ未発達な胸の前に手を当て呼吸を整え――そして、勢い良く眼前の木戸を開いた。

「す、すみません! 遅くなりましたっ!」
「ぶっ!? ゴフッ、ゴフッ!!」

 彼女を出迎えるのは、暖かな店内のテーブルでこの店自慢のハーブティーを啜っていた天界人の女子高生‥‥だが、驚いて折角のお茶を噴き出してしまっている。
 そして、その隣席に掛けていたエルフの騎士は寧ろそんな彼女の動作に驚いたらしく、連鎖的にハーブティーを以下略。


 ‥‥と言う訳で、聖夜祭企画の発起人たる彩鈴かえでからの召集により、喫茶店ミスティ・フォルトレスに集められたのはミーヤ・フルグシュタインとアレックス・ダンデリオンの二名。
 用件は他でもない、聖夜祭に向けての準備に関する物である。
「――と、言う訳でね。珍じゅ‥‥じゃなくてウルティムさんが快くお屋敷のダンスホールを貸してくれたからね。今は皆で着々と当日に向けた準備を進めているところなんだよ」
 今回催される聖夜祭のパーティーは、天界式の『クリスマス』をベースにしたものとの事。彼女はそれの如何から、現状に至るまでの過程を(時折げんなりしながらも)事細かに二人に説明した。
「でね、取り合えず会場設営や衣装とかある程度の準備に関してはオッケーなんだ。それで、当日には舞踏会っぽくダンスをする事も決まってるんだけど‥‥ただ、やっぱし折角の聖夜祭なのに、それだけじゃ物足りないかなぁって思ってさ。と言う訳で、二人で仲間を集めて貰ってさ、催し物の企画を練って貰いたいんだよ」
 引き受けてくれるかな? と、身を乗り出して二人に迫るかえで。
 だが――どう言う訳か、ミーヤもアレックスも何やら微妙な表情を浮かべていた。
「あ、あれ? もしかして、何か忙しかったりとかする‥‥?」
「あ、いえ、ええと‥‥」
 まさにその通り。現在この二人は、シリアスな事件に巻き込まれている真っ最中。
 本来であれば、聖夜祭に参加する事叶わない様な身の上であるのだが‥‥。
「‥‥そうですね。私で宜しければ、是非ご協力させて頂きます」
「ホント!? ありがとう、助かるよミーヤちゃ〜ん♪」
 言いながら、ミーヤをぎゅむりと抱き締めるかえで。どうやら、手伝いに協力できると言う上で、何かしらの事情があるらしい。

 一方、此方も事情のあるエルフの騎士の方はといえば。
(「‥‥まさか、な。彼奴とて、これを知り及んで、『あの様な』書簡を寄越した訳ではあるまい」)
「‥‥良かろう。私も冒険者達には借りがある上、ウルティム様の館で催されるとならば、手伝わぬ訳にもいくまい」
「うん、アレックスさんもありがと〜! 二人とも、協力に感謝だよっ♪」
 そう言って、かえでは二人の手を嬉々と取り合っていた。



 ――そんな遣り取りのあった夜の事。
 珍獣屋敷に滞在中のアレックスはウルティムからの呼び出しを受け、彼の私室に訪れていた。
「話は聞いたよ。君も聖夜祭の準備を手伝ってくれるんだってね?」
「はっ。何でも、当日の催し物の企画を、ミーヤ・フルグシュタイン殿と共に考案して欲しいとの事で、引き受けて参りました」
 と言うか、昨日の今日の事であるというのに、何でこの方は知っているのだろう? 等という疑問は胸の中に仕舞っておき。
 アレックスの言葉に、ウルティムは「あ〜〜〜〜〜〜〜」と、鬱陶しい程長い声を上げる。
「そっか。でも君、そう言うの苦手じゃない?」
「‥‥‥‥」
 根も葉もない指摘だが、言い返す言葉も無い。
「まあ、そっちはミーヤたん達に任せてさ。君にはちょっと別の手伝いを頼みたいんだけど、構わないかな?」
「はぁ‥‥私は一向に構いませぬが、具体的にはどの様な事をお任せ頂けるのです?」
「いやね、割と不穏な内容だから、出来るだけ秘密裏に済ませて欲しい事なんだけどさ‥‥」



 同じ頃。
 寒風の吹き荒ぶウィルの一介の広場には、何やら怪しげな人だかりが出来ていた。
 その顔ぶれを見るや、殆どが男性で‥‥顔には只ならぬ憎悪やら悲愴感やらを浮かべていて、明らかに穏やかではない雰囲気を一人ひとりが醸し出している。
 その中の一人が近場の木箱に飛び登り、声を張り上げた。
「諸君、此度はよくぞお集まり頂いた! 我が諸君らに呼びかけたのは他でもない、かつては我らの同胞でありながら、許すまじき裏切り行為を企てて居る、かの男の粛清の為である!」
「諸君の中でも、天界文化に多少通じている者であれば、存じているであろう。そう、カオスの穴から押し寄せる魔物の大群の如く迫り来る、忌まわしき日の事を!」
「その名は『聖夜祭』! 我らが宿敵、即ちカップル達にとっては思う存分イチャ付きまくるという、天界の歪んだ文化感により生み出された呪われし行事である!!」
 彼の声に、所々から怒号にも似た声が上がる。『そんな日があって良いものか』『カップル達の横暴極まれり』だとか‥‥。
 まあ、要するに彼等を突き動かしているものは、理不尽な嫉妬と言う事だろう。
「本来であれば、その様なヒュージドラゴンの怒りをも恐れぬ不届き千万な行事は、見てみぬフリをするのが礼儀! 肩で冷風を切りながら一人黄昏つつ、天界かぶれな宿敵共に正義の鉄槌たる小石を投げ付けるべき所なのだ! にも関わらず、我らがかつての戦友、ウルティム・ダレス・フロルデン子爵は如何したか! 天界人の小娘や冒険者共の口車に乗せられ、あろう事かこの行事をかつて無い規模で執り行おうとしているではないかっ!! しかもミニスカサンタなどと言う、けしからず萌えで許すまじき萌えなコスプレ完備でっ!! この横暴を静観して良いものか!?」
「否、断じて否っ!! ならば、我らの為すべき所は決まっていよう!!!」
 彼の弁に熱が篭もるのと比例して、加速度的にヒートアップして行く皆々様。
『奴は誇りを失った!』『お前だけにイイカッコさせやしない!!』『裏切り者に死を!!!』
 その叫びは、まるで地の底から響くカオスの唸りの様だったとか。
「そして、粛清の暁には! 戦利品たるミニスカサンタ完備なメイドさんやら冒険者やらをその手にっ!!」

 ――オオオオオオォォォォォォォォォ!!!

 ‥‥もう好きにして下さい。
 と言いたいが、無駄に決死の覚悟を固めている彼らをこのまま放っておくのは、余りにも素敵過ぎる。

 ――アレックス・ダンデリオン。
 彼の胃に穴が開く日も、そう遠くないかもしれない。

●今回の参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ フルーレ・フルフラット(eb1182)/ 信者 福袋(eb4064)/ 物輪 試(eb4163)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248)/ 加藤 瑠璃(eb4288)/ アルジャン・クロウリィ(eb5814)/ 導 蛍石(eb9949)/ ラマーデ・エムイ(ec1984)/ レイン・ヴォルフルーラ(ec4112

●リプレイ本文

●当日の予定は
 さて、聖夜祭当日も数日後に控えたこの日。
 かえでの手回しにより珍獣屋敷の一室――此方も埃を被っていた広大な会議室の様な場所を借り受けたミーヤは、そこに冒険者を集めて催し物の談義を始めようとしていた。
 だがしかし。
「‥‥アレックスさん、遅いですね?」
 そう、催し物の相談をする様にかえでに頼み込まれたのは、アレックスも同様。
 そんな彼が今現在別の任に就かされていると言う事を、知り及んで居なかったのだ。
「あー‥‥うん、まあ居ない者は仕方が無いし、取り合えず始めちゃおうよ」
 アシュレー・ウォルサム(ea0244)が言えば、ミーヤも止む無しと言う感じに頷く。
 ――そんな彼の頬には、一本の赤い筋の様な切り傷。
 ミーヤとの出会い頭、「久し振りー♪ 元気してた?」と言った感じに親愛のハグをしようと――した所、彼の顔を狙い澄ます様にして飛来した一本のナイフに阻まれたのだ。
 誰が投げたかは‥‥まあ、言わぬがホトケ。
「ご自身も大変な時にご苦労様です‥‥」
 ミーヤを労う様にレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)が呟けば、アシュレーはくくっと彼女の方へ顔を向け。
「‥‥それってもしかして、俺の事言ってる?」
「へっ!? い、いえいえ、決してそんな事はありませんよ、ええありませんともっ!!」
「ふーん‥‥じゃあその証拠を示してもらうって事で、レインに『も』ハグして貰おっかなー♪」
「ちょっ、何でそうなるんですかっ!? わ、私は駄目ですっ! その、心に決めた人も居ますし‥‥って言うか、『も』って何ですか『も』って!!?」

 ‥‥閑話休題、そんな漫才ばりな遣り取りを皮切りとして始められた会議の中、まずはと口を開くのはラマーデ・エムイ(ec1984)。
「この屋敷を借りる時に教えて貰ったけど、クリスマスって天界で癒しの精霊の事を皆に広めた偉い人の誕生日で、その日に精霊の事もお祭りするようになんでしょ? それなら、火霊祭とか陽霊祭とかと同じように癒しの精霊に感謝を表す行事が要るわよね。火霊祭とかでも楽しく騒ぐけど、根っこは其処だもの」
 確かに、聖夜祭の根底にあるコンセプトは、ジ・アースとチキュウにおける聖人の誕生日を祝う事。
 ミーヤがウルティムから聞いた話に因れば、教会の神父のヨアヒムが『ミサ』と言うそれに則した行事を、珍獣屋敷においてひっそりと行うらしいが‥‥それ以外にも何かしらあった方が良いだろう。
 と言う事で、中座間際に加藤瑠璃(eb4288)が提案してきたのは、天界チキュウにおける聖人イエス・キリストの生涯を簡潔に演じる劇を、地元の子供達も交えて行ってみては如何かと言う案だった。
 成程、確かにそれは本来聖夜祭と言う行事を行う文化の無いアトランティスにおいて、その意味をも伝える為にあった方が良いかも知れない。
 と言う訳で満場一致の賛成を得た演劇案は、されど各役割分担と言う問題を残したままではあるものの可決とされ、議題は他の催し物へ。

「そうだね、後は‥‥ミーヤリサイタルとか、他ではサンタコスのコンテストや王様ゲームなんてどうだろ?」
「え、ええっ!? リ、リサイタルって、そんな私は歌など歌った事がっ‥‥!」
「だったら皆で大合唱する? 何とかバックコーラスの面子も確保できるかも知れないし、それなら恥ずかしくないよね?」
「‥‥あ、それなら、ミニスカサンタのコンテストと合唱を一緒にしてみては如何でしょう? そうすれば、子供からご老人まで楽しめる内容にもなりそうですし」
「成程、着飾った出演者達がまず登場して、その後で皆で集って合唱って言う形式ね? うん、良いんじゃない♪」
「それなら勿論、レインも出場だよね?」
「ええっ!? で、でも、その‥‥っ! あ、けど、さ、参加しても‥‥良いかな‥‥(ゴニョゴニョ)も見たいというような事を仰ってましたし‥‥」
 語尾を窄ませながら愛らしくもじもじと縮こまるレインの様子を、アシュレーがデジタルカメラでパシャリ。
「それと、皆でお祈りするんなら、聖夜祭の起源に縁のあるヨアヒムさんとかに、お祭りの一番最初に音頭をとって貰うのはどーぉ?」
「あ、えっと‥‥(居住いを正し)それは良いかも知れませんね! 神父様ならばきっと引き受けてくれるでしょうし♪」
「それじゃ決まりね☆ 後は折角だから天界に因んだ何か‥‥。ねぇアキラ、カエデ。天界には皆で身体を動かして簡単に出来るゲームってない?」
 ラマーデが振れば、会議の内容が気になったか、何時からか輪の中に入り込んでいた二人の天界人は目を見開く。
「え‥‥う〜ん、そだね。大勢で出来るゲームなら、フルーツバスケットとか、ハナイチモンメとか‥‥」
「後は、パーティーゲームの定番と言えばトランプやウノもあるな」
「けど、それだと道具も用意しなくちゃいけないし、それに幾らなんでも人数が多すぎるよ」
「そっか‥‥それじゃあ、『ダウトゲーム』なんてどうだ?」
「? 何それ?」
 アトランティスやジ・アース出身の面々は元より、同じ天界人であるかえでも首を傾げる。
 アキラの説明によれば、『ダウトゲーム』とは二つのチームに分かれ、その中でくじ引きをし、それぞれ決まった数のダウトのメンバーを決めておく。そして交互に相手チームの誰か、ないしは相手チーム全員に一人一つずつ質問をして行き、相手のダウトメンバーを探って行くと言うゲームらしい。
「で、質問をする代わりに、ダウトと思われる相手のメンバーを一人だけ指名しても良い。それで指名された奴は一旦抜けておいて、最後の答え合わせでダウトかどうかを明かす。より多くのダウトを指名していた方のチームの勝ちって言う、所謂心理ゲームだな」
「ふむふむ、ちょっとルールは複雑だけど‥‥良いんじゃないかしら?」
 と言う訳で、ミーヤが最終的に時間関係などを纏めてみた結果、以下の様なスケジュールで催し物を行う事が暫定的に決定された。

・ミニスカサンタコンテスト&大合唱
・演劇
・フルーツバスケット&ダウトゲーム
・王様ゲーム

 これで、概ね催し物の談義は終了。後はその詳細を決めて行くのみ‥‥。
「じゃあないんだよねぇ」
 アシュレーの言葉に、レインも大きく頷く。と言うのも、このスケジュール内に盛込まれていないとある案に関する決着が着いていないが故で。
「せっかくの聖夜祭、フィーリングカップルは『断固阻止!』で動かさせてもらいますからねっ!!」
 拳をぎゅっと握り締め意気込むと、アシュレーとミーヤと共に、問題の立案者の下へと向かって行くレイン。
 その間も、顔を蒼白させながらブルブルと震えるミーヤの事を、二人は訝しげに見据えていたが――。

 理由は、間も無く明らかになった。

「あら〜? ミーヤさん〜、アレを発案したのは私だって明かしちゃいけないって〜、あれ程念を押したじゃないですか〜」
「ミ、ミルクさん‥‥!?」(硬直)
「‥‥あはは。参ったね、これは」(引き攣り笑)



●嫉妬団
 一方、冬風の吹き荒びながらも、祭りが近い為か何処か高揚した感の漂う夕暮れの街中。
 珍獣屋敷へと繋がる東側の道、その路地裏に、数人の者達が集まっていた。
 そう、今回の依頼においてアレックスの特命に力を貸す事を表明した冒険者達である。
 ミーヤの催し物談義よりも明らかに人数が多いのは、やはり折角の聖夜祭を潰そうとする不穏な連中を放って置く事は出来ないと悟った故か――。

「ふぅ‥‥それにしても、俺も三十路になってしまってから久しいな‥‥」
「人の恋路を阻み妬むは不届き千万! 独り身の風上にも置けないッス!」

 ヒュルリラー、と、寒風を一身に受けながら黄昏、そして燃え上がる物輪試(eb4163)とフルーレ・フルフラット(eb1182)。
 ――もしかすると、憂さ晴らし目的だったりして。
「「んな訳あるかっ!!」」

 めきょり。

「‥‥えーっと、それで相手のネーミングは満場一致で『嫉妬団』に決定ですね。『珍獣軍団』とあまり変わってない気もしますが」
 苦笑いを浮かべながら言うのは信者福袋(eb4064)。
 しかし、何と言うか今回の鎮圧作戦において、彼だけ他の者達とは様相が違うと言うか‥‥。
 そう、身嗜みは天界物品ばかりなのでよくは知れないものの、まるでこれから交渉に向かおうと言う行商人の様な風情を、どこか漂わせている。
 それでも不敵な笑みを浮かべる彼が、どの様な手の内を控えているのか計り知れず‥‥と、そこに合流してくるのは、催し物談義を途中退席して此方へ向かって来た瑠璃。
 そう、彼女の様にえげつないまでの金属拳を携えていたりすれば、割と何をするのか分かり易いのだけれど‥‥。
「‥‥ええ、準備は出来ていますよ。数が多いのがちょっと難儀ですが、事後のお仕置き‥‥もとい修正作業の後は『今回も』こちらで引き受けます」
 彼女とニ、三言交わし、何とも『慈愛』に満ちた微笑を浮かべる導蛍石(eb9949)の講じている手段も、何とも分かり易い――いや、分かりたくない。
 ともあれ、瑠璃はふと、今回の作戦におけるネックとなる『囮役』の二人に視線を向けると。
「‥‥面白くなりそう」
 くすりと意味深な笑みを浮かべ、人気の少なくなりつつある街道を見据えるのであった。



●An undercover date‥‥?
「この前貰った香水をつけてみたの‥‥どうかな?」
「う、うむ、良く合っていると思うぞ」
「本当? 嬉しいですっ♪」
「!? お、おいっ!! 余り引っ付くと‥‥!!」
「‥‥これぐらいしないと、連中も出て来てはくれませんよ?」
「む、うむ‥‥‥‥」

 寒空に
 高く木霊す
 休閑鳥(とり)の声
 キャッキャウフフと
 嗚呼バカップル

(歌人不詳)

 と言う訳で、闇の深まる街道のど真ん中で、抱きついちゃってたり手を握っちゃってたりホクホクお話しちゃってたりと、人目憚らぬイチャ付き振りを見せ付けるバカップル――に扮するのは、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)とアレックス・ダンデリオンのエルフ二人組。
 無論、囮である。そう、囮である。(大事な事なので二回(ry))
 しかし、そのイチャ付き振りの余り‥‥『囮だからって、悔しくなんかないんだからねっ!!』と言う心の叫びが聞こえてきそうな方々が、擦れ違う通行人の他、隠れてその様子を伺う冒険者達の中にもちらほらと。
「くぅぅ、自分だって相手さえ居れば囮役を務めて、それでもって(以下規制)‥‥! い、いや、いけないッス、平常心平常心‥‥」

 ――聞かなかった事にしよう。
 ついでに、「計画通り」(ニヤリ)とばかりに口元を吊り上げている瑠r(めきょり)。

「‥‥現れませんね」
 だが、これだけ目と(主に独り身の)心に毒な餌をぶら下げて居ると言うのに、どう言う訳か『嫉妬団』らしき気配は一向に現れてこない。
「もう少し、大胆な事をしてみましょうか?」
「‥‥え?」
 言うが早いか、シャリーアは肩に手を掛けてアレックスとの20cm程の身長差を片足でぴょんと一飛びに縮め、その頬に――。

 ――チュッ。

「!?!?」

 唇が、触れた。

 頬へのキスはあくまで親愛の情を表すものなのだが、それでもアレックスは「ボンッ!」と言う音さえ聞こえて来そうな程顔を真っ赤にし、シャリーアは口元に指を当てながら顔を逸らしていて‥‥。
「な、な、な‥‥!?!?」
「‥‥お嫌でしたか?」
「い、い、否、そんな事は‥‥っ!?!」

「アレックスさん、テンパリすぎです」(笑)
 ボソリと、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が呟く。
 それを皮切りに、何だか妙に色恋話に花が咲きはじめる冒険者陣営。
 故に――その先の二人の会話を、聞き取る事の出来た者は居なかった。

「‥‥その、アレックス殿?」
 高鳴る胸。掛けられた声に震わせるアレックスの肩。
「これは囮デートとか演技とか、そう言ったものを抜きにして、本心からの言葉として聞いて頂きたいのですが‥‥」
 彼を見詰めるシャリーアの澄んだ瞳は、熱を帯びた視線を真っ直ぐに向け。
「一度しか言いませんよ‥‥私はあなたが大好きです‥‥」
「ッ‥‥!?」
 沈黙。
 しきりに鼓膜を打つ心音は、相手の長い耳にまで届いてしまいそうで。
 まるで時が止まった様な錯覚を覚える中、ワナワナと震えながらアレックスの両の腕がゆっくりと持ち上げられる。
 そして、その掌がシャリーアの華奢な肩を掴み――。

 バキィン! ガシャガシャバリーン!! ドンガラガラゴドッメキョッ!!!

 次の瞬間、四方八方から響く騒音が、二人の桃色結界をぶち壊した。



●無粋団
「UOAAAAAA!!! こぉんのバカップルめがあぁぁぁああああ!!!!」
「街道のど真ん中で、抱きついちゃってたり手を握っちゃってたりホクホクお話しちゃってたりキスしちゃったり、挙句の果てに告白までして良い雰囲気になっちまいやがってぇぇぇええええええ!!!!」
「妬ましい憎めしい厄ましいぃいいいいぃぃぃぃ!!!!!」
「‥‥えっ!!? 告白しちゃったんですか、アレックスさん!!?」
 嫉妬団達の慟哭に交えて、それでもしっかりと響く歌人ケンイチの声。
 驚いた様なその問いに、アレックスは盛大に脱力する。
「い、否、私ではっ‥‥!?!」
「って言う事は、シャリーアさんからかしら? ‥‥やっぱりね」
「キャーッ、キャーーッ!! やっちゃったッス、告白しちゃったッスーっ♪」
「ふむ、ここは素直に喜んであげるべきか。‥‥おめでとう」
「だ、ちょ、その様な遠い目をされて祝福をされてもっ‥‥!!!」
 ちょっとちょっと、皆さん。今はそれ所じゃ‥‥。

「DAアァァァアアア!! 盛り上がってるんじゃNEEEEEEE!!!」
「こちとら独り身寒風の軽傷ダメージが一気に瀕死にまで跳ね上がったわ!! どうしてくれる!!!」
「見敵必滅!! 憎き裏切り者に憤怒の鉄槌を下す前哨として、先ずは貴様等を血祭りに挙げてくれるわ!! 全軍突撃!!! 弧狼の如き誇り高きその精神を一つの怒りにウボァ」
 シュパッ、と言う静かな風切り音と共に、積み上がった木箱の上で高らかに叫ぶ男の尻を射抜くのは一本の矢。
 気が付けば、何だか見た目と名前の可愛らしいキューピッドボウを構えるシャリーアが、すっごい笑顔で青筋を浮かべていて。

 ――ノーコメント。

「っと、いけない、あいつらを止めなくちゃ‥‥!」
 言うが早いか、冒険者達は己が得物を手に、嫉妬団へ向けて進撃を開始する。
 対する嫉妬団はと言えば、彼ら冒険者の様に戦闘訓練を積んだ者達でもなければ、武器らしい武器も工具や良くて店売りの小振りな剣や盾等ばかり。
 おまけに、怒りの一矢で首領らしき人物は木箱から転げ落ちて悶絶しており、他が既に烏合の衆となって居る事は明らか。
 冒険者達に苦戦する理由など一つも無い‥‥筈だった。

「くっ‥‥ホーリーフィールドが!? コアギュレイトも何だか抵抗されっぱなしですし、一体どうなって‥‥!?」
「‥‥強い思いは、時として人の底力を引き出す。そう、あれはまさに嫉妬の力に目覚めた者達の達する境地なのでしょう」
「いえ、冷静に詩っぽく纏めている場合ではありませんよ! これは交渉するにも聞く耳もたなそうですし‥‥!」
「仕方ない、少し可哀想だが、まずは鎮圧しないと‥‥! 皆、陣形を組み直すんだ!!」
 もはや我武者羅で、主にシャリーアやアレックス目掛けて飛び掛ってくる嫉妬団を前に、一度集まって護りの陣形を組む一同。
 そして繰り広げられるのは、何だか無駄に熾烈な攻防戦。
 事前にケンイチの提案で仕掛けていた落とし穴も功を奏し、冒険者達は一人ずつ、確実に嫉妬に狂う男達を叩き伏せて行く事で、徐々に攻勢に転じて行く。
 だがそれでも形振り構わず向かってくる程の士気は、呆れを通り越して立派と言うか‥‥。
 その時、ふと月の明りが照らす屋根の上には、威風堂々たる何者かの影が!

「待てェいっ!! 萌を奪おうとする不届きものどもよ、この西萌不敗・マスターウィルの拳を受けてみよ!!」

「何ッ、西萌不敗・マスターウィルだとっ!!?」
「くっ、まさか我らがカリスマたる貴方までもが、カオスにタマシイを売っておられたとはっ!!」
 背後から後光をも見せる様な威厳を漂わせながら、屋根から華麗に飛び立つのは‥‥西萌不敗・マスターウィルことアシュレー。
 彼はまるで精霊の加護を一身に受けているかの様にゆっくりとした速度で地に向かい――。
「ぐあっ!?」
 そして、盛大に地面に顔を打ち付けた。
 いつもの彼らしくない‥‥その様子に違和感を感じた仲間達が駆け寄ると――どう言う訳か彼の身体は既に切り傷や刺し傷だらけで、満身創痍な状態になっていた。
 ‥‥ここに来る前に、一体何があったのだろう。
「ええい、怯むな!! 彼の者は今や悪の尖兵に過ぎぬ!! 我らの怒りの前には、例えマスターウィル言えどほげらっ」
「あんた達、いい加減にしなさい!」
 ドバキィッ!!
 瑠璃の一撃が、地に這いながらもタフに指揮を続ける首領格を捻じ伏せ――。
 そして、その後は一方的な事この上なく。

「では、『慈愛』の世界へようこそ」
 何だか白派の筈なのに黒い雰囲気を漂わせる蛍石の声と共に、折檻‥‥もとい、自愛に満ちた修正が、嫉妬団一人ひとりの身に焼き付けられるのであった。



●嫉妬団、再生!
「馬鹿者! 今回企画の聖夜祭に参加制限はなく、節度を保てば君等にも門は開かれている! それが解らんのか!!」
 スパァン! と、試の心の篭もった叱咤と共に、平手打ちが炸裂する。
 その音だけで、張られた者達以外もビクリと身を震わせ‥‥まあ、トラウマになってしまったのだろう。
 気力を尽かせ脱力しながらも、傍らで慈愛に満ちた表情を浮かべる蛍石に、目を合わせる者は誰も居ない。
 すると、試同様にフルーレが腰に手を当て胸を精一杯張りながら、一同の前に立ちはだかり。
「貴方達の気持ちは痛いほど分かります! ええ、恋人達がお祭りでキャッキャウフフと楽しそうにしているのを横目で見ているのは口惜しいでしょうとも! ‥‥口惜しいでしょうとも!」
 二回言った。
「自分も誘えるような殿方の居ない身。しかしそれでも恋人達の幸せを祝うのが独り身の粋ってもんス。けど、そうやって妬むばかりの者に如何にして幸せが訪れようか、いいや訪れはしない‥‥ッ!!」
 彼女の言葉は、嫉妬団の面々に衝撃を走らせる。
 自らの辛い時こそ、幸せな者を愛せ。涙を飲みながら、満たされた者に精一杯の祝福を捧げよ。
 正式な文面こそ知れないが、ジーザスやキリストと言った聖人が残したっぽい理念が、アトランティス人である彼らの心にも芽生えつつあった。
 奇しくも、時期は聖夜祭。
「ここは一つ、償いと神‥‥いえ、癒しの精霊へのアピールと言う事で、善行を積んではみませんか?」
 即ち、聖夜祭の裏方業、それに力添えをしてみないか。
 ケンイチをはじめとする冒険者達がそう説くも‥‥やはり不確かな理念だけでは彼らを動かすには足りなかったか、皆が皆下を向いて唸り声を上げるばかり。
「いやいや皆様、何もそれが『善行』だけに終始する訳ではありませんよ?」
 そう言って彼等一人ひとりと握手を交わし始めるのは福袋。
 ふと見ると、その手にはいつの間にか金貨が握らされていて‥‥。
 全員に賄賂‥‥もとい握手を交わし終えると、福袋は改めて彼らを前に見据える。
「宜しいでしょうか、世の中愛よりも結局は金です、そうでしょう? 幻想に捕われてはいけませんよ。そもそもカップルでデートというものは、人間の消費行動を過熱させ、経済活動を活性化させるためのキャンペーンなんですよ。『愛のあるクリスマス』を宣伝することによって、女は華麗に着飾り、男は贈り物購入にいそしみ、行楽地での飲み食いを敢行します。その結果はもうおわかりですね? 我々ビジネスマンの懐が暖まるわけです」
 ニヤリ‥‥と笑みを浮かべながら、一礼する福袋。
 ‥‥何とも現実的な話ではあるが。成程、確かにクリスマスと言う物が今後ウィルにおいてより浸透していくのであれば、その文化を逸早く周知しておくというのは、先の流行を見据えた利益にも繋がり得る。
 生業上、彼の言葉に気質をくすぐられる者も少なくなかったらしい。

 かくして、嫉妬団は新たに『嫉妬団』と名称を変え、聖夜祭の宴における裏方業を専門に受持つ事が正式に決定した。
 ‥‥呼び方は変わっていなくとも、今までの暴徒たる嫉妬団とは中身が違うのだ。
 ともあれ、節度を護り、十二分に聖夜祭を盛り上げた暁には、功労者にナンパの成功し易くなる指輪と言う褒章までもが用意されている為‥‥その気合の入り様たるは言うまでも無い。
 この結果には、ウルティムも大満足。ミーヤやレイン、ラマーデ達の企画していた催し物に関する人手不足も解消され、まさに大団円と言った所か。

 だがしかし。
「私の事を‥‥好き、と‥‥? 夢では‥‥あるまいな?」
 何だか任を終えてからと言うもの、ずっと熱に浮かされたかの様に呆けているエルフの騎士一名と。

「ふぅ‥‥それにしても、正面きっての決闘だったとは言え、まさか私が負けるとはです〜。危うく『秘密』もバレちゃう所でしたし〜‥‥。アシュレー・ウォルサム、要注意人物です〜」
 辺りに散らばった数多のナイフを拾い集めながら、苦々しげに呟くパラメイド(ミニスカサンタ)一名。

 来る聖夜祭、このアトランティスはウィルの珍獣屋敷において、一体何が起こるのか‥‥。
 それは、その起源たる聖人でも知り得ぬ所。